下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<黄泉ヶ辻>試行錯誤ヘドニズム


 自分の快楽の為に人を殺すその様子は何と面白いものであろうか。
 自分本位、協調性の欠片も無くただ自己満足の為に生き続けるソレが自分たち黄泉ヶ辻の本質だと言うならば、『自己満足に生きる人が見たい』という欲求があったってたまにはいいだろう。
「愛しくて人を食べる人妻と、」「人間を食べたい夢見がちなお姫様に、」「自分で殺したって好きな人を作っちゃう男の子に、」「一つになる為に心臓を食べる女の子、」「死体を動かす女の子に、」「少女大好きなコレクター」
 今までの観察対象と告げながらそっくりな少年と少女がくすくすと笑い合う。その性質はそっくり、けれど外見は何処となく違う片割れに堪らない愛情を抱くこれもまた異常性癖なのであろうか。
「人が人を殺す様子って何であんなに楽しーんだろうね、纏」
「なんでだろうね? 鉄。でもね、でもね、オカアサンとオトウサンが死んだ時程楽しくないね?」
「そうだね、一杯一杯目に涙をためて絶望し切ればいいのにね」
「みたいねぇ」
「みたいねぇ、そうだ、遊びに行こうよ、どうせ人間なんて代わりが幾らだって居るんだから、少しくらい死んだって誰も何も怒りはしないよ」
 何処かの正義の味方が笑うかもしれないけどね、とくすくすと笑いながら少年と少女は手を取り合った。
 握りしめた短剣に、唇から零れ落ちる牙に、双子は丸い瞳を向けて笑い合う。
「たいせつなひとをうしなったときって、人はどうなるんだろうね?」
「きっときっと、僕達の欲しい物をくれるよ、纏」
「私達の欲しい物って、きっときっと、人の絶望だものね」
 くすくす――


「御機嫌よう。本質的に言えば、最悪な奴らだと私はハッキリと言い切ってしまえるのだけれども」
 リベリスタを見回しながら、『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は両手を合わせ苦笑を浮かべた。
「性癖というのは度し難いものだけど、目が好き、手が好き、髪が好き――なんてね。
 皆に相手にして欲しいのは『紅い瞳が好き』『蒼い瞳が好き』『手が好き』『髪が好き』という其々のフェチを持ったフィクサード。勿論、其れを『手に居れたくて仕方ない』歪みっぷりよ」
 きょろきょろと見回して、紅い瞳のリベリスタに小さく苦笑を浮かべる。あなたの目の色とか好きじゃないかしらと褒め言葉とも思えない言葉を告げられたリベリスタが苦笑いを浮かべる。
「んーと、まあ、そんな感じに自分の性癖を満たすために人を殺すフィクサードが多数、同時刻に同じ場所に現れたの。彼等の撃退と、彼等の持っているアーティファクトによって生みだされるエリューションへの対応をお願いしたいの」
 その言葉に、さっそくと腰をあげたリベリスタへと、待って待ってと世恋が慌てた様に手を伸ばす。
「ま、まだもう1つあるの! そんな彼等を誘導してきたフィクサードが居るんだけど、何時もはさっさと退散してしまう彼等が今回は沢山の人を殺す事を目的としているの」
 コレがチャンスなの、とわたわたと体を動かす世恋の幼さにリベリスタ何がと首を傾げて彼女を見やる。
「ええと、こちら。黄泉ヶ辻の鉄と纏。双子なのだけど、彼等は人が人を殺すということを面白がっているのよ。でも、物足りなくなった。自分たちで人を殺して、それで『誰かを絶望の淵に陥れたい』――そう思ってるわ。
 ……簡単に言うと、事件の現場に何時もいたのだけど、其れを見詰めて危険が生じるとすぐに逃げてしまう愉快犯的な奴等なの。今回は彼等が事件を起こす、決して逃げないわ。彼等が手を下す事が目的である今回は、逃げずにその目的を果たしに来る」
 だから、チャンス、ともう一度告げる世恋が提示したのは彼等の写真であった。少年の方が鉄、少女が纏と書かれた写真には血に濡れて微笑む双子の姿が映っている。
「彼等にとって人間は代わりがあるもの。だからこそ、人が死んでも何も思わない。『大切な人が死ぬ』事で人が落ち入る絶望を見てみたいらしいわ」
 尤も、鉄の方は一度はその絶望を味わった事があるらしいけれど、と告げて首を振る。
 双子は両親を目の前で殺された時にそれ以上の絶望を他人に味あわせたいと言う欲求が生まれて以来、人の絶望と人が人を殺す様子に快感を覚える様に変化したのだろう。その性質を正すのは不可能とも言える。
「彼等は、人を殺すわ。自分たちの手で沢山の人を。取り逃がせばさらに被害が増える。だから此処で――」
 どうぞよろしくね、と頭を下げて世恋の唇が小さく笑みを浮かべた。

「ねえ、鉄ちゃん」「なあに?」「正義の味方は来るかなあ」「来るかもね」「「たのしいなあ」」
 ――なんて告げていた、と小さく囁いた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月21日(日)22:42
こんにちは、椿です。
纏、鉄につきましては拙作『<黄泉ヶ辻>飲み干した情愛』『<黄泉ヶ辻>夢に溺れてヴルメリオ』『<黄泉ヶ辻>寄せ集めたファウソ』『<黄泉ヶ辻>嘯くリピシエント』『<混沌組曲・破>ルジンガンドの瘡蓋』『<黄泉ヶ辻>少女図鑑』に登場しておりますがご存じなくとも支障はございません。

