●原罪の焰 あの存在を憎いと思い始めた切っ掛けは一体何だったのだろうか。 熱にうなされる夜のような、あるいはまるで灼熱の劫火を孕んだかのようなこの思いは、一体どこから生まれたというのか。僅かに残る理性はそれらの疑問を投げかけるが、蛇の舌のようにチロチロと、燃え尽きることのない炎がそれを焼き払う。 『邪魔なものは消してしまえばいい』 『アイツが全てを奪ったんだ』 『盗人には罰を与えなければならない』 『アイツが憎い』 体が縛られているような重み。纏わり付いてくる熱気。耳元で囁かれるチロチロという音がうっとうしく、けれど脳に心地よく響く。 「……そうだね、消してしまおう」 咎人に処断を。 ぐらりぐらりと揺れ動く世界の中で、私は得物を手に取った。 ●蛇 ディスプレイには赤黒い鱗を持った蛇が映し出されている。 「これが、今回の敵?」 「正確に言えば、目標の本体です」 招集に応じたリベリスタ達に依頼レジュメを配りながら『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が応じた。 「今回の目標はアーク所属リベリスタ『飯島・雪緒(いいじま・ゆきお)』の暴走を止めること、及び彼女に憑依し暴走の原因を作り出したアザーバイド、コードネーム『炎蛇』の撃退です」 レジュメを配り終えた和泉があらためてディスプレイを指さす。そこには数日前の日付が刻まれた写真が数枚。見たところ、D・ホール破壊処置現場のようだ。 「ごく小規模なD・ホールの発生、および処置の完了までが確認されたのは3日前のことです。万華鏡の予知が働いたのはつい数時間前の事ですが……どうやら、そのD・ホール破壊任務の際にアザーバイドが飯島さんに憑依、予知されるまで潜伏していたようでして」 説明に合わせてレジュメをめくるよう促す和泉。リベリスタたちがぺらりとページをめくれば、件の雪緒が作成したD・ホール破壊任務報告書の縮刷と、雪緒の能力が記されていた。 「飯島さん本人はジーニアス、及びソードミラージュです。実力は中堅といったところですが、アザーバイドの影響下にあるためか、本人の能力そのものが上昇しています」 彼女が取得しているスキルについては添付の別紙を、という一言と共にまたページをめくる。 「本題です。アザーバイド『炎蛇』ですが、感情を増幅、捕食する存在であるようです。特に妬みや羨みといった感情に強く反応するようで、憑依した相手のそれらを増幅、暴走させることによって己の糧にします」 ここで一息。深刻さと困惑の入り交じった和泉の表情にリベリスタは息を呑んだ。 「ここから先は幾分かプライベートな情報も含まれるのですが――どうやら飯島さん、恋人に浮気されたうえに振られたようでして……」 ちなみに恋人も浮気相手も一般人です、という一言が付け加えられる。憤慨するものが半数。あきれたような表情のものが半数。他言い表せない反応もちらほら。 「今回アザーバイドに狙われたのは『浮気相手への嫉妬』といったところでしょうか……。なにはともあれ、このまま彼女を放置すると、暴走した彼女は恋人と浮気相手の元に向かいます。結果としては一般人への被害が出ます」 そういう事態になる前に対処を、と説明が締めくくられる。 「あ、そういえば」 思い立ったような付け加えに、ブリーフィングルームを後にしようとしていたリベリスタの足が止まる。 「今回の任務に人間関係の修復とか、そういうのは含まれません。アザーバイドの影響から離れてしまえば彼女が凶行に及ぶという予知もありませんし――犬も食わないという痴話喧嘩に介入するかどうかは貴方たちにお任せします」 あらためての一礼は苦笑と共に。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月29日(月)00:13 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●陽炎 「……アレ? 