●『私に触れないで』 赤く塗られた爪だけが、化粧気のない少女を彩っていた。 白いブラウス。カーキのスカート。よく言えば純朴で清楚、悪し様にとれば地味で野暮ったい。 よく見ればなかなか可愛らしい田舎娘が、背伸びしてマニキュアを塗ってみた。その少女を一言で表現すれば、そういうことになる。 「よ。カノジョ、待ち合わせ?」 かけられた軽薄な言葉。繁華街にはこの手の男が掃いて捨てるほどうろついている。馴れ馴れしく肩に手を置くナンパ男を、少女は胡乱げに見やる。 「いいえ、一人よ」 「お、いいねいいね、だったらさ――」 答えを誘いへの承諾ととった男は、しかし、一人っきりなの、と続ける少女に薄気味悪さを感じ、手を離す。 「何だ、こいつ?」 「……あなたも、私のことを信じてくれないの?」 ゆらり身を翻し男を睨む彼女の目は、先ほどの力のないぼんやりした瞳からは想像できないほどの憎しみの火を映す。そのおぞましい色に、男は思わず少女の肩を突き飛ばしていた。 「何言ってんだよ、気持ち悪いんだよお前!」 「――私に触れないで!」 絶叫は二つ、少女の金切り声と男の悲鳴。肉塊へと変わった右腕を押さえて泣き喚く男を、少女は冷たく見下ろす。その胸に咲く、季節はずれの鳳仙花。 「――私に、触れないで」 ●『万華鏡』 「つまるところは、エリューションを倒す、ただそれだけなの」 ビジョンが示すものを端的すぎる表現に纏め、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言い切った。もちろん、彼女を知るリベリスタたちにとって、それは普段のイヴらしい物言いではあったのだが。 「相手はただ一体。元は人であったもの」 元は人であったもの。それがアンデッドを指す言葉なら、どれほどに救いがあるだろう。だが、彼らは気づいてしまった。何故このフォーチュナが、エリューションを倒せと言ったのか。何故、『人でないもの』を倒せと言ったのか――。 「そう。貴方たちが倒さなければならないのはノーフェイス。フェーズ2よ」 革醒し、けれど運命に愛されなかった者。人の意識すら残すそれを、アークに寄り添う託宣の巫女は標的と呼ぶ。 「相手は高校生くらいの女の子で、全身に鳳仙花の花を咲かせているわ。もちろん、普通の人間にそれは『見えない』けれど」 少女自体の直接的な攻撃力は高くない、と彼女は言う。赤い爪でひっかいたり、刃のように鋭い花弁を飛ばして相手を切り刻むことが出来るものの、一・二撃でリベリスタを仕留めるほどの強力なものではない。 「問題になるのは、彼女に咲いた鳳仙花の方。今にもはじけそうな実が、たっぷり実っているの。もちろん、弾けた種を間近で浴びればただでは済まない」 加えて、少女を守るように巨大な鳳仙花の花が現れる。最初は二輪だけだが、彼女が咲けと強く命じれば、地に落ちた種がたちまちのうちに守護者となって立ちはだかるだろう。 「だから、その花を排除し続ける必要がある。けれど、そればかりに夢中になっても終わりは見えないわ」 僅か八人で、触れた者を皆傷つける少女と無限に咲く鳳仙花を圧倒しなければならない。それはひどく困難な任務に思えたが――。 「でも、貴方たちなら出来ると信じてる。これは『万華鏡』が見せた未来ではないけれど」 お願い、とイヴは囁く。その時、リベリスタたちは不意に理解した。何故この天才フォーチュナがターゲットの背景を教えなかったのか。 「迷わないで。貴方たちなら、その子を殺せると信じてる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月可染 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月17日(日)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ねぇ、桐くん。