●拳を合わせて 2人が盃を交わしたのは、もうどれくらい前だっただろうか。 その頃の2人は、戦に荒れた自分たちの世界に平和をもたらすことで、頭が一杯だった。そのために、義兄弟の盃を交わし、更にその上、魔術的な契約まで結んだ。 長い年月をかけて、2人は戦争を終結させた。多くの仲間が死んでいった中、2人は生き残った。 平和になった世界で、しかし彼らは悪役だった。 戦場の英雄も、平和な世では人殺し、ということである。 それでも2人は、平和の為に生きた。悪役なら悪役として、悪役なりの平和の守り方がある。 つまるところ、他の悪人の抑制。犯罪行為の制御である。 こちらの世界では、ギャング、とでも呼ばれていただろうか。 死んでいった仲間の為に。 自分たちの故郷の為に。 2人の拳は血に塗れ、2人の名誉は地に落ちた。 そんな2人のことを、2人の故郷は疎ましく思った。力を持ち、人望に溢れた悪人が邪魔になったのである。 そしてある日、2人の作った組織は、国によって滅ぼされた。 2人は再び、仲間を失くした。 命がけで守った世界に、二度も裏切られたのである。 2人は多くの傷を負い。 2人は多くの友を失い。 そして、辿り着いたのは、自分たちの世界とよく似た、別の世界であった。 この世界が、崩壊の危機にあることを2人は知らない。 2人の存在がこの世界にとって毒になることを、2人は知らない。 裏切られ続けた2人は、お互いのことしか信じられなくなっていた。 ●誰かの為のその拳 「ターゲットは、アザ―バイド(エボニー&アイボリー)。2人組みのギャングのような男達。外見はこの世界の人間に類似しているけど、身体能力は桁違い」 それ故、恐れを抱いた者たちから虐げられ、追い立てられ、この世界に逃げてくることになった。いくら強かろうが、多勢に無勢。数の暴力には叶わなかった。 そう告げて『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜め息を零す。 「最も、武器として持っているのは拳銃くらいのものね。それより厄介なのが、鍛え上げられた肉体と拳。疑心暗鬼になっているから、好戦的なのも面倒ね」 怒っている相手や、話を聞くつもりのない相手など、アザ―バイドには決して珍しくはない。 「命のやり取りをするつもりで臨んだ方がいいかもしれない。大人しく帰るつもりもないだろうし」 なにしろ、2人は元の世界に帰った所で、味方なんてどこにもいないのだ。それどころか、元の世界での2人は、お尋ね者である。 「まぁ、そう簡単に死ぬような相手でもないのだけど」 やれやれ、とでも言うようにイヴは視線を伏せた。 「2人が義兄弟の盃を交わしたのは、先にも言ったと思うけど。それだけでなく、2人の間には魔術的な契約が結ばれている」 その内容とは、命をシェアする、というものだ。 文字通り、一心同体。 「片方が戦闘不能になっても、もう片方が無事なら、自動的に蘇生するという契約」 残存HPの半分を、相棒へと譲り渡し復活させる、ということだ。 どちらかにHPが残っている限り、2人は戦闘を続ける。 2人共が死ぬか、倒れるまで、それは続くだろう。 2人の交わした契約とは、そういうものだ。 「どちらか片方から倒す、ということが今回は出来ない。HPも多いみたいだしね」 何度も蘇る相手との戦闘になるだろう。それなりの長期戦を覚悟してほしい。 「Dホールも破壊してきてね」 そう告げて、イヴは仲間たちを送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月31日(水)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ギャングスタ 男が2人、歩いている。スーツ姿で、渋い顔をした男達だ。肩で風を切りながら歩くその姿は、一般人のそれとは放つオーラの質が違う。事実、彼ら2人、(エボニー)と(アイボリー)の歩く道は、勝手に人が避けて開く。