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<侍伝導>人斬り悪堂、抜刀大活劇!

●誇り低き悪
 人間が真っ二つになる光景など、別段珍しくもないでしょう。
 なに、神秘界隈で長いこと生きていればよく見る光景です。
 なにせ我々フィクサードも高度化が進み、歯牙にもかからなかったリベリスタたちも最近では人外魔境に片足を突っ込んだと聞くではありませんか。
 しかしどうです。
 三十人近い屈強な男たちが一斉に左右真っ二つになるなんて光景は、そう見られるものではありません。

「なンだァ? 強ぇ猛者どもが勢揃いだってェ聞いて来たら、口先だけの木っ端リベリスタどもじゃねえのよ。おい姉ヶ崎、テメェの情報網ってのはなんでこう中途半端なやつばっかり引き寄せんだい」
 爪楊枝をがじがじと噛む、はげ頭の初老男だった。顎に無精髭をたくわえ、紅葉模様の甚兵衛をひっかけている。様相だけを見るなら休日の散歩といったていなのだが、彼の周囲がその印象を裏切っていた。
 いや、ぶった切っていた。
 半数は左右真っ二つ。もう半数は上下真っ二つ。中の少数は上下左右に分割された後斜めにスライスされていた。
 人間が。
 リベリスタが、である。
 ならば男は巨大な剣でも持っているのかと思いきや、彼が握っていたのはなんと『十手』であった。
 およそ三〇センチ、手元に鈎のついた金属製の棒とも言うべき武器である。
 驚くべきことに、ことここに至るまでの惨劇(もしくは斬撃)はこの十手を用いて行なったものである。
 そんな彼に顎を向けられ、黒めがねの男(姉ヶ崎というらしい)は苦々しげに唸った。
「悪堂さん。あなたの強さはその十手型アーティファクト『枯山茶花』によって急激に底上げされたものであって、あなた自身の強さではありません。先程もリベリスタたちに『道具の力に頼ってるようじゃ半人前』だの『強い力を手に入れて調子に乗っている』だの『武器がなければただの雑魚』だのと散々ののしられていたじゃないですか」
 姉ヶ崎は眼鏡を直すと、着々と帰り支度を始めた。
 対して、あからさまにボケた顔をする悪堂。
「バァッカじゃねえの? それ言わせるために持ってんだろうが。テメェこそ何度説明したら分かってくれんのよ、こちとら『悪』をやってんの! どーしょもねークソ大人がどーでもいー理由で大事で貴重な命をバカスカ奪ってんの! 義理とか道理とか倫理とかそういうんじゃねーのっ! でねーと意味がねーの! わかったかー?」
「はあ、分かりませんが。それより後ろ、敵生きてますよ」
「あァ?」
 姉ヶ崎に指をさされ……つつも、悪堂は渾身のとぼけ顔でハナクソをほじっていた。
「隙を見せたな。貴様の余裕が仇とな――」
 恐らく全力で、それも命がけで振り下ろされたであろう剣が、後ろをむいたままの悪堂に受け止められていた。例の十手によってである。
「うっせボケ。カッコつけてんじゃねーボケ。中学生かボーケ」
 振り向きざまにキック。足手の膝を骨ごとへし折り、体勢を強制的に崩す。更に十手を斜めに切り下ろし……相手をすっぱりとスライスして見せた。
 指にくっついたハナクソをぴんと飛ばす悪堂。
「そんで? 次は目星ついてんのかい?」
「……はあ、ええ、面倒なので大御所呼ぶことにしました」
 そう言って、相手に送るための手紙を開いて見せる姉ヶ崎。
 書かれた『アーク』の文字を見て。
「ふーん」
 悪堂はミミクソをほじりはじめた。

●悪堂・源下
「昨今リベリスタ組織を無差別に攻撃、時には壊滅させているフィクサードがいます。名は悪堂・源下(あくどう・げんげ)。上級ダークナイトとみられ高い戦闘能力を有しており、更に戦闘力を純粋に底上げするアーティファクトを所有していることで歩く破壊兵器と化しています。彼を『とめる』ことが、今回皆さんの任務となります」
 眼鏡の男性フォーチュナ抑揚の無い声でそう言った。
 とめる、という言い方をあえてしたのは、場合によっては殺す必要が無いという意味ではあるのだが、あくまで『最低限の成功条件』を提示しているに過ぎない。
