●黄泉ヶ辻 Wシリーズ。 それはW00(ダブルダブルオー)により生み出された人体兵器。人の体を削り、因子を埋め込んだ存在。強さと引き換えに特殊な薬剤無しでは生きていけない肉体になったモノ。 六道紫杏の『キマイラ』が複数のエリューションを足した加算型兵器なら、Wシリーズは減算型兵器。死に近づくことで得られるマイナスの存在。 そしてその命をつなぎとめる薬剤を生み出すのも、W00であった。正確には生命を司るW00の『心臓』だ。 「リベリスタが攻めてきたようだね」 その『心臓』から声がする。ハイテレパスによる意志の伝達。 「もしかしたら君達を助けてくれるかもしれない。そうなればキミたちはれて自由だよ。もっとも、君たちは私の薬無しでは長くは生きられないのだがね」 わかっている。だから業腹でもこの『心臓』は守らなければならない。 だが彼女はアークがWシリーズを生み出すためのアーティファクトを奪取したのを知っている。そのアーティファクトとここにある資料を使えば、Wシリーズの治療に使える可能性があることを。。 「いいんだよ。箱舟に身をゆだねても。私はここから動くことができない。君が守ってくれないと私はなぶり殺しだ。 だが、アークは本当にWシリーズの治療まで漕ぎ着けられるのかな?」 この存在は的確にこちらの不安をついてくる。 アークの科学力が高くとも、治療には時間がかかる。そもそも治療法を確立できるかどうかにも不安がある。賭けに出て、失敗すれば失われるのは自分の命だけではない。 「……ヨーコちゃん……」 「苦しいよぉ……腕、解けてるの……早く、薬を飲まないと私……!」 Wシリーズとして改造された仲間達。帰還したW00に『テスト』され、息絶え絶えの妹達。お互いコードネーム以外の名前を与えられず、仮の名前しか知らない仲だけど。 「……分かりました。W04、任務に移ります」 「W10……出ます」 不承不承といった顔で二人の少女が立ち上がる。二人一組のWシリーズ。とある決戦に連れて行かなかったのは、彼女たちは防御向きの能力だからだ。 マイナスの盾。Waste(廃棄物)と呼ばれた存在。リベリスタに反するフィクサード。その尖兵。 それでも負けるわけには行かなかった。背中に背負うのは仲間の命。 ここで命を落すことになっても、盾としての矜持だけはリベリスタに見せてやる。 ●アーク 「フタマルニイマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「黄泉ヶ辻フィクサード『W00』の工房を襲撃し、敵フィクサードを打破してください」 和泉の言葉にW00の名を知る幾人のリベリスタは息を呑む。 人を使い捨て兵器のように改造し、使い潰し、そして自らも改造するフィクサード。怒りよりも先に醜悪さが際立つ革醒者――否、革醒者を改造した存在。 「工房には黄泉ヶ辻に誘拐された革醒者と、その資料があります。これを回収すればWシリーズに改造された人に治療も可能でしょう」 Wシリーズ。 革醒者の肉体を削ぎそこに滅びの因子を埋め込むことで、強力な力を得ることができる改造。それを施された人体兵器。その代償は、生命維持のために特殊な薬剤が必要なこと。今までWシリーズとして改造された革醒者と交戦し、そして救えなかった。 その作製者がそしてその治療法の手がかりが、予知できたのだ。 「『万華鏡』の情報によれば革醒者に対する強力な毒を保持する『頭脳』『脊髄』と呼ばれる一個体。そして治療薬を作製する『心臓』……これら二つのW00が存在しています」 W00というフィクサードは自らを改造し、体のパーツごとに自我を持たせている。『頭脳』『脊髄』の二種類が一つになった個体と、今回新たに出てきた『心臓』と呼ばれる個体。 「作戦概要は二箇所同時襲撃になります。片方のチームが戦闘力の高いW00を封じ、もう片方のチームが工房の資料と捕らわれている革醒者たちを助ける」 モニターに映し出される青い矢印。バッテンの位置で交戦するということだ。片側は工房の地下で、そしてもう片側が工房の入り口で。 「皆さんには地下に潜入しWシリーズとして改造された人たちとその資料を回収してもらいます。そこにある薬剤を手に入れればそこから解析が可能かもしれません」 「……かもしれないって……」 「確約はできません。なにぶん相手は黄泉ヶ辻です。薬の組成やバイオ工学特有の『癖』などが私達の常識の範疇外にある可能性もあります」 「むぅ……」 そう言われると、唸らざるを得なかった。