● リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターの『親衛隊』は国内主流七派と連携する構えさえ見せ、アーク側の防備を突破し、重要拠点『三ツ池公園』さえ陥落せしめた。時村に対抗し、神秘界隈に影響力の触手を伸ばさんとする大田重工のバックアップを受けた『親衛隊』は強力な『革醒兵器』の開発と増産を続け、自己の戦力を増やし続けている。三高平に来訪したキース・ソロモンの宣戦布告時刻が迫る中、そんな彼等に時間を与えすぎる事は愚かと考えた戦略司令室は比較的早期段階での『親衛隊』攻撃計画を承認した。それは守るべき拠点を二つ以上に増やした彼等への意趣返し。三ツ池公園攻撃と、彼等の本拠と思われる大田重工埼玉工場の二重攻撃計画の発動であった……。 ● 「イヒヒー! 素晴らしい、素晴らしいぞ! 此程の特異点(パワースポット)、今までお目にかかったことがない! 極東の猿共には過ぎた代物であるな! イヒヒー!」 車椅子に座った白髪に白衣の老人は、モニターの前で狂ったような声を上げながらキーボードを叩く。その姿はまるでペーパーバックに描かれる「マッドサイエンティスト」の典型だ。 ここは大田重工埼玉工場内部の研究用ラボ。「親衛隊」による革醒新兵器の研究が行われている場所である。「閉じない穴」の前に立てられた仮設ラボから送られてくるデータを前に、老人は狂喜していた。 そこへ軍服に身を包んだ2人の男が勢い込んで駆け込んでくると、かなり切迫した雰囲気で叫んだ。 「ペーター博士、ペーター博士!」 「エリューションエネルギーの収集効率が、今までの比ではない。いや、特異点が変換コイルにも影響を与えている可能性もある。そこも含めた検証も必要であるな! イヒヒー!」 しかし、ペーター博士の耳に声は届かない。 正気からかけ離れた表情で、唾を飛ばして叫んでいる。 「ペーター博士、ペーター博士!」 「イヒヒー! これこそ、神が我らに与えたもうた祝福! 我が祖国よ、照覧あれ!」 ペーター博士と呼ばれた老人は、ボサボサの白髪を振り乱しながら、右手をピンと伸ばして敬礼の形を取った。 そして、軍人達は顔を見合わせると、博士が感情の絶頂から落ちてくるのを待って声をかけた。 「あーっと、ペーター博士。そろそろよろしいでしょうか?」 「何かね。我が輩は結構忙しいのだよ。まだまだ試さねばいかん事項がいくらでもあるのだからな」 すると、車椅子に座ったまま、ペーター博士は答える。先ほどまでの上がり過ぎたテンションはどこへやら。すっかり虚脱した表情だ。 「いえ、それが……」 その様子を見て、軍人はようやく安心して話し始めた。 そして、話を聞く内に再びペーター博士は目を見開き、感情のボルテージを上げていく。 「なるほど、アークが攻めてきたのであるか」 「はい、なので早めに安全な場所にと……」 「その必要は無い! 特異点を手に入れて作った試作機の、ちょうど良い実験台だと思わんかね! イヒヒー!」 そう言ってペーター博士は車椅子を動かすと、何やらカタカタと機器の操作を始める。 軍人2人は呆気に取られ、その様子を眺めるだけだ。 「我が輩の自慢の『インゼグト』! その活躍を照覧あれ!」 感極まったペーター博士は、再び手を伸ばし、敬礼の形を取った。 ● 全力で「夏」を主張する暑さをした7月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。場にははっきりとした緊張が漂っている。先に部屋に入っていた『風に乗って』ゼフィ・ティエラス (nBNE000260)は、肩を震わせながらも、真剣な面持ちだ。 そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は今回の件への説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるぜ。察しの良いあんたらなら、もう気付いているだろ。