●成功条件
・黄泉ヶ辻フィクサード、纏と鉄の死亡
・敵性エリューションの撃破

●場所情報
時刻は昼~夕方。見晴らしの良い自然公園。風が心地よく、日光がやや傾きかけて居ます。
周辺には公園で行われているイベントに団体で訪れている観光客が存在し、その殺人を狙って黄泉ヶ辻のフィクサードが応戦。
足場はコンクリートで固めてある為に心配はありませんが、一般人が邪魔となりやすいです。
事前付与は可ではありますが、その間に周辺に存在する一般人(数にして50程度)が殺される可能性も否めません。到着時には常に10人が死亡しておりそのうち5名がアンデッドと化して居ます。

●黄泉ヶ辻フィクサード『纏(マトウ)』『鉄(マガネ)』
双子のフィクサード。14歳程度。ヴァンパイア×ダークナイト。纏が女で鉄が男です。
『己の欲求』の為に人が人を殺すこと等が面白くてたまらないご様子。
趣味は人間観察であり、彼等にとって人が人を殺す事はただの遊びであり悪びれる事でもありません。
目の前で両親が殺されて以来それ以上の絶望を他人に見せたいという欲求が先行して居ます。元より『生死』について特別な観念はありませんし、死を尊ぶ意志の欠片もありません。更生は不可能でしょう。
 ダークナイトスキルRank3まで一部、ハイテレパス、究狐遊び(EX)を両者所有。
 纏:ダンシングリッパー、天使の歌
 鉄:ブレイクフィアー、魔氷拳   を上記他に其々が所有。
 アーティファクト『双狐シーミレ』:全ての攻撃に致命付与。短剣であり、両者の柄を合わす事で究狐遊びを発動できる。

●黄泉ヶ辻フィクサード×4
種族雑多。ホーリーメイガス、デュランダル、ソードミラージュ、スターサジタリー。
纏と鉄が連れてきたフィクサードであり、今回の観察物件。其々が人に対する歪んだ性癖(紅い目が好き、蒼い目が好き、手が好き、髪が好き)を持ち合せておりその目的の為に動きます。
 アーティファクト『疑似生命論』:このアーティファクトで止めを刺す事でE・アンデッドとして革醒を促す事が可能。正し革醒する確率は30%程度。代償として所有者は耳が聞こえなくなる(所有者はフィクサード4名のうち1名)

●E・アンデッド『被害者』×5
この戦場で今までに殺された被害者のE・アンデッドです。『疑似生命論』によりその革醒を促されています。革醒したアンデッドのフェーズは1。殴る蹴る等の暴行を繰り返します。
また、戦場で死亡した場合は『疑似生命論』によって30%の確率で革醒し、アンデッドと化します。

以上です。
どうぞよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
ダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ソードミラージュ
義桜 葛葉(BNE003637)

