●反逆の機械獣人 都会の喧騒から離れた片田舎にほど近い場所に、その工房はあった。 近隣住民からも何をしているのか余り知られていない、人呼んで不思議倉庫。 そこでは二人の男が、自らの夢を叶えるべく日夜邁進していた。 「後はこの操縦レバーを設置すれば……」 「遠隔操作は上手くいってたんだ。大丈夫!」 三十代半ばといったところか、片や筋骨隆々の男、片や痩躯眼鏡の学者肌。働き盛りの男達の瞳は今、輝いている。 その目が何を映しているのかと言えば、彼らが手を乗せ、足を掛け、寄りかかっている金属の塊だ。 「設置完了。起動実験頼むぞ、柴田!」 「任せろって、米元。俺達の夢、きっと動かしてみせるさ!」 表面を滑り降り、痩躯眼鏡の……米元が離れた事を確認すると、柴田はゆっくりとハッチを閉じる。 蓋をされた空間は多少窮屈で、そこかしこに液晶の画面やスイッチ類がある。それはさながら飛行機のコックピット。 米元は離れた所から、それを見上げている。 全高5m弱、重量約5t強。全体を漆黒のカラーリングに、胸部に張り付けたエンブレムの赤が映える。 圧倒的な存在感を放つその巨体。ふんだんにメッキ処理した体は艶に溢れた黒光り。 下半身がサソリ、上半身が人の姿を模したそれは、メソポタミアの伝説上の生き物がモデルとなった物。 「動かせ! 柴田ーーー!!」 その細い身体から米元が信じられない大声を出す。尋常ではない興奮と共に。 昂ぶりも無理はない。彼らの二十年来の夢が、叶う瞬間が来たのだ。 ファンタジーが好きで、SFが好きな彼らの夢の結晶。 幻想と科学の融合。 人型の部位の、瞳に赤い輝きが灯る。 それは見上げる米元の想像を越えた滑らかさで、己の右手を掲げてみせた。 「や、た! 動いた! 思った以上の駆動だ! 大成功だぞ! 柴田ー!!」 歓声を上げる。そうしている間にも、世に生を受けた機械の獣人は足を、肩を、腕に持った槍を動かす。 「スゴイ! スゴイスゴイスゴイ! まるで生きてるかのような自然な動きだ!」 飛び跳ねる米元に、ふと、影が降りる。 「へあ?」 機械の獣人の、赤い双眸が彼を見下ろしていた。 「え?」 それは徐に槍を持ち上げると、 「お、い。柴、田?」 米元の体を真っ直ぐに貫いていた。 「………」 ぼんやりとした様子で、コックピットの柴田はそれを見ていた。 意識が混濁していて、何も分からない。 ただ、頭の片隅で一つだけ理解する。 自分はこのまま、ここから一生出る事は出来ないのだろう、と。 ●敵はロボット 「おっきいロボットが動くのって、やっぱりカッコいいよね」 そう言うフォーチュナの少女――真白イヴの瞳は、しかし浪漫に憧れる無垢な色はしていない。 「せっかくの夢の完成がこんな形で踏みにじられるのは、やっぱり喜ばしい事じゃないと思う」 彼女が語った未来の出来事は、二人の男の夢が完成と同時に打ち壊されてしまう悲しい内容だった。 これが幸せな結末であれば、この少女の瞳も、声音も、明るい物であったかも知れないのに。 「彼らが作ったロボットが、完成と同時にエリューション化。パイロットである柴田さんを取り込みながら、活動を開始するの」 物品がエリューション化した物を、エリューション・ゴーレムという。今回のロボットは正しくそれだ。 「厄介なのは、柴田さんも生体パーツとしてコックピットに捕まっているという点。通常通りに敵を撃破してしまうと、柴田さんの命も失われてしまう」 しかし、幻想生物をモデルとしたこのロボット自体、相当に恐ろしいスペックを誇るという。 「二人は冗談でつけた各種武装が、エリューション化の影響で現実の物として使用出来てしまえる状態にある。例えば、手にした槍は炎の槍で、触れた者を焼き尽くす。とかね」 他にもロボットであるからという理由で様々な武装が施されているというのだから、そも討伐も一筋縄にはいかないだろう。 「一応ハッチは外部から開く事が出来るみたいだけど、動く敵に張り付く事の危険は、分かってるよね?」 柴田の救助は、被害も大きく、中々に骨の折れそうな作業だ。 「けど、生体パーツである柴田さんを救助、奪取出来たら、きっと敵は大きく弱体化する。それは皆にも有利に働くはず」 所謂ハイリスクハイリターンの選択という物だろう。イヴは、その選択をリベリスタ達に任せるつもりの様だった。 他にも現場に居合わせる米元の扱いや、屋外戦闘となった際の周辺住民への対策の必要性など、懸念事項をイヴが告げる。 