●万華鏡 背の高い窓から斜陽が射し込み、部屋が真紅に染まる。影の如き黒衣の少女が持つスピアが、紅い光を映して血に濡れたように燦めいた。 格調高い家具が配された大きな部屋の中央に、虚ろな目のまま力なく横たわる――4人の幼い子供たち。彼らを見下ろし、少女は舌を舐めずる。 「うふふ、おいしそうなにおい……クイーンはおくびょうなの。しばらくはじっとかくれていようなんて、ななみはぜーったいにいや」 部屋に響くのは、唸るような羽音。 「ななみひとりでもへいきだわ……ななみのほうが、クイーンよりも“これ”をじょうずにつかえるもの」 禍々しい巨大なスピアの刃先を、蝋人形のように白い顔をした子供たちへ向け――少女は独りごちる。 「……どのこだったかしら? うーん、わすれちゃったから、ぜんいん、きざんじゃえばいいの」 鋭い刃が、一人の子供の、柔らかな頬にずぶりと食い込んだ。 ●箱舟 「以前アークのリベリスタが遭遇したフィクサードが、新たな事件を起こすようです。攫われた一般人の幼い子供たちが、吸血され、顔に傷を刻まれて、命を落としてしまいます」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを、厳しい表情の『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が出迎えた。 「ですが、これは未来の出来事。皆さんなら、フィクサードが子供たちを傷つける前に、敵の隠れ家に潜入し、彼らを助け出すことが可能な筈です。……どうか、子供たちの命を救ってください」 和泉の切実な要請に、リベリスタは力強く頷く。 「今回の作戦の流れをご説明します。救出対象の子供は、合計10人。――敵の隠れ家には、既に6人の子供たちが囚われているようです」 和泉が示すモニターに、鬱蒼とした森に囲まれた、大きな洋館が映し出される。 「今から向かえば皆さんは、敵が新たに攫ってきた4人の子供を連れ帰る約40分前に、この屋敷に到着することが出来ます。40分という短い時間の中ですが、屋敷内を捜索し、まずは6人を救出してください」 館の外の茂みに小型バスを隠しておき、助けた子供はそこへ連れて行けばいい。そして潜入してから40分後、フィクサードの少女が、E・ビーストと攫った子供を伴って館に戻ってくる。 和泉が予知によって得たタイミングと位置から、子供たちが連れてこられる部屋へと突入すれば、子供を間に挟む形で敵と対峙することができるという。 「4人の子供たちを敵の攻撃から庇いながら屋外まで出て、隠した小型バスに乗り込み撤退してください。屋敷から離れれば、フィクサードやE・ビーストは追ってこないようですから」 館へ戻ってきたとき、敵の構成はフィクサードの少女1人と、成虫のE・ビーストが4匹。 しかしフィクサードは幼虫のE・ビーストを召喚することができるアーティファクトを所持しており、また、屋敷内にはE・ビーストの蛹らしきものも存在すると言うから、注意が必要だ。 「敵の隠れ家は人里離れた森の中にあり、屋敷内のE・ビーストは放置したままでも、一般人に危害が及ぶことはないでしょう。……こんなことをするフィクサードを野放しにしたまま見過ごすのは皆さんも不本意のことと思いますが、今回は敵の撃破よりも、一般人の救出を優先して頂けないでしょうか」 それと……と、和泉は眉根をわずかに寄せる。 「屋敷の地下室に、覚醒者の死体が幾つか、隠されているようです。一体誰のものか、知っているのはフィクサードだけだと思いますが……」 子供たちから気を逸らすため、また再び戦いの場でまみえるときのために、フィクサードから様々な情報を引き出してみるのも有効かもしれない。 どうかよろしくお願いしますと、和泉は深々頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳥栖 京子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月02日(金)00:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 真夏とはいえ、日の傾いた山中はひやりと涼しい。 舗装されていない道を延々と登った先、鬱蒼と茂る木々の間に隠れるようにして、その洋館はあった。 