●公園殺戮ゲーム
 蒸し暑ささえも感じる七月。未だ明るい陽光が降り注ぐその時に、緩やかに吹く風が其処に立っている少年の髪を靡かせた。手を繋ぎ、くすくすと笑い合う少年と少女の外見はどちらもそっくりだ。
「ねえ、鉄。遊びたいね」
「うん、纏。遊ぼうよ」
 互いが互い、何処か少年の声変わりと少女の体形の変化で別の物に為り果てて行くその中間点。双子のフィクサードは笑いながら目の前で行われている『残虐な行為』を見詰めていた。
 折角のお休みだから家族サービスをしよう。そんな気持ちで訪れたであろう家族連れやこの日の為に行われるイベントに団体で訪れた人々にとって予想だにしない『ビッグイベント』が未だ幼い二人が先導の元、行われていたのだ。
 勿論、彼等とて予想して居ない訳ではない。主演は鉄(マガネ)と纏(マトウ)でも、彼等が連れてきた歪み切った性癖の持ち主でもない。今のこの場で殺戮の気配に怯え涙を流し、声を押し殺す人々こそが主演なのだから。
 ――特別ゲストの存在だって、認識していた。
「そろそろ来ちゃうね。10人しか殺せてないよ」
「うん、そろそろ来ちゃうね。10人ぽっちしか殺してないのに、きっと僕等を殺しにくる」
「「こわいよねぇ」」
 声を揃え、囁き合い、笑う双子のいう『特別ゲスト』はこの公園へと急行している存在の事を指していた。彼等も馬鹿では無い。この場所に誰が何の目的で訪れるかなど、予想済みなのだ。
 たっ、たっ、と地面を踏みしめる音がする。公園の柔らかな土を踏みしめて、真っ直ぐに走る少女は九つの黒い尻尾を揺らし、ただ前だけを見据えていた。
 何よりも自分が気常である事を誇りに思う。だからこそ、何よりも赦しがたき事があったのだ。
 ひゅぅ――風が吹き荒れる。振り仰いだ少女の唇がつり上がる。ミラージュエッジを手に真っ直ぐに飛び込んできた『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の姿が纏の視界に入ったからだ。
「狂え私ノ世界。時ヨリモ疾イ速度ニ黒キ九尾ハ加速スル」
 言霊の如き言葉を吐き出してリュミエールは黄泉ヶ辻へと相対した。まさに分身しているかのような速力を宿すリュミエールを形容するなれば風だ。彼女ん全身を覆う雷光は電気信号の完全制御によって体内の反応速度を高めていく。神経を撫で、全身に行き渡る『速度の高み』に笑みを漏らした彼女の眼が向けられたのは双子が手にしていた対の短剣であった。
「ソレ、寄越シナ! その武器ハ私の方が相応しい」
「ふむ、武器か。それは揃いの物なのか? 一つ揃いの双子なら、互いが死ねば良い物を」
 何処か浮かんだ呆れは何時も通りの『毒舌』を吐き出す為であっただろうか。幼く見えるかんばせに浮かんだ『無』は正に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)そのものだ。
 長い黒髪を揺らし、小さな彼女は耳を澄ませながら、小型護身用拳銃を手に唇を歪める。そこに何の感情も浮かんでいない様に思えるのは普通の少女を自称するユーヌにとっては常の事ではあるが同年代程の外見をした双子にとっては違和にしか感じない。
「笑わない人だね、あれってアークの『普通の少女』?」
「ああ、かもしんない。有名人だね。こわーい」
 くすくすと笑い合う双子を目にしながら、少しばかり距離を置き散らばっていたフィクサードがユーヌへと視線を送る。のろのろと動くエリューション・アンデッド――アーティファクト『疑似生命論』を使用し革醒を促された憐れな被害者がユーヌらに襲い来る。
 纏の前に立ったリュミエール。そして、もう一人手を繋いだままの少年の前に翳が差し込んだ。
「わらわと遊んでくれるかぇ?」
 かちゃり、と銃口が額に向けられる。鉄の瞳が真っ直ぐに背の低い『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)の鮮やかな赤い瞳に向けられた。
 見知った顔が目の前に在る。瑠琵にとっての鉄も纏も幾度か携わる事があった相手であった。あの時、纏が浮かべた顔も、鉄が浮かべた顔も瑠琵にとってはよく覚えている『表情』であった。
「わらわの目的は『鉄の望みをかなえてやる』事なのじゃ」
「それじゃあ、『誰かを絶望の淵に陥れる』、それを見せてくれるの? 君の名前は?」
「わらわは宵咲の女。瑠琵じゃ。泣く子も黙るか弱い乙女は伊達ではないのじゃよ」
 くす、と笑ったと同時、動き始めたのは離れた位置に居たソードミラージュであった。急行したリベリスタを目に真っ先に飛び込むフィクサードの好みは赤い瞳。この戦場で赤い瞳を持つ人物は三人。だが、そのうちの一人は自身が標的にならないかと楽しげに伺っている様にも思えた。
「さあ、どこかの正義のミカタが笑いに来たよ。楽しいね。ここは黄泉の四つ辻。ふらふらしてると――殺されちゃうよ☆」
 にぃ、と歪められた唇。その言葉から感じる狂気に周囲の一般人が悲鳴を上げる。『正義の味方』という言葉が此処まで似合わない青年が居るのか疑問にも思える。
 あら、と嬉しそうに笑った纏と鉄は鮮やかな赤い瞳を見詰めて楽しげに目を見合わせた。巨大な鋏がかち、かちと鳴り続ける。逸脱者ノススメ――世界全てを愛する為に、愛情を伝える為にと『二つ』を組みあわせてつくった首切り鋏は錆ついた音を立てつづける。
 殺戮の現場における『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の親和性は双子のフィクサードより高いものであっただろう。
「纏ちゃんに鉄ちゃん。こんにちは。俺様ちゃんは様気でお茶目な殺人鬼だよ」
「殺戮マシーンじゃなくて殺人鬼? それじゃあ」「僕等を」「殺してくれる?」
 へらへらと笑い続ける子供達の前に花染を、何時かの騎士が己の主を守る為に振るった剣を握りしめて、『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)が複雑に混ざり合う心境を胸に立っていた。
 広めた強結界。周辺の一般人対策にと俊介は何よりも『生かす』ことを考えた。
 誰かを生かす事こそがいちばんだった。人を殺すことだって、嫌いで――自分の大切な子が微笑んで笑っていた。
「千歳が好きならさ、俺もお前らが好きだ。でも、誰かを殺す事は許さない。
 お前らが人を殺すってなら、俺が生かしてやる! 鉄、纏。お前ら二人に会いに来たんだ」

