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ノスフェラトゥの真昼の逃避行【代筆】

●運命に散った花
 ぽたり、ぽたり、雨音。
 娘ははっと身を起こした。
 ここは何処で、今はいつで、私は……?

 彼女の記憶に返り咲いたのは、死ぬ間際の記憶。
 勝てると思っていたリベリスタ達に討伐された恐怖、そして何よりも、死への恐怖を思い出した。
 そうだ。そうだ。逃げなければ。
 娘はかけ出す。どこへ行くとも知れずに。ゆくあてのないことも知らずに、ただ、ひた走る。
 この世界に、私の居場所はない。逃げなければ、また、殺される。

●奇跡に咲いた華
「先日、ノスフェラトゥのアザーバイドを討伐する、という依頼がありました」
 暑い日が続く中、冷房のよく利いた部屋で、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は今日も忙しくリベリスタ達に依頼の説明をしていた。
 フェイトの加護を得られず、帰る場所もなくしたノスフェラトゥの娘を討伐するという、なんともいえない依頼を、あるリベリスタ達がきちんとこなしてきたのは、少し前のこと。彼ら彼女らの尽力により、ノスフェラトゥの娘と、彼女と共にいた黒猫のアザーバイドは退けられた。娘はリベリスタ達によって丁重に弔われ、灰となって眠ったはずだった。
 そのミサという名の娘が、はっきりと理由は分からないが、フェイトの加護を得て再び目を覚ましたのだ。一度倒れるまでは、ミサはリベリスタ達と渡り合える戦闘力を持ち、果敢に戦っていたが、今の彼女は丸腰だ。そして何よりも問題なのが、と、和泉が資料を指す。
「彼女の恐怖心、『追われている』『殺される』という思念が、エリューションフォースを生み続けています」
 『監視者の眼』と仮称される、浮遊する眼球のようなその敵は、今でこそその数はフェーズ2が5体だが、この先もそうである保証はない。寧ろ、生前の彼女は非常に強固な意志を持っていたため、強迫観念もまた強く、このまま放っておけば無限にエリューションフォースを生み出すことになるだろう。
「今ならまだ、逃げ出したばかりの彼女はかつて住んでいた山奥の屋敷の近くにいます」
 山奥といっても然程遠いところではない。急いで駆けつければ、十分間に合うし、深い山でもないので、人里に辿り着く前に見つけることは容易い。
「彼女は極力人目を避けようとして行動しますが、どうにかして接触し、周囲のエリューションフォースを討伐してください」
 エリューションフォースは、ダークナイトによく似た攻撃手段を持っている。さらに、射抜かれた者を圧倒する光線を出すことができるという。
 それ以前にも、いろいろと問題があった。まず、当の本人であるミサを落ちつかせなければ、エリューションは次々と沸き続ける。しかし、ミサは一度リベリスタに討伐されている身だ。抵抗の意志もそうする余力も今の彼女に残されてはいないが、リベリスタの姿を見れば一目散に逃げ出そうとするだろう。恐怖に駆られた彼女が、そのとき更なるエリューションを生み出さないとも限らない。
「非常に困難な状況ですが、解決策はあります」
 彼女を落ちつかせることができれば、それ以上エリューションが発生することはない。また、もし彼女がしっかりと自我を取り戻したなら、武器さえ与えれば心強い味方となってくれるだろう。
 外は真っ昼間。うだるような暑さの中、リベリスタ達は急ぎ屋敷へと向かうのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月13日(火)22:46
 こんにちは、綺麗です。
拙作『ノスフェラトゥはパンがお好き』に登場したノスフェラトゥのお話となります。特に読まれていなくても問題ありません。

●成功条件
 エリューションフォースの全撃破
 ノスフェラトゥの娘、ミサの生死は問いません。

●敵
・エリューションフォース『監視者の眼』
 見た目は黒い体に赤い瞳の中二病めだまおばけ。
 フェーズ2が5体。ミサの恐怖心から生まれたもので、ミサをある程度落ちつかせない限り、1体倒すごとに1体沸き続けます。
 圧倒もしくは無力を与える遠距離単体目からビームと、ダークナイトの『魔閃光』『暗黒』に似たスキルを使ってきます。