視線が合いそうになると、視線を伏せる者も多い。 「なぁ……。気付いてるか?」 白いスーツの男(アイボリー)が、相棒にそう囁く。(エボニー)は、大きな手を黒いスーツの懐に差し込み、「あぁ」と頷いた。 「付けてやがるな……。どうする? 撃って当たらねぇことはねぇと思うが?」 エボニーが懐で握っているのは拳銃だ。数々の修羅場を潜り抜けてきた、もう1人の相棒と言ったところか。 「いや、まだいいだろ。ちっとばかし、問い詰めてやろうぜ」 2人はスッと、表通りから外れて行く。 アザ―バイドと呼ばれる、異世界から来た住人である割に、2人はこの世界に馴染んでいた。 ●荒くれ者の平和的解決方法 「あの……。一般人を巻き込みたくないので、ですね」 エボニー&アイボリーの前に現れたのは、少々風変わりな2人の少女だった。オドオドとした様子で『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が2人の説得に入る。 無言で睨みつける男達の前に出て、既に少々涙目である。 「こちらへ。こちらの一般人を巻き込みでもしたら、また居場所が無くなってしまうわよ?」 こちらの一般人……。男達の目つきが変わる。薄ら笑いで凶悪なその視線を受け止めるのは衣通姫・霧音(BNE004298)である。 霧音とイスタルテが指し示す方向には、工場地帯があるはずだ。人気はなく、また少々騒いだところで、暫くの間なら人に見られる心配もないだろう。 「お前ら、何者だ?」 そう問うたエボニーだが、答えは返ってこない。オドオドとした眼差しと、冷たい笑みだけが、2人からの返事だった。 工場地帯でエボニーとアイボリーが目にした光景は、ある種異様なものだった。一般人とは違った気配を持つ、奇妙な集団だ。子供や女性も混じっている。 「まず初めに……。この世界は貴方達2人を受け入れることはできないの。そういう理だからね」 遠まわしに、元の世界へ帰れ、と告げる『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)。しかし、ギャングスタ達は帰るつもりがないのか、ウェスティアの言葉を無視している。 「………。帰るって? 何処にだよ?」 吐き出すように、アイボリーはそう言った。それを聞いて、『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は視線を伏せて、悲しげな顔をする。 「1度ならず2度も裏切られるなんて……悲しいですよね」 「わたしにだって、少しはわかるさ……世界がちがっても」 櫻子に続き、『ならず』曵馬野・涼子(BNE003471)も口を開いた。拳をきつく握りしめ、寂しげな眼差しをギャングスタ達に向けている。 元の世界に帰る気がないのなら、それはすなわち、戦いの開始を意味するからだ。 これ以上話すことはない、ということか、アイボリーが拳を握った。場の空気、とでも言おうか。戦闘の気配を察しての行動だ。エボニーも懐から拳銃を引き抜く。 「いいぜ、来いよ! 折角余所からご足労頂いたんだ、派手な喧嘩と行こうじゃねぇか!!」 拳を振りあげ『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)が吠える。 その瞬間、福松が動き出すよりも速く、エボニーが銃の引き金を引いた。弾丸が福松の腕を撃ち抜く。飛び散る鮮血が、地面を汚した。 「わりぃな、先手必勝。女子供にゃ手をあげたくねぇんだが……」 舌打ちと共にアイボリーが駆け出した。太い腕を振りあげ、福松目がけて振り下ろす。 叩きつけるように振り下ろされた腕を鉄扇で受け止めたのは『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)である。ガン、と硬質な音が響いた。 「わたくし達も世界を護る為に戦っております。それでも人殺しの誹りを受ける事はあります」 どこの世界にも、似た境遇の者はいるものだ。