●食い逃げに全てを掛ける者 ――そこは何もない草原だった。 さらさらと吹き抜ける風が夏の不快感を根こそぎ浚っていく、気持ちいい夜だった。 (ふむ、なかなかいい場所じゃなぁ……) 気が付けばその草原に一人の老人が立っていた。 数瞬前までは何もなかったはずの草原に、さも当然のように。 (ここに骨を埋めるのも悪くはないかものぉ) 喋っているはずなのに、その声は声として認識できず。 そこに居るはずなのにふとした拍子にその認識を忘れてしまう。 老人は、気が付けば草原からオフィス街へと移動していた。 ふらりと。 ぬらりくらりと。 老人はさも当然のように喫茶店に居座っては無銭飲食を繰り返し、居座り続けたかと思えば次の瞬間には別の店の席に座していた。 誰に見咎められることなく。 ――否。 「なぁ、アニキ。やっぱあれ……」 「あぁ、間違いねぇ……!」 「おぉ……ということは、あれがオレっち達の捜し求めていた秘奥……」 「「「無銭飲食の術っ!!!」」」 この無銭飲食という名の食い逃げに身命を賭した、三人組のフィクサード以外には見咎められることなく。 「しかしアニキ。それがわかったとして、次はどう動く?」 「そうっすねぇ……昨日からずっと追いかけてるのにあの術の秘密の秘の字すら掴めない状況っすもんねぇ」 「ふふふ……ずっとつけていてもわからないなら、やることは一つだろう? ずばり――」 アニキと呼ばれる男はもったいぶる様に一呼吸間を空ける。 「「ず、ずばり?」」 子分と思われし二人はごくりと唾を飲み込み、アニキの言葉を待つ。 「――ずばり、本人に土下座して直接師事させてくれと頼み込む!」 どどーんと、情けないことを胸を張って言い切るアニキ。そんな間違った方向に漢気を発揮するするアニキに子分達は…… 「あ、アニキ……」 「潔くて男前っす!」 「「一生付いていきますっ!」」 ……感動に咽び泣いていた。 ●本人達はあくまでも真面目です 「……まぁ、食い逃げに全人生を掛けている人達だから」 基本的に馬鹿、と身も蓋もない言葉で言い捨てる『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)。 「今回の案件は、無銭飲食を繰り返すアザーバイドとその周囲をうろつくフィクサードの対処」 ううん、フィクサードというにはちょっと御幣があるかもしれない、とイヴが言い直す。 「正確には、微妙にリベリスタになりきれない人達」 エリューション化した存在やアザーバイドの危険性を理解し、自らも度々そういったものを撃破しながら、それでも食い逃げをしてみたいというささやかな男の夢を追い続ける馬鹿な三人組。 「ちなみに今まで食い逃げに成功した試しはないみたい」 その意気込みが強すぎて、「今日こそは無銭飲食するぞー!」と店内で叫ぶものだから成功するはずもないが。 「アザーバイドの方は……なんとなく、自分の死に場所を求めてふらりふらりとこの世界までやってきたみたい」 どうやら外見通り、余命幾ばくという老アザーバイドらしい。 「ただ、こっちも……そのアザーバイドの種としては寿命が近いみたいだけど、私達の時間で換算すると優に300年くらいの時間があるから、一概に老い先短いとは言えない」 しかも極小規模のディメンションホールを作成することが出来るらしく、単独で元の世界に帰ることが出来るらしい。 「本人も、説得されるなら帰るけど殺されるならそれはそれでいいかな、と思いつつのんびりと構えてる」 それこそ、無銭飲食などという無意味な行為で時間を浪費しながら。 「このアザーバイドの特徴はなんといっても無銭飲食しても怒られない能力……じゃなくて、人の無意識に潜り込む性質」 それは老人本人が望む、望まないに関わらず。 例えば老人が飲み物を持ってきてくれと言えば、無意識に……条件反射のように飲み物を運んできてしまうし、相手の無意識に訴えかければ、その認識から外れることも可能だという。 「老人がちょっと本気になれば、例えリベリスタ相手でものらりくらりとかわすことができるでしょうね」 まるで日本の妖怪として知られるぬらりひょんのように。 「……あれは主に後世の創作だっていうけれど、案外その正体はこの老人なのかも」 そう呟いてからこほんと咳をつき、話を元に戻す。 「今回、アザーバイド自身には害意はなく、問題の三人組も食い逃げの極意を得たいだけみたいだけど……アザーバイドがそれだけで崩界を招き寄せるのは事実。