今回お願いしたいのは、『親衛隊』連中との戦いだ」 「やはりか」と頷くリベリスタ達。中には、はっきり「待っていた」と答えるものもいた。誰もが分かっているのだ。もはや、『親衛隊』の自由を許す訳にはいかないと。 三ツ池公園を制圧した『親衛隊』は神秘的特異点である『穴』を利用して革醒新兵器を強化すると共に、今もなお新たな動きを見せ続けている。彼等に時間を与える事は新たな危険を生む事に他ならない。キース・ソロモンの宣戦布告時刻が迫っているのも然り。アークには早期の攻撃でこれを切り抜ける以外の道が無いのだ。 守生が端末を操作すると、画面に表示されるのは決戦の場所、大田重工埼玉工場。 「『親衛隊』を倒すってだけじゃねぇ。この作戦を成功させるために、三ッ池公園で頑張っている連中もいるんだ。彼らのためにも、心してかかってくれ」 そう前置きして、守生は大田重工埼玉工場襲撃作戦の意図を説明する。 『親衛隊』は前回の戦いでアークという組織の脆弱性、即ち『エース』に頼りがちな戦力構成という弱点を突いてきた。即ちそれは『守るべきものを多く持つ』アーク側の泣き所を狙ってきたという事である。 アークが立案したのは敗戦の意趣返しである。本拠と公園の同時攻撃。厳密に言えば公園奪還の大作戦を陽動に、手薄になった本拠を制圧せんとする狙いである。少なくとも本拠と三ツ池公園の二拠点を防備しなければならない『親衛隊』は以前よりも荷物を増やしていると言える。 「『親衛隊』だって、決して層が厚い訳じゃない。それと、連中と手を組んでいる七派の件も、室長が手を打ってくれた」 そう、七派についても戦略司令室長・時村沙織は国内七派筆頭格の逆凪黒覇に乾坤一擲の『楔』を打ち込んだ。それは多分なリスクを含むものではあったが、彼に動きを躊躇わせるには十分であるに思われている。即ちそれは『この場でアークが倒れた場合、キース・ソロモンの相手になるのは『勝利した』日本の神秘勢力である』というハッタリ。確かにキースに確認を取った訳では無いが、『計算の立たない最強の腹ぺこ』である彼は損得計算を重視する合理主義者にとって最悪のジョーカーだ。黒覇が『親衛隊』を介してバロックナイツの――キースの情報を収集出来るならば却ってそれはその裏打ちになるとも言えるだろう。 そこまで説明した守生は、細かい作戦の説明に入る。 「あんた達に向かってもらうのはここだ。「研究棟」にいる『親衛隊』を相手して欲しい」 続けて端末に現れたのは、白衣を着た老人だ。「紙一重を越えてしまった知性」というものを感じさせる風貌をしている。 「この爺さんは『親衛隊』の研究者で、作り上げた革醒兵器を使って防衛に加わっている」 守男の話によるとこの老人、ペーター博士は「自走式の爆弾」というイカれた代物を作ったそうだ。それは、アーク側の拠点を狙い、突撃させる予定らしい。しかし、そんなことをさせてやるわけには行かない。カウンターで出撃前を潰すのが今回の目的になる。 守生がそこまで話した所で、今まで黙っていたゼフィが訥々と話し始めた。 「『親衛隊』を放置すれば、この世界全てが戦いに巻き込まれると聞きました。わたしも……頑張ります」 ゼフィの言う通りだ。この戦いは単にアークと『親衛隊』の決戦と言うだけではない。世界の平和にも影響を及ぼしかねないものなのである。 しかし、目の前の守生をはじめ、司令部は確信している。 アークが完全な力を発揮すれば、『親衛隊』など恐れるに足りないということを。 リベリスタは必ずや勝利の報を持ち帰るということを。 「行きましょう、そして、勝ちましょう」 ゼフィは本来の内気な気性に合わない、強気な瞳でリベリスタ達を促した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月07日(水)22:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「イヒヒー! 準備は万端だ! 凄いぞ! 格好良いぞ! さすが我が輩の発明品であるな!」 