● 最初は小娘と思っていたが、心を通わせる内に主と認めた。 きっと最初で最後の主。 「こんな事しても何にもならないんだ、青褐」 「解っている、露草」 生きて欲しかった。家も、事情も、全てを捨ててでも生きて欲しかった。 『家族でもう一度、ご飯を食べるんだ』――あの日、幻想と成った夢のために、暴走する父親に刃を向けた少女は、儚く、無力で、散って逝った。 馬鹿なのだろう。長く存在して来たが、あそこまで馬鹿な小娘は初めてだ。 「だからってそれには意味は無いんだ、青褐」 「解っているんだ、露草」 執着はいつしか依存になっていた。 宝刀である露草は小さな身体で見つめる。心臓に穴を空け、血は渇き、白骨した部位が見える少女を動かす妖刀青褐を。 「皮肉は言わないさ。でも……なあ、青褐」 「主は我が物、手放す事は、もう二度と――」 「緑青様も同じ事をしているな。呪われた分際で、全く……おまえたちは親子だな。気持ちは解らなくは無い。俺だって心に決めた人は居たさ」 願うは、破壊か、救済か。 答えを見いだせないまま、意味の無い行脚は始まった。 ● 「皆さんこんばんは、今日も依頼をひとつお願いします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へ切り出した。 「大昔、武器を作っていた職人の家系で『浅村』というものがありまして、その末裔が呪われた武器を保管していました。が、世に出たり、出そうになったりと、その度にアークが止めていたのですが……今回も、その武器による事件です」 事件は二つの武器による犯行。一方はアンデットを、一方は革醒していない少年の身体を操って、街に出て皆殺しを始めるというもの。 「この行動に意味があるとするならば、『武器は人を殺すために』という存在理由からなのでしょう。それでは……困ります、止めてください」 武器の名は青褐と、露草。 青褐は『浅村りと』という、浅村家の長女の身体を使っている。革醒者であり、陽気で前向きな女の子であり、青褐の主として存在していた。しかしだ、浅村りとは以前、事件に巻き込まれて死亡している。そのまま武器の力でアンデットと化した少女の身体を、青褐は使役して使い続けているのだ。 露草は浅村家の末の弟の身体を使っている。おそらくだが、青褐を一人にはできなかった彼の優しさだろう。だがその優しさは常人から見れば、曲がっている。彼も彼でどうすればいいのか解っていないのが事実なのだ。 「武器には武器の役目が。 今から行けば、浅村家内に居る二体だけを相手にできます。彼等が大きな事件を起こす前に――それでは、宜しくお願いしますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月29日(月)00:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「青褐、露草、いるんだろう!」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は屋敷の前にて、叫んだ。 「深緋も、何かあれば呼んでいいんだぜ」 フツの武器と妖刀は共鳴すると言う。しかし深緋は何も語らない。むしろ、お喋りな彼女が語らないという事自体が異常であり。 「我が名は、戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫。いざ尋常に勝負せよ!」 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)も続いて声をあげた。いつだったか、何度も護った彼女の笑顔が舞姫の脳裏にチラついた。死んだ、と聞いたとき、できれば嘘であって欲しいと願った。だが、現実は過酷なもので。 「……りと」 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)も見えない屋敷の奥を見るように目を細めた。己の存在意義を全うできなかったあの日、後悔した時には遅かった。