● アハハハハハハ――― 只管に響き渡る少女の笑い声。楽しげな少女に「カグラ」と呼び掛ける青年が居た。何処か情の孕む瞳は熱っぽく、少女の事を見詰めている。肩まで被さる白い髪を濡らす赤に少女がくすりと笑った青年へと手を振った。 「にぃに、見てみて、カグラが一杯一杯人を殺して血濡れになってキレイにお化粧してるのっ! 似合う? ねえ、似合う似合う? 素敵かな? 素敵よね? ねぇ、ねぇ、素敵?」 やけに上機嫌、饒舌に紡ぐ少女が血濡れの白いドレスを揺らしてにぃと微笑む。唇から零れる八重歯が無垢な少女を連想させて、青年が幸せそうに微笑んだのを榛カグラは見逃さずに微笑んだ。 「ねーぇ、にぃに、カグラ、もっと人を殺したいの。だから、可愛いカグラの為に――ねぇ?」 甘えた様に紡ぐ少女の声は何処までも『実の兄』へとおねだりをする『無垢さ』を感じさせていた。 区民ホールに人気はない。否、其処に合った人の気配も一つの場所に集中してしまったのだろう。 ピアノを据えた舞台上、転がる男の首を見詰めた榛カグラは『裏野部』らしい狂気を滲ませてブラックコードをくぃ、と引く。一つ、男の首が転がった。腕が千切れて、足が落ちる。腰から上がすとん、と舞台上に零れると同時に少女の白い髪と白いドレスが少女の柘榴の様な赤い瞳と同じ色に変わる。 「にぃにはまだかしら。まだまだ? カグラ詰まんない。後ちょっとしか、いないじゃない。ねぇ?」 ひ、と怯える様に漏らす人間の声に少女がけらけらと笑みを浮かべる。何処までも楽しげな幼いこどもは狂気を孕んだ赤い瞳でじっと人間を見詰めていた。 「カグラをいちばんきれいに見せるのは皆の血なの。どうせなら、素敵になった所をにぃにに見せたいでしょ? だから、死んで良いよ? カグラ、殺すのとっても好き。血が一杯飛びでて、肉が抉れて骨が見えて、アハ。素敵なの」 こてん、と首を傾げた少女に賞賛の拍手が舞う。彼女の連れる兄の友人が可愛いよと舞台上のアイドルを湛えたのだろう。 少女は『裏野部』。榛カグラ。人の命を奪い美しくなる小さな小さな誰かのアイドル。 ● 「御機嫌よう。至急向かって欲しい場所が二か所。片方は央さんからお話しがあるのだけど、その片割れ。 正直言えば食中りね。裏野部に所属している『兄妹』が趣味の悪い事をしてるみたいなの」 これが資料よ、と差し出す『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は何時もの通り『食中り』と例えた。資料に記されたのは少女の名前である所から見ても、片方は衣更月・央 (nBNE000263) が対応している事件なのだろう。 「名前は『榛カグラ』。ジーニアスのナイトクリーク。白髪で紅目の八重歯がチャームポイントの可愛い子よ。 正し、自分を一番打つ駆使するのは他人の命だと思ってる。血が彼女のお化粧という訳ね、何よりも美しく見えるでしょう、とカグラ論」 全く以って美しくないと思うんだけど、と世恋が続ける。無論、リベリスタも同意である。 だが、未だ年若いカグラがそう思い込んでいるのも彼女を溺愛する『兄』の存在がそうさせているのかもしれなかった。 「カグラには『榛スルガ』という兄が居るわ。彼がカグラを溺愛し、甘やかし、何よりも可愛がっているの。 ――つまりは彼女の言葉を全て是とするから、カグラはそう思い込んでいる……というわけね」 全く以って迷惑な話である。勿論、スルガが『溺愛するカグラを一人にするとは到底思えないのだが―― 「とある区民センターの小ホール。ピアノの発表会があった場所にカグラは閉じこもって殺戮を行ってるわ。 でも、カグラを汚す血は清いモノがいいとスルガは想っている、ソレで、彼女の気が済むまで殺戮する為に外で人を選別して彼女の所へと運搬してるみたい。 