●銃剣の犬 「君、誰彼構わず私の行方を聞くのは止めろと何度言えばわかるんだね?」 酷い目にあった、と肩を竦めるアルトマイヤーの視線の先にはブレーメが居た。ああきっと、さぞかし沢山の兵隊から探されて発見されて揉みくちゃになった事だろうと――思いながらも曹長が返すのいつもと同じ、「モテる男は辛いですねえ」と白々しい声。へらへらと、答えたブレーメはナイフを振り上げていた。当然ながら上官にではない。大事な『少尉殿』にそんな事するものか! 振り下ろす。がぎょっ、と、鈍い音。 「あ――良いですねえこれ。流石です」 対戦車ナイフが深々と突き立てられたのは、『人形』の黒い胸だった。重装甲をも切り裂くそれは滑らかに根元まで突き刺さったが、その持ち主が零したのは感嘆。想像以上だ。思った以上に堅い。随分と。 へぇ、とナイフを引っこ抜きながら今一度そのロボットを眺め渡す。黒いそれの傍らに居る黄色の個体が『治療』を行っているのを横目に、ブレーメは溜息を飲み込んだらしい上官へ視線を戻した。 「エルンストは優秀だからな。……まぁ、当分は戦場に出て来られないだろうがね」 「らしいですねえ。今度うちの部下共引き連れてお見舞いに行きますよ。で……少尉、これちょっと下さいな!」 「好きに使うと良い。……持たせるものはカスタムも出来るそうでね、実に汎用性の高い事だ」 「Danke schön,Mein Lieblingsleutnant!」 見た目だけは恭しく、口調はへらへらと礼を。ナイフを手の中でぽんぽん放る手遊びをしながら、ふと目を遣るのは上官の肩――先日の作戦で彼が負傷した所だ。 「で、お肩の具合は如何程なモンで?」 「……まぁ、支障はない。じきに治るだろう」 嘘かホントかマジか見栄かは知ったこっちゃないけれど、その言葉を信じるとしよう。普段よりは幾分か優しい物言いで、一言。 「では、少尉。どうかお大事に」 受け止めたナイフ。鞘に収め、歯列を剥いて笑い、狂犬は踵を返す。 その背に、ひらりと。狙撃手は黙したまま手を振るのであった。 ●ニッパーとリッパー 「皆々様。親衛隊ですぞ」 事務椅子をくるんと回し、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は皆を見つつ言葉を放った。 親衛隊についての説明は今更不要であろう。特に、ここ数日彼等は胡乱な動きを見せている。油断のならない存在だ。 「親衛隊が、電波中継車型アーティファクトによって各地に怪電波を撒き散らしております。 この怪電波は革醒者には何の影響も無いのですが……一般人に対しては、洗脳。それに伴う発狂、ひいてはノーフェイス革醒の危険性をも及ぼします。そ呻ったが最後、彼等は親衛隊の意のままに動く『道具』と成り果ててしまうのです」 使い捨ての効く簡易手駒の大量生産&アークへの『嫌がらせ』。全く手口が猟犬らしい。されど、溜息を吐いている暇も、今は無いのだ。 「この中継車が『中継』している電波の発生源は目下捜査中でございますぞ。 皆々様に課せられたオーダーはこの中継車の破壊とノーフェイスの殲滅。……なのですが、少々厄介な案件が一つ」 言下にモニターに映し出されたのは、6体ロボット。親衛隊の兵器か、と問えばフォーチュナは頷いた。それらは全力でリベリスタの邪魔をしてくるだろう、と。 だが億す事も退く事も、『有り得ない』。亡霊をのさばらせておく訳には、いかないのだ。 「……任せましたぞ、皆々様! 行ってらっしゃいませ。どうか、ご無事で」 ●被害の輪=和 「はい、これ」 「ブレーメ曹長、これは一体何でございますの?」 「ああ、イボンヌ。恰好良いだろ? アルトマイヤー少尉に頼んで貸して貰ったんだ。折角だし使ってみなよ」 「クリスティナ中尉より下されたDonnergott作戦に、今度はアルトマイヤー少尉から兵器ですか。随分と豪華でございますわね」 「良い上官ばっかりで、俺ぁ幸せ者だよ」 「同じ言葉を貴方に。