● 夏だ。 海辺にいると、都会のような暑さも感じることがなく、気持ちがいい。 「……なんて言ってる場合か、腹減ったんだよ!」 俺の名は風祭・翔。逆凪に所属するフィクサードだ。 つい2、3ヶ月前には焼肉が急激に食いたくなって牛舎を襲撃しようとしたら、牛のアザーバイドと戦う事になった。 ヤツは強かったぜぇ。 アークのリベリスタ連中と一時的に共闘したが、タイマンなら負けてたかもしれないな。 それから今まで何してたかって? 「――俺は俺の意思で戻らずに修行をしてるんだ! 決して迷ったとかじゃねぇ!」 そうだ、俺は武者修行をしているんだ。 べ、別に帰ろうとしたらこんな場所に彷徨い出たとかそんなんじゃねぇからな! 「ともかくだ、腹の虫が鳴り響いている今をどうにかしたいぜ」 あぁくそ、適当な木の棒に落ちてた釣り糸と針、ミミズ引っ掛けてもつれる気配がねぇ。 いや……なんかかかったぞ? 『海は良い』 どうやら穴の先は海に通じていたらしい。 といっても足が浸かる程度の浅さだが、カニの俺にとっては水気のない場所に降り立つよりはマシだ。 配下の連中もついてきてしまったのか。見慣れない環境にざわついているのは、まだ経験が浅い証拠か。 『何やら、あそこで叫んでいるな』 腹が減ったとか、迷ったんじゃねぇとかいう言葉が耳に届く。 なるほど、そういうヤツを見かけたなら――やる事はひとつだ。 『これを引けば良いのか?』 そいつがたらしているらしい糸を引っ張り、俺は気を引いてやる。 そして俺はこう言うのだ。 『腹が減ったのならば俺と戦え。勝てば俺の腕を食わせてやる。美味いぞ』 とな。 そして対する風祭・翔はこう答えた。 「牛さんパワーを追加した俺様は最強! かかってこいやぁ!」 ――と。 ● 「皆、カニを食べるチャンスよ」 果たしてそういう話で正解なのかはわからないが、桜花 美咲 (nBNE000239)はとにかくそう告げた。 現われたのは蟹座のアザーバイド。 そして、牡牛座のソレと戦って以来行方をくらませていた逆凪のフィクサード、風祭・翔。 「別に今回は両者とも、特に悪い事をしようとしているわけでも、してるわけでもないわ」 やろうとしている事は、蟹座のアザーバイド『アルタルフ』の腕をかけての勝負である。 しかし強力なアザーバイドであるアルタルフに、たった1人で立ち向かっても勝てる道理はない。 ならば集まったリベリスタ達は、風祭・翔を放置してアルタルフと戦い腕を独り占めしても良いし、共闘して勝利して一緒に食べても良い。 どうするかは、集まった諸氏の判断次第。 「カニには自切機能が備わってるからかしらね。勝者には腕を振舞って食べさせるのが、アルタルフの理念みたい」 加えてアルタルフが自分で言っている通りならば、腕は美味でもあるはずだ。 「どう動いても、勝っても負けても恨みっこなし。頑張ってきてね?」 勝利さえすれば、腕は鍋にしても焼いても、どう食べても構わない。 暇ならば海辺で遊んでも良いだろう。 必要なのは、ただ勝利する事だけなのだから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月29日(月)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●迷い迷った道の果て 「カニが食えるなら、俺は今……腹の虫すらも力に変える!」 『なるほど、満腹への想いが空腹すらも力にするか。1対1でやってやろう』 対峙する両者は、もはや一触即発。 「――そのお話、私達も加えていただけませんか」 そんな会話を遮り現れたのは、共に戦いへの参加を望む『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)を始めとしたリベリスタ達。 もちろん彼等の目的は、翔の援護などではない。 「食事の為に戦いか。自然の摂理としては正しいのだろうが、頭が痛くなるな」 やれやれとため息をヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)がついた隣で、 「かにたべたい」 ふと、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)がぽつりと呟いた。 