鳳仙花の花言葉って知ってるかな~?」 んぐ、と雪白 桐(BNE000185) の振舞ったお握りを飲み下し、『兎闊者』天月・光(BNE000490) は悪戯っぽく笑いかけた。食事の間すらじっとしていない光に、桐は困ったように首を傾げる。 「何でしょうね? すみません、私は知りません」 いや、困った風なのはそぶりと口調だけ。無表情極まりない顔からは、彼の心中を計ることはできない。とはいえ、軽く腹ごしらえでも、とお茶を注いでいる時すらこの調子なのだから、きっと生来のものなのだろう。桐の答えを聞き、光はふふん、と胸を張る。 「『私に触れないで』、だよ」 光が言うところの『おまじない』程度ではあったが、既に一帯は人払いの結界の影響下にあった。 だから、路地を抜けていく少女の姿を目にして、『蒼銀の剣士』絢堂・霧香(BNE000618) の胸は早鐘のように鳴る。 (ナギサ、かぁ) あたしも、少し違えばこんな風になっていたのかもしれない、という不安。そして、逆に言えば、彼女もまた。 (……ううん、切り替えろ、あたし) 忍び寄る迷いを必死に振り払う。彼女は――アレは、倒すべき敵だ。幻想纏いの繋ぐ世界より、霧香は長い太刀を引き寄せる。 「フェイトさえ得られていれば、私達の仲間になれたかもしれませんのに」 小さく溜息をつく『ラプチュラス・ブルー』藍苺・白雪・マリエンバート(BNE001005) が緩く首を振った。上品な身なりは年若い令嬢の風情。その実、この場の女性陣を纏めて小娘と笑い飛ばせるほどには、藍苺は歳月と経験を重ねているのだが。 「……いいえ、情けは却って悪いですね。ナギサさんにも、私達を見込んでくれた本部の皆さんにも」 その彼女ですら迷い無く戦いの場に立つことはできず、幾人かと同じように、心中で儀式を必要とした。右の目の紫が、血涙のように輝く。 「全力で、参ります」 「ああ、そうだな」 幻視を纏わずとも美しい乙女の姿、そんな藍苺に少し照れながら、井上・輝紀(BNE001784) は大きく頷いた。はちきれんばかりに張った二の腕、りゅうとして高い上背。リベリスタとして戦うべく鍛え続けた肉体が、戦いの予感に震える。 「被害が広がる前になんとかしちまわねぇと。それに、ナギサもある意味、救ってやれるかもしんねえしな」 彼を見上げる藍苺の唇が、頼もしいですね、と動く。思わず幼い顔をあらぬ方に向ける輝紀。少年には随分と刺激が強かったらしい。 少女の行く手を、幾人かの人影が遮った。 「待ち給え」 大時代な制止の声。芝居がかって立ちふさがる『Dr.Physics』オーウェン・ロザイク(BNE000638)の手には、既に禍々しい絞首索が握られている。 「……通して」 だが、その異様な風体に構うことなく、少女――ナギサは彼らの間をすり抜けていこうとする。ばっ、と腕を広げて制止するオーウェン。輝紀が割り込んで、背にオーウェンを隠す。 「いいや、お前さんを通すことは出来ない。もっとも、このまま返すわけにもいかんがね」 「あなた達も、私のことを『信じて』くれないの?」 それは、噛み合っているようでまるで噛み合わない問答。意味を理解することすらなく、ただ含まれる敵意だけに反応し――。 「しっかし、初っ端から大変そうな相手だこと」 ナギサの背後を塞いだ『市役所の人』須賀 義衛郎(BNE000465) が、溜息交じりに笑ってみせる。初仕事に臨む彼の視界には、瞬時に鳳仙花の花を全身に纏った少女と、その前後に突如として現れた二輪の巨大鳳仙花。 「ありゃ植物というより幻想の類だ。