●帰る者、帰れぬ者 それは、夜空に月の輝かない夜だった。 人の気配も切れた夜闇の道を、仕事帰り男が一人疲れた様子で歩んでいる。 度重なる残業で精神的に披露し、かつ惜しくも帰りの電車に乗りそびれ終電まで待たされた彼は、自分の不幸をただただ呪うばかりだ。 そんな落胆のさなか、一つの遠吠が彼の耳に届いた。 「野犬……か?」 長く響く獣の叫びは彼の知る動物のそれよりも低く、まるで地の獄から発しているかのようで、生物として根源的な恐怖を呼び起こすものだった。 彼は無意識のうちに身震いし、小脇に抱えていたカバンをきつく抱き直して進む足を早めていく。 「なんで俺がこんな恐い思いしなくちゃならないんだ……」 精神が弱っている時程、人は些細なことでも必要以上の不幸を意識するものである。今自分こそが世の中で最も不幸なサラリーマンだろうという悲哀が、彼の心の内を占めていた。 だが、そんなものはよくある妄想の産物に過ぎない。むしろ自分は幸運だったという密やかな事実を、彼は生涯知ることはないだろう。 数分程前に彼が何事もなく通り過ぎた道の先にある空き地。そこには人間の男だった肉塊が一つ転がっていた。 死骸の上に群がる黒い狼を模した獣達は、鋭い牙で肉を引き裂き本能のままに男を喰らう。 哀れな被害者と夜道を進む彼との違いは、一本早い同じ電車に乗り込んだという事柄のみだ。 群がる獣達の前に、口元を赤く染め上げた一際大きな獣が咆哮する。 足りぬ。まだ足りぬと、獲物を求める魔獣の哮りだった。 ●獣猟者達へ ブリーフィングルームに集うリベリスタ達を前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、今回の依頼についての説明を始めていた。 「闇に溶けるような黒い狼――それが今回現れたE・ビーストよ」 敵はフェーズ1の黒い狼が三匹に、それらを統率するフェーズ2のリーダー格が一匹。 こいつは体格も大きく、全体的な性能は全て一段上だ。また、リーダーだけが赤い目をしているので容易く見分けはつくだろう。 狼達は夜になると近くの空き地に集まって潜み、そこから被害者を狩りに出発する。 空き地の場所は特定できているので、狼達が狩りに出発する前に叩くことが目的だ。 「戦闘になると、フェーズ1の狼はリーダー狼を中心に連携して動くわ」 先にフェーズ2の狼を叩ければ、統率が崩れたフェーズ1の狼達は目に見えて弱体化する。 しかし、先にリーダー格を狙うのなら当然狼達はそれを防ぐような連携と攻撃を仕掛けてくるだろう。 「どちらを優先して倒すかは任せるわね。彼らに、自分達だけ狩る側でないことを教えてきてあげて」 その言葉を最後に告げて、イヴは説明を終えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:上履太郎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月29日(月)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●暗中の待ち人達 そこはきっと、何の変哲も無い場所のはずだった。 少しばかり時代錯誤ではあるかもしれないが、昼間ならば近所に住む子供達がわいわいと走り回って遊び場にでもしそうな空き地。 現在夜の闇に包まれたそこは、怪談話が苦手な類の人ならば空想の恐怖を創りあげてしまうかもしれない。 だが作り話ではなく『そいつら』は実在した。ただし、この夜ここに集いし者達は『そいつら』と同じ位に作り話のような存在だった。 まず、最初に『そいつら』の潜む空き地の入り口へと足を踏み入れたのは、『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)だ。 普段は幻視により人の姿を見せているが、金糸の髪と同色の羽、加えて細く尖った足は鳥類型ビーストハーフのそれである。 (これはもしかして……餌?) この奥に潜む獣を誘き出すために自らデコイとなった比翼子から離れて、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は心の中で思う。 本人は美しい黄金と言い張っているが、比翼子の羽や髪の色から連想されるのはどうしてもひよこだ。美しいというより可愛らしい。 そこで偶然レディ ヘル(BNE004562)と目が合い、ルアは「な、何でもないの!」と慌てて誤魔化した。 言葉を発さぬ彼女は特に関心もないように比翼子へと視線を戻し、マナコントロールで自身の強化を図っている。 何故か持参した毛布数枚を空き地の入り口の脇に安置しつつ、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は、比翼子が『毒ガスが発生している可能性のある所の調査する時、調査員が持って入る鳥籠に入れた鳥』みたいだと考えていたが、流石に言葉として出すことはしなかった。 「リーダーがいる獣の群れですか」 得ている情報により敵の姿を想像しながら言葉にするのは、褐色に猫耳の生えた少女、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)である。 「放って置くと厄介な事になりそうだ。速やかに排除させていただきましょう。野良が相手だから、駆除って事になるのかな?」 一見可愛らしい外見の少女からはおよそ想像し難い物騒な発言をしながら、暗視と超直観にて空き地を探っている。 「あいつらは、何処から来る?」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)はその凛々しい顔立ち通りに、持ち合わせた正義感を燃やし、ARK・ENVGⅢの暗視機能で警戒を続けていた。 「狼、ね……。本当の狼なら撫でさせてもらいたいって思ったけれど、これは頂けないわ」 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼットは直接的を探すより、様子見しながらいつでも戦闘に入れるよう魔方陣を展開している。 「ついてないと感じるような出来事でも大きな目で見れば幸運だったという事はままございますね。本当に不幸な方が現れませんよう、野犬退治を始めましょう」 ライトポットを片手に光源を確保しながら、『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が集音装置で敵味方問わず音を拾い周囲の状況を知覚する。 それぞれがそれぞれの方法で戦闘準備を整えながら、開戦の時を待ち構えている。 故に、その初動に気付いた者は少なくなかった。 闇の中から飛び出してくる一匹の獣。狼によく似て姿で赤眼をしたそれは、顎を開き狙った獲物へと喰らいつかんとする。 しかし、狼が獲物と判断した獲物――比翼子は、同じく人間を遥かに超える獣の長反射神経によって飛び退き、迫る牙を回避した。 喰らい損ねて驚いたのか警戒する赤眼の狼。見えにくいが周囲にはフェイズ1の狼達も低く唸り声を上げているようだ。彼らを前にしても尚、比翼子は自信満々に笑う。 「……ん? どうしたきみたちあたしを見て。なんだつい見惚れちゃったかー仕方ないなー」 その言葉に反抗するかのように、赤眼の狼が咆える。地の底から響くような、獰猛な魔獣の叫び。 死をも予感させる威嚇に対して、疾風が威風堂々と人間の言葉でもって返す。 「闇に紛れ災いをなす狼共、逃がしはしない! 街の平和は守る、変身!」 勇猛果敢な台詞と共に幻想纏いを起動させ、強化装甲を身に纏う。それが開戦の合図となった。 ●狩猟場の狩り合い 獣の雄たけびと共に、全てが加速するように動き出していた。 ルアはまず自分の身体を最速に適応させ走り出し、それとほぼ同時に、レイチェルがプロフェッサーによりこの場における最良の戦闘理論を構築していく。 その間にも、狼達は比翼子を囲うように走り回り、次々と研ぎ澄まされた爪でもって襲撃してくる。 