●場所
 真っ昼間の山中で遭遇することになります。
 ミサは吸血鬼ですが、日中も問題なく活動できます。

・ミサ
 それなりの戦闘力を持つノスフェラトゥの娘。帰る場所をなくしたアザーバイドであったが、なにがしかの奇跡によってフェイトを得ている。
 彼女自身は、フェイトを得たことはおろか、この世界の理についてあまり知りません。
 恐怖心に駆られ、あちこち逃げ惑って既に傷だらけのぼろぼろ。
リベリスタ達に殺されたという記憶、自らが世界に受け入れられていないという事実が頭を支配し、エリューションを生んでいます。
 上手く説得することができれば共闘してくれますが、武器を持っていません。何か貸し与えるなり逃げているなりの指示を出せば、遂行する能力はあります。

皆様のプレイング、楽しみにお待ちしています。
それではよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
スターサジタリー
風宮 紫月(BNE003411)
ダークナイト
街多米 生佐目(BNE004013)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
ミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)
ダークナイト
★MVP
廿楽 恭弥(BNE004565)


 首筋に残る傷跡に触れながら『自称紳士』廿楽 恭弥(BNE004565)が漏らした溜め息は、普段の彼からは想像がつかぬ雰囲気を醸し出して居た。
「アークでの初めての任務……でしたか、遠い昔の様です」
 なぞったのは彼等が今から救い説得しようとする『ノスフェラトゥの娘』ミサが噛みついた牙の痕。
「彼女を救いましょう、『もう』争う必要はないのですから」
 木陰に隠れる彼の言葉を幻想纏いを通して聞いていた『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が吐いた浅い息はその少女のかんばせに浮かべた微笑からは想像が出来ない物だ。
 その体が『時』を止めたその時、嫌でも思い知った筈の神の気まぐれが、どうしてこれほど喜ばしいのか。
 何だ、たまにはカミサマだって良い事をするじゃないか――

「運命のカミサマはいつも気まぐれで」
 ――喜ばしくも悲しい『奇跡』を起こしていく。全く以って度し難い理不尽なカミサマだ。

 森の木々をがさがさと掻き分けながら『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は歩んでいた。森の中をしらみつぶしに歩む彼女は改造した巫女服に付いた木の葉を払い落しながらきょろきょろと視線をあちらこちらへと移していく。
「フェイトを得たのかぁ。ま、何があったのかしらないけどぉ」
 そう告げる彼女は何時も通りの間延びした口調で「あたしも鬼じゃないしねぇ」と戦闘狂でありながらも持ち合わせる良心をちらりと見せる。戦うならば準備が万全な相手でなければ面白くない。
 戦闘を待ちわびる様に獲物を探す狼の瞳を細めた御龍の幻想纏いへと凛とした声が響き渡る。
「――見つけました。みなさん、此方へ」
 声の主、『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は千里眼を駆使し、探索をより効率的にしていた。
 呼び掛けに反応したリベリスタ達から直ぐに向かうと言う返答が返ってくる。紫月は傍に顔を出した恭弥と海依音共に、怯えの色の濃い少女――ミサの顔をじ、と見詰めた。