とかく神秘界隈の厄介さだ。人の努力などあざ笑うかのような意地悪さがある。 「障害となるのはW00の『心臓』です。これは最優先で倒してください。もう片方のチームの侵攻に影響します。そしてそれを守るようにWシリーズが二体、立ちふさがります」 幻想纏いに送られた資料を見て、嫌悪を含んだ声を上げるリベリスタ。面倒な相手だ。 「……説得は難しいでしょう。私達に守るものがあるように、彼女達にも守るものがあるようですから」 モニターに写る『心臓』とWシリーズの二人の会話を見ながら、和泉が告げる。 「皆さん、よろしくお願いします」 和泉の礼に答えるように、リベリスタはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月31日(水)22:38 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「初手は頂いた」 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が神秘の閃光を放つ。狙うはW00の心臓と二人のWシリーズ。研ぎ澄まされた頭脳が生み出した完璧なタイミング。初手の一撃を塞ぐには少女と心臓には時間がなさ過ぎた。 その閃光を合図にリベリスタたちが部屋になだれ込む。 「大体の資料は見てきた」 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は召喚した鬼に補助をさせながら、自らの影を立体化させる。W00の事件と薬剤に関する資料に目を通してきた。もっとも綺沙羅の専門は情報収集などの情報系であって、薬学は専門外だ。記号を理解はできても、調製ができるかというと難しい。 逆に言えば、記号は理解できる。とにかく動くのみだ。 「やはり直接薬剤を手に触れないと無理か」 『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)は突入前に扉内側に接触による検査を試みていた。薬の情報を手に入れればと思ったが、さすがに難しい。『生物』である壁の中の血管から得られる情報もない。肩をすくめて、突入する。 「人体実験とは、まだゲスなフィクサードがいたんだな」 防御の構えを取りながら『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が口を開く。手に馴染んだ『侠気の鋼』と呼ばれる盾を相手に向ける。体格のいい義弘がどっしりと盾を構えるだけで、得も知れぬ安心感が味方に生まれる。 「ええ。生殺与奪を奪っておいて……酷い話です」 静かに怒りを燃やしながら『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が弓に矢を番える。W04が麻痺している隙を縫い、W00の心臓に矢を撃ち放つ。神秘の力を乗せた呪いの矢。自らの羽根で作った矢が、赤く染まる。 「姓は晦、名は烏。稼業、昨今の役戯れ者で御座いってな」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)の銃が火を噴く。明治の銃を破界器化した銃は、癖こそあれど烏の手に良く馴染んでいた。反動を骨と筋肉で受け流し、今が好機と連続で引き金を引いた。鮮血が飛び、その度に狂気に満ちた笑いが心臓から響く。 「女の子はあまり攻撃したくないんだよね、俺は」 気の抜けたように脱力し、『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が風の刃を心臓に放つ。不真面目なように見えるが竜一は真剣にそう思っていた。黄泉ヶ辻に使い潰されるこの少女達を助けたい。殺す羽目になれば、俺の負けだと。 「心臓と脳どちらにココロと愛があるのだろうね」 奇妙な人殺しの『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)がそんな言葉を呟いた。W00を指しているのならこの答えは『両方にある』である。ではそうでないのなら? 人のココロは心臓と脳のどちらに宿るのだろうか? リベリスタたちの目的は明白だ。Wシリーズの動きを押さえ、『心臓』を集中放火する。もう一方のグループのためでもあり、Wシリーズを救いたいがゆえの行動だった。 「ヨーコちゃん……」 それはWシリーズの二人も理解している。その助けにすがりたくもあるが―― 「はっはっは。