● 「こんにちはリベリスタの皆様。……えっと、今回の対象なのですが――」 挨拶もそこそこに、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は話始める。彼女からは焦りという感情が感じ取れ、リベリスタ達は今回の事件が只事ではないのだろうと各々を戒める。 「はっきり言わせていただきますと、非常に痛いです」 「……痛い? 被害が大きいということか?」 「いえ、被害は今のところ0です。そのですね、痛いと言いますのは……“イタい子”という意味でして。私が説明するよりも、我々が密かに撮影しておいたものを実際に見ていただいた方が良いかと思われますので、皆様、モニターをご覧下さい――」 そこに映されたのは、そう、何とも。 『クックック……世界が闇に染まっていく。始まるというのだな、“聖者達の終焉(ラグナロク)”が……!』 イタい姿に身を包んだ少年の姿だった。 「ああ。いわゆる、絶賛中二病ってやつか。これ、俺たちが取り扱うような事象なのか? ……というかこの少年、これを一人で……」 リベリスタの一人が――いや、数人が突如涙を流し始めた。モニター越しであるにもかかわらず、凄まじき影響力。恐ろしや、中二病。 ちなみに中二病(ちゅうにびょう・CHUNIBYO)とは――世界に蔓延る遍く幻想をたちまち現実にする、幻の病……などというわけでは決してなく、単に常時「自分の限界はこんなもんじゃねぇ!」状態になるような思春期あたりになると何故か流行りだす病である。 「はい、本来であれば放っておいても何ら差し障りは無かったのですが――この少年の、右脇に抱えられた物を見て欲しいのです」 イタい発言垂れ流し状態であることには誰も触れることなく、イタさに限れば満点合格の判子が貰えてもいいほどにかっこいい動きをする少年の右脇へと、無情にも黙々とズームされていく。 そうして映ったものは、妖しい雰囲気を醸し出す一冊の本。 「まさかこれは……アーティファクト?」 「そのまさかです。名称を『ネクラノミコン』。少年少女の“イタい幻想”を現実化させるという、使い方次第では甚大なる被害が予想される極めて強大なアーティファクトです。――ただし、対価に支払われるのは“己の社会的地位”と“寿命”と言ったところでしょうか」 「もう何か色々と恐ろしすぎるだろ! それ!」 一様に、少年に対して残念そうな表情を浮かべていたリベリスタ達の間に緊張が奔りだす。 命を喰らう、アーティファクト。 それは、人がふざけ半分で扱えるような代物ではない。当事者である彼にとっては本気なのかもしれないが。 「所有者の想像力があまりにも豊か過ぎると大変ですが、まあこの少年は……見た感じ大丈夫そうですね。ですが――」 この本が他の誰かの手に渡ってしまうことも十分にありえる。 もしも妄想大好き少年少女がそれを手にし悪用すれば、たちまち世界はイタさ100%の魔物やら魔法やらで埋め尽くされてしまうことだろう。 「おい! 少年がまたワケの分からないポーズを……!」 『闇夜――それは俺、死輝司院・藤牙(しきしいん・とうが)が最も輝きし刻(とき)。そう、月光を背負いし俺は今、不滅の存在となるのであるッ』 つまりこの瞬間より、死輝司院・藤牙は夜限定で“不滅の存在”となったわけである。 「少年から『ネクラノミコン』さえ奪い取る、または破壊することさえできれば“不滅”なんて意味の無いステータスは綺麗さっぱり消え去るはずです。皆様、どうか少年の目を――醒まさせてあげてください」 和泉は一瞬モニター越しの少年を可愛そうなものを見るような目で一瞥すると、これ以上なく可愛そうなものを見たような声で、リベリスタ達を送り出す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:坂譬海雲 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月20日(土)23:33 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●“聖者たちの終焉(ラグナロク)” 「――フ、フフフフ……ハーッハッハッハ! 来たか、生に埋もれし亡者どもよッ!」 赤黒いマントを無駄に激しく翻し、漆黒の眼帯で漏れ出す魔力を抑えている風を醸し出す男、死輝司院・藤牙が電灯の上に恥ずかしいくらい堂々と立っていた。 時刻はなんと、午後七時。しかし季節は夏。 