「気にするべき所はこのくらいかな? ……あ。最悪激しい戦闘で建物が壊れてしまう可能性があるから、気を付けて」 全てを説明し終えたイヴに、リベリスタの一人が手を挙げ質問をした。 「え、ロボットの名前? 決まってないみたいだし、好きに呼んだらいいんじゃない?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:みちびきいなり | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月18日(木)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夏の日は熱く 一台の軽トラックが人通りの無い道をひた走っている。 家への帰途だろうか。この暑い中、それは少しだけ法定速度を破って進んでいた。 「あー……、こっちは不思議倉庫の方か。どうすっかなぁ。ちょっと早く帰れるが、あそこ不気味なのよなぁ」 運転手はそんな事を呟いて、いつもの道との分岐点までやって来た。 <通行止め-実験中につき騒音ご迷惑をおかけします-> 目についた立て看板。それは彼が今までに一度も見た事が無い物だったが。 「面倒事に巻き込まれるのは御免だぁ」 胸にざわつく何となく『行きたくない』という気持ちも相まって、運転手は工房から遠ざかる道を選び車を走らせる。 彼のその選択は、結果として彼の命を救う事になる。 何故ならその立て看板の先は―― 「該当のE・ゴーレムを『イワン』と呼称。任務を開始する」 「な、何者なんだ!? あんた達は!」 「アナタ方を危険から遠ざける為に来た者です」 突然の闖入者達に驚く米元を、執事然としたモノクルの青年が手早く保護し、ソレから距離を取る。 「……ったく、面倒くせぇ」 「人に害を成す、ましてや製作者を襲うようではロボットとはいえないデスネ。ただのジャンクなのデス」 軍服に身を纏う壮年の男を筆頭に、鮫のように鋭い歯を見せる少年。斧程ある肉切り包丁を両手に携えたゴスロリ少女。 「米元様の保護は完了しましたね?」 「ロボット! それは人類の夢!」 メイド服の少女に、極めつけは空を舞う天使の羽の少女。 幾人もの様々な見目の者達が、ソレと対峙する。 「4EsタソDw1ggwoセパ……!!」 ソレのスピーカーから響く怪音は、明確な敵意の証。 「看板、役に立てばいいんですけど」 「大丈夫大丈夫、完璧よ」 怪異と化し、暴走している巨大ロボットを前にして、彼らは全く臆する事無く立っている。 「な、何だっていうんだ」 米元の呟きに、そばで彼を守るように立つモノクルの青年が言う。 「危険ですのでわたくしめの背にお隠れ下さい。……ここはもう、戦場なのです」 「信じられない!」 ファンタジーとSFが好きで、その再現を信じて今日この時までやって来た米元でも、その現実はなかなか受け入れ難い。 彼らの工房――不思議倉庫が。 「さて、斬り合いましょうか」 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 今まさに、人智を越えた神秘の戦場と化しているのだとは。 ●鉄の幻想生物 E・ゴーレム……呼称『イワン』は、彼らリベリスタを迷わず『敵』であると判別した。 右手に持った槍を振り上げ、間近に居た軍服の男『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)目掛け烈風の早さで打ち込んでくる。 「ジョン殿退避を頼む」 手短にそう言って、ウラジミールは槍の直撃を躱しつつも真っ向から受けて立つ。 「AsLェdEglダゴGseE!!」 ほぼ同時に、イワンの左手は彼を捕えようとその掌を開いて迫っている。が、 弾く。強烈な金属音。 「さあさあ言うこと聞かないロボットはお休みの時間デス。金属まで戻って砕けて大人しくするデスヨ」 割り込んだのは、肉切り包丁を構えた『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)。小さな体に似合わぬ剛力で、迫る右手を打ち返したのだ。 「よそ見している暇はございませんよ!」 「……シッ!」 蠍型の脚に、加護を纏った『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)の双鉄扇が舞い、激しく打ち付ける。同時に別の脚を雪白 桐(BNE000185)がスカートを翻しながら真一文字に切り裂いた。 