持ち出した革醒兵器に乗った状態で、ペーター博士は大声で笑う。目の前には自慢の革醒兵器。 自分達の拠点が攻め込まれている状況であるにも拘らずこれである。自軍の勝利を疑っていないのか、はたまたこの戦いですら彼にとっては都合の良い「実験」に過ぎないのか。 「おい、本当に出たけど大丈夫か?」 「アークの性質を考えれば危険だが、博士の兵器の性能を考えれば成功した時の効果はでかいはずだ。むしろ、ブレーメ曹長なら、両手を叩いて賛成してくれるさ」 その後ろでは護衛の2人がぼそぼそと相談していた。あまり、護衛対象を危険地帯に置いておきたくは無いのである。 そして、そんな2人を尻目にペーター博士は兵器のスイッチを取り出す。 「さぁ、行け! インゼクト! 劣等共を消し炭に変えてしまうのだ!」 その時だった。 銃声が戦場に響き渡り、革醒兵器の足元に派手に火花が散る。 「前回はよくもやってくれたわね、猟犬共。その罪、魂の根底まで刻み込んであげるわ」 「むぅ! アークか!?」 答える代りにさらに弾丸をばら撒くのは、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)。暗黒街の盟主に名を連ねる道化師の少女が今宵見せる表情は、残虐なトリガーハッピー。己に屈辱を与えたものへ断罪の弾丸を放つ容赦の無い女帝だ。 「用件は分かってんだろ?」 酷薄な笑みを浮かべて軍服の男――『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)はボウガンを向ける。流れるような銀色の髪に、切れ長の神秘的な紫の瞳。その名工が作り上げた美しい氷像のような青年から発せられるのは、ただただ暴力の気配。 「随分好き勝手してくれたようだしな。次はオレ達が攻めさせて貰う番だ」 その整った容貌からは想像もつかない粗暴な口調で戦闘の開始を宣言すると、すぐさま巨大な白木の杭を革醒兵器に向かって撃ち込む。 「フフ、前衛で戦う私の後ろ姿に惚れても良いんですよ、ゼフィさん。一夫多妻制を前提に、ぜひ惚れてください! ぜひ!」 「え、えーっと、その……」 グレイの放った矢を合図にフィクサード達へと歩を進める『変態紳士-紳士=』廿楽・恭弥(BNE004565)は、ゼフィへのアプローチも忘れない。顔を赤らめて周囲に助けを求めるが、『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)と『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)、2人の「姉」は生暖かく様子を見守るだけだ。 そして、一通りゼフィの反応を楽しんでから、恭弥は改めて『親衛隊』に向き直る。彼の視線の先にあるのは、彼らの作った革醒兵器。感心したかのようにほうっと唸る。 「純粋にその能力は割と凄いんですよね。それに、ロボットの自爆と言う浪漫も分かっている……流石じゃないですか。とはいえ、自爆するロボットは自爆してこそですからね」 恭弥とは打って変わって、『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)はアクセス・ファンタズムを手に駆け出し、革醒兵器に向かって真っすぐ突っ込んでいく。しかし、『親衛隊』とてそれを黙って見ているほどお人好しの集団ではない。向かって来るリベリスタ達に対して、神秘の閃光弾を投げつけ、それぞれ応戦の体勢を取った。 「平和を守る為にも危ない玩具はガラクタにしてやる! 変身ッ!」 爆風と閃光が戦場を包んだ時、疾風が高らかに叫ぶ。 それは正義の戦士の魂の叫び。 悪を憎む人々の祈りの現れ。 爆風の中から蒼い龍の装甲を身に纏った疾風が姿を現わす。 「親衛隊諸共退けるぞ!」 「イヒヒー! そうそう、実験台と言うのはそう来なくてはつまらん! 正直、この国に転がっている劣等猿相手では物足りないと思っていた。楽しめそうだ! お前らは少しマシな猿のようであるな!」 