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<逆凪>烟月を追いかけて


 廊下を踏みしめながら楽しげにスキップ等をしている女が存在する。
 手に持ったのはとある遊園地の資料だ。未だ、中堅程度の規模を保っている其処に何の興味がるのか、女はやけに楽しげに――旅行のパンフレットでも手にしているかのように、見詰めていた。

「あら、ご機嫌悪そうですネ、佐伯サン。あ、竜潜サンもいらっしゃったんですか? 奇遇ですネ」
「『この場所』で奇遇も何もあるか。用事は。今、忙しそうだと継澤が言っていたが」
 この場所――凪聖四郎の私室前で座り込んでいたやけに目に付く赤いルージュの女がへらへらと笑った。纏ったスーツのスカートを整え、立ち上がった誰花トオコは目の前で自身を睨みつける男二人に柔らかく微笑む。
「いやぁ、『プリンス』がアークに負けたって聞きまして! いやはや、構いませんよ?
 最近は本社でご飯食べたり、季節の風物詩って花見とか誘ってくれたり、リア充しやがって、自分の主ながらブチ殺したい程に羨ましい、誰花サン友達いないのに。……ではなく、可愛いクロムンが無くなって、何の成果も得られませんでしたって聞いたので!」
 やけに饒舌な女は『直刃』としてどうなんですかね、と首を傾げて見せる。

 直刃。日本刀の刃文の一つに当たる『スグハ』はただ真っ直ぐな様を記すと言う。
 凪聖四郎が己の目的――日本統一――の為に己が力を駆使して集めて自身の私兵達は今、動き出す時だと準備を進めているだろう。無論、この場に居る誰花トオコも、彼女の目の前に立っている男二人も直刃のフィクサードに当たる。
 未だ、逆凪内の小さなグループである直刃が『七派』や『アーク』と並び『九柱目』になれるのかは不明ではあるのだが――

「あ、黙っちゃわないでください。ン、ン、あのですネ、きっと『ハハ、やられたよアーク』とか言っちゃってると思うんですけど、あのイケメンぶっ殺したい……ではなく、それでも一寸は落ち込んじゃってるかなって思う『プリンス』に良いプレゼントを用意しようと思いまして。
 ついでに我々が動けば、『直刃』って奴等が居るって! と覚えさせられるんじゃないかと思いまして、ネ!」
 如何ですかと輝く瞳で告げるトオコに男二人は困った様に顔を見合わせる。意味がわからないとでも言いたげな彼等に一枚の写真がさしだされた。
「此処です。結構古い場所ですけど、未だ中々綺麗でして。
 ここの何処かに存在してるアーティファクトが欲しいんですよネ。所謂、効果はプリンスに役に立つものだと予測してます。そういうものですから、アークがお邪魔しにくるかと思うんですよ。 なので、手伝って下さいネ? 誰花さん一人とかこわぁーい」
 くすくすと笑い続ける女に佐伯と名乗る男は溜め息を漏らさずには居られない。調子のいい様に言う女が出した『遊園地』は開業してから長い。未だ客足は途絶えないものの、大型遊園地としての面影は最早残ってはいなかった。
「ふふ、大丈夫ですヨ。その辺の人を殺してもちょっとした間違いですぎますからネ。
 その辺ふらふらしてる革醒者がいたら勧誘もしませんか? 我々の力の為に」
 さあ、参りましょうか? 大丈夫、一般人が死んだって一寸した誤差ですぎますヨ! そもそも、遊園地に遊びに来てるとかリア充じゃないですか小憎たらしい。吹っ飛ばして遣りましょうか!
 などと言いながら女は扉を開き、覗きこむ。
 呆れたように息を吐く黒髪の剣士がトオコにご武運をと小さく囁くと同時、水色の瞳の――虹色に煌めく瞳を持った男が行ってらっしゃいと告げる声に楽しげにひらひらと手を振った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月30日(火)23:21
こんにちは、椿です。拙作『<逆凪>烟月を飲み干して』の時系列上後に当たり、凪聖四郎との関連がありますが、ご存じなくとも支障ございません。

