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今後は俺が護る番


 生きている限り、出会ってしまった限り、別れは必ずやって来る。
 知ってる。そんな事。

 ――生きて、生きてね、貴方は生きて。

 腹部に大きな風穴を空けているのは恋人。光が消えていく體を、ただ、ただ、抱きしめる事しかできない自分を憎んだ、怨んだ、憤った。
 大雨だ。大雨が彼女から湧き出る液体を流していく。その量が増える度、増える度、彼女の眼の光も消えていく。
「独りに、しないで、くれ……」
 その日、未来を失くしたか?
 その日、希望を失くしたか?
 その日、何を手に入れたか。

 でもまだ、命の燈火だけは其処に残ったから。


「皆さんこんにちは、依頼をひとつお願いします」
 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へそう切り出した。外は大雨だ、その雨音が部屋の中にまで聞こえる程度の。
「討伐を、依頼します」
 ひとつ、手遅れに終わった話をしよう。
 一組の男女のリベリスタが居た。お互い実力者であり、そして愛し合っていた。しかし現実とは残酷か、ある日女は運命を失くす。原因、それはその男女に怨みを持ったフィクサードの集団による襲撃から始まる。男を護った女は最後の運命を使い果たし――そして。
 ノーフェイス、それでも男は彼女を愛した。
 愛したからこそ世界にとっての、善から悪を選んだ彼に後悔は無かっただろう。だから、リベリスタにいつか討伐されるなんて解りきっているだろう。
「その男女を見つけました。あとは……お願い、しますね。
 場所は廃校になった学校の体育館です。人目を避けるように、そして、誰にも邪魔させないために、其処を選んだのでしょう。できるだけ早急に対象して下さい……彼女が、フェーズが進行して、彼女で無くなる前に……だってもう、人の形をしてないんです」
 ザー……ザー……。
「今日は、雨ですね」


 巡り会えた事に世界が輝いて見えたのだ。
 世界は彼の事が嫌いでも、彼は世界が大好きだよ。

 あなたにめぐりあえたせかいがだからさ。

 偽善だって笑うかい?
 恋は盲目だって笑うかい? 愛は幻想だって罵るかい?
 それでも良い、なんとでも言うが良い。笑いたければ笑え。

「半端な俺を愛してくれた彼女が、頼りない俺を護ってくれた彼女が、生きる事が嫌になった俺に幸せをくれた彼女が、最後まで馬鹿な俺を護る彼女が」

 目の前に居る限り、諦められなくて。

 思いの強さだけで生き残れる世界じゃ無い。そう自覚するべきだ。
 生き延びた事に罪罰を感じる暇があるのなら、前へ進まなければならない。
 例えいつか、彼女が心を見失っても、例え常に討伐対象として終わらない戦火に彼女が生きなければならなくなったとしても。

 一分でも、一秒でも長く、輝かない未来のために。
 彼女に会えた世界に感謝しよう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月28日(水)23:32
 夕影です 以下詳細

●成功条件:ノーフェイスの討伐

●ノーフェイス:彼女
・フェーズ2
 身体中から異形な長すぎる腕が何本も生えている姿をしています、まるでムカデの様です
 人であったときはヴァンパイア×クリミナルスタアでした
 クリミナルスタアの様なスキルをRANK3まで使用します
 1ターンに2回行動し、単体攻撃は全て複数攻撃に変更されています
 吸血は単体攻撃ですが回復力が非常に高いです

●E能力者:卯月悠斗
・メタルフレーム×クロスイージス
 RANK3までのスキルを使用しますが、ラグナロクはありません
 針鼠活性化
 常に彼女を護る様にして動きます

●場所:廃校の体育館
・人気広さ視界全てにペナルティはありません
 入口は表と舞台裏に1つずつあります
 窓はありますが、鉄格子があるために出入りは不可能です
 壁は老朽化しているため、ちょっとした攻撃で穴が空きます
 外は大雨です

・事前自付は認めません

それでは宜しくお願いします
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
マグメイガス
綿雪・スピカ(BNE001104)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
クロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ホーリーメイガス
メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)
覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)


