●圧倒的な力 月光の下、静寂が支配するその山々に轟音が響いた。 巨躯を引きずる様にし、その姿を現したのは蒼き鱗に覆われた「竜」と形容するが相応しい異形のバケモノ。 その翼を動かせば、強烈な風が巻き起こり……夜闇の中、安らいでいた動物達の叫び声が夜の山中へ響き渡る。 必死で逃げ惑う動物目掛け、その竜が口を開けば羽ばたき以上に強烈な風の奔流が動物を襲い、叫び声をかき消しながらその体を空中高く放り出す。 幾度も放たれたその暴風は木々をなぎ倒し、枝葉を巻き上げ、幾頭もの動物が地面へ叩きつけられ、虫の息となる。 そこへ、トドメとばかり三羽の怪鳥が出現、まだ息の合った動物達へ襲い掛かり、一頭ずつ確実に屠っていく…… 静寂が再び訪れ、月光がその場を照らし出す。 そこにあるのは、無残に引き倒された木々と動く事の無い、幾頭もの動物の亡骸。 事を終わらせたその竜は、ゆっくりと歩を進め、倒れ伏した動物へ喰らい付き、咀嚼する。 鮮血にてその蒼き鱗を染め上げながら、肉を喰らうその様は王者たる風格。 竜を補佐した三羽の怪鳥は、周囲を飛び交いながら賛美するよう、不愉快な鳴き声を上げ続け、不気味な羽ばたき音を森の中へと響かせる。 巻き起こしたこの惨状、次なる破壊と捕食の時は、刻一刻と迫っていく…… ● 「竜、って呼べる姿をしたエリューションビーストが出たわ。その討伐が今回の目的ね」 集ったリベリスタへ、真白・イヴが淡々と語りだす。 今回、探知されたのは蒼き鱗に覆われ、風を巻き起こす力を振るう竜と呼ぶに相応しいエリューションビーストと、その補佐をする三羽の怪鳥である。 「場所は登山道から離れて、獣道を進んだ先にある場所よ。 道はちょっと進みにくいけど、この間暴れたんでしょうね、竜が居る場所は木が倒れてて直ぐに分かるし、銃とか使う障害物になる物も無いわ。 でも、足場が悪い事に変わりは無いし、夜にしか居ないみたいだから、その辺りも注意して」 射線を遮る物は無いが、足場の悪さはそのままに。 夜間という時間も固定され、不利な条件を受けるリベリスタに対し、竜はその膂力と巨躯にて足場の悪さを物ともせず、怪鳥は自在に飛び回る優位性を持つという。 「で、今回の相手だけど、攻撃手段とかはここに纏めてるから参考にして。 竜は力任せに押し切ってくるけど、パワーは凄いから、動きを押し止めるには三人は必要ね。あと、鳥の方だけど、竜の援護を優先しながら、弱った素振りを見せた相手を確実に倒そうとするわ。 ただ、目の前の相手を倒そうとするだけじゃないから、気をつけて」 圧倒的膂力にて押し込む竜、補助に徹しながらも機あれば確実に仕留めようとする怪鳥。 単純に眼前の相手を叩く、という機械じみた相手ではなく、注意が必要だろう。 「それと、今回の竜だけど。逆鱗、っていうモノがあるみたいね。 場所は下顎の下、ちょっと色が濃くなってるから、直ぐに分かるはずよ。もし、ここに攻撃が当たったら攻撃した人を真っ先に倒そうと狙ってくるでしょうね。 わざわざ狙わないとそうそう当たらないけど、範囲の広い攻撃をした時に偶然当たっちゃう事もあるから、その辺は気をつけて」 同時に語られた、竜を攻撃する際の注意点。 利用する、しないに関わらず、何の考えも無しに戦闘するのは少々危険と言えるその特徴は、作戦を考える上で一つの目安となるだろう。 「情報はこんなところね。竜はすごくタフ、鳥も厄介って相手だけど、このまま放置も出来ないから。それじゃ、任せたわよ」 そこまで伝え、彼女は纏めておいた資料一式をリベリスタへ託し説明を終了。 強力な力を持つ、竜とその眷属撃破へと送り出すのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月07日(水)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●TYPHON-chapter1 樹木の枝を押しのけて、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)はうっとうしそうに眼鏡のつるを掴んだ。 やや歪んだレンズ越しに巨大な柱が見えている。 