●成功条件
・アーティファクト『雨靈』の保護
・敵性エリューションの撃破と直刃フィクサードの撃退

●場所情報
時刻は昼。開園してから随分と経つ大型遊園地。客足は未だ途絶えず中堅程度の規模は保っている様子。
園内の何処かに存在するアーティファクト『雨靈』を探し出し手に入れる事がフィクサードの目的となっています。入園ゲートは北口と南口の其々二つ。土地面積はかなりの広さを有し、アトラクション等が壁になり回り道が強要される事もしばしば。アトラクションの種類はある程度揃っているようです(お化け屋敷やミラーハウス等の室内にアーティファクトがあるのではと誰花トオコは予測して居ます)
一般人は園内に存在し、邪魔になる様ならばフィクサードはその殺害を厭いません。

●アーティファクト『雨靈』
アメフラシ。神秘作用があるとされているブレスレット。その効用、代償は不明ですが、少なくとも『凪聖四郎』の役に立つとされています。
非戦スキルなどでその場所を判明させる事は可能。何か革醒者にしか感じられない特殊な香りを発し続けています。

●直刃(すぐは)
凪聖四郎が己の指揮の元で統制している派閥『直刃』のフィクサードです。
その大半が逆凪の社員(フィクサード)であり、一部は他派閥やフリーのフィクサードで構成されているようです。

●誰花 トオコ
メタルフレーム×覇界闘士。その他一般スキル非戦スキル有。誰に対しても友好的であり、人との対話が有意義であると感じます。逆凪に所属しておりながら剣林に近い思考を持ち、実力者にはある程度好感を持つようです。
・EX:翠雨符(神遠範)

●佐伯 天正
メタルフレーム×クロスイージス。物理防御高。
凪聖四郎の側近であり、主の為に忠実に戦っています。元は傭兵であった為実力者。直刃に所属し、聖四郎の目的の下準備を行っています。

●竜潜拓馬
フライエンジェ×ソードミラージュ。速度高。此方も元傭兵に当たり、佐伯と共に行動して居ます。アーティファクトを所有し、使用する為に戦場に訪れています。
・アーティファクト『五香の翼』:周辺の水、火、雷などをエリューションエレメントとして覚醒させ使役することが可能。覚醒に関しての判定は3Tに一度、最大5体まで。覚醒の確率は45%程度。

●逆凪フィクサード×3
ホーリーメイガス、マグメイガス、ダークナイト。直刃にも所属しているフィクサードにあたります。

●五香の精×初期10体
竜潜拓馬が所有するアーティファクト『五香の翼』によって覚醒を促された火や水、雷等。エリューションエレメント。
その実体がない為にブロック不可。其々によって個体、性能が異なる。火のエリューションであれば火系列のBSが、水であれば氷系列等とその特質を外見で表している。

さあ、凪ぎましょうか。どうぞ、宜しくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ソードミラージュ
★MVP
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
プロアデプト
逢坂 彩音(BNE000675)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)


 ざわつく遊園地内で深く帽子を被った『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は緊張した様に身体を強張らせた。普段なら自慢の耳も尻尾も今は無用だ。周囲の一般人に彼女が緊張するのも無理はない。
「……アメフラシという名前でもブレスレットなのですね。少し興味がありますわ」
「雨靈か。動物にもそんな物が居たな。どんなものか知らないけど、遊園地で暴れさせる訳にはいかない」
 Route of ARKを見詰めながら五感を駆使した『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は普段と違った装いを身に纏っている。普段の修道服ではなく私服を纏った彼女は人々が行き交う遊園地によく馴染んでいた。
 尖った牙を見せながら白衣を纏った『三高平最教(師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は周囲に行き交う子供や若いカップルを見て、自身の生徒を想いだす。折角の楽しい遊園地。どうせなら仕事ではなく余暇で訪れたい物だ。
「遊園地で楽しんでる所に水を差す訳にはいかないわね。迅速かつ隠密に済ませましょう?」
「ああ。面倒事を増やしてくれるものだな。敵に塩を送る心算はない。此処で阻止してやらねば」
 ぐ、と拳を固めた『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)の機械の手は今は長袖と手袋に隠されている。彼等の色鮮やかな髪は一般人にも目立ってしまうのは致し方ない。白に赤に、紫といった髪は成程、注目を集めるのも致し方ないだろう。
「いやはや、全く。面倒な奴だとおじさんも思うぜ?」
 くつくつと笑い安物煙草を吹かせる『足らずの』晦 烏(BNE002858)は耳を澄ませ、聞いた事のある直刃の誰花トオコというフィクサードの声を辿っている。様々な音に紛れ、その精度が高いとは言い難いが些細な音をも逃さぬ聴力は園内の音を拾い続ける。
「ふむ、お化け屋敷はあちらかな? よくよく考えてみるとこういう任務は初めてかな」
 唇に指先を当てて悩ましげに俯いた『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)の冴える『勘』は何かに誘われる様に足の向く先を示す。その言葉に頷いて、『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が色違いの瞳を細めて、首を傾げた。
「雨靈……一体どんなものでしょうね。雨を降らすじゃなくて『靈』……霊?」
 確保せねばならないアーティファクトは遊園地の何処か――リベリスタ達の考える先、『お化け屋敷』の中に考えられていると思われるソレを探索するところから始まる作戦に『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は高鳴る胸を抑えずには居られない。どんなアーティファクトであろうが奪わせないと決めている。
 だが、どんな形でも良い。どんな形でも『彼』と――速さを求めた相手と戦えるだけで心も体も逸るのだ。
 そんな亘の格好は遊園地の作業員。カラフルな髪に、瞳、服装までもちぐはぐな面々は有る程度までは許容範囲であれど、全員が固まって『何かを探す動作』をしていれば一般人の注目を集めるのも仕方が無いだろう。
「……行くぞ。地図によればあっちだろう?」
「はい、早く向かいましょう。奪わせない為にも。そして、勝利する為にも」


