●闇に降り立つ太陽竜 村人が全て立ち去り、地図から消えた村があった。 特に猟奇的な事件で住人が居なくなった、というのではなく、不便な立地条件と自然災害が重なり、村での生活が困難。 これ以上住み続ける必要も無いと、全ての住人が納得して立ち去り、荒れ果てた家屋が点在するその地へ、その竜は舞い降りた。 暗雲立ち込め、暗闇に支配されたその村へ、甲高い鳴き声と共に光る物体が飛来する。 それは、大きく長く、先端の尖った嘴、頭頂部から後方へ一直線に伸びる巨大な鶏冠、黄金に輝く鱗、そして鳥の翼のように、小さな羽根が合わさり巨大な翼を形成。 三本指の足を持ち、鳥類と爬虫類の特性を掛け合わせた竜である。 眩いばかりの輝きを全身より放ち、その竜は我が物顔で廃村をのし歩く。 暫しの行軍、そして羽根を休めるに適した場所を作るべく、その竜が大きく頭を持ち上げれば、口より放たれるは光の奔流。 邪魔な廃墟と木々を薙ぎ払い、消し飛ばして出来たその場所に踏み込めば、竜は体を横たえ暫しの休息を得る。 次に向かう場所で、徹底的な殺戮を行う為に…… ● 「竜、っていうよりは翼竜に近いかもね。そんな、ドラゴンが出たわ。今は廃村に潜んで休んでるから、どこか人里に出る前に始末してほしいの」 真白・イヴが集ったリベリスタへ、今回見つかったエリューション・ビーストについての説明を開始する。 今回、彼女の察知したドラゴンは光り輝く竜。 鳥とトカゲを掛け合わせた、まるでキメラの様な竜である。 「今から向かって、休んでる所を襲う形になるわね。時間は夜だけど、この竜そのものが光ってて、明るさに問題は無いわ。 それと、皆が到着して、竜と戦って3分ぐらいしたら、配下の蝶が二匹、戦場にやってくるわ。 竜の方が飛行速度が高かったみたいで、取り残されて追いかけてきた、ってところかしら? 合流前に、なるべく竜を削っておくと楽になるでしょうね」 戦場は廃村、時間は夜間。 足場の悪さはあれど、明度に関しては竜が輝くが故それほど心配は要らないが、戦闘中に訪れる援軍。 挟撃にて後衛が襲われる可能性もある為、その点は少々戦い難いと言えるだろう。 「で、攻撃手段だけど。まとめといたからこれを参考にして。 とりあえず、この竜はすごくタフ、でも鱗はそこまで硬くないから、ダメージはどんどん入っていくわ。 それと、とっても力が強いし、吐き出すブレスも強力。防御より攻撃に偏ったドラゴン、ってところね。 援軍の蝶は、竜に比べてとても弱いし、攻撃力も低いけど、回復と妨害に優れてるわ。油断できない相手よ」 圧倒的な力と引き換えに、守りが疎かな竜。 その竜を癒し、敵対者を蝕む蝶と、互いを補う関係と言えよう。 「あと、この竜は鶏冠をへし折られると、少しの間攻撃が弱くなるの。でも、落ち着いたら怒って、それまで以上に攻撃が激しくなるわ。 狙ってみるか、やめておくかは皆に任せるわね」 今回の竜がもつもう一つの特徴。 一時的にせよ、攻勢を弱められる反面、その後は今まで以上に苛烈な攻撃。 利用の有無は任せると彼女は伝え、纏めた資料をリベリスタ達へ手渡し説明を終了。 攻撃面に秀でたドラゴン討伐へと、一行を送り出すのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月13日(火)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●QUETZALCOATL-chapter1 村民が在住困難として移住しただけはあって、その廃村は交通の便が絶望的に悪かった。 長い間手入れがされていない雑草と樹木だらけの道を、枝を折りながら四輪駆動車が抜けていく。 そんな車の後部座席。最低限に設置されたシートに八人のリベリスタがやや窮屈に詰まっていた。 ならば彼らは陰鬱そうにしているのかと言えばそうではなく、どこか高揚感が漂っている。 『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)に至っては膝を叩いて興奮気味な様子でさえあった。 「今度はなんか鶏っぽいわ! 