●人為的 真っ白な部屋の中に一人の少女が放り込まれている。 白い手術着の姿、白尽くめの世界にメタリックな何かが蠢く。 「やだぁっ! 出して、出してぇっ!!」 出入り口を叩いても開くはずはない。 背中からにじり寄る何かは、彼女の腕へと飛びついた。 「きゃっ!?」 足を腕に絡ませ、尻尾が柔らかな場所を貫く。 パツンと弾ける音と共に鮮血が散り、白地に真紅の飛沫を描いた。 「痛っ……」 お構いなしに尻尾から伸びる針は体内へ埋没し、敏感な糸へと繋がってしまう。 更には金属の隙間から溢れた腐肉色の縄が、粘液をまといながら少女の服の下へと潜り込む。 「何……? んんっ」 ぞわりと肌を撫で回す滑り、こそばゆい刺激が少女の体を跳ね上がらせる。 体の中で暴れる針は徐々に彼女の意識に溶け込み、まるでハッキングする様に脳を蕩かす。 「ぅ……ぁあ」 膝から崩れ、アヒル座りで床に腰を落とすと金属の何かは獲物を貪る。 太股を、脇腹を、首筋を、太い血管が集中するポイントを容赦なくこね回し、甘く深い刺激が少女を包む。 この艶姿のショーが、全ての引き金になるとは知らず、金で雇われたフィクサード達はニヤニヤとガラス越しに楽しんでいた。 ●異常 「HQ、EEだ。作戦ポイントに到着したが、妙な事になっている」 偵察部隊、スカイウォーカーの隊長を務める『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)は敵地に潜り込んでいた。 空調設備のダクトが無数に入り組む屋根裏の狭い空間を匍匐前進し、敵拠点の中にまで進入するも先ほどの通信の通り、異常を見つける。 『詳細な報告を頼む』 「制圧対象のフィクサード達が何かに怯え、撤退行動を開始している。今のところ他に脅威となる存在は見当たらないが、予測不能な脅威が発見される可能性がある」 ブラインド状の通風孔から覘ける下界の光景は、阿鼻叫喚といった様子だ。 悪党の代名詞たるフィクサード達が悲鳴を上げ、我先にと出口に駆け、時に地面に転がり肉の絨毯にされる者もいる始末。 更に紳護は指向性マイクのインカムを下側に向け、その雑踏を届ける。 『HQ了解、現時刻を持って偵察任務を中止する。EEは回収ポイントへ撤退、後は戦闘要員に引き継がせる』 「撤退命令を確認した、EE了解」 静かに匍匐で後退する紳護の正面、屋根の板が爆ぜる音と共に穴だらけとなった。 更に連続して爆発音が鳴り響き、追い詰める様に紳護の方へと迫る。 「っ!」 ばれてるなら潜む必要はない。急いで後退すると、別の通風孔を蹴破り、脱出した。 「……またこの手の奴か」 例えるのであれば機械製の蠍といったところか。 キシキシと金属音を響かせる蠍が無数に辺りを走り回っていた。 しかし、紳護を攻撃したのはこの蠍達ではない。 「……」 真っ白な手術着を着せられた少女はうつろな笑みを浮かべ、先程の蠍を右手に宿していた。 尻尾が腕に絡みつき、針は突き刺され、体中の隙間から出た触手が裾から忍び込んでいる。 服の下は歪にうごめき、その度にくぐもった水音が響く。 それだけではない。蠍は脈動し、形状が変わり、肉で出来た大砲の様な形へと変化しているのだ。 『どうした!?』 「HQ、敵はアーティファクトだ。どうやら暴走したらしい、こちらはそれに囲まれ――っ!?」 作戦室のスピーカーからは激しい銃声が鳴り響く。 現場では壁を抉る様な弾丸に襲われ、紳護は横跳びに別の部屋へ飛び込む。 (「マズイな」) 傍にあったラックの足を撃ち抜き、自重でドアの前へ横倒しにさせる。 