●猪突に穿け 「キース・ソロモンの来訪は記憶に新しいかと思います。彼が宣戦布告を告げてから早半月ほど。あと一月半で彼と対峙するということは、取りも直さず現状の懸案――『親衛隊』の撃破を早急に終え、英気を養って貰う必要がある」 ブリーフィングルーム中央で、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は背後のモニタを操作する。映しだされたのは工場……外観は普通だが、恐らくは工廠であろうと思われるそれの趣だ。 「三ツ池公園の『穴』が奪われた以上、革醒新兵器とやらの強化は着々と進んでいるでしょう。早期奪還と同時に、ここを叩きます」 「ここ……って、大田重工か?」 「ええ。前回、アークが彼らに敗北した理由は『エース』、つまり中核戦力に過剰に頼っているとされる構図からくる脆弱性を衝かれた形です。ですから、今回はその意趣返しということです」 「意趣返し……まさか、既に出てる連中は」 「そういうことです。『三ツ池公園』と『親衛隊拠点』、つまりこの工場への同時攻撃。得るものが多かったということは護るものもまた然り。足回りが鈍くなっているのならそれを狙えばいい」 にや、と頬を歪める彼に対し、しかしリベリスタは尚も懐疑的だ。考えるべくもなし、主流七派のことだろうか。 「逆凪黒覇なら動かないでしょう。キース・ソロモンの宣戦布告を曲解すれば『生き残った神秘勢力が彼の相手をする』ことになる。それを戦略司令室長がうまい具合にハッタリとして使った、と。本当、口先と根回しの巧さはあの人に敵う気がしませんね」 上司をしてそのように評し低く笑う彼は、傍目に見れば不遜極まりないのだろう。だが、事実のみに終始すればそのままの意味でしか無い以上、そういうことなのだ。 「で? 俺達が攻める区域とその敵ぐらいは教えてくれるんだろう?」 「そりゃあ、まあ。君達には先陣を切って……というわけでもなく。工場裏口エリアを叩き、工場の地理的挟撃を担当して頂きます。配備されていると思われるのは親衛隊曹長『フランツ』。知ってる方も居ますでしょうかね。状態異常反射型装甲『F.E.L.』搭載兵器を配備し、伍長一人と精鋭を連れて戦場に赴いていた脳筋型です。しかしながら、頭脳担当だった伍長は既に撃破されており……まあ、額面通り受け取るなら有利、なのでしょうね?」 「何故そこで疑問符になる」 「い、いえ……それがですね。フランツが死者の兵装を改修していて、更に厄介なことに設置型兵器として改修している、という予測が立ってまして……資料はあります、ご安心を」 「安心できねえ、それ」 「……観念してください。司令本部は君達に全幅の信頼を置いて、勝利と健闘を確信しています。僕もそうです。最大を以て最善を、というのはまさにこういう時に使う言葉でしょう? 限界を超えた最大で、総てに於いて最善を。君達に出来ないことは、僕の目には映らないものなのですよ」 ●門番は網間を伝い 「曹長、配置完了しました。いつでも『網』の起動が可能です」 「ご苦労。我々の配置は重要だ。貴官等の乾坤一擲の一撃をして迎撃は万全となる。無理の無い様、死力を尽くせ」 「Ja」 「……窘めんのだな、やはり」 「は?」 「いや、いい。聞き流せ」 不思議そうな目をしてこちらを見てくる部下から視線を切り、フランツは小さくため息を吐いた。力技を是とし、感情の赴くまま狂乱に舞う自分がこれでは、周囲に示しがつくまいというのは薄々感づいている事実だ。 だが、やはり激情型の自分を窘める傍らが無いという喪失感は、じくじくと自らを苛むのだろう。……あれは、殆ど負け戦だったろうに。 無理矢理に切り拓いた活路を基に、余裕というヴェールを被せ立ちはだかった。部下(りかいしゃ)を死なせておきながら、のうのうと。 だが、彼の遺品は、彼の意思は、確かに自分が繋いだのだ。自分が受け取ったのだ。それは、疑いようのない事実だった。 だからこそ、三ツ池公園を占拠したことで得るべき利を最大限利用した形で『網』を張った。