● 『夜の廃校舎ツアー開催』 『悪狐』九品寺 佐幽 (nBNE000247)がぺたぺたと張り紙を貼ってまわる。 見れば、いわゆる肝試しを開催するらしい。 スタンダードな夏の風物詩だけに、一興そそるものがある。 「おや、ご興味がおありで」 ひょいと顔を近づける化け狐さん。暗転する背景。火の玉がひゅーどろろと漂っている。 「脅かす役と脅かされる役、どちらも愉しいですよ」 本当に薄っすらと佐幽は微笑を称える。向こう側が透けて見える鰹節のような悪意だ。 ●下準備 廃校舎では意気揚々と仕掛けの準備、仮装の用意などが執り行われている。中にはあたかもカラクリ屋敷のように廃校舎を魔改造する者さえ居るようだ。 わいのわいのと楽しげだ。 「いっち、にー、サッキュバス♪」 黒髪サイドテールにさくらんぼの髪留め、悪戯げに笑う口許、白い牙。幼くも可憐な、そして愛くるしくも妖しき吸血鬼――日隠日和(ひがくれ ひより)。頭に悪魔の翼の髪飾りをつけ、悪魔めいた尻尾をくねらせた仮装でキュートでダークに決めている。 日和はゲスト参加者である。小悪魔系妹キャラの日和は元はアークのリベリスタ、現在はアークに協力する在野の革醒者である。アークという組織には反発するが、所属する貴方たちリベリスタには悪感情はことさら無いためか、今回はあっさりツアー協力を快諾してくれた。 ちなみに日和は「年上のおねいさん好き」につき、該当者は注意されたし。 「センパイたち、来てくれるかなぁ~?」 野外に落とし穴を掘りながら、日和は白昼妄想に耽る。 「吸血もご無沙汰だし、ちょっとくらい酷い目に合わせてもOKってお達しもらってるし、この機会にしっぽり血を堪能させてもらって……」 ちろり。 舌なめずりする小悪魔日和は、えいさほいさと穴を掘る。 カンッ。 スコップになにか当たった。何だろう。日和はさらに掘り起こそうとしたが――。 「日和さーん、お昼にしませんかー」 「はぁ~いおねーさま♪」 ただいまご執心な出逢ったばかりのおねいさんの昼食のお誘いにコロッと忘れてしまうのだった。 後に、その一帯は地獄のトラップゾーンと化して犠牲者を待ち侘びることに――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月26日(金)23:15 |
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■メイン参加者 29人■ | |||||
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●1 余裕綽々、楽しむために怖がろう。 フランシスカは音楽室を目指して、ぎしぎしと軋む古びた木床の風情を楽しみながら歩く。 コンッ。 「!」 背後で響いた物音に思わず畳んでいた黒翼が開きかけた。チャチな仮装でなく、じわじわ不安感を煽るとは幽霊側も考えている。 物陰に潜む魔弾の射手、桐月院・七海は裏方に徹してけして表には出ず次の仕事場へ。 「定番どころはコンプリたいけど……」 ここは本当に廃墟なのだ。 音楽室は至るところが色褪せ、埃を被っている。一朝一夕では作りえぬ雰囲気だ。 「……」 視線。微かな息遣いの聴こえる、真後ろでだ。 振り返る。 誰もいない。 幽霊役の人? では一体、どうやって消えたのか。 フランシスカは今、確かに、恐怖という娯楽を堪能していた。 ●2 音楽室の扉が開く。 神城・涼の背中に隠れて、アリステアは手を繋いで貰ってなお涙ぐんで震えていた。音楽室に至るまでにも一波乱あったようだ。 「涼、怖くない……?」 