●青林檎の甘い誘惑 「私を棄てたあの男……後藤を殺して……っ」 「御可哀想に……その依頼、承りましたわ」 とある公園にある電話ボックス。 午前二時半にそこで殺して欲しい相手の名前を告げると、本当に殺してくれるんだとか。 そんなどこにでもありそうな、どこかにあった都市伝説。 けれどそれが、本当だとしたら? 「都市伝説に見せかけた事件よ。相手はフィクサード」 小此木・るりか。 ショートの髪に、童顔小柄。似合わぬ豊満なバストで強調された谷間には、刺青。 青林檎に、青蛇の巻き付いた、どこか背徳的な刺青。 それが今回の事件の犯人だと『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は告げた。 「ヴァンパイアのナイトクリークよ。 あと、それとは別に特殊能力によって相手を無条件で誘惑してくるわ」 イヴはリベリスタ達を見回し、言葉を続ける。 「貴方達には、小此木・るりかの捕縛または討伐をお願いするわ」 抵抗が激しければ仕方無い、という事だろうか。 「とりあえず事件を止める事が先決よ」 彼女に出会う方法は一つだけ。 「電話ボックスで受話器をとり、何も押さずに名指しで殺して欲しい旨を告げて」 名前は架空の物で構わない。 そうすれば、彼女は電話ボックスの外に姿を現すだろうから、と。 「彼女が現れるのは電話ボックスの扉の前。必然的に中の一人は袋小路よ」 そのことを念頭に置いて誰がやるか決めて欲しいと続けて一呼吸。 「彼女はとても大胆で、臆病よ。不利を悟れば即座に逃げに徹するでしょう」 「それを逃がさず掴まえるなり仕留めるなりしろってか」 「その通りよ。これ以上こんな事を続けさせる訳にはいかないわ」 電話ボックスのある公園はそこそこの広さ。戦うには十分だろう。 「周りはベッドタウンだから静かよ。 けれど、わざわざ派手に戦うようなまねをすれば大事になってしまうから気をつけて」 普通に戦う分には、見て見ぬふりをしたくなる騒ぎだと認識されるだろうとイヴは結んだ。 「なんだか焦臭いけれど、とりあえず目先の被害を食い止めて頂戴」 気をつけて、とイヴはリベリスタ達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:七河コーヤ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月24日(日)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●作為的な都市伝説 「都市伝説、ねぇ……そうでもすれば、捕捉されないとでも思ったか」 或いは、本当に都市伝説になりたかったのか? 温い夜風に吹かれ、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が、木陰に身を隠しながらぼんやりと遠くに光る電話ボックスの灯りに目をこらす。 「記事のネタになるなら偽物でも構わないんだが……どうにもパンチが効いてないねぇ」 『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746)も横で同じく目を細め、しかし隣の猛の姿に思わず、なんだいそれは、と呟けば、モルぐるみを着込んだ猛は軽く笑ってから誘惑対策だ、と返した。 「こういう事考える人って一体何がしたいんだろ?」 何か得がある訳じゃないだろうし、愉快犯って奴なのかな。 『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が疑問を口にし、首を傾げつつも、解っても仕方無いし解りたくもないか、と頭を振った。 「でも、奏音は、あの人にきいてみたいことがあるんですよ~」 来栖 奏音(BNE002598) がほわん、と呟いた。