「……!」 腕を、足を弾かれ、イワンの体が大きく揺れる。 「今の内です!」 それを確認してからの、米元を守る『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の行動も早かった。 深い集中状態にある彼は最適の避難ルートを即座に弾き出し、米元を連れてイワンの攻撃範囲からいち早く逃れ、安全を確保していた。 同じ頃、小さく何かを抉る様な音がイワンから発せられる。 「一つ、二つ……あー、ちょっとずれたか。畜生」 蛇腹剣を引き戻し、三影 久(BNE004524)が少々不満げな声をあげている。先程の異音は、彼が蛇腹剣でいくつかの点を穿っていた音の様だった。 「コックピットあれだし、次はあと数センチずらして……って、動くなよ」 彼の狙いは、足場を作る事にある。イワンの人型の胸部に存在するハッチの、その奥を目指すために。 「―――……」 あの中には、コックピットに捕えられ生体パーツとして扱われている一般人、柴田が居るのだ。 「後二段くらいは……どぁっ!?」 更なる攻撃を加えようとしていた久を、小規模の爆発が巻き込んだ。 ミサイルだ。蠍型の背部から放たれた一撃が、その攻撃範囲に炸裂したのだ。 「げほっ、ごほっ」 紫煙を払って取り戻した視界に、久はさらに驚かされる。 「ご苦労様なのデス」 今しがた自分が攻撃を打ち込み作り上げた『階段』を、行方が勢いよく駆け上っているではないか。 「救助ってゲート開いてからじゃなかったのかよ!」 慌てて自分も駆け出す。コックピットに至るハッチは外部からでも開けられるとは言うが、一人でどうこう出来る可能性は低いと見ていたからだ。 「大丈夫ですか!?」 イワンの頭部怪光線を掻い潜り、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)も慌てて行方の方へと接近する。 その時、イワンの胴部がバチリと音を鳴らした。 「! 対ショック姿勢!」 ウラジミールの鋭い声が響いた直後、イワンの胴部からその全身に向かって強烈な神秘の電流が駆け抜ける。 接近していた久、セラフィーナは勿論、脚部と打ち合っているリコルと桐もその影響内に。 「!?」 特に、コックピットのハッチまで最接近していた行方はその直撃を受けてしまった。 全身を痺れが奔り、電流に弾かれるまま中空へと投げ出される。 「ぐえっ」 落ちた先に居たのは久だ。フォローするべく駆け込んだのだからある意味良い結果だとも言えるが。 「痺れマシタ」 「だろうなあ!」 あくまでマイペースな行方に、度重なる災難でボロボロの久の叫びがこだました。 ギシギシと工房が軋む。 建物を守る為、リベリスタ達はイワンを早期に外へと連れ出す算段だったが、ここに来てようやくゲートに動きが起こる。 「まさか開閉ボタンが3ボタンの暗号式になっているとは……しのぎさん男の人のロマン舐めてたわ」 一仕事終えた風に、『迷い星』御経塚 しのぎ(BNE004600)は戦場を見返す。 いくらか内装は破壊されてしまっているが、まだまだ工房全体は健在な様子だった。 ここは男二人の夢の城。大人になってもどこか幼い、少年の心の結晶で。 「うん。しのぎさんは嫌いじゃないよ、そういう所」 そう小さく呟いて、次いで腹の底から声を張り上げる。 「ゲート開くよ、各々宜しくね!」 謎のエマージェンシーコールと共に、ゲートがゆっくりと持ち上がり、開放されていく。 その扉が完全に開かれた時、まるでイワンはそうする事が彼の存在理由であるかの様に、勇ましく。 「――――――――――!!」 外へと飛び出していった。 ●炎天の空の下 勢いよく飛び出したイワンから、人間の叫び声が聞こえた。 「うおあああああああああああ!!」 「アハ」 久と行方だ。ウラジミールの支援を受けた二人は持ち直し、再びイワンへと張り付いていたのだ。 作った窪みに必死にしがみ付き、何とか吹き飛ばされずに済んでいた。 「A1Tui5ーー!!」 差し込む熱線に、イワンの体から蒸気が噴き出す。元々はデモンストレーション用のオプションだったが、神秘が作用した結果、冷却材としての役割をしっかりと果している様だった。 後を追うリベリスタ達が続々と工房から姿を現す。皆戦いの本番はこれからだと気を引き締めていた。 「米元様はこちらへ」 状況の変化に、米元をさらに危険から遠ざけるべくジョンが導く。 