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拝啓、塀の中より

●塀の中から
 その空間は世間から隔離されていた。
 コンクリートに囲まれた狭い部屋。申し訳程度の窓には太い格子がはめ込まれ、入り口となる扉もまた分厚い鋼鉄で作られている。
 そこは独房と呼ばれる場所であった。
 犯罪を犯した者が罪を償う為に収容される場所、刑務所。その一室である。
 その独房の住人は……簡素なベッドに腰をかけ、自らの手を見つめていた。
 彼は罪を犯した結果、この場所にいる。囚われ、司法の裁きを受け。この部屋に長く住むことを決定付けられたのだ。
 不満はある。だが、罪は罪なのだ。それは理解している。
 例えどのような動機であろうとも。――人の命を奪うものは犯罪者なのだから。
 ならば何故、あの者達は……住人たる彼が殺害した者達は、犯罪者ではなかったのか。
 彼らがどのような手段を取ったかまでは知らない。だが、彼らが司法の手を逃れていたのは間違いなかった。
 ――彼にはそれが、許せなかった。
 司法に裁けぬ者を彼が裁いた。その彼を司法が裁いた。皮肉といえば皮肉である。

 ……だが、罪であろうとも。厳正な司法の決定であろうとも。犯罪者とならなかった彼らを彼自身が裁いたことに、彼は罪悪感など抱いてはいなかった。
 家族を奪われた側が泣き寝入りするなど……彼には許すことは出来なかったのだ。
 そして、今受けている罰も。同様に認める気などなかった。
 特に拒否する理由もなく、司法がそう判断したのなら。目的も特になかった彼が服役することは、問題などなかった。
 だが――最近彼が手に入れた力は。その司法の罰から逃れるだけの力であった。

 ――そろそろここを去るとしよう。

 男は考え、念じた。すると、彼の手に掛かった手錠が……彼の身体をすり抜け、すとん、と落下した。
 ここを出れば彼は再び犯罪者である。だが、このまま座して死ぬ気も毛頭なかった。
 罰からの自由を。されど、決してまともには最早生きられず。
 さて、どう生きようか。彼は思案し……ぬるり、と独房の壁をすり抜けて行った。

 ――まずは、家族に会いにいこう。

●ブリーフィングルーム
「フィクサードとは、主に革醒者としての力を欲望の為に使う者達のことを指しますが」
 アークのブリーフィングルーム。『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)はどこか皮肉げな表情――いつも通りだが――を浮かべながら、そう切り出した。
「では、犯罪者が革醒してしまった場合はどうなのでしょうね?」
 四郎はそう言うと、ホチキスで止められた資料の束をリベリスタへと配り始める。
 その資料の表紙をめくった二枚目……そこにあったのは。少し古びた指名手配書の写しであった。
「彼の名は……ああ、そこにも書いてありますが。羽々切 相馬と言います。彼は4名殺害――全員筋モノだったらしいですが、その殺人の罪で逮捕され、終身刑を言い渡されて投獄されていた人物です」
 資料をめくりながら四郎は言葉を続ける。
「ですが、先日彼は革醒したらしく……ただ、その後すぐに逃げるではなく、相当な独自の鍛錬を積んでから刑務所から脱出したようです。看守から見つけられることなく、密かに」
 看守達に恨みはなく、密かに抜け出したという形らしい。通常の犯罪者用の刑務所だった為、さすがに革醒者に対応することは出来なかったようだ。
 外部からの進入ならまだしも、内部で発生した革醒者。もし発見出来ていたとしても、阻止することも叶わなかっただろう。
「幸いにして運命に愛された彼はエリューションとなる事はありませんでした。ですが、今の彼はリベリスタでもフィクサードでもない。ただの革醒者です」
 そう言うと四郎は資料を閉じ、リベリスタ達へ――意味深な笑いを浮かべた。
「手段は皆さんに任せます。彼に『対処』してください。――どのようにでも、なんなりと。一般人に迷惑がかからないように、お願いしますね」
 ――試すかのような、四郎の態度。
 果たして革醒した相馬は、どのような人物なのか……。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月28日(日)23:56
●馳辺の資料
■フィールド:夕暮れの墓地

