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それは、四面楚歌


 歌手目指して早三年……。
 誰かの目に留まることなくひたすらに公園で相棒のギターと共に歌い続けてきた私。
 やっと私を見てくれる人が現れた!
 そう思っていたのに。
「ぁ……あぁ……ッ」
 どうしてこうなるの!
 どうしてこうなるの?
 どうしてこうなるの!?

 ――夜闇に浮かぶ十六の瞳が、少女の人生(すべて)を喰い潰す。


「今回の標的は、小型肉食獣の姿をしたE・ビースト……それも、八体」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集ったリベリスタらに淡々と説明を開始する。
「八体か……大事になりそうな予感だな?」 
 一人のリベリスタが冷静に判断を下し、イブに先を促した。
「ええ。けれど幸いなことに、今回被害に遭ってしまうかもしれないのは、一人の女性。東雲・鼎(しののめ・かなえ)、十九歳の現役大学生で歌手志望らしいわ」
 歌の練習をするがため、あわよくば通り掛った“その手の界隈の人”の目に触れたいがため。
 彼女は夜毎、ギター一本背負って近所の公園に繰り出すらしい。
 しかし悲しいかな。
「その公園、夜になると人通りが極端に少なくなるの。それに彼女は気付いてないみたいだけど」
「……うわぁ、そりゃ難儀な話だな。まあ、俺たちにとっては良い報せなのかもしれないが」
 一般人の目を気にすることなく動けるのは、大きなメリットである。
 残念ながら、彼女からすれば単なる凶報に過ぎないが。

「公園の入り口は東西南北に四つ。彼女は公園中心の噴水付近にて歌っているわ。そして彼らだけど……二体ずつ分かれて侵入してくるそうよ。だから貴方たちは予め公園に身を潜め、時間になったら各個撃退して。方法は問わないわ」

 彼女が現れる時間帯は夜の八時頃。敵の出現は不明瞭ではあるが、彼らの遠吠えにて知ることができるだろう。
「本当なら公園に足を踏み入れないようにするのが最善なのだけれど、敵がいつ現れるか分からないから下手に動くより彼女を中心に留めながら戦った方が効率的かもしれない……」
 つまりリベリスタたちは、四方に赴き撃破するか、中心にて一気に撃破して行くか、どちらかを選んで行動していくことになるということだ。
「敵は小型のE・ビースト。個々の戦闘力はあまり高くないようだから、あとは彼女の保護対策さえしっかりしていれば、戦闘に関しては苦労しないと思う。それじゃあ、気を付けて」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:坂譬海雲  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月17日(水)22:35
 坂譬海雲です。
 よろしくお願いします。


●人物

東雲・鼎(しののめ・かなえ)。
十九歳の大学生。名前は芸名などではなく本名。
一般人であるため戦闘能力も知識も皆無。


●成功条件

→Eビースト×8の撃破

→東雲鼎を守りきる


●失敗条件

・東雲鼎の死亡が確認されたとき

或いは、

・リベリスタら全員の戦闘不能が確認されたとき


●タイミング・舞台

・リベリスタらは“全員”八時前に公園内にて待機して下さい。
 昼間は子供たちで賑わう公園ですので、必要以上に荒らすのは厳禁です。

・八時以降になると東雲鼎がテンション高めに現れます。
(※誤差は+5分以内で、彼女の遅れなどは作戦に影響無し)

・公園は広く、電灯も園内全域を等しく照らすよう設置されているため明るさも十分にあると思います。


●敵

E・ビースト(サイズ:小)×8
【喰らいつく】:腕または足辺り目掛けて噛み付きます。
→物 近 単 出血

【突進】:全力でぶつかります。
→物 近 単 ノックB

【咆哮】:仲間のみの士気を高める。開始直後既に一度使用。
→付 味全 付与 物攻+20


●選択肢
敵は四方の出入り口より、二体ずつ出現。
咆哮により初期『攻撃ステータス』が高いです。

→【1】:「四方の出入り口にて各個撃破」
→【2】:「中心部にて敵を一網打尽」

※東雲鼎の護衛などについてはリベリスタ各人にて【要相談】。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
覇界闘士
テュルク・プロメース(BNE004356)
ダークナイト
閑古鳥 黒羽(BNE004518)
覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)