 世界から色が消えた。色は全て雨が洗い流してしまったのだ。今日も、雨が降る。雨、止みませんねという言葉はなんていう意味だっただろうか――。
 月が綺麗だとか、寒いだとか、もう聞きたくない。重なる手の温もりだけあれば良い。
 閉鎖された世界に、一筋の光が差し込んだ。それは一瞬であれ、開いた扉からは雨粒と一緒に現れた八人の姿。
「来たぜッ! 待ってたか?」
 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)の機械化した拳と拳がぶつかって高い音が周辺に響いた。彼の声は何処か楽しげで、何処か待てをされている犬の様。
「誰……?」
 コヨーテの声に卯月悠斗はゆらりと立ち上がった。その背後に蠢く、大きな影を見てコヨーテの胸は高鳴る。
「リベリスタ、新城拓真。……用件は解るな、卯月悠斗」
「見つかった……アークか」
 両手で抜き取ったのは、対極的な色をしている剣。『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)はその、輝けぬ栄光の切っ先を悠斗へと向けた。その先で彼も同じように剣と、そして盾を持った。その姿はお姫様を護る騎士の様だ。
 しかしまあ、そのお姫様は今や、大量の腕を有して人の姿を忘れた化け物というものに値する存在。まだ、彼女には記憶か意思が残っているのだろう、悠斗の背後で彼へ不安そうな目線を向けていた。
「……よくある、話よね」
 『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)はぼそりと呟いた。その眠たい目を擦りながら、その先の異形を映して。しかし次の瞬間だった、神秘を身に纏った瞬間に那雪の瞳は大きく見開き覚醒したのだ。
 救えない、救えないね。『アークのお荷物』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)は入って来た扉を閉めた。そこから漏れて来た雨が身体にあたって濡れる。頬から流れた水滴はまるで、涙の様にも見えよう。
「とりあえずボク達はお仕事しないとね。それで誰も幸せにならなかったとしても」
 よくある話のよくある依頼。例えば物語の中の話なら、騎士は姫を護り続けるだろう。しかしそれは、よくある幻想の物語。
 さあ、現実に戻ろう。
「クロスイージスなら何も、クリミナルスタアが護らなくても……まあ、その判断がクリミナらしいか」
 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は胸前で服をぎゅっと掴んだ。その行為行動、今ならよく理解できるよ、と。
 今まで拓真に切っ先が向いていた悠斗の剣だが、それが一旦下ろされた。元はと言えば、リベリスタである彼だ。できれば、あの『八柱目たるアーク様』とは戦いたくないのだろう。
「なあ、アーク。彼女を殺さないでくれ……殺すなら、俺を殺してからにしてくれ。護りたいんだ、そういうのってお前等にもあるだろ?」
 悠斗が提案した内容。しかしそれは――。
「残念だが、それは聞けないな」
 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)が返した。それがもし、できる状況ならばアークがこんな所に態々足を運んだりはしないのだ。
「だよな……」
 その返答を聞いて悠斗は苦笑いをした。心の底からの苦痛が漏れ出る笑顔だからこそ、『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)の胸が苦しく疼く。
「哀れよね……」
 その声は誰にも聞こえない程に小さい声だった。確かに彼には愛がある。でもその愛――……。何を彼に届ければ、この物語がハッピーエンドに終われるだろうか?

 その時だった。

 宣戦布告の賽を投げたのはアークでも無く、悠斗でも無く。
「ガアアアアアア!!!」
 びりびりと、後衛に配置していた那雪でさえその咆哮に肌がびりびりを震えているのがよく解った。
 大量の腕と脚を器用に使い、地べたを這うようにして接近して来る『彼女』であった。長すぎる腕がスピカへ伸びたが、顔の寸前で止まった。あと、数センチあれば指先がスピカの顔に届く所で――。
「護りたい。まるで美徳の様に語るデスネ?」
 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の足の裏が、彼女の顔面を抑えていた。勢いよく前進してきた彼女だ、行方の足は少しだけ顔にめり込んでいる。
「間違ってないデスヨ?」
 どんな形であれ護りたいものを護るのは美徳と言えよう。ではその美徳、壊す悪徳にでも成ろう。だって我等は――リベリスタなのだから。
 でも、まあ。
「全てが終わり、悲しむアナタを見てボクは恐らく笑うデショウ」
 それこそ都市伝説――飛常識たる行方の美徳なのだから。