そこらにあった机や椅子も押し付け、扉を封鎖したが、こんなのはまさに時間稼ぎだ。 金属製の扉が徐々にひしゃげ、今にも突き破られそうに悲鳴を上げ、積み上げたバリケードが崩れていく。 「……」 辺りを見回し、同じタイプの通風孔を見つければ銃撃で開き、三角飛びでしがみ付く。 どうにか逃げ道へ入り込めたものの、出口が見つかるかは彼にもわからない。 ●撤退の道 「せんきょーよほー、するよっ!」 元気いっぱいに『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)がお決まりの前口上をきめる。 傍には兄の紳護の姿もあった。 ――ノートパソコンのモニター越しではあるが。 「今日はね、お兄ちゃんがにげるのを手伝ってほしいの」 早速ノエルは手持ちのスケッチブックを開き、未来予想図を見せる。 灰色で塗りつぶす様に描かれた多足生物らしき何か、そして黒の線で描かれた人影にはグレーの何かが腕に絡まっていた。 「このサソリさんは、おんなの子をみつけるとくっついてくるの。その後、あぶないお道具になってわるいことをしようとするの」 どうやらグレーの塊は蠍だった様だ。 とはいったものの、リベリスタに見せている絵はどうみても幼稚園児の落書きである。 満面の笑みで説明するノエルはお構いなしに続けた。 「このサソリさん、狭いところもピューって走れるからすごいんだよ? だからお兄ちゃんが逃げやすいように、ここでサソリさん退治して欲しいんだって」 おぼつかない手つきでコンソールを叩く。 画面越しに紳護が指示を出す辺り、彼が潜んでいる場所はかなり安全というところか。 いつもの倍以上掛かって出てきたのは、製造エリアと題された機器が並ぶ大部屋。 機械の上下に機械同士の間と、蠍が潜みやすい場所は至るところにある。 「ノエルがおひるねで見たのだとね、ここで頑張ったらお兄ちゃんが……とってもゆっくり帰ってこれたの。だから、ここでサソリさん退治すればおにいちゃん帰ってこれるんだよ?」 大体この辺りは既に紳護が説明している範囲なのだが、見ての通り、画面越しである。 流石にリベリスタ達も表情が険しい。 『画面越しですまないが、補足したいと思う。今回倒してもらうのはパラサイトアームズと呼称しているアーティファクトだ。こいつらは人間に寄生し、寄生主に合わせた武器に変化する特徴を持っている』 簡単な説明と共に、スクリーンへ紳護が情報収集したパラサイトアームズの情報が浮かび上がっていく。 『今俺は研究施設の避難エリアに待機している。どうやらここは奴らが入り込めないらしい。ここから撤退するルートは割り出したんだが……途中で大量のこいつらが潜んでいるところがあってな、一人で行けば流石に突破が難しい』 取り付く前でも触手での殴打や酸の発射など、攻撃手段はある。 無数にやってくる蠍に一斉攻撃を受ければ、偵察要員の紳護ではひとたまりもない。 浮かんだ蠍の情報からは、それが容易に分かる。 『そこですまないが、この生産ラインがある部屋で暴れてもらいたい。パラサイトアームズ達の大切な巣穴の様な場所で暴れれば、現存する奴らは防衛に集結するはずだ』 その隙に逃げ出すということだろう、納得する彼等がうなづくのを見れば一安心の笑みを浮かべる。 『苦労かけるがよろしく頼む。それとパラサイトアームズは女性だけに取り付く習性がある。取り付かれた場合、尻尾か頭部を破壊してやってくれ。早くやらないと同士打ちを強いられるからな』 言葉にはしなかったが、スクリーンに映る情報にはこんな事も掛かれている。 