「残り者達も来たな!」 身をよじって爪をやり過ごそうとするも、纏わりつくように跳びかかる動きに、全ては避け切れない。 それでも比翼子は狼達と追いかけっこしながら、トップスピードで一気に速度を上げていく。向こうの連携に少しでも陰りが出たならば、即こちらから反撃に出るつもりだ。 「まずは全員の緊急避難先を作りましょうか」 うさぎはまず仲間達全員に翼の加護を与えて、空という絶対的な逃げ道を作った。狼達の共通の欠点は、二つしかない武器がどちらも近接戦だということだ。 誰かが戦闘不能になる危険性が出たならば、狼達からは手が出せない空中へ飛んでもらい、他のリベリスタからの回復を待つよう作戦を組んでいる。 狼達現状を把握しながら、いつでも後衛の仲間を守れるように動きつつ、疾風が金剛陣で肉体を硬質化。リコルは英霊の魂を加護の力に変換し自身を強化する。 皆着々と狼達へ対抗すべく、戦闘力を上げていく。 リベリスタの多くが初手を強化に費やしたこともあり、戦場が大きなうねりを持って動くことになるのは、ここからだった。 今の自分が出せる最高にまで達したルアのスピードは、もはや赤眼の狼すら凌駕している。 周りの景色が緩やかに流れ、スパークが弾けるように意識だけが加速していく。 彼女の手には二振りの刀。その視界に写った黒い狼は、澱みのない連斬により刻まれていく。 後ろに下がり、なんとか体勢を立て直した狼だったが、続け様、刻まれた傷口に更なる弾丸が叩き込まれた。 あくまで冷静に、何処までも執拗に、レイチェルの気糸が敵の欠点を精密に撃ちぬいて行く。 しかも、狙われた狼は一匹ではない。 彼女が最も優先して狙いを定めるのは――夜闇でも映える赤の眼だ。 ただでさえリベリスタ達の準備とスキルで、狼達は完全に闇へと紛れることができなくなっている。 「暗い夜にその赤い目はとても目立ちますね。同じ赤い目の私が言うのも何ですが、狙ってくれって言ってるようなモノですよ?」 正確無比な射撃が確実に狼達にダメージを重ねていく。それでもまだ、野獣は最初に狙った獲物を諦めてはいない。 赤眼は素早く体勢を立て直し、空き地内を縦横無尽に駆け抜ける。そして、その顎が再び開かれた。 凶悪な牙に狙われた比翼子は、ぞぶりっと自分の肉を裂く独特の音を聞いた。 「痛ぁ……!」 彼女の綺麗な右羽が赤黒く染まり、暗い染みを広げるように血が流れ出す。 「仲間をやらせはしない!」 真っ先に比翼子の援護に動いた疾風は、目立つ巨体の気配を暗闇の中でも捉えた。 赤眼は不意打ち気味の掴み技に体を揺すって脱出しようと足掻くも、力ずくで持ち上げられて、弐式鉄山で大地へと全力で叩きつけられる。 大地で軽くバウンドしその身を宙に躍らせるが、そのまま身軽に一回転。落下の衝撃を殺すよう前足から着地すると、その勢いを再加速の力へと転化させた。 「手応えはあったが、まだ元気らしいな」 「追撃するわ」 走り抜ける赤眼の背に、シュスタイナは己の血を媒介とした黒鎖を放つ――だが鎖が赤眼を絡めとる直前、野生の膂力を活かした身軽な跳躍が入り、黒鎖は空を切る。 その後も操られた鎖が縛り上げたのは、近くにいた別のフェーズ1の狼だけだ。 「思っていた以上の回避速度ね……!」 伊達に他の狼達を従えているわけではないようだ。その動きはフェーズ1の狼達と較べて一線を画している。 だが、打つ手が無いという程でもないと、ヘルは即座に判断した。 『狩る側程罠に掛けやすい』 「ええ固まってくれるならむしろありがたいですね」 ヘルから送られてきたハイテレパスによる助言の意図はこうだ。 赤眼を含めた狼達は、標的を絞ってきている。ならば走り回るにせよ、狼達は必然比翼子の周囲が多くなる。そこを逆手に取ればいい。 狼達が標的との距離を縮めてきた時を狙い、うさぎが踏み込む。 「このタイミングです」 リーダー格の赤眼ごと近くの狼達を巻き込み、神速の刃で次々と切り裂いていく。 「今だ!」 