イコール……まだまだ明るいということである。 「そう、つまり――黄昏時の戦い(アポカリプス・イン・トワイライト)、というワケだな?」 あまりの痛々しい空気に早くも誰もが涙を流してしまいたくなる中、藤牙に次いで口を開いたのは『ナハトリッター』閑古鳥 黒羽(BNE004518)だった。 「……ククク」 「……フフフ」 どうしてか、二人は既に「こやつ、できる……!」みたいな空気を体中から発している様子。 「はぁ……。まさかこれを再び使う日が来ようとは……」 そんな黒羽の後方にある物陰では、『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が、幼き日々の黒き歴史を記した魔書・『極北儀典』を片手に空ろな瞳でブツクサと何かを呟いていた。恐らく幼き頃を懐古していたのであろう。 「かっ、覚悟を決めます!」 そして少年はロングコートを優雅に羽織り、真の戦場へと足を踏み出したのであった。 「紅れるこの刻、正しく逢魔。凄惨たるべしこの行方、餐たる彼岸、待つべしや」 要約すると晩御飯が近いから手短に終わらせましょう。 そう言ったのは『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)。見るともう既に武器を構えていた。成程、早く終わらせたいという気持ちに偽り無し。 「血気盛んな猛者が幾人が混じっているようだな? いいだろう、この藤牙が貴様らの生死を裁いてみせよう。闇夜に羽ばたけ! “黒き堕天の翼(ブラックフェザー)”!」 右手を月の輝く空に向けて、左手を何故か顔に添えながら電灯から飛び降りる藤牙。 すると、背中から生えてきたのはドス黒く禍々しい羽々。それらを自由に羽ばたかせてゆっくりと降下してきた。 ――そのタイミングを見逃さなかった男が一人。身の丈ほどはあろうかという大剣を、振り下ろす! 「ぐッ、何者!?」 しかし藤牙とてただの厨二病患者ではない。アーティファクトに頼りきったグダグダな厨二病患者なのである。作り上げたばかりの痛々しい羽を繰り空へと舞うことで回避してみせた。 「チッ、俺は斜堂影継! 影に生き、影に死す宿業(カルマ)を背負いし血族が末裔(すえ)! 禁書に魅せられし愚者よ、混沌たる我が力の前に屈せよ!」 電灯の陰から現れ、愛用の武器・辰砂灰燼を構えながらまるで見下すよな目付きで藤牙を見据えるのは『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)である。どうやら彼もここまでの例に漏れず厨二病のようで、手を顔に当てるその仕草が、何らかの境地に至っていると思えるほどに様になっていた。 しかしどうやら当の影継は厨二病ではなく真実だと言い、断じて認めない様子ではあるが。 「死輝司院、か……刹なる月の力に溺れ、真名すら忘れてしまうとはな」 「真名、だと? 貴様は何だ、我の何を知っている?」 小首を傾げる藤牙に、“ロングコートを羽織りし男”は高らかに宣戦布告を為す。 「思い出せ! 極北世界ディボアの霊主が一人、ティメンダスよ! 永久なる仇敵、霊主オヒーツジが此処に参ったぞ。いまこそ、転生前の決着を!」 何と言うことでしょう! 霊主オヒーツジ、その正体は光介であった。先ほどまで空ろな瞳をしていたはずにもかかわらず、今の彼の眼には活き活きとした光が宿っている。 「フ、フフフ……そういうことか。いいだろう我が仇敵オヒーツジよ! このティメンダスが決着を着けてやろ――うおおッ!?」 ああ、また新たな設定を付け加えやがったよこの厨二病と誰かが口に出すより先に、一瞬の閃光とともに藤牙の決して細身とは言えない体躯が吹き飛ばされていく。 「だ、誰だ! 我の台詞の邪魔をしたのは!?」 今コイツ台詞って言った……。 「うっ、うるさいです! もっ、厨は去りなさいよっ、長いこと厨空間にいたらわたしの中のメアリ(故人)が覚醒しちゃうじゃない!」 『ふらいんぐばっふぁろ~』柳生・麗香(BNE004588)が専用のプラスチック製容器から聖水(公園の水道水)を藤牙に振り掛けつつ叫んでいた。 恐らくこの、メアリちゃん(何度も言いますが故人)もあれなんでしょうね、ええ。 「はじめての厨……きっと厨……!」 そんな麗香が恐ろしい形相で何やら可愛らしいことを呟いていらっしゃった。 「我は殺助。厨を喰らう者なり……!」 惜しかった、とても惜しかった。 一言で言えば『何かが違う』。 「キィ、サァ、マァ……我をあまり怒らせるなよ!? 