●異常性癖論
 魔槍深緋が地面をとん、と叩く。やや離れた位置に居るフィクサードの布陣に用意した手札が未だ切れないと『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は知っていた。見据えた視界で彼は真っ直ぐに槍を突き立てた。
 寂しい少女の声が響き渡る。その声に耳を傾ける事はなく。機法一体を翻し、念仏を捧げる様に敵の体を貫いた。
「極楽浄土に送ってやるぜ? 恨み事は無しだぞ」
「一つ、お前を怨むとするなら、髪の毛が無い事かな? あっちの可愛い子の髪の毛のが欲しいんだが!」
 黄泉ヶ辻の言葉にソレは悪かったとフツは笑う。あっちの可愛い子――『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は細腕で殲滅式自動砲を抱えて、周辺に弾丸をばらまいた。
 纏うメイド服に変わりはない。地面を蹴り、照準を合わせた時にスカートが翻る。フリルの中から見えるドロワーズを気に留める事が無く、幼くも見えるかんばせに大人の余裕の笑みを浮かべた。
「黄泉ヶ辻と言う組織にはどうもこの類の手合いが多過ぎて困りますね。感情や欲求に只管身を任せた凶行……それで暴れるだなんて『逸脱者気取り』というやつですか?」
『逸脱者』。黄泉ヶ辻の首領たる男がそう呼ばれる者であるように、普通の人間が踏み込んではいけない一定のラインを越えてしまった者をそう呼んでいた。『逸脱』に至らずとも、それと似た凶行に関わる事が多いモニカからすると食傷気味である。
「ハッキリ言って、寒いんですよ。その芸風!」
 弾丸がフィクサードの女の腕を打ち抜いていく。彼女を癒すホーリーメイガスの隣、剣を握りしめた女が一歩踏み込んだ瞬間に俊介は瞬いて、「あいつだ」と笑った。その言葉の意味を直ぐに理解した『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は何処か虚ろにも思える緑の瞳を歪めて、魔弓を握りしめる。纏いこんだ漆黒の闇。腰まで流れる紫の髪が闇に囲われ揺らぎ続ける。
「お可愛らしい方が『疑似生命論』をお持ちで嬉しい限りです。私は可愛い子が大好きですからね」
 女の前に立った珍粘がドレスの裾を持ち上げた。彼女はこの現場に急いで向かうと決めていた。ソレは誰かを救うという概念よりも強く、一つの目的があったとも言える。何よりも『可愛い双子』が自分を待っている事が大切だったのだ。
 珍粘はその通り名そのものだった。『残念な』とはよく言ったもので、愛らしい外見をしている美少女と言うカテゴリでありながら、少女が好きであるだとか――己がいちばんに気にする『名前』だとかが彼女を『残念』であると形容しているのだろう。
「自分の楽しみの為に人を傷つけるのは悪い事ですよ。お仕事をしながら好きな事を出来るのはとても喜ばしいですが」
 ねえ、と笑った彼女の背で一般人がひ、と声を上げる。公園内に存在する一般人を庇う様に立っていた珍粘がちらりと振り返れば、魔力杖を握りしめ、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が不吉を占った。
「一般人を巻き込んだ派手な事件。本当にひどいものです」
 表情を歪める京一は常の回復役と言う役割から離れ広く行動していた。不吉な影がホーリーメイガスを覆い尽くす。本職である符の扱いは手慣れている、四神の守護を受けながらこの場所に己の大切な人がいたらと考え表情を曇らせた。
『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が速さを纏い敵へと近付いた。京一の近くに存在していたスターサジタリーが弾丸を打ち出す速度を越えて、その拳が真っ直ぐに振るわれる。
「ああ、酷い者だ。何の抵抗も無い者たちへとこのような暴挙――許せん!」
「酷い? 私達の趣味を邪魔する方が酷くないかしら?」
「ええ、勿論、趣味は大事でしょうね。でも、子供では無いのですから分別をつけるべきではないですか?」
 大人として如何なものかと。そう告げる珍粘の言葉に女が「子供のくせに」と告げる。外見だけを見れば若く見える珍粘は三十路の女である。革醒者にはよくある事ではあるが、人は外見に寄らずとは正にこの事であろう。
「そう、じゃあ『子供』は分別付けなくて良いんだね? やったあ」
「ええ、分別をつけさせる。それが大人の仕事ですから」
 離れた位置に居ても声は聞こえている。珍粘の言葉を聞いて両手を上げて喜んだ纏のナイフが致命を纏い、漆黒の霧を撒き散らす。纏が己を傷つけながら繰り出す霧がリュミエールを包み込む。辛うじて『痛みを内包する』箱から飛び出したリュミエールが地面を蹴り、髪伐を指の間で挟み込むように持ち、真っ直ぐに飛び込んだ。
 電撃が己の体を素早くする。頬を掠める水色の髪が、薄氷を想わせる青銀の瞳に被さった。光り輝く短剣が咄嗟に防御行動に出た纏うの腕を傷つける。傷を得て、傷つきながら戦い続ける深淵騎士は痛みに唇を歪めて微笑んだ。
「お子様同士仲良くしようよ?」
「暫くなら私はオマエの相手をシテヤルヨ。正し、その短剣ヲヨコシナ!」
 幾人も居る狐の中で、リュミエールは自身こそが最強だと誇っていた。狐と名の付く武器である以上己の手の内に在る事こそが相応しい。究められる狐の遊びなど屠り、九つの尾を持つ少女は其れさえも凌駕すると『双狐シーミレ』を求めていた。
「だから、やだってば!」
「余所見をしている場合ではないじゃろう?」
 作り出す鴉は鉄の視界を捉えまいと真っ直ぐに飛び交う。瑠琵は鉄へと手招く様に語りかける。彼が求める『絶望』は果たして誰でもいいのであろうか。