取り付いた対象を触手で捏ね繰り回し、触手の表皮から体液と生命力を吸い出すらしい。 刺激を与え続け、強引に意識を保たせる事で稼動できるようにさせるが、体の操縦権は完全に奪われるようだ。 触手自体から潤滑液も分泌され、吸収率と刺激を詰めるが、最悪な事に服を溶かす事もある。 この内容を言葉にしなかったのは、ノエルに聞かせまいとした為だろう。 『ついでと言ってはなんだが、逃げる途中に制御装置を破壊してくる。止めようとすると集まる可能性があるから、時差でとまるように仕掛けておく』 時間を稼ぐだけ稼げば後は勝手に全滅するという寸法だ。 大体の説明が終わると、ノエルがPCのモニターを覗き込む。 「おにいちゃん、ちゃんと帰ってくるよね?」 『一騒ぎ起こしてくれれば、逃げるには逃げれる。大丈夫だ』 相手が一癖あるだけで済んだのは幸いというところか。 作戦開始の合図を待つと紳護が最後の通信を発すると、PCの画面は暗転していくのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月02日(金)23:33 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●心中それぞれ過ぎる 『静かなる古典帝国女帝』フィオレット・フィオレティーニ(BNE002204)は紳護へ通信を送ると、施設内のシステムにアクセスし、出来うる行動を探す。 以前の作戦では入手し損ねてしまったが、今回は前回の失敗を活かし、今度こそ押さえ込んでみせると強い決意で臨む。 (「……どうしてまた、こんなことに……」) 今回集まったリベリスタ達の中で、唯一パラサイトアーマーを持つ『ラディ☆狩る』蘭・羽音(BNE001477)の表情は暗い。 以前酷い目にあわされたというのに、また同じ様な敵と戦わなければならないともなれば気も重くなる。 だが、ここにも羽音とは真逆の思いを抱く者がいた。 何処か落ち着きのない『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は、脳内でブリーフィングルームでの説明を反芻する。 (「触手を、あたしに引き付ける……」) それを思い出すだけで体が熱くなってしまう。 『アスタービーストテイマー』杜若・瑠桐恵(BNE004127)が怪訝そうに顔を覗き込むも、レイチェルは何でもないと苦笑いを浮かべた。 (「沢山の寄生蠍が相手なんて夜な夜な夢に出て来そうね。でも最近は調子良いから素早く済みそう、フフッ、早くカタログを読まなくちゃ♪」) いきなりフラグを立てる彼女の笑顔は晴れやかだが、既に雲行きは怪しい。 (「今回もいろいろな女性の……ふふふ」) 両手、否、四方八方を華に囲まれた『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一の邪な考えは、口にせずとも女性陣の大半は気付いている。 バレるのも想定済み。眼鏡に仕込んだカメラと、ラジコンに仕込んだカメラの二つで撮影と無駄に手が込んでいる。 それに彼は偶然の切り札も手にしていた、自信はある。 (「ボトムには変な武器もあるんだね。自分で動く武器とかペットみたいでちょっと面白い」) かたや楽観的なカメリア・アルブス(BNE004402)の様な考えもあり、様々な思いが交じり合いながら部屋の大扉が開かれた。 突入するや否や、パラサイトアームズが一斉にリベリスタ達に群がる。 「あちらでどうでしょうか?」 『白銀の防壁』リリウム ヘリックス(BNE004137)が指差すポイントは、作戦に最適なポイント。 