他人事とは思えず、リコルはそう語りかけた。 それに対し、アイボリーは苦笑い。拳と鉄扇が、激しく打ち合う。 「思うようには、いかねぇよなぁ」 真っすぐ突き出された拳が、鉄扇ごとリコルの体を吹き飛ばす。宙を舞うリコルの体。落下し、激しく地面に打ち付けられた。 「後ろは任せときな。アイボリー」 「いつも通りじゃねぇかよ、エボニー」 アイボリーに生じた隙。その隙を埋めるべく、放たれる弾丸。2人のコンビネーションはバッチリだ。 「どんな時も自分の命預けられる仲間か…イイなァ、羨ましいなァ、かっけェなァ! 力合わせて戦ってみたかったなッ!」 弾丸の中を突っ切って、アイボリーへと駆け寄る影が1つ。『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)である。牙を剥きだしにし、獣の形相で飛びかかった。 コヨーテの拳が火炎に包まれる。燃える拳を前にして、アイボリーは驚きに目を見開いた。 次の瞬間、コヨーテの拳が、その頬を捉える。 ミシ、という軋んだ音はアイボリーの頬で鳴る。コヨーテの拳を受け、頬骨に罅が入ったのだ。意識が薄れそうになるほどの激痛がアイボリーを襲う。 だが、倒れるわけにはいかない。ギリギリのところで踏みとどまり、カウンターパンチをコヨーテの顔面に叩きこんだ。 「……っぶ!? ぐ、この!」 コヨーテも負けじとアイボリーを殴り返す。殴って、殴られて。拳の応酬が続く。汗と血が飛び散る男同士の殴り合いを、起き上がったリコルは遠巻きに眺めているのだった。 弾丸の嵐。その真ん中を突っ切って進む涼子の姿があった。弾を避けず、その身で受ける。致命傷を避けるように最低限の防御姿勢はとっているが、それでも全身に銃創が刻まれていた。 血の滴を撒き散らしながら、しかし涼子は進路を変えない。ただただまっすぐ、愚直なまでに全力で、エボニーの眼前まで距離を詰めた。 「ちっ……」 突き出された拳と、エボニーの銃が交差した。涼子の拳がエボニーの胸に突き刺さる。それと同時に響くくぐもった銃声。涼子の腹から血が噴き出した。 腹を押さえ、涼子は踏鞴を踏んで後退。その隙にエボニーも涼子から距離を取る。 だがしかし、それは叶わなかった。背後に回り込んでいた福松の銃が、エボニーの背に突きつけられる。躊躇なく引かれた引き金。撃鉄の落ちる音。破裂音と、背中に迫る熱。次いで、死の気配。冷や汗を浮かべ、地面を転がり弾丸を回避。舌打ちを零し、跳び起きた。 視線の先には、にやりと笑う福松が居る。 「オレ達にはコイツしか無いんだろうな」 銃を掲げ、拳を突き出す福松。苦笑いを浮かべたエボニーもまた、懐からもう1丁の拳銃を抜きだし、左右に掲げて見せた。 銃口の先には、福松と、それから涼子の姿。 腹から血を流しながら、涼子は言う。 「さぁ、勝負しよう。わたしも、まだ生きてる……。命のかぎりは、戦おう」 「この世界に害が出るなら……放っておくわけにはいかないんだよ」 魔導書を開き、ウェスティアは言う。本のページから溢れだすのは、真っ黒い鎖だ。ウェスティア自身の血液が、鎖へと変化したものである。飛びだした鎖は、そのまま濁流と化して戦場へと流れ込んで行った。倉庫の壁を削りながら迫るそれを、エボニー&アイボリーは素早く回避する。 倒壊した倉庫が土煙りを撒き上げた。保存されていたのはドライアイスか。冷たい煙が周囲に撒き散らされる。 煙を突っ切って、イスタルテは空中へと飛びだした。 「居場所が欲しければ……私達から奪ってください」 空中から戦況を確認し、素早くそれを地上の櫻子へと伝達。瞬時に、2人で回復術を発動させた。 「痛みを癒し、その枷を外しましょう……」 そう呟いた櫻子。悲しげに目を伏せ、唇を噛みしめた。しかし、既に戦闘は始まってしまった。後は一刻も早く、この戦いを終わらせるために最善を尽くすだけだ。 特に、ギャングスタ達の戦いは、ここで終わらせてやりたい。 土煙りと冷気を、燐光が押しのける。暖かい光、淡い光だ。