 逃がさぬ様にと大きく回り込み、紫月はマイナスイオンを発しながら顔色の悪いミサへと一歩、近寄る。じり、と少女が後ずさるのが分かりその顔に浮かべた苦笑は紛れもなく本物だ。
「中々素晴らしい逃げっぷりですね、と褒めたくなりますが……まあ、一度足を止めて貰えると助かるのです」
 ミサがいやいやをする様に首を振り一歩引いた所に彼女と面識のある『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)がルージュを引いた様な紅い唇を歪めてひらりと手を振る。
「フェイトを得たのね? ならば貴女はこの世界に受け入れられたのよ。ようこそボトムチャンネルへ♪」
「な、何言って……っ」
「ここが貴女の第二の故郷とならん事を願って」
 エーデルワイスの言葉に戸惑った様にミサが視線を向ける。彼女の視線が向けられたのはミサではなく彼女が生み出すエリューションフォースだ。
 彼女を追い掛けるエリューションを止めるが為、エーデルワイスがミサの隣をすり抜け山奥へと走っていく。
「ご安心ください。我々は貴女を害する為に行動してるのではありません。傷つけるものから護るためにきたのです」
 ミサの恐怖心から生み出されると言う『監視者の眼』。裏方に徹すると言う『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)も同じく茂みから顔を出し、黒い体に赤い瞳を持ったエリューションへと相対していた。
 何処か人間と違う外見を目にして、『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は自身の長い耳を気にする様に指でなぞる。
(『ノスフェラトゥ』……。私達と同じ様に、此処とは違う世界の住人――アザーバイド)
 ぽつり、と言葉を零し、己が得た運命の加護を気にする様にファウナは呟く。フェイト、世界に居場所を得た経緯はよくわからない。世界に受け入れられはしても帰る術のない『生きる』彼女を捨て置く事はできない。
 同じアザーバイドとして気になるが、彼女の事は仲間に任せ、今は自分のできる事を。
 魔弓がキリ、と音を立てる。追いかける者が不安にさせると言うならば、その不安を取り除けばいい、ただ其れだけだ。
「少し、足を止めてはいただけませんか?」
 フィアキィを伴って、弓は氷精へと姿を変える。目玉を巻き込みながらその足を止めさせるファウナがちらりと振り仰げば、少女は『リベリスタ』に恐怖を感じ、その足を三人が囲んだ場所の開いた一点へと向けていた。

「失礼、お嬢さん」
 行き場をなくすように、わざとらしく現れた『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)の声が直接的にミサへと語りかけていく。
(異世界の迷子。何とも幼い仔羊か。それでは戯れに参りましょう。求めよ、さらば救われん)
 黒の書を抱いたイスカリオテの姿にミサが直接響く声に更に恐怖心を強くする。イスカリオテがミサへと語りかける言葉は敢えてシンプルなものであった。
『まずご理解下さい。貴女は確かに全力で逃げた。身形構わず恥外聞無く全てを、そう命懸けで逃げ続けた』
 恐怖を煽る様な問いかけにミサが小さく頷く。イスカリオテの狙いは彼女の世界を是か否かの二元論に落とし込む事だ。
 視線が、海依音へと向けられる。ミサの恐怖を得た瞳に、海依音が浮かべたのは優しさ、ただ其れだけだ。
「怖がらないで、逃げないでというには些か無理があるのでしょうね」
 囁きながら渡した『神の愛』。重なった紫月の天使の息がミサを落ち着かせようと、逃げ惑い傷だらけになった体を癒し続ける。
「混乱して居る所、申し訳ないのですけど、ね。お話しを聞いて下さい」
 説得を行う彼等を庇う様に立っていた御龍が纏った戦意。少女はそれに怯える様に体を竦めた。
 癒しながら、言葉を掛けてくれる人がいた。一生懸命に声をかけてくれる人がいた。足止めを行う面々から離れ、一人説得側でミサに相対する御龍に少女は怯えの色を濃くしていく。
『ほら、こうして追いつかれた。今更何所へ逃げるのです?』
 頭の中で、響くイスカリオテの声に少女の瞳が見開かれる。丸い瞳が、恐怖に歪み、一歩、一歩と下がっていく。
 恐怖を増長させるかのような言葉。
 自分を信じるか、信じないか。正しいか、正しくないか。ソレでは無い。
 生きたいか、生きたくないかを一点まで突き詰めれば良い。彼女の本心を、掴まなければ、ならない。
『我々からは逃げられない。判っていた事ではないですか?
 例え、我々が居なくとも貴女の恐怖が貴女を殺す』
「……わ、解らない。だって、貴女、私を殺す、つもりでしょ?」
 震える手が指差したのは震動破砕刀を構えた御龍だ。本人が仲間達の護衛をしていたとしても、戦闘意欲をむき出しにしたその様子に少女が恐怖を覚えるのも致し方ない。
「あたしはそんなぁ」
『はっきりと申し上げますが。私は、私達は貴女を救いに来た。勿論信じなくとも構いませんが』
 イスカリオテの言葉に少女が牙を剥き出しにする。鋭い吸血鬼の牙を見詰め、イスカリオテが浮かべたのは涼しい笑みだった。