血塗れの少女を両腕で抱いて、なんのためのクロスイージスかと赤い血が笑っていたのを。 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は感情探査を、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は熱感知と集音装置を発動させた。その瞬間気づいた。 「来る!」 「来ますぞ」 二人は一斉に同じ方向を向いた。玄関、いや違う、庭の角から飛び出してきた少女――!! 刃が空を斬る音を立てながら縦一文字に落ちて来て、フツの槍がそれを受け止め弾く。 ――青褐。 「何しに来た」 りとの声で喋る青褐だ。その声色を聞いて、ずきんと痛んだ舞姫の胸。 「りとさん、お久しぶりです。「必ず助ける」「絶対に助ける」って、何度も言ったのに、嘘になっちゃいました」 「過去の出来事なんぞ……もはやどうする事なんぞできんのだ!!!」 再び唸る刃は舞姫の肩を裂いた。反論が、りとの声で聞かされる事によって彼女から言われている様な気がして、再び舞姫の胸がキツくなる。 「成程。これが意思を持つ武器ですか」 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は右手を顎にあてた。同時に発動される神秘があらゆる分岐と計算によって未来を演算していく。欲するは知識、深淵の奥底。さあ、神秘探求を始めよう。 鬼を召喚する綺沙羅。札を投げながら、青褐を見据えた。 「青褐、あんたが気持ちの整理が出来ないって言うならキサ達が付き合ってあげるよ」 「ふん、小娘が」 まるで、死に場所を探しているような。 綺沙羅の目がキツく細くなっていく。いつか、『人生終わらすのも、自分の手だったか』と呟いた事を思い出した。まるで自給自足の人生劇場。今日、その幕引きができるかは、まだ解らない。 「なぁ青褐、二度も主を殺させてくれるなよ……浅村りとは死んだんだ」 「言われなくても……!!」 舞姫が青褐を引き付けていく先で、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が光り輝く剣を振るい、青褐の頬に傷ができた。しかし、其処からは血が流れない。 アンデットとなり、そして青褐に動かされている少女を可哀想だとか哀れだとか、ツァインは思わない。ただ、ゆっくり眠らせてやりたくて。ぐっと瞑った瞳。 「……己で選べぬ戦場なればせめて、誇り高く、素晴らしき戦いを望め」 武器は、武器であれ。 ぽそりと呟いた言葉。それはツァインだけにしか聞こえない程に小さな声だ。そう思っていた。だが、目の前の武器の人間らしさに違う意識が生まれていく。これじゃあ、まるで、まるで――!! ヒトじゃないか。 七人の攻勢によって青褐は庭へと押し込まれていく。ふと、イスカリオテが『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の方を見た。 彼の目線は屋敷の上を向いていた。その方へ視線を辿ってみれば、少年が一人、屋根の瓦の上に立っていたのだ。その手に、少し暗い青色の刀を持って。 成程、あれが宝刀露草。 「露草。元気そうで何よりだね」 以前、一瞬であったが持ち主の契を交わした二人だ。今となっては敵同士としての再開だが。 「お前のことを雑に扱わないと俺は言った。だから、俺の刀であるお前の責任をとるため、俺が体を張ってでも止めてみせる」 刃は、露草へと切っ先が向いた。ずきん、と痛んだ露草の心。主、主、主――何故どうして!! 屋根から飛んだ露草は回転力を利用して斬りかかった。が、直後、眩しい光が露草の瞳を染めた。 「おまっ!」 露草が一瞬だけ見たのは綺沙羅だ。彼女のフラッシュバンが露草を止めたのだ。そのまま綺沙羅は射程に露草を捕えながら歩く。 「そのまま、其処で。二人で語ってて」 良い主の下に着くために、ね。 ● 何をしたって変わらないのだ。例え此処でリベリスタを八人斬ったからといって主は戻ってこないのだ。この行動に意味があるとするならば、執着。 「青褐ッ!」 露草とは、十分に分断しただろう。