「正確には『今現在行なっている無差別攻撃を停止させる』ことですね。最も単純な方策としましては、囲んで徹底的な攻撃を仕掛けて殺すというものです。まあ当然ながらかなり大きな被害を見込む必要はありますが、最も単純な作戦になるでしょう」
 とはいえ。
「皆さんも場数を踏んだリベリスタです。皆さんなりのやり方や、考え方もあるでしょう。結果さえ出るのであれば、やり方はお任せします。幸いこのようなお誘いがきていますしね」
 そう言ってフォーチュナは手紙をデスクに置いた。
 要約すると『これこれこの時間にここへ来て戦わなければひどいことをする』という文面である。あまりやる気というものが感じられないが、この場合の『ひどいこと』は民間人の無差別殺戮やなにかなので、放置するには危険だった。それに、相手の出現場所と時間がはっきりしているならどうとでもなろう。
「相手の戦力についてはメモにまとめています。あとは、よろしくおねがいしますね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 9人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月29日(月)23:20
 八重紅友禅でございます
 戦うだけが能じゃないが
 戦うだけもまた能でございます。

●悪童・源下
 上級ダークナイト。スキルは大体取得済。他ジョブの初球スキルにちょっと手をだしていますが、まあちょっとです。回復手段や何かを整える程度ですね。
 ただアーティファクト効果でめちゃくちゃ強いので、ガチで戦う際はけっこうつらいと思います。
 スペックは全体的に高いですが、まあ比較的回避や命中に振ってるかな、という感じで、基本地力に頼るタイプの強さです。

 最低成功条件は彼の無差別攻撃を止めることです。
 更に上のラインを目指すには、『戦い方』や『挑み方』にそれなりの工夫が必要になるはずです。

 以上です。
 よろしくおねがいします。

※<侍伝導>はカテゴリータグです。同名の依頼と直接の関係はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 9人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
マグメイガス
綿雪・スピカ(BNE001104)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
プロアデプト
離宮院 三郎太(BNE003381)
ソードミラージュ
セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)
ソードミラージュ
鹿毛・E・ロウ(BNE004035)
クロスイージス
リコル・ツァーネ(BNE004260)
スターサジタリー
三影 久(BNE004524)
クロスイージス
ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)
   

●悪堂源下の悪行三昧
「あーりさんとあーりさんがどんぶーらこー……っと、あーれ歌詞ちげえかな」
 無精髭をはやした初老の男。人斬りフィクサードの悪堂源下は、地面にウンコ座りしてペットボトル飲料を垂らしていた。足下にあるアリの巣へである。
「ねえ、何やってんの」
 両手を腰の後ろで組んだ『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が、彼の背中に問いかける。
「見りゃわかんだろホレ、アリの巣にコーラ流し込んでんだよ。大混乱なの、まじうけるー」
「もしかしてだけど、『ひどいこと』ってそれ?」
「あァ?」
 ボケっとした顔で振り返る源下。
 ウーニャはネコのように目を細めると、片眉だけを下げた。