 ――好きだよ。

 あの時、少年が囁いた言葉を瑠琵は知っている。その時に纏がやけに楽しそうに笑っていた事だって覚えている。両者共に、『誰か』が『絶望』して欲しいのではない。その『誰か』が誰であるのか、瑠琵には見当がついていた。
「わらわが本当に求めるものを見せてやろう――!」
 少年の視界が、瑠琵の構える天元・七星公主へ向けられる。装填された魔力が銃をやけに重たく感じさせた。
「その求めるモノを見たい為に変態共が雁首揃えて五月蠅いな。バラバラ死体が欲しいのか?」
 簡易護符手袋から込める力で生み出して居た影人がユーヌの周りで立っていた。小型護身用拳銃を握りしめる指先は何処か震えた気がする。
「辺りに散らばるゴミは迷惑でしかないだろう? 構わん、少し掃除をしてやろうか」
 何処となく決意を滲ませた黒い瞳は周辺で拳を振り上げるアンデッドを手招く様に誘い出す。ユーヌの呼び声は彼等の心を震わせた。的確な言葉の弾丸はどんな攻撃よりも強いのだと言う。外傷はなくとも血が流れずとも心が泣くのだとそう言う。
 アッパーユアハート。誘い込む様に拳銃を構えたままのユーヌへと集まるアンデッドから自身を守る様に存在していた小鬼が攻撃を耐える様に俯いた。
 その合間を縫う様に、モニカの弾丸は『疑似生命論』を狙った。モノクルで合わせた照準。前線で戦う事に優れた女は近場の一般人に剣を振るいこむ。その剣を受け止めた珍粘が一歩引いたと同時、引き金が引かれる。
「お寒い芸風ですが、私も貴方方の命を尊ぶつもりは全くありませんしね。その点では一緒……。
 いや、違いますかね? そもそも私は貴方方の命なんて興味はありません。ただの仕事ですからね」
「ッ、仕事なら殺していいとは都合の良い『正義』をお持ちね!」
 嘲るように告げるデュランダルの女の視線はモニカの手に向けられる。細い指先が抱え込んだ殲滅式自動砲。その指先はメイドという主人の世話を焼く職務でありながら美しさを保っていた。
 身体を呈して庇う様に『疑似生命論』を握りしめるデュランダル。その剣こそがそのアーティファクトに当たる為、大きな的を狙う事はモニカには容易かった。
「都合のいい『正義』なんて持ち合わせていませんよ。そんなお寒い感情論で動きません。
 ああ、もう面倒なんで死んでいただけますか? 楽しいトークタイムなんてありゃしないんですから」
 醒めきったモニカの青銀が呆れを映す。流れる銀髪を揺らし、重火器を打ち出す彼女は仏頂面のまま、首を小さく傾げた。わざとらしいあざとさを醸し出し、そのほっそりとした指先が引き金を引き続ける。
 弾丸が降り注ぐ中で、デュランダルと相対していた珍粘の黒き瘴気が、デュランダルとホーリーメイガスを包み込む。
「貴女、その様子だと手が好きな方ですか? 手袋をつけていては見せて差し上げられなくて残念です」
 傷だらけはこの身では無いですか、と微笑む珍粘は丁寧な口調でゆっくりと語りかける。可愛らしくも感じる変質者に珍粘も何処か愛着を持ったのだろう。親身になり優しく語りかけていたとしても、彼女が行うのはただ一つではあるのだが。
 ただ、殺すのみ。その行いがどれ程罪深いかをその道を歩んだ信仰者は知っていた。だが、己がこの場で槍を振るう事を諦めれば、ソレ以上に誰かを喪う事になる。
「オレはお前を極楽に導く事はできねぇ。その道はその行いが閉ざしてるんだ」
 小さく笑ったホーリーメイガスの魔力の矢がフツの槍に弾かれる。一歩下がる、彼の歪み切った性癖は髪に関するものだった。皮肉な事に、フツに其れを求める事はできない。どうせなら、美しい髪を持った者に殺されたいと冗談の様に呟いた。
「あの子は髪が綺麗なコに殺された言って言うけど、君は俺様ちゃんに殺されたら満足?」
 へらり、と歪む唇。闇を纏い、ソードミラージュの刃を受けとめながら、鋏を鳴らし続ける葬識が黒き瘴気を放つ。公園の中央にある時計の針が刻々と進んでいく。葬識の異常な雰囲気に彼の周りの一般人は逃げ切っていた。
 距離が地味に開いているフィクサード全員をフツが得た秘術を使うには少しばかり条件が満たせない。歯痒い想いを抱えながら、俊介は仲間達を鼓舞する様に癒しを乞うた。
 それでも、離れた位置に居る仲間を癒せないと言う悔しさを抱かずには居られない。逢いたかった『彼等』を前に複雑な気持ちを抑え込んだ。
「なあ、逢いたかったよ。鉄、纏。でもさ、こんな事したって誰も喜ばないんだよ!」
 地面を蹴り、ユーヌとアンデッドの前に滑り込む。ユーヌへと群がるアンデッドから彼女を守る様に、赤い瞳に強い意志を宿して俊介は声を張り上げた。
「俺の親友に手出しするんじゃねーよ!」
「手を出される様に仕向けた私が言う事ではないがな。そんなに群がられても鬱陶しいだけだ」
 俊介の言葉に顔を上げたユーヌが防御姿勢のまま唇を釣り上げる。思考の濁流が押し返し、彼女の自由を生み出せば、小鬼達が耐える為にとその身を震わせているのがよく解った。
「下手なダンスなんて見ていても楽しくないのでな。踊るならもっと華麗にステップを踏んでみろ。
 なんなら教えてやろうか? 私が華麗に踊るかどうかはさて置いても、お前ら愚鈍よりは上手いと思うぞ?」