イスタルテと櫻子による回復術が、傷ついた仲間達を癒していく。 「回復出来んのか?」 「ぇ……?」 耳元で誰かの声が響いた。櫻子が視線を上げると、そこにはアイボリーの姿があった。ゴツゴツとした拳が、櫻子の鳩尾に叩きつけられたのは、その直後である。血を吐きその場に蹲る櫻子。土煙りに紛れ、接近を許してしまっていたらしい。 「きゃァ!」 頭上から悲鳴が聞こえた。降って来たのはイスタルテである。翼が赤く濡れているのは、エボニーの弾丸に撃ち抜かれたからか。血の雨と共に、イスタルテは落下。 「悪いな……。長期戦を楽しむような余裕はないんだ」 空薬莢を地面に捨てて、弾丸を入れ替えるエボニー。銃口を、イスタルテの眉間に向けた。 「元の世界に居場所はない。この世界でも、運命に愛されなければ世界自体に害を及ぼすわ」 囁くような声がする。鈴に似た女性の声。煙の中から現れたのは、霧音であった。彼女が大太刀を翻した瞬間、風の刃がエボニーを襲う。撃ち出された弾丸を切り裂き、そのままエボニーの肩口を切り裂いた。 「別世界とは言え世界を救った英雄……。止めは刺さない様しとうございますが」 下段から跳ね上がる鉄扇。アイボリーは、拳でそれを受け止める。ギシ、と軋んだのは鉄扇か骨か。呻き声を噛み殺し、アイボリーはリコルを睨む。 「止めは刺さない? 余裕だな?」 そう言う彼の声は震えていた。ファイナルスマッシュ。全力で放った鉄扇の1撃は、確実にアイボリーの腕にダメージを残している。 苦痛に顔をしかめながらも、ギャングスタ達は笑っている。凶暴な……数々の修羅場を潜り抜けた者だけが浮かべる、ある種異様な笑みだった。 「「やるねぇ」」 楽しげなギャングスタ達の声が重なった。 「出会い方さえ違えば……きっと」 「今から帰ってくれても、もちろんいいけど」 福松の弾丸が道を切り開く。牽制のようにばら撒かれる弾丸に追われ、エボニーは地面に転がった。その隙に、涼子がエボニーの元へ駆け寄っていく。まるで先ほどの繰り返し。 涼子の拳が、エボニーの胸を強打した。 いつの間にそこに移動していたのか。霧音の背後にアイボリーが迫る。リコルのブロックを抜けて、相棒の元へと移動している最中なのだろう。 風を切り、腕が振り抜かれる。 アイボリーの拳が霧音の胴を捉えた。放電。次いで、皮膚の焦げる嫌な臭い。僅かに呻いて、霧音はぐるんと白目を剥いた。途切れそうになる意識を繋ぎとめ、瞬時に刀を構え直すが、間に合わない。霧音の眼前に、アイボリーの拳が迫っていた。 「別世界の英雄を、敬意を込めてぶち殺すっ!」 拳が霧音を捉えるその直前、コヨーテが吠える。業火に包まれた紅蓮の拳が、真下から抉るようにアイボリーの顎を捉えた。 「あ……ッが!?」 不意打ち気味のコヨーテの拳が、アイボリーの意識を刈り取ったのだ。 地面に倒れたまま、アイボリーは動かない。それを見て、エボニーは叫ぶ。 「何やってんだ相棒!!!」 両手に握った銃を、乱射させながら暴れるエボニー。途切れる事無い発砲音と、弾丸の嵐が涼子や福松、リコルを撃ち抜く。 「同時撃破を狙ってたんだけど……」 魔導書の上で、銀色の魔力が渦巻く。魔力は凝固し、弾丸の形へ。即座に射出され、エボニーへ向けて飛んでいく。 ウェスティアの放つ銀の弾丸も、しかしエボニーには届かない。銃弾の続く限り撃ち続け、周囲に鉛弾と硝煙の臭いを撒き散らす。 「……う、っぐ」 血を吐き倒れる涼子。至近距離から大量の弾丸を受けたのだ。意識は途切れ、戦闘不能。咄嗟に回復術を使用するイスタルテと櫻子だが、間に合わなかった。 涼子は倒れ、そしてそれと入れ替わるようにアイボリーが立ち上がったのである。 「ぬ……うぅ」 ゆっくりと起き上がるアイボリー。復帰はしたものの、体力はさほど残ってはいないのだろう。アイボリーに体力を分け与えたエボニーもまた、疲れた顔をしている。 「命を分かち合うその誓い。それほど強い絆……羨ましくはあるわね」 「あぁ、いいもんだぜ?」 霧音の言葉にそう返し、アイボリーは拳を突き出す。技もなにもない、愚直な拳だ。