 ――……誰花、『何』を聞き取ったんだ。騒ぎか? 『彼等』か?

 ええとー、来ちゃいましたー☆ってやつデスヨ!

 ………来たと言う事か。成程、それで『彼等』は何処に――

 烏が拍子抜けする様な声音が近くで聞こえた。目立つ声と言うよりも、何処か特徴的な喋り口調で楽しげに笑う女の声は近い。
「ばれた」
 端的に告げる声に、こくんと頷いた優希も同じ物を聞いていたのだ。私服の面々に混ざった遊園地の作業員。赤い瞳を細めながら彩音が裏路地を指差す。お化け屋敷への近道を指し示したのだろう。人気のない裏道はアトラクションの谷間にある。人の多い場所での接触は無用な殺生が起きるのみだと杏樹は知っていたのだ。
「……来た」
 告げる声に、走る杏樹の鼻が何かを捉えた様に引くついた。同時に長いスカートの中で尻尾を揺らした櫻子も頷く。
「お化け屋敷、行きたいってことデス? もうちょっと外見には気遣って? パーティ会場にはあったドレスコードが必要なんデスヨ」
「例えば、君が幻視を使って黒髪黒眼になっている様に。例えば君が私服を纏っている様にかい?」
 その通りと己の機械化した部位を摩ったトオコが赤いルージュを引いた唇を釣りあげる。広まった強結界は彩音が周囲の一般人を気にして行ったものだろう。8人のリベリスタが固まって進んでいては逆に待ち伏せされる可能性もあると言う訳だ。相手が別れて探索を続けている事に気付いたソラが視線を送る。頷いた亘が杏樹を連れ添って別ルートから探索を開始する。
 待ち伏せしていたフィクサードの中に佐伯天正が居なかったのは『先に確保』する為であろう。戦う事に貪欲なトオコにアーティファクト『五香の翼』を手にした拓馬の存在はリベリスタらの障害となっていた。
「全く、面倒なことばっかりするんだから! 習わなかった? 人様に迷惑をかけちゃ駄目って」
「知ってました? お節介って言う言葉もあるんデスヨ!」
 軽口一つ。楽しげに笑うトオコの前へと滑りこんだのは慧架だ。双鉄扇を手に、一気に間合いを詰めた彼女の横面をトオコが殴り飛ばす。間合いさえ越えて捉えた気配に其の侭大地へと叩きつけられたのは最初の一手が自身を強化する手番となってしまったからであろうか。
「ッ……同じ覇界闘士、中々の実力ですね。鈴宮慧架と申します。以後、お見知りおきを」
「敵を目の前に、悠長に突っ立ってて良い時と悪い時があるんデス。今は、悪い時」
 お分かり、と笑った女を撒きこむように彩音の気糸が伸びあがる。避ける事さえも得意にした拓馬が避け、ナイフを手に前へと飛び出せば、そのナイフを受け止めたのはソラのハイ・グリモアールだ。頁がパラパラとめくられて、幼く見えるかんばせに似合わない笑みを浮かべた彼女は時を切り刻む。グリモアールの頁一枚一枚が刃の様に散らばった。
「先生が教えてあげるわ。時間の有効な使い方ってやつを」
「此方こそ、見せてやろう。速さってやつを」
 どちらもソードミラージュ。マグメイガスの力をも研鑽したソラが笑う声に拓馬は身構える。姿の見えない天正の代わりに庇い手の居ないホーリーメイガス目掛けてその拳を振るう優希の足がアトラクションの壁を蹴る。ダンッ、と鉄板を鈍い音で踏み締め、胸を飾る静謐の赤で差し込む陽を反射した。
「食えない奴だとは思っていたが、待ち伏せか。そんなに逢いたかったか?」
「ええ、勿論! アッ、ひょっとしてそのブローチ、誰かからのプレゼントです!? 誰花さん友達すら居ないのにッ!」
「ああ、そうそう、誰花君。聞いたぜ。おじさんで良ければメル友位から始めるかい?」
 ふざけた様ににこやかに。普段の覆面を付けぬ烏にトオコがぴたりと足を止めてからからからと笑い始める。そのトオコの背後、揃っていた五香の精とホーリーメイガスを目掛けて投擲されるフラッシュバンにホーリーメイガスが動きを止める。同じ回復手でありながら、後衛に位置し、攻撃を受けることなく己の為すべきを為す櫻子が周囲から魔力を取り込みながら、じ、とフィクサードを見据えた。
「どの様なアーティファクトをお使いになられるのですか? 私の幻想纏いはブレスレット。素敵なものですか?」
「さあ? 雨靈はワタシが適当に付けた名前なんですヨ! 正式名称も効果も不明。でも、『プリンス』なら上手く使えると思いましてネ。一寸したプレゼントじゃないですかー」
 邪魔しないで下さいよ、と一歩引いたトオコに起きあがった慧架が土に塗れたスカートを気にせずに、彼女の体を地面に叩きつける。
「ところで、プリンスの事は偉く評価してらっしゃるんですね?」
「ええ、勿論」
 他愛もない会話は彼女の性質が故。誰花トオコは対話を有意義に感じると言う。だからこそ積極的に話す慧架は用意した魔法瓶に入った紅茶が渡せるほどに仲良くなれるかと緩く笑みを浮かべていたのだ。