三人組が犯罪を犯そうとしているのも事実」 だから―― 「アザーバイドにはそれ相応の対応を。三人組にはきついお説教をしてきてちょうだい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月21日(木)00:25 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●接触 「なぁ、師匠。本当にどうやったらそんな風になれるんです?」 (そうじゃのぅ。わし自身は特に意識しておらんから、なんとも言えんのう) 「ふむふむ、つまり特に意識しないことが重要ってことっすね!」 (ちと違う気もするが、そうかもしれんのう) わいわいがやがやと。 三人組が、とある喫茶店で老人を囲んで楽しげに作戦会議を繰り広げていた。 老人はその様子を目を細めて眺めては、時折視線を外して周囲を眺めたりしている。 ――と、そこへ。 「こんちは、ちょっと良いっすか?」 一人の男、『やる気のない男』上沢・翔太(BNE000943)が声を掛ける。 「ん? 逆ナンならお断りだぞ?」 作戦会議に夢中なアニキはそちらの方に目もくれず、手をひらひらと振り追い返そうとする。 「んー、ナンパとはちと違うんだがのぅ……」 「にゃー。さりあ達は、おじいちゃんとお話したいことがあるにゃっ」 翔太の後ろにいた二人――『眼鏡っ虎』岩月・虎吾郎(BNE000686)と『期待の新人っ!』加奈氏・さりあ(BNE001388)が一歩前に出て老人の方を見据える。 「……あんたら。ひょっとして俺達のご同輩かい?」 三人がしっかりと老人を見据えていることに気がつき、アニキの目つきが変わる。 「あ、アニキ。ひょっとして、こいつら……」 翔太達の正体を察し、子分がやや不安げな表情でアニキを見つめる。 アニキはそんな子分達の気持ちに応えるようにこくりと頷き、その口をゆっくりと開く。 「あんたらも師匠に師事しにきたのかい?だが、弟子一号の座は渡さねえぜっ!」 「さすがアニキ! 少し大人げないことだって堂々と言ってのけるその姿に憧れるっす!」 「一生付いていくぜっ!」 繰り広げられる三人だけの世界。 「あー」 「なんというか、オバカトリオだにゃ……」 「うむ……」 ともあれ、三人が別の世界に没頭している間に交渉を進めてしまおう。 「ここではちょっと話出来ないんで場所移動しないか?」 なるべく三人組を見ないようにしつつ、翔太が言う。 そしてそれに続くように、さりあがこくこくと頷きながら言葉を続ける。 「上沢さんもいってるけど、結構大事なお話なのにゃっ。初対面でこんなこというのも、おかしいんだけど、さりあ達とちょっとだけ付き合ってくださいっ!」 その誠意が伝わるように。そして何より老人を見失わないように、しっかりとその瞳を覗き込みながら。 (ほっほっほ、この世界の若者は皆元気じゃのう) 老人は手にしたコップの中身を啜りながら、リベリスタ達に話しかける。 「とと、テレパス……か」 その口を閉ざしたまま。しかし頭の中には確かに老人の声が響いてきて。 「意外という程でもない……かのぅ?」 むしろ様々な世界を渡るということを鑑みれば、言語を解さず直接思念を送るというのは効率的だ。 (ほっほっほ。ほれ、どこか行くんじゃろう?案内してくれんかの?) 僅かな驚きの間。その間に老人はいつの間にか席を立っており、出口へと向かっていた。 「あ、師匠っ!?」 「アニキ。こいつら、師匠を連れてどこか行く気みたいですが……どうしやす?」 「ふふん、ここは一番弟子の器量の広さの見せ所よ! 笑ってついていってやろうじゃないか!」 「流石っす!」 「誰もお主らを連れていくとは言ってないのじゃが……まぁ、こちらとしても都合がいいから別にいいがの」 やや呆れ気味に苦笑しながら、虎吾郎が老人の後を追って歩き出す。 「おーい、マスター。ここの勘定と、あとテイクアウトをお願いできないか?注文は、そうだな――」 さりあもそれに続いて歩きだそうとして…… 「にゃ?」 ふと違和感を感じて立ち止まる。 目の前で繰り広げられる光景は、さっと伝票を持ってマスターと金銭のやりとりを行うアニキの図。 「俺達の目の前で無銭飲食なんかしようとしたらげんこつでも、と思っていたんだが……」 予想外にすんなりと、そして慣れた手つきで会計を済ませるアニキの姿に逆に戸惑ってしまう。 「はっ!? ま、また支払っちまったぁ!?」 「あはは、毎度ー。