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Arlecchino

●アルレッキーノ
 おいでおいで――
 手をひらひらとさせながら、少女は奔る。
 ネオンの中を潜り抜け、曇った窓ガラスにちらりと映る自分の顔を見ては笑う。
 今日も素敵な笑顔ね、アルレッキーノ。
 そうよ、私はこの『舞台』の女優なの。素敵な素敵な役者さん。

 おとこだって、おんなだって、『せんせい』だって、『ひとごろし』だって、何だって私は演じて見せるわ。
 私はこの『舞台』だと何でも出来るの。
 機械仕掛けのこの場所は私を一番可愛く見せてくれるんだもの。

 即興劇のヒロインは首から下げたダイヤ型のネックレスを揺らしてはへらへらと笑い続ける。
 在り来たりなお姫様ごっこじゃない。誰にだってなれて、誰からみたって認められる様は素敵なヒロインでなくてはいけないのだから。
 ケタケタと少女には似合わぬ笑い声を零して、華奢な掌は埃を被ったパイプオルガンを撫でる。
 薄汚れた赤いカーテンに、塵だらけの観客席。骸骨ばかりが並ぶ客席を見詰めて、スカートを持ちあげた。

 私はアルレッキーノ。
 誰もが認める、ヒロインなんだもの。
 この両手が宿す炎で消し炭にしてあげる。この足は舞台上を駆け回る為に在るのだから。
 機械仕掛けのお人形(ギャラリー)だらけの、機械仕掛けの舞台の可愛いお姫様。

 私はアルレッキーノ。
 おとこだって、おんなだって、『せんせい』だって、『ひとごろし』だって。
「何でも演じられるの。それって素敵でしょ?
 だからね、全員が私の舞台を見れば良いの。返しなんてしないわ。ずぅっと一緒に居れば良いわ」

 あの時はとても楽しかったわ。
 せんせいよ、と子供の手を取った時は楽しかった。あの子も今は此処で舞台を見ているのよ。
 ころしてくれ、と懇願してくる人を嬲った時も楽しかった。ねえ、今は舞台を見れて幸せでしょ?
 私はアルレッキーノだもの。皆を楽しくさせるのがお仕事なの。
 もっとお客様を呼びに行きましょうか。そうすれば、きっともっと、皆喜んでくれるわよね?
 取り込んでしまえば、其処からは幸せだけが待ってるの。

「御機嫌よう、お客様。私はアルレッキーノ。この舞台の女優で、この舞台そのものよ。
 ねえ、私のとってもとっても素敵なお芝居見て行ってくれないかしら?
 えへへ、大丈夫、ここで永遠に見ていけばいいわ。ね? そうしましょ?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月29日(月)23:16
こんにちは、椿です。

●成功条件
・アザーバイド『機械仕掛けの舞台』の撃破

●アザーバイド『機械仕掛けの舞台』
見た目は廃墟の音楽ホール。赤いカーテンや観客席が並んでおり、小規模なホールの形をしていますが生き物です。
広いホールではありますが生き物の胎内にあたり、周囲には『機械仕掛けの舞台』の部品と思わしき螺子や歯車が浮き出して居ます。
入口は一つとなっており、天井からはぽたぽたと雫(BS:ショック付与)が滴ってきます。
命の要となる部分はホール中央に在る埃を被ったピアノ。ピアノを壊す事で動きを停止させます。
観客席には其れを守る様に白骨達(初期10体)が蠢き続けています。
動きを止めた時、出入り口から直ぐに撤退する事が可能。それまでは出入り口の扉は閉ざされている為に物理的に攻撃する等で開く必要があります。(倒す事で2T後に消滅します)

>白骨(初期10体)
ホールの観客席に座っている骸骨です。アザーバイドの体内に存在している部品。
3Tに一度、5体動き始めます。ホール内には50体存在しており、それ以上増える事はありません。

