●王馬 赤兔なるもの、 王足る者の徳益々盛んになれば、すなわち界に現を見せんとするものなり。 ●戦馬の群 「馬のような外見をしたアザーバイドが現れました。正確には軍馬とか騎馬というべきなんでしょうか?」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう言って、スクリーンに画像を表示させた。 映し出されたアザーバイドの画像は……事前に言われていなければ、普通の馬と考えてしまう程に馬そのものだった。 いや、普通の馬というのは間違いかもしれない。 逞しさとスマートさをバランス良く組み合わせたとでも表現すべきか……その外見は、見事に鍛えられた理想の軍馬、とでも呼びたくなるほどの見栄えだった。 アザーバイドでなければ……そう思う者も、決して少なくはないだろう。 「……このアザーバイドたちが現れるのは、周囲に人が住まなくなった平地、草原のような場所になります」 以前は農地だったらしいが既に放棄され歳月が流れ、近くに人が来ることは無いらしい。 雑草はそれほど伸びてはおらず、地面は固く、動きやすい、戦いやすい地形と言えるかもしれない。 一般人が通りかかって被害に遭ったり、偶然訪れたりという可能性は極めて低いと言えるだろう。 「その平地にD・ホールが開いて、アザーバイドたちは来訪します。ゲートは数日は開いているようで、馬たちはその間、ゲートの周囲を駆け回ったりしながらこの世界に滞在し続けます」 ただそれだけならば問題ないが、それによって……僅かではあるものの、崩界が進む可能性があるのだとマルガレーテは説明した。 一般人に被害が出ないというのは幸いだが、放っておく訳にはいかない。 「ただ、追い払うだけで済めば良かったんですが……その辺りが唯の馬と違うと言いますか、闘争心旺盛と言いますか……アザーバイド達は、追い払えるなら追い払ってみろ的に戦いを挑んでくるみたいなんです」 もちろん危なくなればD・ホールへと退散する。 その場所に過ごしているだけなので、リベリスタ達が去るのであれば追って来たり必要以上に攻撃してきたりはしないようだ。が…… 「とにかく、放っておく事はできません。ですので、皆さんにはこのアザーバイドへの対処をお願いしたいんです」 対処と言っても、要は戦いな訳ですが…… 少し気不味そうにそう言って、フォーチュナの少女は詳しく説明し始めた。 馬に似たアザーバイドたちの数は、全部で11頭。 そのうちの1頭は、他の軍馬たちと比べて一回り以上も大きな体躯を持ち、闘気のような何かを発しているらしい。 「この馬が、群れの長とか主、あるいは王と呼ぶべき存在のようです」 もっともその馬はD・ホールの近くにおり、無闇には動かないようだ。 リベリスタたちの姿を見て挑んでくるのは、配下らしき10頭の馬たちである。 「アザーバイドたちは皆さんを見つけて戦う際、自身の能力によって馬甲と共に鞍や鐙、手綱、そして幻影の兵士を造り出し、自らに騎乗させ攻撃を仕掛けてくるようです」 6頭はやや重そうだが頑丈な鎧を身に着け正面から攻撃を仕掛け、残りの4頭は2頭ずつに分かれて両側から回り込んで来ようとするようだ。 「特別に知性が高いという訳ではありませんが、戦い慣れしているような処があります。長である大きな軍馬の方が人間並みの知性を持っているようで、それに今まで率いられていたからかも知れません」 とはいえあくまで集団での動きにある程度慣れているというだけで、複雑な動きをしたり陣形を取ったりという行動は難しいようである。 とはいえ、力もあり動きも機敏な以上、決して油断はできない。 「馬の方は蹄での踏みつけ、騎乗した幻影兵士の方は手に持った槍や戟で攻撃してきます」 戦闘中の移動速度や距離が増えるような事はないが、全力で移動しての攻撃が可能なようである。 