「異世界のカニさん! ……どんな味なんだろ? う~、超楽しみっ♪」 続いた『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)の言葉までも取れば、リベリスタ達の目的は『美味しい』と本人が自負するアルタルフの腕。 硬い甲殻の下に存在する柔らかい蟹肉に、多くのリベリスタ達が既に涎を垂らしている……ようにも見える。 「え、ちょ……俺の蟹だぞ!?」 とはいえ先に戦闘態勢をとっていた翔からすれば、取り分が減る事は当然ながら避けたい部分だ。 「多勢に無勢。よろしければ共闘させて頂けませんか?」 そんな提案をした『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)の言葉を、 「いや、タイマンらしいから……」 と断る翔。 しかし。 「独り占めなんてズルい! まこもカニさん食べたいもん、協力しようよぉ。もっと美味しくなる材料も持ってきたの!」 「お鍋やその他具材も用意しております。翔様はお鍋の締めはうどんとおじや両方ご用意できますよ?」 ほぼ2ヶ月彷徨い歩いていた事を知っていたせいだろう、真独楽とリコルは調理器具や材料をちらつかせて翔を釣りにかかったのだ。 「……なん、だと」 ぴくりと翔の耳が動く。 勝てばあの蟹の腕で空腹を満たす事は出来る。出来るが、もちろん生で――である。 そこに料理が出来るだけのモノが揃っていれば、どれほどまでに蟹を美味しくいただけるだろうか。 「ちょっと色々と用意してみまして。……如何です?」 何時の間にか翔の隣に立っていたリセリアの囁きは、一応は敵の間柄であるにも関わらず、とても甘美に聞こえてしまう。 「よかったら一緒に戦おう? ボクは蟹を使ったパスタを作るつもりなんだけど、興味ないかな?」 「パ、パスタか。それは少し興味があるな」 生で食べるだけしか考えていなかった翔にしてみれば、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が言うパスタも魅力的だ。 「……まあ、しょうがない。フィクサードだって今日はみのがそう。おなかへったんだから、しょうがない」 一方で涼子の言葉を聞く限り、リベリスタ側に他意がないこともわかる。 「リセリア、俺様は逆凪のフィクサードだぜ? 敵対するお前等と共闘なんて出来るわけが……」 「戦って、勝って――かにの料理」 それでも断ろうとする翔に対するリセリアの囁きは、悪魔のソレに近かった。 目の前にぶら下げられた食べ物を、より美味しく頂けるなら――! 「よっしゃああああ! カニ鍋だぁぁーーー!」 自分が逆凪のフィクサードであることも、敵対している勢力からの誘いであることも、翔にとっては『どうでもいい』話になる! 「すべてはみんなでかにをたべるためにっ!!」 「しばらくぶり……2ヶ月ぶりのご馳走だ、絶対食ってやる!」 頷きあった『わんだふるさぽーたー!』テテロ ミーノ(BNE000011)と翔の姿を見れば、今は敵味方の垣根は存在していない。 『これも海という場のせいか。それとも、食欲のせいか。どちらにしろ、海は良い』 話を聞く限りでも敵と味方である2つの陣営が手を組み、自身との戦いに臨む。 その姿にアルタルフは満足げに頷き、 『おかげで眼福でもある』 否、アンジェリカや涼子の水着姿に鼻の下(?)が伸びているらしい。 「海は良い、同感だ」 同じ言葉を発した三影 久(BNE004524)が同調しているのはあくまで海の幸や、景色といったものであるが、当のアルタルフも水着がなくたって海は大好きだ。 『フッ。気が合うな。勝負がなければ、俺の背に乗せて海を共に見るのも良かったかもしれん』 「また機会があればな」 もしも腕を賭けての戦いをアルタルフが申し出る前であったなら、共に海について語らう時間もあっただろう。 それはその機会が訪れた時にやるとして。 「……しかしアークも人の事を言えないが、逆凪も逆凪でユニークだな……」 そして久はゆっくりと翔の方を見やる。 