>アルレッキーノ
機械仕掛けで動く人形。その外見は普通の少女と代わりありません。自称『主演女優』。
自我を持っていますが、舞台その物の意志です。長い白髪に鮮やかな紫の瞳を持っています。
アザーバイドから50m範囲内であれば自由に外に出歩く事も可能であり、外で遊び回っていたようです。
アザーバイドの体内に存在している部品。覇界闘士に似たスキルを使用します。

どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
プロアデプト
プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)
ホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)
スターサジタリー
衣通姫・霧音(BNE004298)
ミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)
ナイトクリーク
★MVP
青島 沙希(BNE004419)


 何処からか聞こえる軽やかなピアノの美しい音色に『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は耳を澄ませて目を伏せる。人気などは全くなく、崩れた壁に、赤いカーテンが掛けられた小規模なホール。
 その様子に小首を傾げるファウナはボトム・チャンネルでの知識を絞り出す様に呟いた。
「『こういった場所』は、この世界において『劇場』というのでしたか。
 ――それと同じ姿をした何か……私と同じ異邦の者。そんなものも……居るのですね、何処かの世界には」
 ぽつり、と零された言葉に妖刀・櫻嵐を握りしめた衣通姫・霧音(BNE004298)は長い黒髪を揺らし、溜め息交じりに言葉を吐き出した。
「この世界は異分子を認めない。例えば、機械仕掛けの舞台に機械仕掛けの女優。観客は命持たぬ白骨」
 他の世界ではその存在を認められていたのかもしれない、或いはこの世界と同じく認められない異分子であったのかもしれない。只、壊すのみ。断ち斬る居合いの術を手に霧音が見据える向こう、カツン、と高いヒールを鳴らして『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)がマグナムリボルバーマスケットを握りしめる。明るい茶色の髪はホールの光を浴びて金色を想わせる。
「これで、劇場だなんて笑わせるわ……。己の研鑽した演技で観客を引き寄せるならまだしも、無理やり席に命ごと縛り付けて見せつけて『私はきれいでしょう?』だなんてね」
 ぎゅ、と握りしめるマグナムリボルバーマスケットを握りしめる指先に力が籠る。『機械仕掛けの舞台』の中を進む彼女の踵が歯車を蹴りあげる。軋む音がかたり、と一度ビク付いた様に止まった事に、此処が『生き物の胎内』であることを気付かせた。
「こんな所で、物言わぬお客さん相手に単独公演かよ。『女優』が聞いて呆れんな。自己満足の三文役者じゃねえか」
 ミュゼーヌの言う『研鑽した演技』を見せるでは無く自分が満足するステージを作り上げた『女優』には『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)は賞賛を送れない。拍手の音も無いピアノの音だけが鳴り響く会場など、本物の舞台女優である『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)が羨む事はなかった。大きな黒い瞳を細めて、彼女が手にした一つの台本はある意味でこの場に居るリベリスタ全員に共通したものであったのかもしれない。
 ギギギ、と油の差しこまれない鈍い音を立てて、舞台上の少女が振り向いた。長い白髪に鮮やかな紫の瞳。その外見のみであれば唯のボトムに存在する一般人の美少女であったのかもしれない。それでも、彼女と同じ色合いを灯す『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の瞳に宿る生気と比べれれば少女が生者出ない事等解り切っていた。
「アルレッキーノ……喜劇の道化師と同じ名前だな」
「御機嫌よう、お客様。私はアルレッキーノ。皆さまをお出迎えする主演女優よ――!」