「そりゃ、驚く時は驚くよ、けど」 涼は銀髪に指を通してくしゃくしゃと甘く、軽く撫でてやった。 「そこまで強く手を握られちゃ、男はカッコつけるっきゃないんだよ」 涼風の如し笑みに乙女は中てられて、ぽふと大きな背中に顔を埋めてはもごもご何かを言葉する。 『遊ぼうよ』 ぞくり。不意に響いた幼い少女のささやき声に、アリステアの気分は一気に天国から地獄へ。 ふわり。 不意に頬を撫ぜた羽飾りが、恐怖心という爆弾に火をつけた。 「ぴゃああ゛あ゛~~!!」 「ちょ、待!」 涼の手だけは離さず、しかしこの場から立ち去りたい一心でアリステアは暴走爆走、美術室へ。 とすっ。 何かにぶつかる。それは首吊り死体であった! 「やぁーっ!」 悲鳴特急は逃げ込むように美術室へ。 目。 目だ。 二つの巨大な禍々しき目が暗闇にぼんやりと輝き、二人を睨む。 『くすっ、逃げても駄目だよ』 ささやき声に凍りつくアリステアを必死に庇う涼。しかし二人は直後に信じがたいものを見た。 ぶらり、ゆらり。 真っ白な足、死に装束には血が滲み、宙吊り死体がゆらりとこちらを振り向いた。 ――私だ。 アリステア自身の凄惨な死体を目撃した瞬間、ついに彼女の霊魂は口から昇天するのだった。 「うん、我ながら名演技」 青島 沙希は二人が立ち去った後、怪盗による変装を解いて一息つく。 「……ちょっと可哀想なことしたかな?」 氷の仮面と謳われる沙希は、怖すぎても洒落にならないなと反省し苦笑いした。 ●2.5 図書室のスタンプを得たところで虎 牙緑はソレに気づいた。 「えと、確か名前は……」 ――日隠。 「ああ思い出したぜ。なんだ、一人なのか?」 ――うん、ひとりぼっち。 「懐中電灯は? 落としちまったのか、そんじゃ途中までオレが一緒についててやるよ」 日隠の手を引き、牙緑は図書室を後にした。 ●3 「遅刻ちこくっ!」 JC眼鏡リリはから揚げをくわえて学校の廊下をひた走り、曲がり角へ。 ドンッ☆ 反射的にリリは激突した男のマウントを奪って双銃を口と喉に突きつけ、降伏を迫る。 「ふぁむは!」 無論、眼鏡は落としても唐揚げは口から落とさず。 が、リリの喉元には既に刃が輝いていた。ごくり。唾を呑む。唐揚げも呑む。 「速い――!」 リリは眼鏡を掛け直して納得する。相手は『神速』司馬なのだから。 以上、捏造コンビ結成VTRでした。 「銃に安全装置をつけ封印しておいて正解でした」 と言いつつ、リリは禁断症状に震える。硝煙もしくは鶏肉の匂いを定期的に嗅がないと震えが止まらなくなるハッピーな症状、ではなく恐怖心が原因としておく。 ――コイツ、意外と物騒だ。 司馬は獣騎を活かして万全に警戒しつつ、リリにも注意を払い、次の地点へ向かう。 「よお」 ふたりは牙緑と廊下ですれ違い、軽く挨拶をかわすのだった。 ●4 「――A棟一階通路、障害クリア」 高原 恵梨香は閉所突入を想定した謎の訓練を行っていた。脅かされたら負け。障害回避、または逆に脅かしてホールドアップで勝ち。そういうスニーキングなゲームだ。 保健室に到着、室内を千里眼で覗く。 「雷音、ユーヌ……」 相手にとって不足なし。雷音は白装束でベッドメイク中、ユーヌはなぜか式符・影人を使役、自身は天井と薬品棚の隙間に隠れている。幽霊役として誰かを驚かす心算だろう。 「! 誰か来た!」 恵梨香はすぐさまダンボール箱を被って擬態、暗闇の中、獲物を待つ蛇のように息を殺した。 「拙者お化けは怖くないでござるけどなぁ」 「そりゃよかった。アラサーのおっさんが悲鳴あげて抱きついてくんのだけは勘弁な」 結城 竜一は悪態をつきつつ鬼蔭 虎鐵と夜の廃校舎を巡っていた。 