「ね、あなたどうして悪になったの? 私もね、悪い子だと思う。いい子は武器なんてもたないし、人殺しなんてしないから。そこへくるとおじさん、悪っていうより悪童って感じね」
「そんなもんかねー。で、やんの?」
 ウンコ座りしたままの源下を囲むように『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)たちが近寄ってくる。それも広くとった輪を詰めるような動きだ。
「退屈していたのかしらおじさま? なら私たちと遊ばない? 少なくともそこらのリベリスタよりは満足してもらえると――」
「おっぱい揉ませてくれんの」
「……は?」
「だから揉ませてくれんの?」
「応える必要はありません! 破廉恥な……!」
 ファイティングポーズをとる離宮院 三郎太(BNE003381)。
「自らを悪と認めながらも非道の限りを尽くす男!」
「その非道を止めるのがわたくしたちの役目でございます」
 もう一方で『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が両手首を絡めるように頭上へ掲げ、畳んだ二枚扇子を重力に任せて展開した。
 クジャクが紋様羽根を広げるがごときその様は、まさに戦闘開始の合図……であったが。
「あー、いっけねえんだー。人に危ないもん向けてやんの」
 源下は未だにウンコ座りしたまま鼻くそをほじっていた。
 敵に囲まれ、武器を抜かれても尚である。
 乾いた舌打ちをする三影 久(BNE004524)。
「人を人とも思わん奴が人を語るか」
「これまでのこと、とてもゆるせるものじゃありません」
 数歩下がって距離を整えつつ、『不倒の人』ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)は中東訛りの入った日本語でそう言うと、神秘の力を全身に漲らせた。
「ゆるせない? いやいや、ここは殺すとこでしょー。生かしておく理由なんかあるンです? ま、どーでもいーですけども?」
 かちゃりと刀を握り込む『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)。
 空をぼうっと見上げた源下は、ようやくにして立ち上がり、空になったペットボトルをポイ捨てした。懐から十手『枯山茶花』を取り出す。
「やっと抜いたか」
 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)はコキリと首を慣らすと自らも剣を抜いた。
「強い武器が欲しいのは誰でも一緒。戦い方にもツッコミはない。ただ、ムカつくよな」
「ほんならどうすんだよ。前置きがなげえんだよボーケ」
 指にくっついた鼻くそをピンとはじき飛ばす源下。その直後、ツァインは一気に間合いを詰めた。
「畳みかけて、潰す!」
 ツァインが全力で斬りかかった時には、反対側のリコルが流れるような動きで鉄扇を一本まとめ、両サイドから首を刈るかのように繰り出した。
「あらよ」
 ちょいっと最低限の動きで身を屈める源下。頭上スレスレを通った鉄扇と剣が、リコルとツァインの鼻先を通過した。
 二人の武器が、時計でいうところの12時と6時を示した丁度その瞬間。3時の方向へ三郎太が、9時の方向へ久が回り込んだ。
 今更言うまでも無いことだとは思うが、貫通攻撃への対応陣形である。
「ボクに少しの時間を――かならず当てて見せます!」
 指を鉄砲型に組むと、三郎太は神秘弾を連射。
 その反対側からは久が手裏剣を鋭く投擲した。
 それらは見事に源下の手首と十手に命中した。
 てこの原理でぽっきりと手から抜ける十手。
 久はさらなる投擲を十手へと当て、遠くへとはじき飛ばす。
「うあー、しまったー。大事な武器がー」
「――アァ?」
 さすがの久も怪訝に思った。
 というか馬鹿かと思った。
 よほどやる気が無い限り、どれだけ攻撃されても手元から武器が外れたり、もしくは壊れたりということはない。
 ないのだが。
「今です、一気にしとめま――」
「嘘でーす。はい馬鹿ー」