前はミミズだったわね、うん。楽しみだわ!」 「なんだミリー、こういう経験あるのか」 頬杖をついた『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が振り返ると、ミリーは一層テンションを上げた。 「三日前? 一ヶ月前? ちょっと忘れたけど、似たようななんかだったわ! ええっと、氷の……ペルなんとかが何かしたやつに似てるっていう、なにかよ!」 「情報がかけらも伝わってこねえな」 「氷砕竜じゃな? ワームタイプのドラゴンだと聞いておる。ペルなんとかというとケートスじゃが……妾としてはエヴェンキ民族のジャブダル神話を推したいな」 年齢不相応な声色で語り始める『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)。 「となると今回はアステカのケツァルコアトルと言ったところか。アステカ周辺のインディオ言葉で『羽毛ある蛇』をさし、人に文明を与えた平和の神とされておるが」 「もうそれ鶏じゃん。きっと鶏レバーとかデカいんだろうなあ……じゅる」 世にも奇っ怪な笑みを浮かべる『臓物喰い』グレイス・グリーン(BNE004535)。それを無視してシェリーは腕組みをした。 「まあ、モチーフ探しに意味が無かろう。所詮はエリューション・ビーストじゃ」 「は? アザーバイドじゃないんですか。てっきりわたしはそういうモンだとばっかり」 ゴーグルの整備をしていた『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が僅かに顔を上げた。 「まあどっちでもいいですか。神秘を廃絶廃絶っと……確か、戦闘開始から援軍の到着まで三分(18ターン)でしたっけ? 今の人員と照らし合わせると、相当タフってことになりますけーどー……あっ、レンズ落とした」 「形はどうあれ竜退治。戦士の誉れですね」 目を瞑って背筋を伸ばす『ふらいんぐばっふぁろ~』柳生・麗香(BNE004588)。 「ヘラクレスのヒュドラ退治にスサノオの八岐大蛇退治、ベーオウルフの竜殺しに聖ジョージのドラゴン成敗……伝説の勇者に竜退治はつきものですから。浪漫を感じざるを得ませんね」 「浪漫ね。ボクはそんなのより、心置きなく殺せるって所が魅力的かな。リベリスタのエリューション殺し! 後腐れ無くていいよね」 にこにこと笑う『デストロイヤー』双樹 沙羅(BNE004205)。 その横で、同じく『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)がにこにこと笑った。 「そんなヒーローたちを観るのがヘーベルってわけね。なんだかワクワクしてきちゃった。早くつかないかな」 本当に待ち遠しいのか、ヘーベルは足をぶらぶらとやりはじめる。 そんな彼らを乗せ、車はようやく廃村へとたどり着くのだった。 ●QUETZALCOATL-chapter2 あらゆるものを省略して『ここ』より語る。 竜が巨大な翼を羽ばたかせたその時より、村々を覆う空は光と化した。 凄まじい数の光線が複雑怪奇に空を走り、入り乱れる大樹の如く天空を覆うやいなや、光の雨となって降り注いだのだ。 「うおっ! 派手だなあオイ!」 ヘーベルから受けた翼の加護を背負い、一気に竜へと接近しようとしていたカルラたちはまず天空からの光を身体に受けた。 人間が雨粒を避けるすべを持たぬように、まずもって光の雨を避けることができない。どころか雨を浴びた瞬間から体中が燃え上がり、凄まじい熱に覆われるのだ。 だがそれを、二つの意味で意に介さぬ者たちがいた。 「炎はミリーの得意分野よ! まずはこっちに向いてもらうからっ……!」 翼をジェット噴射機のようにとがらせたミリーは、奇妙な中国拳法的構えをとった。彼女を覆っていた炎が渦を巻き、ひとたび大蛇の形をとったかと思えば、恐るべき火竜の頭を形成した。 「ちょっと離れてて!」 ミリーは振り上げた足を豪快に振り切った。途端ミリーの火龍は竜の首へと食らいつき、相手のバランスを大きく崩した。 