しかし、『親衛隊』の狂った科学者はそんなリベリスタ達の勇気すらも笑い飛ばす。 全てが机の上のレポートに描かれたものでしかないと。そんなフィクサードの様子に、『Wiegenlied』雛宮・ひより(BNE004270)は普段は眠たそうにしている眉を顰める。 「たのしそうなのは、いいことね」 「もちろんだ! これでこそ、わざわざこんな極東の僻地まで来た甲斐があるというものであるな! イヒヒー!」 感極まって革醒兵器の上から敬礼のポーズを取るペーター博士。しかし、見つめるひよりの目には哀しみと、そして怒りが浮かぶ。 「そこにある犠牲を無視していなければ、ね」 何も犠牲にすることなく何かを為すことなど出来はしない。しかし、『親衛隊』の行いは違う。劣等と呼んで、区別して、平気な顔で悪意を正当化しているのだ。 「それを許すわけにはいかないの」 「そう! その目付きこそがたまらんのであるな! イヒヒー!」 「止めておけ。無意味にこいつらを喜ばせるだけだよ」 憤るひよりをそっと手で制したのは『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)。その足元から影が伸び上がる。彼の怒りを体現し、この場にいる敵の血を飲み干さんと、猛りうねる。 「うちの国の良さのひとつは、確かに技術力だけど……この亡霊? ゴミムシ? まぁ、良い。こいつらは意味不明な発明に思想に、何もかもが駄目だ。気持ち悪いね」 ロアンはそもそもフィクサードに対して良い感情を持っていない訳だが、こいつら『親衛隊』はその中でも一際気に入らない。前に三ツ池公園で遭遇した時にそれを感じた。そして何より、負けっぱなしは趣味じゃない。 「初めまして、そしてさようならだよ。亡霊諸君。墓場(おうち)に帰る手伝いをしよう。亡霊は亡霊らしく、ね」 「イヒヒー! では、祖国(わがや)に帰る手伝いをしてもらおうか! インゼクト、やってしまえ!」 ロアンの挑発に障る所があったか、博士が革醒兵器に指令を飛ばすとキャタピラが勢い良く回り出す。そして、リベリスタを曳き潰すべく走り出すかと思いきや……そうはならなかった。 夏という季節に似合わない、涼やかな風が駆け抜ける。 そして、決戦の空に4匹の妖精――フィアキィが踊る。 真夏の夜に季節外れの雪が舞う。 気付けば革醒兵器のキャタピラが氷に覆われて動けなくなっていた。 「む、これが話に聞くラ・ル・カーナとやらの……」 「そのラ・ル・カーナで心配してる妹たちにも大丈夫だ…って、早く安心させてあげたいんだよね」 青いフィアキィが戻って行った先でポニーテールを揺らすルナ。忌々しげに呻く博士をキッと睨む。『親衛隊』が占拠した三ッ池公園から繋がるリンクチャンネル、そこには大事な姉妹たちがいるのだ。実際、『親衛隊』がラ・ル・カーナに向かう可能性は低いが、理屈の問題じゃない。感情の問題だ。 ファウナとて、公園の戦いの様子が気にならない訳ではない。しかし、それを抑えて、目の前の戦いに集中する。確かに公園への攻撃は陽動であるが、この場での戦いに勝利すれば、同じく状況は好転するはずだ。 「行きましょう、ゼフィ」 「はい、ルナお姉さま、ファウナお姉さま!」 「勝ちに行こう――皆を守る為に!」 ファウナの言葉に答えるゼフィ。それを見て微笑んだルナは、再びディアナとセレネ、2体のフィアキィに命令を伝える。 異世界の妖精、フュリエ。 上位チャンネルから流れてきた風にとって、ボトムに住み着く歴史の亡霊など、恐れるに足りない。 ● 革醒兵器インゼクトの本質は、恭弥も語る通り、その破壊力にある。そして、作戦行動を確実に遂行するために最低限の戦闘力も有している。もし、実際の戦線に配備されたら、凶悪な殺戮兵器として名を上げることになったのであろう。欠点を挙げるなら爆破を封じられた状況ではただの自動戦闘車両でしかない点ではあるが、運用を考えれば些細な問題点でしかないはずだった。 「絶対に護り抜く! 何処からでもかかって来やがれ!! ここからは、俺達が攻める時間だ!」 