ならば此処から先は此方の戦い。 「これは貴様の主、浅村りととの勝負だ。刀が戦うならば、それは主の戦いであろう。主の誇りと名誉にかけ、かかってこい!」 黒曜と呼ばれたナイフを手に、舞姫は音を置き去りにして飛んだ。青褐の背後に姿を現した彼女はそのまま、煌めくナイフを差し込もうとするが、裏に回された青褐の刃に軌道を逸らされる。やはり、フェーズ2と妖刀が合わさった力は一筋縄ではいかないか。 そのまま青褐は消えたかと思えば、分身した己でリベリスタ達へ斬りかかった。 その一人、フツの腹部が貫かれ、背中からは刃が飛び出していた。内臓を抉るように回される、刀。そしてそのまま支配されてしまえばいいと青褐の口端が裂けていく。 静かだった少女が怒り任せに目覚める――。 『はぁ!? ちょっとふざけないでよね!! いくら兄でも深緋の主は渡さないんだからね!!!』 「貴様、堕ちたか!!」 『堕ちてんのはそっちでしょ!!』 フツの真相意識の中で、少女が浸食してきた青褐を追い出した。渡さない、主は。その心は目の前の青褐がやっている行動と大差は無いのかもしれない。どちらも主が大切だからこそ。 まあ、フツが万年頭痛なのは元々深緋のせいであり、彼女の声を聞いていれば青褐の声なんてまだまだ序の口なのかもしれないが。 血が流れる口を拭ってから、フツは青褐の腕を動かせまいと掴んだ。 「……悪いな、青褐。オレにゃあ深緋がいる。お前さんも、オレなんて別に支配したくねえだろ」 青褐へ向いた、氷の結晶が渦巻く深緋の鋭い先端が腹部を貫いた。 しかしそれでも青褐は動き出すのだ。向かうは露草の下か、分断されていてはロクに戦えないと踏んだか。 「こっから先はいかせねえからな!?」 ツァインが両手を広げて青褐の動向を止めた。邪魔だと、刃がツァインを貫かんとするが、ギリギリでそれを避けてみせたツァインが青褐の柄を掴む。 ズキン。 痛む、これはまずいと即座に離したツァインの手。 「なるほどな……これは持ち主を選ぶ訳か」 だが負けてられない。例え何があってもこの先には行かせられないのだ。 卑怯だと、露草は小さく零した。今更、『俺の刀』だなんて言わないでくれよと、己のモノでは無い瞳から涙が出そうになるのを必死にこらえた。 「邪魔、だ!!」 露草が斬ったのは綺沙羅の作った影人。それは露草では無く、翔太を護るためのもの。絶えず召喚され続け、そして翔太を護ろうと露草の周辺を着いてまわった。 「お前が望むなら俺がお前を壊してやる。誰かを無意味に傷つける前にな」 「こんの……糞馬鹿野郎!!」 露草が己を得物に走り出す。一般人の走りとは思えない程に、素早く――竜一の眼前まで走った露草は己を突き刺した。反撃を待ち構えた露草、しかし彼は攻撃をはおろか、気づけば防御の姿勢さえ取っていない。 「本気でヤれねえってんなら、諦めろ!!」 本当に、それまでの主だったのだろうか。名立たる宝刀が選んだ主は、そんなものなのか。 強引に引き抜いた露草自身。口から赤い液体が零れる竜一だが、それでも瞳は露草から離れようとはしないのだ。 「持ち主を操り、その凶刃を振るうのを目的としていた刀が、主に殉じようとは、絆されましたかな?」 九十九は、素早く動かれてなかなか標準が定まらない銃をあっちへこっちへ向けながら露草を追っていた。しかし、ふと目線を向けた青褐の方向。報告書で彼を辿ってみたが、今となっては凄い変わりようだ。それには純粋に素晴らしさを覚えていた九十九。 まあ、それでも九十九は撃つのだが。それだけは変わらない。例え世界がさかさまになったとしても、彼の意思だけは曲がる事は無いのだろう。 同じく、イスカリオテも細長い指を露草へと向けた。見る限り、もはや竜一の体力は限界近いだろう。このまま見過ごしておくと今度死体となるのは彼かもしれない。その前にはなんとかせねばならないのだ。念じれば気糸が露草を射抜く指先。 しかし、その指と露草への射線を断つようにして竜一は立った。 再びの露草の攻撃。今度は右肩が裂かれていく。赤い雫が噴き出し、宝刀の露草色の柄が染まっていく。 「壊れますよ」 イスカリオテは目の前で息絶えそうな彼に言う。