仮に戦場へ踏み込まば、相対すは自分と部下だけではない。 カルステン――死者の魂の網をして、彼らをここに縫い付ける。夜明けより前に血の赤を。暁の色に鮮やかな紅を。 「総員、構え! 『網』を張れ! 相対した者は蚤の一匹通さず押し潰せ――!」 だから吼える。 血の夜に。 暁に捧げる血を求め。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月11日(日)00:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「SSですか……ショートストーリーとかだったら平和だと思うのですが……」 「これから死ぬ貴様等の命のことか? だというなら、慧眼だと言えるだろうな」 「前回参加し損ねた依頼でアホ上司からアホが抜けたようだな」 「斯く言う貴様が言葉の余る劣等であれば是非もない。既に趨勢など決まったようなものだろうよ。ここからは通さないし出しもしない。そういうことだ」 遠くから近くから戦火が渦を巻いて血と硝煙の匂いを運ぶ中、キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)の冗句も鷲峰 クロト(BNE004319)の挑発も、迫撃砲を構えた男……フランツの耳に届くには近く、感情を揺らすには遠い距離感にあった。 こと、クロトはその舌禍が事実として戦局に悪影響を与えた経緯があるだけに、対峙する側の冷ややかな視線を感じていない……とは言わせないだろう。そういった空気だ。 少なくとも、フランツは視線を向けることすら億劫だと言わんばかりの態度。指示を向け、一歩も徹す気のない相手に対して向ける情など、端から無いに等しいのだろう。既に十分な気魄を砲身に込め、僅かに燐光を纏う姿は並の革醒者のそれではない。 「目的も、言い分も、よーくわかりましたよう」 だが、『理解』が『和解』につながらないこともまた、『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)は理解したに等しいだろう。狂った目的に理不尽な言い分。彼らは七十年弱そうしていたんだから、今更変える気もないのだろう。 現代に生きてきたリベリスタにとっては比較するまでもない悪、理解するまでもない敵。それ以外の概念に彼らを当てはめるなど考えがたい。 その意思の行き違いを象徴するように――既に、戦端は開かれているのだから。 ぜひゅう、と切れ切れの息を吐き出した『親衛隊』の気配が交じる。『三高平最教(師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)の放った雷撃をモロに受け、しかし彼女に追従せんと踏み込んだ覇界闘士は、続けざまに突き出された指先の魔力に蹈鞴を踏んだ。その衝撃を経て尚、彼女と打ち合う為に突進してくるなど狂気の域だ。 「たまには本気ってやつ見せてあげようじゃない」 『親衛隊』との縁などここで切ってしまいたい。敗北など許されない。常日頃より蓄えた自身を絶対の信頼で支え、この一戦に叩きこみ打ち砕く。本気になった彼女の脅威度は、リベリスタ達にとって自明ですらある。 「行きますよアークの誇る勇士達、猟犬共を喰らい尽くして差し上げましょう!!」 前方にカードの束を突きつけ、暗に口にするのはアークに対する忠誠を向ける意趣返し。『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の得意とする積極的撹乱と暴徒を想起させる攻撃行動は、統率を是とする『親衛隊』達にとってみれば、積極的にそれを崩しに来る彼女の言動にこそ大きな動揺を受けて当然ということになろう。 斯様な点では、彼女は意図せずして有効戦術を見出していることになる。時間との勝負という趣が強い戦場では、偶然性をも味方につけたほうが勝つ。