ダンボール箱の中で観察する第三者の恵梨香は思わず呟く。「……男同士でデート?」と。日頃の行いと無駄な名声の賜物である。 こそこそ尾行するダンボール。 「今、何か動いたでござる?」 「動いてもいいだろ。どうせ偽者だし」 ちらっ。 しーん。 てくてく。 がさごそ。 ちらっ。 しーん。 「今絶対に動いてたでござる! ござる!」 「早く」 竜一に急かされ渋々と歩かされる虎鐵。その背中は哀愁漂っていた。 「うーらめしやー」 保健室に人が入ってきた刹那、白装束でベッドに潜んでいた雷音がひゅーどろろと躍り出た。 「いやぁああっ!」 「うわっ!」 どんがらがっしゃん。絶叫したアリステアは涼を引っ張り薬品棚に激突、上に隠れてたユーヌまで巻き添えになって三段重ねの山盛りに。 が、涼は背中を盾として薬品棚から彼女を守り抜いていた。 「大丈夫か?」 「うん…!」 見つめ合う二人。恋人時空きらきら発生中。一同は茫然と静観する。 ――なにこのバカップル。 「雷音っ! どうしたでござる!」 「ユーヌ!」 ダブルキックで保健室のドアを蹴破り、虎鐵と竜一が乱入してきた。 MK5なアトモスフィアの二人をよそに突進してくる虎鐵。涼がまたもや緊急回避で魅せる。 「ほっ、怪我はないでござるな」 と雷音の無事に一息つくと今度は台無しになった幽霊作戦そっちのけで虎の目にハートが宿る。 雷音は八の字にぺたんと座り、幽霊風の白い着物はなにかの拍子に着崩れて、肩から胸元に至るまで絶妙なエロスを醸していた。 その鎖骨、貪りたい。 「……か、可愛いでござる! 麗しいでござる!!」 「な、何が可愛いのだ! お化けなのだぞ! 怖がるのだ!」 無駄フィジカルを全力発揮して押し倒し抱擁する虎鐵、雷音は赤面しつつも本気では抵抗しない。 拒む必要がない。皆、不器用なりに雷音を元気づけようとしている。 ――だからこそ、空元気でもバカ騒ぎでも構わないのだ。 「雷音こわい! 雷音こわいでござる!」 「それはまんじゅう! 抱きつくな! 馬鹿者!」 ぎしぎし。 保健室のベッドが軋む。 うるさいので竜一はカーテンをさっと引いた。後はシルエットでお楽しみください。 「らいよん、ごしゅーしょさま」 竜一の眼光がギラリとユーヌと影人に照準を定める。 「これは俺も負けてられない! ユーヌたんかわいいよおお!」 「ひっ」 竜一のルパンダイブがユーヌの魔氷拳ビンタへの伝統的コンボに繋がる。もっと浪漫溢れる展開をユーヌが望んでも、このトラブル連鎖と相手が竜一では無理難題だ。 ――が、運良く竜一は凍ったので結果オーライ。 ユーヌは氷結した竜一を後ろからそっと抱きしめ、首筋をそっと撫ぜる。 「冷凍ドラゴンのできあがり」 耳元へ、妖艶にささやく。 「チン、してあげようか」 そうしてユーヌとその影人が竜一の腕を、脚を、愛しげに抱きしめて人肌で暖めはじめた――。 「……保健室、クリア」 ダンボール戦姫・恵梨香は混乱に乗じてスタンプだけ確保すると早々に保健室を後にする。 「アタシは何も見なかった」 ●5 美術室の扉が開く。 春津見は飄々としてマイペースを崩さず、怖がりルーメリアはコアラみたく抱きついている。 ルメ子は当初『小梢さんがこ、怖いかなと思って…』と強がりを述べて『小梢さん、ルメの後ろに隠れていいからね!』と先頭を歩いてたがその勇ましさは3分で崩壊した。 七海のコンニャク罠の餌食となって。 「もきゅもきゅ」 一方、春津見は罠コンニャクを餌食とした。 「ひゅいっ」 光る黒板の大目玉にルメ子が驚き、背後に回る。よくみれば黒板の片隅には『by琥珀』と仕掛け主の名、彼が蛍光塗料で描いた落書きだったのだ。 