「流石はフィクサードとでも言えば良いのでしょうか、人攫いとは……本当に何でもありですのね」 敵の隠れ家を見上げ、『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は静かに呟く。彼女の傍らでは、恋人の『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が、暗視を併せ持った千里眼で館内の構造の把握に努めている。 「……囚われた子供は、館内に点在しているようだな。地下に2人、1階奥に1人、残り3人は2階か」 玄関ホールを抜けた先の部屋――大客間の天井にエリューションがぎっしりと存在しており、2階を透視するのに死角ができてしまう。残りの子供の居場所は、2階に上がってから改めて千里眼で探すしかないだろう。 「蛹がある部屋は、大客間と主寝室のようですねー」 2階の天井にもエリューションの集団を確認し、仲間にそう告げたのは『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)。今回、攫われた子供を救うため集った8人の内、3人が千里眼と暗視の両方を使うことができる。屋敷は広大かつ入り組んでいたが、探索をするのに非常に有利であることは疑いない。 「さっさと子供を助けて、終わらせるとしようか」 櫻霞の言葉に、櫻子が頷く。 「フィクサードの好き勝手は許しません……参りましょう」 ● 敵も現段階でリベリスタの介入があるとは露とも思わず、油断しているのだろう――厚い樫材の2枚扉は施錠もされておらず、容易く開いた。埃の饐えた匂いが鼻をつく。 吹き抜けになった玄関ホールの正面に、2階へと続く大階段。地下へ向かう階段は、屋敷の奥にあるようだ。 「(今日は私の大切な人たちがそばにいる。攫われた子たちにも大切な人が居るの……だから、必ず護ってみせる!)」 卑劣なフィクサードへの怒りを滲ませ、屋敷の内部を見据える『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)の肩に、優しく大きな手がぽん、と置かれる。 「――大丈夫。悪戯お嬢さんのお守りは面倒だけど、ルアくんもジースくんも一緒だからね」 『ストレンジ』八文字・スケキヨ(BNE001515)の隣では、『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)がにっと笑む。 「俺たち双子の根幹は『護る事』だからな」 絶対に助け出そうと決意を秘めた弟の眼差し、側に居てくれる恋人の存在に、ルアは花が綻ぶようにふわりと微笑んだ。 8人は蛹を処理する【蛹班】と、救出にあたる【子供班】に分かれて行動する手筈になっている。 千里眼の利便性にやや頼りすぎたか、最短距離を行くという方針だけで具体的な探索手順を決めていなかった【子供班】の6人だったが、救助後に余裕があれば地階の探索をする予定のため、2階から回ることにした。 6人の足音に集まってきた幼虫を倒し、櫻霞とジースが吹き抜けの周りに“コ”の字型に並んだ客室を透視する。1部屋に1人ずつ、客室のベッドに寝かされている3人の子供を確認すると、櫻霞が手近な客室の扉を開けた。 埃が積もり、何年も放置されたかのような部屋の中、色褪せたベッドカバーの上にぐったりと横たわる幼い少年。その様子は、大切にしているというよりはむしろ――乱暴な子供が、飽いた人形をドールハウスに雑に放り込んだのを彷彿とさせる。 「……ゆかりさんも心配してるだろうな。でも、絶対助けるから☆」 少年が衰弱はしているものの、外傷も無いのを確かめると、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は彼を軽々抱き上げる。 「それにしても、何であの喫茶店の関係者ばかり……?」 一方、【蛹班】の黎子と『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は、後にフィクサードとの戦場となる1階大客間へと真っ先に向かった。 「これは……」 大客間の高い天井に作られた、六角形が連なる巨大な巣。中央の巣穴には茶色い蓋がされ、この中にE・ビーストの蛹が眠っているのだろう。 