その点で、アークは一歩前へ出たか。 「空っぽの自分には、喪うという感覚はわかりません」 失った仲間を弔う兵器。それはどれほどの思いを背負って創りだされたのかなど、『振り返らずに歩む者』シィン・アーパーウィル(BNE004479)には理解できない。 喪うことも手に入れることも喪失の中にはないのだから、それを感じられる彼らに対して非常な憧憬を感じるのは……当然なのだろう。 だが、それと彼らを倒さないのとは別問題だ。眩しいならなおのこと、『空っぽ』に受け入れてみせる。アークのリベリスタ、ひとりの『ミステラン』として、癒しを顕現する。 未だ動き始めたばかりの戦場では、彼女の回復力ですら十分に過ぎるのだ。 「喪った穴を埋めることは出来ない。我々はそこを掘り返されぬよう、盾を構え壕を掘り罠を張って迫られぬ様にするだけだ……私達は間違っているか、アーク」 応じたのは、フランツではない。シィンと大差ないタイミングで癒しの波長を放った神聖術師と思しき青年だ。 無論、『外見は』という注釈が入るが。 喪った心の穴は守らねばならない。誰かが不用意に掘り返した時の代価はあまりにも高くつくだろうから。 「……戯れるな! 腰を据えろ、守り通せ! 曹長も『伍長の意思』もだ!」 それに呼応するように声を張り上げた男の指示は、的確にして堅固な守備を形作る。足を止めるには守りを固めればよい。力技で打撃を加えるのは彼らの指揮官に任せればいい。劣等に対し同じ土俵で戦ってやる謂れもないのだ、彼らには。 「遺恨、とは少し違うかもしれませんが」 誰に対しての因縁、誰が為の心持ち、決意。水無瀬・佳恋(BNE003740)がその身に込めた意思はそんな単純なものではない。そんなものを掲げる資格は無いと断じる彼女にとっては、洗脳をも厭わず挑む彼らに対し、純粋に義憤によって挑んでいるに過ぎない。 正面切って挑みかかった彼女に、カードの群体が叩きつけられる。それでも止まらない。振り上げた長剣「白鳥乃羽々・改」は、進路を塞ぐように立ち塞がったその男を、薄紙一枚吹き飛ばす様な容易さで弾き飛ばす。 視界の端、その男が体勢を崩さず着地したのを忌々しげに収めながら、神聖術師を睨みつける。 他方、『防衛網』の守護に回った親衛隊の面々は、それぞれの能力を自ら、或いは仲間へと向けることで戦線の維持と堅固化を計る。 彼らにとって重要なのは何より時間だ。フランツが打撃を加えるに足る猶予、『防衛網』の起動猶予。それらを確保するためならなんだってするだろう。誇りに泥を塗ってでも、得るべきは勝利ひとつなのだから。 「各員、リベリスタの足を止めろ。私が確実に終わらせる」 「Ja」 意を崩し、『不屈の砦』の名を冠された砲口が後方、キンバレイへと向けられる。絶対に外さないであろう射程、構え、吐き出される砲弾の特性。 通常のままにそれを受ければ、決して容易い戦況でないことは十分理解できたろう。 「……あなた方はまだ人間であるのですね」 「何が言いたい。亡霊に人や否やと問うのか、貴様は」 双鉄扇を重ね、正面から弾いた『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)の声は低い。 少なくとも、何もかもを捨てて亡霊に成り果てる人種ではなかったということだ。彼女にとってそれは、人であるということの証左でしかなかったのだ。 だから、戦うに相応しく挑むに正しい敵である。止めるに十分な相手であるのだ。 激戦の背後、血まみれの男が掲げた指先で、月は赤く輝いていた。 ● 敵方の神聖術師の能力は、アークのそれと比肩しても決して弱敵といえる類ではなかった。 だが、彼らの予測や試算を超えたのは、リベリスタ側の過剰とも言えるそれへの集中攻撃の布陣であったと言えるだろう。 元より『防衛網』への守りを偏重させた代償として手薄にならざるを得ない後衛に対し向けられた火力は、彼らの予測を軽々と上回り、屈せざるを得ない状況へと追い込んだのだ。 精鋭兵の数は、決して多くない。