うさぎの攻めによって赤眼の動きが一時的とはいえ止まり、狼達の統制も若干崩れた。その隙を逃がすわけがないと、比翼子は包囲から脱出する。 追い縋るように迫る爪も、先程に比べれば被害を最低限で抑えることができた。 「よっくもやってくれたね! まったく、知性のかけらもない動物は厄介だな!」 これはさっきのお返しだ! という意志が強く伝わってくるな気迫で赤眼を追い大きく跳躍。その落下点は赤眼の真上だ。 「あまり暴れる前に始末してやるとしよう!」 エリューションとはいえ、敵は狼の姿を模している。上からの攻撃に弱いという生物的な欠点もまた共通だった。 予想外していなかった方角から攻め手が現れたことに、赤眼は軽く困惑を覚える。その意識がクリーンになるより先に、リコルが次弾の準備を終えていた。 急激に高められた『倒す』という意志と膂力が爆発的な勢いを生み、双つの鉄扇が高速で赤眼にぶつけられる。赤眼はたたらを踏むが、大地を疾走する速度は、まだ落ちずに維持されていた。 この間を利用してヘルが大天使の吐息を発し、生み出た美風にて比翼子の傷を塞いでいった。 「本当に大したスピードの持ち主ですね」 何発も攻撃を受けながらも、赤眼の狼はまだその加速力と瞬発的な力を失っていない。戦いの流れは激化し、大渦になって戦う者達を飲み込んでいくかのようだ。 ●喰らわれる捕食者 リベリスタ達は積極的にリーダー格を戦闘不能に追い込もうと攻め手を緩めない。 対して赤眼の狼は、自慢のスピードで攻撃を回避してやり過ごし、彼の司令を忠実に果たそうとフェーズ1の狼が揃って戦場をかき回していた。 「やっぱり、似ているの」 そんな中、スローモーションで流れていくルアの視界に黒い狼達が入る度、幼き日の記憶が断片となり脳へと溶けこんでいく。 黒い犬のエリューション・ビーストに、大好きだったお祖母ちゃんが襲われ命を落とした時の記憶だ。 ルアは乗り越えるべき過去と戦うように、赤眼を追い対峙する。そして、すれ違い様、自分へと突撃してくる黒の弾丸を二刀の刃で切り裂いた。 赤眼の身体が麻痺による痙攣を起こし、その戦闘力の大部分を失う。 「このチャンスは……逃しません!」 レイチェルの狙撃が、またも赤眼を撃ち抜き、今度は視力の右半分を喪失した。 それでもまだ足掻くように足を動かし、右目を瞑りながら赤眼が咆哮を上げる。 だが、それはこれまでの獲物を威嚇する力強い叫びではなく、痛みと死の恐怖を実感したからこその悲鳴だった。 狩る者から狩られる者へ。 「今度こそ、恨みとかそういうのはないけれど、倒させて貰うわね」 集中により精度を高めて、シュスタイナが魔法陣から生み出したマジックミサイルを撃ち込む。 その一撃は、叫び続ける赤眼の頭部へ吸い込まれるように高速で直進し、炸裂した。 爆風で巻き上がった埃が晴れると、横倒しになった赤眼の身体が見える。彼は頭部をまるごと失った姿で絶命していた――獣の叫びはもう、聴こえない。 「ごめんなさいね。けれど、これでリーダー格は倒したわ」 統率者を失った狼達は、いともたやすく連携を失った。 獲物を逃さないための包囲や連続攻撃は見る影もなくなり、逃走か戦闘続行かすらも個々で満足に選択できていない状態だ。 「急にチグハグな動きになったな。これなら一気に決着をつけられる。そこだ!」 狼達が完全にバラけてしまうより先に、疾風が自ら相手との距離を詰めた。 これまでの戦闘でフェーズ1の狼達もそれなりに疲弊してきている。ここで残りも一掃してしまうという心構えで電撃を武器に宿し、舞うような連打が次々と狼達を蹴散らしていった。 「そう、この調子で一匹残らず片付けちゃおう!」 これまで散々追いかけ回されてきた比翼子が、これを機に追いかける側へと回る。 空き地の壁を蹴りさらにスピードを上げたソードエアリアルが、必死に逃げ惑う狼の一匹に直撃し、それをトドメとした。 「確かに、結果的にではありますが駆除に近くなりましたね」 リーダーを失った集団は、こうも脆くなるのか。