勿論、まだホールには一般人が残ってるし、カグラと兄の友人達も存在してる。詰まる所、ここで2手に分かれるって訳」 区民ホールで殺戮中のカグラに対応するのが世恋が説明している案件であり、外で人を選別してるのが央の説明中の案件ということだ。 「皆にお願いしたいのはこれ以上の被害が出る事を抑えて欲しい、唯それだけよ。 区民ホールに存在する一般人は今のところ25人。その過半数を守り切って欲しい。 早急に突入できる裏口を発見したのだけど、それ以外の入り口はフィクサードが厳重に締めきってる。――其処を使用するとなるとタイムロスが見込まれるわ。どちらをとるかは皆次第ね」 中に入ってしまえば、舞台上に居るカグラとその周囲のフィクサードへ対応し、一般人を救う事となる。先ずは潜入が鍵となると世恋はリベリスタを見回した。 「さて、人の血でお化粧なんて趣味の悪い事をしている子にはオシオキが必要だと思うわ。 さあ、悪い夢を醒ましてちょうだいな。――いってらっしゃい。どうぞ、ご武運を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月22日(月)22:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 区民センターのホールにつながる静かな廊下を歩きながら息を吐いた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は携帯電話を片手に慣れた手つきでメールを送る。 「『がんばれよ!』……っと」 たったそれだけのメールを送信した後、彼の掌に力が込められる。その様子を横で見つめながら『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)は焔の様な鮮やかな長髪を揺らし、俯いた。 「化粧って、確かに女を打つ駆使するって言うけど、血化粧を纏う事が美しいって……」 「全くもって美しくはないですねえ」 紅く色づく唇を釣り上げたのは『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)だった。元から整った容姿に加え、薄らと施される化粧は黎子の魅力を引き立てる。無論、化粧がどれ程、女性に魅力と勇気を与えるかを未だ年若い焔も知らない訳では無かった。 「イイエ、よく解るのデス。少女たるもの、より美しくあろうとするのは当然のことデスネ」 アハ、と笑みを漏らした『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の虚ろな目は千里眼を使用し、ホール内の状況を事細かに観察する黎子に向けられている。黎子の与えた加護によりふわりと浮かびあがっていた都市伝説が楽しげにケラケラと笑みを漏らした。 「血は少女を美しくする、それもまた一部において同意デス。 デスガ、わかってないこともあるのデス。ただ殺して返り血を浴びれば美しい、そんなことはないのデス」 「その『解ってない』を丁度履行してる輩がいる訳だけど。裏野部の連中ってドイツもコイツも頭の螺子が全部外れてるのかしら」 自身も傷つき、相手も傷つけ、相応に戦い続けた時に浴びる血こそが少女の魅力を最大限に引き出すと、所謂『戦闘狂』が如き言葉を告げる行方に、無抵抗な一般人を虐げるのは許せないと頷く焔。鮮やかな紫の瞳を細め、不安を浮かべる『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は黒を握りしめ、Kirschbluteで飾られた髪に指先を寄せる。 女の子は誰しも可愛くなりたいものだという。アリステアもその『通例』には当て嵌る。年頃の少女は化粧に興味を抱き、自分を綺麗にしたいとそう思うものだろう。 