 機械仕掛けの舞台の中で『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が色違いの瞳を細める。太陽、花名と小さく自身の子供の名前を呼んだのは、目の前の骸骨の小ささ故だろうか。自身の子供がこのような姿になってしまったとすれば――そんな物耐えられない。
 年端もいかぬ子も、痛苦の果てに殺された者も等しく観客である等と吐き気がする。
「良い趣味をお持ちの様だね。『主演女優』。狡猾さは正に名に相応しい……。
 君は何でも演じられると言っていたけれど、ストック・シチュエーションは幾つあるのかな。『残酷に苦しみ果てる少女』も演じられるのかい?」
 皮肉そうに告げる声にアルレッキーノの形の良い眉がぴくり、と揺れる。黙示録を手に、周囲のリベリスタと違い何処か楽しげな雰囲気を宿した『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)がアルレッキーノ!と名を呼んだ。
「廃墟の音楽ホールか。人の歴史や思いを詰め込んだ舞台跡。そんな場所も嫌いじゃないぜ!」
 たとえ、此処が『生物の胎内』であると知っていても。機械仕掛けの舞台に辿りつき、ファウナが仲間達へと小さな翼を差付ける。防水性の防止に長袖と手袋、肌の露出を避けていた琥珀が一度、帽子をとって頭を下げる。
「アルレッキーノ、君は寂しさと悲しみを笑顔を隠した道化なのか?
 それとも退廃的なのが趣味? ソレが今のトレンドなんかな。でも、人を楽しませる事も、演技が大好きってことも伝わってくるぜ」
「ええ、ええ、それは有りがたく思うわ。お客様。ならば人形(ギャラリー)になってみない――?」
 ひゅん、と、観客席を斬る様に鎌鼬が琥珀目掛けて飛び込んだ。避けながら、瞬時にその動きを目視したのはシューターとしての動体視力が故であろう。コマ送りにも見える視界の中、剣を手に霧音が覆った左目の傷がじくりと痛むのを堪える様に手で覆う。
「……私が、何であるか、『私』は知らない。けれど、遣るべき事は決まってるわ。
 全て壊しましょう、全て。舞台も女優も命なき観客も。私は『あなた』の存在を認めやしない」
「妄想だらけの三文役者なんて相手にしては居られないわ。私がこの舞台に幕を下ろしてあげる」
 たん、と地面を蹴り、浮かび上がったミュゼーヌの弾丸が周囲に降り注ぐ。アルレッキーノやその背後に存在するピアノ、そして動き始めた物言わぬ観客たちを巻き込む弾丸の雨に少女が楽しげに演技を始める。演目は『やさぐれピエロ』。スカートのフリルを揺らし、少女の体が軋む音をあげ続ける。
「拍手の音もしねえとか退屈なだけじゃないか。ちゃんと肉のついてるお客さんがやって来てやったぜ。
 自己満足のお姫様ごっこか、素敵なヒロインの舞台か、それを決めんのは『女優』本人じゃねえ、観客の仕事だろ?」
「正に、『招かれざる客』とでも言いたいのかしら。きっと私の舞台の虜になるわ。いいえ、してあげる!」
 笑い続けるアルレッキーノを睨みつけて、Disappear into a windに指を滑らせたプレインフェザーの頭でキャスケット帽が揺れる。上品なデザインのソレは大切な貰い物だ。仲間達と共にリンクした意識。同調するソレに異能を強力に増幅させ分け与える。加護を貰いながら、何処か呆れの表情を浮かべたままにナイトホークを手にした櫻霞がモノクルの向こうで小さく瞬いた。