 駆ける亘は杏樹に続き、お化け屋敷の中に入っていく。暗視を駆使して、周辺を見回す杏樹に続き、中は調整中らしいという情報を流す亘はその格好故に信憑性もあった。
「……さあ、何処だ?」
 くん、と鼻を鳴らし杏樹が進む先、人影が其処にはある。その人影に見覚えがある亘の唇が緩く釣り上がる。
「ふふ、御機嫌よう。佐伯さん。また一つ勝負と行きましょうか」
「この『訳のわからぬ物』が欲しいと言う訳か」
 男が背を向けてお化け屋敷の中を駆ける。彼の手におさまっていたブレスレットを保護する事こそが彼等の任務なのだ。追いかける亘の速度は早い。何よりも速さを研鑽した青年はその青い翼を露わにし、Auraを手に回りこむ。
「ねじ伏せるだけが全てではない! 自分達は皆で勝つ。ソレが勝負です!」
 ひゅ、と音を立て、真っ直ぐに振るった刃は光りの飛沫を上げる。手にしたハンドライトよりも、輝くソレを目にしながら、暗闇に適した瞳を持つ杏樹が滑り込む。魔銃バーニーに付属させた氷の力。黒兎の描かれた自動拳銃から打ちだされた弾丸が天正目掛けて飛んでいく。
「ッ――」
「佐伯様、そのアーティファクトは『凪様』の物ですよね?」
 そう問われる言葉に男の唇がつり上がる。この場に存在したのは佐伯天正とマグメイガス、ダークナイトだった。表で闘うリベリスタ達は全体攻撃にて五香の精を薙ぎ払う杏樹が居ない以上、彩音がピンポイント・スペシャリティで巻き込むか、優希の壱式迅雷が巻き込む水系列の精霊しか消せていないだろう。増えるエリューションエレメントへの苦戦がどの様なものか、お化け屋敷と言う室内アトラクションに存在する彼等には判らない。
 マグメイガスの血の鎖が亘を捕まえんと伸びあがる。同時、避ける様に身体を捻り亘の切っ先が天正へ向けられる。くらり、と眩む視界に男の手首に嵌められたブレスレットへと杏樹の視界が注がれる。
「これは中々期待に添えた役回りだと思わないか? 神の使徒が悪魔から奪い返しに来てやったぞ!」
「それは面白い。だが、我々も手加減はせぬのでなっ!」
 クロスイージスである天正の刃が輝きながら亘を切り裂く。早さを武器に避ける亘の頬がす、と切れ血が溢れる。暗がりの中、手にしたハンドライトがかしゃん、と音を立て床へと落とされた。
「片手が塞がっていては本気を出せませんからね。自分は大切な役割があるんです!」
「ああ。私は悪足掻きが得意なのでな――負けてはやらん!」
 亘のナイフが煌めき、杏樹の弾丸は冷気を込めて飛びだした。同時、痛みを内包した箱が亘の体を傷つける。屈さず、真っ直ぐに飛び込んだ杏樹が殴りつけん勢いで銃を振り翳す。
 ワンステップ。
 地面を蹴り捻りだした弾丸が男の横腹を貫いた――!