「でも、血でお化粧した自分がいちばんきれいだなんてね。ある意味無垢だけれど、その無垢さは何処から来たのかな。 最初から歪んでいたのか、それとも歪まされたのか……、他人にとっての毒はこれ以上は撒き散らせさせないよ」 左側の蛇目が幻視で隠される。長い髪を揺らして『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)は白妖をぎゅ、と握りしめた。手首で揺れる恋の雫。頷きあって最初にホール内へと突入したのは焔であった。 幻視を使用した彼女の足が、とん、とホールの地面を蹴る。常人には思えないほどの軽やかな動きで直ぐ様にホールの真ん中に現れた焔がにぃ、と唇を歪めてホールないの裏野部の少女――榛カグラを見据えた。 「この手で災厄を殴り飛ばして、護りに来たわ。御機嫌よう、裏野部の。 貴方達に私の好きな事を教えてあげるわ。ソレはね、貴方達みたいなふざけた連中を一人残らずぶん殴る事よ!」 ● 不安を滲ませる『水睡羊』鮎川 小町(BNE004558)はガントレットに包まれた掌に力を込める。小さな翼を得ても、彼女は出来うる限りは使用しないと決めていた。 「わるいこはめっするよ。たのしー発表会を台無しにするなんていけないんだ!」 マイナスイオンを纏わせた小町が入り込み、一般人を避難させようとする行動に直ぐ様に反応した裏野部のフィクサードが居た。裏野部が日本刀を振るったと同時、隙をついて『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)がイノセントで受け止めて唇を釣り上げる。 「悪びれずに人を殺す、か。裏野部はそういうことをする、とは知っているがあまり気分のいいもんじゃないな」 「こっちも可愛いカグラのお化粧を邪魔されて気分が悪いぜ」 レイヴンウィングは舞いあがると同時、背後へと一歩下がる足に涼が焦りを覚える。舞台下で一般人を相手にしようと両手を広げ、幼さの残るかんばせに精一杯の勇気を浮かべたアリステアがぎっ、と裏野部を睨みつけた。 「悪びれずに人を殺せるなら私みたいな子供、簡単に捻れるんでしょ?」 「もちろん。カグラ、女の子でも男の子でも、にぃにが綺麗って言ってくれる赤に染まる為なら」 誘う様に声を掛けたアリステアの上から振るのはカグラの声であった。不吉を告げるカードが少女に向けて投げ込まれる。笑う道化に少女の瞳が揺れ動く。 「噂通り可愛いお姫様だね。けど、まったくふざけたお姫様もいたもんだぜ。 血まみれになって美しいなんてあるわけないだろ? まあ、妹に頼られて嬉しくなるのはわからなくもないけどね?」 「……にぃには素敵よ?」 くす、と笑う少女から離れた位置、ホールの真ん中へと直進した夏栖斗が炎顎と炎牙を手に焔と背を合わす。彼よりも早く行動に移ったリベリスタの面々が攻撃に晒されはしたが、彼がホールに踏み込んでからが真に組み込んだ作戦を生かせる場面なのだろう。 「ご機嫌麗しゅう。カグラちゃん、今日は君のオンステージ? オーディエンスはアーク。こんなステージじゃブーイング三昧だ。もっと素敵なステージに変えてみない?」 声を張り上げ、唇から夜の貴族の牙を覗かせる夏栖斗を睨みつける瞳があった。カグラの兄、スルガの友人たちだというフィクサードが一斉に彼へ向けて武器を構えたのだ。 「アハ、短絡的な『お友達』ばかりデスネ。――さあ、始めるデスヨ。共に刻み当て最高に着飾るのデス」 どちらが『裏野部』だと問いたくなるような狂気を孕み、肉斬リを手に、地面を蹴った行方は真っ直ぐに舞台上で笑うカグラへと突貫していく。金の髪を飾るヘッドドレスのリボンが揺れて、虚ろな瞳に何処か光りが宿り出す。都市伝説は壁を蹴り、得た翼も生かした侭にカグラに向かって骨断チを振り下ろした。 