やりたい放題だな」 面倒そうに頭をかきながら、まあ、やるだけやりますかね、と呟く義衛郎に、傍らの桐は無表情のまま応える。 「そうですね、こちらも手加減なんてしませんし」 ――その子を殺せると信じてる。 少し舌足らずで、しかし妙に大人びた口調。イヴが零した台詞を何度も反芻し、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562) は小さく首を振った。 (この力は、守るためのモノ) それこそがフェイトを得た彼女の矜持だった。ああ、それは嘘偽り無い事実。自分達は力を振るい、犠牲者の連鎖を止めるのだから。 けれど。 「──それでも、やるしかないのですね」 花に包まれた哀れな少女を救う唯一の手段。あまりにも無力で無慈悲な現実が、そこにあった。 ● 「行くうさっ!」 最初に飛び出したのは、元気印のこの少女。兎耳をぴょこんと揺らし、胸元の人参チャームを跳ねさせて光が迫る。 「ぼくは庭師の天月光、斬れないものは余りないっ……なんてねっ♪」 ぼく達で花びらは止めるから、と宣言したのはつい先ほどのこと。手にした刺突剣を素早く突きかけ、一枚、二枚と花弁を散らしていく。 光の後ろには藍苺。その隣では、佇立する輝紀の背に守られたオーウェンが無心に精神を研ぎ澄ます。 「聖なる矢――」 藍苺が動く。朗々たる詠唱のもたらす魔力が彼女の周囲に魔法円を描いていく。宙を走る光軌の陣は、虹の七色が一つ、藍の色。 「――かの者を清め、滅し給えっ!」 一条の光の矢が放たれ、狙い過たずナギサを貫く。それは華麗にして苛烈なる宣戦布告。だが。 パァン! 「きゃっ!」 戦場に破裂音が響く。一瞬遅れて、ピンポイントに降り注ぐ銃弾の嵐。致命傷でこそないものの、鳳仙花の堅い種の弾によって、藍苺のコーディネートは見る影も無く引き裂かれていた。 「直接接触しなければ発動しない可能性が無きしも非ず、と思ったのだが」 そう甘くはないようであるな、とオーウェンは鼻を鳴らす。 「ああくそ、本当に面倒だな」 なんでオレちゃんこんなことしてんだろうね、とリベリスタの根幹を揺るがす台詞を吐きながら、義衛郎はナギサの背を狙う。背を守る花は、霧香が抑えきっていた。 「だって市民の皆さんのためだもんなぁしょうがねぇよなぁ!」 ちゃらいナリでも地方公務員の鑑。三高平市愛に満ち溢れた愚痴を零しつつ、右に左にステップを踏む義衛郎。抜き身の刃で変幻自在の動きを見せ、避ける隙すら与えずばさりと斬り付ける。 「お嬢さん、お相手をしてもらえますか?」 全身に闘気をみなぎらせた桐が後に続く。身体に不釣合いな大剣を存分に振り回す彼を、オーラの光が包んだ。 「『信じて』くれないなら、もう私に構わないで!」 「いいえ、そうはいきません。どちらが先に倒れるか、我慢比べですよ?」 食らいつく桐の連撃が、ナギサに咲く花を更なる赤に染めていく。もちろん、彼らはその代償を支払わねばならない。弾け飛ぶ種子が義衛郎に、桐に流血を強いる。 「主よ、正しき恩寵を、どうかあなたの子らに」 彼らが派手に注意を引くのは、後方のシスターを守るため。挟撃班のバックアップを一身に担うカルナは、祈りを捧げ清浄なる力を義衛郎に下ろす。サンキュ、と礼を言う彼に、カルナは柔らかく微笑んだ。 (……けれど) その笑みの裏で、彼女の心に不安がよぎる。循環する魔力から生み出す癒しの力が途切れることはないだろう。だが、もしも手数で押し負けてしまったら。 「とりゃああぁっ!」 そんなカルナの不安を、気合抜群の声が吹き飛ばす。幼い頃からの鍛錬が、考えるより先に霧香の全身を動かしていた。低い位置から斬り上げた野太刀が、巨大な鳳仙花の花弁を裂く。 ――私に触れないで! ナギサの声が耳に残る。でも、他人を頑なに拒むこと、それが彼女の願いなのかな。