●悲劇予告 白と黒。 二色二股の尻尾をくねらせて、左右に白黒真っ二つのカラーリングをした奇妙な猫は真夜中の路地裏を身軽に逃走する。とても軽快に走る上、狭いところ高いところを巧みに走破する。 追跡者は、貴方たちだ。 が、全然まったく追いつけない。なぜかといえば、貴方たちは“バラバラ”だったからだ。 何もチークワークが悪いのではない。小柄で素早い50:50の白黒猫を捕まえるのは一苦労、甘いブロックもするりと己の小ささを利用してすり抜けてしまうものの、八人揃えば本来この程度は楽勝でどうにかできてもいいはずだ。 「ネコちゃーん、待ってよ~!」 凛々しい青年が、まるで可憐な少女のように甲高い声と仕草で女の子走りする。 かと思えば、美女が狭ーい壁と壁のスキマにぴったりはさまって身動きが取れなくなっている。 「なんだこのボディは! 胸がでかすぎてスキマを通れない!」 まさしく喜劇。 バラバラなのは“文字通り”貴方たちの心と体だ。 白黒猫の正体はアザーバイト『ネ・カフェオレ』、精神と肉体を一時的に入れ替えて敵対者集団を大混乱に陥れる特殊能力『ミッドナイトシャッフル』を有する厄介な相手だ。しかもシャッフルは一度だけでなく、慣れてきたら再度またシャッフルしてくる。けして凶暴ではなく無闇に人を傷つける手合いでもないが、ゲート送還を拒んで逃走中である。 鼻先で笑うようにネ・カフェオレは悠然と貴方たちを見下ろす。 不完全な動物会話が、その一匹の“会話”をキャッチする。 『探偵』 『探してる』 『興味深い』 『時間がない』 ヒントを掴んだのも束の間、スラップスティックなトラブルは続発する。 「魔法が使えない! 何だこの能筋め!」 「す、スカートが恥ずかしくてうまく走れない……!」 真夜中の街中で、貴方たちは七転八倒ドタバタコメディを演じるハメになる。 ――かもしれない。 ●手錠シャッフル 「こんなこともあろうかと」 がちゃり。 第一の犠牲者ふたりは、お互いを繋ぐ手錠を茫然と見つめる他なかった。 ここは作戦指令本部、第三会議室。 フォーチュナー『悪狐』九品寺 佐幽 (nBNE000247)の依頼で貴方たちは召集されている。 で、いきなり手錠をガッチリ。 ――なにこのどこかで見たことある展開。 「説明の通り、『ネ・カフェオレ』の精神シャッフルへの対処は困難にございます。しかし、優秀なアーク技術部が一晩でやってくれました。この破界器『手錠セレクト』は、『ミッドナイトシャッフル』の発揮時に必ず、装着した二名同士でシャッフルが起きるように誘導する品です。これによって、交換先を確定させることで安定した作戦展開が可能になります」 「マジか!」 「ただし急造品につき二組分しかありませんので、あしからず」 女狐は涼しい顔してさらっと告げる。 約半数、残り4名は無防備なまま突っ込んでこいという意味ではないか。 最初にガチャリンコされた二名は勝ち組かもしれない。 「トラブル回避できるんですね! やったー!!」 「なお『手錠セレクト』は『手錠コネクト』(ID:4071)のデータを流用して急遽開発した為、一度装着すると二十四時間お互いに離れられない“呪い”的な効果もそのままです」 「余計に悲惨じゃないですか! ヤダーーー!!」 佐幽はぷいとそっぽを向く。 じつは開錠用の鍵がある等と、あの悪狐が告げるはずもなく。 ●依頼資料 以下は本依頼における資料である。参考にされたし。 ・アザーバイド『ネ・カフェオレ』 白黒猫。天使のような悪魔の野良猫。左右で白と黒の配色が逆転している。 戦闘能力もそれなりに高い。特殊能力が極めて厄介である。 なお撃滅と送還どちらでもよい。障害となる相手には容赦なく攻撃を仕掛けるが、無差別に一般人を襲ったりはしないので危険度は低い。 ちいさくてすばしっこい為、逃走をブロックしても高確率ですりぬけられる。 人語は喋れないが理解できる。動物会話などで喋れなくもない。じつは並行的二重人格であり、賢くて好奇心が強い右半身『ライト』と勇ましくお調子ものの『レフト』が同時に存在する。 常に二回行動する。思考の並列処理のおかげで知力が高いためか、判断ミスは少なめ。