「世界よ、私の欲望の前にその姿を歪めなさい。さあ、目玉を殲滅せよ! デストローイ☆」
 世界法則さえも捻じ曲げて、エーデルワイスが唇を歪める。浮かび上がる目玉がミサや説得組の方へ向かおうとする行動を阻害する様に彼女は縛り付ける。
 絶対絞首。丸い目玉を憎悪の鎖で絞め上げる。ノアールカルト、ルージュカルトがぱらぱらと広がった。
「裏方も大事だと言う事がよくわかりますね? ……っと」
 探る感情探査。それによりミサの心を探る生佐目は小さく苦笑いを浮かべ『怯えが強くなってます』と仲間達へと伝えていく。
 武器を持つ事は怯えさせる事かと生佐目は考え、武器を持たず、その身を盾に彼女等を護っている。
 行く手を阻む様に周囲を凍らせるファウナは祈る様に、説得組の動向を見守っていた。
 倒さぬ様に、細心の注意を払った攻撃に赤い瞳が血走りぎょろり、と彼女を見詰める。
「……生きている誰かを阻害するなど、許されませんから」
 だから、此処から先はいかせやしない。
 その言葉に頷いて、楽しそうにエーデルワイスが地面を蹴る。縛り上げる。トリガーハッピーが手にする鎖がじゃらりと鳴った。
 何時か、ミサと打ち鳴らした鎖を覚えている。鎖と鎖がぶつかり合うあの音に。気が狂いそうなほどの高揚に。
「ふふふ、残念、酷い目玉は此処でストップよ?」


「信じて頂ける事は難しいかもしれません。でも、世界の蝶愛を受けた貴女はこのボトムで――世界で生きる事が出来るんです」
 彼女達がミサと戦った時、彼女は運命の寵愛を得てはいなかった。不幸を呼ぶ黒猫の言葉を信じ、怯えから人を襲う事を決めた無知な少女だった。
 世界で生きていける? あの時、殺そうとしたのに――
 逃げ出そうとする腕を掴み、恭弥の掌が優しく、少女の手首を滑る。
「……ご無礼をお許しください。離せと言われても離しませんが私の腕を噛み千切ってお逃げする事を私は止めません」
 その言葉に、は、は、と高まる意識と同調する様に荒れる呼吸を整えさせる様に共に息を吐く。
 ミサの怯えにそっと近寄った紫月は安全靴でしっかりと土を踏みしめて「ミサさん」と呼んだ。マイナスイオンが広がる。言葉を与える事が大事だと、知っていたから。
「……殺すだけなら、躊躇なく行えばいい。何故対話を先ず試しみているのかを考えてください」
「油断させて、殺すの?」
 恭弥の手を振り払おうとする少女に彼の掌が優しくも力を強める。マイナスイオンに、優しい言葉に段々と静まる気持ちの中、海依音がそっと、彼女と視線を合わせた。
「あなたの大好きなパンももってきたわ。もう、ワタシ達はあなたを害することはありません。
 カミサマは貴方に生きる道をお与えになりました」
「……パン?」
 麓のパン屋は海依音達も訪れた事があった。ICレコーダーを駆使し、集めた彼等の言葉は何時か少女の心を救った物だ。
 其処に訪れた日常にミサが口をぽかんと開ける。今までは怯えていた彼女から段々と恐怖の色が薄くなる。
 それは感情探査を駆使する生佐目から伝えられる情報通りだ。青ざめていた顔色が、段々と、良くなっていく。
「とりあえずパンでも齧りつつお話ししませんか? 我々はお互い知らない事の方が多い」
「でも……」
「気まぐれなカミサマの愛に甘えてみるのもいいんじゃないですか?」
 ぎゅ、とその細い体を抱きしめて海依音があやす様に頭を撫でる。切り揃えた髪が海依音の掌からさらりと零れた。
 イスカリオテが施すインスタントチャージ。海依音と紫月の回復に気を落ち着けていくミサへとほっと息を吐く御龍。
「ミサさん。盲目の方に空の青さを伝える術を、私は知りません。空が青いという事実だけを伝える事は残酷です。
 だから、云えなかったのです。……運命に愛されていないからという事実だけ、付きつけるなんて」
 その言葉に海依音が腕を緩める。顔をあげるミサが恭弥をじぃ、と見詰めた。白い頬が傷ついている。痛々しいと眼を細めた彼がミサの胸へとハートを描く。
「今は、恐怖で心を閉じて見えなくなっています。ですが、今のミサさんには判る筈です」
「え……?」
「その胸に芽生えた感情が。それが『空の青さ』です」
 ゆっくりと伝えられる言葉に、少女は立ちすくんだまま、ぽろぽろと鳴き始める。ゆっくりと手を伸ばし、恭弥が少女の体を腕の中に招き入れた。
「……もう、大丈夫ですから」
 人間の体温というのは、どうして暖かいのだろうか。此処に来て、麓の人達は誰も優しかった。
 いい子だと笑ってくれた。けれど、触れる事を戸惑っていたのは誰だろう。
 ぽたり、と滴る涙に恭弥は小さく笑って、少女の頭を撫でた。あやす様に背を撫でた海依音が杖をぎゅ、と握りしめる。
「都合のいいお話しですが、ワタシたちお友達になれませんか? ミサ君。
 その前に、貴女の恐怖を全部なくしましょう。大丈夫、怖くありませんから」