また、こちらの一度の攻撃に対して相手側は騎馬と兵士でそれぞれ1回ずつ攻撃を行ってくるようだ。 「攻撃力そのものは高いという訳ではありませんが、機動力を活かして戦闘を行うことで攻撃の威力を高めているようです」 その為、正面の6頭の方が結果としてやや攻撃力は低めになるようである。 「馬たちは戦意は高めですが、負傷が重くなったり明らかに負けそうと判断した場合、逃げるためにD・ホールへと向かっていきます。こちらがそれを妨害しようとしたり、逃げようとする馬が倒されそうになった場合、待機していた長の軍馬が動きます」 長の馬は馬甲など鎧は纏うが、兵士は出現させないようだ。 そのため攻撃は踏み付けのみとなるが、それだけでも部下たちを凌駕する戦闘力を持っているらしい。 もっとも、直接的な攻撃を行うより部下たちを守る事を優先するようだ。 「配下の馬たちが倒されれば怒りますが、それで判断力を鈍らせたりといった事はないようです。配下たちが撤退したり倒されたりしていなくなれば、自身もD・ホールへと撤退していきます」 アザーバイドたちが居なくなれば、ゲートの破壊は難しくない。 スキルを準備できずとも他のアークのリベリスタが向かう事は可能である。 「力という点でも勿論ですが、協力し合う、集団行動を行える、という点でも強力な相手だと思います。どうか、充分にお気をつけて」 マルガレーテはそう言って、リベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月02日(金)23:29 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●騎馬小隊 「騎馬か! くぅ~……滾るねぇ!」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は何とも言えない表情で、かみしめるように口にした。 「馬甲まで付けてるとは……ますますいいね!」 どこか満足げに、そう付け加える。 「足場よし、見通しよし、天気もよし! おしッ、戦うにはサイコーの日じゃねェか!」 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)も嬉しそうに、辺りを見回しながらそう言った。 (死んでも負けねェ) 戦いに関しては、既に充分に気合が入っている。 『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)も、気合に関しては充分だった。 「へっ、多勢だろうが関係ねえ」 (オレの背中にゃ遠子がいる) 「指一本、触れさせはしねえよ!」 口には出さずに視線を少しだけ幼馴染に向けると、少年は力強く、宣言するように口にした。 それから、ライバルへと視線を向ける。 「おい、透! 気合い入れろよ!」 「追い払えるものなら追い払ってみろだ?」 『雷臣』財部 透(BNE004286)は彼方のアザーバイド達へと視線を向けてから、応えるよう口にした。 「上等だ! 勝負事なら負けねえからな」 (それに遠子姉ちゃんも見てるしな) 「これはレディにカッコいい所を見せるチャンスだぜ」 思いながら付け加えるように呟いてみせる。 「正太ちゃん、透君、無茶しないでね……」 気合の入った2人を心配げに見守りながらそう言うと、『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)も馬に似たアザーバイド達へと視線を向けた。 草原でのんびりと草を食む、馬の群。 (……それだけなら牧歌的な風景なんだけど……) 「話し合いで帰って貰えたら一番だったんだけど……」 素直な気持ちが口からこぼれる。 「馬が一杯だなぁ……ボスっぽいやつ乗ってみたいなぁ……」 『落とし子』我妻 湊(BNE004567)も軍馬たちを眺めながら呟いた。 