1対8のため、数的有利と連携プレーを活用して追い詰めてほしい。 目的は不明。断片的な動物会話によるヒントを手がかりとしてほしい。 ・破界器『レッグセイバー』:前足に備える二対の刃。 ・破界器『ウィップセイバー』:二本の尻尾の先端に備える二対の刃。 ・破界器『ミニマムセイバー』:後ろ足に備える隠し二対の刃。 三種類の破界器を装備。素の攻撃力はそれほどでもないが破界器は脅威となりうる。 性能はさほど特別でもなくが、猫型アザーバイドならでは六刀流は殺傷性が高い。 上記三つの刃を巧みに使いこなすことで高い格闘能力を発揮する一方、複数名への攻撃は苦手。 『ヘッドウォーク』:敵の頭を踏みつけつつ急所に斬撃。全力移動使用可&ブロック突破。 『ストライプ』:暗殺術。二尾で喉を絞めつつ全身を白黒の気糸で絞め、首を切る。 『罠』:あらかじめ通路に罠を設置して時間差トラップ攻撃(爆破、拘束等)を仕掛けてくる。 『白黒ダブルス』:分離。白と黒が二匹に分裂行動する。三十秒しか持続しないが個々の性能は劣化せず、また戻る際は任意のどちらか一方に瞬時に結合するため隙がない。 ・『ミッドナイトシャッフル』 精神と肉体をシャッフルする脅威の異能。後述する『手錠セレクト』を装着していない限り、ネ・カフェオレの意志もしくはランダムで精神と肉体がシャッフルされてしまう。 射程は半径50m圏内。常時発動。回避、解除不能。 敵は任意のタイミングで再シャッフル可能。再シャッフルは一定秒間経過するまで無効となる。 シャッフル時、ステータスやスキルは全て肉体側に準ずる。ただし、知識など一部については「劣化するが一応使える」場合もある。 例0:精神側Aのスキル『絶対者』は肉体側Bとのシャッフル時ロクに使えない。 例1:精神側Aのスキル『動物会話』は肉体側Bとのシャッフル時ロクに使えない。 例2:精神側Bは、肉体側Aの『動物会話』元々をAと同程度に使いこなせる。 例3:精神側Aが賢い人だとして、肉体側Bが残念な人であっても賢さは低下したりしない。 ただし、スキル化された高度な専門知識『魔術知識』等はスキルにつき使えない。 またシャッフル時には相性があり、ネ・カフェオレは「相性の悪い組み合わせ」を狙ってくる。 例えば「魔法の得意な少女A」と「魔法の得意な女性B」だったら入れ替わっても差が少ないので戦いやすく、逆もまた然りで差異が大きいほど戦いづらい。※要するにネ・カフェオレ視点でトラブル続発しそうな面白い組み合わせを狙ってくる。 またシャッフルは「器Aと心B」「心Aと器B」という相互交換であるとは限らない。 ABCDと四者がいれば「器Aと心B」「器Bと心C」「器Dと心C」「器Dと心A」といった交換方式になることもあり、まさしくシャッフル状態となる。 ・『手錠セレクト』 アークの急造した破界器。シャッフル時に組み合わせを固定できる。2組分だけある。 1組だけ強制装着。残り1組分は使うも使わないも自由とする。 いっぺんつけると二十四時間は外せない呪いは健在。鍵の存在は秘匿されてしまった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月30日(火)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●fairy 電子の海へとダイブする。 ネオン煌く夜の繁華街はさながら竜宮城のようだ。 夜の街を網羅するネットワーク。海底宮殿を梶原 セレナ(BNE004215)は遊泳する。人魚の如く、蒼に銀刺繍のチャイナドレスが優雅な尾ひれに変じた幻想的ヴィジョンで。 ようこそ、電子の海へ。 至るところへ点在する監視カメラは珊瑚や真珠貝、行き交う人々は彩り豊かな魚の群れ。 鍵盤を弾く。 人魚姫セレナの奏楽に応えるべく珊瑚は淡く煌き、七色貝はカスタネットみたくリズムを刻む。 不協和音。 白と黒の影が、電海コンサートを横切った。見つけた。 セレナは優美に尾をうねらせ、水面――現実へと浮上する。 ●追いかけて 爆光。 路地裏を走っていた二人を突如として爆発が襲う。 