●湖の主 揺らめく水面に狙いを定め、釣竿を振りあげる。 弧を描いて飛んでゆくルアー。小さな水音。浮きが揺れる様を眺め、後は獲物が掛かるまで待つだけ。 「この辺は長閑で心地好いよな」 「ああ、こうしてのんびり釣りが出来るのも幸せってやつだ」 湖に掛かる大橋の上、釣り人達は他愛もない会話を交わす。空は晴れ渡り、今日は絶好の釣り日和。かかる魚を釣り上げ、彼らは次々にルアーを水面に投げ込んでゆく。 「そういえば聞いたか? 最近、この湖でヌシみたいなものを見たってヤツの話」 「ヌシ? 何だそりゃ、どうせウソに決まってんだろ」 「そうでもないみたいだ。話によると、釣り中に水面下に大きな影が横切って……ほら、丁度あんな――」 水面を見遣った男が水面の影を指差し、絶句する。しかし、それと同時にもう片方の男の釣竿が強く引っ張られた。 「お、おい! 引いてるぞ!」 「まさかヌシが掛かったってのか!?」 驚きながらも二人は竿を引き、大物を釣り上げようと懸命に頑張る。やがて、獲物の頭が水面から上がった瞬間、男達から悲鳴が上がった。 勢いよく飛翔したヌシは、この世のものとは思えない様相をしていた。 魚にあってはならない醜い手足をばたつかせ、橋上へと上がったヌシは牙だらけの口をあんぐりと開ける。 そして、二人の男は――。 ●Fishing! 「……怪魚に食べられちまったんだって。すっげー怖いよな!」 アークのブリーフィングルーム内、『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)はフォーチュナから聞いた話を仲間達に語った。 とある湖に、エリューションビーストとなった大魚がいる。 それが釣り人を襲い、喰ってしまうという未来が視えたので解決して欲しい、というのが今回の任務だ。今回は俺も一緒だぜ、と告げた耕太郎は仲間達に資料を渡す。 敵の大きさは三メートルほど。 エラにあたる部分には動物のような四肢が生えている。どうやら怪魚は陸上でも行動が可能らしく、手足を使って突進してくる。また、牙が生えた大きな口で噛み付かれたり、飲み込もうとしてくるようだ。 更に怪魚は配下を四体ほど連れている。ヌシをそのままミニサイズにしたような牙魚達は力はそれほど持っていないが、群れられると厄介になるだろう。 「俺達が向かう日、湖周辺はアークが一般人立ち入り禁止にしてくれるってさ。だけど、E・ビーストは普通に湖に行っただけじゃ出てこないらしいぜ」 そういって、耕太郎は人数分の釣り道具一式を示した。 怪魚こと湖のヌシは普段は深い水底にひそんでおり、潜って探すということも出来ない。しかし、湖のヌシは釣りで誘き寄せることが出来る。 「ヌシはわざと釣り針を引っ張って、釣り人にわざと自分を釣り上げさせる。で、人間を食うって魂胆だ。だから先ずは釣り上げるところからはじめないとな」 戦闘に持ち込むには、釣りを行って湖のヌシを橋の上に出現させなければいけない。 また、ヌシは釣り上げた人物を重点的に狙うらしいので、誰が釣ったかで戦闘で気をつけるべき点も変わってくるかもしれない。全員で釣りに挑むのも良いが、誰に掛かるかまでは分からないので、釣る人数を絞っても良い。だが、あまり人数を減らしてしまうと、敵が釣れる可能性も減ってしまう。 その点はよく考えないとな、と告げた耕太郎は拳を握る。 「それじゃ、準備が出来たら行こうぜっ!」 釣り人が食べられる未来はまだ訪れていない。このまま放置しておけば、怪魚は崩界を導いてしまうことにもなる。何よりも、不幸な事件が起こってしまう前に――。 今、リベリスタ達の釣果にすべてが掛かっている。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月06日(火)22:39 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● 広がる空は快晴。今日は絶好の釣り日和。 「いいねぇ、釣りは久しぶりだ」 橋の上、『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)は釣り糸を湖に垂らしてのんびりと呟く。 