作戦通り半円状に陣形を組むと、外円に立つ者達へ蠍が攻撃を開始する。 「随分と子沢山じゃあないか」 『鈍色』亞門 一戒(BNE004219)は冗談じみた言葉と共に瘴気を撒き散らし、黒き靄に包まれた蠍達の体力を削っていく。 (「それなりに難しい技術だと思うのだが、量産できるものだな」) 同じく物を作る身として、興味は絶えず、蠍の動き一つ一つを楽しんでいるのは彼女ぐらいなものだろう。 「一体どんだけいるのよっ」 『パラドックス』ルン・フォリア(BNE003987)の仕事は時間が経てば経つほど増えていく。 全体を焼き払う強い光、目くらましの閃光弾、相反するような闇の霧、飛び交う疾風、烈風の嵐。 フルスロットルの攻撃が続き、ルンは意識をとっかえひっかえ仲間とつなぎ合わせ、自身の力を注ぎ込む。 そんな中、頭上から聞こえた金属音につられ、ルンは視線を上げる。 「嘘……」 上から来るかもしれないと警戒はしていたが、まるで屑篭を引っくり返したかの如く、蠍達が一斉に落下して来るとは思いもしなかった。 「そうはさせないよ!」 カメリアが放った火炎の流星群が蠍を叩き落すが、それでも限界がある。 その内の一体がルンへ触手を広げ飛び移ると、地獄の幕開けとなった。 ●開始 ルンの利き手に飛びついた蠍は更に触手を伸ばし、着物の隙間から侵入を開始する。 「んぁっ、……やぁ……っ」 粘液を纏った触手が体中を撫で回し、着物の中で暴れる。 どうにか振り払おうと腕をばたつかせ、もがいてはいるが意味はない。 寧ろ絡みつく具合はより深くなり、丸みを滑り、引っ掛かりを求めて肌を撫で回す。 「だめっ、そこは……ひゃぅ!?」 谷間から飛び出した触手は着物の襟を押しやる様に胸元を包む。 硬い布地である着物であっても、酸性の粘液に徐々に華やかな布地を失っていく。 「ぁ……んんっ、ふぁ……ぁ」 おまけに神経の通う部分を執拗に擽り、波打つ様に体を震わせながら膝を突き、上ずった声を零す。 「い、いい加減に……離れなさい……よっ!」 震える手が蠍を捕まえ、引き剥がそうとするが、利き手でない分力は入らない。 抗う彼女を従わせようと針が突き刺さり、支配権は弱った思考回路では簡単に奪われてしまう。 蕩けた瞳のまま、近くにいたレイチェルを見やる彼女の手には触手で出来た鞭が握られていた。 「リリウム、前、お願い!」 マズイとすぐさま羽音が二人の間に割り入る。 ここを潰されれば、総崩れで全滅となる。 フラフラとしながら振り下ろされた肉の鞭が迫り、羽音がラディカルエンジンを前にガードするが、想像を上回る破壊力に、ガードを突き抜けて鞭が彼女を叩きのめす。 「さぁ、こっちに来なさい! 気持ち悪い蠍め!」 神秘の力を乗せた瑠桐恵の挑発、それは蠍が言葉を理解できずとも感情として伝わる。 明らかな挑発に掛かり、狙いがそちらへと集中すれば他のメンバーは狙われないが。 「何? この変な――きゃぁああ!!」 しかし何故か群れで襲い掛かってきた、意思の共有でもしていたのだろうか。 蠍の山に潰された瑠桐恵に我先と触手が迫った。 食い散らかすという言葉があるが、まさにその通りだ。 瑠桐恵を一切の容赦なく求め、鋏が服をズタズタに引き裂き、触手が中へと侵入。 服をネトネトにしながら体中を弄る。 「ごほっ!?」 口内に捻じ込まれる触手、狙って入り込んだわけではないが、粘膜という脆い部分は狙い目でもある。 透明な粘液が泡立ち、口の端から零れ、苦しさに意識が白黒していた。 赦さんと血管が浮き立つ繊細な箇所を触手が捏ね回し、体液と生命力を奪う。 