またよろしく頼むよ」 「く、くそぅ! 覚えてろ、次こそは絶対に食い逃げしてやるからなっ!?」 びしぃっとマスターを指さしながら捨て台詞を残して老人の後を追うアニキ。 「マスター。あの三人組って、もしかして……」 「ん、あの子達かい? はは、何だかんだ言いつつも、いつも最後にはきちんとお金を払ってくれる、この辺りの店の常連様さ」 「……なるほどな」 「根は悪い奴らじゃなさそう、なのかのう?」 「オバカトリオなだけじゃないかにゃ?」 「かのう……」 ●場所探し 「こっちは今のところいい場所は見つからないかな。そっちは?」 照る太陽の光を遮るように手を翳しながら、『臆病強靱』設楽・悠里が携帯で仲間と連絡を取りあっていた。 「あぁ。丁度いい感じに寂れた公園を見つけたんで、その連絡だ。今から落ち合えるか?」 携帯を介して聞こえる声は雪白・音羽(BNE000194)のもの。 「いい場所が見つかったんだろうか?」 悠里の様子から大体の内容を読み取った『星守』神音・武雷(BNE002221)がそう尋ねると、悠里がこくりと首肯し、何かを探すように服をまさぐる。 「もしかして地図をお探しかい?」 ならこれを使うといい。そう言って『自称正義のホームレス』天ヶ淵・籐二郎(BNE002574)が自らの持っていた地図を差しだせば、悠里は「ありがとうございます」と言って地図を目で追いかける。 「ここからでもそんなに時間はかからなそうだね……うん、それじゃあすぐにそっちに向かうね」 通話を切り、武雷と籐二郎に場所を伝える。 「結構近くだな」 「走れば五分ってところかね」 「うん。接触組もそろそろ会ってる頃だろうし、急ごう!」 三人は頷き合い、すぐに走り出す。 そして人通りの多い大通りを抜けて、裏の細道へ。何度か細かく曲がりながら走り続けたところで、手を振る『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)の姿を発見する。 「こっちだ」 そう言ってディートリッヒが視線を向けた先には、やや寂れた公園があった。 「ここでよければ、俺と音羽でもう周囲に結界を張ってあるから、後は接触組に連絡するだけだぜ」 確かにここなら普段から人通りも多くなさそうだし、問題はないだろうか。 念のため悠里、武雷、籐二郎の三人も周辺を見渡しそう判断した後、音羽が現在の位置情報を翔太の携帯へと送信する。 さぁ、後は待ち伏せをして例の老人と三人組を待つだけだ。 「そもそも、この三人組はなんで食い逃げに青春を賭けてるんだろう?」 「さぁねぇ……ま、ともかくそんなものに人生を賭けるなんてみっともない。ちょいと懲らしめてやらねぇといけないな」 「だな。まずはあほな三人組をぶっとばして、それからだな」 「……皆の表情が微妙に楽しそうに見えるのは俺の気のせいか?」 かく言うディートリッヒも自他ともに認めるバトルマニア。その瞳は他のメンバーに負けず劣らず、闘志に満ち溢れているのは言うまでもないことだった。 ●説得と説教と 「……ここか」 携帯を懐に仕舞い、到着した翔太が呟く。 (ふむ。して、話したいこととはなんじゃろうか?) そんな翔太に老人が尋ねれば、 「それは俺の方から説明させてもらえるかい?」 公園の中で待機していた籐二郎が言葉を紡ぎ、悠里、ディートリッヒが後を続ける。 この世界でアザーバイドと定義される存在と、崩界について。 (ふむ……) 「別に、俺達も爺さんと戦いたいわけじゃないんだ。だから……素直に帰って――」 「ちょっと待ったぁ! 師匠を帰すって話なら、ちょっと待ってもらおうかっ!」 最後に告げた翔太の声を遮るように、アニキが一歩前に出て声を張り上げる。 「おっと、ちょっと待つのはにいちゃん達の方だぜ」 ぽん、と。いつの間にかアニキの背後に立っていた武雷が、その肩に手を乗せ、厳つい牛の顔でにかりと笑う。 「ま、そういう事だな。あんたらが説得の邪魔するっていうなら……殺す気は無いが本気でいくぜ?」 さらに音羽も草陰から現れて三人組の包囲網が完成する。 「うぉ、いつの間に後ろに!?」 「あ、アニキ! どどどどうするっすか!?」 「えぇい、とりあえず戦闘だ! 師匠を取り戻すぞっ!」 「ラジャーっ!」 そう言って三人は素早く戦闘態勢をとる。 「おじいちゃん、ここは危ないからこっち行くにゃっ」 「あぁ、師匠っ!?」 さりあに手を引かれて公園の隅のベンチへと移動する老人。追い縋ろうとするアニキの手は、しかし武雷によって阻まれる。 