答えて貰えるといいんですけどね~、とふわふわ続ける奏音に猛が喉を鳴らして笑い、言葉を継ぐ。 「話を聞くにせよ、一筋縄じゃいかなそうな相手だな」 頷き、ウェスティアが電話ボックスに視線を向けて言った。 「何にせよ、やっつけてもう悪さ出来ないようにするだけよ」 「殺人は頂けない。ちゃんと懲らしめて罪は償わせないとな」 例え巨乳であっても、とリスキーが最後に呟いてそこ関係あるの?と思わずウェスティアがつっこんだとかつっこまなかったとか。 そんな彼らよりもより電話ボックスに近い位置。そこにいたのは、『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)と『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の二人。 「偶然得た力だけを振りかざして、都市伝説の主犯気取りか……」 「自ら騙り、餌を撒き。快楽の殺人の糧とする」 方向は違えど、憤る二人。 お前のような奴が居るから、と悪を憎むのが朱子。 相手は都市伝説を馬鹿にしたのデス、と行為を憎む行方。 「……悪は、この腕で全て滅ぼす……!」 「ああふざけてるデスネ。とてもふざけてるデス。自称都市伝説」 ――都市伝説であるというのは、そこまで安くは無いデスヨ? 二人の視線の中、電話ボックスへと入っていく影がついに動く。 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638) が電話ボックスに入り、呼吸を整えて受話器を取る。そして番号を押さずに耳を当てる。 「ようこそ『BadApple』へ。ご用件をどうぞ♪」 そこに流れたのはツーという電話特有の音ではなく、耳に障る女の声。 「今、俺を追ってきている、浅倉貴志を殺害して欲しいのであるが」 「あら、随分切迫してらっしゃるのね……その依頼、お受け致しますわ」 オーウェンの真後ろから声がする。電話ボックスの扉の外。いつの間にかある気配。 「どうやら近くにいらっしゃるようですね。今すぐ消して参りますので」 少々お待ち下さい。 そう言って優雅に一礼をし、素早い身のこなしで、女が姿を消そうとする。 しかし。 「電話で殺したい相手を告げると殺してくれる。正しく良くある都市伝説デス」 「何方ですのっ?!」 後ろから不意にかけられた声に女が肩を跳ねさせて振り向く。 そこにいたのは行方。大振りの肉切り包丁を二刀携え、唇を歪めて笑って見せる。 「けれど、掛けた本人も死んでいるならば、それは一体誰が残した噂デショウネ?」 「……、さあ、噂はどこからともなく流れるものでしてよ?」 落ち着きを取り戻し、行方にそう返す女。けれど行方は否と首を振る。 「噂されるは都市伝説。自ら流すは風聞の流布」 がり、と肉切り包丁がコンクリートを削り、女に向けられる。 「アナタは都市伝説を、舐めたデス。代償は高いデスヨ?」 アハハハハハハハハ!と行方の高笑いが響く、気圧されたように女が一歩退いた。 その背後、電話ボックスの中で、オーウェンは集中し、とぷんと地面に消える。 「……『授業』の始まりである」 がちゃん、と受話器が填り、それを戦いのゴングとして幕が開ける。 派手な音を立てて戦場に複数個の懐中電灯がばらまかれ、その音の中心から飛び出してくる朱子。行方が塞ぎきれない進路を塞ぐように動き、そのまま女にメガクラッシュを叩き込む。 「……っ、罠、とでも言うつもりですの?」 リベリスタめ、と女が口汚く言葉を吐いた。 「……何が目的でこんな事をしている?」 気まぐれだとか、遊びでやってるなら……容赦は、しない。 朱子が強い視線で睨み付け、かろうじて自分の攻撃を防御した相手を問い詰める。 「遊びでも気まぐれでもないですわ。……そう、これは組織の為」 こんな安い手に引っかかる愚かな人間共なんて死んでしまえばいいのですわ。 