起動要員が与えた守りが無ければ、或いは力差で押し切られていたかもしれない。 「………ッアぁァ!」 「なっ」 ソラにより体力も、或いは魔力も奪われていただろう覇界闘士が吼える。おそらくは瀕死の域に達している身に鞭を打ち、速度に任せた乱打を見舞う。狙いはソラ――のみならず、巧妙に角度を変えて打ち込まれたそれは、『背後』のリコルをも巻き込んで貫いた。 遠くの相手だからこそ、か。打ち込む位置を巧妙にずらし、諸共に狙える位置へと叩き込んだのだ。 回避に回れれば、まだ救いはある。だが、リコルはキンバレイを守らねばならない。受け止めきらねばならないのだ。 「く、ぅ……! こんな時に、運の悪い……!」 更に、赤い月の因果が彼女を襲う。受け止めきれる筈の一撃が守りを避けその身を直接穿つ感触は、運の善し悪しのみで語れぬほどに劣悪だ。 だが、耐える。耐え切れる。最後の一歩を踏みとどまらせるのは、彼女の『自分自身への』意地だ。 背負ったからには、傷つけるわけには――そこで、飛び込んでくる閃光に一瞬、彼女の意識が飛んだ。 「テメーらに俺を止められるか?」 「残念だな若造。止めるなど対抗心に狂った愚図がやることだ。お前諸共倒してしまえば優先順位に悩むなど有り得ん」 「そうかよ……なら、やってみやがれ!」 勢いに乗って放たれたクロトの一撃を、起動要員の男は真正面から切って落とした。彼の狙いの止めるには至らないにしても、挑発が容易では無いことを印象付けるには十分な視線を彼に突きつけ苛立ちを深めることぐらいは出来ようか。 正面からの斬り合いになればクロトが優位。だが、決定打の一つ一つが自らに跳ね返る苦痛は、決して無視できるものではない。無論、他のリベリスタも等しく味わう苦痛ではあるが……。 「……っとお! 何だその冗談はァ!」 「そちらのほうが冗談じみてますよう。首ごと切り落とそうと思ったのに」 爆発の中から突き込んだカード束を、ほんの僅かでも逸らされるというのは黎子にとっては意外という他なかっただろう。 起動要員の傷は徐々に増えてはいるが、それ以上に彼らの意識の高さは厄介と言える。 作戦の要衝を任されているという責任感の大きさが、彼らに慮外の実力を与えているに等しい状況。数度斬り結べば首を落とせそうな相手が、強力な守りと自らに威を返す加護を得ている状況。 死兵に等しい覚悟の重さは、打ち合うには余りに厄介だった。だが、それを感じているのは相手とて同じ。全力で刃を奮っても毛ほどに迫れぬ相手の『死』は、自らに突きつけられているかのようでもあり。 「自分達も引けません。だから、進ませてもらいます」 距離があったにも関わらず、はっきりと聞こえたその声が死神のようにも感じた彼は、次の瞬間に叩きこまれた火炎弾に腹部を貫かれ、動きを止めた。 「アークめ、常ながら忌々しいにも程があろうが……!」 「許せない、相容れないのは私達も同じです。だからあなた方を倒すのですから……!」 怒りを抑えず吐き出された砲弾を正面から打ち上げ、佳恋の腕がその威力に痺れ、蹈鞴を踏む。 返す刃で手近な起動装置に振り下ろさんとした刃が止まり、目的には届かない。だが、その功罪とでも言うべきか。現状をより確実に視野に収めることを彼女に容認する。 時間にして百秒を超えた。起動要員の残存が確認されるが、現状ではアーク優勢。『防衛網』の破壊だけに断じれば、そう困難ではない範囲で可能かもしれない……そう考えた途端、彼女の背を寒気が襲った。直感にも似た、それだ。 「キンバレイ様……!?」 悲鳴にも似たそれを発したのは、リコル。間隙を強いられた意識は、それから抜け出せば実にくだらない……感情に絆された形で相手の間合いへ踏み込み、守りを疎かにしてしまったという事実。 本来ならそう係ることは無いであろう策に嵌ったのは、それほどまでに相手が必死だったということの裏返しでもある。 回復力が恐ろしくとも、瞬間火力が慮外であれば話は全く違ってくるだろう。