否、柱では無い。表面はハ虫類の表皮に似て硬く、鱗状の革はその全てに意志があるかのようにぞわぞわとこすれ合っていた。 視線を上げると天空のどこかをじっと見つめる竜の頭があった。 「はー、これだけ色々戦ってきましたけれど、『ドラゴン退治』は初めてかもしれません」 「祖母から聞いた神話を思い出しますね。そういうお役柄ではございませんが、どうも」 ごてごてした手を額に翳す『魔術師』風見 七花(BNE003013)。 その後ろで『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)はお行儀良く身体の前で両手を組んでいた。穏やかな表情のままで振り返る。 「廿楽様、ご準備は」 「これはこれは、お待たせしました。憑依と共有は済みました、この通り」 『変態紳士-紳士=』廿楽 恭弥(BNE004565)が手を下ろすと、小柄な少女の頭に触れた。遠目に見れば面妖な風貌の少女だが、近づいてみればそれが精巧な人形だと分かった。式神使役によるものである。 「実戦ははじめてでしたね。手順は覚えましたか?」 『おぼえたよ、ますたー?』 「よろしい」 にこにことしながら頭を撫でてやる恭弥。 そんな彼をよそに、『もそもぞ』荒苦那・まお(BNE003202)は太い枝からぶら下がったままぱりくりと瞬きした。次に鷲祐の顔を見る。 「同じ竜でも、とても違ってるとまおは思いました」 「フン、あんな顔のリベリスタがいてたまるか」 現に居ますけど、と言いかけてやめるまお。 鷲祐は息を吸った。 「地味に陸路を選んで幸運だったな。奴はまだこちらに気づいていない。鳥の羽ばたきもずいぶんとうるさい。飛んで近づいてもそうそうバレないはずだ。スピカ、距離は」 「ちょっと待ってね」 『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)は測定鏡のような筒を目元に当てた。 「竜の逆鱗に当てるには、多少近づかなきゃだめみたい。顎を下ろすまで待てば無理じゃないけど、どうする?」 「『敵将様が都合良くお動きになられる』作戦など愚策だ。手はず通りにしろ。ジョン、鳥のほうはどうだ」 「まだ後ろに控えているようです。森に紛れれば迂回も可能かと」 モノクルを指で掴んだ『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)が、横目で仲間を見やった。 『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)が胸に手を当てて深呼吸をしている。 その様子を無視して、鷲祐は低く言った。 「好機だ。纏向とスピカは配置につけ。他はスピカを射程内に入れたまま一丸になって迂回。鳥を叩く」 「了解、それじゃあ『そっち』はよろしくね」 手を小さく振ってから、十字架に張り付くかのように両腕を広げる瑞樹。スピカは彼女を羽交い締めにするように抱えると、羽をばたつかせて離陸した。 「それでは運び屋さん、お願いします!」 「任せて、ちゃんと届けてみせる。運び屋わたこフライト開始!」 「俺たちも行くぞ。ライトは消しておけ、遅れるな!」 スピカたちは森から飛び立ち、その一方で鷲祐たちは身を低くして木々の間をかけ始めた。 静かに。 しかし鋭く。 戦いは幕を開けていた。 ●TYPHON-chapter2-side_A なんとか気づかれることなく竜の後方へと回った鷲祐たちはようやく射程距離内に怪鳥の一群を見つけた。 「できるだけ鳥と竜を引き離す。まずは全体へインパクトを与えてから引っ張りつつ戦え。鳥はフォーチュナの予知シーンから分析するにまず敵個体を確実に潰そうと突っ込んでくるはずだ。複雑な地形をあえて活かせ。できるな?」 「必要とあらば」 「まおの得意分野です」 そう言って木の枝へとぴょんぴょんと伝い跳んでいくリコル。まおはまおで木の頂点にくくりつけたワイヤーを伝ってするすると登っていった。 「上々だ。ジョン、風見、派手なイントロを頼むぜ」 「仰せのままに――」 ジョンは樹幹の一つを蹴って太めの枝に乗ると、胸に手を当てて深々と頭を垂れた。 