まぁ、この『テクノマギカ』にお任せ下さいまし。『負ける奴ぁ死ね、勝った奴が正義だ』でございますの」 「じゃ、任せたぜ。――Sieg Heil!」 「Sieg Heil!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月22日(月)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●頭にピッカリ良い塩梅 日中の商店街。誰が作曲したのか謎の御当地音楽が腹立出しいほどチンタラ平和に流れていた。 そんな中、ずるずると。どろどろと。死んだ目をした人間が、電波に脳味噌をヤられたソレらが、電波中継車を中心に大行進。大行列。 その理由をリベリスタは知っている。知っている。だからこそ、胸糞悪くて仕方がなかった。 「機械仕掛けの玩具で遊んでいるだけに飽き足らず、一般人を狂わせ使い棄ての駒に使うだなんて」 戦いを生業とする者の矜持は地に落ちているわね。吐き捨てる様に言い、『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)はその緋色の目を細め顰める。千里眼を用いるまでも無い、何処からどう見ても惨劇。増え続ける悲劇。日常の危機。時間は無情。 「こんな……一般人を……沢山巻き込んで」 悲劇の根は立ち切らねばならぬ、被害は防がねばならぬと『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は唇を噛み締める。同感だと、霊刀東雲を抜き放つ『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が続けた。 「罪も無い人々をノーフェイスにして、洗脳して。絶対、絶対に許さない!」 「うむ。これ以上バウアーを増やしてなるものか。嫌がらせにも程があると思うが――その嫌がらせをぶっ潰すのが天才だ」 眼鏡を押し上げ、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)は緑金の瞳に鋼の如き戦意を宿す。同様に、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)も頷いて。何であろうが、何が相手であろうが、己の成す事はただ一つ。 「皆が無事に生還できるよう、回復を絶やさずにいることだけです。そして可及的速やかに被害を止める事です」 「数の暴力は分かりやすい選択肢だが、厄介だな」 懸念はあれどやるしかないのだろうと『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は言う。傍らの『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)は親衛隊の目的について思考してみたが、答えが出る事はなさそうだ。 今は。今は。戦う他に無いのだ。 今すぐに。今スグニ。はやくしないと。 視線の先で、リベリスタを発見した親衛隊が車から降りる姿が見えた。ドイツ人。同じドイツ人で、同じ人間。『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)は柳眉を潜める。彼女は知っていた。WWⅡ。祖国を護る為には強さが必要で。鉄十字の軍勢は、確かに祖国を護る為に戦ったのだろう。戦い殉じた、両親の様に。ならば彼等は戦友とも呼ぶべき存在なのだろうが――決して、そう呼ぶ事は出来なかった。 ドイツ国防軍陸軍軍人であった父も、ドイツ貴族であった母も、最期まで民の為に戦った。 彼等は、違う。断じて、違う。彼等は、踏み越えてはならぬ一線を踏み越えたのだ。易々と。 「何も変わっていないのですね、貴方々は。優生? 劣等? この素晴らしき世界でそれを決めることに何の意味が? 