●究狐遊び
 アンデッドからの攻撃が無くなったとしても、フィクサードの複数攻撃は一般人を殺す事を楽しんでいる様に思えた。一番に楽しげであったのは青い瞳が好きだと言うフィクサードだ。スターサジタリーである彼の往く手を防ぐ葛葉は振り仰ぎ、一般人へと声を掛け続ける。
「早くこの場を離れろ! 抑えてはやれるが、付き添いまではしてやれん!」
 ひ、と声を漏らす一般人の方へと向かぬ様にと自由自在に動き回るフィクサードの虚を突き速力を武器とする。その拳が突き立てられ、一歩、身体を仰け反らせるフィクサードの姿を見、唇をにぃと釣りあげた。
「ホラ、今度は前よりも早く前よりもフッサフサダゼ?」
 そう告げて、尻尾を揺らし、地面を蹴る。鮮烈な光りが纏の視界を覆う様に感じた。華麗なる刺突は光りの飛沫を上げる。だが、其処で反撃する纏によってリュミエールの体が様々な痛みに内包される様になった。
「ッ、小賢しいヤツダ!」
「でも、そんなの効かせてやらねーよ! 俺が何のために此処に居るかって、生かす為だ!」
 声を張り上げる俊介の聖神の息吹。皮肉にも己の体に痕を残す神の痕跡を怨む様にぎゅ、と花染を握った。
 あのさ、とこの場には似合わない友人に語りかける様に俊介が告げる声に双子は顔を上げる。
 生かしたがりがごめん、とへにゃりと表情を歪めるソレに誰かの面影を想いだし鉄が小さく口を開いた。震える唇は、『誰か』の名前を小さく、一声だけ呼んだ――気がした。
「……お前らを殺せって命令が出てるんだ。そうじゃなかったら、生かす為に必死になれたんだが」
 ごめん、と涙を浮かべてへにゃりと笑う俊介の赤い瞳は優しく笑っている。嫌いになんてなれなかった。誰かを嫌いになる事はとても苦手で、敵でも好きだと思ったら、生かしたくて仕方が無くて。
「ちぃちゃんの、お兄さんだよね? 名前は?」
「俊介。霧島俊介だ。苗字が違っても、ちぃは俺の大事な家族だよ」
「そう。霧島ちゃんだよ? 覚えてどうするの?」
 へらりと笑った葬識がどうせなら自分も覚えないかとふざける様に合図を送る。叫び声を上げる一般人を狙うその手を葬識は赦さなかった。暗闇は葬識の心の中を表している様である。
 正に深淵騎士。己が進むべき己の場所が喩え深き暗闇の中でも葬識は容赦はしなかった。動く事でパーカーが落ちる。黒髪と歪められた赤い瞳が見せつけられる。
 鮮麗な赤に、目を奪われるフィクサードの前へと滑りこみ、葬識は『愛』を語った。
「イイ黄昏時だね。どう? こんな良い風が吹く夕方なんだからちょっと殺されて見ない?」
「――そんな、簡単に殺されて堪るかよッ!」
 声を張り上げて刃を真っ直ぐに振り翳される。腕で受け止め、溢れ出る血に葬識はへらりと笑った。
 彼にとっての殺しが愛と言うならば、攻撃を受ける事もまた、愛なのであろうか。愛情と愛情のせめぎ合い。ソードミラージュが葬識の赤い瞳に魅入られる。赤は大好きな色だとそう言うソードミラージュの至近距離、首斬り鋏が錆びた音を上げた。
「さあ、後ろを向かずに走って逃げよう。イザナギみたいにならないように――それじゃバイバイ」
 じゃきん、と鈍い音がする。暗黒の魔力が精神ごと切り取る音がする。歪み切った性癖の元、赤い瞳に魅入られた男の首がころん、と落ちる。
 視線を逸らす俊介に、鉄がふふ、と小さく笑みを漏らした。しゅんちゃん、しゅんちゃん、と何度も何度も口にする、目の前で相手をする瑠琵がむ、と唇を尖らせた。
「今はわらわと戦っておるじゃろ? のぅ、浮気者!」
「モテる男は辛いなあ、るびちゃん。僕、人生最大のモテ期かもしんない」
 ふざけた様に告げる鉄が短剣を握りしめて拳を突き立てる、瑠琵にのみ攻撃を与え続ける少年に、癒しを求める瑠琵が得た傷を抑え唇を噛み締める。幼いかんばせには余り似合わない色香すらも感じさせる赤い唇から血が滴った。
「のぅ、『しゅんちゃん』ついでにあの時のこと憶えてるかぇ? 千歳が倒れた、あの時じゃよ」
 生み出した影人が、主の命令を待っている。全力で自身を守る事にした瑠琵の膝がふるり、と震えた。小鬼を生み出し、動かすまでの10秒までもが惜しく感じた。
「ちぃちゃん……?」
 ぴくり、と俊介の肩が揺れる。瑠琵が関わったのは俊介の妹の死の現場で会った。あのおぞましく思える2月。歪夜の使徒が奏でた破滅の楽譜。そのうちで手を伸ばし、笑った赤髪の少女が存在した。
「そうじゃ。あの時、纏はやけに楽しげじゃったのぅ。お主の『絶望』を見たからだとわらわは思うのじゃ。
 お主も両親が死んだ時に見たじゃろう? 目に涙を溜めて、絶望し切った纏の顔を」
 その言葉に、リュミエールの相手をしていた纏の肩が跳ね上がる。傷つき肩で息をする少女が驚いた様に瑠琵を見詰めた。

 ――おかあさん、おとうさん?
 ――あーあ、しんじゃった、ね。

「もっともっともっともっと、皆絶望したらいいじゃない! そうでしょ? 死んじゃえ! 人殺しが出来る時点で狂ってるんだ! そうじゃない!」
「狂っテル? ソレがナンダ?」
 刃を構えたリュミエールに目を見開く纏が鉄へと視線を送る、二人の背中が直線上にある。血濡れの短剣を握りしめ、二人揃って目を開く。

「――イッちゃえ?」

 二対の狐がうねりながらその口を開く。目を見開くリュミエールが刃を前に構え、黒い尾を揺らし、蛇の様に大口を開けて呑み喰らおうとするその狐の体を受けとめようとする。
 思い出せ、思い出せ思い出せ――!
 思い出せ、その一振りを、その行動やしぐさを。一度は喰らった技だ。見極めるなら――ココだ!
「シーミレ! 私の声を聞け! 私の魂を聞け! 私の全てを見ろ! 私を受け入れろ! 双狐シーミレ貰ッテイクゼ?」
「やだッ! やるわけないじゃん! ばーか!」
 ぎっ、と睨みつける少女が手にしていた短剣を其の侭、ぽっきりと折る。リュミエールの手が届く前に、大口を開ける狐が彼女の腹を食い破る。運命をかなぐり捨ててリュミエールが声を上げる。
 その短剣は己にこそ相応しいのだから――!

●異常性癖論Ⅱ
 流れる髪は頬を撫でる。地面を蹴り上げ、夕陽をバッグにモニカは唇を釣り上げた。銀の髪は一般人から見れば別の色をしているのであろうか、それでも、その弾丸を狙われるデュランダルには夕陽に照らされ、鈍く光る銀髪がよく目に入った。
 ほっそりとした指先が殲滅式自動砲を撫でる。機械化した掌までも何処か綺麗に見えるのは何故であろうか。人間の性的倒錯(フェティシズム)は何とも言い難い。業が深い人であるとモニカはただ、ぼんやりと思った。
「ご存知ですか? 殺人願望って奴はある種、その対象への最大限の依存みたいなもんですよね。
 貴方も、それから、彼等も、皆、要は誰かに構って欲しいだけなんでしょう? はた迷惑過ぎるレヴェルで」
 ですけれど。ただ、小さく紡ぐモニカのメイド服が捲くれ上がる。フリルが揺れ、地面を滑った足に力を込めて引き金を引いた。
『疑似生命論』ごと打ち抜いて、デュランダルが声を上げる事さえも次の弾丸が制する。
 咽喉を打ち抜くソレは、彼女の最期の言葉さえも許しはしない。倒れ往く身体を抱きしめる様に珍粘が放つ黒き瘴気が包み込む。揺れる紫の髪、こてん、と首を傾げた珍粘の瘴気がホーリーメイガスにも伝って行く。
「愛されない子ってかわいそうですよね? ふふ、そんな子も大好きですけど」
 可哀想であり、可愛そう。誰かに愛される幸せを知らず絶望しているのであろうか。可愛い双子も、そして、誰かを異常な欲求の元でしか愛せない彼も。
 誰かが自分を嫌いでも、自分が『誰か』を好きになってやれる。愛を伝えるには余りにも、短すぎる。それでも珍粘は自身の大好きな『可愛い子』を抱きしめてやる両腕があると優しく微笑んだ。
「貴方は何がお好きなんでしたっけ? ああ、髪ですか……。
 好きな物は好き、仕方ないですよね。気持ちは判ります。私も可愛い子が食べちゃいたい位、好きですから」
 くすくすと微笑む珍粘の指先が魔弓をきり、と引いた。歩み出し、珍粘がフツの真隣になる。痛みを内包するソレがホーリーメイガスの体を包み込んだ。