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)。 『Average』阿倍・零児(BNE003332)。 間一髪、二人を襲った爆破トラップを零児は超直感を働かせていたことで寸前で発見。光を庇って背中を盾とした零児は爆風の余波を受けて二人諸共にアスファルトを転がった。 「あいたたた……、あ、だ、大丈夫!?」 「う、うーん」 目をぐるぐる渦巻かせていた光が間延びした声をあげる。なんとか、大丈夫そうだ。 ホッと一息ついたところで零児はハッとする。堅牢なゆうしゃのよろい越しでは全く無罪なれど、零児は不可抗力的に光へ覆いかぶさっており、胸部装甲越しにその手に伝わる微かな感触によって、超直観を最大限に働かせてしまった。 ひんぬう。 この、プレートアーマーを押し潰されてもちっとも弾力を発揮しない手応えのなさ、間違いない。ひんぬうだ。それは偏りを嫌う零児唯一の矛盾点。「平均」を目指すあまりに「平坦」にこだわり「平らな胸」即ち貧乳に辿り着いた齢十二の思春期の少年は、偏執的フラットバスト愛好家だ。豊乳には微動だにしない筋金入りのフラッティストにとって、また平均的青少年にとって、女子の胸(部甲冑)を触る体験は大事件だ。 「わ、わわわわわっ!!」 「いたたたっ」 光は急に身を起こす。零児はあわてて飛びのき、頬を紅潮させ弁明の言葉を必死に探す。 「そ、その、いや僕わわわわ……!」 「ありがとう」 純真無垢な星空の瞳。光の中性的でボーイッシュな、勇者らしく凛々しく、けれども少女らしく可憐なルックスと雰囲気は時として人を強く惹きつける。 真雁 光は嬉しげに感謝の言葉をニ、三述べると不甲斐なさを自省する。 「ボクも勇者(志望)としていざという時は己が身も顧みず誰かを守ろうと心に決めているのですよ。なのにまだまだ精進不足。勇者としての経験をもっと積まないと、です」 光は申し訳なさそうに照れ笑いすると早々、罠に警戒するようAFで各自へ連絡した。 正しき理想を志し、誰かの為に戦い、過酷な現実に及ばぬ力をそれでも日々研鑽する。勇者というユニークな手本を礎にしているとはいえ、リベリスタとしての王道を一途に貫く真雁 光の有り様は、若葉に滴る朝露のように清く光輝いている。 「痛っ」 零児は背中の火傷と軽い負傷を今更に自覚する。それだけ気が動転していたのだ。 「見せてみて」 怪我具合を見た光は、“軽い”と理解しつつも呪文を唱えて淡い聖なる燐光を傷口に宛てがい、治癒を開始する。聖神の息吹、全体回復用のソレは本来気安く何度もは使えない。 「ごめん、ボクのせいで」 「いえ! それよりどうして? これしきの傷、回復しなくったって僕は……」 「勇者たるもの苦しんでる人は見過ごせないのです。ボクはそのために無理やり回復魔法を勉強したのです。効率がどうとか、二の次ポイですよ」 じんわりと傷が癒えてゆく。 熱帯夜の生ぬるい空気の中、癒しの光輝は不思議と涼やかなぬくもりを与えてくれる。 「さぁ追いかけよっか」 治療を終えると颯爽、光は駆け出した。零児はやや遅れて、追いかける。 「……はい!」 ●双猫シャッフル 白黒双猫は真夜中の路地裏をかろやかに駆け抜けてゆく。 迅速な逃走劇。 しかしなぜ即時シャッフルを発揮しないのか。 「持久力、ですかね」 『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)は得意げに物語る。 エネミースキャン。シィンの金色の瞳の中を、英知という名の蝶々が群れなして羽ばたく。 ジャージ着でなければ、さぞ美しい光景であろうに。 「どうやら自然回復以外での、治癒やスタミナ回復がないよーです。大技を乱用しちゃーバテてしまうってわけですね」 シィンは人差し指を立て、相方へ勝ち誇る。 「名探偵シィンですね」 キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)は手錠を繋がれたまま障害物競走のように路地裏を走破する。 躍動によって乳鞠が弾む。一言でいえばロリ巨乳。不安定な体曲線を強調する、どこか犯罪めいたファッション。