負けたくないのならば、自分とも他人とも戦わずに逃げればいい。己が弱さの言い訳でもしていればいいでしょう」 「わたくし達に貴方の理屈を理解させたいのであれば、どうぞ屈服させてみて下さいまし。……鬼畜米英のようにね」 せせら笑ったイボンヌ・シュテルツェル。言葉でどうこう? 平和的解決? そんな次元、とうの昔の話なのだ。どう足掻いても、暴力に訴える他に無いのだろう。何処までも野蛮にケダモノの様に。 静かに、凍て付く闘志を目に宿し、アーデルハイトは宵闇の外套を翻す。 「硬すぎる鉄は脆くなる。その誉れ高き鉄十字勲章、打ち砕いて差し上げましょう」 「ではわたくし達は、貴方々劣等と言う『存在』を踏み砕いてさしあげましょう」 ――戦いが、始まる。 ●今日も元気だ正気が美味い 鉅は強結界を張り巡らせる。だが、結界で電波は防げない。被害を防ぐ為には早急に『やる』他に無いのだろう。 寄って集って、人の群。革醒していたり、そうでなかったり。バウアーは斯様に造られていたのか。真っ先に飛び出したセラフィーナは、それらをきっと見澄まして。 「元は一般人だったとしても、今はノーフェイス……私の、敵です!」 刃に纏う虹の色。溢れ返り立ち塞がる人々の中からバウアーだけに狙いを定め、閃かせる剣閃。返り血。躊躇するな。躊躇いで刃が曇ればまた『失う』ぞ。倒せ。殺せ。今はただ。敵を。斃す。 切り捨てなければならない。断腸の思いを噛み締めようと。 「……為すべきことを、為しましょう」 手遅れがもっと手遅れになる前に。少しでも助かる人を救う為に。真琴はそっと、京一へ目を遣った。返るは頷き。男は手を翳す。 無言、無表情、淡々と。放つ、光の衝撃波。革醒もしていない一般人にそれが耐え切れる訳もなく。死屍累々――厳密に言えば死んではいない――実に多くの人間が平和だった商店街に倒れ伏した。 「おやおや。正義の味方が、『何の罪も無い人間』に攻撃したのでございますわ! なんて酷い事を! 惨い事を!」 正義の味方が聞いて呆れる。一斉にどっと、ケラケラ、げらげら、イボンヌをはじめ親衛隊がそれを哂う。挑発だ。蔑みだ。だが、それにカッとなってはいけない事を、リベリスタ達は知っている。 「……仕方ないです」 ポツリ、麻衣が呟く。任務の為だ。これが最善手なのだ。 その通りだった。皮肉にも、『邪魔者』の数はぐっと減った。となれば、進める者は進むのみ。電波が人を集める前に。 速度に物を言わせて先陣を切ったセラフィーナに続いて飛び出したのは三人。鉅、真琴、陸駆。 それを迎え撃つは自律式兵器『Ameise』の黒い二個体、バウアー、親衛隊のデュランダル。先には行かせぬとブロックを。 真琴が振り下ろした魔落の一撃と親衛隊の剣が交差し、堅い音が響いた。鉅のバッドムーンフォークロアが赤く煌めいた。 その傍ら、黒い機械が陸駆の前に立ち塞がる。少年の吶喊が止められる。ざん、と足音。同時に爆音。放たれた散弾が少年の肌に突き刺さる、肉を飛ばす。赤。防御に構えた手。走る痛みに小さく呻いた。その間隙から。 「機械、か……」 僕の知っている『機械』は、もっとイイ奴なのだ。視線を、機械の肩越しに見える中継車へ。天才的演算によると、十二分に射程内だ。 「そんな車、天才的に破壊しつくしてやるのだ!」 眼光。絶対零度。魔力を帯びた脅威の眼差しが中継車に突き刺さる。そのままの視線が、イボンヌと搗ち合った。陸駆は声を張り上げる。 「勝てば官軍負ければ賊軍、ということだな。面白い。正義とは勝つことだ、そうだろう! アーネンエルベの亡霊ども!」 「Ja。ブレーメ曹長もそう仰っておりますわ。……勝たねば、幸福なんて訪れませんの」 「勝ち負けなんかに拘らなくっても、人は幸せになれるのだ!」 何時だって人間は戦争をする。平和が欲しくて。幸せになりたくて。戦争をする。どうしようもなく。 どかーんどかーん。 嗚呼、響いた爆音はまるで空襲。