このままだと長くはもたないな。しっかり守らないと薬はもう作れなくなるかもしれないよ」 「……く!」 『心臓』の言葉に我に返る。今従えば、今日と明日生き残ることができる。今反逆すれば下手をすれば今日死んでしまうかもしれないのだ。 戦いの意思を示すように日本刀を構える。W10もそれにあわせるように瞳を向けた。 時間が刻一刻と流れていく。 ● Wシリーズの動きは基本的に『心臓』を守るように動いていた。オーウェンと綺沙羅の隙を縫ってW04が日本刀を正眼に構えて『心臓』を庇い、W10が遊撃として動く。元々攻撃力の低いW10は自らの身を削りながら影で攻撃をするが、熟練のリベリスタには火力不足だった。 「無理をしないで、トウコ!」 元々防御向けの剣術なのだろう。防御に回ったW04はリベリスタの攻撃をよくしのいでいた。飛んでくる風の刃を弾き、閃光のタイミングを見切って五感を塞ぎ。 「……盾の矜持、か。その覚悟だけはあやかりたいものだ」 自らの主を守るW04の姿に義弘が呟く。守るべき対象が狂気のフィクサードでなければ、素直に賞賛を送れただろう。 「皮肉だな。それとも哀れみか?」 「いや、守り手としてその覚悟は立派だといえる」 他人を守ることに己の誇りをかける義弘にとって、W04の覚悟は自らが抱くものと同じだった。仲間のために自らを鍛え、最前線で折れぬ心と体を持つ。思想や方向性が違えども根幹は同じだと。 「だが死んでしまっては、だれがその矜持を引き継ぐというのか。生きて、仲間を守ってほしい」 「……っ! 黙れ!」 義弘の言葉にW04は傷の痛みを誤魔化すように叫ぶ。Wシリーズとして改造されたときから付きまとう死の恐怖。生きたい。だけどそれが敵うはずがない。 「死ぬのが嫌なら俺たちに賭けろ!」 W10の影を避けながら竜一が叫ぶ。纏わりつくような影を軍神の力で引き剥がす。その力で一気に攻めればWシリーズも長くは持たないだろう。だがそれはしない。それが竜一という男だ。 「盾としてでも兵士としてでも兵器としての矜持でもない! 見せるべきは人間としての矜持だろうが!」 「人間……無理だよ、そんなの。だって、わたしたち……」 自らを苛むようなW10の声。彼女達に刻まれた傷は深い。それは物理的に改造されたということだけではなく、改造されて人ではないと自覚させられた心の傷も。彼女達の使う技はむしろ運命を失ったノーフェイスに近い。 「そんなの俺達が何とかしてやる! アークを信じろ!」 隆一は今までアークのリベリスタとして数々の人を救ってきた。その経験が自信となり、廃棄物と呼ばれた少女達を鼓舞する。 「お前さんたちは、まさか現在の状態が幸福だと思ってはいるまいな?」 オーウェンは閃光を放ちながらW04に言葉を放つ。言葉で揺さぶり、隙を生む。防御に徹したW04とオーウェンの命中精度は拮抗している。わずかな揺さぶりによる差が活路を見出すかもしれない。 「……少なくとも、生きている」 「誤魔化すな。このままヤツを放っておけば、お前さんたちの様な者を増やす方策をいつ思いつくとも限らん」 オーウェンは『心臓』を指差し片目をつぶる。思考は一瞬。されどその一瞬に多岐にわたる会話パターンを想像する。彼女達の心を揺さぶる妙手を探るために。 「お前さんは自分と同じ境遇の者が増える事を望むかね?」 「だからって……!」 W04もそんなことは望んでいない。だが、選択肢はあまりにも残酷なのだ。仲間の命をかけるなど、よほどの決意と信用がなければ不可能だ。 「貴方達だって姉妹達だって生きていたいでしょう?」 七海は優しく語り掛ける。『心臓』を庇われている間は回復に走り、全体の補強に回っていた。生きたい。それが敵うならどれだけ素晴らしいだろう。だが、それは。 「知ってるんだろう? 私達の生命はW00の与えてくれる薬がなければ成り立たない」 「ええ、ですがアークには『継ぎ接ぎ用の針』があり、神秘の解析をする機関もあります。あなたたちが生き延びる可能性がこちらにもあります」 七海の言葉に答えたのは『心臓』だった。 「可能性か。人の命をチップに賭けろとは、酷いものだなリベリスタは。そこまで正義が大事か?」 「喧しい。命を盾にして兵器にするお前にだけは言われたくない」 ざっくりと拒絶する七海の言葉に、ぐもった笑い声で答える『心臓』。 「W00が保障してくれるのは『今』だけだ。その先はどうする?」 小烏がW10の影が与える不調を光で打ち消しながら問いかけた。かつて別のWシリーズと相対したことのある小烏。