まっすぐに突き出されたそれが、コヨーテを殴り飛ばす。 しかし、コヨーテも負けてはいない。カウンターで突き出した拳は、見事アイボリーの鼻を捉えたのである。 「へへっ、楽しいな。オレも、お前ェらと最後まで戦いたいっ!」 戦いの最中、極限状態での命のやり取りにも関わらず、拳で語る2人はひどく楽しそうだった。 ●長い戦いの果てに 「ここにはお2人の居場所を用意することはできないんです」 眼鏡の奥の瞳を伏せて、イスタルテは呟く。周囲に飛び散る燐光が、傷ついた仲間を癒す。 先ほどまで視界を埋め尽くしていた土煙りやドライアイスも、既にどこかへ吹き飛んだ後だ。 空中から戦況を見守りながら、イスタルテは思う。 この戦いの結末は、果たして誰にとっての幸いなのか、と。 「う……。っぐ」 血混じりの唾を吐き捨て、涼子は立ち上がる。フェイトによる復活を果たし、口元の血を拭って彼女は1歩、前へ出た。 「あん?」 首を傾げるエボニー。先ほど倒したはずの涼子が立ち上がっていることに納得がいかないのだろう。銃口を再度、涼子へと向ける。 エボニーが銃の引き金を引いた。次の瞬間、射線上に飛び込んできた小さな影が1つ。福松だ。身体を張って、銃弾から涼子を庇う。 「いけェっ!」 福松が叫ぶ。 それと同時に、涼子は飛び出していた。まるで矢のごとく、防御もなにも考えていない、全力疾走である。血に濡れた拳を振りあげ、雄叫びを上げながら、彼女はエボニーへと飛びかかっていった。 アイボリーがコヨーテを捉える。放電。衝撃。コヨーテの体が大きく背後へ吹き飛んだ。 電撃が彼の全身を貫く。皮膚が焦げ、神経系が麻痺してしまう。 それを治療すべく、リコルはコヨーテへ駆け寄っていく。ブレイクフィアー。状態異常を治すスキルだ。淡い光が、コヨーテの全身を包む。 その間、アイボリーのブロックに入ったのは霧音である。正確無比な斬撃が、アイボリーの急所を狙って突き出される。それを受け止めるだけで精一杯のアイボリーは、コヨーテ達の方へ意識を向ける事が出来ない。 地面を削るような足払いが、霧音の足首を強襲する。骨の軋む音。宙を舞う霧音の体。 「貴方達の境遇には同情するけれど……」 囁くように、そう告げた。 そして……。 「ここで死ぬってんなら……介錯は任せろ!」 地面を這うように駆けるコヨーテの姿。燃える腕。凶暴な笑みを浮かべる口元。 全身全霊を込めた彼の拳が、アイボリーの胸を貫いた。 「悲しみが聞こえれば、それで拳をにぎらずにいられないこともある……」 まっすぐ、愚直な拳であった。信念を曲げることを知らない、馬鹿正直な拳だ。 その拳が、エボニーの喉へ突き刺さった。 喉骨のへし折れる音。銃を取りこぼし、エボニーはその場に膝をつく。 朦朧とする意識の中、薄れゆく視界の中に見えたのは、地面に横たわる血まみれの相棒の姿であった。 自分たちの戦いは、ここで、たった今終了したのだと彼は悟る。 ゆっくりと……。 静かに2人は、息を引きとった。 「護った世界から裏切られ大切な人達を失う…とても辛い事でございましょうね。リベリスタであるわたくし共にとっても人事ではございませんね」 リコルは呟く。独り言だ。2人の遺体を回収し、Dホールを破壊し、これで任務は終了だ。 それなのに、不思議と肩の重荷はなくならない。 溜め息を零し、リコルは静かに踵を返す。 「可能ならば送還できればよかったのですが…。残念ですね…元の世界に戻って頂きたかったです」 「私たちも世界から爪弾きにされかけて、すんでの所で運が良く端っこに引っかかってるだけだしね……」 肩を並べ、陰鬱な表情で言葉を紡ぐ櫻子とウェスティアであった。 もうじき夜が明ける。 朝日に背を向け、リベリスタ達は帰還する。 彼らにはまだ、帰る場所があるのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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