 時を切り刻み、拓馬の前に立っているソラの柔肌から血が流れる。血を拭い、小さな体躯を武器に滑り込み、幾度も無く男へと攻撃を加えるソラのふらつく膝を櫻子が立たせた。
「負けませんわ。この聖痕(きず)は私の勲章。護るべきを護るため――!」
 魔弓を引き、耳をぴんと立てる。帽子がふわりと浮きあがり、猫の耳が露わになっても、回復を行う櫻子はその動きを止めない。
「痛みを癒し、その枷を外しましょう――!」
 癒しの矢が仲間達の動きを阻害する者から解き放つ。前線で戦う慧架はただひたすらに扇を生かし舞い続けた。強そうな敵との戦いに加わると、その意気やよしと声だけ笑うトオコの瞳は笑わない。
「舐められたもんですね? ぱっと見た感じで強そうなら誰でも良い、そう言うことデスカ?」
「いいえ、貴女と戦いたかった。誰花トオコさん」
 踏みこまれた一歩。前線に飛び出すトオコ目掛けて烏はメールアドレスの交換を促すと共に閃光弾を投擲する。成程、面白くなってきたのであろうか、笑いだすトオコの動きが研ぎ澄まされる。
「メアド交換してどうするんです?」
「色々積もる話もあるだろ? 例えば其方の若大将とか」
 ぴくり、とトオコの肩が揺れる。飛び交う五香の精が耐えず攻撃を与えるそれを優希が武技で打ち払う。雷撃を纏った其れが水を痺れさせ、消滅させるがまだまだ数は多い。烏によって動きを止めるものもあれば、後衛に向けて打ちだされたその範囲から離れたエリューションの攻撃が続き続ける。
「兇姫様との痴話喧嘩の際に顔を合わせたがね、あの若大将、確かに麒麟児さな。
 だからこそ、アークや七派程度の所に拘っちまう事で釈迦の掌で踊る程度の男にはなって欲しくないもんだよ」
「これは一種の賭けデスヨ! 逆にいえば、その釈迦の糸が無ければ浄土に戻れもしない男に何の面白味がありますか!」
 烏の言葉に笑いながらトオコが拳を振るう。ホーリーメイガスの癒しを遮る様に振るった拳。真っ直ぐに飛び込んで、その拳を衝撃と共に撃ち込んだ優希が一歩引く。炎を纏ったソレが遅い掛かり、飛び退く様に避けが、火傷を負った様に腕がじくじくと痛む。
 放置されたエリューションの数が増え続け、それを薙ぎ払う様な彩音の気糸がホーリーメイガスを貫いた。同時に貫かれるエリューションが彼女を狙い攻撃を続けて行く。避ける事に特化しない彼女は己の立ち位置を限定して居ない。ただ、その身其の侭立っていた彼女をも巻き込まんとするトオコの炎に焼かれ、意識を途切れさす。
「全く、折角授業は次週なのに、コッチが忙しければ意味が無いじゃない! さっさと大人しくしなさい!」
 追撃すら行えないとソラが睨みつければ、傷を負い続けた拓馬が唇を釣り上げる。お化け屋敷に先に先行した二人の様子を気にしながらもソラは真っ直ぐに突っ込んだ。
 様々なロケーションを考えて、策を講じていたソラは敵を追うべく追撃戦に入りたいと苛立つ気持ちを抑えて目の前のフィクサードの体を殴りつける。彼女の鋭い氷刃を受け流せないまま、拓馬がふらつく。速さと避ける事を得意とする彼だからこそ、ソラと対等の戦いを繰り広げていたのだろう。一方、傷を負い続けるトオコには回復する手立てが最早断たれてしまっている。
 ホーリーメイガスの体を吹き飛ばさんとする優希の拳がフィクサードを無力化する。次だ、と意気込む中でも、庇い手のない櫻子とて攻撃を喰らっては一たまりも無い。避ける事が得意ではない彼女を狙う弐式鉄山。周囲に飛び交うエリューションも櫻子を狙って突っ込んだ。そう、回復手を狙うのは定石だと言うのはそれはどちらも同じなのだ。
「ッ――!」
「お嬢さん、可愛いデスネ。どう? うちに来ない?」
「ふふ、櫻霞様がいらっしゃらない所になんて、行きませんわ」
 己の力が誰のためのものか、知っているからこそ――此処で倒れる訳にはいかないと言うのに!
 ぎり、と強くかみしめた奥歯。長い髪を揺らした櫻子の指先が弓から離れて行く。
 彼女の前に立つ烏は誰花君、とメールアドレスを書いた紙を投げつけるが、彼女は気が向いたら、とくすくすと笑い続ける。
「贈り物なら普通に花でもどうだ? あんな『玩具』じゃなく、花にすればリア充属性にも近付くのではないか」
「ああ、参考にしときマスネ。お花、お勧めの花とか、今度聞かせて下さいヨ? 誰花さん楽しみデス!」
 自由自在に動き回るトオコが前線で真っ直ぐに突っ込む慧架の身体を投げつけた。息を吐き、膝をつく彼女の瞳がじ、とトオコを見据えるが、へらりと笑った女は一歩下がり、息を吐く。
 増えるエリューションを相手に、拳を振るう優希は己を高める様に息を吐く。特殊な呼吸法で自然に眠る力を取り込みながら、一気呵成、真っ直ぐにその拳を振るった。
「いいんデスカ? そんなにこの子たちを放っておいて。増えれば増えるほど面倒な奴なんデスヨ?」
 数の増えるエリューションが前線に立っているソラに襲い来る。しかし、彼女は負けてはいられないと一歩引き、身体を反転させたままグラスフォッグを放つ。その氷刃が拓馬の動きを止め、彼の所持していたアーティファクトを打ち破る。
「……どうかしら? 先生を舐めちゃ駄目よ、坊や?」
「そんなこと言われたのは初めてだよ、せんせ。それと伝えて置いてくれないか、彼に――」
 翼を広げ、踏み込んだ拓馬の足を止めんと烏がフラッシュバンを投げ込んだ。