痙攣しても山は崩れない、まだ足りないと蠍達は体を奪おうと針を突き立てた。 「ぐぅっ!? がは……っ!!」 痛みに声が出そうになれば喉が開く、そのまま滑り込む異物を必死に吐き出そうとする。 どうにか胃液に塗れた触手を吐き出すと、咳き込む瑠桐恵の臀部に鋭い感触が伝わる。 「そ、そこは違うわ!駄目よ!そこはお尻――ぃぃっ!?」 剣山が突き刺さる、鮮血が滴ろうとも神経の少ない臀部では支配しづらい。 結果、何度も何度も針が彼女を襲い、痛みと甘みが混じる中で脳が焼け落ちていく。 (「これヤバっ♪ 相性よすぎてっ♪ 触手ドハマリしちゃってるっ♪♪」) 全てが快感、抗う全てを捨てた瑠桐恵は蟲達のされるがままであった。 背に腹は変えられぬ、カメリアはなるべく瑠桐恵を巻き込まない様にコントロールしながら冷気を纏う妖精を嗾けた。 凍てつく蠍達、埋もれた瑠桐恵がどうなっているかは分からない。 今度はこの女が危ないとターゲットが変われば生き残った蠍が襲い掛かる。 「これ以上はさせません!」 前方から迫る敵を竜一に任せ、リリウムが庇いに入る。 神聖な光を宿した槍で上段から一閃、蠍を破壊するが一体だけでは意味がない。 残る蠍を盾で払い除けようとするが焼け石に水、取り逃した一体がカメリアに寄生してしまった。 「ちょっと――ぁ、ゃんっ。駄目だって……っ」 服が崩れる事は何も恥じない。それはフュリエという存在故ではあるが、この世界に慣れていない証拠でもあろう。 元々面積の少ない服は、あっという間に剥がれ落ち、体は触装に包まれた。 ぬるぬるとした感触は、今までにない甘い痺れを覚え、押し殺すような声を零しながらクタリと壁に寄りかかる。 (「何これ……なんなの……?」) おぼろげな意識で体を見下ろし、腐肉色のビキニが視野に飛び込む。 蠢き、脈打つ度にゾクゾクと背筋に電気が走り、声が吐息が熱を持つ。 (「あっ……でもこれいいかも。姉妹に教えたいしもうちょっとだけ」) 「あぁんっ!!」 大きな声と共にその刺激を求めた結果、針の痛みすら忘れ、カメリアの体は奪われてしまった。 ●全年齢です 「……やっぱり、こうなるよね」 混乱する戦場に羽音は溜息を零し、ルンに取り付いた蠍の頭部を真空の刃で切り落とし、蠍の機能を停止しさせた。 「あり……がとぉ」 息絶え絶えのルンが大きく振るえ、気だるそうに肺の空気を吐き出す。 名残惜しそうに蠍を見やる彼女に羽音が首を傾げそうになった瞬間。 「きゃっ!?」 後ろで庇っていた筈のレイチェルが羽音の背に寄りかかると、腕に記憶のある感触が走った。 ――それは、ほんの少し前。 「こんなに焦らしてくれて……ね、早く来て……?」 レイチェルは愛しそうに体に絡みつく触手を眺め、されるがまま体を開く。 黒のチューブトップは跡形もなく、大事な部分だけを触手で包み込む。 針が突き刺さり、体の操作権を奪った筈だがそれに同調している所為か、好きに動ける。 害が利になるなら蠍としても好都合なのだろう。 「ほら、羽音も欲しいでしょ? これ」 「いらないっ、もういらない……っ!」 抱きすくめられたまま寄生されては抗い様がない。 腕から駆け上る悪夢に青ざめながらもがく様を、レイチェルは楽しそうに眺める。 「もう逃げられないよ、さぁ次は」 「っ!?」 カメリアを開放し終えた隙を突き、今度はリリウムに蠍を押し付けたのだ。 「くっ……この、はなれ……やっ、な、なに!? やめっ、いやぁっ!!」 鎧の間を通り抜ける触手、その下にある白装束を溶かしながらブレストプレートの中で暴れる。 