Ameiseの赤い個体がリベリスタの後衛へ放った対神秘炸裂弾が火柱を上げた音だ。 「く……」 じゅう。肌の焼ける感覚。肉の焦げる臭い。恵梨香は僅かに顔を顰める。だが痛みに怯んでいる暇はない。目配せ。同じ後衛に立つアーデルハイトへと。返るは頷き。少女は魔道書を携えて、麗人は闇の外套を翼の如く広げ、詠唱は全く同時、同じ旋律。 「「――穿て、雷鎖」」 掲げる二掌、構築された魔法陣。閃光と共に放たれるのは、壮絶な威力を孕んだ雷鳴の嵐。 それは魔女達が『敵』とみなした一切合財有象無象を飲み込み、焼き、薙ぎ払う。イカズチ。それは特に、Ameiseにとっては大ダメージとなる。 親衛隊の治癒旋律と麻衣のそれが戦場を交差する。京一が中継車が壊れぬ限り寄って来る一般人対応の為に神気閃光の準備をしている最中――イボンヌは確かにリベリスタの回復役が麻衣である事を確認した。となれば取る手は一つ。 「Soldaten! 方舟の生命線を絶っておしまいなさい」 「Jawohl!」 黒い機械にブロックを任せ、親衛隊のデュランダルが麻衣目掛けて走り出す。同時にイボンヌが奏でる黒鎖の二重奏が唸りを上げてリベリスタ達に襲い掛かった。 真琴は麻衣を護ろうとしたが、ブロックでは庇う事は出来ず。距離も遠すぎる。目の前の黒い機械が火を吹いて彼女の肉を運命と共に吹き飛ばした。 状況は進む。 無情にも進む。 魔女達の苛烈な雷撃にAmeiseは甚大な被害を受け、赤と黄色の個体がそれぞれ一体ずつ火花を散らして壊れ崩れた。雷撃に穿たれ蹌踉めいたバウアーも、セラフィーナが隙を逃さず一閃の下にその首を刎ねる。噴き出す血潮。どうと倒れる。 「人には『罪無き一般人を』と言う癖に、フェイトを得られなければ貴方々だって平然と殺しておりませんこと?」 くつくつ笑うイボンヌを、天使少女は鋭い視線で睨ね付ける。返り血に、その白い羽を染めながら。 「今すぐこの人達を元に戻しなさい。戻せないと言うのなら……死んで償いなさい、親衛隊!」 「Nein!」 お断りだ。放たれる魔法。黒い鎖。鉅が運命を燃やす事なく倒れ、京一が血潮と共に運命を散らす。肉を削がれながら。絞められながら。されど陸駆は踏み止まって。狙いはあくまでも中継車。 「吹き飛べ、りっくんレイザー!」 切れた額から血を流しながら、翳す掌。刹那。ひゅる、と大気が揺らいで――荒れ狂う刃の嵐が中継車を、周りに居る親衛隊を切り刻む。呻き声と悪態が聞こえた。 「チ――やっておしまいなさい!」 イボンヌが張り上げる声、示す指、躍り掛かるバウアー達。超直観は万能ではないけれど、何をするつもりなのか嫌な予感はハッキリと分かった。 「!」 空に逃れたセラフィーナは『どかん』という爆音を眼下で聞いた。煙を上げて倒れる仲間の姿を見た。唇を噛む。けれど、皮肉にも、自爆によってバウアーの数が減った事で、突破は容易となった。 (……ごめんなさい) 心の中で、恵梨香は謝罪を捧げる。救えなかった一般人へ。それで許されるなんてありえないとは、理解しているけれど――少女は人間だった。どれほど達観して冷淡に振る舞おうとも、心は確かに人間なのだ。 だからこそ、強く強く前を向いて、戦わねばならぬ。 「――道を作ります。一気に突破を!」 「行きなさい、勝利の為に」 凛と声二つ。翳された掌。恵梨香とアーデルハイトの詠唱が重なる。 放たれるのは一直線の白い光、何条もの黒い闇。バウアーや自律兵器を薙ぎ払い、絡め取り、リベリスタ達の道を切り開く。 「覚悟!」 突撃。セラフィーナは翼を翻し、ぐんと速度を上げた。閃くは鬼王をも滅ぼした暁の刃。七色を纏い、幻想的に一閃、二閃、光と戯れる様に。中継車に大きな傷痕を残す。 あと一息だ。同時に陸駆は眼光に魔力を込め、リベリスタからの苛烈な攻撃に酷く傷付いた中継車を一瞥。射抜く。その一撃で。遂に――堅い音を鈍く響かせ。中継車は、煙を上げて大破した。 