「ま、倒して大人しくさせてからか」 (乗せてくれれば嬉しいな程度だし) 「それにしても一体何しにボトムに来たんだ? よもや行楽じゃあるまいに」 『臓物喰い』グレイス・グリーン(BNE004535)が疑問を口にする。 この世界の者たちからすれば迷惑な話だ。 「早いところお帰り願おうか」 彼女は視線を外さずに呟いた。 馬型アザーバイドの駆逐。 配下の馬を制圧し、長と思われる大型個体を撤退させる。 それが今回の作戦である。 「そう言えば、馬刺しというものを食べたことが無いのでした」 イーグルアイで遠方より目標を確認し、皆に説明しながら接近していた『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は、ふと……思い付いたように、口にした。 少しだけ間を空けてから、うむと呟き……彼女はそのままアザーバイド達の観察を続行する。 「バトルマニアに付き合う気はないし、何事もなく、楽に済めばいいなぁ」 『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が気にするのは、相手が遠 距離攻撃の手段を隠しているかどうかだ。 距離を詰めながらリベリスタ達は陣形を整え始めた。 前衛で後衛を防御しながら、左右の遊撃馬から各個撃破。 正太郎は頭の中で事前情報と作戦を思い返しながら前衛に位置を取る。 浅倉 貴志(BNE002656)も皆と共に陣形の一部を受け持つように位置を取った。 障害物の無い広い草原で、両者の距離が縮まってゆく。 ●前線接触 草原の中央付近に群れる軍馬たちへと近付きながら、リベリスタ達は戦闘態勢を整えた。 遠子は集中によって脳の伝達処理速度を向上させ、グレイスは左翼側の前衛として位置を取りながら自身のギアを切り替える。 寿々貴は全員の後ろに位置を取ると、味方に翼の加護を施した。 透は右翼側の前衛として移動しながら全身に破壊の闘気を漲らせ、あばたはグレイスと交代し易いようにと前衛左翼の後方に位置を取る。 「戦闘のスイッチ入れておかないとね」 湊はそう言いながら、集中によって自身の感覚を研ぎ澄ました。 英霊の加護を闘衣として纏ったツァインは軍馬たちに向かって、戦意を示すように剣を掲げて見せる。 (ボスっぽいのとも戦ってみてぇ気持ちはちょっとあっけど……) 「ちょっと! ちょっとだけな!」 自分を納得させるように、コヨーテは口にした。 (明らかに実力に差ァある今よか、オレがもォちっと強くなってから戦った方が、絶対ェ楽しいしな。うン) 「へへッ、戦ったら、楽しィだろなァ……」(ニヤニヤ) 内心を言葉と表情に滲ませながら、つまりは剥き出しにしながら、少年は攻防自在の構えで距離を詰める。 リベリスタ達に対するように、軍馬たちは陣形を整えた。 幻影の兵士たちを背に乗せ、事前情報のように6頭が正面に、そして両翼に回り込むための4頭が2頭ずつに分かれて脇を固める。 「流石に早いな。挨拶代わりだ!」 速度を上げる軍馬たちの出鼻を挫くように、間合いに入った瞬間を見計らって、グレイスは一気に踏み込んだ。 地を這うように低く飛び、直前で急激な方向転換を行いながら、獣牙甲テリオンを纏った利腕を振るい、直後馬体を蹴るようにして距離を取る。 正太郎もフィンガーバレットを早打ちの要領で軍馬たちの足へと向けた。 騎兵の命、機動力を削げれば、戦力は大幅に削れるはず。 そう考えはしたものの、軍馬たちは直撃を避け、変わらぬ速度で前進してくる。 もっとも隊列は少々乱れ、正面の重装6頭がやや遅れる形となった。 両翼の4頭は大回りするように走ってくる。 大地を揺るがすような音が響き、リベリスタ達とアザーバイド達は、ぶつかり合った。 ●3つの戦線 グレイスは左翼側で襲撃してきた軍馬たちをブロックしながら、右翼側の2頭を狙うようにして一撃離脱を繰り返していた。 