●開演前

「――というのが昼間の内に僕が集めることのできた情報となります。お役に立てたでしょうか?」
 地面に細枝で描いた簡易的な周囲の見取り図に、大雑把でありながらも的確な情報を書き込んでみせたのは、『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)。
 彼は今回、【北側】の対応を任された二人のリベリスタの一人である。
「ほォ……物陰になりそうなのはここと、そこか……」
 そしてもう一人。
 快活な笑みを浮かべながら見取り図を眺めていた、『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)。その二つ名に違わぬ戦闘狂であり、既に彼の意識は半ば、敵が侵入してくるであろう出入り口に対して向けられていた。
「来るなら早く来て欲しいものです。そして早く終わらせてしまいたい」
「ん? この後何か予定でもあんのか?」
「いえ、違いますよ。彼女の夢に向かって努力する姿が見たい、彼女の歌を聴いてみたい。ただそれだけです」
 ああ。とコヨーテも納得したような表情を浮かべた。
 彼も彼女の歌が聴きたいと、兼ねてから考えていたから。
「んじゃ、軽くぶっ飛ばしてやらねェとな!」
「はい、同感です」

「毎回キャッシュからのパニッシュしてるオレだけど、こういう地道な作業がね……聞いてる?」
 チョイ悪を意識した黒い服装に身を包む見るからにチャラそうな男が、付近で待機しているはずの少女に話しかけていた。男の名は『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)。自他共に認めるであろうチャラ男の表情はしかし窺い知れない。
 というのも。
「よくもまあ配電盤弄って明かりを消しておきながら、そんなことを言ってられるな……靖邦」
「あはは☆ まあまあ作戦に必要なんだし、仕方ないことじゃね、閑古鳥ちゃん?」
 だが彼の独特なペースにも表情を変えず、静かな双眸で翔護を一瞥しながら応対していたのは『ナハトリッター』閑古鳥 黒羽(BNE004518)。カラスのビーストハーフである彼女は、明かりの消えたこの場所ではほとんど宵闇に紛れられていた。
 底抜けの明るさに包まれた黒と、冷めた宵闇を纏う黒。
 そんな異色の【西側】戦線、戦いの時は近い。

「日中ならまだしも、夜にこんなとこで歌うより、もっと別の場所の方が良いと思うんだがね」
 呟いたのは【南側】の対応を一人任されることとなった『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)。
 夜の寒さに当てられながら、彼はたった一人出入り口付近の物陰に身を潜めていた。
「さてと。今のうちに仕入れた地理情報やらを整理しておくか」
 そう言って目を閉じ、やる気なき男は思案に耽る。

「ほむほむ、宮部乃宮くん大丈夫かな? 鼎ちゃんのこと泣かしちゃったりしないかな?」
「鼎? ……ああ、東雲のことか。心配せずとも、東雲は火車に任せて問題ないだろう。口は悪いが、あれで面倒見が良いからな」
 【東側】を担当しているのは『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)と『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)の二人。
 園内の散策と調査を事前に終え、おおよその地形把握を済ませた壱也と優希は、落ち着き払った様子で近くの物陰に息を潜めている。
「ところで壱也、どうだ辺りの――」
「しっ、誰か来るっ……人の足音……鼎ちゃんだと思う」
 優希の発言を右手で制し、すぐさま壱也は幻想纏いを取り出した。
「八時三分、東雲鼎さんを確認。……今、中央に向かったよ。みんな、そろそろだと思うから、準備して」
「……それじゃあ俺たちも、始めるとするかな」
「うん、行くよほむほむ!」
 互いの拳を小突き合い、二人の気合は十二分。