そうなだめつつ春津見が暗中の教卓にあるスタンプを確保。 『お人形さんみっけ』 光る糸。 頬を掠める一糸。紙一重でかわすも次々と更なる糸が殺到、ルメ子を守って春津見は縛された。腕に、脚に、首に、尻尾に、ポニテに。逆さ吊りの春津見。柔肌に気糸が食い込み、豊かな肢体がゆるやかに緊縛される。 「いやーん」 「ひぅ、こ、小梢さん!」 『くすくす』 妖しげな少女のささやき声の怖さにルーメリアは耳を塞ぐ。けれども勇気を振り絞り、床に転がる懐中電灯を必死に拾い、涙目になりながらも春津見の縛りを解こうとする。 『アハハハ』 恐怖を煽る嘲笑。ふと首筋に掛かる仄かに冷たい吐息に気づく。 背後に、誰か――。 『遊ぼうよ』 動けない。金縛りだ。ルーメリアの首を、細くて白い指先が舐めるように撫ぜる。 凍りつく心、金切り声さえ出てこない。その時だ。 『カンペキ! これで皆を怖がらせる事が出来るよ。楽しみだな~♪』 聞き覚えのある声にルメ子はハッとする。 悪戯姫こと白雪 陽菜だ。 美術室の怪奇のからくりは、陽菜の影潜みと暗視、金縛りはギャロップ、声は加工録音を流してもらっていたのだ。 「てへっ、バレちゃった」 「うゆ~!」 ぽかぽかドスぽか。 「いたたっ、ごめんごめん」 正体のバレたところで春津見も救助、三人娘でかしましく『怖がルメかわいー』とか『こ、怖がってる演技だよ~!』とか『肝が冷えたところでカレーが食べたい』といつもの調子ですっかり和む。 「あ、発光あるの忘れてた!」 ピカっと光ルメ子。 美術室の暗闇が一掃されると窓辺には一面ずらりと沢山のお面が――。 「うひゃああー!?」 「よしよーし」 春津見の胸にぽふと埋まり震えるルメ子に陽菜は一抹、悪戯心と嗜虐心を抱くのだった。 ●6 理科室で骨格標本と握手! シュスタイナは気楽に夜の廃校舎を堪能していらっしゃるようで。 「ほね……っ!」 「大丈夫、細工は無いわよ壱和さん」 「うう」 泣き虫ヨークシャ壱和は尻尾をプルプル震わせ、骨格標本の手を握る。 動かない、よね。 「ふふ、楽しめてる?」 「ひとりだったら既に泣いてますよぉ~」 「うん、楽しめてる」 さわさわ。 くすぐったい羽根のようなもの(by七海)が頬を撫ぜて、壱和、いやシュスカが「ひゃっ」と悲鳴をあげ、反射的に抱きつく。が、背後の骨格標本を巻き込んでふたりは倒れ込んだ。 目を開ければ、骸骨がマウントに。 「~っ!」 ギリギリ悲鳴こそ押し殺す。が、その表情を薄闇の中でしっかりと壱和に見られていた。 壱和の顔を見た途端、安堵したシュスカは悪寒から解放される。けれど余裕を見せていた反動の気恥ずかしさに襲われて所在なげに顔をそらした。 廊下を歩くふたり。 「私も、こうみえて人並みには怖いのよ」 壱和と手を繋いで歩きつつ、シュスタイナは面目を取り繕おうともごもご口籠る。 怖がる素振りを見せまいと振る舞うシュスカに、壱和ははにかみ笑った。 「手……、ありがとうございます」 「え?」 気づけば、自然に手を繋いでいた。他人が無闇に触れることを嫌うシェスカらしくもなく、また逆にらしくもある。どう理由づけようか。悩み、言葉に惑い、答える。 「これで怖さも和らぐでしょ?」 だれの、とは言わず。 一方通行ではない。繋いだ手のぬくもりは、きっとお互いを共に元気づけている筈だ。 「はい♪」 ほんのすこし、繋いだ手をより深く絡めて。 ギシ、ギシリ。 階段の踊り場、宙吊り死体を演じる新田・快はほのぼのと微笑ましい光景を見守った。 例え、気づかれず素通りされても構いやしない。 