「そんな物の虜になる訳がないだろう。随分と悪趣味な劇場もあったもんだ。此処に在るのはきげきでも何でもない、陰惨で醜悪な死と言う『終わり』だけではないか。愉しむことすらできない舞台等、何の価値も無い」
 コマ送りの視界の中、動き続ける骨を睨みつける瞳には劇場を愉しむと言う意思はない。ただの、討伐対象として少女やこの劇場内を見詰めていたのだろう。
 そう、この劇場そのものが、生き物なのだ。ぽた、ぽたと天井から降る雫はその生物の体液であろうか。消化液とも取れるソレにファウナが何処か困った様に目を細めて、魔弓を握りしめた。
「……アザーバイドの胎内……」
 降り注ぐ火の雨が白骨たちを吹き飛ばす。動き続ける機械仕掛けの舞台の中で、核となるピアノを睨みつけた。この空間が核を壊す事で消滅してしまうかもしれない。何れにしても異邦人と言うものは理解できない対象である事を己としても知っていた。
「――居場所は判ってます」
 動かない白骨を吹き飛ばし、左右へと分けながらアルレッキーノが立ちはだかるピアノのある舞台上へと進み易くしてある。動きを苛む様に大鎌を振るいあげた沙希はポニーテールを揺らし、『役者』であるその才能を見せる様に優しく笑う。
「ねぇ、知ってる? こんな話し」
 囁く様に告げる声にアルレッキーノが顔を上げる。動く白骨をしばり上げ、ピアノを見詰める沙希の瞳は、主演女優へと向けられる。沙希が演じるのはコンメディア・デッラルテの登場人物。ストック・キャラクターの一種だ。
 ラ・ルッフィアーナは『魔女の役割』を持つ。母親やうわさ好きの都会の女性とも言われる彼女を演じる沙希の言葉にアルレッキーノが身を強張らせる。噂話を語る彼女は『表の顔』を作り上げ、優しく微笑んで見せた。
「演じることと、本当にやることの区別も出来なくなった大根役者がいたそうなのよ」
「それが、なんだっていうの?」
 風が沙希の体を切り裂いた。通り抜けるソレが切り裂きながら、傷つけるのに厭わず、動きだす白骨の群れの中、少女はゆっくりと進んで行く。薙ぎ払う様に、ナイトホークとクリムゾンイーグルが吐き出す弾丸の雨が白骨達を薙ぎ払い、月の女神の加護を受けたミュゼーヌが観客席を蹴り高く跳躍する。
 アルレッキーノの頭上に辿りつかんとする彼女を止めようと下から襲い来る白骨へとプレインフェザーの思考の濁流が押し流す。舞台上の主演女優に向けてナレーターの様に舞台のあらすじをなぞる遥紀の浄化の炎が襲い来る。
「是非とも、君が頂戴した命の分だけ良い演技をして欲しいものだ。それとも、夜の手慰みに語られる滑稽な道化こそが君の本質なのかな?」
 その言葉に少女の瞳が見開かれる。滑稽な役者などと言われれば、主演女優の名が廃る――!
「それでも、最後まで付き合うぜ。見せてくれよ、君の演技で彩られた舞台をさ、そして綺麗に幕引きと行こう」
 ふわり、と纏ったマントが揺れ、流れる様に周囲を血の海へと変えていく琥珀が柔らかく微笑む。お剃りかからんとする白骨を薙ぎ払う様に高速で回転させた妖刀が魔的な力を灯しながら、白骨達を薙ぎ払う。
 そう、全てはこの舞台の幕引きまで――!
 