 源下はわざとベロを出してアホづらを晒すと、自分の足下めがけてディメンションホールを展開した。
「自分を巻き込んで黒死病!? それこそ馬鹿か!」
「――っ!」
 母国語を早口に述べ、ブレイクフィアーを展開するルシュディー。
「うしろはおまかせください」
 疫病の種を浴びせかけられたリコルとツァインの以上状態を多少なりと軽減させるのが狙いだというのは、言うまでもあるまい。
 そんなことをやっている内に、ロウが素早く間合いへ侵入。高速の斬撃を叩き込んだ。
 抜かれた刀が弧を描いて光……らず、途中でバキンと強制カーブした。
「おっと?」
 いつのまにか手元に握られていた十手で弾かれたのだ。
 だがロウはカーブした刀を更に直角にカーブさせ、ジグザグな軌道で源下の肩を斬りつける。
「どっちが勝とうとこの世から神秘がひとつ消えるだけ。あー素晴らしい素晴らしいっと!」
「あいたたた、いてーよおかーちゃーん。皆がいじめるよー、つって。でっへっへ」
 言って、十手を変な方向へ構える。
 ツァインでもリコルでもロウでもなく、その間を空振りするかのような位置へ向け、黒螺旋をぶっ放したのだった。
 そちらには誰が居るのか? なんとウーニャ『だけ』である。
「わ、っと」
 まさか自分狙いとは思わずとんとんと後じさりしながらトランプカードを翳した。黒い光が放射状にはじけ、一部がウーニャの頬や腹をえぐっていく。
 それも構わず、彼女はぱらりとカードを五枚扇状に広げた。ちなみに全てジョーカーである。
 三枚ほど抜いてドロー。
「スピカちゃんよろしくぅ」
「え、っと」
 スピカは少しだけ考えた後バイオリンの棹を小刻みに引いた。展開した天使の歌がウーニャやツァインたちに染みこんでいく。
 なぜここに至るまでに悩んだのかと言うと、回復する必要があるのかどうなのか、非常に微妙だったからだ。たいていの場合『手遅れ』になる前に回復しておきたいものなので、手が空くことはあまりないが、どうも源下からやる気が感じられない。殺意が感じられないとも言う。
「ねえルシュディー、これ……」
「いいえ、わかりません」
 言わんとしたことは察したのか、小さく首を振るルシュディー。
 リコルも何となく察したのか、鉄扇を広げた防御姿勢のまま問いかけた。
「今まで相手された方はどれくらい保ちましたか? わたくし共は今までの方と違い、最後まで生き残ってみせましょう。もし全うできた曉には一般人やリベリスタ組織への無差別攻撃をやめ、わたくしどもを敵と認めてくださいますか?」
「あ、なンだって?」
 手を耳に当てる源下。久がその後を継いで口を開いた。
「ここまでやっておいて、新米の俺すら両断できないんじゃ大したことねえんだ。アークはお前を危険度低しと判断したんだよ。残念ながら猛者はここにはいない。お前は半端物相手の訓練相手だ」
「あ、なンだって?」
「お前、おちょくってるのか?」
「あ、なンだって?」
 今度は十手を持った小指で鼻をほじり始める源下。
 イラッときた久は手裏剣を投げつけてやった。小指が刺さりすぎたのか鼻から血を流す源下。
「鼻痛った」
「聞け、半端者の相手より、もっと強い俺たちと付き合っていろと言ってるんだ」
「はー」
 無論。このような会話をしている間は全員正座して大人しくしているなんていうことはない。それこそ死ぬ気で、もしくは殺す気でロウや三郎太たちの攻撃が続いていた。
 それを源下は、あろうことか片っ端から避けたり弾いたりしながらこのボケ顔をさらし続けていたのだった。かなりムカつく余裕である。
 唇を突き出すウーニャ。
「強い敵と戦いたかったらアークに来ない? 戦闘相手が誰でも変わらないし、人のいいなりならアークでも一緒よね?」
 などと言いながら、ウーニャのブラックジャックと、三郎太のピンポイント射撃と、久の手裏剣と、ツァインの剣と、ロウの刀と、リコルの鉄扇が一斉に襲いかかる。
 源下の目元にかかる影。
 そして。
「やだ」