既に悪人というよりただのネタキャラ化してしまっているが、こんな存在を有する逆凪も相当に懐が深いようだ。 ●甲殻を貫け! アルタルフの全身を包む甲殻は非常に硬い。 何の変哲もないただの剣ならば逆に砕いてしまうであろうその硬さは、リベリスタ達の手を焼かせるには十分なものがあった。 「みんなっ! ファイトっ! かにだよっ!」 応援するミーノの声が飛ぶ。 彼女の施した小さな翼が与えた機動力によって、速度の面ではアルタルフを上回る事が出来ている。 「美味しいカニさんのためにっ! いっくよー!」 事実として速度に長けた真独楽の動きはより速さを増し、相対する兵隊蟹の目は彼女を捉えきれずにぐるぐると目を回しそうな勢いだ。 「しかしこの硬さは、流石にどうにかならんのか……」 『硬くなければ蟹ではない。ちなみに殻は赤いが、別に茹でられたりしたわけではないからな』 一方で撃ち込んだガトリングの弾が僅かな弾痕を残しただけに留まったことに、表情を曇らせる久。 甲殻の隙間を貫いた弾だけはアルタルフに対して傷を負わせているものの、自己再生能力を有するアルタルフはさして気にしている様子でもない。 「あの殻を狙ったって無理だ。隙間を狙わないとね」 注意を呼びかける涼子が相対している兵隊蟹もアルタルフほどではないが、硬い甲殻と再生能力を持つ厄介な存在だ。 加えてアルタルフの指示によって散開しているため、周囲を破壊しつくそうとする涼子の攻撃も、1体に殴りつけるだけが精一杯である。 「指揮官としても有能、ですか」 それは周囲の時を切り刻み氷刃の霧を作り出したリセリアも同様で、 「どうにか纏めるように動かせないか?」 「――簡単にはやらせてくれそうもないですね」 兵隊蟹の足を止め、気糸で攻め立てるヒルデガルドの提案も容易ではないとリセリアは感じていた。 「……ったくよぉ」 そんな時、軽いため息と共にヒルデガルドの隣に立つ影。 「こういうのこそ、お前等の得意な各個撃破だろーがよ。どんだけ再生しようが、それ以上に殴っときゃ倒れるだろ!」 翔だ。 ヒルデガルドの気糸に絡め取られ再生能力を封じられた兵隊蟹の甲殻に、彼の拳によって僅かなヒビが入る。 確かに翔は2ヶ月も道に迷うほどにお馬鹿さんだ。 下手をすると九九すら間違えそうな程に勉強も出来ない子である。 しかし、こと戦いにおいては話は別。 「あの蟹の腕、食うんだろ? 俺も食いてぇ。腹の虫は鳴り響いてるからな。だからこいつ等にはとっとと寝ておいてもらおうぜ」 まとめて倒す事を考えるより、攻撃の集中を。 「確かにそうだね。ボクも負けてられないかな……」 頷いたアンジェリカが放つのは、翔に遅れを取るまいと全てのアザーバイドに向けられた不吉を告げる赤い月。 『ぬぅ。面妖な攻撃を……』 さしものアルタルフとて、全ての攻撃に対して万全な防御を敷いているわけではないのだ。 届けられた不吉は彼にちょっとした不幸を与える事となるだろう。 『だが、まだ……だっ!?』 例えば鋏を発射しようとすると同時に、踏ん張った足が砂の上をすべり、あられもない方向に鋏が飛んでいったりする不幸などなど。 リベリスタ達の遥か頭上を飛んでいった鋏が元の場所に戻ってくるまでは、わずか数秒。 「少し隙が大きいですわね」 その数秒の中で、さらにバランスを崩したアルタルフの隙をリコルは決して見逃しはしなかった。 『もしかしたら、お前を倒すための策かもしれんぞ』 当然、アルタルフのこの言葉はブラフである。 カウンターを狙おうにも、攻撃はすでに行ってしまったのだ。鋏が戻ってくるよりも、リコルの終焉の一撃が叩き込まれる方が早い。 「それが本当でも、私の後ろには頼もしい仲間がおりますので」 『く……!』 振り下ろされたリコルの双鉄扇が、甲殻の上からでもアルタルフに激しい衝撃を与える。 自慢の甲殻にはヒビなど入りはしないが、その下の身体にはじわりと広がる鈍い痛み。 『バブルボムを2発放て、残りは目の前の敵を打ち据えろ!』 『ぶくぶくぶくぶく……』 まずはこの数をどうにかしなければならないと判断したアルタルフによって、2体の兵隊蟹が泡を。そして残る3体がリセリアやヒルデガルド、真独楽へと襲い掛かった。 