■達成目標:羽々切 相馬に『対処』する

■環境
 人里離れた墓地です。
 墓参りシーズンではないため、周囲に人が訪れることはまずありません。

■エネミーデータ
・羽々切 相馬
 ・46歳男性。
  過去に家族の仇である裏社会の人間四人を殺害し、逮捕。終身刑を言い渡される。
  十年の獄中生活後に革醒、修練の後脱走。
  正義感は強いが独善的。受刑を続ける気はなく、これからどう生きるかを考えている。
  まともな生活を再び送れるとは一切思ってはいない。
  猜疑心は強く、警戒心も高い。決して愚かではなく、冷静な判断力を有している。
  エリューションに関する知識はなく、独学。独自のスキルを習得したと思われる。
  獄中で鍛えたものの為、素手に特化された技を所持。
  墓地へは家族(妻、娘)の墓参りに訪れた模様。
 ・予知されているスキルは下記。
  ・臓物穿ち(EX) 物近単 弱点、致命、必殺
  ・直死嗅ぎ(非戦)
  ・物質透過(非戦)

●マスターコメント
 目覚めはしましたが、何も知らない。
 ですが、彼自身はエリューションとは関わりのない罪を抱えています。
 彼をどのように扱い、どのように『対処』するか。それは皆様次第です。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
クリミナルスタア
★MVP
晦 烏(BNE002858)
ナイトクリーク
椎名 影時(BNE003088)
インヤンマスター
星神 タクト(BNE004203)
クロスイージス
ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)
プロアデプト
椎名 真昼(BNE004591)

●墓前にて
 世界が朱に染まり、鴉が泣く。
 生活する人々を帰路に誘うその光景。されど、帰路につくこともなく、世界に留まる者達はいくらでもいる。
 自らの人生の為に街へ繰り出し、もしくは戻らぬ者達。
 そのいずれにも属さぬ者が、ここにいる。
 その朱に染まる場所は、墓地であった。
 ――そこにその男。羽々切 相馬は存在していた。