滑らかで女性的なシルエットの手甲が揮われる度に前腕小指側に並んだ細かな刃が、獣の牙のように軍馬たちを襲う。 「軍馬って初めて見たけど綺麗だね……」 (昔の人はああやって戦ってたのかな……?) 動きが鈍らぬよう低く飛びながら射線を確保すると、遠子は全身から伸ばした気の糸で軍馬達を狙い撃った。 最優先は、左右から挟み込んでくる遊撃隊の右側の2頭である。 手加減は出来ないけれど、出来るだけ止めを刺さないようにと注意して。 放たれた糸が馬たちに命中し、直撃を受けた1頭が動きを鈍らせる。 ツァインも左側から突進してきた1頭を押さえながら、別の軍馬を牽制するように十字の光に力を篭めた。 「よォ! お前ェら強そうじゃん!」 右側面からの駆けてきた1頭の進路に立ち塞がりながら、コヨーテはアザーバイドへと呼びかけた。 「そろそろ誰かと殴り合いてェって思ってたトコだったんだ。丁度イイから、遊んでくれよッ」 言いながら革命のダイアモンドに炎を纏わせ、猛る軍馬へと叩き付ける。 あばたは右翼側の軍馬たちを確認しつつ、出来るだけ多くの目標を狙い撃てるように位置を確認すると、一瞬で両手のピストルを抜き撃ちした。 抜き撃ちとは思えぬほどに狙いを定められた銃撃が、アザーバイドらの頭部を捉える。 連続で浴びせられた銃撃に、軍馬たちは吼えるような嘶きを発した。 一方で10mほど上昇した寿々貴は、仲間達の間で防御と攻撃の為のネットワークを構築したのち、詠唱によって癒しの息吹を具現化させる。 湊はできるだけ多くの目標に狙いを定めると、魔砲杖から無数の光弾を発射した。 その後、寿々貴の近くまで上昇する。 もし馬たちが遠距離攻撃が可能なら庇う事を考えてのことだった。 幸いというべきか、今のところ軍馬たちは飛行する者たちには警戒は見せるものの、攻撃的な行動を起こす様子は無いように見える。 「まとめて足止めするにゃ、これしかねえ」 正太郎は正面の馬群に突っ込むと、殺意を暴走させ暴れ狂うオロチの如き力を放って周囲の騎兵たちへと攻撃を仕掛けた。 透も陣形を乱すように正面の敵へと向かい、エネルギーを篭めたヤールングレイプルを軍馬たちへと叩き付ける。 グレイスも正面の馬たちの動きが自由すぎると判断し、一撃離脱の対象を正面の馬群へと変更した。 馬たちの動きは機敏で、彼女や正太郎、透の攻撃に対しても直撃を容易に許さず、文字通り人馬一体となっての攻撃を繰り返してくる。 正面と左側面を押さえ、右側面に先ず攻撃を集中させ撃破していくというのがリベリスタ達の作戦だったが、左側面はともかく正面に関しては数の差もあって正太郎たちの受けるダメージは大きかった。 遠子の操る気糸を受けて動きを鈍らせる馬たちもいたが、それらは主に右側面の馬たちである。 もっとも、そのお陰でコヨーテの負傷が軽減され、軍馬たちの突破阻止に成功しているともいえた。 無論、寿々貴の癒しが重要なのは言うまでもない。 あばたの作り上げる気糸の罠も効果を上げていた。 彼女は攻撃を行いながら出来るだけ全体を見回し、劣勢の味方を援護する為に敵の周囲に気糸の罠を展開する事でその動きを封じるように戦っていたのである。 精度の高い彼女の攻撃を馬たちは容易には回避できず、直撃を受けては隙を作り、動きを封じられていた。 とはいえ彼女が搦め手で援護を行えば、その分だけ攻撃の手が緩まる事にもなる。 正太郎は馬たちを引き付け、自分もろとも閃光弾で狙ってもらうようにと寿々貴に頼んだが、空中からの攻撃は精度で大きく劣ってしまう為、馬たちの機敏さもあって本来の効果は発揮されなかった。 寿々貴は途中から消耗も手伝って、自分の力に注意しながら回復に専念する形になってゆく。 もっとも、纏まっていると纏めて狙われると感じたのか、馬たちの陣形、特に正面の重装軍馬たちの陣形は乱れ始めていた。 