更に腹部を濡らしながら下肢へと迫り、凛々しい姿を破壊する。 「しっかりしてくださいっ」 無駄かもしれないと分かりつつも、リリウムはレイチェルの意識に呼びかける。 微笑むレイチェルが止める事はない、何せ彼女自身とも言える意識での行動なのだから。 「そんなつまらない事言わないで……? ぁ、リリウムの唇、瑞々しくて美味しそう」 何時もと同じ笑顔、喉奥から零れた悲鳴は戦士ではなく、いたいけな少女の声。 後ずさろうとしたところを抱きつかれると、上目遣いにリリウムの瞳を覗き込んだ。 「いただきまぁす……♪」 「やめ――」 重なる唇、啄ばむ様に何度も求めるレイチェル。 触手の責めと、レイチェルの暴走にはさまれ、抗う暇なく翻弄されてしまう。 白装束は既に無くなっており、内股や脇腹、首筋に胸元と暴れる触手がリリウムの意識を白く染める。 くたりと力が抜ければ一層レイチェルの接吻は激しくなり、触手の音に負けぬ程の水音が溢れた。 「っ、あ……っ! ふぁ、やっ……だ、めぇ……っ」 時同じくして羽音は蠍に呑み込まれていた (「この感覚……あの時と同じ」) 体を弄ばれ、意識を混濁させられ、自分が自分で無くなる。 一瞬の恐怖と引き換えに莫大な心地よさが体を包む、心と体は果たして揃って全てを否定するのか? 鳥の羽を一枚一枚毟り取る様に、戦装束は解け、白い肌を触手が這いずり、一点を目指す。 「な、んで……そこは、もう…やだぁ……っ!」 あの日、散々弄ばれた下半身。へその下まで迫った触手は足の付け根や太股を先端で撫で回していく。 くすぐったさに身をよじり、繰り返される責め苦から徐々に苦が消える。 「楽しそうだね?」 リリウムを引きずって戻ってきたレイチェルが、唐突に耳へささやく。 「ふあっ、やぁ……だめぇ……刺激すごいのぉ……こんなの、だめぇ」 触手に踊らされるリリウムの瞳からは何時もの凛々しさは消えている。 彼女に許されたのは、触手の刺激にくねらせる事だけ。 「ほら、みんな2人の恥ずかしい格好見てるよ……?」 実際は雨霰と襲い掛かる蠍達を蹴散らし、3人へ近づこうともがいているだけだ。 状況把握の出来ない二人の背中にぞわりとした感触が駆け上る。 更にレイチェルは手を忍ばせ、リリウムの鎧の留め金を外し、けたたましく崩し落とした。 「やっ、あぁんっ!!」 その声は何故に零れたか? リリウムは最後の甘声を上げて、意識が濁っていく。 「ん、あぁっ! い、っ……!」 羽音も同じく蠍の支配下に置かれ、意識が堕ち行く。 (「……しゅんの、よりも……すごい……」) 何が凄いのかは、彼女のみぞ知る事。 ●別れた答え 「抑え込んでみせるわ……っ!」 フィオレットの腕に取り付いた蠍からは針が突き刺され、神経の接続と共に体を奪い取ろうと電気信号が走る。 この日の為に心を鍛え上げたフィオレットは、鉄の心で誘惑に耐えながら、撫でくり回す触手の刺激に耐える。 ただでさえ露出の多い格好は触手がひとうねりするだけでも大変な事になりそうだ。 「ぅあっ!?」 耐えつつも相手にハッキングを試みたが、ここに一つの誤算が生じる。 相手はアーティファクト、機械と生命体の特徴を備えた神秘の結晶。 完全な機械ではない蠍の支配力に影響させる事は難しく、嬲り殺しの様に頭をかき回される。 「あ、これしゅごい、もっとぉ……もっときもちよくなりたいよぉ」 悪の秘密結社首領とは思えぬふやけた表情、ふらりふらりと大騒ぎになっているレイチェル達のほうへと向かう。 「そこっ、らめっ、らめらめらめぇ!」 舌足らずな上ずった叫び、腰ががくがくと振るえ溢れかえる汗が他の液体も交えながら床を汚す。 