「蜂の巣……だな」 「とすると、あの幼虫は蜂の子だったんですねえ」 手早く巣と蛹をカメラに収めると、黎子は双頭鎌を構える。 「それでは、片っ端から潰していくとしましょうか」 「――そうだな」 シェリーの召喚した紅蓮の炎が迸り、吸血蜂の巣を呑み込む。 ● 侵入してきた幼虫に、終の短剣が止めを刺した。凍りついた体が硝子細工のように音を立てて崩れる。 4人目の子供は、閉ざされた1階食堂に居た。 「もう、大丈夫だよ」 見つけ出した少女の髪を、ルアはそっと撫でる。 フィクサードが戻る5分前には和泉が指定した場所へ集合する予定なので、探索に許された時間は35分。屋敷内にバラバラに散らばった子供を救出するのに6人で共に行動するのは余り効率が良いとは言えず、またどうしても大人数での移動が目立ってしまう結果、寄ってくる幼虫との戦闘に時間をとられてしまう。 「ジースくん、5人目の子供の居場所は?」 「痛っ……ちょっと待ってくれ」 まだ使い慣れない千里眼に眉をしかめながらも、子供たちを救うためなら自分の苦痛など構っていられない。ジースは意識を集中し、スケキヨに5人目が地階への階段を降りた右手、2番目の使用人部屋にいること、道中に幼虫の姿は無いことを伝える。 「わかった。ボクが5人目の所へ行くから、皆は先に6人目を助けに行ってください!」 繋いだままにしたAFからは、【蛹班】が2階主寝室の蛹を殲滅中という報告が入っている。千里眼で蛹の場所を探す時間が大幅に短縮出来たこと、殆どの幼虫が【子供班】に倒された後だったことに加え、シェリーの桁違いの火力、黎子が防御力無視のクリティカルを出しやすかったことも幸いしたようだ。 食堂を出たスケキヨに続き、【子供班】の面々も地階へと向かう。 ● 先に地階に隠された遺体のところへ辿り着いたのは、全ての蛹の殲滅した黎子とシェリーだった。 シェリーはここへ来る途中、無害な場所を選び、血を好む蜂の子をそちらへおびき寄せようと小動物の血を垂らす細工も施してきている。 物置の奥、物陰に押し込まれるように横たわっていたのは、赤毛の女性の亡骸だった。 覚醒者の外見年齢はあまり当てにならないけれども……年齢は20代半ばほどだろうか。結った髪も乱れた和装姿、腹部に大きな刺し傷があり、死因はおそらく失血死。物置内に争った痕跡や血痕、身分証も無い。眠っている人形の如き顔は傷ひとつ無く、全身が樹液に似たもので塗り固められている。魔術に造詣の深いシェリーにも何なのかは不明だったが、敵が操るのが蜂のE・ビーストならば、プロポリスのようなものかもしれない。 以前殺された一般人は、『廿』の文字を刻まれた顔をカメラで撮影され、その後遺体は幼虫に吸血されて骨と皮ばかりのミイラと化している。それをフィクサードは『ハニーへのメッセージ』と称したが……今回の遺体に関して解ることは、隠されていたこと・『廿』の傷が無かったことからしても、誰かへのメッセージのため殺された訳では無い、ということだ。 「できれば持って帰りたいと思ってましたが、バスまで運ぶ時間の余裕は無さそうですねー」 黎子とシェリーが一通りの調査を終えた頃、バスに子供を運んできた終・スケキヨ・ルア・ジースの4人も、シェリーの残した魔陣譜を辿って物置に到着する。バスには櫻霞と櫻子が子供たちの護衛として残っていた。 「こんな場所に置いてきぼりは可哀想だけど……ごめんね」 仲間たちが持参したカメラで遺体を撮影し終えると、せめてもと、ルアは客間から持ってきていたシーツを遺体に被せる。 ● 大客間へと続く扉の前。櫻子からインスタントチャージを受け、待つこと5分。 遠くから聞こえる、玄関の重い扉が開く音。 千里眼をもつ3人には、人ほどの大きさのE・ビースト4匹と共に屋敷へ入ってくる敵の姿が見える。大客間の扉が開き、低空飛行した蜂の成虫が、抱えた幼子を部屋の中央に横たえると……フィクサードの少女は、瞳を見開いて天井を見上げた。黒く焼け焦げ、切り裂かれた巨大な蜂の巣。蛹だったものはどろどろと溶け出し、絨毯に染みを作っている――その瞬間、向かい側の扉から、自らの力を高めたリベリスタたちが部屋に突入した。 「すぐお母さんの所に帰してあげるからね☆」 驚くフィクサードを余所に、矢のような速さで疾走した終が子供の一人に近接し、その身を庇う。 「今、助けるからね」 ルア・櫻霞が終に続いて子供を庇うと、シェリーが前に出て、成虫をブロックしながらななみに話しかける。