それを好機とみた沙羅は巨大な鎌へ魔女の箒か何かのように腰掛け、全速力で竜へ接近。 「よく見てよ。ボクが餌で、ボクが敵。その証拠に、今から鱗を切り裂いて見せるから、ちょっと我慢しててよね」 サディスティックな笑みを浮かべ、竜の鱗に片足をつける。 対する竜は彼をにらみ付け、天空からの光を彼一点に集中させた。複雑にする熱光線。これだけの衝撃を受ければまず間違いなく体勢がガタ崩れになる筈だが……。 「ダメだよそれじゃ。黙って殺されてくれないと」 沙羅はまるで、ただの雨でも浴びていたかのように、ただの水流でも浴びただけかのように、にっこりと目を細めた。 見れば、彼の身体からは炎のひとつもあがっておらず、今し方熱戦が彼を貫いていった筈だが、肉体に空いた穴などまるで関係が無いという顔で鎌を竜の鱗へめり込ませる。 「あ、違うか。楽しく歌って殺されてよ。その方がずっとイイよ!」 鱗を引っぺがすかのように一気に引き裂く。吹き出る血が中空で蒸発した。 むっとして広がる赤黒い水蒸気を突き抜けて、カルラが竜の傷口めがけて突っ込んでくる。 「いいぞ二人とも。格ゲーのボーナスステージかってくらいガンガンやろうぜ!」 まずは鱗のはがれた生の肉へと拳を突っ込む。更にもう一本拳を突っ込み。内側の神経らしきものをひっつかんだかと思えば、両足を突っ張って無理矢理引っこ抜いてやった。 これがいかほどの痛みになるか、想像が付くだろうか? もし自主的に体験したいのであれば、今すぐ首筋にフックを通して引っ張ってみるといい。死ぬほど苦しんだ後本当に死ぬだろう。 竜もまた痛みに対して例外ではなく、鳥とも獣ともつかぬ甲高い声をあげて暴れ回った。 ……そんなふうに。 ミリーたちがうまく引きつけている間にシェリーとあばた、そしてヘーベルは竜の後ろ側に回り込んでいた。 まあ相手は飛んでいるので、廃村のごたごたに紛れて低空飛行していればさほど難しい回り込みでもない。ミリーたちが怒濤の猛攻を仕掛けているなら尚のことである。 顎の下を指でかくあばた。 「しっかしドラゴンとかいうくせにリアルな痛みでのたうってんですねえ。こりゃ眼球ぶち抜かれたらどうなるのか見物だわ」 バレル(先端の筒部分)の長い銃を斜め下に向けて飛行開始。 一方、翼のはえた杖に両足で立っていたシェリーは、ゆるく腕を組んだ状態で自らの顎を撫でていた。指で隠れた唇がわずかに歪む。 「ふ、魔力がたぎるわ……ならば両サイドから挟むように展開。すれ違いざまに顔へ打ち込め。妾は『狙って打つ』は苦手だが、『打って殺す』は得意だ。ちょうどよかろう」 「そうなるとまた光の雨が降ってこない? あの羽ばたきは厄介だよ」 二人よりやや退いた位置でふわふわとうかぶヘーベル。 危険を示唆している……というよりは、返答を期待しているようなイントネーションだった。 「なに、回復はおぬしまかせじゃ」 「せいぜい死なないように頼みますよ」 言うやいなやの急発進で竜へと回り込んでいく二人。 ヘーベルはニッと笑うと、手元のハニワに力を込めた。 「オーケー、マイヒーロー」 天使の歌領域展開開始。 陽光の羽ばたき稼働開始。 天空より降り注ぐ光の雨と、聖なる福音がお互いをつぶし合い始めた。 シェリーの腕が光に貫かれ、骨の見えるほどの穴が空いたかと思えば、すぐさま艶やかな素肌まで修復してみせるほどである。 まるでこの世の光景ではない。しかし『この世』だからこその光景でもあった。 「心頷かなくては力は出し切れぬ。ゆくぞ『若造』!」 竜の右側に回り込んだシェリーは両手でくるりと円相を描き魔方陣を収縮。更に凝縮させた魔力を弾丸に変えて竜の頭めがけて連続で発射した。 次々に着弾する攻撃に顔をしかめる竜。重心を頭をもっていかれないようにと身体全体でバランスをとろうとした所で、左側に回り込んだあばたの射撃が始まった。 「丸見えですよ。セキュリティが甘々だなぁ」 ゴーグルを遮光モードにしてにやりと笑い、両手でしっかりと持った銃でもって竜の眼球へと連続射撃を叩き込んだ。 シェリーの攻撃に気を配っていたこの射撃はなんとも避けがたいものだった。たちまち竜の左眼孔は特殊弾頭だらけとなった。 