 赤く染まる墓石。そこに刻まれているのは羽々切家、の家名。
 ……刑務所を抜け出した相馬がまず向かったのは、この場所であった。
 事件によって失った家族。その復讐は果たしたが、家族が戻ってくる事はない。
 そして彼のこれからの人生もまた、進む道は定まらず。
 手を合わせ、彼は黙祷する。長く、長く。その間、彼は何を思い何を考えているのか……
 ――やがて、相馬は目を開き。墓から立ち去ろうと踵を返し。
 ……気付いた。一団が先ほどから遠巻きに様子を伺っていることに。
 いや、伺っていたのはそれまで。今は手に故人を見舞う為の物を持ち……こちらに向かっている。
「――誰だね」
「や。僕は君の死神。ああ……違うな、君のために来た。君と同じ力を持った者達だよ」
 被った古風な学生帽をくい、と動かし。『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)が相馬の言葉への回答を返す。
「ああいや、何者かと問われたならばだ。所により正義の味方。――所により始末屋さな」
 怪訝な顔をする相馬に対し、『足らずの』晦 烏(BNE002858)がタバコをふかしながら補足をする。だがその言葉は相馬の警戒を一気に引き上げる。
 表情の険しさを増し、握った拳に力が篭る。……そんな相馬に『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が近づき――その横を、素通りした。
 悠里はそのまま墓へと持参した線香を供え、手を合わす。
「僕達は君が目覚めた力について詳しい人間だよ。君を捕まえに来た訳じゃない」
 手を合わせながら悠里は相馬へと言う。
 リベリスタ達が選んだ手段は、彼を害する手段ではなかった。最悪の場合それも仕方ないとは思ってはいるが……
「改めてはじめまして、羽々切相馬さん、ですね?ボクは星神タクトといいます」
 死神と名乗りながらもすぐには手を出してこない。そんな一団に警戒しつつも訝しげな顔をした相馬へ、『自称アーク美少年』星神 タクト(BNE004203)が改めて挨拶する。
 彼だけではなく、リベリスタ達は次々と言葉を掛ける。『不倒の人』ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)もまた、そのうちの一人だ。
「すいませんが、わたしたちはアナタがどういう事情で、つかまっていたのかすべて知っています」  たどたどしく片言。自らの言葉を伝えようとする誠実さがその不完全な言葉からは感じ取れる。
「――道をお探しですか、羽々切相馬さん」
 道、という言葉。それを紡ぎだしたのは『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)。静かに、されど相馬の心根を見通すかのようなその視線。
 リベリスタ達は彼に決断を迫りにきている。それを見透かし、そして決断をさせ……彼ら自身もまた、決断する為に。
「――ああ、まあ待て。とりあえず場所を変えさせてくれ」
 囲むリベリスタ達がすぐの交戦を行おうとしていない。それは現状を以って理解出来た。
 だが、相馬はここでその先の話をする気がない。……自らの行った行為、それの正当性を相馬は自分自身が理解している。だが、家族が正当性を認めてくれるとは思っていない。
 ……それ故に、この場で話すことは避けたいのだ。少しでも家族の前でその話をする気がない。
「奥のほうに開けた場所があったはずだ。そこなら余計な邪魔は入らないだろう。……何、まだ逃げはしない」
 そう言って相馬はリベリスタ達を促す。墓地の奥へ歩を進め始め……ふと足を止め、振り返り。
「……そういや煙草、分けてくれないか?」
 図々しくもそう要求した。

●変わった世界
「すまんね。出てきたばかりで持ち合わせてなかったのでね」
 墓地をより奥には相馬の言った通り、開けた場所が存在していた。その場でリベリスタに囲まれるような形で相馬は立ち……貰った煙草を燻らせていた。