全員を庇いきるまでは、下手に刺激する訳にはいかない。 「探している子供は居ないようだな」 「いるわよ、そのなかに! なんでここにいるのよ、リベリスタ!」 ジースが最後の子供を庇った直後、ななみが手にした禍々しいスピアが赤黒く輝き、足下の魔方陣から召喚された幼虫が蠢きながら這い出した。その数、16匹。 「もうすぐふかするところだったのに……ぜんぶ、ころしたのね?」 ななみの視線は、絨毯に落ちた粘液状のもの――蛹の死骸に注がれている。今日はフードを被ってはおらず、髪と同じ、蜜色の瞳が露わになっていた。整った端正な顔立ちは暖かみや柔らかさというものを一切感じさせず、作り物めいて冷たい。 「――ななみもぜんぶ、ころしてやる」 成虫の1匹がななみを庇うと、残りの3匹が終・シェリー・櫻霞に向かって飛んだ。襲いかかる巨大な蜂を終はひらりと回避したものの、シェリーと櫻霞の肌を太い針が貫く。 「櫻霞様!」 前に出て成虫1匹の前に立ち、聖なる息吹で彼らの傷と毒を癒やすのは櫻子。後方からはスケキヨが、ボウガンから流星の如き光弾を降らせる。 「どうも。お久しぶりでもないですねえ」 黎子もまた前に出ると、幼虫が集まっている箇所目掛けて地を蹴った。 「不思議な魔法で貴女を酷い目に遭わせますので、お覚悟を」 軽やかに、舞うように。振るわれる黒と赤の月牙の連撃に次々と幼虫が切り裂かれるが、刃は成虫に護られたななみにまでは届かない。 子供を抱えて庇い、後方の扉の方へ後退しながら、終が問いかけた。 「ななみちゃん、何でSecret Gardenの関係者ばかり狙うの?」 「すべてはハニーのためよ。クイーンがいったの、ハニーがちからをてにいれるために、つかうにはちょうどいいって」 姉や櫻霞と共に子供を庇い後退するジースは、その言葉に怒りを感じる。 「自分たちの都合のために、事も無げに人の命を奪うってのかよ……許せねぇ!」 フィクサードの少女はさも可笑しなことを聞いたというふうに瞳を細めると、スピアを掲げた。空中に一瞬だけ生じたディメンションホールから溢れ出る、異界のおぞましき疫病。子供たちを狙って呼び込まれた死毒を、リベリスタは身をもって庇う。――敵は攫ってきた子供の生死など、全く気に止めていない。 「……ななみはそのこたちにようがあるのだけど、どこへつれていくつもりなの? かえして」 ● 「(正直、荷物を抱えながらの戦闘は面倒に尽きるな)」 子供を庇うばかりで反撃もままならない状況に、櫻霞は色の異なる双眸を細め、戦場を見渡す。 終が抱えていた子供をスケキヨが引き継ぎ、後方の扉の前ではスケキヨ・ルア・ジース・櫻霞の4人が大客間から出るタイミングを計っていた。高位の神聖術師である櫻子が戦線を支え続けているが、ブロックに当たっている前衛も含め、仲間たちに蓄積したダメージは決して軽くは無い。 現在敵はフィクサードの他、成虫が3匹、幼虫が9匹。蛹を全滅させていたことで成虫の増援は無いものの……配下を殺されたフィクサードの怒りは激しく、子供を狙った範囲攻撃ばかりが続いていた。 だがそれも道理か、と櫻霞は冷静に分析する。知能のないE・ビーストだけが相手ならまだしも、敵を率いるのは人間。こちらの意図が明らかならばそれを読まれるし、子供を狙うことでリベリスタの半数を実質無力化出来ると知れれば、子供を狙ってくるのは当然だ。 シェリーの召喚した魔炎が敵の配下を呑み込みながら渦巻き、熱風がフィクサードの少女の髪をなぶる。 「良い髪だな、学校でもモテるだろう?」 気を逸らすべく話しかけるシェリーに、ななみは目線を子供に向けたまま答えた。 「ななみはうまれたときからじょおうこうほだから、がっこうはいかないの。がっこうはきらい……ハニーががっこうにいっているあいだ、ななみはとってもさびしかったわ」 「女王候補? 確かに、その槍を上手く使えているようだ」 「うふふ、そうよ……ななみはクイーンもしらない、ひみつのつかいかたをみつけたの」 幼い子供のように思いつくまま話すななみの言葉は支離滅裂で頭痛がしてくるが、“ハニー”とやらの話題になると気もそぞろになるようだ。隙を作るなら今しかないと、シェリーは言葉を投げかける。 「ハニーには、想いは届けられたか?」 「ハニーは……ななみにまだきづいていないの。でも、もうすぐ、もうすぐよ……」 ななみが注意を逸らしたのを見逃さず、待機していたリベリスタが行動に移った。