我は最強であ――」 「――うるさいわね。見なさいこの愚民……選ばれし者のみが使えるこの奥義を! 世界の法則は今、我が手の中に……これぞ絶対不可侵領域なり」 妄想を“己と周囲の人物の世界観を取り込む魔法”とするならば。 彼女が行ったのは“己と周囲に改変された世界の法則を捻じ込む禁忌”。 「な、何だそれは!? この強大なる魔力……我が右手が疼く!」 掴んでいるのは左手だということに最早誰も触れやしない。何故ならここは、既に一つの“震え合う魂の戦場(ヴァルハラ)”であるから。 「こうなれば先手必勝! 冥府より遣われし眷属よ、我が力となりて顕現せよ、其の名は“死に愛された鎌(ハルペー)”ッ!」 合掌の如く合わせられた二つの掌から暗き光が漏れ始める。 その光は徐々に“形”を取り始める、そう、まるで鎌のような武器の形状を。 「まずは……そうだ、先ほどはよくも我に向かって水道す――もとい“聖水”などかけてくれたなッ! まずは貴様から我色に染めてくれるッ!」 恐らく、我色とは即ち「貴様も厨二病にしてくれる!」という意味合いで使ったのであろうが残念なことにそれは一昔前のギザな男の吐く台詞にしか聞こえなかった。 「だから来ないでくださいよっ! わたしの中のメアリ(もちろん故人)が目覚めてしまうって言ってるじゃないですか!」 常識の範囲内の速度で振り下ろされた鎌を渾身の力で避けきる麗香。其の慌てようを見るに、どうやら復活の時が刻一刻と近付いてきているらしい。 「ふむ、彼女もどうやら(メアリの封印的な意味で)限界が近いらしいな。ならば早急に終わらせてしまおう――喰らうがいい!」 「なっ、何だこの黒い霧は……クッ、かっこいいではないか!」 漆黒の霧が藤牙の辺りを漂い始め、一瞬して黒き匣“スケフィントンの娘”に閉じ込めてしまう。 「だがしかし効かぬッ!」 「く――貴様、まさか月の寵愛を――!」 自分の技が破られたのにもかかわらず、何だか生佐目の表情はそれを喜んでいるようにさえ見えた。……まさか言ってみたかっただけ、なんてことは決して無いだろう。 「我は月夜に抱かれし者、即ち不滅なり! ――そして!」 黒匣から何事も無かったかのように脱し、不敵な笑みを浮かべた藤牙は両腕を天に捧げるかのように大きく広げ、「黒天を抱く我は月の加護を受けし者――」と、一見意味の無さそうでその実全く意味の無い呪文(スペル)を唱え始めた。 「さぁ冥土への手土産にでもするがいい、これぞ我が極技! ――堕ちし漆黒の陽光(アヴァドン)だぁあああッ!」 黒球。 それ以上でもそれ以下でも説明することのできない、黒き球。 この世に蔓延る全ての(リア充に対する)怨嗟を織り交ぜたかのような表現し得ない黒色の球体がリベリスタ達の頭上へと迫っていた。 「ククク……それは如何なる手段を以てしても、防ぐことなど叶わぬぞッ!」 その言葉が“引き金”となり、いよいよ以てこの物体はガード不能の絶対攻撃と化してしまったのである。 巨大な球体を前に為す術も無く、リベリスタ達は正体不明の攻撃を甘んじて受けることとなった。 凄まじい轟音と共に、炎色に染まる爆風が巻き起こる。 「……む? どういうことだこれは?」 そんな阿鼻叫喚の地獄絵図と思われた状況の中、黒羽が声を上げる。 「たしかに身体中に傷を受けているが、それだけ……?」 黒羽の身体にはそこらかしこに様々な傷が生じてはいたものの、出血量はどれも大したものではなく、それどころか―― 「爆風の中にいるにもかかわらず、全くと言っていいほど熱さを感じないぞ?」 「あぁ……恐らく佐藤の想像力如きでは爆風の“温度”にまで想像が至らなかったのでしょうね」 エーデルワイスは終始冷静なまま状況判断を終えた。しかし、 「いくらなんでも見苦しいのよ佐藤、少しは私を楽しませなさい」 爆風が止むのも待たず、エーデルワイスは“判決”を開始する! 「我は佐藤ではなく死輝司院藤ぐがぁっ!? な、あんだ、これわ……ぐびが、ぐるじッ!?」 「憎悪で編まれし煉獄の鉄鎖環よ……私に抗う愚かなる罪人を暴食せよ。ほら、今こそ貴方の命が最も価値を見せる時よ、佐藤?」 憎悪の鎖に首を絞められる罪人・藤牙と、愉悦に煌く彼女・エーデルワイスの二つの瞳。 何よりも酷であるのは、死輝司院藤牙という名を頑なにスルーし“佐藤”と呼び続けることであろうか。 「ぐぐぐぐ……まだ、だァ……我は! 我は! 最強なりぃぃッ!」 瞬間、世界が闇色の光に瞬いたかと思うと、藤牙の身体の周りを囲むかのように紫炎が生じ始める。