「アナタが榛カグラ? 白いドレス、お似合いデスヨ。もっと似合う様にしてあげるのデス」 音階の違う笑い声がアハハッと木霊する。怯える一般人の元へと小町を無事に往かす様に入りこんだ黎子が双子の月をくるりと回す。赤と黒が寄り添う様に揺れる三日月。黒い瞳が細められ、夏栖斗に向けて剣を向けているフィクサードの体を魔力のダイスが包み込む。 「不運のお届けですよう。美しさっていうものは、着飾らなくても家から滲みでてくるようなものなのですよ。 ですからね、もっともっと美しくして差し上げましょう! 貴女自身の血でね」 くすくすと笑った黎子の胸を焦がす記憶がちり、と焔を燃やす。その炎と同じ様に燃え続ける鮮烈な赤き緋を灯したままに焔が足を振り下ろす。カグラへと回復を行ったフィクサードを目掛けた蹴りが真っ直ぐに青年の体を貫いて壁側へと走っていく。 「ああ、殴るって言ったわよね。アレは嘘よ。御免なさいね? 足癖が悪くって!」 「お行儀悪い女の子はモテないってにぃにがいってたの」 「可愛い女の子だけが『好かれる』時代は終わったのかもデスヨ? 戦う女の子は可愛いものデスケド!」 笑いながら行方の眼が見据えるのはカグラだけであった。カグラの目が他に向かない様に。自分だけを視る様にと言葉を発し続ける。唇から覗かせた舌が妖しいまでの赤を見せる。 走る小町がぎゅ、と服の裾を握りしめる。脆い涙腺の崩壊を感じふるふると頭を振った。水睡羊(すいすいめぇめぇ)は涙に溺れず、夢にも溺れない。ただ、現実だけを見詰めるのみ。 「みんな、落ち着いて、だいじょうぶだよ。こまちがちゃんと護るから! 一緒に逃げよう?」 震える手で叫ぶように言う小町に幼い子供達が小さく頷く。マイナスイオンを駆使した彼女の声に気付き、夏栖斗の誘いから解けたフィクサードが弓を放つ。慌てて庇う少女一人では庇いきれずに一般人が叫び得声を上げた。痛い、と思う。泣き叫ぶ声が耳を劈いた。涙が溢れそうになる。 「だいじょうぶ。こまちが護るから」 彼女へと回復を施すアリステアの支援に小さく息を吐き、其の侭一般人が存在する場所に一番近い扉へと拳を突き立てる。何度も何度も、その扉の拘束を解いて其処から逃がす為に。 支援を行う瑞樹は進路の邪魔となるフィクサードを気糸で絡め取り、真っ直ぐに凛とした声で語りかける。恐慌状態が少しでも落ちつければ良い。舞台裏への道を走れば、一番の安全を求められる筈だから。 「此処に居ると危険ですから、急いで!」 ぎ、とフィクサードを睨みつける瞳は一般人を少しでも護り切る為だと強い決意を乗せている。飛ぶ遠距離攻撃が瑞樹の体を貫いても、彼女は決して挫けはしない。それは戦闘に出た経験さえ乏しい小町も同じだ。両者共に同じ決意を胸に抱いて避難誘導にあたっていた。 「ひとごろしはだめだってこまちおもうから!」 「その通りだ。悪趣味じゃね? 一般人の方には行かせる訳にはいかんのでね。お前さんも俺なんかより目当ての奴がいるかもしれんがね」 笑った涼が挑発する様にノットギルディを手に取った。破裂するダイスの目は常に不吉を告げ続ける様に、フィクサードを爆花の中に隠してしまう。刃が涼の腹を裂く、青年は笑い、地面を蹴った。 「人生ってのは往々にして上手くいかない事も多い。ってことでまァ、諦めて俺と一曲踊ってくれよ?」 「お喋りばっかりのおにいさんね。カグラのにぃにのほうがカッコいいわ」 くす、と笑ったカグラの言葉に、小さく笑った涼は舞台下でフィクサードを相手にする。小町の指示で開かれている扉から逃げる一般人を狙う足を止める為に青年は其処に立っていた。 「ほら、私を狙えばいいじゃない? 私が回復役。私みたいな子供、簡単に倒せるのが裏野部なんでしょ? 痛くなんて、ないよ。こんなの。ぜんぜん痛くない!」 