あの時は救えなかった。救う術がなかった。だが今は違う。少なくともその可能性はある。 「『今』を生きないと、『明日』がない。私たちはそんな綱渡りなんだ!」 今この瞬間、苦しんでいる姉妹達がいる。それを思えばたとえ先が闇でも『今』の保障がほしくなる。 「必ず助けるなど言えん。だが賭けてみる気はないか」 「……無理だ。アークが開発している間に誰かが死ぬかもしれない!」 W04は悲痛な言葉を返す。賭けるのが自分の命ならいい。だが他人の命を賭けるにはアークに信用がなさ過ぎる。 「絶対に助けることができるなんて嘘はつかないよ」 葬識は『逸脱者ノススメ』を手にW04に話しかける。陽気で皮肉屋な殺人鬼は、こんな状況でも口調に変わりはなかった。 「ねぇ、君達はそんな体で、改造され尽くした体で生きていたいの? 箱舟が治療薬を作れるとしても間に合わないかもしれない」 葬識の言葉はWシリーズの二人の不安を的確に言い当てていた。間に合わなければ、その先に待つのは確実な死だ。肉体が崩壊し、それに伴う苦痛に苛まれ、狂うことすら許されず崩れていく。 「それでも生きていたいの? 他の同じWの名をもつ『彼女達』と一緒に」 口調こそふざけていても、その問いかけは真剣なものだった。その気配を察したのか、Wシリーズは同時に答える。 「生きたいに決まってる!」「生きたい、です」 「そう。君達にはココロはきっとあるんだろうね。兵器なんかじゃないよ」 ヨーコとトウコ。葬識はあえてWシリーズにつけられた固有名詞を使うことを避けていた。その名を呼ぶときは殺人鬼として。殺す相手に意味をつける殺人鬼は、二人を殺さないために刃を構える。 「まぁ、実際問題としてその薬の話なんだけど」 綺沙羅が生み出した影にW04とW10の動きを止めさせながら問いかける。 「最後に薬を服用したのはいつ? 服用したらどれぐらい効果があるの?」 「W04は3時間前。W10は10時間前かな。W10はそろそろ服用しないと危ないかもしれないね」 綺沙羅の声にこたえたのは、以外にも『心臓』だった。驚きの表情を出すことなく綺沙羅は問いかけを続ける。 「体分けるとかいみふだけど、もしかして薬に自分の血とか使ってるの?」 「概ね正解だ。私を殺せばその時点で彼女達を救うことはできなくなる。理解したかね?」 「ん。理解した。とりあえず今のうちに血を集めといたほうがいいみたい」 綺沙羅は持ってきた容器の蓋を開ける。予想通りと笑みを浮かべて、生み出した影にW00の血液を集めさせる。 「アークを侮っていたかな、W00君」 烏は綺沙羅の影に空のペットボトルを渡しながら『心臓』に語りかける。タバコを吸いたくはあったが、血液に混ざるとどうなるか分からないので控えていた。 「ああ、侮っていたよ。まさか本気でこんな廃棄物を救おうと思ってたなんてね」 「君にとっては廃棄物かもしれないが、私たちにとっては同じ命なんだ」 烏は過去に相対したWシリーズたちを思い出す。人のように友愛を持ち、人を外れた自らを嘆き、しかし生きることを諦めなかった少女達。狂気と暴虐に翻弄されてその命を救うことは敵わなかったけど。 「ヨーコ君とトウコ君……他のWシリーズたち全て生かして帰す。それがいままでW00に運命を狂わされた者達への報いだ」 リベリスタが本気を出して殲滅にかかれば、Wシリーズの命を奪うことは難しくない。 だが彼らはそうしなかった。あえて苦難の道を選び、救える命を救おうと動く。 「作戦続行だ。このまま攻めれば二人とも救える」 オーウェンは閃光弾の命中率と時間を考慮して、救出作戦続行を支持する。オーウェンの閃光が上手く決まらなくとも、綺沙羅がフォローとばかりに閃光を放つ。二段構えのW04封じ策が『心臓』へのガードを確実に薄くしていた。 決着のときは、近い。 ● W10は攻撃のたびに体力を減らし、影の精度が増す。またW04が庇っているときは可能な限り攻撃を仕掛けないようにしているため、体力の減りは少ない。Wシリーズの特徴である『体力が減るたびに攻撃手段が増す』現象がなくリベリスタへのダメージは小さい。 だがそれはW04が動けるときはリベリスタは足止めを食らい、時間を食ってしまうということだ。時間をかけすぎれば、もう片方の任務にも影響が出てしまう。 「隙ありだ!」 オーウェンがベストのタイミングで閃光を放つ。避け切れなかったW04に隙が生まれた。この好機に攻め立てよと腕を振るい、それに反応するようにリベリスタたちが動く。 