「米元様、少々よろしいでしょうか!」 そこにリコルが駆け寄って、あの機械に弱点となる場所は無いかと尋ねた。 「人型部と蠍部の結合部が弱点……っていうのは罠だからね。逆に一番装甲を厚くしてあるんだ」 ジョンの献身に落ち着きを取り戻しつつある米元は、リコルの問いに正しく答える。 「色々なセンサーが載せてある頭部と、人間部の背面。後はコックピットが……」 そこまで言って、米元は再び青ざめた顔をして二人に声を荒げた。 「そうだ! コックピットには柴田が! 友人が乗ってるんです! 助けてやって下さい!!」 必死に訴え、ジョンに縋りつく。 「米元様、どうか落ち着きなさって下さい」 その肩を、リコルが優しく撫でて言葉を紡ぐ。 「わたくし達は、それを為すためにここへと馳せ参じたのでございます」 「どうか、わたくしめ等にその任を預け、米元様は安全な場所にお隠れになっていて下さい」 まるで時代と場所を間違えたかと思わせる程の礼節。 二人の目はただ信頼を求めて、真っ直ぐに米元を見つめていた。 「……友人を、お願いします」 静かに米元は頭を下げる。 「「お任せ下さい」」 恭しく賜り、二人もまた戦場へと駆け出していくのだった。 地響きが大地を揺らしている。 イワンの地団駄する足が、動きを封じ込めている桐とウラジミールを巻き込み砂煙と共に踏み敷いていた。 「ぐ、ぬ」 過重を受け止めさせられたウラジミールの兵士の手が軋む。ただの踏みつけもサイズ差がこれでは致死を感じるに十分だった。 「っつあ!」 体をずらし、抜け様にナイフを振るう。それは激しく切りつけかなりのダメージを返していた。 「……任務を遂行する」 いかなる強撃を受けても、彼の闘志は微塵も揺るぎはしない。 「……ッ」 一方、直撃を避けた桐の手元はビリビリと震え、刃を通して痺れが走っていた。 先だっての救出が終わるまで、自らの役目は敵の注意を引き、移動を阻害する事である。 身に纏う戦気が、イワンの持つ多彩な状態以上の全てを打ち消している。 (今は、耐える!) 自分の真の役目を果たすその時まで、彼はただ耐えていた。 二人が敵の猛攻に耐えていた頃、イワンの人型胸部コックピット。その入り口を封じているハッチに、久と行方、セラフィーナはようやく到達していた。 案の定、ハッチにはロックが掛かっており、子供騙し程度だったパスワードも複雑怪奇な物に変更されてしまっていた。 「力づくで開けるしかありませんね!」 息巻くセラフィーナは、自身の愛刀東雲を手に差し込めそうな隙間を探す。 「この留め具をはがせば何とかなりそうデスネ」 そんな事を言いながら、行方は既に破壊する気で肉切り包丁をしっかと掴んでいた。 「下手に刺激して中に影響があったら……」 勢い込む二人を久が諌めようとしたその時。 ――ドッ と音がして。彼ら三人の目の前、ハッチの留め具の部分。 「「「えっ?」」」 一本の矢が突き立てられていた。 その射線の元を辿れば、そこには地上でガッツポーズをするナイスバディの女性が一人。 視線に気づいて、声は届かないながらに照れた様子で、急いで開けろと手振りする。 御経塚しのぎ、鋭い眼光の本領が発揮された瞬間である。 「これはチャンス!」 留め具は弾け、そこに僅かな隙間が出来た。 セラフィーナは迷わず納刀した刀をねじ込んで、テコの原理で体重を掛ける。 「よっ」 「ハイ」 三人がかりで協力し、そして遂にハッチは剥がれ、中のコックピットが露出した。 「柴田さん、大丈夫ですか?」 そこには椅子に固定され、動けなくされている柴田の姿があった。 「すぐに出す!」 「了解デス」 縛めを解き、先程までのやり取りはなんだったのかと言わんばかりの見事な連携で柴田は救助された。セラフィーナが彼を抱き、イワンから離れていく。 「――――ッ! Aすイ! Ok1SeEニA!」 コックピットを赤く染め、イワンの緊急ランプが鳴り響く。 明らかに、その動きは鈍っていた。 柴田を抱えたセラフィーナが、駆け寄るジョンとリコルに声を張る。 「柴田さんの救助、成功しました! 後は、やっつけるだけです!」 生体パーツを失ったイワンに、もう以前程の脅威は感じられない。 連続して行われていた攻撃もその数が減り、更には命中精度も大きく低下しているのだ。 そして何よりの違いは―― 「そんな魂の篭っていない攻撃など、受けるはずもありません!」 伸ばされた槍を払い、セラフィーナが力強く宣言する。 「ロボット! それは科学を駆使する人類の夢です。