声を張り上げて、アリステアが傷つく体を抱きしめる。呼ぶ癒しが全体を包み込む。白い翼を揺らした天使が切なげに紫の瞳を細めた。 護らなくちゃいけない。皆で一緒に帰らなくちゃ。全てを癒す天使様になりたい。――わたしは負けないんだ! 「誰も、失いたくなんてないの!」 絶命してしまった一般人を見据えた瞳から涙がぽたり、ぽたりと落ちて行く。少女の涙を隠す様に、夏栖斗は声を張り上げ、フィクサードを呼び続ける。 「僕の方に来いよ! ピアノ発表会を楽しみにしていた子供達だって居るんだ! 誰かの幸せを壊してまで得れる幸せなんてない! 絶対に一人でも多く助ける。僕が君達を――みんなを助けるから!」 フィクサードの振り被る剣を避け、炎顎が下から男を殴り飛ばす。地面を蹴り、合間を縫って、攻撃を繰り広げる青年の金の瞳がぎらりと光った。 ● 一般人へと視線を送りながら、自身の余力を考えて黎子は色付く唇を釣り上げた。黒い髪を揺らし、踏み込んだ彼女は踊る様に双子の月を振りまわす。 「あなた達のような人は嫌いではありませんよ? 本物のクズが相手だと気が楽でいいですからね」 「本物の屑……だと?」 ぎ、と睨みつける目に黎子がくすくすと笑い続ける。全力の力を振り絞り、剣を振り翳したフィクサードの前へと滑り込んだ涼のアーモンド色の瞳が細められて意地悪く笑う。 「――無罪であれ、潔白であれ。お前の罪は俺が断罪してやるよ」 ひゅん、と彼のコートの中から顔を出した仕込み暗器。視界が逸れる。その目に止まらぬ侭、感じとれた明確な殺意がフィクサードの体を切り裂いた。断罪の刃(エゴイズム)が舞台の演目を血色に染める。 「俺は罰を与え殺戮する者だ――!」 青年の一撃にぐらりと揺らぐフィクサードの体。その背後から襲い来る攻撃の余波に彼の体が壁へとぶつかり、唇からぽたぽたと血が垂れる。 「……ここから先は通さない。通るなら命の一つや二つ、支払って貰うよ? 通す気なんてないけれど!」 まるで大きな蛇だった。己の体に宿す蛇を体現するかの如き瑞樹の影。フィクサードを通さないとぎ、と睨みつける彼女の背をすり抜けて一般人は逃げていく。震える小町が運命を対価にしてでも守った一般人。今、生きている全員が避難を完了した事を確認し、瑞樹が何処か安心した様に息を吐いた。 「……少しは、護れたかな……」 その言葉に頷いたアリステアが癒しを送りながら翼を羽ばたかせた。地面を蹴り上げ、仲間達へと癒しを送る少女を狙う攻撃。残るフィクサードの数が少なくなってきた事に気付き、攻勢を強めるリベリスタの中でも幾人かは運命を支払い膝をついていた。 しかし、それで諦めるリベリスタでは無い。数の減ってきた裏野部フィクサードへと一気に攻勢を強めて行く。 「美しくなってきたじゃないですか? チャーミングですよ? 自分の血に濡れてる様子が!」 黎子の瞳は笑わない。その言葉と共に、フィクサードを襲い行くステップ。ヒールがかつん、と地面を蹴り、身体を反転させるように傷つけ続ける。 其れに合わせ、往く手を阻む瑞樹が昇らせる疑似的な赤い月はホール内を照らす妖光となって降り注ぐ。誰かの毒となるならば、そんなもの全て消し去ってしまえばいい。託されたその力を、託した運命を、自分は歩みを止める訳にはいかないのだから。 「私はアナタ達の好きにさせる訳にはいかないんだ!」 「ッ、どっかーん! こまちは、ふつーのひとのところになんていかせないんだから!」 震えながら、涙を溜めて叫ぶ小町が目を見開く。攻撃を避けきれない少女へと懸命に癒しを送るアリステアが目を開き、フィクサードを睨みつけた。 「私は私のできる事をするんだ。――だから、皆で一緒に帰ろうね?」 「勿論。一緒に帰ろう。その為にはそろそろお終いにしなくっちゃね」 夏栖斗の飛翔する武技は鮮血の華を咲かせ続ける。