来客を楽しませてこそ幽霊冥利と心得るならば、あえて無粋を働く道理もあるまい、と。 ●7 かれこれ一刻は宙吊りのまま、新田は死体を演じている。 フランシスカにはじまって既に多くの面々が通過したものの、直球というか安直というか、今ひとつパッとしない。 「う、動くと撃ちました!」 リリ・トリガーハッピーにゴム弾の的にされたり。 「ご苦労さまでござる」 「頑張れ」 虎鐵、竜一ペアに労われたり。 「アークの神速……伊達ではないと言うのだッ!」 司馬・ザ・ゴッドスピードに轢き逃げされたり。 とかく散々な有様だ。無論、多少は怖がり少女たちをワーキャー喘がせても居るが。 「でな、オレも屋台を開いて――」 話し声。新田は天井に張りつき、ひとり頃合いを見計らう。 にしても誰だ。男の声は、誰かに話しかけている様子だが返事は聴こえない。 「日隠の好きな中華料理は――」 他愛ない雑談。 しかし妙な胸騒ぎがしてならない。 いよいよ階段の踊り場に声の主がやってきた瞬間、新田は驚愕した。 独りなのだ。 虎 牙緑は愉しげに、何もない空間と談笑していた。 寒気が走る。 「おいおい……!」 新田は何もできないまま見送る他なく、後にこの一部始終を物語るのだった。 ●8 経緯。 『夏の風物詩、肝試しの到来だ。引きこもっておらずに夏を満喫しろ』 焔 優希はネカフェ篭りしていた佐倉 桜を半ば強引に説得、連行して参加させた。 現状。 『理科室では人体模型とダンスができる』 骨格標本もろとも床でおねんね。 『保健室では半透明の大量の客がやってくるらしい』 リア充の客で満員御礼でした。 「な、肝試しも面白いだろ?」 事前の誘い文句を裏切る惨状の数々に手厳しい反論を覚悟する優希なれど。 「うん!」 と、佐倉はごく素直に賛同する。 通称『咲いてる桜』モードだ。 『このまま外には出らんない。新しい自分にイメチェンしてみる』 と言ってたが、まさか外出用のポジティブ人格を創出するとは。オンオフ切り替えてるだけにせよ、驚きだ。 「ね! 次どこ巡る?」 「ああ、次は――」 佐倉は天真爛漫に明るく、普通に笑ったり怖がったりする。かえって無理してるようで不安になるが、しかし優希はあるがままの佐倉を受け入れ、見守ることにした。 これもまた佐倉なりのユウキなのだ。 優希に愉しげに微笑みかける佐倉。 そのさまを偶然見かけた牙緑は、しかし暫く眺めるのみで声を掛けはしなかった。 「ああ、なんでもねーよ日隠」 ――本当に? 「あいつは前を向いて歩こうとしてる。母親のこと、過去のこと、オレと顔を合わせちゃ色々と思い出すかもしんねーからな」 ――そう。 「それより今はお前の落しものを見つけるのが先だろ」 そう述べて、牙緑はひとり裏庭へ向かった。 ●9 さながら騎士と姫君の如く、リンシードと斬風 糾華は廃校舎の廊下を歩く。 糾華は小動物のように闇に怯えて服裾を摘み、リンシードは虚ろな眼で暗中の幽霊を探し求める。しかし口の端は薄っすら三日月を描き、姫君の狼狽を愉悦としていることは明白だ。 「うー」 睨みつけても涼しげな横顔を見せるばかり。 「守ってよね」 「はい」 「絶対、絶対守ってよね」 「はいはい」 「“はい”は一回!」 「では“絶対”も一回にしてから言ってください」 「うーっ」 唸る糾華ちゃんkawaiiと思われた方は、黒蝶館のあざぐるみをぜひ購入あれ。 「では、誓いましょう」 回廊へ差し込む月明かり。 リンシードは片膝をつき、糾華の手に素知らぬ顔で騎士の忠誠の証を口付ける。 「ご安心を、お姉様。私が必ず守りますから……」 面を背けた糾華の表情は夜月のみが知る内緒だ。 「はぅっ…」 こんにゃくが頬をぺちり。