工事中?」 近道をしようとでも思ったのだろうか。自転車に跨がった大学生程度と思しき男は運動公園の入り口で首を傾げた。柵と樹木の間、広めに開いた公園への入り口には赤い三角コーンとそれらをつなぐ警戒色のポール。真ん中にはご丁寧にも「公園内工事中・誠にお手数をかけますが迂回をお願いします」の文字。 「しゃーねぇ、遠回りだけど向こうから行くか……」 ガタン、とペダルに爪先を引っかける重い音。 ――その先に神秘を繰る者がいるとなど予想もせず、彼の知らない世界は彼の知らないところで回り続ける。 「一般人の事件現場への接触、未然に防止を確認です」 周辺の索敵を続けていた『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が告げる。 「通行止めキット、役に立ってるみたいですね」 同様に索敵を続けている『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が答えた。 公園中央、やや東より。通行止めキットや赤コーンを設置し終えたリベリスタたちが次々と集まる。 「相手の予測経路が出てるだけで随分と楽なものだね☆」 東方面を索敵、雪緒の進行経路を前もって発見した『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)がケラケラと笑う。千里眼を持つメンバー3人で360度、それぞれ120度ずつを担当、索敵することで、飯島雪雄がこのままの速度で動けば接触まで10分程あることが既に判明している。葬識のいう「楽」というのはそういうことだろう。 『楽とは言っても犬も食わない残飯の後処理なんて傍迷惑なものですよ』 影人を引き連れて西口……最も離れた入口の封鎖に向かった『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)からアクセス・ファンタズムを通じて音声通話が入る。一般人対策の看板と強結界設営を終え、こちらへと移動中なのだろう。音声の背後には足音が伴う。 『確かに迷惑で愚かな行為だと思うけど……つけ込まれてしまったのは不幸な話ね』 通行止めキットを持って諭に同行した『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)の声も聞こえた。西口まで、リベリスタの脚力なら1分も掛からない。全員が集合し、戦闘準備を整えるのにまだ十分余裕がある。 「……まぁ、問題の恋人の浮気の始末は兎も角として……あんなのに煽られてやってしまうのは、ダメですね」 「本当に自分の意志での激情を取り戻して貰わないと、デス。アハ」 やれやれとでもいうように小さくため息を漏らす『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)に、同意するように肩を竦める『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の笑い声。 「ともあれ今できるのは、炎蛇を倒すこと。悲惨な事故とならないよう、済ましてしまいましょう」 愛刀「まんぼう君」を抱えつつ雪白 桐(BNE000185)は東を見据える。 時節は折しも夏。陽炎揺らめく地面を駆けて、討つべき相手はやがて走り来る。 ――彼女を燃やす炎の源は嫉妬。原罪の一に数えられし、人としてあるべき感情。 ●揺らめき 陽炎の揺らめきどころか空間そのものを拒絶したような漆黒の闇中で葬識はじぃ、と東を見詰める。千里を見通した先には公園入り口へと差し掛かろうかという雪緒の姿があった。 「来るよ――さぁさ、始まるは愛憎劇未満悲劇以前☆ 意味と無意味を、哲学しよう」 ゆらりと。