「……! まぁ……中々やるようでございますわね。でも、これで解決したと思うのは大間違いでしてよ?」 一瞬だけ瞠目するも、イボンヌは冷笑する。中継車が壊れた今、親衛隊がリベリスタと戦い続ける利益はない。撤退の準備。けれど、それを許さぬのはリベリスタであった。 「これ以上この日本で好き勝手はさせない。僕らには公園を取り戻す使命もある」 躍り出た陸駆が、イボンヌへ肉薄する。アボソリュート・ゼロ――されどそれはバウアーが庇い防いで。 「貴様等、差し詰め後がないのだろう。そうでなければ、一般人を兵として集めたりするものか」 「あら、随分自分本位なご意見だこと。言っておきますがドンナーゴッツ作戦は随分前に考案されていたようですけれど?」 お門違いだと舌を出し、お返しだとイボンヌが黒き歌を二度に渡って撃ち放つ。その曲に飲み込まれ、親衛隊のデュランダルから執拗に攻撃されていた麻衣の歌が遂に潰えた。 残るバウアーは2体、兵器が黒と赤が2体、親衛隊が4人。一方のリベリスタは5人。 「徹底的に、勝負だ」 血を流しながら、陸駆は敵を睨め付ける。 そんな少年の前にはクロスイージスが立ちはだかり、セラフィーナの周りにはバウアー、後衛陣には兵器とデュランダルが。 振りぬかれた警棒を霊刀の切っ先で受け流し、セラフィーナは時をも切り裂く氷霧を振るう。凍て付き自由を奪われたそこへ、迸るのは激しい稲妻。凍ったノーフェイスを打ち砕く。 ぜぇ、はぁ。恵梨香は肩で息をしていた。血が、大量に滴っている。兵器の襲撃に、親衛隊デュランダルの烈風。同じ後衛のアーデルハイトも漆黒の衣装を血で赤黒く湿らせていた。 ずどん。黒い機械の散弾が少女の腹を捉える。 「う゛」 くの字に折れた恵梨香の細い体。ボタボタボタッと血が落ちる。ごぼっと口から血が溢れる。それでも、焼いた運命でリタイアを拒絶して。鉄臭い舌で、呪文を紡いだ。鋭い眼差しで敵を睨め付けながら。 ただの狂人では、兵士としては下の下。尤も敵が上品であれ下品であれ、成すべき事は一つ。『殲滅』。 殲滅を。 翳した手。魔力を込めて。撃ち放つ。轟く雷霆。雷神<Donnergott>が如く。 それは機械を纏めて薙ぎ払い、バウアーをも粉砕して。その数はゼロ。目標達成。けれどリベリスタは退かなかった。攻撃を、戦闘を、戦争を望んだ。喰らい付いた。 そのしつこさに親衛隊も顔を顰める。血が、血が、戦場に流れて満ちた。どろどろと、泥沼。 アーデルハイトの銀髪が戦風に悠然と靡く。京一を倒したデュランダルに立ち塞がれようと、その意志が揺らぐことはない。 「――退きなさい」 魔力を込めつつ掌を向けた――刹那。親衛隊が跳び下がる。撤退のつもりだろう。バウアーもAmeiseももういない。これ以上つきあう命令も下されていない。 けれど同時にリベリスタの被害も大きかった。目標を達成し、更にその先を望んだ代価。既に半数がやられ、何人も運命を散らしている。 「待て……!」 陸駆は駆け出そうとするけれど、それを静止したのはアーデルハイトの静かな声。 「――潮時ですね」 戦い戦い戦い続け、徒に被害を出すなど。早急に遠退いて行く足音に、リベリスタ達はようやっと武器を下ろして。 ふと、セラフィーナは周囲を見渡した。京一の神気閃光に倒れた一般人の群れ。戦闘に巻き込まれ、全てが無事ではない。寧ろ戦闘が続いた故に。血溜まりだった。己の身体も随分返り血塗れである事に気が付く。 ――天を仰ぐ。相変わらず、平和極まりない商店街の音楽が古ぼけたスピーカーから流れていて。それ以外は静寂。シンとして。 血腥い。 この血の臭いは、洗っても落ちるのだろうかと――脳の片隅で、ふと思った。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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