女、小此木・るりかはそう言って嘲笑う。 「悪ィ、遅れたな。こっから先は折れも喧嘩に混ざらさせて貰うぜ!」 「これ以上悪さはさせないよ!!」 「やあお嬢さん。悪事から足を洗ってオニーさんと付き合わない?」 「っ、……随分と騒がしいお仲間がいらっしゃいますのね」 猛の斬風脚と、リスキーのピンポイント。しかし斬風脚をガードしたるりかは、そのステップで足狙いのピンポイントを難なく躱す。 そのままるりかは、猛の着ぐるみに目を眇め、リスキーに対してはちらりと視線を投げただけで答えなかった。 「それに、悪さじゃありませんわ。これはただの間引きですわ」 ウェスティアを見て微笑んだるりか。微笑まれたウェスティアはぞくりと背筋に寒気を憶えた。 しかし気圧されている場合ではない。一瞬下がりそうになった脚を叱咤して踏み込む。 「なら、勝手に間引く事の、どこが悪さじゃないっていうの?!」 奏でるのは魔曲・四重奏。旋律が彼女を穿つが、ガードを重ねて弾き、全弾のダメージを叩き込む事は出来ない。 「きいてみたいことがあるんですが、いいですか~?」 ほわわん、と言葉を投げるのは奏音。るりかはその声に向き直り、微笑んだ。 「あら可愛らしいお嬢さん、何かしら?」 「趣味や嗜好は人それぞれとはいえ~」 こんな都市伝説に縋る程に誰かが憎い人なんてそうはいないでしょうし、きっと雨の火も風の日も、こんな夜遅くに誰か依頼に来ないかな~と、ここでコッソリ隠れて様子を伺って、誰も来なかった日は一人寂しくおうちに帰る日々……。 「……寂しくなかったです?」 「随分と決めつけるのがお好きなのね。けれど礼儀正しい子は好きですの」 だから答えて差し上げますわ、とにっこり笑うるりか。 「寂しくはありませんわ。だって仲間がいますもの!」 貴方達と同じ様に、と微笑んだるりかが、一直線に奏音へと向かっていこうとする。 しかしそれは前衛に入っていた行方や朱子に阻まれ叶わない。 「仲間っていいですわよね……そう、それはとてもとても素敵なもの」 うっとりとした目でるりかが呟き、次の瞬間視線を引き締め、最前衛に出ていた朱子へと麻痺狙いのギャロッププレイを叩き込んだ。 「麻痺に負ける、私ではない……!」 お前の攻撃はわかっている、と傷を受けながらも麻痺をはじき飛ばした朱子が挑発を重ねる。 「朱子さん素敵です~」 攻撃を受けなかった奏音がほんわりと朱子の動きを称えながら、容赦なくるりかへと叩き込むのはマジックミサイル。 それを躱そうとしてステップを踏み、後方へ飛ぼうとしたその時、がくんと足が何かに引っかかった。 地面から突き出た手に足首を掴まれた。地に潜んでいたオーウェンの手だった。 「……くっ……!」 それを認識し、その手を蹴り飛ばして外した時にはもう遅い。 「っ、きゃああああ!!」 直撃を喰らい、悲鳴を上げるるりか。 「この……っ、ばらばらばらばら小バエのように……!」 るりかは、額を切ったのか、ぼたぼたと血を零しながら先程までの余裕を失ってリベリスタ達を睨み付ける。 戦いはまだ、始まったばかり。何が起こるかは、誰にも、わからない。 ●青林檎の誘惑 浅倉 貴志(BNE002656)が合流したのは、戦いも中盤になってから程なくして。 囮として離れた場所で待機していた彼は、るりかが訪れずに電話ボックスの方角から戦闘音が響いてきたのを聞きつけて急いで駆けつけたのだ。 その視界に飛び込んできたのは、るりか側についたリスキーと猛、その三人を相手に苦戦する四人の仲間達の姿だった。 「これは……!」 「魅了が厄介デス。あの胸元の刺青を見てはイケマセン」 ヒットアンドアウェイで後ろに退いた行方が、合流してきた貴志にそう忠告する。 るりかの胸元では、青林檎の刺青が妖しく輝いていた。 「魅了……そんなの無くても全ての女性にメロメロだぜっ!」 リスキーが胸を張り、トラップネストをばらまく。