「女房がな、あまりいい顔しなかったのだよ。だから隠れて、だ」
 そう言いながら手にした煙草をそっとかざす。
「……で、俺の事情は把握してるってわけだ。本当に何なんだ、お前達は? てっきり追手か何かかと思ったんだが」
 堂々たる彼の様子に、戸惑わないではない。だからこそ、リベリスタ達は警戒を絶やさない。相手とて革醒者なのだ。強さの大小に関わらず。
 それ故に、警戒する。『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)などは油断なくその様子を見る。いつでも自らの力を行使出来るように。
 真昼は自らの身の程を相手より上ではない、と見積もっている。それ故に相馬へと語る言葉を自らが持たない、と考えていた。
 リベリスタ達が要求すべき事柄……その為には真昼が語るには、まださほどその事象に精通していないと判断していた。それらを語るならば、他の者のほうが語る詳しく……また、語るに相応しいだけの経験を積んでいるだろう、と。
 だからこそ彼は警戒をする。他の者が語る間に最悪の事が起きぬよう。そう自らに言い聞かせて。
「ええと……ボクたちは静岡の三高平にある、アークという組織に所属しています」
 タクトが考えながら口を開くように、ゆっくりと話し始める。
「突然かもしれませんが、力を貸していただけないでしょうか?」
「……どういう事だ?」
「それは……」
 タクトの言葉を切欠として、リベリスタ達は次々と口を開き説明を始める。
 アークという組織の事。世界の事。そして……相馬の目覚めた力の事。
「アークはこの世界を護るために作られた組織です。ただ……そのため時には正義と呼べないような任務もあります」
 タクトは言う。世界を崩界から守る為に切り捨てなくてはならないものが存在する事を。それはリベリスタ達が常に感じている二律相反ではあるが、事実なのだ。
 だが、それでも。疑い深いと言われる相馬に理解して貰う為にも隠すべきことはない、タクトはそう考え……伝える。
「……でも、私利私欲に走るような組織ではないことは保障します。」
 真摯に自分の考えることを伝える。それがタクトの選択であった。
「世界を守る、ね。いまいちしっくりこないな……得た力の理由が解ったのはありがたいがね」
 特に表情も変えず、間を繋ぐかのように煙草をふかす相馬。それは聞いた内容を理解して……したからこそ、単純にハイという気のない。そのような空気。
「それだけの力があって、私欲に使わないとは少々勿体無い気がするがな? 少なくとも俺はそうした結果ここにいるわけで。何よりも……それ以前に力を得ていたら、俺は確実に復讐に使っただろうさ」
 力を行使し、抜け出して。それ故に彼はここにいる。
「だからこそ、信じられんのよ。ただ世界を守る為に力を振るう連中ってのがさ」
 鼻で笑い、リベリスタ達をねめつける。人の物差しとは自らの中に作るものである。相馬の物差しは、つまりはそういうスケールなのだ。
「……正直に言って僕は、一般の悪人を退治したいって気持ちはある」
 悠里が口を開いた。彼は日本の神秘界隈ではそれなりに名の知れた存在である。知れ渡るに相応しいだけの修羅場を潜り抜けた、歴戦の勇士なのだ。
 それ故に、自分の中の独善を理解している。理解せざるを得ないだけの経験をしたのだ。
「でも僕は公平に裁けるわけじゃないし、間違える事だってある。だから――自分の判断で人を裁くのは間違えていると思う」
 それ故にアークに所属し、自らの正義を預けているのだと。拳を振るう相手を。受ける憎悪を生む相手を。数多の敵に滅びを願われながらも、振るう正義を委託してきたのだ。いままで正義を預けてきた組織だからこそ、自信を持ってアークへ誘うのだ。
 そのような言葉を吐く悠里を、相馬は真っ直ぐに見つめてくる。見透かすように。その、どこか淀んだ……そして草臥れたような目で。