 がしゃり、と音を立て動かぬ白骨を巻き込みながら霧音は緋桜を翻す。色違いになった瞳を細め、纏う和服が乱れぬ様に、ただ、音も立てずにその剣を振るう姿は正に『衣通姫』とも言えるだろう。
 揺れ動き、惑う。自身を探し求める様な戦いの中で、一つだけ、決めた決意が其処にはあった。
「――幕引きは美しく。私が『あなた』を終わらせてあげる」
 その言葉に舞台上で傷を負いながら笑うアルレッキーノがくつくつと笑い続ける。前線に辿りついた沙希やミュゼーヌに向けて放たれた炎は演目(ショー)の一種であるように、彼女たちの体を痛めつける。
「どの世界で、この存在が居たのかはわかりませんが、認められぬ劇場は、変われぬままであるならば」
 終わらせるしかない。そう告げる様に新緑を想わせる緑色の瞳を伏せ、ファウナは氷精を生み出した。彼女の連れるフィアキィが周囲を回り、白骨の動きを阻害した。それは一先ず、アルレッキーノを倒し、ピアノを壊す事の為、そして、最後は逃げ切る為に――
「そうそう、その役者はどうなったかって教えてあげるわ。本当に人を殺したり、狂ったフリをしてるうちに、区別がつかなくなったらしいの」
 怖いわね、と告げる様に大鎌で刻みつけたのは死の口づけ。その口付けは死を告げる死神を思わせた。アルレッキーノの動きを抑える様に、立った沙希の背後をすり抜けて、ミュゼーヌはピアノの前へと立ちはだかる。
 やはり、このピアノを前にすると生物の中だとは思えない。その場所にあったピアノは『一人で』音を奏で続けている。マグナムリボルバーマスケットを向け、ミュゼーヌの青い瞳が優しく細められた。
「さぁ、奏でてみせなさい。私が舞う為の円舞曲を!」
 炉心から供給されるエネルギーが談足を限界まで高める。その魔力を纏い、向けた銃口――その距離はゼロ。
 黒銀の唇が銃声を囁き、ドレスの裾を揺らし、舞い踊る。正に彼女の為の演奏を奏でさせるピアノが酷い音を奏でる。
 舞台下で、白骨を相手に、ステップを踏む琥珀は楽しげに微笑んでいた。其処に居た物言わぬ観客に彼は優しい顔をしていられない。
「人気だって観客だって、強制的に集めるようになっちゃおしまいだ。人に癒しや楽しみや、喜びを与えてこその舞台だろ。
 暴力や恐怖で縛り付ける講演なんだ、この場限りでお開きにした方が、きっといい」
 黙示録が薙ぎ払う白骨の音の虚しさに琥珀が目を細める。血の花を咲かす事も無く、ただ、憐れに崩れていく観客の何処に楽しさを感じればいいというのか!
 白骨の動きを止める様に仲間達を支援するプレインフェザーの指先がDisappear into a windをなぞる。発する気糸に繋がれる様に白骨の観客たちが動きを止めた所へと、癒しの風が吹き荒れた。
「見届けるまで席を立つ様な無粋な真似はしない。その為にはこの力も必要だろ?」
 くす、と形の良い唇を歪めて微笑んだ遥紀に沙希を相手にするアルレッキーノがそうね、そうねと口ずさむ。二人の主演役者を見詰めながら、遥紀は果たしてどちらが勝つのだろうか、と鼓舞する様に仲間達を励まし続けた。
「数が多いな……だが、問題ない。殲滅するぞ。屍は屍らしく土に戻っていろ」
 櫻霞が放つ弾丸の雨がプレインフェザーが動きを阻害した白骨達を崩していく。頭蓋骨を粉砕し、その肋骨をも崩す弾丸に地響きの様な声をあげて、白骨達がその痛みを露わにした。落ちる雫に、小さく舌打ちを零せば、遥紀が彼を癒す。
 前線で戦う沙希の体力を保ち続けると言うのは無理もあったのだろう。痛みを得ながら、演じ続ける彼女を支援する遥紀も表情を歪めずには居られない。
「ま……こんなこと言っちゃなんだけどさ、観客にドクロ侍らすセンスは結構嫌いじゃねえし。
 あたし位は、お前のこと憶えててやっからさ。安心してやられろよ」
 気糸が絡み付き、白骨ごとアルレッキーノの動きを止める。癒し続ける遥紀が祈る様に白骨を見詰めた。
 きっと、彼等は無念の観客だ。望まぬ侭に舞台を見詰めているに血が居ないのだから。……少しは無念が張らせるように。永遠の安らぎを与えられるように。