これほどの好機はない。 「臓物いただきっ!」 竜の真下から急加速によって上昇してきたグレイスが、手刀を腰の辺りで構えた。あたかも刀を鞘から抜くかのように、指先を軽く包むように持つと、竜の腹めがけて手刀を『抜刀』した。 手刀のアタックポイント。つまり小指側のラインに牙のようなピックを大量につけた『手刀版ナックルダスター』のような籠手とグレイスの腕力が合わさり、竜の腹に大きな斜め傷が走る。 直後、竜の腹をかずめるようにカーブした麗香が握り込んだ刀をざっくりと腹に挿入。 そのまま腹に力を入れると、刀を『挿入したまま』竜の腹を駆け抜けた。 「――エエエエエエエイッ!」 グレイスと交差するようにばっさりと切り裂かれた腹から大量の血が噴き出し、それらもまた一斉に蒸発する。 これに我慢ならぬは勿論竜本人である。牙をむき出しにして唸ると、天空から降り注いだ大量の光を綺麗に整列させ、麗香の方へと発射した。 いうなれば整列したビーム砲である。麗香は振り抜き姿勢のまま空中で回転。 一本二本と転がるようによけてから、三本目を刀で受け止めた。とはいえ打撃力特化型の彼女である。刀で一度分裂した光が体中につきささり、身体バランスを強制的に崩された麗香は一時的に飛行困難な状態に陥り墜落。歪んだ螺旋を描いて廃墟の屋根へと落ちていった。 「おい麗香!」 「大丈夫、ヘーベルが行く。もう暫く持ちこたえてね!」 ヘーベルは上下逆さになると麗香を追って廃墟へと急降下を開始。 後は彼女に任せてカルラは竜へと突撃した。 次に狙うは翼の付け根である。勿論、現実から遙かに乖離した神秘戦闘においてどこを狙ったからどうお得かなんていう違いはろくにない。もしあるなら全員で眼球のえぐり合いと急所のつぶし合いになるだけだ。ルールの無いヴァーリトゥードだ。 今こうしているのは、全員で竜を全方位から攻撃し、できるだけ被ダメージを抑えようという作戦によるものである。 「なんつーか、ドラゴン退治なんかしてるとランスアタックが恋しくなるぜ。定番なんだろ、そういうの!」 等と言いつつカルラは羽の付け根に向かって素早い蹴りを繰り出した。真空をえぐったかのような鋭い蹴りでぶわりと吹き出る竜の鮮血。 そして今度は竜の真上に陣取ったシェリーが大量に用意したシルバーバレットを連続で叩き込んでいく。 「妾(魔女)の大魔道はおぬしのような巨大な存在を破壊するためにある。あらゆる神話の中でな」 ぐるんと首をひねる竜。仕返しのつもりなのか、竜の口内に光の粒子が集まり、煌々と周囲を照らし始める。もしこれが巨大なビーム砲か何かで、その照準をだれかに定めているのだとしたら、恐らく狙いはシェリーであろう。 目を細めて笑うシェリー。 「哀れよな。そのような力を持ちながらも満足に使えなんだ」 「だってこんなに囲まれてるから――なっ!」 真下から、ドロップキックの要領で攻撃が叩き込まれる。 その位置が顎で、相手が速力満点のグレイスだったのだから始末が悪い。 哀れドラゴンの顎はばくんと閉じられ放たれる筈の光線を目や鼻から吹き出すにいたり自滅してしまったのだ……とは、残念ながらならなかった。 厳密は話でもなんでもないが、自分より遙かに小さい人間に叩かれて閉じてしまう程度の弱い顎ならば、最初から開かない方がマシだ。 しかしいざ放とうとした攻撃を横合いから邪魔されれば誰とて多少は嫌がるもの。竜から放たれた巨大な光の柱は、シェリーの腕を一本まるごと消滅させるだけで済んだ。 『済んだ』というのは、すっ飛んできたヘーベルが天使の歌を再び展開したからだ。 「お待たせマイヒーロー! 伝言だよ、『鶏冠をもげ』だって!」 「それが語れるということは」 「はい、お待たせしました」 地上より伸びる一本の柱があった。 否、それは柱では無く光であり。 光ではなく人の描いた軌跡であり。 奇跡ではなくエネルギーの尾であり。 エネルギー尾ではなく、刀を肉食鳥のくちばしが如く構えた麗香による全身全霊の突撃であった。 竜の腹にぼすんとめり込んだ麗香は、鱗と羽毛をまき散らし、竜の背より現われ中空へと飛び出した。 ぎらりと右目が光る。 