 幻想纏いの向こうの激戦を聞きながら杏樹は亘とお化け屋敷の中を抜け出した。追いかける足が縺れる。暗闇での攻防はライトを片手に持っていた亘には戦い難いものだったのだろう。
 暗視を所持している杏樹が負わせた傷が天正の逃亡を促したのであろうが、二人と三人の攻防のうち、ダークナイトを倒し切り、マグメイガスの鎖に阻まれるその手を打ち払いアーティファクトに傷をつける事に成功はしていた。
 未だ匂いを残すアーティファクトを追いかけて走る杏樹に頷き、傷つく体を引き摺った亘は唇を噛み締めて、追い続ける。
 戦闘を続けていたリベリスタ達は増えすぎたエリューションからの攻撃で苦戦を強いられていたのだろう。ソラの機転によって繋がれた幻想纏いから、彼女の疲弊した声が響く。
『そっちは?』
「――今、追っている。そちらは?」
『……伝言よ。次は速さを競いましょう、ってね』
 小さく息を漏らす音がした。次第に大きくなる遊園地の喧騒の中、辿る臭いが消えた事に、杏樹は十字のペーパーナイフを握りしめ、植木を殴りつけた。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 お疲れ様なのでした。直刃なのでした。
 様々なケースを考え、練られた作戦であると思いましたが齟齬が所々に見られました。
 MVPは様々なケースを考え、対応を怠らなかった教師の貴女へ。その姿勢、学ばせて頂きました。

 ご参加有難うございました。また、別のお話しでお会いできます事をお祈りして。