 沢山の成れの果てを見て来た。思い出してみれば最近は親衛隊の駒に成っているノーフェイスが多かっただろうか、そんな事を思い出しながらスピカは詠唱を刻む。
 押し出した四色の光が空中を駆けていく中で、那雪が人差し指を向けたのは『彼女』の代わりに魔光を受ける悠斗。
「退いてくれ」
「……嫌だ!」
 那雪の声は、まだ届かない。しかしそれでは面白くないのだ、何より攻撃ができない。そして跳ね返された魔光の一つがスピカを突き抜ける。
 彼の心の装甲の堅さと言えばクロスイージスならでは、であっただろう。愛のため彼女のため、決意の上に己を冠する男の瞳の力強さと言ったら――。
 それでも、壊す。
 彼の後方頭上、二つの影が舞っていた。
「なら言い方を変えるデス」
「退かす」
 行方の刃と、拓真の刃。二刀を振り翳した二人の姿が空中で半回転しながら、ほぼ同時に悠斗の背中を投げ飛ばした。拓真と行方の耳にも聞こえただろうは、彼の骨が軋んだ音。しかしだ、悠斗の身体を打った二人の腕も、同時に軋む音を奏でたのだ。
 投げ飛ばされ、地面に這いつくばった悠斗は振り返る。見れば、叫び声を上げながら大蛇の様にうねり、拓真と行方の頭を掴んでそれを地面に引きずって赤い線を引いている彼女の姿であった。
「ぁ、ぁ、ぁ……」
 ザッ、と音がした。顔を前方に戻して顔を上げてみれば。
「悠斗、お前の行動は間違っていない」
 少し遠くでゲルトが彼女を見据えながら立っている。嗚呼、あの彼女と呼ばれた存在が未だ愛せると言うなら素晴らしいものなのだろう。
「お前にとっての『世界』は彼女なんだろう? なら、お前は『世界』を守るために剣を取るべきだ」
 例えそれが直ぐに終わる未来であったとしても――。水面に、小石が一つ放たれた。其処に広がる波紋は大きく、大きく。
「く、くぅう!!」
 剣を再三強く握り、ゲルト――否、その後ろのメイへ歩もうとした悠斗の歩。しかしその身体を前進させまいと掴んで来たのは行方だ。
「アハ、アナタの相手はボクデスヨ?」
 斜めにこてんと傾けた顔は、三分の一程度の面積が完全に摩り下ろされて消えていた。油断すれば眼球がぐるりと回転してしまいそうな程の激痛だ。しかし行方の悠斗を掴む腕だけは緩まる事を知らない。
「メイ」
「お仕事だよね、もうやってるよ」
 ゲルトが呼びかけ、光を呼び続けるメイ。その光のお蔭があってか、行方の顔は段々と元の形を思い出していく。
 メイの瞳の奥で、十字の光を放ってきた悠斗を見ていた。その攻撃はゲルトが腕で払い退け、メイには届かないものの。
(もう、覚悟が決まってる人に声なんてかけられないよね)
 何を言っても、彼は彼女を護るのだろう。それは幼いメイとしても、よくよく解っている当たり前の現象であったのだろう。
「あら、こっちに来たわね」
 ふとスピカが目で追っていた彼女が無数の腕を地面に交互に着けながら接近してくる。手が伸びた――スピカの胴が衝撃を受けて壁に背が当たってずるりと地面に落ちる。涼子も、ゲルトも、行方も、拓真も同じようにだ。ただの拳が、重い、そして速い。
 彼女の後ろを追う、コヨーテ。
「イイんじゃね? 悠斗の人生だもンな、自分が嬉しい、楽しい、気持ちイイってコト選んで生きてかねェとなッ」
 何よりも自由奔放に。何にも捕らわれず。何にも邪魔されず。コヨーテはまるで己が見本だと悠斗に魅せるかのように、無邪気に笑った。
 己にも飛んできた拳を頬に受け、首がぐるりと一周しかけた所でコヨーテは意地で元の位置に首を戻す。
「今のはチョット痛かったぜッ!! チョットだけなッ!!」
 振り落した、炎を従えた拳。彼女の背骨が綺麗な弧を描きつつバキバキと音を出す。同時にギロリと血走った眼がコヨーテを見たが、その視線の間に身体を挟んだ涼子。
 涼子を殴ろうと拳が一つ飛んできた。涼子は体勢を低くし、髪の毛を殴っただけの拳が飛んでいく。
「あんたの拳も、愛する人を護ろうっていうものなの?」
 強く、己の拳を握った。握ったものの中に、闘志と負けん気を巻き込んで。打ち上げた拳は彼女の顎を下から上へと脳震盪させた。降り注いだ彼女の歯を払いながら涼子は仲間を背に立つ。利き手を前に出し、指をくいっと曲げては彼女を挑発するのだ。
 直後、仲間の間を縫って飛んでいくのは那雪の光。彼女の姿に同情はしなかった。いつか、もし道さえ違えばそうなっていたかも解らなければ、これからなるかもしれない姿なのだ。他人事じゃない、そう心に沁み込んでいる那雪は言葉を紡いだ。
「だからこそ……貴女に安らぎと終焉を」