時おり激しい運動でズレた衣服を直す仕草は、こと当人がその色艶に無自覚であることが罪深い。 「あ、前」 「へ?」 どっかーん☆ 電信柱に激突したシィンは頭上のSDシィンぴよことダンスを踊った。 白と黒の波動が、一帯を支配した。 “ミッドナイトシャッフル” 爆破罠に幾度か手こずるも八対二という有利は覆らず、ついに白黒猫へ最接近した。その時だ。 すぐに各自、手の甲等にペイントした識別マーキングを確かめて『今はどの器か』確認する。 その隙に白黒猫はヘッドウォークで包囲網を突破した。 「ふみゃっ」 額に足跡。喉元へ白刃。四条・理央(BNE000319)はあわや喉笛を掻っ切られる寸前で防御する。 千徳ナイフ。 ――ということは、理央の心は今、零児の器に宿っているらしい。 白黒猫が月夜を我が物顔で跳ねまわるのをよそに、月光に濡れる千徳ナイフの白刃を手鏡代わりに改めて理央[零児]はこの不可思議な現実に直面する。 「へぇ……これが男子の」 ――本当に? 零児のハイバランサーのおかげか、いざ追跡を開始しても覚悟していたほど不自由がない。流石、常日頃“バランスの大切さ”を説く少年だけはある。 その違和感のなさゆえに実感が湧かない。 「ここは後学までに」 ちらっ。 「あー、こうなってるんだ、へぇー」 「ちょ、どこ確認してるんですかぁ!?」 はわわわわ、と赤面沸騰してるのは零児[セレナ]だ。セレナ愛用のチャイナドレスのスリットに悪戦苦闘。借り物の、しかも異性のカラダだけに粗相があってはならぬと気負って空回り気味だ。 「安心していいよ、ボクは想定の範囲内のモノしか見てない」 「うわーんっ! 僕もうお婿にいけませんよっ!」 零児[セレナ]が生娘のように泣き喚く。チャイナのお姉さんが総受けヘタレ僕っ娘、新感覚だ。 「……」 服装はTシャツにジーンズで。 と準備していた筈が、セレナの服は直前にどこかへ消失した。犯人の心当たりはある。 『普通の服がなければチャイナ服を着ればいいのです』 悪狐だ。 「……ハメられました」 セレナ[光]は勇者という名のRPGコスプレに苦戦中だ。選ばれし勇者でなくば『ゆうしゃのつるぎ』と『ゆうしゃのよろい』は装備できないのだ。――主に、メンタル上の問題で。 不慣れな体格の差と着慣れぬ重い鎧もあって、セレナ[光]の追走は七転八倒だ。 「ぐっ」 無駄に長い赤マフラーが電柱に引っかかり、首が絞まる。 「なっ」 狭い通路を通ろうとして、巨大なゆうしゃのつるぎがつっかえる。 「もし転職するとしても勇者だけはスルー決定です」 一方、勇者サマは。 「トベルーラっ!」 存外、光[理央]は誰より適応が早く、翼の加護を独特な呪文で皆に授け、追跡をサポートした。 ●歪み 公園。 白黒猫は公衆トイレへと逃げ込んでいくではないか。 真夜中で電灯しかないものの、公園には少数、一般人の人影がある。ここは慎重に行かねば。 問題は男子トイレと女子トイレ、どっちに逃げたのか。結論、双方とも調べるべし。 トイレの四方を囲み、逃げ道を塞ぎつつ一同思索する。 「や、僕はちょっと……」 零児[セレナ]が内股でモジモジとスリット裾を掴み、乙女らしく恥らう。 「……」 セレナ[光]の視線が痛い。 「ボクが行こう」 一方、理央[零児]はナチュラルに女子トイレへ入ろうとする。のを零児[セレナ]が阻止する。 「いやいやいやっ! 逆でしょ! 男子ですよ!」 「バレない、つまり問題ないよね」 「僕にとっては大問題ですよ!」 等と話がまとまらない。 ここは性別統一済みの手錠チーム二組が中を調べることに。 「手錠繋いだままトイレに入るのってなにかドキドキです……」 シィン[キンバレイ]は重たげに手錠のない片腕でおっぱいが零れ落ちないよう支えている。 「大丈夫です」 キンバレイ[シィン]のゆったりと落ち着いた佇まいは、モモケモ(ピンクの変獣の意)とは別人だ。 「わたし、おとーさんとよく手を繋いで入りますから」 滴る汗。 震える喉。 「……どこに?」 「トイレ」 「……どっちに?」 「♀でも、♂でも」 「……何のために?」 「撮影」 闇だ。 世界の歪みをついに見つけてしまった。 