 渾身のボケ顔で鼻をほじりながら、ウーニャの放ったカードを首の動きだけでかわし、三郎太の神秘弾と久の手裏剣を腕の動きだけでかわし、ツァインとロウの斬撃をのけぞってかわし、振り下ろされたリコルの鉄扇を腹筋で受け止めた。
 で、もう一回言った。
「やだ」
「な――」
「別におまえらの強さとかどーでもいーの。戦闘とかどーでもいーし、お前が死のうが知らねーの。第一本当に腕の一本でもぶった切っちゃったらお前どうすんの? 死ぬの? 知らんけど。俺ぁな、改めて言っとくけど――」
 そこまで言うと、空振りによって交わりかけたツァインとロウの剣を十手の鉤で固定すると、ぐりんと強制的に捻ってリコルの首へと突きだした。咄嗟にバックステップをとるリコル。その瞬間に無明の闇を発すると、自分の身体を含め周囲一帯の全員をめちゃくちゃに切り裂いた。
「『悪』をやってんの!」
 どういう身体機能を使ったものか、源下はバネ仕掛けのように跳躍すると、ルシュディーめがけて手のひらを翳した。ディメンションホールが僅かに開く。黒死病だ。誰かに庇って貰えるわけでなし、こんなものをマトモに食らったらただでは済まない。
 と、その時。
「悪を裁くは天の雷、食らいなさい――セブンスレイ・シャンパーニュ!」
 それまで姿を見せなかった(本当に姿を見せなさすぎてバックレたのかと思った)『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が高高度から急速降下しながら突きを繰り出してきたのだった。
 それは跳躍中の源下の右腕を肘の辺りからぶっつりと切断するに充分であり、源下は絶望的な表情でセラフィーナに顔を向けた――と思ったらブフォっと吹き出した。
「ぎゃー気付かなかったー! やられたー! 頭上でいつまでもぼさっとしてる上にばかすか風音慣らして落っこちてきた奴に全然気付かなかったー! うへー!」
 腕が千切れたというのにアホみたいにげらげら笑い、発動直前の黒死病をセラフィーナへと超至近距離でぶっ放す。
「っ――!!」
 疫病まみれになったセラフィーナが地面をごろごろと転がる。
「な、くっ……」
「あのー、僕がいうのもナンですけど待ちすぎですよ。あと気配でばれるんで奇襲できてません」
「そう、なんですか?」
「いや後半のはなんとなく言ってみただけです」
 体中をずたずたに切り裂かれたロウが、平気そうな顔をして言った。
 一旦遅れて、十手を握ったままの右腕がぼすんとセラフィーナの足下へと落ちてきた。
 慌てて踵で蹴っ飛ばし、三郎太たちの方へやる。
 セラフィーナは刀を構え直して源下へ向けた。
「悪堂さん。人を斬ればこうして狙われいつかは殺されます。命をかけてまで人斬りをする理由があるんですか」
「あ、なンだって? ……って腕ねえや、だみだこりゃ」
 右手を耳に当てようとして、源下はげひょげひょ笑った。
「…………」
「『命をかけてまで人斬りをする理由があるんですか』だってー、ぶひょひょ! バァッカじゃねーの?」
 して。
 とん、と。
 足を踏み出した。
 途端。
 源下はセラフィーナの背後に立っていた。
 耳元に唇がつくかのような。
 そんな距離に。
「――!?」
 振り向こうとした顎を、腕を回して固定する源下。
「おまえ『悪』を舐めすぎだろ」
「いみがわかりませんっ!」
 有効な攻撃手段があるわけではないが、警戒のつもりで手を翳すルシュディー。神秘界隈でこの動作は銃を突きつけるそれに等しい。弾が入ってなかろうが内部構造が空っぽだろうが意味はあるのだ。
「あくは、せいぎにたおされる。子供でもしってるおとぎばなしです」
「じゃあ『悪』って何よ?」
 ぎろりと見つめられ、ルシュディーは口をつぐんだ。
「それは」
 古い話をする。
 ユダヤ国家とアラブ国家が人種や利益など様々な理由で対立し、パレスチナを中心に激しい殺し合いに発展したことがあった。それは中東戦争と呼ばれ過去四度に渡って尋常では無い数の人間が死んだが、その際にお互いが主張した悪は双方同様であり、正義もまた同じであった。
 今一度考えるべきだ。
 悪とはなんだ?