 と、その頃【中央】噴水広場にはギターを背負った少女の姿が。
 慣れた手つきで準備を済ませ、少女・東雲鼎は普段通り噴水前に立つ。
(東雲鼎の到着は了解だが、この位置じゃどうしても【東側】のみカバーしづれぇ配置になっちまうな……まあ【東側】なら問題ないか)
 にいぃ、と薄い笑みを溢して、ベンチに腰掛けていた男、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が噴水近くに移動を始める。
「ほうほう珍しいねぇ、今時流しかぁ? ちょいと良いかねぇ?」
「あ……やっぱり珍しいですよね……って、何の御用でしょうか……?」 
「何って、客だよ客。アンタ、こういうのはOK?」
 そう言って火車が取り出したのは、
「ICレコーダー……ですか。私の曲、録音でもするんです?」
「そそ。アンタ見たところ歌手でも目指してそうだな? となればやっぱり曲のサンプルは必要だろ? コピーとかじゃなくてよ。……だからよぉ、アンタのオリジナル、やってくれ。魂の篭ったヤツを好きなだけ、な?」
「えと、あなた、何者なんで――」
「気にしなくていい。で、どうすんの? 聴かせてくれんの?」
 鼎は一瞬逡巡すると決意の表情を浮かべ、ギターを構えることで火車の問いに応える。

●四面楚歌、北西の陣
「あー翔ちゃん? 南西ともに二匹一緒のお出迎えだぜ。後ちょっとだけヨロシク☆」
 鼎到着の報せが届くと同時に、すぐさま翔護は千里眼を展開。狙いは南西の敵数把握であり、得た情報を素早く【南側】に座する翔太に伝える。
「……連絡は済んだ?」
「もうばっちり。ささ閑古鳥ちゃん、翔ちゃんが待ってるかもだし、すぐに片付けちゃうよ~?」
 獲物を見つけた興奮からか、口から唾液を垂らしつつ距離を詰めてくる二体の狼型E・ビースト。そのうち自分に近い一体を標的として認識し、翔護と黒羽は物陰から飛び出した。
「了解。――纏ろえ、闇よ」
 漆の如き黒を身に纏う黒羽の身体を、さらなる闇が覆っていく。
「さっさと終わらせて帰るとするか。こんな雑魚に構っていられるほど私は暇ではないからな」
 構え出した二人。
 二体の獣は示し合わせることも無く、突如として二人に飛び掛かる。
「跳んでいる敵は撃ち落としやすくて助かるね~」
「触れる前に斬ればいい。呪え、双刃よ」
 一方では静かな無音の銃声が獣の前足を撃ち抜き。
 一方では切裂く一対の羽音が獣の四肢を斬りつけた。
 悲鳴を上げることはなく、軽やかに地面に着地した二頭の獣たちは付けられた傷を舐め、再び臨戦態勢に入る。
「今日はこっそりパニッシュしちゃうぜ☆」
 わざわざ二度も先制させてやる必要は無いのは当然。だからこそ翔護は臨戦態勢に入るよりも先に銃を構えて弾を放つ。
 弾丸は風を切り裂くように進み、回避を試みた獣の四肢を的確に撃ち抜いていく。
 そんな仲間を助ける素振りなど微塵も見せず、もう片方の獣は黒羽の方へと歩き出――したかと思うと、強靭な脚力を以て黒羽の足元目掛けて突っ込んできた。
「……油断を誘ったのかは知らないが、私はどんな雑魚にも油断などするつもりはない!」
 無駄の無い回避。
 彼女は自らの力量を量り、自らの未熟さを熟知した。
 彼女は自分の弱さを知っている。それはある種の強みである。
「油断していられるほど私は強くないんでな、行くぞ?」
「ひゅ~、さすがにオレも負けてらんないよね」
 それは針をも通す繊細さで、明かりも無い暗闇の中を駆け回る野生の狩人である狼に、まるで吸い込まれていくかのように飛んでいく数々の弾丸。それらが四肢に、胴に、頭に、幾つもの穴を開けていく。
 力無く倒れ臥す野獣に視線を送ることもせず、勝利を確信した翔護は黒羽の方へと向かう。
「まあ小型の獣だし、こんなもんだよね。で、黒羽ちゃん、援護は?」
「いらない、もう……終わらせるッ!」
 何とも禍々しい光に包まれた刃。
 手にするは、黒羽。
「再び呪え、我が双刃――ッ!」
 左右より交差するように振るわれた双刃が、抗う狼の首を為す術無くはねる。
「ん。返り血で少し汚れてしまったが……まあ後で着替えればいいか」
「ひゅ~、お見事。さて、こっちの仕事はひとまず終わったし、とりあえず他の皆に連絡だ。場合によっては、もう一働きすることになるかも?」
「……望むところ」