 ――見て? こんなちっぽけな世界でもカミサマはワタシ達を祝福してくれるんですよ。

 カミサマの言葉を代弁する様に海依音が振るった断罪の光。数の増える事のなくなった監視者の眼が赤い瞳をぎょろりと向ける。
「オッケー? ここからが本気ってわけ!」
「ならせいぜい暴れさせてもらうとするかぁ。――外道龍様をなめるなよ?」
 振り仰ぐ御龍がそっと自身の武器をミサへと差し出した。説得は苦手だった。でも、戦う事はプロフェッショナルと自負する御龍の色違いの瞳に澱みはない。
「人生は戦いの連続だ。哀しい事も辛い事もあるだろう。だが、それ全てに勝たねばならぬ。
 我に主にやるパンはない。その代わり我の武器を仮想。威力は折り紙つきだ。さぁ、それで存分に戦うと良い」
 自分は『ステゴロ』でも何とかなる、と素手を打ち合わせる。
 一歩、前進し、ファウナが動きを止めた『監視者の眼』へと渾身の力を振り下ろす。生と死、全てを分かつソレ。
 重い剣を受け取った少女をあやす掌は彼女から離れた。瞬きを行えば、其処に吹き荒れる灼熱の砂嵐。
 ミサの前に立ち。彼女を守る様に立ったイスカリオテの指先が黒の書をなぞる。眼鏡の奥で瞳を細め、長い銀髪を揺らす彼の背に護られながらノスフェラトゥの娘は、じっと『自分を殺そうとした』者たちを見詰めていた。
「ミサ。久しぶりね? 貴女と鎖で踊るのも。あの時は互いに向けてだったけど……今日は違うわ。
 貴女がこの世界に受け入れられた記念に派手に撃ち鳴らしましょうか☆」
 唇を歪め、瞳を細めたエーデルワイスが楽しげに微笑んでカードを選びとる。勿論、死を告げる気しかないのだ。
 弾丸の様に飛ぶカードが真っ直ぐに赤い瞳を傷つける。加えて降り注いだ焔が砂嵐とカードに紛れ込む。
「立ち塞がる障害は、全て滅しましょう。……邪魔ですよ、貴方達」
 紫月の言葉に頷いて三/三/三を手に痛みの箱を作り出す。瞳を内包し、その動きを阻害した彼女が唇を歪め頷いた。
「ミサさん……『大丈夫』、ですか?」
 ファウナの火炎弾が降り注ぐ。伺う言葉にミサが頷いた。同じ異邦人。違う世界の住民に何処か安堵した様に少女は御龍の剣を握りしめた。
「申し遅れました、私はファウナ。貴女と同じ別の世界の住人です」
 今から助けます、と彼女は告げる。ファウナの周りをくるりと回ったフィアキィがその存在をアピールする様に体を揺れ動かした。
「ねえ、ワタシ、都合がいい事を言っても良いですか?」
「……えっと……?」
「貴方がここにいるのはもう一度やり直す機会を神が与えてくれたのかもしれない、と思うの。
 怖かった出来事をなかったことには出来ません。
 ですけどワタシはやり直したいと思うわ、貴方との未来を」
 世界の愛で持って黄泉還る。その奇跡を祝福するのにカミサマの力を借りるのはなんとも云えなかった。
 けれど、その愛を以って彼女を癒せたのは行幸だ。少しなら『最低』なカミサマを褒めてやりたい気持ちになる。
『やりなおしたい』と、その言葉があるから、きっと、信じられる。