狙われたオーウェンが一歩後ろに飛んで躱した。男には容赦ないということだろう。 「俺は折角だからこっちの味方になるぜ!!」 ただのでかい胸だけで誘惑出来ると思ったら大間違い、と言いかけて寝返った猛の言葉である。女性陣の視線が若干厳しいのは気のせいではないだろう。 「あはははははは、リベリスタも大したことないんですわね!」 行方が高笑ったように、るりかが挑発するように真似て高笑う。 「さあ仲間同士で潰れ合ってしまってくださいな♪」 にこやかにステップを踏み、一歩退くるりか。 「るりかさんが逃げようとしています~」 退いた方向にマジックミサイルを威嚇射撃として撃ち込んだ奏音が皆に警告する。 じい~っとるりかの事を眺め続けていた彼女がその小さな仕草にいち早く気付いた事は大きかった。 「……ここは、通さない」 逃がしはしない、と朱子が進路へと走り込めば、るりかが舌打つ。更に方向を変えて逃げようとした先を、今度はウェスティアが塞いだ。 「あら、後ろに隠れてるだけのアナタに何が出来ると言いますの?」 挑発するようなるりかの言葉に、ウェスティアがにこりと笑い返す。 「守られてるだけと思ったら大間違いなんだよ!」 両腕を拡げ、ここは通さないと意思表示をする。 「なら、仕方在りませんわね」 押し通るだけですの、と突破可能と見たのか身体を捻り、跳躍するるりか。 影の奴隷達も一緒に浮き上がり、ウェスティアに向けて放たれるのはブラックジャック。致命的な一撃を食らい、ウェスティアの修一に鮮血が飛び散る。 「……っ! ウェスティア嬢!!」 「ウォルカニス氏!」 その惨状に、リスキーが我を取り戻し、オーウェンのピンポイントと共にトラップネストを放つ。足を絡め取られ、撃ち抜かれて転がるるりか。しかし、上半身を起こして、地に伏せて起き上がれないウェスティアに向けて止めを刺そうと腕を振り上げた。 「さ、せ、る、かァアアアアアアア!!!!!」 滑り込み、ウェスティアを抱えて転がり庇うのは、猛。その背にハイアンドロウが突き刺さり爆発する。 「ぐあ……!」 「猛、さん……!」 腕の中でウェスティアが地に濡れた目を開ける。大丈夫だ、と猛が笑って見せれば、ふっと身体が軽くなる。 癒しの唄。奏音の奏でる天使の歌が戦場を癒していく。 そして、ウェスティアもまた、それに合わせ、起き上がれぬままに歌を紡ぐ。 彼らの傷が癒えるのと、るりかが足の戒めを振り払って立ち上がるのはほぼ同時。 戦場が一度クリアになり、一瞬の静寂を生んだ。 ●BadApple けれど決着はいずれ訪れるのだ。 「ちゃんと罪を償って、その後オニーさんの元へくるといいぜ」 「僕らが罪を裁きます。さあ、懺悔の時間です」 リスキーと貴志の攻撃に、るりかが地面を転がって喘ぐ。 「……大人しくしろ、出なければ容赦はしない」 朱子と猛がその身体をロープで拘束しようとするが、るりかは飽くまで抵抗する。 ならば仕方無い、と朱子が腕を振り上げたその時。 生々しい音を立てて、青林檎を断ち切って突き刺さる肉切り包丁。 血しぶきに塗れたのは行方。その目の前で、青林檎がどす赤く染まる。 「これで本当の都市伝説になるデスヨ。よかったデスネ、アナタの望んだ姿デス」 それではさようなら、アハ。 そう笑った彼女の姿は、正しく都市伝説の様で。 「……都市伝説カタリを狩る都市伝説少女、か……ふむ」 リスキーはそう呟きながら、血に染まった行方の姿にカメラを向ける。 そのシャッターが切られたのかどうかは、現像した彼にしかわからない事だった。 遺体を回収し、使命を果たして帰路へとつくリベリスタ達。 多くの謎は、未だ深い闇の中――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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