毒を含んだバブルボムは数人のリベリスタ達に直撃し、体内に毒を浸透させるに至る。 ――が。 「ぶーれーいーくー」 何やら溜めの態勢に入っていたミーノが、この時を待ってましたと言わんばかりに笑顔を浮かべ、動いた。 「いびるっ!!」 『良い決めポーズだ!』 アルタルフが褒めるほどに綺麗にポーズを決めた彼女のブレイクイービルの光によって、浸透しようとする毒が即座に打ち消されていく。 「ポーズいいなぁ、俺もなんか決めてみるか」 その様子を見ていた翔も、何やら決めポーズを考え始め……否、 「いやまて、戦え」 「お腹空いてるんでしょう。食べられなくなりますよ?」 速攻でヒルデガルドとリセリアが突っ込んだおかげで、その思考はすぐに戦いに戻ったが。 「そんなのは後で考えると良いんだよ。なんだったらボクも一緒に考えてあげる」 「あぁ……じゃあそうするか!」 アンジェリカの提案を受け入れた翔の拳が叩き込まれると同時に、 「先程の一撃のお返しだ。もっとも、先手を取ったのはわたくしだったか」 甲殻の隙間を狙い放たれたヒルデガルドの気糸を受けた兵隊蟹が、目に『×』の字を浮かべてばたりと倒れる。 「援護する。このまま何体か倒してしまいたいがな」 勢いに乗って押し切りたいと考える久のガトリングの弾は、甲殻に阻まれようとも確実にアザーバイド達に傷跡を残す。 「それは、やってみないとわからない」 結果は後でわかるものだと答えた涼子の早撃ちは、寸分も狂う事無く甲殻の隙間を直撃し、2体目を沈黙させるに十分な威力を見せつけた。 「できるかもしれないね」 「――なら、続かなければなりませんね」 残るは3体。上手くやれば、もう1体くらいは倒せるかもと感じた涼子の期待を裏切るまいと、リセリアの剣が再び時を切り刻む。 凍りついた兵隊蟹は凍る間際になんとかポーズを決めたらしく、 「博物館にでも並ぶおつもりでしょうか?」 などとリセリアが感じたように、飾っても遜色ない美しさがあったとかなかったとか。 「これで3体目だね」 「痛かったかな……ゴメンね。でも、まこ達が強いって認めてくれた?」 ともあれ、凍りついた兵隊蟹もアンジェリカの不吉を告げる月と、真独楽が刻んだ破滅の刻印によって動きが止まる。 心配するような真独楽の言葉に白旗を振って応える様子を見る限り、命に別状もないようだ。 『良い強さだ。このままでは負けてしまうな』 「では、ここで終わりにしますか?」 『は、まさか! 俺はまだ戦いたいぞ。お前達もそうだろう? 俺の腕を食いたいだろう?』 敗色が濃厚になる戦況の中、リコルの終戦勧告をそれでもアルタルフは受け付けない。 彼にとってはここまでの一連の戦いは指揮官としてのソレであり、自身がまだあまり暴れていない事がその理由のようではある。 「まぁ当然だな、俺様もお前と戦いたいぜ」 一方では翔も同様の気持ちであるらしく、 「――では私も一緒に行きましょうか。蟹を食べるのは皆で、ですよ」 「しょうがねーなー。遅れんなよ、リセリア!」 共闘を求めるリセリアと共に前へと進む翔。 「やることは同じだ。このままいこう」 「兵隊蟹と違って、防いでくるところは憎らしいな」 後方からは2人の援護を買って出た涼子と久が放つ弾丸がアルタルフを襲うが、さすがに兵隊蟹のように簡単に甲殻の隙間に直撃させてはくれない。 『狙いがわかっている以上、防ぐのもやりやすいぞ』 「隙が少ないな。狙いやすいが、その分だけ避けられやすいか」 ヒルデガルドの放った気糸だけは上手く隙間を撃ち貫いたものの、僅かな動きだけで攻撃を甲殻で阻む様から、アルタルフの実力は読み取れるというもの。 すさまじい勢いを持って振り下ろされたアルタルフの鋏に、リコルほどの実力者ですら軽く膝をついた点からも、それは良く分かる。 「みんな、まけるなー♪」 それでも戦況を見守るミーノが健在である限り、例えアルタルフがどれ程に強かろうがリベリスタ側の誰かが倒される可能性が低い点は僥倖か。 「応援には応えないとね! っていうか、目の前にある美味しい蟹、逃がさないよ!」 「ええ、そうですわね。良い食材ならば、腕を存分に振るいたくなってしまいます」 彼女の応援を受けた真独楽やリコルの攻撃に、どこかしら威力が微量に増したような感じを受けたのは、おそらく気のせいではないだろう。 