 御龍が一気に踏み込み、仲間達の援護の中、最後の『監視者の眼』へとその拳を振り上げる。
 力一杯に、戦闘狂の顔を見せた彼女が頬を掠める傷を拭いにぃ、と唇を歪めて笑った。
 消えていく『恐怖の塊』にファウナが小さく息を吐く。ミサを気遣う様に近付いた海依音がそっと彼女の頭を撫でた。
 御龍の剣を握りしめたまま立ち竦むミサへとそっと近寄った恭弥が優しく微笑み声を掛けた。
「我等の居る三高平に来るか、屋敷に住むか……どちらにしますか?
 ああ、どちらにしても、今度仕事抜きでお会いしませんか? こうして会えた事も縁ですから」
 答えに詰まった様に少女は視線を逸らした。
 彼等の居る『三高平』――アークに自身が向かうか、それとも今まで通りお屋敷に住むか。
 もう、怖いものはないのよ、と背を撫でる海依音に、ミサは「お屋敷に残る」と小さく告げた。
 少女の戸惑いに、忘れていましたと軽く微笑んで、
「…申し遅れましたね。私は廿楽恭弥と申します」
「きょうや、さん」
 はい、と微笑む恭弥に続き、エーデルワイスよ、と顔を出した彼女はぐい、と何処からか取り出したパンを少女に差し出した。
「お疲れ様。とっておきのカレーパンをあげるわ。私の好物ってカレーなの」
 ミサの好物ってパンだよね、と海依音が彼女に手渡したパンを見詰める。頷いたミサが受け取り少し齧った後に直ぐに口を抑えた。
「ふふ、激辛なのよ。カレーパンはまさに私と貴女を繋ぐ絆の食べ物よ。多分」
(多分……?)
 また遊びに行くわね、と背を向けるエーデルワイスの隣、うん、と背を伸ばし暴れたぁと楽しげに笑う御龍がミサちゃぁんと間延びした声で手を振った。
「気分はどうぃ? あ、アークこないんだっけ? 残念、愛車のデコトラで送ろうと思ったのにぃ」
 からからと笑う彼女が「さぁ、帰ろうぅ」と仲間へと声をかければ、ミサの掌は自分のスカートをぎゅ、と掴み、気を強く持つ様にと力を強めていく。
 緊張した様に、あの、と囁く声。
 ノスフェラトゥの娘は真昼の逃避行を終えた。明るい日差し、うだるような暑さの中。
 被さる木々の下で少女は何処か高揚した頬のまま、囁いた。
「また、遊びに来て下さいね」

 待ってます、いつまでも。
 パンを用意して、皆さんの事、待ってますから。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 依頼お疲れ様です。
 代筆を担当させて頂きました、椿しいなです。

 心情依頼、前作の続きという事を考慮し、どの様に説得するかを一生懸命に考えられたプレイングばかりであるように思いました。
 少々、齟齬も見られる点もありましたが、足止めや説得方法はよい役割分担であった様に感じます。
 結果は上記リプレイ通りとなっています。

 MVPは少し迷いましたが、貴方へ。何よりも優しく、その身を張った素晴らしい説得でした。

 ご参加有難うございました。楽しんで頂けましたら幸いでございます。