奇抜にもサムズアップした彼の瞳は輝いていた。それを見たイスカリオテは瞬間、攻撃の大量を変える。その先――青褐。 「彼に助力は不要でしょう」 「そうですかいね」 九十九へ静止を促し、九十九も攻撃対象を変えた。その背中の遥か後方で肩を抑え、出血に意識が揺らぐ竜一。それでも露草への視界は途切れはしない。 「……武器は敵を倒すためにあるが、その敵を倒すのには目的があって然るべきだ。何かを守る、何かを救うためという目的が」 「死にてえのか、てめぇいい加減に、し、しろよな!?」 限界だ。露草の瞳から大粒の涙が零れ始めたのだ。元とは言え、主を刻む武器が何も思わないとでも思ったか? 意思を持つ武器が、感傷しないと思ったか?? 自分の血で染まった露草の腕を竜一は抑えた。ずるりと腕を伝って、ついに指は刀の柄に触れた。 頭痛は、魅了は、無い――之、主たる証と言わずとして何と成る!! 血の臭いが濃いのを背中で感じていたゲルト。ふと見た露草と目があった。 「俺はお前にも青褐にも死んで欲しくない。力を貸してくれ」 訴える瞳に露草は突き動かされるようにして青褐を見た。滑稽か、哀れか、意味もないのに死体を動かして。 露草は己を鞘へと仕舞う。そして片膝を地面に着け、『宝刀露草』を差し出したのだ。 「数々の無礼、大変失礼した。それでもまだ俺を使ってくれるというのならば――どうか、受け取って欲しい」 露草色の柄を、竜一は握った。鞘から抜き、月明かりに反射して、再びの主を歓迎するかの様に刃は美しく光り輝いたのだ。 刃の切っ先を向ける、其処には青褐が、仲間が、そしてりとが居る。 「いくぞ、露草」 『お前の刃だ――竜一の敵は、全て俺が斬り伏せる』 ほっとしたように綺沙羅はその光景を見ていた。所謂、見届け人となったか、主従が定着した証人となったか。そのまま綺沙羅は余った影人で、倒れる翔太の身体を受け止めた。 「片方の刀は大丈夫そうか。なら……あとは、ひとつ」 見据えた先、綺沙羅の目に映った妖刀がひとつ。あと、もう一仕事残っている。 ● 鎧の間に差し込まれた青褐。そこからズキンと痛む頭に視界がブレたツァイン。頭を抑え、それでも言葉だけは紡いだ。 「俺に刀は使えん。だけどこの子を一緒に弔ってやる事は出来る。夢の真似事で、飯を食うぐらいはしてやれる。だけどお前がそのままじゃ、この子が可哀想だ」 「うるさい、うるさい!!」 青褐を動かせまいと守りに徹していたツァインだ、その口から荒い息が絶えず漏れる。それでも霞む視界で立ち続けているのだ。 青褐が刺し抜いた刃をもう一度差し込もうとした所で、ツァインの視界から右へ吹き飛ぶりとの身体。 九十九の弾丸だ。意志を持った事が災いかは知らない。だけれども、なんとも哀れな姿だと九十九は思う。現に、攻撃が重なっていくりとの身体は穴を空けて、切り傷を作って、治らない。 「退け退けー!!」 血をまき散らしながら竜一が跳躍、からの露草を振り上げ青褐を穿つ。 『フツ、しっかり!!』 「大丈夫だゼ」 幻影にて混乱していたフツが目を覚まし、深緋を引いて力を込めてから青褐へと突き刺した。 「ぐ、うぅう!!」 露草の刃に抑えられ、貫通したフツの深緋からペキペキと結晶が青褐を攻めた。 “執着、依存、諦観、自責、まるで人間ですね、貴方は” イスカリオテの声が、直接青褐に響いた。 “ですがであればこそ、問い掛けます。貴方はそれで良いのですか” 「き、さま……知らぬ口で語るか……!!」 “主を得る事を渇望し、願いを果たし、その果てに自らの主の尊厳を冒涜する。それが本当に、貴方の望んだ結末ですか” 「く、く……!」 望、望……生きていて欲しかった、主。 カッと見開いた瞳。力任せに幻影を繰り出しては竜一とフツを飛ばして、刃をイスカリオテへと向けた青褐。 「主の姿を見ろ青褐。送ってやろう、俺達で……」 させるかと、ツァインが青褐とイスカリオテの間に立った。所々骨が飛び出すりと。もはや見ていられないとツァインは、肩を掴んで止めようとした。 「もう、やめてく――!!」 首に衝撃がひとつ、刃がツァインの喉を貫通していた。