糾華はどうにか悲鳴を堪える。表向き慰めつつ、、弱々しいお姉様を堪能できたリンシードは、むしろ影に潜む七海に心密かに感謝する。 なにげに七海、名脇役である。 「ヒッ…」 今度は白いシーツの琥珀演じる幽霊だ。古典的でチャチなのに、廃校舎の雰囲気と懐中電灯しかない心もとなさがジリジリ糾華を追い詰め、密着を強いる。 「ぇぅぅ…もう帰る」 次第に涙を目に湛えはじめた糾華。 と、背後から猛然と迫る影。爛々と光る眼鏡、風に棚引く爬虫類の尾――。 「ブリッツクリーク!」 暴走一風。 あっという間に走り抜けていった蜥蜴怪人――実際は司馬と引きずられたリリ――の意味不明さに、糾華は腰が抜けてへなへなと座り込んでしまう。 リンシードはやむなくお姫様抱っこを強行、颯爽と抵抗する糾華を運び去るのだった。 「どうです、お姉様…私、頼もしいでしょう?」 「リンシードのバカバカバカぁ~!」 ●10 校庭トイレへと辿り着き、恵梨香はついに最後のスタンプを押した。 「任務達成、ね」 外へ出ようとドアノブをまわすが、なぜか開かない。焦る。これは罠だ。 「しまっ…!」 ゆらりと現れ出ずる影――白牙がぬらりと輝いた。 司馬とリリは最後に校庭に辿り着く。ここは男女別々だ。リリは一旦、司馬と分かれて単身女子トイレへと潜入する。 拳銃を手に確認行動を取りスタンプを探す、と。 「ひ、日隠様……?」 ちろりと血染めの口許を舐り、悪魔めいた衣装を纏った日隠日和は甘い吐息を吐いた。 「あはっ」 意識を失った恵梨香をそっと安置すると、日和はいつになく魔的にリリへ迫る。 言葉に惑い、気圧される。 「い、いい子になさっていたようで……」 「センパァイ、今宵はだぁれと逢瀬をお楽しみで? ……嫉妬、しちゃいますよ」 かぷり。 「るんたった~♪」 完全制覇を目指して独り邁進するレイチェルもまた校庭トイレを辿り着く。 怖いもの知らずのレイチェルはここまで楽しむだけ楽しみ、何事もなく通過してきたわけだが、ここまではあくまで余興だ。 ぶっちゃけ本命は日隠日和に他ならない。 「ここまで遭遇しなかったことは残るは裏庭とここだけね」 突撃あるのみ。 バンと扉を派手に開けてみれば、床に横たわる生贄――恵梨香とリリを見つけた。首筋に咬跡。両者とも薄っすら意識はあるものの瞳は虚ろ、背徳的構図で絡み合い、服は乱れて吐息は微熱を帯びていた。 「はい、ピース」 ぱしゃり。 レイチェルは恵梨香とリリの虚ろ目ダブルピースを記念写真として何となく撮っておく。 「酷い、事件だったわね……」 まだ遠くには行っていないはずだ。 裏庭。 ベルカは熱帯夜と鬼火の暑さにハヘハヘと舌を出して呼吸しつつ穴を掘る。 「駄フォックスに言われてきてみれば! ふっふっふ、裏の畑でポチが鳴く! ここ掘れわんわんお! 掘らずにおらりょうか!」 夢中で掘る掘る、穴を掘る。 裏庭は落とし穴の類が山ほどあり、底にはトランポリンや空っぽの宝箱などが入っていた。 しかしベルカの野生が告げる。必ずや、何かあるはずだと。 「ベルカおねいさま~?」 「わっふん?」 爛々と光る紅の瞳――ぽたぽたと血の滴る口許をそっとベルカの犬耳に近づけ、吸血鬼は何かをささやく。甘美に、蠱惑的に。 ベルカは駄狐の罠を悟る。 「い、痛くしないでね……」 アヲォォォォォォォォンッ! 人狼の遠吠えが裏庭に響く中、注射針を刺された子犬のような情けない悲鳴もまた響いた。 裏庭には、琥珀の施した青色発光ダイオードの鬼火が吊るされている。 妖しい青光の揺らめきに照らされて、すんすんとベルカは泣き寝入り、その髪や体毛を日和は愛しそうな手つきで手櫛して労る。 