 そして方角は変わって【北側】。
 ここでは既に、獣が一頭、恐ろしい顔をした氷像に変えられていた。
「ただの魔氷拳ですよ……と言ったって、貴方には言葉も通じなければ耳も機能していないのでしょうけれど」
 言って、テュルクは刀を一振り。砕け散っていく氷の膜を突き破り、その氷中で息をどうにか保てていた獣は、ここぞとばかりに牙を剥く。
 しかし彼は全く動じることなく、冷気を纏った衣被とともに舞い始める。さながらそれは一つの華麗なる戦闘舞踊であった。
「この後彼女の歌を聞くのが最大の目的ですし、そのためにあまり汚れてしまうわけにはいきません。ですから手短に、散っていただきます」
 見惚れる隙も与えずに、振るわれた刀が獣の体を横一線に切り薙ぐ。
 断末魔の咆哮すら上げられず、わずかな痙攣の後、獣は息絶えた。
「こちらは何とか片付きましたが、ん――?」
 物音がした方向を見てみると、茂みより飛び出してきたのは手負いの獣。
 どうやら後ろ足に火傷を負っているらしく、足を引き摺りながら目の前の少年と対峙する。
「この火傷は恐らくコヨーテさんの業炎撃――当てたはいいが、取り逃がしてしまった、というところでしょうか。しかしあれなら大した労力も無く狩れそ――」
「待てよオオカミ野郎、逃げんなよなッ! こっちはずっとお前を待って、すげェ退屈してたトコなんだ、だから遊んでくれって言ってんだぜ? ……どっちかがぶち殺されるまでなッ!」
 後を追うようにして現れたのはコヨーテ。頬や額から少量の血が流れているようだが、それでも獣に負わせた傷の深さと比べればお釣りが来る。
「お? もう終わったのか? オレも負けてらんねェなァ!」
 焔を纏いし紅蓮の拳、雄叫びを上げる獣の鋭牙。
 それらが交叉し、双方音も無く、地に着く。
「――悪ィなオオカミ野郎。オレは、死んでも負けねェ」
 ぐらついた四肢が、焼け焦げた臭いを発しながら蒸発していく。
「他は上手くやってんかねェ?」
「皆さんのことです、大丈夫でしょう。――こちらテュルス、【北側】殲滅完了です」