だが彼は更に腕に力をいれて青褐を動かさないと睨んだ。見れば、青褐を持つ腕から骨が飛び出した。もはや、限界は近いのかもしれない。 「りと……力を、貸してくれ」 今更、護れなかった者にそんな事を言うのはおかしい話かもしれないが、ゲルトは青褐の持ち主の名を呼んだ。伸ばす腕――杞憂か幻か、一瞬だけ女の子らしい手がゲルトの手に重なったのだ。 『頑張って』 聞いた事がある声に突き動かされ、ゲルトは青褐を掴んだのだ。 りとと一緒に妖刀を眠らせてやるのが最高の行き着く場だと思っていた。だが、それは違うと気付いたゲルト。 「りとの最後の願い。お前に逃げろと言ったな」 あの日、息途切れる寸前の言葉。 「りとは、お前に生きて欲しいと願ったんだ。生きろ青褐! りとの最後の望みを叶えられるのはお前だけなんだ!」 「な……っ」 気付かされた、生きろの意味。けして武器として見ていた訳ではなく、一人の人間の意思へ向けられた言葉。ゲルトはその本意を理解していた。突き付けられた現実が、青褐の瞳を揺らす。 “貴方が決断出来ないのであれば、私が後押し致しましょう。刀とは、誉れを担う物であり誇りを護る物” 続く、イスカリオテの言葉。 “貴方が貴方の主との永遠を願うなら、臨むべき結末はこうでは無い筈だ” 自らの手をもって、自らの主を殺めるべし。それがイスカリオテの提示した終わり方だ。 突き動かさされたようにして舞姫も青褐を掴む。もはやこれ以上一歩も動かせられない。後方で綺沙羅が少年を護っているのだ、その少年こそ殺してしまわないように。もう、これ以上呪われた武器の一件で誰も死んで欲しくないのだ。 「わたしも貴様も、浅村りとを守れなかった。このまま砕け散ることなど赦されはしない」 刃の部位を掴んでいた舞姫の手から血が流れる。どれだけ混乱が浸食しようとも、その心はブレない。 「共に罪を償え。貴様がただ人を斬るだけならば、わたしはその力で人を守ってみせる」 決断の時だ。 生きていてほしい。 消えろべき。 ぐるぐる回る、青褐の運命。 ――どれだけ足掻けば、もう一度彼女の微笑みに会えるのだろうか。甦りなんて無いのだ、ならば死ねば会えるのか。しかし、生きろと彼女は言う。骨が飛び出し、肉が裂けている身体。ぐっと目を瞑って彼は言う。 「主、護れなくてすまなかった」 青褐の刃に、ヒビがひとつ。 「頼まれてくれるか」 「望みの通りに」 「介錯ですかい」 行き場の無いまま彷徨う武器達。ひとつは主を壊し、ふたつは選ばれし持ち主の手に、もうひとつは――。 綺沙羅は札から鴉を召喚し、九十九は銃を構えた。けしてブレない二人の攻撃は一斉に放たれる。 「待て!? 青褐、お前は生きるべきだ―――ッ!!!?」 「青褐、そんなの許さな――!!?」 ベキンッ その嫌な音に九十九は息を吐いた。死んだ者を忘れない事が、唯一できる事なのだと言えば。ふと、青褐の柄に触れていた手がひとつ多いのを彼は見た。 「おやおや、居たんですか」 『うん。しばらく眠れるといいとおもう』 顔をあげたのは、半透明に透けた青褐の主。遠慮気味に笑った瞬間、消えていく――。 結果的に綺沙羅の黒い翼、九十九の弾丸は精密にヒビを射抜いて、青褐の刃が砕けて壊れた。砕けた刃が飛び散る中、ゲルトと舞姫は最後まで呼びかけ続けた。 「消えるな……りとは……っ」 ころんと落ちた柄をゲルトは拾い、でも其処にはもう何も気配を感じない。フツと竜一はお互い顔を見合わせてから問う。 「青褐は、死んじまったのか、深緋、露草」 『気になるなら』 『直してみれば?』 『いいんじゃないかな!』 亡き少女の願いは潰えたとは言えない。武器は武器であり、命は無い。完全に形が壊れていない限り、再生は可能――だが。 舞姫はりとの身体を受け止め、両手で抱えた。その身体のなんと軽い事か。 「おやすみなさい」 呟いた言葉は、やけに静かなその場所で大きく響いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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