「おねいさまの血って濃厚で野性味があって、ス、テ、キ」 「痛かった! 意外と痛かった!」 「そのうち快感になりますよぉ~?」 「調教反対!」 颯爽レイチェルはそこへ駆けつけ、小悪魔日和をひょいとかっさらい抱き寄せた。 「ね、あたしは日和にだったら血、吸われても…いいよ」 背徳と甘美の血塗れた吐息を間近に感じる二人の距離。 「ねーえ、ひーよーり?」 レイチェルの悪戯げな甘いささやきに、日和はうるりと涙ぐむ。 「……ごめん、ギブ、わたし限界」 「え」 吸血しすぎたのか、日和は露骨に蒼ざめて顔を背け、悪魔の角もぽろりと落ちた。 「ある意味、一番甘えられてんのかなぁ」 苦笑いしつつ、レイチェルは日和を背負って救護テントに運んでやるのだった。 ●11 「夏といえば! 納涼肝試し! だー☆」 お化け屋敷大好き系男子の鴉魔・終は唯一コンプ達成に王手を掛けていた。 ここまで色々と舞台裏の幽霊役の人達をこっそり観察してきたが、各自とても工夫を凝らしていて表と裏のギャップはなかなか見ごたえがあった。 そんな楽しい廃校舎ツアーも残すは裏庭のみ。 裏庭の表舞台では、今なお幽霊vs人間の熾烈な戦いがつづく。 赤い月が煌々と輝く夜空、青い鬼火が連なり漂う。 木々や置物がざわめき、得体の知れぬ人影や白シーツ幽霊がゆらゆらと不気味に彷徨う。 『引キ返セ』『ひ忌かえ世』 包囲網が続々と狭まっていく中、人狼の遠吠えが響き渡る。 裏にまわってみれば、それは纏向 瑞樹の仕業だと一目瞭然なれど、本気でワーキャー悲鳴をあげてる人々のために黙っておこう。 と、その時だ。 『ギャァァァァァスッ!』 突如の乱入者。 『狂気の肉屋』守屋・黒夫――その名を皆が知る由もない。この肝試しに“登録せず”偶然、買い物帰りに暗くてジメジメした廃校舎で寛ぎ、ビールを一杯ぷはぁと飲み干していたところで急に周囲が肝試しで騒々しくなり、出てきてびっくり人魂をはじめ恐怖の幽霊オンパレード。 「ぎゃああああーすっ!」 と酒気帯びのまま恐怖に混乱したところに運悪くも吸血事件で裏庭に蔓延していた新鮮な血の匂いを嗅いでしまい一気に豹変する。凶暴化した肉屋の黒夫は肉切包丁を手に狂戦士と化した。 『ジュララララッ! シャヒャッハハッー!』 「ひゃっ☆」 鴉魔はあわや紙一重でかわすと瑞樹の隠れ場に緊急回避、「きゃー!」と巻き込み逃げるハメに。 「アヲォォォンッ! こっちだ! こっちに逃げろ!」 勇ましく御龍は躍り出る。 が。 爛々と光る眼、鋭い牙、狼女メイクに殺気立った表情がさらなる誤解を招く。 「うわぁぁ人狼だぁ!!」 こうなれば幽霊も人間もあったもんじゃなし。 大混乱の裏庭では、包丁蜥蜴と狼女という二大モンスターからの逃走劇がはじまった。 ●12 死屍累々。 裏庭の大混乱は大半が落とし穴にボッシュートされて一件落着となる。 そこへ牙緑が遅れてやってくるや否や、淡々とひとつの穴を掘り下げてゆくではないか。 「あったぜ、日隠!」 ――白骨。 まぎれもなく白骨死体が出土した。 「いや、礼はいいよ、見つかってよかったな」 とうの日隠日和本人が震える指先で「し、した、死体」と白骨死体を指差す中、爽やかな笑顔で星空を見上げて手を振っていた牙緑はフッと意識を失い、倒れた。 ――え? 『今宵の廃校舎ツアーこれにて終了にございます』 佐幽の放送は淡々と終了を告げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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