「すてきな湖ねえ。こまち水はだいすきなのよう」 その傍には、橋から水に手を伸ばそうとしている『水睡羊』鮎川 小町(BNE004558)の姿があった。しかし、流石に危ないかと思い留まった少女もまた、釣竿を持って意気込む。 「さあっ、がんばりましょうですよ!」 それだけを見るならば、実に平和な光景ではが、今回はフィッシングを楽しみに来たのではない。こう見えても、リベリスタ達は立派な討伐任務を行っている最中だ。 敵となるE・ビーストは釣りでしか誘き寄せられない。 つまり、獲物として掛かるまでが暫しの戦闘準備期間なのだ。 「ルアーフィッシング難しいよね。オレ、恥ずかしいけどベイトリールは苦手かな。キャストの時に指で糸を止めるのがどうしても怖くて。だからスピニングリールの竿でキャストするよ」 「スゲーな、真昼ってプロみたいだ。俺も負けないんだぜっ!」 『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)がマイペースに釣りに挑む最中、『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)も張り切る。もちろんこれは勝負事ではないのだが、早く釣りあげたいという気持ちは皆同じだ。 しかし、まだ魚の気配は感じられない。 途中に通常の魚はかかるかと思われたが、怪魚の所為なのか全く釣れなかった。 影人を呼び出した『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)は周囲を警戒しつつ、揺れるルアーを眺める。 「しかし、魚が釣りとは面白いですね。果たしていったいどちらが釣られているのでしょうか」 かの魚は釣りに嫌な思い出でもあるのだろうか。 どうでも良いですが、と零した諭は竿を引いて反応を見てみる。仲間達の様子を横目で見遣り、蔵守 さざみ(BNE004240)も水面に注意を向けた。 「ルアーって結構綺麗なのね。でも、魚に持っていかれたら勿体なくないのかしら?」 ふとした疑問を抱くさざみは、ルアーではなく生餌を使っている。 そのとき、彼女の釣竿に何かが掛かった。竿のしなり、手へかかる重さなどから、瞬時にそれを怪魚だと判断したさざみは、仲間達に呼び掛ける。 「来るわよ」 「釣れなかったから失敗です、なんてカッコ悪いことにはならないようだな!」 呼び掛けに虚木 蓮司(BNE004489)が動き、引き上げを見守ろうとした。だが、それより先に怪魚の方が水面に上がり、橋の上へと跳ねる。 見えたのは、手足が生えた巨大な魚。 蓮司はさながらそれが映画に出てくるクリーチャーめいていると感じ、僅かに身体を震わせた。 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)も身構えながら怪魚を見遣り、その後について来る配下魚達の出現を確認する。 「うむ、倒したら食べよう。やはり淡水魚なら焼き魚で塩焼きとかが良いでしょうか」 「いや食えないよな? これ」 アラストールが零した言葉に思わず小烏が突っ込みを入れる。 捕食が可能かどうかはさておき。まず戦い難い橋の上から陸地に戦場を移さねばならない。 「場所を変えるます! いくですよー」 怪魚にお目に掛かれたことが嬉しいのか、ぴょこんと跳ねた小町は仲間達を手招いた。真昼が頷いて駆け、諭も影人をサポートに回しながら続く。 さざみが駆ければ、怪魚も手足を動かして後を追って来た。仲間達は橋を駆け抜け、畔の陸地まで全力で走る。そして――。 「餌はここ。しっかりついてきなさい」 陸上まで敵を引き寄せたさざみは、くるりと反転して双眸を細めた。 そのまま構えを取り、展開させた魔陣が周囲に広がる。それを合図にするが如く、怪魚が口を開けた。 喰うか食われるか。否、倒すか倒されるか。 斯くして、戦いは始まりを告げる。 ● 蠢く手足、水に濡れて光る体躯、鋭い牙。 先程以上にぞっとしてしまいそうな感覚を抑え、蓮司は怪魚に向けて銃を構えた。 