「ここが攻め時だな」 義弘は愛用の盾を手に『心臓』に向かう。盾の堅さに自らの筋力を乗せた盾の一撃。守り手の技術をのせた攻めが『心臓』を押しつぶす。 「どうやって薬剤を生み出してんのか、文字通り暴いてやるよ!」 W04の隙を縫うように竜一が刀を振りかぶる。踏み込み、刀を振り上げ、そして下ろす。単純な三動作だが、そこには流れるような力の移動と、一瞬で全ての力を叩き込む技術が存在する。その一撃で『心臓』が激しく震える。 「俺様ちゃんは必要な分しか殺さないよ。大切な命だからね」 殺人衝動に身を任せる葬識は、だからこそ命の尊さを知っている。鋏に似た武器が『心臓』に傷を入れると、葬識の体が癒えていく。その生命を吸い取っているのだ。 「製薬に心臓が不可欠なら不殺でトドメといきたいが、無理はできんな」 小烏が印を切り、手にした札を投げつける。先に猛毒などを与えて苦しめておき、呪いの札で呪殺する。小さいがダメージを積み重ねるのがだいじなのだ。 「立派ですよ、本当に」 七海の矢が『心臓』に突き刺さる。褒めたのはそこまでして仲間を守りたいW04とW10のこと。地獄を続けるか死か。その二択に、どうしようもないとはいえ答えを出したのだから。重圧に負けず立つ二人。必ず救わねばならない。 「残りは脳に脊髄に心臓か。寂しくなって来たな、W00君」 烏が『心臓』に銃口を向ける。斜線はW04のすぐ横。何かの拍子で彼女が動けばそれで斜線が塞がる狭い道。しかし烏は戸惑うことなく引き金を引く。コンマ五秒で三度。 「そしてこれで心臓も終わりだ。あの世で他のパーツが待ってるよ」 ――四度目。連続で叩き込まれる黒鉄のシャワーが、W00の『心臓』を肉片と化した。 ● 「これだけあれば十分かな」 綺沙羅は戦闘中影人を操り『心臓』の血を集めていた。戦闘の脅威がなくなったのを確認し、資料の回収に向かう。 「んー。データに普通に『人体実験データ』があるのが気に入らないけど……」 目を通せばそんな黄泉ヶ辻の特色が前面に出たレポートばかりである。それなりに大規模な施設が必要のため、この場での製薬は難しいようだ。この施設ならそろってはいるのだろうが、綺沙羅は黄泉ヶ辻のアジトに長時間居座るつもりはない。 「……はは。『心臓』が、やられたか」 W04とW10は『心臓』が動かなくなったことを再確認し、崩れ落ちる。憎々しげなW00の滅びは望んでいた結末。しかしこれで薬を作ってくれるものがいなくなり、死を待つことになる。 「馬鹿野郎が! 生きるのを諦めんな。W00に今まで運命を狂わされた皆の為にもな。そうだろ、ヨーコ君にトウコ君」 烏の叱咤が忘我する二人の心に響く。分かっている。だが今ある薬だけでこの施設内にいるWシリーズがどれだけ生きていられるか……。 「なぁ、俺が死なない程度に『補充』して命を永らえることはできるか?」 そんな提案をしてきたのは竜一だ。予想していない一言にW04は戸惑い、首を横に振る。 「いや、だめだ。そんなことをすればあなたの命が」 「言っただろうが。人間として命を賭けるって!」 その勢いと覚悟に押されたのか、W04は竜一の案を承諾した。Wシリーズの寝室に誘導される竜一。 「え? ちょ、洒落にならな――フェイト復活! みぎゃああああああ!」 そして竜一の悲鳴が響き、しばらくして何も聞こえなくなる。 「これでこっちは解決だな。怪我人らしい怪我人もなく、資料も無事に回収できそうだ」 「え? あの結城殿の悲鳴みたいな声が聞こえたんですが」 「気にするな。あいつ自身が選んだ道だ。多くの女性に囲まれて口付けされるんだ。男として幸せだろう」 「……いや、口付けって言うか食べられてるって言うか」 文字通り『死なない程度』まで竜一の肉体は彼女達に与えられることになった。 「集めれる資料はこんなものね。後は開発部に回しましょう」 「俺様ちゃんとしては誰も殺せなかったので不満かなー」 戦闘が終われば軽口を叩く余裕が生まれる。 捕らわれていたWシリーズの治療法が確立し、ここに捕らわれていた女性達も救われるだろう。 リベリスタの戦い(ワルツ)は、終幕を告げるのであった。 だが、Wシリーズを生み出した根源であるW00はまだ滅んでいない。それを滅さなければ、新たな犠牲者が生まれるだろう。 それはもう一つの物語(ワルツ)。リベリスタたちは研究施設から脱出しながら、彼らの無事を祈った。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|