そのまま一進一退の攻防がしばらく続き、膠着するかのように見えた――が。 不意に戦いは終わりの時を迎える。 『よくぞここまで戦ってくれたっ! 俺も結構ぼろぼろだ、体が痛くなってきた!』 リベリスタ達+1の猛攻を受けたアルタルフが、いよいよ辛くなった事が原因である。 『では、最後のテストだ。耐えろよ?』 「え、ちょ……俺様かよ!?」 ならば最後に『これに耐えられたら合格!』とアルタルフが放ったのは、殴って、蹴って、投げて、そして――。 「こ、これはまさか!?」 「……全力ラッシュだね」 あまりにもすさまじい威力を、離れていても感じることが出来るほどのラッシュを垣間見たリセリアや涼子が見守る中、 「がんばって耐えて……!」 「かにのため、がんばれー!」 ぼこぼこにされる翔が耐えることを、アンジェリカとミーノはひたすら祈る。 わずか10秒ほどの時間だったはずが、20秒にも30秒にも、はたまた1分にも感じる程の時間を経て、ラッシュによって砂浜に巻き起こった煙がゆっくりと晴れていく。 そこにいたのは満足げにどっしりと座ったアルタルフ。 ――そして、足だけを砂浜から突き出した格好で刺さっている翔の姿。 彼は蟹をリベリスタ達に食べてもらうため、散っ……、 「いや、死んでねぇ!」 っていなかった。 ●そして蟹の腕は食材となる 『ではまた会おう! さらばだ!』 偶然に開いた穴を通り、帰っていくアザーバイド達。 残されたのはアルタルフ自慢の腕が1本。しかも自切してから30秒ほどすれば新しい腕がさっと生えたのだから、その再生能力には驚きだ。 「脱皮したりするわけじゃなかったんだな」 別に見たかったのではないが、予想を大幅に超えたアルタルフの腕の一件に、久は軽く頭を抱えてため息をつく。 ――ともあれ。 「かに、かに、かにー!」 海に流れる潮風に乗り、漂う美味しそうな匂いにミーノが踊る。 並べられるのは女性陣が腕によりをかけて作り上げた、珠玉の蟹料理! 「これだ、これを待っていたんだっ!」 「あ、ちょ! 独り占めはずるい!」 空腹に耐えかねた翔は先ほど砂浜に突き刺さったことなど無かったかのように蟹料理にかぶりつき、負けじと真独楽も手にした料理をどんどん口に運んでいく。 「お前ら、メインディッシュも良いが…まずはカニサラダだろう。炭水化物等を取る前に食物繊維を摂取すると胃への負担が……」 「とりあえず食え、うめーぞ!」 「もがっ!?」 親切にサラダも進める久の口にパスタを詰め込み、翔がくくっと笑みを浮かべる。 「良い食べっぷりですね、作ったかいがあります」 「まったくだね……美味しそうに食べてもらえると、嬉しいよ」 結構な量の食材を用意していたはずが、あれよあれよという内に消えていく様子に、リコルもアンジェリカもどこか嬉しそうである。 「……大丈夫なんですかね、彼。放っておいて」 「後ほど、最寄の交通機関につれていこうかと思っています」 一方でリセリアが懸念するのは、再び翔が迷子にならないかどうかだった。 これについてはリコルが対策を考えていた事でどうにかなりそうではあるが、果たしてどうなることやら。 「まこ、かにしゃぶってやってみたかったの! お鍋にポン酢に……一式準備して、いざ!」 「かにしゃぶウメェェェ!」 「ちょ!? 横取り厳禁!!」 しかし真独楽の楽しみであったかにしゃぶを横からぱくりと行ってしまうところを見れば、まぁ大丈夫……だとは思いたい。 「まこちゃん、アンジェちゃん、かにだよかにかにっ! いっぱいたべよー!」 「ぬぁぁぁ、俺の蟹がっ!」 蟹取り合戦にミーノまでもが参戦すれば、翔とてそう易々と真独楽から強奪することは難しくなったようだが、 「……まぁ、平和はいいものだな」 その様子を離れた場所から眺め、お茶をすするヒルデガルドにしてみれば、平和と呼ぶにふさわしい情景だった――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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