「俺、生臭いの苦手なんだよな。さっさと魚ヤロー達をブッ倒そーぜ!」 蓮司が差し向けた視線の先には、此方に襲い掛かろうとする配下の牙魚達の姿がある。狙いを定めた蓮司は邪魔なそれらを排除すべく、銃弾を撃ち放った。 そこに続き、小町が地面を蹴る。 「お魚さんは釣れなかったですけれど、はりきっちゃうですよー」 小柄な体躯を活かし、素早く立ち回った小町は牙魚の背後に回り込んだ。振りあげた腕は瞬時に魚を穿ち、敵の身体が勢いのままに引き倒す。だが、牙魚もガチガチと歯を鳴らして対抗した。 「わあ!」 「うお、痛ってえ!」 蓮司と小町に鋭い牙が襲い掛かり、それぞれに痛みを与える。 大丈夫ですか、と仲間を気遣いながら、アラストールはヌシの方へと回った。主格の狙いはさざみに注がれており、他の者には目もくれない。だが、アラストールの役目はそれをブロックすること。 幻想の闘衣を靡かせ、刃で敵を薙ぎ払う。 「エリューション化した生き物は美味な事が多いのですよね。少し、期待させてくださいね」 さらりと告げたアラストールの剣は魚の鱗を切り裂いた。多大な衝撃が敵に伝わったようだったが、巨大魚はそれをものともしていない。あまつさえ、あんぐりと口を開けてさざみを喰おうと狙っていた。 それを察知した耕太郎が、気を付けろ、と注意を呼び掛ける。 その瞬間。 「阻止してください」 諭の声が響き、遣わされた影人がさざみを庇った。影人は一瞬にして飲み込まれ、その途中で力を失って消える。リベリスタであったならば耐えられる衝撃ではあるが、やはり丸呑みは恐ろしい。 「攻撃を受けるのは遠慮しておきたいですね。それにしても、近くで見ると随分と間抜けな面構えです」 やれやれ、と肩を落とした諭は更なる影人を出現させた。次に狙うのは配下魚。重火器からの砲撃で集中しようと決めた諭は身構える。 そんな中、ひときわ驚いていたのは小烏だった。 「おいおい、本当に普通に丸呑みか」 ショッキング映像が見えたぞ、と慄く小烏は気を取り直す。真昼も今しがた見た光景を思い、外套の下に纏わせた白蛇に語り掛けた。 「うーん、オレも丸呑みは勘弁して欲しいと思うな。ね、白夜」 そして、気糸を紡いだ真昼はヌシに狙いを定める。集中を重ねた彼が狙うのはひとときでもヌシの動きを止めること。行動は地道で地味だが、それで良い。 厄介な相手の手番を少しでも削るのがオレに出来る仕事だから、と真昼は密かな決意を固める。 すると、気糸がヌシの動きを見事に縛った。 「今の内だな」 小烏は不吉の影を具現化させ、牙魚へと解き放つ。主格の動きが止まっている今こそ、配下の数を減らすまたとない好機だ。おそらく、怪魚はいずれ麻痺を解いてしまうだろう。その間に一体でも厄介な牙魚を減らせれば良い。 刹那、小烏の放った影が配下魚を覆い尽くし、息の根を止めた。 「さぁて、次だ。このままやってしまおうか」 小烏が更なる標的に狙いを向けたとき、巨大魚が再び動き出す。復帰を危惧していたさざみは「やっぱりね」と零し、魔術式を宙に描いた。 「三枚おろしにしてあげるわ。そうすれば少しは美味しそうに見えるわよね」 冗談めいたことを口にし、さざみは魔力を解放する。呪刻の黒鎌が舞い飛び、怪魚を切り裂いた。 依然、敵の狙いは彼女に向いている。しかし、さざみは怯むことなく相手を睨みつけた。その瞳の奥に映るのは、自分達の勝利を信じている確かな意志だった。 ● ヌシを抑えながら配下達を倒すべく、仲間達は協力して立ち向かう。 なかでも影人と共に砲撃を加えていく諭の攻撃には容赦がなく、ひときわ激しく見えた。 「これらで魚拓でも取れば面白いでしょうか?」 手足の生えた魚達は実に良い見世物になるかもしれない。少しばかりおかしさを覚えてしまった諭だったが、無論それは本心ではない。彼の一撃は弱った牙魚を一体、屠る事に成功した。 アラストールがヌシをブロックし、狙われ続けるさざみも上手く立ち回る。その間に真昼が麻痺を試みることで何とかバランスが釣り合い、戦線は拮抗していた。 それから、戦いは巡ってゆく。 「どかーん、なのです!」 元気の良い小町の声が空に響き、牙魚が衝撃の勢いに吹き飛ばされる。 