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の熱い叫びと共に、強い風が流れ込む。その癒しの息吹はリベリスタ達の傷を癒すだけでは無く、敵に立ち向かう不屈の闘志を与える。高い戦意と、それを支援する後ろ盾がしっかり機能している状態にあっては、革醒兵器自身の戦闘力はいささか不足と言えた。 「……随分変わった格好の兵器ですね。ある意味かわいいけれど」 ファウナの手元で氷精が躍る。 後ろでは、革醒兵器が氷漬けにされていた。如何に強力な破壊力を持っていたとしても、動きを封じられてしまっては、その真価を発揮することは出来ない。 何としても、ここの突破を赦す訳には行かないのだ。 「ターゲットロック&ジェノサイド♪」 その時、エーデルワイスが謳うようにカードをシャッフルする。漆黒と真紅に彩られ、狂える道化師は殺戮のショーを始める。 「カードよ、咎人共の命を狩り尽くせ!」 すると、彼女の命ずるままにカードは飛び出し、革醒兵器の装甲を切り裂いていく。凍り付いた個体が破壊される。それだけではない。『親衛隊』の装備する破界器も彼女の狙いの内だ。 「さぁ、今よ!」 「心得ています」 エーデルワイスの動きにタイミングを合わせ、『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が軍人に向かって神秘の閃光弾を投げつける。相手は専用の防御をしていたが、壊れてしまっては意味も無い。むしろ、想定していなかった事態だけに効果は抜群だ。 「貴様ら、よくも!」 難を逃れた軍人が切り込んでくる。禍々しく輝く刃がグレイを捉える。 刃は深々と刺さり、派手に血飛沫が跳ねる。 しかし、グレイの表情は変わらない。むしろ、凄惨な笑みを浮かべる。 「悪いが伊達や酔狂で後衛をしているわけではなくてな。……威力はそれなりに自信もある」 そう言って、軍人の腹にボウガンを突き付けると、引き金を引いた。 「まぁ、喰らっておけ」 すると、現れた漆黒の光が軍人ごと戦場を切り裂く。 その時、ひよりが合図を飛ばす。 既に自爆に移るタイミングは見切った。だったら、爆発の前に破壊してしまえばいいのだ。 「こんなものを使われてたまるか!」 疾風が大地を踏み締めると、革醒兵器は大きく宙へと飛ばされ、強かに壁へと打ち付けられる。 達人は触れずとも相手を投げ飛ばすことが可能だという。これはその鍛錬の成果と言えようか。いや、それだけではない。『正義の味方』と『悪の科学者が生み出した兵器』の戦いなのである。この位は当然の帰結だ。 「おい、まずいぞ」 「あぁ、博士を連れて撤退だ」 革醒兵器が破壊されていくのを見て、軍人は撤退の構えに入る。博士も頭の螺子は外れているが、その程度の判断は出来る人間だ。 しかし、その時だった。 自身の身体を血に染めながら、くすくすとロアンが笑う。 「何がおかしい!」 「いやぁ、あまりにも楽しい冗談だったからさ」 半分は過剰な程の演技、残りの半分は本気の嘲りを持って。 「ご自慢の発明品は、たった8人の劣等如き殺せない程度なんだね? ハエ取りにもなりやしない」 「きぃさぁまぁぁぁぁぁ!!!」 ロアンの挑発を受けて、ペーター博士の怒りが頂点に達する。 敗北の無念を、自身を理解されない屈辱を、再び思い知らせたのだ。 博士にとって、これ程許し難い存在はあるまい。 そんな怒れる科学者に、夢見る妖精――ひよりは哀しげな瞳を向ける。 「博士。たしかに、あなたが作る兵器はすごいの」 癒しの風を仲間に与えつつ、確かな意志で大地を踏み締めながら。 「でも戦いが終わったとき、この子たちに、あなたに居場所はあるの? 研究を続けるために終わらない戦乱を望むなら、わたしたちを見逃してはいけないの」 「我が輩を見下した衆愚共、愚かな豚共め! ここでも我が輩を否定するか! 我が輩は我が輩を見下した連中全てを潰し、我が輩の兵器の素晴らしさを知らしめるのだ!」 唾を飛ばしながら博士は、見えない何かに向かって叫び出す。 