「やめろぉ!! やめてくれええ!!」
 静止を求め続ける、悠斗の声が響いていた。
 その声に、何処か心が痛む拓真だが胸を抑える両腕は彼女の血で染まっていた。振り上げ、振り落し、何度も何度も突き刺す刃も染めて。
「まだ、意志が残っているのだと聞いている。……何かあるなら、聞こう」
 よく耳を傾けないと、断末魔の叫び声にかき消されて言葉を拾う事は出来なかっただろう。
「……ド、う、か――」
 拾えた言葉。直後、彼女の腕から伸びて来た憎悪の鎖。拓真の首に絡みついては、首をへし折る程度の力が込められた。しかし彼は次の質問を止めない。
「それ……と、名前……教えてく、れ」
「――」
「拓真ァ!!」
 金属が砕ける音――砕いたのはコヨーテの歯だ。顎の力にものを言わせ、仲間の首に絡む鎖を食いちぎった後、コヨーテの拳はそのまま彼女へと向かった。
「やめろおお!!!」
 悠斗の声がコヨーテにも聞こえる。彼は行方によって動く事を阻まれていた。邪魔だと施された十字も、光る剣も受け止める行方の口が横に裂ける。
「すでに終わった過去なのデス」
「違う! まだ、まだ彼女は生きているんだ!!」
「ならばやるべきことは護ることではなく、花を供えることなのデスヨ」
「まだ、まだ……俺は彼女に貰った恩を返しきれてないんだ……っ!!」
 こんな説得しても、通じる訳が無いというのは解りきっていた。行方の暗い瞳が細まっていく。放たれる漆黒の凶線。そんなに、そんなに、護りたいのか、護れていないクセに――。
 再び首に絡んだ鎖を掴んだ涼子。その顔は段々と青ざめ、空気が薄くなっていく。霞む視線の先――スピカの空中に浮いた足が見える。上に視線を送って行けば、鎖で首が吊られて動かなくなっていた。そのまま発動したのは運命の加護。
「……そんなんじゃ、死んでも守りたかったひとだって守れない」
 タイミング良く、メイの治癒の歌が奏でられた。その時には既に涼子は走り出していた。仲間とは孤立する場所へ、そこでアッパーを放てば攻撃の犠牲は減るのだ。
 その光景を見ていた那雪が、涼子へ攻撃が集中していたのを黙って見ているはずが無かった。重なる殴打の音に、歯奥を噛んで光を放つ。
「こっち……向け」
 気糸の光と共に、拓真は駆けた。剣を彼女へ突き刺し、たった一つの名前を言う。
「終わりだ……智花」
 手を伸ばした、悠斗。しかしその手は届かない。届く前に、行方の腕が服を掴んで離さず、更には腹部に漆黒が直撃する始末。
「やめ―――ガッ!!?」
「うるさいデス。いい加減に、聞き分けろデス」
 彼の美徳は彼等の悪徳であり美徳には勝てない。それはもうこの状況から解りきっていた事だ。
「でもさ、悠斗の『彼女』は、こんなバケモンなのかよ?」
 きょとんとした瞳で、コヨーテは悠斗を見つめていた。静止されつつも視線を合わせてみたコヨーテの瞳は純粋なまでに疑問に満ちていて。
「お前がコレを『彼女』だって言う限り、『彼女』はこれから、もう一度死ぬコトになるけど、イイのかよ?」
「……は」
 悠斗の彼女はかっこよく最期を飾ったのに、次また来る最期はこんなもの。それでもいいのなら、とコヨーテの背は悠斗へ向いた。そのまま走り去り、拳を投下した彼の姿を見つめている悠斗。
「へへッ、強ェなッ! バケモンになっちまうなんて勿体ねェなァ、一緒に戦えたら心強かったろうになァ」
「……化け物」
 ノーフェイス。人であったもの。人でなくなったもの。化け物――。
 彼女は優しい人だった。こんな自分でも手を差し伸べてくれた。今は、今は――。
 小刻みに震えだした悠斗を目の端に置き、ゲルトは小さくやりきれない思いを吐き出した。ありふれた現象だが、何度見ても慣れないものだ。だからこそかゲルトは思ってしまうのだ、仲間を護りたいと、この世界を変えたいと。
 ジャラリと音を立てて、絶対絞首の鎖が飛び出す。狙いはメイにもゲルト自身にもだ。小さく「やっ」と声を上げたメイを背に隠し、彼女へ続いていくはずの鎖を掴んで止め、己の首にも鎖は巻き付いた。
 その瞬間、ゲルトの掴んでいた鎖にヒビが入り、そして全てが砕けて消えていく。彼だけでは無い、仲間に飛び交った鎖全てが砕けて消えたのだ。放ったのは、呪いを断つ光――ゲルトこそ、絶対者であるからこそ、鎖の呪縛を抜けられるただ一つの手段なのだ。
「仕上げだね! さ、選択の時だね!」
 メイは光をばら撒いた。奏でる歌は煌々と輝く光と成って、鎖によって傷ついた仲間の体力を埋めていく。
「楽しいぜ、こんな強ェ相手と戦えてッ!」
 コヨーテの右ストレートが彼女の身体を吹き飛ばした瞬間だった。