やったです、と笑顔で頬を綻ばせた小町。拳を握って喜びを表す彼女の活躍はめざましく、今しがた倒した配下が最後のそれだった。 「よし、これで後はヌシだけ。って、うわっ!」 耕太郎もつられて喜び、弓を怪魚に向ける。だが、その笑みは途端に崩れることになった。 配下を殺されて怒る、という感情がそれにもあったのだろうか。巨大魚はゆらりと揺れ、それまで以上の猛攻を見せはじめた。 「負けねえぞ。魚の急所はエラの横と尾の付け根! ばっちゃが言ってたから間違いない。つまり魚の急所を狙い打ちすれば俺無双!」 蓮司も怯みかけたが、祖母の言葉を思い出して頭を振る。 しかし、エリューションに常識が通用するのか。耕太郎が首を傾げると、蓮司はぎくりとした。 「……お、俺はばっちゃを信じるぜ!」 「お、おう。ばあちゃんの知恵は偉大なんだぜっ!」 「わあ、おばーちゃんすごいのですー」 其処に何故か小町も加わり、一部のリベリスタの士気がぐんと上がる。もしこの場に蓮司の祖母が居たとしたら、MVPは彼女に渡っていたかもしれない。 「あー……まぁ、楽しそうで何よりだ」 小烏は苦笑いを浮かべていたが、その言葉に呆れは交ざっていない。寧ろ、この調子ならば負ける気はしないとさえ感じていた。 そして、小烏は敵の攻撃を受け続けているさざみの背に視線を移し、癒しの符を舞い飛ばす。 これで未だ暫し保てるだろう。そう感じた時――事は起こる。 「しまった! 敵の動きに注意してください!」 怪魚を抑えていたアラストールがさざみに振り返り、呼び掛けた。だが、そのときには既に巨大魚の口はさざみの身体を包み込んでおり――。 「……!」 さざみは抵抗する間も与えられず、ひといきに喰われた。 しかし、先程の影人と違って彼女が一撃でやれられることはない。ぬめる口内の喉口で留まり、腹に落とされることを阻止したさざみは唇を噛み締めた。 (覚悟はしていたけれど、気持ちの良いものではないわね) さざみが身動きすら出来ぬ中、外の仲間達は異様に膨らんでいる魚の喉元を見遣る。真昼はそれがさざみがぎりぎり無事な印だと気付き、一先ずは安堵を覚えた。 「大丈夫みたいだね。いや、大丈夫って言葉が当てはまるのかは甚だ疑問だけど」 何せ、呑まれたのだ。 対象が自分ではなくて良かったと不謹慎なことが過ぎったりもしたが、真昼とて仲間のことは気に掛かる。そして、彼は己の役目を全うするべく、気糸を紡ぎ出した。 緊張が走る中、諭や小烏も攻撃に転じる。 再び動きさえ止めれば、助け出す機会も生まれるはず。醜く蠢く化物を見据え、リベリスタ達は更なる戦いを覚悟した。 ● 標的を呑んだことで、怪魚の攻撃は別に人間に向く。 次なる狙いが定められたのは、それまでずっと魚を阻んでいた者――アラストールだ。 「来るなら来ると良いです」 剣を構え、攻撃に備えたアラストールは先手必勝とばかりに破邪の力を宿らせた刃を振るった。剣先が怪魚の身を斬り、血のような液体を散らせる。しかし、ヌシも怯まずにアラストールに突進した。 「――!」 その攻撃は小町をも巻き込み、手痛い衝撃を与える。 「待っていろ、今すぐに癒す」 アラストールに麻痺効果がもたらされたのだと気付いた小烏が神光で邪気を払いのけようとした。だが、それまで上手く巡っていたはずのバランスは妙に崩されてしまっていた。結果、仲間のマヒは解除されないまま、その身体を縛り付ける。 小町のダメージも大きかったが、運命を引き寄せた少女は立ち上がった。 「おさかなさん、暴れちゃめっなのよう!」 どーんってしちゃうのはだめ、と魚を叱り付けた小町は力いっぱいの一撃を巨大魚に見舞った。すると、彼女の攻撃は巨大魚を大きく揺らがせる。 窮地ではあるが、仲間達はまだ全員が健在だ。 おそらく隙さえ作れば呑まれたままのさざみも出て来れるだろう。そう信じた諭は攻撃の手を止めず、重火器による砲撃を次々見舞ってゆく。 「見て食欲が全く湧いてこないなんて相当な魚ですね。そろそろ終わらせますよ」 そして、諭が再度の銃弾を打ち込んだ瞬間。 怪魚の口の中から激しい炎が上がり、空気を焦がした。 「えっ?」 