2頭ずつ1人に対していたのが、動き回りながら攻撃できそうな者にという攻撃へと変化する。 幾度か攻撃を集中された貴志が倒れ戦線を離脱した事で、正太郎と透の負担は更に増加した。 両側面の戦いが比較的安定しているのに対し、正面の戦いは混戦の度合いを深めてゆく。 ●膠着と、消耗 全身から伸ばした気の糸で軍馬たちを攻撃しながら、遠子は仲間たちの消耗に気を配った。 自分の力を尽きさせないのは勿論として、次点は全体の回復を受け持つ寿々貴である。 寿々貴本人が回復手段を持っていても、絶えず回復し続けねばならなくなる可能性はあるのだ。 左翼側で足止めするツァインも他方面への牽制は難しいと判断し、仲間たちの負傷に気を配りながら英霊の力を借りて癒しの力を揮っていた。 対峙する軍馬たちに対しては、馬本体ではなく兵士への攻撃を意識する。 頭上からの攻撃を確りと受け止め、足や胴を狙ってブロードソードを振るう。 「まだ行けますか?」 あばたは戦況を窺いながら左翼前衛の2人に声をかけた。 ツァインとグレイスの2人は寿々貴の癒しを受けながら確実に2頭を足止めしており、ツァインの癒しは他の2班へと向けられる形となっている。 あばたも其方に危険を感じ、アザーバイドの動きを牽制する形で気の糸を伸ばしていた。 撹乱による同士討ちを狙ったグレイスの一撃離脱も、変わらず繰り返されている。 正太郎も複数の軍馬たちを巻き込むように暴れ回り、透も後衛に向かわせまいと吹き飛ばしを狙っての攻撃を続けていた。 直撃の機会は少なかったが、手数を増やせばダメージは蓄積し成果も上がる。 動きを封じながら毒を注入し、強力な打撃で弾き飛ばし、混乱によって敵へも被害を発生させながら正面の戦いは続いていった。 一方で右側面のコヨーテはひたすら業炎撃を繰り出し続け、ついに1頭を撤退させることに成功していた。 癒しを受けながら特殊な呼吸法で負傷を軽減すると、彼は残った1頭へと機械の腕を向ける。 寿々貴は力が尽きないように自身に力を蓄積させながら、上空から馬たちの動きを観察していた。 今のところ軍馬たちは、特殊な動きはしていない。 突破すらせずに、正面と両側面に分かれ、それぞれの場所で向かい合った前衛たちと戦いを繰り広げている。 もっとも、左側ではツァインよりグレイスが狙われている点や、攻撃を行った自分からできるだけ離れようとする点などを見ると、大局的な視点は無くとも個々の判断で多少有利に戦おうとする判断力は持っているようだ。 寿々貴はそれを声に出して、仲間たちへと連絡する。 (メンタル型スターサジタリーの力、見せてやるぜい) 「受けてみろ、これが俺っちの全力全壊だ……っ!」 時間を掛け狙いを定めると、湊は空中から無数の光弾を地上の軍馬たち目掛けて発射した。 ●戦線の限界 正太郎の一撃を受けて、戦っていた重装軍馬の1頭が身を翻す。 「ボトムなんざで死ぬのは馬鹿らしいだろ?」 逃げようとする馬には手を出さず心の声をぶつけてから、少年は別の一頭へと向き直った。 「ハッ! 燃えるだろうが! 滾るだろうが! その闘争に敬意を表し、この一瞬を 全身全霊を以てテメェらと渡りあう! 全員纏めて掛かってきやがれ!」 透の言葉は通じずとも、残った重装軍馬たちは後衛に向かう様子もなく、彼と、正太郎へと襲い掛かっている。 癒しを受け守りを固めても耐え切れぬ攻撃を運命の加護で凌ぐと、透は大きく構えを取った。 「おい、大将! そのまま帰っちまうのもツレねえ話じゃねえか」 同じくフェイトで限界を乗り越え戦い続けていた正太郎も、馬たちの先を見通すようにして、軍馬たちの長へと声を張り上げた。 「一発、気持ちよく殴り合って、チャラにしようぜ? 待ってろよ!」 「まさか最後はボスと戦うつもりか? 正太郎」 (やれやれ、突っ走る相棒を持つと大変だぜ) 呟くと透は、全身に力を篭め直した。 