●四面楚歌、南東の陣
「流石に二体同時、それもこうもバラバラな動きをされるとなぁ」
 唯一の救いは彼らの標的を己のみに留められていることか。
 【南側】の守護者、翔太の周囲に二体の獣を除いた生命の声は聞こえない。何故ならそこは凍てついた世界と化しているからであり、もちろんそれは翔太の時をも刻む剣技の生み出した一つの“結果”だ。
「できれば一緒くたに纏めてやっちまいてぇが、無駄に警戒してやがる」
 一対二。数の差は倍。
 つまりそれは翔太の圧倒的不利を意味しているはずなのに、翔太の表情に焦りといった感情は見受けられない。
(まあもう暫くこの拮抗状態を維持しておけば、壱也が来てくれんだろうし、そうそう悲観するようなもんでもねぇな)
 背面から。側面から。立体的に攻撃を仕掛けてくる二頭の獣を紙一重でいなし、翔太はひたすらに敵を一網打尽にするための機会を探る。
 紙一重。そう、“当たりそうで当たらない”ことが、獣たちに後一歩、後一歩という焦燥を感じさせているのだろうか。翔太を前に、獣たちはどうしても攻撃の手を緩めることができないでいた。
 結果的に。
(時間稼ぎっつう目的の方は自動的に完遂できる、ってワケだ。敢えて追う必要も無い分、面倒じゃなくて助かるぜ)

「ちゃっちゃと片付けちゃお!」
 緊張感をあまり感じさせない掛け声と共に、小柄な体躯が宙を舞った。
 ――壱也である。
「はぁああああっ!」
 そこには雷をその身に纏う、“小柄で華奢”な少女の一撃が――野獣を公園外にまで吹き飛ばすという信じられない光景が広がっていた。
「さすが壱也。……ところで獣、歌う事が好きな者は、楽しませることが好きとも言えるとは思わないか? 故に、俺は東雲は悪い奴ではないと思っている」
 つまり、だ。
 そう少年は言葉を繋ぐ。
「そんな彼女に訪れる筈であった不運は――代わりに俺が薙ぎ払う」
 優希は、全力で突っ込んでこようとする一頭の愚かな獣の気配を捉える。
「弐式鉄山、その身に刻め」
 柔軟性をも持ち合わせた、鉄甲をはめた少年の拳が寸分違わず獣の頭部を捉えてみせると、そのまま大地諸共砕き散らした。
「ほむほむ、もう一頭いるよ!」
 気付けば壱也が優希の隣に立っていた。
「ああ、分かってる。それも俺に任せてくれていい。壱也、手筈通り翔太の方は頼んだぞ。――ついでに俺からの伝言だ、“派手にぶちかましてやれ”。もちろん壱也も遠慮は不要。ここからは迅速に叩く」
「……! うん、任せて! 思い切りしょーたんと暴れてくる! ごめん、ここは任せたっ」
 走り去ってゆく小さな背を一瞥した後、優希はすぐに、迫り来るもう一つの気配に全ての神経を注ぐ。
「――来い獣、たとえ手負いだろうと、俺は一切容赦しない」
 程なくして、【東側】の殲滅も滞りなく遂行されることとなる。

 氷霧に包まれた【南側】にて二頭の獣と戯れるは、先程よりも少しだけ疲労の色を顔に浮かべる翔太一人。
「俺の予想だと、あと五分ほど耐え切れば壱也が来てくれるとは思うんだが……なぁ?」
 翔太の戦法は変わらず防戦一方を強いられていた。
 敵の攻撃をひたすら回避し、二体同時に討つための機会を窺い続けるというもの。
(片方ずつ相手してもいいんだが、下手すると中央に向かう可能性があるしなぁ……)
 だからこそ彼は高速で剣を振るい、時を刻み続けた。生じる氷霧によって敵の動きを最大限――自分に向かうよう――限定させるために。
 その行いが功を奏してか、ついに戦況は大きく形を変える!
 飛び掛ろうと力を溜めていた野獣が、恐ろしい速度で遥か後方へとぶっ飛んで行ったのだ。
「しょーたんお待たせっ! ほむほむから伝言だよっ! “派手にぶちかましてやれ”だってさ!」
「壱也……俺の予想より随分と早いご到着で。やっと攻勢に出られるのか」
「そういうこと! さ、ラストスパートだよ!」
 並び立つ翔太と壱也、それに合わせるかのようにして二頭の狼も立ち塞がる。
 そのうち一頭が地を駆ける。E・ビーストであるからこそできる、本来の肉食獣の動きを容易に越えた俊敏な身のこなし。
「そいつ、頼む」
「分かった! ……いくよっ!」
 少女は、些か不釣合いなほど大きな剣を振るう。叩きつけられた圧倒的な暴力に、獣は回避どころか防御さえも叶わない。そのまま吹き飛ぶことも無く、獣の体は空中で爆散する。
 それを見たつがいの獣が好機とばかりに攻撃し終えたばかりの壱也に向かって、駆ける。
 だが。
「んなめんどくせぇこと、許すか」
 常人の眼には、翔太の取った行動はさながら転移のように映ったことであろう。それくらい疾く、翔太はまるで止まっているかのような時間の中、野獣の全てを切り裂いたのだ。
「――こちら【南側】、殲滅完了……っと、他もどうやら終わったようだぜ? 助かったわ」
「うん、わたしもさっきはありがと! それじゃ、ひとまず宮部乃宮くんのところ戻ろっか?」