「蒼空の王が皆様方。今宵はわたくしめが前奏を仕ります竜退治の物語。どうぞごゆるりと――お楽しみあれ」 頭を上げ、腕を払ったその瞬間、宵闇の空を神気の光が瞬いた。 急な光で僅かにバランスを崩す怪鳥たち。 猛禽類特有の目がジョンを一斉ににらみ付けたその時、ジョンを遮るように七花がぴょんと飛び上がった。 「Cited from Rousalka!!」 機械の手で豪快に、それでいて繊細に開かれた革装丁の魔道書が高速でめくられていき、あるページに至ったところでピンと七花の指がページを押さえた。 途端、七花を中心に激しい稲光が走り、拡散した稲妻が怪鳥たちへと直撃した。 七花はニッと笑うと、ジョンを掴んで木下へと転がり落ちる。 先程まで足場にしていた枝が、怪鳥の突撃によって爆発したかのように吹き飛んだ。 外したか。そんな目をした怪鳥が反転上昇をかけようとした……が、その目にリコルとまおの姿をとらえた。二人とも並んだ樹木の頂点にぴったりと立っている。 ぴょんと飛んで視界から消えるまお。一方でリコルは自分の横すれすれを通過する怪鳥めがけ強烈な打撃を叩き込んだ。およそ自分を仰ぐためとはおもえぬ巨大な二枚扇子による打撃である。 怪鳥はそのまま地面に突っ込みそうになるのをこらえてなんとか上昇。だが無理に反撃は考えない。仲間の二羽が既にリコルを狙っているからだ。 うまく空中で身を転じ、絶妙な時間差攻撃になるようリコルへと突撃する二羽の怪鳥。 この攻撃をいかに見極めたものか。そう考える場面である。 だが以外にもリコルは両目を瞑り、身体の前で腕を交差。扇子を二枚とも開いたまま、樹木の頂点で直立不動となったのである。 無防備にもほどがある! 怪鳥たちもこれは好機とより一層の速度をつけ風を巻き込みリコルの腕を肩ごと食いちぎりにかかった……が、しかし! 「調いました」 ばちんとまとまる二本の扇子。リコルは薄目だけを開くと、その場から最低限に跳躍。自らの肩を狙ったであろう怪鳥を見事によけると、その顔面に強烈な打撃を加えた。更に急カーブによってリコルをねらいにかかった怪鳥のくちばしを足で蹴ると、まるで舞い落ちる銀杏の葉がごとく身をかわした。風にさからわぬ葉を刀でいくら突こうとも刃が通ることはないように、リコルのすぐ脇をかすめていく怪鳥。 「風の流れをあえて狭め、特殊強化された聴力で羽音を聞き分けたか。なるほど上手い」 鷲祐は充分に集中させた気を自らの腕に集めると、単身空中へと躍り出た。 「待たせたな」 短剣を鋭く構え、突きの体勢を作る。 だが場所は空中。怪鳥にとっては餌をなげるようなもの。一番最初に突撃してきた怪鳥が反転ターンをかけ鷲祐へと急接近。鋭いくちばしを開――こうとして、開けなかった。 なぜか? それは怪鳥のくちばしにいつの間にか鋼のワイヤーが巻き付けられていたからである。 なぜか? それは怪鳥の首にぴったりと張り付いたまおが巻き付けたからである。 なぜか? それは怪鳥が通り過ぎたあの瞬間に素早く飛び乗ったからである。 顎一つとたかをくくってはいけない。 たとえばあなたが激しいスポーツをしていて、その間急に顎を開けぬように固定されたなら。いや、そのような経験は万人に一人あるかないかだが、もしあるとすれば、おおよそこのようになる。 『――!?』 怪鳥はびくんと身体をのけぞらせ、その反動で鷲祐の頭上をこするようなルートへ変更。素早く突き出された鷲祐のナイフが喉へと突き刺さり、流れるように下腹部まで滑り、まるで丸焼き鶏のようにぱっくりと腹を開かれた怪鳥は悲鳴すらあげることなく地面へと落ちていったのだった。 「お可哀想に。そのザマでは満足に飛べもせず、眠れる夜も来ないでしょう」 土に顔をこすった怪鳥の真横に、シルクハットを被った恭弥が立っていた。 胸のポケットからハンカチを取り出すと、布はまるで映像を逆回しにしたかのようにぱたぱたと開いていった。やがて一本の棒状へと成り、それまでの柔軟さが嘘だったかのようにびしりと固まった。 「さ、よく眠れるおまじないをして差し上げましょう。いやなに、お礼は結構ですよ」 血がしみて広がるかのように真っ赤に変色する布。それを、恭弥はヒュンと降った。 