届かずとも気迫は失わない、そういう事だろう。 「ハッ! しょうがねぇ、ここまできたらとことん付き合ってやるよ」 「男一匹、貴志正太郎! 行くぜっ!!」 殺戮衝動を解放した正太郎が、身を顧みずオロチの如く周囲の軍馬たちを襲う。 耐え抜いた騎馬と兵士達からの攻撃を受け、少年はそのまま大地に倒れた。 その軍馬たちが自身に集中してきても、透の態度は変わらなかった。 「これは勝負だったよなァ? やられっぱなしってのも癪だからよ、この右腕が動くってんなら一発だけでもぶっ飛ばさせてもらうぜ」 闘気を爆発させ渾身の力を篭めた一撃が空間を薙ぐように揮われる。 その一撃が、1頭をD・ホールへと退かせた。 続く攻撃で透も膝を折り、崩れ落ちる。 正面班の抑えが失われ、残った4頭が後衛へと駆け出した。 耐え切れずに遠子は上空へと退避し、軍馬たちは暫しその動きを観察したものの寿々貴から離れるように2手に分かれる。 「足止めなどと言うケチなことは言いません。首から上、取り外させていただきます」 あばたが接近する馬たちに銃撃を浴びせ、負傷の蓄積した1頭が嘶きと共に身を翻す。 だが、接近した軍馬からの攻撃を運悪く避け損ない、彼女は防御の隙間を掻い潜るような一撃に身を固くした。 コヨーテは攻撃によってもう1頭を退かせはしたものの、新たに突撃してきた2頭の攻撃を受け、力を失いかけた身体を無理やりに引き起こす。 「うーン……すげェ生きてるってカンジ」 痛みを意に介さず、彼はそのまま拳を振り上げ炎を生み出した。 「死んでも負けねェ!」 言葉と共に振るわれた拳が、アザーバイドを打ちのめす。 嘶きと共に蹄が高く振り上げられ、幻影兵士の槍が突き立てられた。 遠子は狙いを定めながら空中から援護を続けたものの、狙いを定めた分攻撃に間隔が空いてしまう事は避けられない。 とはいえ狙いを付けねば直撃させる事も容易では無かった。 寿々貴の癒しだけでは2頭からの攻撃は癒し切れず、ツァインの癒しは攻撃を受けるあばたにも向けねばならない。 呼吸法でも間に合わないと考えたコヨーテは、そのまま拳を振るい続け限界を迎えた。 ダメージを蓄積させつつも戦意を失っていない2頭が、ツァイン、あばた、グレイスの3人へ、左翼側へと向かう。 前衛も後衛も無く、3人と5頭がぶつかり合った。 見事な身のこなしと呆気ない直撃を交えながらダメージを蓄積させたあばたが、限界を運命の加護で耐え凌ぐ。 グレイスもふらつく身体に力を注ぎ込むようにして構えを取った。 それでも……そこが限界だった。 1頭を撤退させながら、あばたとグレイスも限界を迎える。 他の4頭も傷付いており、対してツァインの傷は軽微だったが、1人で攻撃を凌ぐことは難しかった。 彼が倒されれば、或いは全員が空中に退避すれば、軍馬たちは攻撃を避けるように駆け始めるだろう。 攻撃は受けずとも攻撃を行うことも難しくなり、相手に意図は無くとも倒れている者たちが蹄に掛けられる可能性もある。 あばたとグレイスを任せ一旦空中に退避すると、ツァインは湊に援護されながら他の3人を運び上げた。 軍馬たちは遠巻きに警戒してはいたものの、リベリスタ達への攻撃は行わなかった。 互いに刺激するのを恐れたという事なのだろう。 「二人とも大丈夫……?」 心配げな泣きそうな声に、正太郎と透は無理に作った笑顔で応えてみせる。 言葉は通じなくとも構わない。 「……もっと強くなっとくさ、次は、負けねェッ」 コヨーテが吐き出したその言葉が、まるで届きでもしたかのように。 巨大な軍馬は空を仰ぐと、天を揺らすような嘶きを発した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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