近くで弱っている一匹をたぬきがブラッドエンドデッドで斬り付ける。 さらに、彼女は威力を落とすことになっても、わざと自分と距離を離すように最後の一太刀で狼を吹き飛ばす。 狼が強く身を打ったのと同時、マジックアローの矢が狼の額を貫き、死に至らしめた。 『排除も駆除も末路は同じ』 そこは予めハイテレパスで連絡を取り合っていた、ヘルが敵を狙い撃つための最高のスポットだったのだ。 『瑣末な存在であろうと生かしておけば崩界の危機となる。消滅させなければならない』 これで残るは最後の一匹。全ての仲間が倒れ完全に孤立した狼は、狂ったように最も自分から近いメイドに向けて特攻した。 それは遅すぎる決意であり、覚悟と呼ぶにはあまりに破れかぶれだ。 加速と共に開けた口がメイドの喉元へと迫る。 リコルは半歩身を引くだけで、狼の牙を綺麗に避け流した。 片足が下がると同時に彼女の身が沈み、足元から生じる力の流れが全身のバネで威力を増し鉄扇へと伝導する。 そうして得た力の塊は、隙だらけの狼の身体へカウンターとして打ち込まれた。 敵に終焉を与えるファイナルスマッシュ――圧倒的な衝撃で打ち上げられた狼の命の火は、落下を待たずして既に尽きていた。 「これで、野犬の駆除は終了です」 ●闇を越えた先へ リベリスタ達が狼を狩り尽くした結果、辺りはまた元の静寂へと戻っていた。特に騒ぎを聞きつけた一般人が様子を伺いに来る気配もない。 どうやら今日の狩りが行われる前に狼達を倒すことができたようで、辺りを探しても犠牲者の姿はなかった。 「無事、罪なきサラリーマンの命は守られたな」 新たな犠牲者が出てしまう前に狼達を無事倒すことができ、疾風は一安心と言った様子で装備を解除していた。 「あたしの美しい黄金の羽が相手じゃ、真っ黒い狼は敵じゃなかったね」 散々追いかけ回されたのと血が固まったこともあり、綺麗だった羽は結構薄汚れているのだが、多分そのことはすっかり記憶から抜け落ちているのだろう。 「怪我はなかったですか?」 「うん、わたしは大丈夫なの」 「それなら良かったです」 レイチェルは普段から仲のいい友人であるルアへと駆け寄り、きちんと安否を確認する。 無事戦いに勝利したルアの表情は、憑き物が落ちたように、いつもよりも一層晴れやかな笑顔をしていた。 「これでここも安全ね……あら、何をしているの?」 シュスタイナが念のため他に怪しいものなどがないか辺りを見回していると、たぬきが入り口の脇に置いていた毛布を抱えて持ってきていた。 「ただでさえ最近楽団や親衛隊のせいで一般社会に漏れ出てるだろう規模の騒ぎが多いのですからね。放置なんてできません」 そう言って狼達の遺体を毛布に包んでいく。人目につくより先に運び出してしまい、後はアークに対処を依頼する算段だった。 「もう少し、お付き合い願いますよ?」 と、彼女はもの言わぬ狼達にぽつりと呟いた。 「これにて不幸の芽は人知れず潰えました。めでたしめでたし……常にそうでありたいですね」 人知れず生まれるはずだった不幸は、リベリスタ達の活躍によって人知れず防がれた。リコルの言うように、毎回そうして全てが救えると考えるのは綺麗事かもしれないが、それが理想であるのも事実だろう。 「あら、もう行ってしまうのですか?」 『依頼は完了した』 リコルの問いかけに短く応え、翼を広げてヘルは飛び立った。 (弱肉強食。それはいい) 弱い者が淘汰されて、強者が生き残る。それもまた真理で、どうしようもなく現実の話だ。 (だが、崩界を促す存在は打ち砕く) その使命を貫くことこそが己の生きる意義であるかのように、彼女は内心で断じた。 どこかで羽を休める場所を探そうと考えたその時、雲に隠れていた月が顔を出し、天使である彼女を幻想的に照らす。 闇が人を狩る時間が終わりを告げたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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