矢を放っていた耕太郎が驚き、怪魚はこんな攻撃をしただろうかと慌てる。だが、諭にはその正体が何なのか解っていた。数瞬後、ヌシの口がこじ開けられ、中から影が飛び出した。 「蔵守サン!」 先程の炎はさざみのものだった。そう気付いた蓮司が嬉しげな声を上げる。 地面に降り立ち、バランスを取ったさざみは髪を掻き上げ、何事も無かったかのように「おまたせ」と仲間に告げた。――その衣服が水で濡れていたのは、ともかく。 「さあ、反撃と行くわよ。覚悟しなさいね」 何処か怒りの滲む言葉と共に、さざみは魔力を紡いでゆく。 仲間が無事だったことに胸を撫で下ろした蓮司も気を取り直し、銃弾を撃ち放った。勿論、その狙いは急所であろう部位にのみ絞られている。 「これで心置きなくやれるね」 それまで集中を重ねていた真昼も気糸の罠を張り巡らせ、力を解き放つ。 巨大魚を絡め取るように動いた糸は敵の動きを縛りつけ、大きな隙を生み出した。目隠しの下から向けられた真昼の視線を感じ取り、小烏も攻撃を行う。 「さて、と。お前さんの運命はもう決まっている」 小烏が占う不運は黒き影となり、巨大魚を包み込んだ。戦いが最後へと向かって集束して行くように見え、小烏は口許を微かに緩める。 その合間、怪魚が最後の力を振り絞ってアラストールを襲おうとする。 だが、態勢を立て直したアラストールは全力の防御で以てそれを抑えきった。仲間を守る意志を強くした騎士は視線を投げかけ、仲間達に怪魚のトドメをさして欲しいと願う。 「今です。どうか、お願いします」 「はいっ、いくますよー!」 それに逸早く応えたのは小町と諭だ。 少女の変わらぬ元気の良さに諭は目を細め、最後になるであろう銃撃を撃ち込んだ。小町も拳を振りあげ、目にも止まらぬ一撃で敵を穿った。 最早、巨大魚は身動きすら出来ない状態だ。 死ぬに死に切れぬ敵に最期を齎すべく、蓮司は銃口を差し向ける。そうして、ニヤリと笑った彼は口上を口にすべく唇を開いた。 「人間を丸呑みにせんと追いかける手足の生えた怪魚。実に恐怖! だけどな魚ヤロー! モンスターパニック映画で最後に強いのは炎と銃と軍隊だぜ! ヒャッハー!」 高笑いと共に引鉄はひかれ――E・ビーストたる怪魚は淡い光を放ち、空気中に散った。 ● そして、湖には元あった平和が戻ってくる。 「さて終わったわけだが……騎士よ、本気で食うつもりだったのか」 「ゲテモノは珍味だと言いますし、味わえなかったのは実に残念でした」 僅かに表情を曇らせたアラストールは巨大魚が消えた宙を名残惜しげに見つめていた。まさか、本当に食する心算だったとは。小烏は笑いだしそうな衝動を抑え、アラストールを慰めた。 畔ではひと仕事を終えた仲間達がそれぞれに笑いあい、互いの健闘を労っている。 「いやー、すごかったよな。ばっちゃの助言があんなに役に立つなんてな」 「あはは! 実際に結構効いてたもんな」 蓮司と耕太郎が楽しげに話す中、真昼は白蛇を撫ぜている。 諭も微笑ましげに口許を緩め、夏の陽射しに目を細めていた。そんな中、汚れを湖で落としたさざみが不意に橋の方へと歩き出した。耕太郎がどうしたのかと聞くと、さざみは釣り道具一式を示して答える。 「今日の晩御飯、釣りにいくの」 「わあっ、こまちもごいっしょするです!」 「オレも行って良い? さっきはゆっくり思考する暇もなかったからね」 その答えに小町と真昼が反応し、先程使っていた釣り具を手に取った。すると他の仲間達も自分も、と続いて来る。特に断る理由もなく、一行は当初と同じように釣りをすることになった。 陽射しが反射する水面はきらきらと輝き、とても目映い。 「……釣れると、いいな」 さざみは小さく呟き、釣り糸を湖へと投げ入れた。 まだ日は高く、頭上に広がる空は変わらず快晴。 響く声に輝く仲間の笑顔。きっと――今日という日は、本当の意味で絶好の釣り日和になるはずだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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