 その体に刻みつけられた聖痕に、神の加護を与えられたように、観客の無念を晴らさんとする仲間達を応援し続ける。
『無念』という言葉にファウナが小さく反応する。この白骨達が、人々の末路だと言うならば、これで全てが終わる。支援を続ける彼女は祈る様に両手を組み合わせ、フィアキィの力を乞うた。
「演じたいと言うならば、此処に来たのが間違いだな。幾ら最下層であれど、舐めてくれるなよ」
 餌目的か、其れとも他の意図があったのか、そう問う櫻霞の言葉に首を傾げてけらけらと笑い続けるアルレッキーノの姿は正にコンメディア・デッラルテの登場人物のひとりであった。
 そこに面白味を感じるかどうか。真っ直ぐに弾きだした弾丸は針の穴を通す様な精密さでピアノを貫いていく。壊れかけのピアノに向けられたソレは全てを終わらせるに等しい力であった。
「代わり映えしない演劇にはもう飽きた。さあ、カーテンコールの時間だ」
 その言葉の通り、華麗な音楽を一人で奏でていたピアノが沈黙を始める。舞台上でそれでもなお動こうとするアルレッキーノに近付いて、ポニーテールを揺らし、微笑んだ沙希が少女の紫の瞳を覗きこむ。
「アルレッキーノ、噂話の最期を教えてあげるわ」
 頬から流れる血に、舞台女優の顔に傷を付けて、と血を拭い、鎌を握りしめる。翼を生かして、地面を蹴り、死の爆弾を植え付けた沙希は小さく微笑んだ。
「最後は歩合の上。殺される役を演じてたはずが、本当に死んじゃったんだって」
 ラ・ルッフィアーナ(じょゆう)はくすくすと微笑みながら、爆弾を弾けさせる。彼女の体がふらついたと同時、入れ替わる様に、前線へと繰り出したミュゼーヌがコートを揺らして銃口を真っ直ぐに向ける。
 其処に何の迷いも無く、ただ、真っ直ぐにその『面白味のない舞台』を終わらせんとしていた。
「ねぇ、女優さん、私と一曲ワルツを踊って下さらない?」
 がち、と歯車を軋ませる様な音を立て振り仰いだアルレッキーノの目前。その大きな紫を打ち抜く様にミュゼーヌの弾丸が真っ直ぐに撃ち込まれた。
 余りにも軽い音だった。倒れて行く少女の体を見詰めつつ、琥珀は周囲に未だ蔓延る白骨を薙ぎ倒しながらアルレッキーノを見詰める。舞台の上に広がる白い髪。見開かれ、壊れた眼窩は窪んで見えた。
「あのさ、素敵な時間は限りあるからこそ貴いんだろ? 今日の事だって、忘れないぜ」
「――あなた、は、楽しかったの」
「楽しかったよ。言ったろ。君の演技で彩られた舞台を見せてくれ、って」
 その言葉に、舞台下でふらついた足をしっかりと地面につけ、舞台に背を向けた霧音が溜め息をつく。
 自分が演じてきた誰かの意志はいつか自分の物になるのか――ああ、ソレはまだ分からないけれど。
 振り仰ぎ、真っ直ぐに死神の魔弾で扉を打ち抜いた。一撃に集中させた全神経。最高の精度は彼女が身に付けた居合いの奥義だ。
「……行きましょう。長居は無用よ」
 振り仰ぎ、ファウナが与えていた翼の加護を背に、沙希の手を引いて舞台を蹴りあげる。動き続ける白骨は死にゆく舞台の最期の悪足掻きであろうか。
「私ね、どうせ死ぬなら観客も居て、壊れても居ない舞台の上で、って決めてるの」
 呟いた言葉にアルレッキーノが反応したは判らない。ただ、静かに閉じて行く舞台を背に沙希はひとりごちた。
 邪魔をする白骨達を退ける様に降り注ぐ火の雨の下、プレインフェザーが振り仰ぎ、舞台上で倒れる少女に声を掛ける。その声が届くかは分からない。最後、その姿を保って居られない劇場が姿を消した時、揃って外に出たリベリスタが溜め息をつく。

 ――安心しろよ。主役の死で幕を閉じる名作も珍しくねえだろ?

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。アルレッキーノ。即興劇の登場人物なのです。
 アザーバイドに対しての様々な想いがよく伝わってくる物でした。
 
 MVPは舞台公演に関する知識をふんだんに使い、キャラクターに一番合ったアプローチをした、貴女に。
 ラ・ルッフィアーナを演じ切った事に対して敬意を表して。

 ご参加有難うございました。また、別のお話しでお会いできる事をお祈りして。