しかも発言者はキンバレイ[シィン]な訳で、シィン[キンバレイ]にとってはなぜか自分がおとーさん大好きオーラ全開でヤバ過ぎる爆弾発言してるわけで。 「?」 無垢な瞳で不思議がるピン獣inキンバレイはすいカップinシィンを女子トイレへ連行した。 一方、男子トイレ側では。 「や ら な い か」 説明不要のいい男な一般人♂がすぐそばのベンチに座っていた。 『変態紳士-紳士=』廿楽 恭弥(BNE004565)と『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)は硬直した。 ひそひそ。 「僕らに熱い視線を向けてますね、理不尽なことに」 「私、BLの範囲を超えた殿方は守備範囲外なので……」 廿楽[テュルク]とテュルク[廿楽]が蛇睨みに陥っている。 恐るべし一般人♂。既にアークに在籍中との噂だが真偽はさておき、男二人で手錠つきのまま男子トイレに入っていくさまは誰だって強烈に注目してしまう。 「お前……」 一般人♂がこっちへ迫ってくる。凍りつく二人。閃き電球ピカリ。 「プロメースさん!」 廿楽[テュルク]は肩を掴み、強引にテュルク[廿楽]にこっちを向かせてじっと相手の顔――つまり元々の自分の顔を恍惚として見つめた。 「いつも鏡で微笑みを浮かべていた私も美しかったですが……、仏頂面の私も実に捨てがたい」 うっとりささやくと、ぎゅっと情熱的抱擁をかわして、周囲へ堂々と見せつける。 背景に薔薇が咲く、咲き乱れる! 「私たち付き合ってるんです!」 「……!?」 演技ですよ、と小声でささやかれるが絶対にNOだ。演技でもBL展開を認める訳にはいかない。 「ほら、こんなに愛し合ってるんです、ね、ね?」 「は、離……!」 抵抗しようとも手錠があっては離れられず。哀れ、テュルク[廿楽]は仲間にもヒソヒソ噂される。 『やけにあっさり理央の身代わりになって廿楽と手錠で結ばれたと思ったら』と。 「僕は至ってノーマルです、一般的な少年ですから…!」 この時、テュルクは『運命とはどうしてこうも残酷なのか』という定型句の意味を痛感した。 が、横切って一般人♂は理央[零児]の元へ。 「俺だぜ俺、ほら親戚の」 沈黙三拍。 「零児君、そういえば君の苗字って阿部――」 ぶんばっぶんばっ。 零児[セレナ]は涙目になって首を振る。 「阿倍・零児です! 倍と書いて阿倍・零児です! 人違いです! そんな親戚いませんから!」 「バイ? あぁうん、性的嗜好は人それぞれだよね」 「うわぁぁぁぁーーーんっ!」 「あっ!」 泣きながら脱兎する零児[セレナ]を追いかけるセレナ[光]と理央[零児]。を、さらに一般人♂が「おいおい待てよ」と追いかけ、夜の公園を周回する混沌とした徒競走にハッテンするのだった。 ●追い詰めて 男子トイレ。 二度目のミッドナイトシャッフルに一瞬、白黒と空間が反転した。 しかし白黒猫にとっては不思議なことにテュルクと廿楽は元通りになるのみ。再度、三度目のミッドナイトシャッフルを実行すれども白黒猫の思い通り別々のカップリングにならない。 ふーっと毛並みを逆立て、ネ・カフェオレは威嚇する。 『安心して』 動物会話。 テュルク[廿楽]が説得を試みようとした刹那、白黒ダブルスによって白猫黒猫に分離した。 ストライプ。 白黒双方がテュルクと廿楽に飛びかかり、その首を二尾で締め上げながら全身を白黒の気糸で拘束、トドメの一撃と魔光に濡れたレッグセイバーで喉元を掻っ切ろうとする。 声が出せない。 斬閃。 流血飛散。真新しいフロアタイルの網目を、血が満たしていく。 「今助けます!」 一同が駆けつけ、光[セレナ]とシィン&キンバレイが天使の歌を重ね、合唱した。 けほけほと血を吐き、テュルクと廿楽は喉元の傷が瞬く間に完治すると気糸の戒めを掃った。 再度、二対のネ・カフェオレが六刃を鈍く輝かせて襲ってくる。 ギンッ。 火花を散らす、白刃と鉄鎖。手錠セレクトの“絶対に壊せない”鎖を盾にしたのだ。 テュルクと廿楽は入れ替わったままシンクロで動作を協調させ、巧みにステップを刻み、鉄鎖を交差させることで分裂したネ・カフェオレを二匹まとめて鉄鎖で縛りあげた。 「……オス!」 