「スキャンが調いました。相手の体力はのこりわずか。そして蝶の接近は……!」 ばっと振り向く。あばたが銃に弾込めを終えてニヤニヤと笑っていた。 「イーグルアイで見えてますよ。あともうちょっと。つまりラストスパートってわけです。というわけで――行きます!」 あばたは狙いをすましにすまし、竜の鶏冠めがけて発砲。 弾頭は正確な回転をもって鶏冠へと命中。根元を螺旋状に千切るに至る……が、しかしまだ外れない! 鶏冠が赤く輝き、竜はぐっと息を吸い込んだ。 ブレスの準備だ。 ドラゴンのブレスとは本来、火炎放射器のように火や水を吐くものではなく、竜の言語によって高度な魔法を実現させるというものだ。この竜は別に『竜じみたE・ビースト』なので例外だとは思うが、もはや顎を叩いたくらいでどうにかなるものではない。 しかも今まさに竜がにらみ付けているのがヘーベルとなれば尚のこと。 「――っ!」 驚きと焦りでか、目をかっと開くヘーベル。 そんな彼女めがけて四方八方から光の線が集中。彼女をスポンジのように貫き殺してしまう、と思われたその時。彼女を突き飛ばす影があった。 「君はまだ、うしなうわけにいかないじゃん」 沙羅である。 両腕を交差して防御の姿勢をとった彼を光線が貫いていく。回復を挟んでいるとはいえ、炎や崩しに耐性があるとはいえ、さすがに二度もくらえばタダではすまない。それこそ全身をスポンジのようにしてがくんと身体を傾けた。 が、傾けただけだ。 「いいね、その命。ボクに殺されるために生まれてきた命……!」 穴の空いた顔で歯を食いしばる。するとどうしたことか、全身の穴が一斉に埋まり、狂気じみた目を見開いているではないか。 「沢山殺せるこの世界! サイッコー!」 ぶん回した鎌が竜の首に突き刺さる。 更に、竜の首へと飛び乗ったミリーが上下左右にうねりまくる首の道を驚異的なバランス感覚で上り詰め、炎を纏った腕でもって鶏冠を無理矢理引きちぎってみせた。 「自慢のコレ、いただくわよ! おもしろい戦利品になるわ!」 途端、天空を覆っていた光があからさまに輝きを喪った。 「今じゃ、仕留めよ!」 両腕を振りかざすシェリーが、銃を構えたあばたが、手刀を構えるグレイスが、拳を握るカルラが、刀を翳す麗香が、鎌を回す沙羅が、踵を掲げるミリーが、そして両手に力をためたヘーベルまでもが力を合わせ、渾身の集中攻撃が竜を襲った。 竜は言葉に言い表わせぬ程の苦痛と衝撃に振り回され、しまいには廃村の上へと墜落。文字通りに村を潰してしまったのだった。 ●QUETZALCOATL-chapter3 竜が倒された後、かなり遅れてやってきた蝶がどうなったかなど、わざわざ語るべくもない。 一方的に刈り取られ、一方的にまき散らされた。 かくして村の上へ横たわった竜の死体だけが残り、それもまた自然の理を加速させるかのように高速で腐敗し、土へとかえっていった。ミリーの手元にトサカが一個残ったのみである。 「戦利品、になるのかしら?」 「あーあ、モツ取り損ねた……それ食べたらダメ?」 「あんなものを食べたら腹を壊すぞ。物理的に」 トサカを抱えるミリー。それを指をくわえて眺めるグレイスに、彼女をなだめるシェリーという構図である。 ヘーベルは周辺を適当に(本当に適当に)片付けてから手を払った。 「今回もいいもの見たわ」 「だね、今回もいいもの見れた」 頭の後ろで手を組む沙羅。 「なんだかイントネーションが違いません?」 首を傾げる麗香。 そんな中で、あばたとカルラは遠くの空を見つめていた。 「なあ、気になったんだが……なんであの蝶、やったら到着遅かったんだろうな」 「仕様でしょ?」 「身も蓋もない。いや……仮に、仮に理由があるとしたら?」 「理由……ふうん、確かに気になりますね」 竜はどこから来て、蝶はどこから来たのか。 それらが判明するのは……案外すぐ先のことかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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