「ご馳走様でしたっと!」 竜一が振るった刀が彼女から蠍を吹き飛ばし壁に激突、動かなくなる。 どうにか他の面々も蠍の包囲網を突破し、レイチェルとリリウムに取り付いた蠍を吹き飛ばす。 「それ以上はお前たちの役目じゃないぜ」 交差する刃が、羽音の蠍を蹴散らす。 3人揃ってものすごい艶姿をさらしているが、勿論竜一は余すことなく堪能済みだ。 「ふむ。歓迎しよう」 沈黙のまま迎撃に当たっていた一戒にも、とうとう蠍が取り付いた。 直ぐにはがさねばと全員が構えた瞬間、彼女は制止を求め、掌を向ける。 (「私はお前が欲しい、共に行くつもりはないかな? この身体全てはくれてやれんが……貸し合う仲はどうだろう?」) 返事は無い。 寧ろ抗っていると思われたか、触手のうねりは激しい。 着物の紐が千切れ落ち、前が完全に開く。 (「お前が求める時は従おうっ、だが私が求めた時は、私に従ってくれ……持ちつ持たれつだ」) 従えと触手が暴れ、脳に走る刺激は快感以上の痺れを持って彼女を求める。 激しさは一層増し、黒のインナーを千切り、代わりに触手が包み込む。 「ぅ……ぁあっ!?」 吸盤状の器官を生み出した触手が肌にしゃぶりつく。 血を汗を、体液を、こそばゆい刺激と共に全身を舐め回され、全てを奪われるような喪失感。 しかし――。 「……声は、届いたか?」 触手の波が引き、腕の周りだけで纏まっていく。 禍々しさが消えたものの、何故か蠍は自壊してしまった。 ●狩殺 「結城さん、覚悟!」 紳護から制御装置の破壊と撤退の知らせが入ったと同時に、ルンの鞭が唐突に彼へと放たれた。 作戦完了の気が緩んだ一瞬をつき、痴態を撮影し続けた彼を成敗する為だ。 「しまったっ!」 両手は封じられた、しかしまだ生きている。 ふらふらと人に見せられぬ格好のまま近づく羽音は、彼へ全力でチェーンソーを振り下ろす。 「あれ?体が、勝手に動いちゃう……」 「嘘付け! どこに寄生されてるんだっ!」 地面に皹が入る程の猛攻、勿論羞恥心のある女性達も彼に刃を向けている。 (「俺の役目はこの映像を持ち帰ること、近代戦において情報こそが命!」) 死が周りを掠めながら、奇跡的に攻撃網を突破した竜一だがまだ羽音は諦めない。 ラディ☆狩るスロー、前回彼の仲間を屠った超重量チェーンソー投擲攻撃だ。 「こなくそぉっ!」 避けた。この上なく情けないほど仰け反って避けた。 眼鏡のカメラは壊れたが 外には逃がしたラジコンがある。 ここまでくれば勝ちと出口に走るが。 「逃がしません!」 回り込んだリリウムが竜一を遮る。 そして――彼は背後に人生最大の殺意に振り返る。 羽音の腕に肉で出来た大剣が備わっていた。 投げた後、傍でもがいていた蠍を掴み、ひと睨みしてこう言い放ったのだ。 『言う事聞いて』 一時的に畏怖で従う蠍は彼女に適した大剣となり、竜一に襲い掛かる。 竜一はフィオレットに救援を求む視線を向けた。 『無理』 監視カメラの映像を共有する約束だったが、これでは死の共有。 同盟はあっさり切り捨てられた。 「ぎゃぁぁぁぁっ!?」 ラディ☆狩るウェルド、高周波振動の刃という新たな必殺技で竜一を切り裂き、動きを止めれば残りのカメラは全て破壊された。 「竜一も大変だな」 一戒の言葉で今回の物語を締めくくるとしよう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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