なぜ確認する廿楽よ。 と、白黒猫は合体して鉄鎖をゆるませ、逃走を試みる。 「ここまでよ!」 呪印封縛。 セレナ[理央]の掌より一斉に神秘文字が疾走、地を這い、天を這い、空を切って縦横無尽に迫る。 白黒猫は苦しみもがくも呪縛は払いきれず、完全に拘束することに成功した。 改めて、テュルク[廿楽]は動物会話による説得を試みた――。 「すると君達はDホールに呑まれて母親とはぐれた迷子の仔猫を捜しにきた探偵、と」 白黒猫が肯く。 説得は成功だ。テュルク[廿楽]の通訳に拠れば、こちらを悪人と誤解していたらしい。 「走り回って疲れたでしょう。これをお食べ」 廿楽[テュルク]は相方にチョコケーキを差し出す。 「安心なさい――、私、紳士ですから」 先に嫌がるテュルク[廿楽]に一口あーんと毒見させておく。 白黒猫はまだ疑りつつ口をつけ、ぺっと吐いた。猫にチョコはダメでした。 「死ね、だそうです」 「……怒りませんよ、紳士ですから」 たこ焼きと焼き魚定食を与えてみると今度は豪快に食いつき、がががっと平らげた。 「よしよし。さて、私もじつは何を隠そう探偵でして、同業の好、一緒に探してあげましょう」 「『へっぽこ探偵』」 ちっちっちっ、と廿楽[テュルク]は指を振る。 「あの子の起床時間から愛用シャンプーの種類まで! 私はあらゆる情報を網羅しています!」 「ストーカーは死んでください」 白黒猫は顎ひとつ動かしていない。 テュルク[廿楽]の通訳は、白黒猫の心の中までもなぜか通訳できるようだ。 とかく、一同は協力して迷子探しを開始した。 ●送還 『――該当のアザーバイドは別件にて撃滅済み、とのこと』 AFを介して佐幽と通信、アーク本部の資料を探ってみたところ迷子探しはすぐに結論が出た。 ソレは既に、アークに“処理”されていたのだ。 瑣末な事件、弱小な個体、まして担当外となれば佐幽の見落としも無理はなかった。 残酷な結果を、淡々とテュルク[廿楽]は告げた。 シャッフルが解け、廿楽が通訳の役割を果たす。 「『運命とはどうしてこうも残酷なのか』ですか、全く同感ですよ」 送還の刻限。 閉鎖されたビリヤード場にて。 暗澹たるD・ホールの虚空へ、ネ・カフェオレは歩き去ってゆく。 『興味深い体験に感謝するよ』 『アバヨ』 猫のクセして、いっぱしの探偵みたいに渋い後ろ姿であった。 「行っちゃったね」 理央は侘しげに一言そう延べ、うーんと背伸びする。今回は流石にモフモフは自重した。 「ああ、ボクにはまだ報酬の支払いがあるんだっけ、テュルクくん」 「……それで十分、僕は報われますよ」 無愛想が少々綻ぶ。 一方、ビリヤード台では歴戦の女ハスラーのようにセレナが零児を手玉に取っている。 「チャイナドレス、愉しめた?」 「ス、スリットがすーすーして……僕、絶対にチャイナは着ませんからね」 女装フラグ頂きました。 「さて、と」 真雁 光は改めて勇者装備一式のなじみ具合を確かめると、Dホール目掛けて一刀を掲げる。 「勇の心にて悪しき空間を断つ! 名づけて、断空勇者剣!」 縦一文字。 勇者の剣が光輝、次元の歪みたる虚空を断ち切る。かくて事件は幕を降ろすのだった。 ●おまけ ハルゼー家、浴室。 シィンとキンバレイは“おとーさん”と家族団欒の一時を過ごしていた。 手錠は二十四時間、外せない。 『外泊禁止』 おとーさんとの約束を頑なに守ろうとするキンバレイの純真に負けたシィンは「むしろ実情を確かめて彼女を守るべきでは」と正義感と保護欲を発揮して今に至る。 キンバレイは爆胸にソープを泡立て、おとーさんの背中を洗ったり、逆におとーさんに洗われたり仲睦まじく親子の“過剰な”スキンシップに耽る。 直視できる訳もなく、シィンは湯船に浸かって背中を向ける他にない。 「でね、ネコさんが」 依頼成功と報酬額を嬉々として語るキンバレイの銀髪をおとーさんは念入りに洗っているようだ。 「えへへ、おとーさん大好き」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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