そして間もなく響き渡る、どこから流れているのか一切不明なイタいBGMの数々! 「ふっ、ようやく真名に恥じぬ姿を見せるか。よかろう、では我も――」 光す――ではなくオヒーツジがどこからか突然取り出したのは、眼帯。それも病院で渡されるような白い眼帯ではなく、いかにも厨二病御用達と言った感じの黒い眼帯。 それを抵抗することなく光す――オヒーツジは己の目に装着した。 「麗眼の道を1つ塞ぐことで、内功を高める秘術! さぁ、ティメンダス、共に還ろうぞ!」 内功を高める秘術と言いながら繰り出したのは聖神の息吹。『堕ちし漆黒の何とか』によって受けた同胞たちの微々たる傷を見る見るうちに癒していく。 傷は殆ど癒えてしまったのだが、果たしてオヒーツジは本当にティメンダスと還る気があるのだろうか!? 「最強モードの我に触れられる者など皆無! 生に埋もれし亡者どもよ、尻尾を巻いて逃げるのであれば今のうちだぞ?」 さながら魔王のような悪人面で、近頃子供だって知っているような普及度の小物発言を恥ずかしげも無く言ってのける藤牙。 「ほう、しかしまあ不滅の身ならば無限の刃にも耐えられるな? 容易く死んで(コワレテ)くれるなよ?」 「なっ、貴様どこからっ!?」 「地中からだよ! 喰らいやがれ――我が身すら砕く雷よ! 我が意に従い敵を穿て! 斜堂流、雷刃疾駆ッ!」 雷を纏う己が身を以て特攻を仕掛けたのは、アヴァドンの際爆風に紛れて物質透過によって地中より攻撃の機を窺っていた影継だった。 「し、しかしこのような大振りの攻撃であれば我が回避するには十分な時間が――ッ!?」 「十分な時間が、何だ? まあ、せいぜい必死に踊ることだな。呪え、双刃よ。――《Schwert gravieren der Fluch》」 「貴様、退け! このままではッ」 「すまないがこの『翼持つ夜の騎士』クロウが、死輝司院籐牙、お前の傲慢に制裁を与える!」 夜闇よりもなお暗き黒光を纏う剣と、漆黒解放による闇の鎧を携えし騎士が、藤牙の行く手を阻む。 「これで、終わりだァアアアアッ!」 「散れッ!」 ●“聖者たちの宴(スンベル)” 「……この佐藤とか言う男、生きているかしらね?」 「俺は手加減くらいしたつもりだぜ? アンタはどうだか知らないが……」 「心配いらん、私とてそれなりの手加減はしたつもりだ」 すっかり夕日も落ちた頃、リベリスタ達は公園の中心で白目を剥いて倒れ臥している藤牙の顔を覗き込んでいた。 「あのー……試しにコレ、かけてみますね?」 そう言って麗香は手に持った“それ”を藤牙の顔面に浴びせた。 水道水、またの名を“聖水”。 「ぶはぁっ?! 何だよもう! つか、ここどこ……?」 「あ、正気に戻ったんですね!」 藤牙……ではなく太郎は、佐藤太郎としての人格を取り戻したようである。 「あぁ? あんた達……何なんだそんな変な恰好して……ってもう夜中!? 俺ってば課題を解いていたはずなのに!? もう何なんだよ意味がわからねえッ!」 「行ってしまいましたか。しかしどうやら書を手にしていた間の記憶は無くなっているようですね。まあ好都合」 生佐目が太郎の背中を見送りながら呟く。 それにしても戦闘が終了したからなのか、口調も大きく変わっていた。 「佐藤が今、本を手にしていたような気がするのだけれど、気のせいかしら?」 目を細めて考えこむような仕草を取るエーデルワイス。しかし答えはすぐに出た。 「あー、あれはボクが昔…………っていた頃のノートです。もう必要なかったので交換しておきました。一応」 ロングコートを腕に抱えながら視線を逸らす光介。何をしていた頃のノートなのかを追及する人間は誰もいなかった。 「それが……今回の……ふむ」 とてもとても興味深そうな目でネクラノミコンを見ている黒羽と、 「クク……これさえあれば俺に不可能はないわけだな!」 泣く子も黙る勢いの悪人面でネクラノミコンを凝視する影継。 それら二つの視線が光介の足元に置かれたアーティファクトに注がれていることに気付いたエーデルワイスがすぐさま口を開く。 「光介さん、生佐目さん、麗香さん、早急に破壊しましょう」 「なっ!? やめろ! よこせ! それを使って私は、神になるんだああああ――……」 宵闇を月が照らす夜に、黒羽の虚しき叫び声が響き渡るのであった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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