 ――時は満ちた!

「仮想であっても、蜘蛛の糸を垂らしてやるよ。ほら、此処が極楽浄土だ」
 鉄と纏、そしてホーリーメイガスとスターサジタリー、アンデッドを内包したその場所は塔の魔女が彼等に与えた仮想空間であった。その場所で、フツが念仏を唱えるが如く、用意したのは『極楽浄土』だ。
 逃げ場を喪ったホーリーメイガスが唇を噛む。癒しを与えながら傷つく仲間達を懸命に励ます俊介が二人のフィクサードを睨みつけた。
「なあ、お前ら、投降する気は?」
「――さらさらないね」
 そっか、と小さく俯いた。もし、逃げると言うならば彼等を逃がして遣っても良い。死して解放される等、もっての他だ。生きて生きてそして罪を償えば良い。『死』等と言う逃避行動で、神秘で生まれた不幸を容認する奴等を許すだなんて、出来るわけがないのだから!
 地面を踏みしめる。息を吐き、スターサジタリーを殴りつける葛葉の胸を貫く弾丸。臓腑が抉れる音がする。それでも、護るにきまっている。
「知っているか? ……正義の味方は、此処に居る。これ以上、貴様等の好きにはさせん!」
 立ちはだかる彼はこの場においては英雄(ヒーロー)であったのかもしれない。一般人を助ける為に身を張った葛葉の白いコートは今は赤黒く染まっている。世界の守護者が此処で倒れる等、許されないのだ。
「覚悟ならば出来ている。『世界の守護者』となると約束をしたんだ。――喰らえ!」
 拳を振るう。スターサジタリーを癒すホーリーメイガスに向けて、不吉の符が浮かび上がった。杖を握りしめた京一は護るためだと符を祈る様に繰り出した。
「世の中、平穏無事が何よりです。貴方方が起こす事件は見過ごせませんからね」
 自分の子供がソレに巻き込まれたらどうすればいいのか。愛しい嫁と子供の姿が浮かぶ。何よりも子煩悩である彼にとっての不安は、自身の子供が死ぬことなのだ。不安の芽は摘むしかない。更生することができないならば――
「俺、鉄と纏に頼み事あるんだ……。こんな場所で、いうことじゃないかもしんないけど」
 一縷の望みが其処にはあった。更生できないと言われていても、それでも『彼女』が好きだと言っていた彼らだから。
「二人は希望が嫌いかは知らん。絶望が良いのかもしれん。でも、俺は二人に希望を託す。
 頼めるのはお前ら二人だけで、それに代えは利かない。だから、頼むよ」
 花染を握りしめる掌が汗ばんだ。癒しを続けたソレが尽きる前に、アンデッドに向けた指先から精神力を奪い取る。妖しい指先はぎゅ、と日本刀に添えられる。
「あの世で千歳に会ったら寂しくない様遊んでやってくれよ?」
 その言葉に、フィクサードが動きを止める。黄泉ヶ辻とて『人』なのだから、感傷にも浸るのであろう。
 その空間で、ソレでも攻撃を続ける鉄に瑠琵はじ、と目を向ける。
「他に愛情を抱けるなら少なくとも鉄はまだ普通なのじゃな。
 お主らが黄泉ヶ辻となった原因も片割れに堪らない愛情を抱く理由も『欲しい物』が片割れにしかないからじゃ!」
 人が人を殺す様子を見たって望みは叶わない。代えの聞く一般人なんて殺したって無駄だった。
 俊介が『替えが利かない』と言ったのは恋多き乙女が最期に好きになった人だったからだろう。それと同じ、双子にとって片割れの代替品はなかったのだろう。
「お主達の真の望みを叶える方法は一つだけじゃ。――片割れの前で自らの死を見せる他ないじゃろう」
 その言葉に息を吐く。楽しげに笑い始めた葬識は真っ直ぐにホーリーメイガスへと肉薄していた。真っ直ぐに見据える赤い瞳。フツの槍に貫かれ、唇から血を流すホーリーメイガスに葬識がひらひらと手を振る。
「俺様ちゃんが愛してあげるよ。ほら、オヤスミ」
 跳ねるように一歩引く。其処に撃ち込まれる弾丸を制するように拳を振るう葛葉が鋭い眼光でフィクサードを睨みつける。胸を穿つ攻撃に、息も絶え絶えなリベリスタを癒す俊介。
「どうだ、楽しかっただろう? お代は命で結構だ。愉しんだのならあの世行き。中々上手いじゃないか」
 ダンスのステップを踏む様に、淡々と告げるユーヌの長い黒髪が矢で少しばかり散る。其れをも厭わず、頬を傷つける其れをも気にせずに、不吉を占った。
 彼女に近づくアンデッドを蹴散らせる俊介。背中で不吉を占うユーヌが感情を見せずに居た今までで薄らと笑みを浮かべる。
 終わりの時が近いとでも言う様に、簡易護符手袋に指先で触れた。
「さあ、死んで貰おうか。有り触れた死など、何時かは想い出として屠られてしまうのだがな」
 占いは常に正解を導いた。全体攻撃を与え、避ける事に特化しないモニカが運命を燃やし膝をついてしまっていても、終わりが近い事には違いないのだ。
「言ったでしょう、迷惑だと。さっさと、死んでください。別に興味も無いんで」
 モノクルに罅が入った。スカートも破れた。嗚呼、面倒な敵ではないか。害悪ばっかり振りまいて。
 弾丸が腹を抉りこむ。痛みに唇を歪めた時、前線でふわり、と踏み込んだ珍粘の黒き瘴気がフィクサードを包み込む。
「死体になっても抱き締めてあげますよ。可愛いですから、オールオッケーです。うふふ」
 ぎゅ、と両手に力を込める様に瘴気は抱き締める。赤く染まった視界を擦りながら、彼女が見据えたのは、一対一の対決となっており、自身等を回復する事が出来る双子だけであった。
「快楽主義者のお主らが一番欲しい絶望は片方しか得られない。纏の絶望か、鉄の絶望か。
 わらわ達は『纏から殺す』と決めておる。纏の死に絶望した自分の姿を見せるか。その前に自ら命を絶って『欲しい物』を奪うか。お主ならどうする?」
 ぞわり、と鉄の背筋を撫でる瑠琵の声。大人しく愛らしくも見える幼女から吐き出されるとは思わぬ言葉に鉄が唇を舐めた。赤い舌はその答えを示す様に見えて、俊介が掌に力を込める。
『――更生はできないわ』
 ブリーフィングルームで聞かされた言葉があった。
『――更生はできないわ。だから、殺してきて』
 ……殺したくなんて、無いに決まってるではないか――!!
 御免、と小さく囁く様に云う俊介に「霧島ちゃんは優しいなぁ」と殺人鬼が赤い瞳を細めて笑う。纏が目を見開き、攻勢を強めるリベリスタにいやいやと首を振った。
 リュミエールの腹に突きさした折れた短剣を抜き去った。自身の痛み全てをぶつければ体力の少ない彼女は其の侭、血の海に沈む。乗り越える様に地面を蹴り、目の前へと踊りでるフツの槍が少女の腹を突き刺した。
「恨み事なら片割れに云うんでなく、オレに言いな。オレがお前を殺すんだから」
「いやよ、死にたくない! まが、ね。ねぇ、鉄! 鉄! やだぁぁっ!」
 叫びながら、彼女が振り絞る常闇が珍粘の体を包み込む。其れさえも可愛い双子が抱き締めてくれるものだと感じ痛みを堪えながら優しく笑った。ドレスの裾が翻る。仲間達へと攻撃の支援を与えながら、唇をにぃと釣りあげた。
「死体になっても抱き締めてあげるからね。うふふ。私が二人を大好きな気持ちには変わりがありませんから」
 ドレスも血に汚れていた。不吉を占う京一が黒い闇に膝をつく、彼の体を受け止めたフツが纏へと真っ直ぐに赤い槍を突き刺した。
「ッ、死にたく、ないの――!」
 鉄の助けが無いと両手を伸ばす。その手を取ったのは皮肉にも殺人鬼であった。切なそうに名を呼んだ俊介を見詰めて少女が狂った様に笑い始める。本当なら生かしてやりたいと彼は言った、ソレなのにこのザマならどうしようもないじゃないか!
 殺意ばかりが溢れる空間で、纏の闇の瘴気が全てを狙う。不吉を占ったユーヌの黒い瞳は感情を灯さずに淡々と彼女を見詰めていた。
「諦めると良い。もう終いの時間だろう」
「いやああああああっ!」
 高い叫び声が耳を劈いた。眼は伏せない。其の侭、真っ直ぐに纏を見詰める俊介の唇は噛み締めすぎて白くなっていた。
 銃口を向けたまま瑠琵は笑う鉄の顔を見る。纏の浮かべる絶望を何よりも欲する様に微笑む少年に「黄泉ヶ辻が」と毒吐いた。
「ねえ、パートナーが殺されるって気分はどう?」
「何だろう、最高だね?」
 けたけたと笑い始める鉄は壊れた様に短剣を手にとって葬識の懐へと飛び込んだ。黒き魔力が葬識の腹部に突き刺さる刃から溢れ出る。内臓を抉るように回された両手を握りしめ、首を傾げて見せた。
「知ってた? 絶望って全ての命のスパイスなんだよ。わざわざ探さなくっても、ここに絶望はあるのにね」