次に起きたことと言えば単純である。 怪鳥の首がバスンと切れ、地面に転がったのだ。 「――私、紳士ですから」 『……!』 ことここに来て焦ったのは残り二羽の怪鳥たちである。 新たな餌が飛び込んだかと思いきや、狩られていたのは自分たちだったのだ。 彼らは一度目を合わせ、寄生先とも従属先とも言える竜へと振り返る。 そして、野性的な己の性質に心の底から後悔したのだった。 ●TYPHON-chapter2-side_B 鷲祐たちが怪鳥と戦っている間何があったのか。なぜ怪鳥たちが後悔するに至ったのか。 それを探るにはわずかに時間を巻き戻す必要がある。 具体的にはスピカが瑞樹を抱えて森を飛び立ち中空に身をさらしてからのことだ。 「瑞樹、ちゃんと見えてる?」 「なんとかね」 些細なことだが、人を抱えて運んでいる以上複雑で精密な飛行は難しい。更に言えば瑞樹も身体を一部固定され、自分とは別の意志によって身体を動かされているので精密な射撃が難しい状態にあった。 ゆっくりと慎重に高度を上げる。 やがて竜の首と同じだけの高さに至ったところで、竜の目がスピカたちをとらえた。 こちらに気づいた。そう思った瞬間竜の背後で激しいフラッシュが発生、一秒遅れてスパークがほとばしり、それらは勿論竜を巻き込んで闇夜を照らした。 文字通り逆鱗に触れたのだろう。竜は牙をむき出しにして振り向こうとした。 が、首が横を向いたその瞬間、竜の下あごを何かが高速で通過した。いや、掠ったと言うべきか。 振り向きかけていた首を再び正面へと戻す竜。 その視界には、短刀を銃か何かのように構えた瑞樹と、それを抱えるスピカの姿があった。 瑞樹の腕には螺旋状に蛇が巻き付いており、よく見ればそれは実体化した影の塊であると知れた。 知れた。というのは過去形である。 それら一連の事態を『空を飛んでいる女に逆鱗を撃たれた』という形で認識した竜は、即座にブレスを発射した。 「運び屋さん、緊急回避――いやパージ!」 自分を抱えていたスピカの腕を外す瑞樹。一方のスピカは彼女を突き飛ばすようにして急上昇。 二人の間にあった空気が、まるで独自の意志をもったかのようにねじれて爆発した。 くるくると回転しながら落下する瑞樹。 スピカは一度身体を丸めて180度ターンをかけると、落下中の瑞樹の腰を抱き抱えて地面へ急降下。すれすれの所でカーブをかけると、二発目のブレスを回避――いや、間に合わない。 地面ごとえぐって飛ばすようなブレスからギリギリ逃れきれないと察したスピカは翼で包むようにして瑞樹を保護。背中をもろにえぐられたことで急激に失速し、地面をごろごろと転がった。 瑞樹は投げ出されるように転がりつつも、器用に起き上がってインカムマイクに手を当てた。 「被弾! 綿雪さんが庇ってくれた」 『――支援はいるか!?』 「まだ平気!」 『なら竜を引き離してくれ。こちらの回復範囲から外れないレベルでいい。あとスピカ、ここからは庇うより回復を優先しろ。生存率が上がるはずだ。あとは頼むぞ』 「はいはい、随分大きいお荷物ね。送料かかるわよ」 スピカは天使の歌を発動させながら駆けだした。片手では瑞樹の手を握っている。 一緒になって走り出す瑞樹。風を激しくかき混ぜる重低音と共に竜の顎が突っ込まれ、二人のすぐ背後を樹木と土ごとかっさらっていく。 「もう一発――」 半身で振り返り、片目を瞑る瑞樹。 「私にはパワーもスピードもない。けど『当てること』だけはずっと磨いてきたんだ!」 ライアークラウンを連射。竜の顎へと立て続けに着弾し、竜はうなりと共に瑞樹たちを追いかけ始めた。 捕まったら死ぬ鬼ごっこが、こうして始まったのだった。 ●TYPHON-chapter3 古今東西のあらゆる文献において、少女の足が巨大な竜から逃げおおせたという例は無い。 今回のみ特例が現われるということはなく、ごく順調に瑞樹たちは追い詰められた。 いや、追い付かれたのか。 この竜に関して言えば、追い付くことと追い詰めることはほぼ同義であった。 「あうっ!」 空間ごと爆発させたかのような暴風ブレスに巻き込まれたスピカと瑞樹は、上下左右めちゃくちゃにシェイクされた後大樹の幹へと激突した。 