 わずかな沈黙が空間を支配し。――影時が、その沈黙を破った。
「……そもそも僕は聞きたいのだけれど」
 相馬の情報を影時の質問、それは……
「君は何に怒っているんだい。復讐を理解して貰えない事かい?」
 相馬の、心情。
「それとも司法が家族を護らなかった事かい? なんにせよ君の復讐は終わっているはずだよ」
 自ら司法が裁かぬ敵を裁き。その後大人しく司法の裁きを受けて収監されたのに。
 ……今頃、力を得たからといって塀の中より抜け出して。だが私欲で動く気配もなく、ただ家族の墓を参り。これから先の様子もわからない。
「――最早、何を憤る事があるっていうんだい」
 相馬の復讐は終わり、怒るべきものも存在しないはずだ。なのに、何故彼はここにいるのか。それを影時は問いただしたかったのだ。
「……言うじゃないか」
 ギロリ、と相馬が影時を睨みつける。彼自身持て余している部分だったのだ、影時に問われた部分は。
 相馬の放つ不穏な気配に真昼が咄嗟に影時の前へ立とうとし……邪魔だとばかりに影時に制止される。
 何をしているんだこいつは、と言わんばかりの影時の視線ではあったが、真昼は悪びれる様子もない。長く離れた二人ではあるが、兄妹の関係性が途絶えたわけではない。その関係を護りたいが故の、兄の動きだった。
 ――その様子に、ぴくりと表情を相馬は動かし……溜息をついた。
「坊主……いや、お嬢ちゃんか? お前の言うとおりだ、俺は何かに対し怒っているのかもしれない。だが、そのやり場がわからない」
 復讐は終わった。司法を恨む気もない。死んだ家族も帰ってはこない。なのに何故刑務所を抜け出してここにいるのか。相馬自身もわからないのだ、自分の現状が。
「……相馬さん、檻に繋がれる位ならアナタは死を選びますか?」
 真昼が、口を開く。自由を求めたのか。その為に抜け出したのか、と。繋がれた生き様を望まないのかと。
「さあな……今となっちゃわかりもしないさ」
 檻の中で座して終わる気はなかった。だが、生きたいのかというとそれも、わからない。
 ――持て余している。それが彼の現状なのだろう。
「できれば、アナタはそのチカラをもってこれからどうするのかおしえてもらえないでしょうか」
 ルシュディーがたどたどしく言葉を紡ぐ。
「……考えもしてなかったからな。とにかくまずは檻から出て、妻と子供を参りたかった。その後の事なんてわかりもしなかったからな」
 自嘲気味に呟く。これからの展望もなにもなく。だが、釈然としないものを抱えて、彼は彷徨う気だったのだろう。
「ワタシタチはこのチカラで、りふじんなきょういからセカイおよびちからないヒトビトを護ることです」
 ルシュディーは戦いを好まない。だが、人々を護る為に戦うことを疎んでいるわけではない。必要であれば戦うこともある。
 だからこそ、その時に。力を貸してくれる仲間は増えて欲しいのだ。
「……私達はあなたが己の道を定める手伝いをさせていただきたいのです」
 悠月の言葉は、シンプルである。
 相馬が『知る事』によって自らの道を見出せることを彼女は期待しているのだ。
 独力で物質透過の技術を身につけた事に彼女は驚いた。そして力の使い道を迷っているのならば、示したいのだろう。
 独善であろうとも、相馬は自らの正義に従って行動したのだ。罪を犯したのも、それ故だ。ならばその正義を知識で補強する事で新たな道を見出すだろうと。
「他に行く所が無いのなら、共に来ませんか。『私達の街』へ」
 だからこそ悠月は手を差し伸べる。三高平へと、その道を指し示す為に。