怨念を抱えた亡霊を怨霊と呼ぶなら、博士の姿は怨霊そのものだ。 『妖精』としては理解できるものでは無く……ただ哀しいだけだ。 だけど、哀しんでいるだけで、何も変わらないことも知っている。 だから、 「わたしたちは親衛隊を終わらせるために進むから。ここは通過点ではなく、正念場よ?」 その時、ひよりの前で革醒兵器のキャタピラが派手に爆発し動かなくなる。リベリスタ達は『親衛隊』の退路を素早く断つ。元より彼らを逃がすつもりは無いのだ。 「退くことは許さない、貴方達は命を置いていかなきゃいけないんだからね。さぁ、無様に命乞いをする時間よ」 「有象も無象も綺麗に解体してあげるから、血でも肉でもオイルでもその汚い中身を大量にブチ撒けると良い」 「背中から撃つのは趣味じゃないんだが……任務も果たさず逃げるのならば仕方ないよな?」 それぞれのリベリスタが死刑宣告を告げる。 その表情は義憤であり、雪辱であり……怒りであった。 一方の『親衛隊』も退く気は無い。狂科学者はこの際置いておくにしても、亡霊がようやく掴んだ、生への光なのだ。 だからこそ、命懸け、死に物狂いで。せめて、リベリスタの首だけでも奪おうと抵抗する。 だが、ここに至っては多勢に無勢、1人また1人とフィクサードは倒れて行く。 「シュタルク! 貴様の力で劣等共を殺せ! 潰せ! 押し潰せ!」 「ディアナ、セレネ。お願い。皆を守る為の力を、私に貸して!」 革醒兵器の上から博士は引き金を引く。 ルナは祈りを込めて火炎弾を生み出す。 2つの炎が空中で激しくぶつかり合う。 いや、炎ではない。ぶつかり合ったのは、己のために世界を傷付ける亡霊の怨念と、大事なものを守ろうとする強い想い。 勝ったのはルナだった。 両者の中間で派手な爆発が起こり、爆風に煽られて博士は兵器の上から転がり落ちる。 「クッ、我が輩の、我が輩の兵器は……」 兵器に向かって地面を這いつくばる博士。その前に恭弥が立ち塞がる。 「その異常な愛情、私は嫌いじゃありませんよ」 戦士よりも学者向きの恭弥としては、博士の考えも理解出来なくはない。むしろ、所属する組織さえ同じであれば、良い友人になることが出来たかも知れない。だが、ここは決戦の戦場だった。 恭弥の周囲を暗黒の瘴気が覆う。 「出会い方が違えばお友達になりたかったのですが、生憎今回は御仕事ですので……行きますよ」 瘴気が博士の身を包もうとした時、博士は唐突に立ち上がる。生存本能が高まった結果であろうか。 そして、断末魔の言葉を叫んだ。 「我が輩、立てます! そ……!」 ● 「無事に終わったようですね」 ファウナが周囲に敵がいなくなったことを確認する。 気付けばここ一帯は静かになっていた。本来であればここにいたはずの者達は戦闘員ではないのだ。 「うん、逃がしていたら大変なことになっていただろうしね。私、知ってる。まっどさいえんてぃすとは危ないんだよっ!」 ボトムに来て得た知識を自慢げに披露するルナ。 実際問題として、ペーター博士は三ッ池公園にいるだろう『ドク』と同じ類の人種だ。放置すれば、『親衛隊』が無くなったとしても危険な「実験」を繰り返していたはず。 そして、その「実験の成果」を漁っていた恭弥は、と言うと……。 「あ、ゼフィさん。私の背中に惚れても良かったんですよ、何なら今からでも!」 「ですから……その……」 「ぜひ惚れてください! ぜひ! 恋と言う感情がよく分からないのでしたら、ちょっと抱き締めさせてください。この私の鼓動を貴方の全身で感じてください!」 称号に恥じない派手なアプローチと異常な愛情でゼフィを困らせていた。 その姿にリベリスタ達はつい噴き出してしまう。 まだ、今夜の決戦は終わらない。しかし、ほんの少しの間、仲間と笑い合う位は許されるはずだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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