神秘で歪めてしまったそれに、人の夢が力を与えるはずがないんだよ!」 謳って、雷光を纏い、突撃する。抜身の刀はイワンの頭部センサーを思い切りよく無尽に切り裂いた。 コックピットから更なる危機を知らせるアラームが鳴る。 背面。蠍の背中を掛けて、桐が飛び込んでいる。 それを追うはずだった蠍の尾は、既に付け根から真っ二つに切り裂かれてしまっていた。 「ハァッ!」 裂帛の気合と共に、縦一文字に人型の背中を叩き斬る。闘気を纏ったその一撃は、深々と刺さり機器を引き裂いていた。 激しい攻勢がイワンを削る中、その装甲の隙間に、幾つもの矢が突き立っていく。 「スキャン完了。露出した弱点部位は今矢を打ち込んだ処です」 「了解だよ」 ジョンの言葉に、しのぎが更なる精密射撃を加えて確実に戦闘機能を奪い去っていく。 「キミを作った人はどんな想いを込めてキミを生み出してくれたのかな。それを考えるとしのぎさんは、少し悲しいね」 頭、隙間、付け根。複数の部位を同時に撃ち抜く。放たれた光弾は狂いなく全てに命中していた。 「GIYAAAAAAAAAAAAA!!」 最後の抵抗だとばかりに、イワンはその場で放電しながら地団駄を踏んだ。だが、その動きがあるタイミングを境にぴたりと止まる。 「おイタが過ぎては、いけませんよ?」 蠍の脚のその一つ。それを、リコルが一人、掴み、持ち上げていた。 それは、先程ウラジミールのナイフが駆け抜けた場所。 双鉄扇をそこに絡めた時、彼女の口から小さく息が漏れた。 「ふっ!」 その直後、イワンの脚が一つ。ちぎれて空へと舞っていた。 「お膳立ては済んだぞ、任務を遂行するんだ!」 ウラジミールの声は、コックピットに居残った二人の元へ。 「…………」 アラートを鳴り響かせるコックピット。二人が入るスペースなどなかったはずだが、今そこに二人が居る。 周囲は無残にちぎれて壊れた各部機械。そして、コントロールの根源。隠されていた操縦桿が姿を見せていた。 「……へっ」 「……アハ」 それを見つめる二人の口元が、怪しく微笑んだ。 そうして、機械の獣人はその暴走に幕を引く事となった。 ●夢の灯火 戦いは終わり、米元はリベリスタ達の傍へと駆け寄ってきた。 「終わったのかい?」 「ええ、柴田様も無事救助を成功致しました」 答えるリコルが指差す方向。柴田は、今まさにジョン達によって応急処置を施されている最中である。 傷の具合からして多少の入院生活の必要はありそうだったが、命に別状はない様子だった。 「良かった」 ホッとする米元に、ウラジミールが手短に事情を説明する。 本当ならばそもそも知られない様に便宜を図りたかったが、ここまで目撃されては正しく伝えるべきだと判断したからだった。 世界の神秘、革醒現象、エリューションという敵。その秘匿の必要性。 最低限を、しかし最大限の誠実さを持って説明する。 「……ああ、柴田にも秘密にする」 その了解を得て、ようやく彼はその豪壮な顔を緩めた。 「救急車、10分程で来るそうです」 「田舎にしては早いな。連絡感謝する」 桐に声を掛けられて、ウラジミールはそんな事を言う。そして改めて米元へと向き合うと、尋ねた。 「夢の続きは、見られますかな?」 きょとんとする米元だったが、その言葉の意味を理解すると、その表情を変えた。 彼らのこれからに注目していたリベリスタ達は、皆。その顔に小さく笑みを浮かべる。 「――勿論です!」 その力強い言葉は、彼らの夢の灯火が今尚こうこうと輝いている証拠であった。 「あ、そうでした。米元さん」 セラフィーナが挙手し、彼に疑問を投げかける。 「あのロボットの名前、決めてなかったんですよね?」 リベリスタ達は作戦中、あれを『イワン』と呼んではいたが。 「あれは呼称を付ける時の風習の様な物だ」 名付けのウラジミールはそう短く答える。 「だったらあの、あの子にも名前を付けてあげて欲しいんです」 それは彼女の切なる願い。 「そうか、うん。名前、全部終わったら付けるつもりだったんだけど……」 米元は静かに考え、そして、ゆっくりと口を開く。 「そうだね。あの子の名前はこれにしよう」 彼の口から語られたその名は。 「―――」 その場にいた、彼らしか知らない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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