迷わないと決めた霧香の心は、けれど千々に乱れたまま。 「本当は、誰かに……」 考えすぎかなぁ、と首振り一つ。それでも太刀筋が乱れなかったことは、まさしく修行の成果と言えるだろう。 「あああああっ!」 気がつけば張り巡らされていた細い糸が、突如として牙を剥く。集中に集中を重ね、チャンスを狙い続けたこの一瞬。オーウェンが気を流し込んだ糸は堅固な檻となり、ナギサを罠の只中へと封じ込める。 「罠の感想はどうかね? それがお前さんの弱点であろう……無力化させてもらう!」 糸が絡みつくだけでは、張り裂けんばかりの実も弾けるには弱い。身をよじるのも一苦労といったナギサを、左目を閉じたオーウェンの視線が射抜く。 「よっし、気合いれていくぜ!」 既に鳳仙花は四輪まで数を増やしていた。光が相手取っていた一輪を、輝紀の銃が撃ち抜いて散らす。 「まったく、次に咲く時はもっと綺麗に咲いて欲しいもんだぜ」 こうやって花を減らしてからナギサを攻めればいい。多くの者がそう考え、血の花に殺到した。霧香が抑えていた花も、その形を失う。 だが、しかし。 「こんな……ものっ!」 鳳仙花の汁で染めたかのような朱色の爪。僅かに動いた指先で、ナギサは張り詰めた糸をなぞり――ぷつり、と切る。それは意志の力が拘束の糸を凌駕した瞬間。気の流れを断たれた糸が、たちまちその強度を失った。 「咲きなさい!」 まとわりつく糸を振り払い、少女は叫ぶ。応じて虚空に浮かび上がる、血の花二輪。ナギサを守る従僕は、再び四輪となっていた。 ● 中庸が必ずしも良い結果を生むわけではない。リベリスタ達の苦戦は、つまりはそういうことだろう。 花を倒すことを優先する持久戦か、花を最小限の労力であしらう速攻か。もちろん、圧倒的な攻撃力があれば『いいとこ取り』も可能だ。だが、カルナと藍苺が手数の半ばを回復に費やし、輝紀もまた、拘束に専念するオーウェンの護衛に手を取られている。二正面を戦い抜くには、あまりにも火力が足りない。 「無限に出てくるって、なんだかなあ」 卑怯くせえ、と吐き捨てたのは苛立ちか、それとも苦笑交じりの諧謔か。鳳仙花に果敢な斬撃を浴びせる義衛郎にも疲労の色は濃い。刃の花は、彼らを等しく傷つけていた。 「オレちゃん回復貰ってもいいですかねー」 視線は『敵』から外さないまま、軽い調子でカルナへと呼びかける義衛郎。すぐにその望みは満たされるのだが――。 「乙女の息吹にて、そなたを癒し給う!」 カルナのふんわりとした声とは別の声。柔らかなそよ風が身を包み、傷を塞いでいく。おや、と一瞬視線を投げれば、常になく凛として詠唱を紡ぐ藍苺の姿。 「ありゃ、マリエンバートさんでしたか」 「もう、これだけ入り混じればどちらの班かなんて意味がありませんもの」 にこり、と笑う乙女こと藍苺。だが、彼女ら癒し手には言葉ほどの余裕があったわけではない。カルナが危惧した通り、二人掛りでも徐々に手が回らなくなっていたのだ。 「大丈夫。耐え切ってみせるよ!」 攻撃を集中させる仲間達。期せずして他の花を一手に引き受けることとなった霧香は、全身の反応速度を高め、ある攻撃は受け、ある攻撃は避けて刃の花をいなし続ける。敵の数を減らせれば展望が見える。それまでは、自分こそが盾だ。 だが、赤の花弁は容赦なく彼女を切り刻む。肩に血が滲む。脇腹が裂ける。脚に鋭い痛みが走る。 「負けない!」 それでも踏みとどまる霧香へ、ナギサの放った大きな花弁が一直線に吸い込まれ――これまで彼女を助け続けた素早い身のこなしもろともに、胸を大きく斬り裂いた。 「……あ……」 膝を突く。視界が、暗くなっていく。そっか、あたし負けたんだ。奇妙な納得と共に、霧香は意識を手放し――。 かちり。 脳裏に音が響いた。