つまりは、倒れ伏す彼女が明確な『証明』であったに過ぎない。 立ち上がれぬ相手は守れない。であれば、未だ立つものを守らなければ、と。 (未来の奪い合いという側面で、わたくしより幼い命が奪われるのは黙っていられませんね……) 「ダメじゃない、大事なものを丸腰にしちゃ、アハッ♪」 狂気的な笑みを浮かべ、只管に攻撃を繰り返すエーデルワイスは、しかし戦場に立つフィクサードが止める術はほぼ喪ったに等しかった。目の前を護ることに必死な者にとって、自由に動き回るメンバーが多いことがそもそもの危機。 頭数が確実に減っている自分達が止めるには一人一殺以上の精度が求められ、それ以上に『護る』ことに要点を置く自分達がそれをなし得るとはとても思えない……そう、これは既に『詰んだ』戦いに等しい。 ……であれば、どうする? 「…………曹長、お達者で」 息を吸う音、吐き出す音と共に打ち据えられた一撃は、佳恋を起動装置に叩きつける。大きく弾かれた彼女は、攻略すべき対象に『敵の方から送り込んだ』という事実に目を瞬かせ、次の瞬間にその意図に思い至った。 「つくづく度し難いことを言うな、貴様等は」 フランツは真上へと砲口を向ける。周囲に渦巻く魔力量が、その一撃の威力を否応なしに理解させる。……彼の一射で全てが終るとは思えない。これは最大最悪の『嫌がらせ』に他ならないのだろう。 その証拠に、既に彼の重心は若干後ろへ傾いている。 ……リベリスタ達が、それに対処していないなどありえない。彼が多少の無謀に出ることぐらい、既に読んでいた。 「悪足掻きにしては遅すぎませんか? もう少し上手くやればいいでしょうに」 「我々は馬鹿げている程度で丁度いいのだ。『防衛網』の代わりに貴様等の命をいただけばそれで構わん。元より足止めが狙いなのだからな」 その男はどこまでも馬鹿だったのだろう。馬鹿正直に自らの役割を果たすことに固執した結果、どこにも至れないままその力を吐き出すだけの神秘装置。七十余年の敗北者の歴史は、優等種の日々は、『そんな戯言』のために費やされてきたのだろう。 黎子の全霊をして、彼を止めることは出来ない。だが、それで構わないのだ。破れかぶれの無謀に出た時点で、彼を於いて親衛隊は倒れ伏した。程なくして壊滅が成る装置の寿命を自ら縮めるというのなら、止めるだけ無駄というものだろう。 「倒してみせるわ」 「やってみせろ。……私の一撃を生き抜いてからな!」 天に吐き出された雷轟は、一瞬の間を置いて次々と地上へ突き立っていく。正に神の雷に等しいそれを嘲るように、ソラの指先が突出される。 その指が動くのと入れ替えに振り下ろされたのは純白の長剣。精気を奪い命を刈り取る連撃は、彼をして笑いを禁じ得ないほどに……強力だった。 「ここで止まれぬのは我々とて同じだ! 貴様等を残らずここで押し留め、我らの悲願を達成させ――」 「わたくし達も負けられません。故に貴方を倒してすすまなければなりません」 誰より、大切な人々の未来の為に。その言葉を飲み込んだリコルの鉄扇が振り仰がれ、叩き込まれる。砲塔を構え受け止めたその間合いには、既にクロトの姿がある。 「今の俺の全力だ、凌いでみやがれ」 「来い、下らぬ一撃なら全て叩き落とす迄だ……!」 血とともに吐き出した言葉には、鬼気迫る重みがある。無傷とはいかぬクロトとて、それは同じ。砲弾と刃の交錯は、彼らが思うよりもずっと……紙一重のままに、切り拓かれた。 ● 半分に切り落とされた砲塔からこぼれ落ちた砲弾は、フランツの人生を象徴するかのようだった。 爆発はした。ほんの小さな炸裂だったが。 残骸は残った。みっともないくらい、乱れた姿で。 声はない。 『防衛網』起動装置を覆っていた赤い光も今はない。 赤い夜は、その意味合いを超えて、まだ終わらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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