「綿雪さん、立って!」 土に頬をつけたスピカを抱え起こそうとする瑞樹。が、それが地面ではなく、空中に浮いた大樹の根元であると気づいて顔を青くした。 開かれた竜の顎が凄まじいスピードで迫る。おそらくこの大樹すらビスケットのように噛み砕いてしまうだろう。その根元にいるスピカなど、語るべくもない。 なんとかしなくては。だがその思考はすでに遅い。 スピカは身体を起こすと、瑞樹を力一杯突き飛ばしたのだ。いや、突き落としたのだ。 大樹から無理矢理押し出される瑞樹。急激に離れ行く視界のなかで、大樹が竜によってばきんと噛み砕かれた。 届かぬ手を伸ばす。 何かの滴が重力とは逆の方向へとはじけた。 そんな、スローモーションの中。 滴を破るように。 重力に逆らうように。 メイド服の女が天へと駆け上った。 中空に散らばる無数の樹木を足場にしてジグザグに飛んだリコルは、完全に閉じられる竜の歯へと滑り込み、開いた奥義を二枚の壁とし、そして自らを『歯に挟まった小石』とした。 骨を砕くかのような圧力に顔をしかめるリコル。 そのすぐそばでは、スピカが身体を丸くしていた。 「間に合ったようですね。お怪我は?」 「髪に砂がまじって気持ちが悪いわ」 「それは大変、あとで櫛を通しましょうね」 二人はにっこりと笑い合うと、竜の喉めがけて四連魔法弾を、下あごめがけて強烈なスタンピングを繰り出した。 無理矢理口をこじ開けられた竜はうなりをあげ、はき出されたスピカとリコルは抱き合うようにして離脱。 入れ替わりに落ちてきた式神の少女が竜の下あごへと回り込み、力一杯がしがしと殴った。 その後首の後ろへしがみついてみた……が。 暫くしてかくんと首を傾げた。 『ますたー! りゅうがはんのうしないよ! とりも!』 「そもそも戦闘対象として見なされませんでしたか。人間相手なら囮にできそうなものなんですが、獣は思考が乱暴でいけませんね。いやはや勉強になる」 『どうしよう?』 「あなたの行動は試すだけの成果を出しました。これ以上危険にさらしてもいけません。暫く隠れていてください」 『りょうかいだよ!』 ぴょんと飛び降りる式神。彼女を右腕でキャッチして、恭弥は暗黒を発射した。 既に虫の息にあった怪鳥を瘴気が覆い、みるみる失速。中空に居ながらにして死にいたしめ、どこかへと墜落させた。 『ますたーすごい!』 「いえいえ」 恭弥は得意げに笑うと、空いた腕で瑞樹をキャッチした。 きょとんとした顔で腕におさまる瑞樹。 『ますたーすごい!』 「当然」 恭弥にお礼を言ってから下ろしてもらい、瑞樹はびしりと竜に剣をつきつける。 「追いかけっこはもう終わり。ここからはサバイバル(食うか食われるか)だよ!」 しっかり狙いをつけてライアークラウンを連射。それらが全て――そう、全て竜の逆鱗へと突き刺さった。 『――!!』 怒り狂った竜はその場から浮き上がり、翼を大きく羽ばたかせた。 乱流が巻き起こり、草木をめちゃくちゃにかき回してく。 その場にいた全員が空中に巻き上げられ、上下左右をかき回される。 「味方が居なくなってなりふり構わなくなったんですね」 「つまり、ラストスパートということです」 乱流に身を固めていたジョンが両手の中に大量の羽根ペンを顕現。竜めがけて次々と投擲しはじめた。 更に、機械の手を鉄砲の形にした七花がマジックミサイルを連続発射。魔法の矢が複雑な軌道を描いて竜の眼球へと突き刺さった。 そんな竜の背中を同時にかけのぼるまおと鷲祐。 「そろそろトドメだ。一気にいくぞ!」 「がんばります!」 まおは竜の眉間に立つとワイヤーを展開。竜の顎を無理矢理に縛り始める。どうせすぐに食いちぎられるだろう。だがその『どうせ』が来る前に。 高く高く飛び上がった鷲祐が、中空で反転。高速かつ垂直に竜へと突っ込むと、眉間から下顎にかけてを自らの身体でもって貫通した。 宵闇に光る無数の光。 そして竜は、山中へと身を沈めたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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