「……むずがゆいな。どうにもお前達の言う事は綺麗すぎる」
 吸い終わった煙草を地面に落とし、ぐしゃりと踏みつける。
「独善結構、それでも力があるからこそ人を助ける為に力を貸して欲しい、と。柄じゃねえよ」
 相馬は踏みつけた煙草を念入りに磨り潰し、火を消す。その表情は渋く、リベリスタ達の言葉に対して受け入れがたいという態度がありありと見えていた。
 確かに彼の正義は存在する。だがそれは社会正義でもなく、善意でもない。自分の周りの大切なものを守る為の、正義だ。
 害されれば全力を持って牙を突き立てる。そんなシンプルにして最小の正義、それこそが相馬の芯に存在する正義なのだから。
 多数を護る、世界を護ると言われても相馬には大きすぎる、そう感じるのだ。
「……別に来なくてもいいと思いますよ」
 その時。今まで沈黙を保っていた『荊棘鋼鉄』三島・五月(BNE002662)が口を開いた。
「復讐を果たせる程度には手に入れた力は大きなものです」
 すでに復讐は力を得る前に果たされていたとはいえ、革醒者の力とはそれを容易にする程度には大きいのだ。
「他人に害を加えるような気もないなら、アークへ来るのが力への理解の為にはいいですね」
 ……似たような境遇の者もそれなりに多い。理解してくれる者もいるだろう。
「――ですが、関わりたくないならばそのままひっそりと暮らしていけばいいかと。力があるから必ず相応に振舞わなければいけないと、私は思ってませんし」
 訥々と五月は言葉を続ける。彼女の人生は中々に悲惨であり、それらの体験もあっての言葉なのかもしれない。静かに暮らす、という選択を彼女は提示した。
「私達が行ってきた戦いには色んな理由があります。でも、その事情は羽々切様自身に関係ないです」
 それぞれの事情、それは全て別々のものなのだ。他の者の語らないもう一つの側面を五月ははっきりと示していった。全ては相馬の気持ち次第なのだと。
「――ただ、見過ごせない事を起こす場合は相応の『対処』をしますけど」
 ……そして最後に釘を刺す。自由にしても構わないが、許されないラインが存在する。その一点を言葉にすることで。
「なるほど、な。お前の言うことはわかりやすい、事情と気持ちは別だとな。清々しいぐらいだ」
 相馬がくくっ、と笑う。本質が捻くれており、斜に構えている彼にとって奇麗事ではないその言葉は好感が持てたのだ。同時に選択を増やしてくれた、という側面も。
「何だね。それらの説明を踏まえてだ」
 烏が今までふかしていた安煙草を揉み消し、口を開いた。
「異能の世界にも組織と秩序が有る。そして、それを外れる暴虐もだな」
 革醒者が多数いる以上、組織があり。見も蓋もない一側面的な言い方をすれば善と悪の組織が存在する。また、個人においても同様である。
「我々アークは秩序を保つ為に活動をしている組織の一つだが……ぶっちゃければ正義という名の暴力装置だ」
 烏が言ったのは、身も蓋もない言い様であった。
 相手に話が通じなくとも、暴虐は防がなくてはいけない。それを止める為に振るわれるのは、相手の力を力で叩き潰す……悪し様に言えば、暴力だ。
 秩序を保つ正義。その為に大を活かすか小を活かすか、リベリスタ達は日々その判断を迫られ、自分の心と組織の理念の狭間で戦っている。
「天空に太陽は二つなく、地上に正義はただ一つ。とはいかないもんでな」
 ポケットから再び煙草を取り出し、ライターで火をつける。煙を肺に流し込み、ふぅ、という吐息と共に大気へと吐き出す。
 煙草という存在が生み出す間。それを跨いだ後に、烏は言葉を続けた。
「成すべき事を為そうとしても、掌から零れ落ちるものは沢山ある。一人でやれる事の限界もな」
「……それで、この得体の知れない集団勧誘というわけか?」
「まあ、そういう所だ」
 全員の中でもとびきり怪しげな服装をしている人物から発せられる、恥も外聞も捨てたかのような現実。アークという組織を客観的に、むしろ批判的に見た場合のような説明。
 だからこそ、相馬はその言葉の本質を理解する。ひねくれた言葉は、ひねくれた者には相応に伝わる。何故ならば自分が表現する際もそのようにひねくれた言葉を放つのだから。
「――んで、『ここが一番マシ』って話さ」
 その程度の話、とばかりに烏は哂う。『マシだから』アークで戦う。『マシだから』アークの正義を行う。そのような斜に構えた、ひねくれきった言葉。
「とりあえず席を置いて中から見ると良い。ダメなら見限りゃ良いだろ」
 その言葉はアークの利益、リベリスタの事情以上に、相馬への選択肢を提示する。
 全ては出揃った。それに対する相馬は……
「――アークとやらに入る気は今はいまいち起きないな。世界を護るなんてものに自分の考えを預けるというのがぞっとする」
 否定の言葉。――隠し切れぬ失意が場の空気を塗り潰し。最悪の為に拳を握るリベリスタ達――
 ――だったが。
「――だが、お前達の話は面白かった。どうせ行く先もない……お前達に身柄を預けてやる。三高平とやらに連れて行けばいいさ、監視でもなんでもつければいい」
 ……相馬は、決断した。
 自らが従わねば脅威となる可能性があるならば。だが正義を行使するほどの理想もないならば。
 ――自分に包み隠さず現実を晒したこいつらの目の届く場所に今は居てやろう、と。
「さっさと案内したまえ。抵抗も何もする気はないさ」
 そう言って、家族を失った男は歩き出し……再び、振り向いた。

「ああ……悪いんだが、もう一本くれよ。煙草」

 ……二筋の煙が、日の落ちた夕闇の空へ立ち昇った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お待たせいたしました。

羽々切相馬はアークへ所属せず。
されど身柄はアーク預かりとなります。

MVPは一切言葉を飾らず、現実としてのアークを提示した上で選択を迫った貴方へ。
捻くれた者には捻くれた言葉のほうが効果があることもあるのでした。

ではまたいずれ。