陽炎ごときでは揺らがぬ漆黒が葬識の動きと共に揺らいだ。 声に合わせて全員が陣形を整えるべく動く。既に漆黒を纏っていた葬識に続くようにして諭の飛ばした式符が全員に防護結界を付与し、スピカの集中力が魔力の局在を発生させた。桐の纏う闘気は陽炎の熱以上に空気を歪ませるほど。 「さぁ、燃える思いは誰のもの? 少なくとも――蛇のものではないデスネ」 行方が手に構えるは一対の肉切り包丁。ザリン、と擦り合わせて蛇を捌く用意。 距離を詰めるように前へ出た前衛陣のなかから、さらにリセリアが一歩を歩む。既に千里眼がなくとも、ゆっくりと歩む雪緒の姿が公園の入り口から見える距離だ。 「雪緒さん――どこへいかれる御心算ですか?」 気に掛かることがあるのだろう。仲間に目配せしつつ、問いかけるその声に雪緒の目線が返る。 「……お前らに、何か関係あるのか?」 ゆらゆらと陽炎のような歩みは止まらず、左手に持った抜き身の刀は殺意を映したように鈍く鋼の輝きを誇る。 「どいてくれ、やらなきゃならないことがあるんだ」 「……貴女が手にかける程の価値はないと思いますけど」 ゆらり。動きが止まる。睨め付けるような視線がリセリアを、居並ぶ者を射貫く。そこで囲う相手がリベリスタだと気付いたのだろう。雪緒が自嘲するように笑った。 「そうか、凶行に走ろうとすればフィクサード、か。予知にひっかかるはずだ」 己の凶行がアザーバイドの影響によるものだと気付いていないのか。それは違う、ただ彼女本来の思いを取り戻して欲しいのだと光介は思うが、口を挟ませる暇を与えず雪緒が口を開いた。 「だけど、だとしても止まれない――他人には判らないよ。奪われる者の気持ちなど。奪われた者の価値など」 若干の間隙。雪緒の勘違いを正す一瞬の機会は惜しくも失われた。いや、機会があったとしても今の雪緒では認めないだろう。今の激情が自分のものではないなどと。 「はい、判りませんデス。それに、進む先が恋人の手の内でも、恋人の血の海の内でも別に構わないデスガ……今の行動は、その気持ちは、本当にアナタ自身のモノデス?」 静寂を破る肯定と、確認の問いかけ。強い炎を宿した視線をものともせず、行方は首の傾きと共に声を返す。 「私のでなければ、なんだというんだ」 話はそれだけか、とぐるりと見回しながら雪緒が言う。 「――もういいだろう。どいてくれ……でないと、必要のない刀を振るわなければならない。何人か、後を追えない程度には、な」 強引にでも先へ進もうとするつもりか、刀の切っ先が上がる。その動きに合わせて、雪緒の背後からぬらりと赤黒い蛇が鎌首をもたげた。 静かに、静かに。戦の燃え上がりはただ武器を構える音と、揺らめく陽炎だけで着飾っていた。 ●蛇 瞬発という意味で、リセリアの剣と雪緒の刀がまず一合、打ち合う形となった。時すら切り刻む瞬速の刃が雪緒に纏わり付く炎蛇へ斬撃を加え、多重の幻影を纏った刀の軌跡とぶつかり合う。 「貴女の思いを灼いているその蛇を、討ちます!」 「何のこと――だっ!」 鋼の響音は幾重にも。絶対零度もかくやという刹那の瞬断が炎蛇たちを切り刻み体力を奪うが、迎撃と攻撃を兼ねた刀刃が雪緒への直撃を許さず、逆にリセリアの喉元を狙う際どい一撃となって返された。 致命傷を避けるべく仰け反るリセリア。雪緒は振り抜く動作と共に下がる一歩を踏み、同時に自然体で刀を構えなおす。フッ、と短く漏らされた呼気だけでもその身体が高速戦に適した状態に切り替えられたのだと知れる。 「その身体から出て行って貰いましょうか。生憎と、容赦はしませんよ」 矢を番え目測を合わせること一瞬。紫月の放つ矢が無数の星光となって炎蛇たちへと降り注ぐ。着弾を確認するどころか後を追う二の矢の如く桐が大地を蹴り疾走、その勢いで炎蛇の一匹に痛烈な斬撃を叩き込んだ。そして、桐が切り開いたその後をさらに追い、スピカの弦楽音律が呼び起こした雷が走る。 傷口を得た炎蛇の胴体から燃えさかる炎の如く体液が噴出。