 ――ご満足いただけたなら結構!

 へらへらと笑う男の顔に鉄が楽しげにナイフを引き抜いた。全てを狙う様に闇の瘴気がリベリスタへと襲い来る。
「しゅんちゃん、約束、まもるよ」
 手をひらひらと振る少年は目の前に迫り来る攻撃に快楽を感じる様に微笑んだ。
 試行錯誤の果て。快楽主義(ヘドニズム)が満たされる。
 ただ、絶望が其処にはあった。少年の腹を抉る槍が少女の笑い声を奏で続ける。
 不吉が襲い掛かり、そして――

 ばちん。

 小さく、音を立てて少年の首が跳ねられる。
 血まみれになったその空間に、残ったのは無残な死体ばかり。玩具の様に転がった其れを見下ろし頬を撫でた俊介が地面を叩く。
 ぽたり、と地面を濡らしたのは水と血液、たんぱく質、リン酸塩を有する水滴であった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れさまでございました。
黄泉ヶ辻の鉄と纏でした。思えば、鉄と纏は昨年の九月からとかなり長いお付き合いとなりました。
フィクサードへの対応として二種類の行動を用意している、役割分担ができている等が勝因でございます。
ちょっと変わった変質者達でしたが、アプローチもとても面白い者ばかりでした。

ご参加有難うございました。また別のお話しでお会いできる事をお祈りして。