「――殺してくれ!!」

 叫んだのは、悠斗であった。
 よく澄んだ、ヴァイオリンの音色を覚えている。
 よく澄んだ、彼女の瞳を覚えている。
「せめて最期の最後は『貴女自身』であるように……おやすみなさい」
 スピカはヴァイオリンの弦に弓をあて、奏でた曲は魔曲という名の葬送の音色。四色の光が、どうか天国へ彼女を導きますよう。運び屋は運び屋の使命を果たすのだ。
 その時スピカの眼に見えた『彼女』の瞳。とても優しそうに微笑んでいた。涙も流していたけど、それはきっと悲しいものでは無いはず。
 光が麻痺を誘い、那雪が手の平に纏った光を打ち出した――その眩い気糸が宙を裂いている最中。
「零れ落ちた水は、戻ることはないの……同様に、運命も。だからこそ、彼女の遺志を愛しんであげて」
 哀れだと思った。自分の心を失くしていく彼女が彼の意思で存続させられていた事が。けれど今、その呪縛も消えよう。那雪の精密な気糸が彼女の胸を貫く。
 足掻きか、それとも愛か。彼女は悠斗へ手を伸ばした。崩れゆく世界の中で、求めたのは、拓真が聞いた短い文章。

 ――どうか、生きて、貴方は生きて。

 額にトンと置かれた涼子の指。一つの銃声が鳴り響いた瞬間に、その腕は力無く地面に崩れていった。カラン、と落ちた弾丸の音がやけに大きくその場に響いた。というのも、外の大雨の音さえ消えていて。
「彼女の愛した世界を守るしかないんじゃない?」
 振り返った涼子は悠斗を見た。その瞳の中で、彼は小さく蹲って涙を流していた。少しずつ近づいて、動かない彼女の腕を握った悠斗。
「彼女は、お前に生きて欲しいと願った。お前はどうする」
 変な気を起こさないかと警戒していたのは正解で。拓真の声の直後に悠斗は剣で己の首を狩ろうとした。その腕を止めたゲルトに、ギャロップを放つスピカに、剣を吹き飛ばさんとした那雪。
「この場で死なせてやらない。俺はお前の意思じゃなく、彼女の願いを尊重する……お前は、生きろ」
「お前の中に、彼女の言葉が残っているならお前の『世界』は終わった訳じゃない。生きろ、悠斗。それが彼女の望みだろう」
 拓真にゲルトの言葉が続き、一度だけ「くそっ」と吐いた悠斗は剣を落とし、それを那雪が拾った。
 ――智花。確か彼女の名前。そう言っていた。
「ねぇ、思い出して。貴方の大切な人は、最期に、何を望んだ?」
 再三、再三、何度でも言おう。スピカの声が挟まれ、そう最期だ。最期。あの雨の日。

 そうだ――生きる約束をした。

 嗚呼、素敵な世界に感謝しよう。
 彼女と同じ国に、同じ時間に、同じ温もりを、一緒に感じられた瞬間をくれた世界に――。
 輝きを失った世界は、新な色が見えてきた。

 今日も世界はなんて無慈悲なのだろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼お疲れ様でした
結果は上記の通りになりましたが、如何でしたでしょうか
よくある事件のとある雨の日
それではまた違う依頼でお会いしましょう