●四面解放
「結局オレの出る幕は無かったつうワケか」
 耳にはめていた賽の形状をとる幻想纏いより四方からの報告を聞き、火車は何とも言えない気持ちになる。強いて言うならば、消化不良、といったところだろうか。
「あの、どうかしましたか……?」
「いーや、何でもねぇから気にすんな。ところでお前、歌手になるっつうのは本気?」
「……はい」
 問いかけに対し、少女は確かな決意を灯した瞳で頷く。
「ほぉ? ならお前、グズグズ拾われるのを待ってんじゃねぇ、売り込みに行けよ」
「売り込み、ですか?」
「そうだよ。こんな夜中に人気の無いとこでやってたって朝日は拝めねぇだろ。違ぇか?」
「……そう、ですね。違わないと思います。でも私、歌手になれるでしょうか?」
「知るかそんなもん、オレはその道のプロじゃねえんだからよ。ただ一つ言えんのは――」
 ICレコーダーを、火車は鼎にぶっきらぼうに投げ渡す。
「偶然なんて曖昧なもん待ってねぇで掴みに行けよ。こんなところで恐がってねぇでよ」
 言い方はきつく感じられる、だがそこから滲み出てくる優しさに鼎の両の目からは涙が零れ始める。
 三年もここでギター片手に歌ってきた。人が来ない事だって前から分かっていた。けれども、夜の暗さの下で歌っていくうちに段々と日の光の下で歌うことを無意識に避けてしまっていたのだ……私は。
「それを今日、あなたに出会えたことで気付くことができました……ありがとう、ございます」
「いーよ礼なんて。まぁ何だ、楽しくやれや。……頑張れよ」
「はいっ!」
 手をぶらぶらと振りながら、いつの間にかそこで待っていた七人の同志のもとへと歩いて行く火車。そんな後姿を見つめていた少女は勢いに任せ口を開く。
「あの! もう一曲、どうですか!? その、今即興で浮かんだような曲なんですけど……」
「…………さっきより客数多いぞ、緊張でしくじったりすんなよ?」
「――もちろんですっ!」
 気合に満ちた返事に、リベリスタ達は各人微かな笑みを浮かべる。
「んじゃ、お言葉に甘えて――っと」

 溢れんばかりの幸福に満ちた静かな演奏会が、今幕を開ける――

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 坂譬海雲です。
 お疲れ様でした。
 東雲鼎の与り知らぬところではありましたが、彼女の命は救われ、そして彼女はまた一歩前に進むことができそうです。
 それは他ならぬ皆様のお陰。
 東雲鼎はきっとこれから、今宵密かに刻んだ言葉を胸に抱きながら歩いて行くことでしょう……もしかすれば彼女の歌をどこかでまた聴く機会があるかもしれません。

 そんな日を夢見て。ではまたお会いしましょう。

 ありがとうございました。