普通の蛇ならすでに断ち切られ絶命しているような苛烈な攻撃を喰らっても、群体であるソレらは動きを止めない。シューシューと舌をちらつかせながら雪緒の身体から抜け落ちるように顕現する8匹。鎌首をもたげていた蛇たちがその全容を明らかにする。 雪緒はその蛇を「認識して」いないようであり、まるで構えを崩さず自然体。そこに蛇がいるのが当然のような不可知加減。2匹の蛇が彼女の腕に絡みつき、そこを土台とするように首を上げ、橙色の液体をリベリスタたちに吐きかけた。 べちゃりと、一瞬の遅れで前に出られずにいた行方の目前にその液体が降り注ぎ――一瞬遅れて周囲の後衛ともどもを巻きこむ規模の爆発が巻き起こった。回復術を持つ光介を庇う命を受けていた影人が、爆炎に呑まれて一瞬で燃え尽きる。 「ハッ、紙切れ1枚しか燃やせない程度で炎? そんなのマッチ以下の火ですね、名前負けすぎますよ」 頬についた煤を払いながら諭が炎蛇を笑い飛ばす。事実、爆心地に近い行方や庇うべく身を躍らせた影人以外にとっては大した打撃とはなっていない。 しかし、その間にも爆炎を隠れ蓑にするようにして4匹が後衛までぬるりと滑り込み、2匹が桐に引き留められて大地を這う。がばりと牙を剥いたソレらが一斉に噛み付く柔肌を求めて飛びかかった。 桐は際どいところで刃先をを蛇の跳躍先に置き、牙をすんでのところで振り払う。 「蛇はペットショップで眺めるに限るわねッ……!」 爆炎から直接飛び出してきたといっても過言ではないタイミングの噛み付きにスピカが悪態をつく。いっそ醜悪な炎蛇の外見に、どうせなら美しいフォルムのハブの形でも模してくればいいのに、と心中愚痴る余裕があるのは運び屋時代に慣れ親しんだ危険故か。なんとか噛み傷を軽傷に押さえながらも、悪態や愚痴をつく余裕そのものが削り取られるような精神打撃がスピカをふらつかせた。 飛びかかってきた炎蛇をなんなくいなしつつ、葬識は手の内にある愛用の鋏をジョギリと鳴らす。ぎぃぎぃと軋むような音共に鋏が開閉すればその切っ先が示す先が、まるで斬り抉られたかのように暗黒に没する。 「女の子の恋心って言うのはホントに度し難いよね。愛情と憎悪は同じ感情だっていうけど、相反するようで同じだなんてなんて素敵なことだろう」 そこに付け込んだ蛇への賞賛を込めて、また、ジョギリ。ナイフと剣の歪な鋏が、また8匹の蛇を悉く暗黒へと抉る。 「蛇の吐息もなかなかだったけど……嫉妬の炎はどんな熱さをもっているのだろうね?」 最後にジャキンと勢いよく鋏を閉じれば、暗黒の捩れ抉りが炎蛇をねじ切った。赤黒い蛇の体躯が、燃えさかる炎の体液で溢れる。 「少し余計なモノを取り払い、頭を冷やして考える、デスヨ」 爆炎を防いで煤だらけになった一対の斧剣を構えなおし、後衛から炎蛇を引き離すように行方は前へ。戦の速度で歩みながら、一歩ごとに鋒は炎蛇の頭を狙い振り下ろされる。鈍い音と共に地面を抉りながら残されるのは戦舞踏の歩み痕。大地を俎に、手持ちの包丁が振るわれた。 仲間達が前へ前へと攻め征く中、光介は指先で術式と印を組み続ける。行方が8匹目の炎蛇の頭を胴体とお別れさせたところで、その術式は完成した。 「癒します……術式発動、迷える羊の博愛!」 炎蛇たちの熱気で蒸していた空気が、光介の放つ清浄の旋風で緩和される。羊毛のようなふわりとした感触と共に風が伝播し、火傷や刀傷を塞いでいく。 「とばっちりはゴメンですよ。まったく。操られて世話のない」 早九字を切り式を打つ。陽炎にまぎれて立ち上がった黒影の人形は同じく影絵で形成された巨砲から氷弾を撃ち出し炎蛇たちの燃える体液を凍てつかせた。 頭と胴を寸断されたもの。凍てつき大地に縫い止められたもの。胴を一文字に切り裂く刀傷を得たもの。8匹がそれぞれの手傷を負いながらも未だ倒れず。群体である「各個撃破できない」という特徴にリベリスタたちは顔を苦くする。 