「あなたは……なにをしようとしているんですか」
「さー。少なくともお前らの目撃とか主張とかはどーでもいーわな。その『枯山茶花』もどうすんの」
「んっんー……」
 セラフィーナはなんとなくウーニャの顔を見たが、指をこすり合わせたままそっぽを向かれてしまった。
 一方で周りの空気を察するためにスピカが視線を巡らせるが、分かっているのはロウが『セラフィーナさんごと斬ったら怒られますかねー』とか呟きながらニヤニヤしていることくらいである。
 会話とかどうでもいいからさっさと殺したいという様子だが、それはとりあえず待って貰おうと、スピカは思った。
 一方でリコルと久は丁度良く攻撃できる位置を取ろうとじりじりすり足していた。厳密なことを言えば、別にセラフィーナをよけて源下だけ打つのは難しくない。彼らの命中率据え置きの部位攻撃は、相手の手元ばかり撃って若干避けやすくするためだけのものではない。いや、言うほど避けやすくはなっていないが。
 同じように狙いを定めながらも落ちた右腕へと近づいていく三郎太。
「その存在は、よくないですね。壊せないなら持ち帰って、アークの研究に役立てて貰いましょう」
「なら俺が」
 ツァインが腕を拾い上げ、手から十手を引っこ抜いた。
 なんとまあ軽い十手である。手の中でくるりと回せば、それは身体によくなじんだ。百年前からずっと使っているかのような心地だ。
「ったくこんなモン振り回して。世の中にはなぁ、竹槍だの机だので互角にやり合うやつがいるんだよ。ミソスープで顔洗って出直してき――な!」
 ツァインは。
 その十手『枯山茶花』を。
 三郎太を左右真っ二つにするべく全力繰り出した。
 なんと、自らの意志を持って、ごくごくスムーズにである。
「う――わ!?」
 驚きに身をすくめ、かがみ込んで頭を守る三郎太。
 が、思った衝撃は来なかった。
「ツァイン様、何をしようとなさろうと、しているのですか?」
「あのー、様子が変なんで殺しても?」
 瞬間的に急接近してきたロウがツァインの指を数本ぶった切り、更にリコルが彼の腕を肘関節からへし折った。
 十手が外れて床に転がる。
「あっ……ぐお……え、なんだ……? 俺、今、何した?」
「だぁから言ったじゃんボーケ。『悪』を舐めすぎだ」
 即座にスピカたちから回復を受け、腕をごきごきと修復するツァイン。
 事の次第を見て、三郎太たちは『枯山茶花』の実態を察した。
 後じさりして距離をとる。
「で、そいつは俺が持って帰っていいの?」
「だめでしょう」
 げし、とセラフィーナを蹴っ飛ばすロウ。
 顎から嫌な音がしたが、セラフィーナは我慢して身をひねる。
 瞬間、源下の額にカードが突き刺さり、喉に手裏剣が刺さり、繰り出した刀によって胴体がぶった切られた。
 物言わぬ死体と成りはて、地面へぶちまけられる源下。
 セラフィーナは死体を見下ろし、『枯山茶花』を見やり、どうしようか迷い、手を伸ばそうとした……ところで、声をかけられた。
「あ、触らない方がいいですよ。どことか『所持したい』とすら考えない方がいいですね」
 びくりと手を引く。
 振り返ると、黒めがねの男が立っていた。
 いつからそこにいたのか、さっぱり分からなかった。
「どうも。姉ヶ崎といいます。それは私が回収して持ち帰りますが、異論はございますか?」
「……」
 異論はありまくりだが、先刻のツァインを見た限りでは自分たちの手で持ち帰るのは難しい。四肢を切断して達磨状態にした人間に咥えさせて持ち帰るとか、そのくらいしか方法が思いつかない。というかロウがそんなことを口走ったので慌ててとめた。
 かといって放置すれば絶対に悪影響が出る。
「ご安心ください。私は別に悪用しませんので」
「そういうお前ごと拘束して持ち帰ってもいいんだが」
 構える久。
「やめたほうがいいですよ」
 えもいえぬ気配を放ちながら十手を懐に入れる姉ヶ崎。
「では、わたしはこれで」
 言うと、姉ヶ崎はその場から忽然と姿を消した。
 残ったのは死体のみ。
 着物に刺繍された『欄下十膳』の文字、のみ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 源下を殺害したことで目標が達成されました。
 あと『枯山茶花』がいかなるものか、姉ヶ崎が何者なのかさっぱり分かりません。いや、別に知ろうとしていないので当たり前ですが。
 なんにしろ目に見える被害はゼロです。
 おつかれさまでした。