それは幼い日から慣れ親しんだ、鍔が鳴る音。 意識を手繰り寄せ、引き留める。まだだよ。まだ、あたしは……。 「負け、たく……ないっ!」 そして運命は少女に微笑む。肉体の限界を押し隠し、気力一つで立ち上がる霧香。振りかぶった太刀を唐竹割りに振り下ろし、返す刀でざくり斬り上げる。ばっ、と散る刃の花弁が、彼女の頬をかすめて赤い線を滲ませた。 「おっと、今度はオレちゃんが相手ね」 なおも迫る花の前に立ち、義衛郎は霧香を背に守る。同時に詠唱を紡ぐカルナ。 聖十字を握り締めたカルナが捧げるのは、ただ純粋に誰かを守るための祈り。救いのない戦場に身を置いてなお強い彼女の優しさが、爽やかな風となって霧香を包み込んだ。白い羽とウェーブの髪が風になびく。 「申し訳ございません、遅くなりました」 「ううん、助かったよ」 タイミングを計っていた彼女だからこそ素早く癒しの御業を行使できたことを、誰もが理解していたのだ。 「そのように他人と付き合いたくないならば、砂漠で野垂れ死んでは如何かね?」 皮肉と共にオーウェンが放った気糸は、精密にナギサの目、その一点を狙い撃つ。 「きゃあっ!」 またも閉じられた彼の片目。今最も優先されるのは、確実に鳳仙花の召喚を止めることだ。目を抉ったとてエリューションと化したナギサの動きが止まるわけではないが、少なくとも怒りを自分に向けることは出来る。種子の散弾は、甘んじて受けてみせよう。 「もう、しつこいわね!」 「くっ! ……へへ、行かせねぇぜ」 怒りに燃えるナギサ。鋭い爪が、立ちふさがる輝紀の胸に引きつった傷を残す。二人の狙い通り、彼女の目には、もはや輝紀の向こうに立つオーウェンしか見えてはいなかった。 ねぇ桐君、と背中合わせの少年に囁く光。オーウェンの手妻が功を奏し、ついに鳳仙花は残り一輪となっている。 「ぼく、春のパフェ祭の苺のぱふぇが食べたいな」 言うだけ言って桐の背中からそっと離れ、なんてね、と光は笑ってみせる。そのまま軽やかに鳳仙花へと切り込み、花弁の結節点へと刺突剣を抉りこむ。あっけなく散る最後の花弁。 「……まあ、たまにはいいでしょう――」 「もう、俺がいる場所で誰もやらせやしねぇ!」 財布の中身を思いだし、後ろを振り向かずに桐は答える。だが、その言葉に重なる大音声。視線の先には、羅刹のように爪を何度も振るうナギサと、最後の底力で攻撃を受け止め、血に伏せようとする輝紀の姿。少女の姿も、もう襤褸切れのようだ。 「――どうせ私が出すのでしょうけれど?」 たん、と地を蹴り、ナギサに迫る桐。好んで身に着けているスカートがひらりとなびく。手にするのはまんぼう君と名づけた平たい大剣。確かな質量が、握る手に感じられる。 「運命に選ばれないのは不幸と同義なんでしょうね? ここでは……」 「あ、あ……」 横薙ぎに振るった得物が、少女の胸に叩き込まれる。それは、彼自身すら驚く快心の一撃。ごふり、と血を吐くナギサ。ゆっくりと倒れた彼女の周囲に、血溜りが広がっていく。残す言葉すらない、それが少女の最期だった。 ● 私は盗んでなどおりません。 オリンポスの神々の宴から忽然と消えた黄金の林檎。疑いをかけられ天界を追放された女神は、無実を証明するために真犯人を探す。 だが、神々は誰も女神を信じなかった。彼女を信じ無実の罪を晴らそうとする者は、一柱たりとも現れなかったのだ。 力尽きた女神は、悔しさのあまり自らの屍を花へと変えた。それこそが鳳仙花。私は無実です、と叫び続ける宿命を負った、哀しい花のはじまりだという。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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