「優秀な癒し手がいるのだな――なら、もう少し手ひどくしても良いだろう? だって、邪魔をしたんだから」 陽炎がゆらり。姿がぶれるようにして幻影を展開した雪緒の刀が、目前のリセリア、そして蛇へと斬りかかった前衛陣を幾重にも薙ぐ。今度こそ致命を狙った遠慮のない斬撃。それが多重に重なり、リセリアと桐の血飛沫が陽炎を乱した。 ●冷静と情熱のあいだ 刀は頚を狙っていた。一瞬で多量の血が流れ出てふたりの身体がぐらつくが、意志の力が、なにより運命に愛されたリベリスタの力が朦朧とした意識をつなぎ止め、反撃の一手を生む。 限界を超えて動いたリセリアの剣撃が幻影を砕き、雪緒の手を止める。一瞬の隙をついて紫月の回復術が癒しの風を送り込み、桐に動くだけの活力を与える。 「そろそろ落ちなさい……!」 願望と必殺の意気、その双方を込めた渾身の斬撃が、目前にいた炎蛇の頭をかち割った。 ジュゥ―― 花火を水に浸けたときのような音がした。 傷口からあふれ出ていた炎の体液がその一撃とともに鎮火。8匹の蛇が一斉に力を失い、あるものはもたげていた首を落とし、あるものは絡みつく力を失ってぼとりと地面に落ちた。一瞬遅れて雪緒の目から燃えさかる闘志が消え失せ、がくりと膝をついて蹲る。音を立てて刀が手から抜け落ち、戦意が完全に喪失しているのが見て取れた。 「――さて、余計なものは削げ落ちた様デスガ」 首を傾げて行方が一言。任務完了を悟ってか、駆け寄ろうとして崩れ落ちたリセリアと、その場で膝をついた桐を皆とともに支えつつ彼女は続ける。 「相手をどうしたいと思うデス? まだ殺したいならボクは止めないデスガ、果たしてそこまでする価値が『今のアナタに』あるデスカネ?」 止めない、という言葉に一瞬ざわりと空気がどよめくが、雪緒は返事を返さずうつむいたまま。 「はいさい☆ お疲れ様、蛇の討伐完了☆ ――で、実際、憎むのって疲れない? みんなたった1人だけを愛したら幸せになれるのかな?」 ざわめきの中、殺人鬼葬識は、殺す殺さないなど気にせぬ様子で言葉をかけた。 「俺様ちゃんにはわかんないや。でも、殺す殺さないはともかく、彼氏さんにさっきみたいな君を見せてみるのもいいんじゃない?」 「……どういう、ことだ」 搾り出すような声。炎蛇の呪縛からとかれて正気を得て、自分が何をしようとしたのかを深く自覚した悔悟の声。 「クールな君もだけど、激情を糧にされてた君も綺麗だったよ、ってことだよ☆」 「言いたいことがあれば喧嘩してくればいいんじゃないですか? あ、ただ暴力はほどほどに」 まるで口説いているような葬識の後に、けほ、とまだ血の混じる咳を吐きながら桐が言葉を添える。 「時にクールでいられなくてもいいと思うんです。狂おしい思いを叩きつけても、きっと」 癒しの印を組みながら、真摯な言葉が雪緒に掛けられる。少し生意気かも知れないけど、とはにかむ光介の術式がひとまずの応急処置として雪緒を含めた全員を癒していく。 「仲直り、したいですか? ……お手伝いが必要なら手伝いますよ?」 紫月の心配するような声音に、ようやく顔を上げた雪緒はゆっくりと頭を振った。 「いや、とんでもない手間を掛けさせてしまった上で、プライベートまでは、巻き込めないよ――ちゃんと、自分の言いたいことを、自分で伝えてくる」 「そうですか」 落ち着いた表情に紫月は笑顔で返す。 「ただ煽られてただけなら、一件落着デスネ」 「にしても、男女関係ってどうしてこうもややこしくなるのかしら」 アークへ任務完了の旨を告げ終えたスピカが、ふと呟く。悩むような膨れっ面はむぅ、とでも擬音をつければとても似合いそうなモノで。 「女の嫉妬は鬼より恐いらしいですよ? そういうことじゃないですか」 諭の答えにああ、とスピカは頷いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|