広いホールの中が血生臭く、赤く染まる様子に何処か高揚する気持ちを抑えずに行方は笑い声を漏らし続けた。 「アハハハ! 良いですね! もっともっとです!」 体の限界なんて全て取っ払った。ただ、己が行うはカグラの阻止それだけなのだから。 「アナタはまるでわかってないデス。一方的に無力な相手を切り刻んで何が化粧デス? 自らを飾るものの質にも拘らない。それで美しいだなんて笑わせるデス!」 「何よ、にぃにがカグラのために選んでくれてるんだもの!」 吹き飛ばされるカグラの体が壁へとぶつかる。其れに覆いかぶさる様に行方は少女を追い詰めた。 「ボクがもっと綺麗にしてあげるのデス! ほら、どうぞ、お化粧デスヨ!」 荒れ狂う闘気はただ、楽しい殺戮に向けられている。都市伝説の力は其の侭、一気に振り下ろされ―― 「っ、やだっ、にぃに――!」 「カグラちゃん、お兄ちゃんの助けは来ないよ。今、凄い不細工な格好してるよ? 悪趣味さは本当に裏野部らしいね。反吐が出るってもんだぜ」 吐き捨てる様に告げた夏栖斗の言葉に周囲を見回すカグラが「みんな?」と小さく呼び掛けた。血濡れた区民ホールの中には最早自分以外は立っていない。カグラの相手を続け続けた行方が運命を支払っても立ちはだかっている事に気付き、カグラは余程彼女に夢中だったのだと――殺戮に夢中だったのだと気付き笑みを漏らす。 「……にぃにはこないの? ふふ、うふふ、どうかしら」 まるで楽しい物語でも見ているようだ。夢でも見る様に、呼べば直ぐに来るとでも言いたげににぃに、と何処か舌足らずに呼ぶ声に、血濡れの行方が笑い始める。 「素敵なドレス! お洒落デスネ! アハハッ、最高のお化粧デスヨ!」 狂った様に蒼に乗せた狂気。血濡れの肉斬り包丁がぎらりと光る。剣ではなく、斧が如く――骨を断ち肉を斬る華奢な少女に似合わない。カグラがブラックコードを振るう。行方のワンピースが破れ白い肌に傷をつける。 「言ったデショウ? 刻みあって最高に着飾るのデス――と。アハハハ!」 「きたないきたない! カグラの血はカグラを綺麗にみせないもん! もっと殺して殺して、殺戮して、壊して解体(バラ)してるカグラこそが綺麗なのよっ!」 声を張り上げる少女の目の前にふ、と翳が差し掛かる。赤い髪が燃える炎の様に見える。血の色だとも、赤く染まる視界の中でカグラは思った。 「言ったでしょ? 貴女に私の好きなものを教えてあげるって。その身を以ってご教授したげるわ」 だん、と踏みしめる舞台の上。少女の体が反転する。拳が炎を纏い、赤い火を焦がす様に少女の腹へと突き立てられた。同時に、別の焔が目に入る。焦がす様なソレは黎子の魔力のダイスだろう。瞬時に破裂する爆薬の香りの中、火は少女の体を燃え尽くす。 「私の色で染めてあげる――炎に染まれ! 燃え滾れ!」 小さく、たった一言だけ此方に向かい懸命に走っているであろう兄へと向けられた呼び声はホールの中に消え行った。 しん、としたその中でしゃがみ込んで両手を合わせた小町が涙を零し続ける。視線を逸らすアリステアがきゅ、とスカートの裾を握りしめた。 「……まもれなくて、ごめんなさいでした。ごめいふくを……ご、ごめんねぇ……」 ぽろぽろと零れ続ける涙に「こまちはえがおがすてきなのに」とぐしぐしと涙を拭う。祈るアリステアは点滅する舞台照明を見詰めてゆっくりと目を閉じた。 「わたし、天使様には程遠いね。……泣かないよ? ……泣かないから」 ごめんなさい、と静かに落とされた言葉は八人の犠牲者に向けられてただ、静かに響いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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