事前の打ち合わせ通り櫻霞と櫻子が役割を交代し、黎子が喚び出したカードの嵐で敵を攪乱する。 そこでジースとスケキヨが子供を2人ずつ抱え、バスまで移動する予定だったのだが――千里眼を使ったジースがかぶりを振った。 「いや……俺たちだけじゃ駄目だ」 彼らが5分間その前で待機していた大客間へと続く扉は、“館に戻った敵が、玄関ホールを通り大客間に向かっても、見つかることのない位置”にあった。撤退するリベリスタを追うのに、リベリスタの後方に位置する扉を通る必要は無く……ななみが通ってきた扉からも、勿論玄関ホールへ戻ることは出来るのだ。 和泉の言葉を思い出す。屋外に出てこの洋館を離れるまで、予断は許されないということか。 「急ごう、玄関扉を押さえられたら事だ」 スケキヨが子供を抱えて大客間を出たのを皮切りに、子供を庇うリベリスタもまた玄関ホールへと急ぐ。仲間が玄関扉へ向かう時間を少しでも稼ぐため、終は敵の渦中に飛び込み、凄まじいスピードから生み出された氷刃の霧で連続してE・ビーストたちを呑み込んだ。 ● 赤い夕日の射し込む玄関ホールが、一時闇に包まれる。漆黒のオーラに撃ち抜かれながら、ルアは腕の中の子供をぎゅっと抱きしめた。身軽で回避を得意とする彼女も、子供を庇っていれば、敵の攻撃にただ身を晒すしかない。 「そのこたちをななみにかえせば、もっとらくにたたかえるんじゃない?」 フィクサードが理解出来ない、とでも言いたげに、くすくす笑う。 仲間の半数が庇うに徹している今、状況はリベリスタにとって圧倒的に不利だった。確かにななみの言うとおり、8人全員が戦闘に参加すれば、敵と互角に戦えるだろう。しかし。 「攻撃されても、フェイトを使ってもいいの。この子たちが護れればいい」 ジースもまた、常闇の一撃に膝をつきながらも子供を決して離すこと無く――運命を燃やして立ち上がる。 「命は簡単に奪えるほど安いもんじゃねぇ!! その重みは何よりも大切なものなんだよ!!」 玄関扉へ向かって子供を抱えながら進む仲間たちの道を作るため、前に出てE・ビーストをブロックし続けているシェリーも、かなりの傷を負っていた。回避の高い終や黎子、防御に優れた櫻霞に比べ、ダメージディーラーの魔道師である彼女は受けるダメージもまた大きい。 だが逆境こそ、まさに彼女のフェイトが益々燃え上がる状況。襲いかかる成虫の攻撃にフェイトを燃やしつつも、破界の戦斧を掲げ、7倍返しの魔炎をお見舞いする。 「大掃除の時間だ、諸共蜂の巣にしてやろう」 蜂が相手とは皮肉と思いながらも、櫻霞はハニーコムガトリングで成虫1匹と幼虫3匹に止めを刺した。彼が戦闘に参加したことで敵の数を減らすペースが速まった一方、櫻子とジースが子供を庇っているため、回復スキルを使える者がいない。序盤からずっと子供を護っていたスケキヨも既に運命を燃やしており、戦闘が長引けば撤退もままならなくなる。 「ここは逃げちゃいましょう。別に倒すのが目的ではありませんからね」 カードの嵐で幼虫を真っ二つに切り裂きながら、黎子が言う。前衛が敵を抑える中、櫻子の手が、ついに玄関扉にかかった。 急ブレーキを踏む轟音と共に、凄まじい勢いで小型バスが扉の前に停まる。深い傷を負いながらも撤退の手筈を整えたスケキヨが、運転席から叫ぶ。 「早く! 乗ってください!!」 子供を連れた仲間は既に車中だ。シェリーはバスに向かいながら、ふと背後を振り返る。 「――地下の遺体は、おぬしがやったのか?」 突然の車の出現に茫然としていたフィクサードは、E・ビーストの背後で、肯定するようににやりと微笑んだ。 負傷が比較的軽く、最後まで敵をブロックしていた黎子と終がバスに乗り込むと、スケキヨは目一杯アクセルを踏み込み、その場を離れる。 昏い森の景色が飛ぶように過ぎ去っていくバスの中。リベリスタの被害も少なくは無いが、10人の小さな命は失われること無く、穏やかな寝息を立てている。 「まあ、助けられただけでもよしとしようか……」 櫻霞の呟きに、仲間の手当にあたっていた櫻子が微笑み、仲間たちも安堵の息を漏らしたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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