「にいちゃん達にはにいちゃん達でちょいと用があってな。無銭飲食たぁ随分となめたマネしてくれてるじゃねぇか?」 実際には未遂だが。 だが未遂にしろ行おうとしていたことは事実。そしてそれにかける意気込みが強い分、アニキ達は「うっ」と言葉を詰まらせる。 「そんな君たちにはちょっぴりキツメのお灸を添えるよ」 その笑顔にやや苦笑気味の色を浮かべながら、悠里が真っ先に行動を開始し、その流れる水のような身のこなしで子分の一人を翻弄する。 「それじゃあ、おぬしにはちょっとわしの相手をしてもらおうかのう」 さりげなくアニキの前へ移動しようとしてたもう一方の子分の進路へ虎吾郎が割り込み、まずは開幕の一撃をお見舞いする。 その様子を、手を引かれ安全圏までやってきた老人は楽しげに眺めている。 「おじいちゃん、さっきからずっと楽しそうにゃ。何がそんなに楽しいにゃ?」 (ん? あぁ、いやなに。ワシはただ賑やかなのが好きなだけじゃよ) 「そういえば、最初にいた喫茶店でもずっと人の流れを見ていたな。それと何か関係が?」 (そうじゃな……ワシの力はもう知っておるかの?) 「凄かったにゃっ! さりあずっとおじいちゃんの手を握ってたはずなのに、いつの間にか手を離してたにゃっ!」 (ほっほっほ、それがワシの……いや、ワシらの力じゃてな。……寂しい世界じゃったよ。誰も認識できず、誰からも認識されない世界。同胞のことを覚えていることすら忘れ、出会ったことすら忘れ、忘れていることさえ忘れていく。じゃからこの賑やかな世界が楽しくて、そして恋しい。ここに骨を埋めてもいいと思えるくらいに……の) 「爺さん……」 (そういうわけでじゃな。この世界に悪影響があるというのなら素直に立ち去ろう。ワシもここを崩界させたくない。じゃが……その前に、もう少しだけ話を聞かせてはもらえんじゃろうか?) 「わかったにゃっ! さりあ、頑張っていっぱいお話するにゃっ!」 「あぁ。そういうことなら……俺達で出来る話なら、喜んでさせてもらおう」 かくして。三人が改めて会話を開始させるのを見て、荒れ狂う男が一人。 「あぁ……師匠が、師匠が俺達を差し置いて楽しそうに笑っておられる……!」 ディートリッヒ、武雷、音羽、籐二郎。その四人の総攻撃を三度堪えきったアニキが血の雨を降らしそうな勢いで雨を降らせ、周囲を凍らせる。 「で、なんで食い逃げとかに根性燃やすのよ?」 「なんとなく悪っぽいじゃないかっ!」 「よし決定。死ぬまで殴ろう」 即答で返ってきた答えに、音羽が笑顔で魔曲・四重奏を奏でる。 「悪役よりはヒーローの方が気持ちいいぜ? ほら、人助けて行く先々で美味しいもの食わせてもらって、颯爽と立ち去っていく……みたいな。な?」 「うっ……それは、確かに」 その未来図を想像したか、アニキの動きが若干鈍る。 「せぃっ!」 その隙を見逃さず放たれた武雷の一撃が綺麗に決まり、アニキがついに倒れる。 「「あ、アニキーーっ!?」」 子分達が叫ぶが、しかし前には悠里と虎吾郎が立ち塞がってアニキの元へは駆け寄れない。 「ところでお主らはあの御仁がアザーバイドだとは気づかなかったのかのぅ……」 アニキの範囲攻撃、そして子分の攻撃を受け続け、ぼろぼろになりながらも立ち続ける虎吾郎が子分達に問う。 「それは……わかってたっす」 「なら、どうして」 悠里の言葉に子分達は言うべきか、しばし顔を見合わせた後―― 「アニキと約束したんだよ」 「師匠の技を譲り受けて……それから師匠の望む通りにしてやろうって、アニキは言ってたっす」 「それで食い逃げし放題ってか?」 ディートリッヒの呆れ声に、しかし子分達は声を揃えて「違う!」と叫ぶ。 「アニキは……そりゃ、手先は器用な癖に不器用な人っすけど」 「本当は凄く優しい人なんだ。師匠との事だって、最後は違った! ただ、師匠がいた証を残しておきたかっただけ。それを悪用することなんてすっかり忘れちまうほどのお人好し……」 それが俺達の尊敬するアニキなんだ、と。 「……あー。なんだか毒気の抜かれる話じゃあるが」 本当に悪役になりきれない三人組だけど。 「食い逃げしようとしてた分の灸くらいは据えてやらねぇとな?」 お涙頂戴で誤魔化せるほど世の中は甘くない! 「ってことで、その分はしっかりと反省しやがれっ!」 アニキを倒した四人も合流して、子分達もがつんときつい灸を据えられるのだった。 「「誤魔化しきれなかったーー!」」 その後。意識を取り戻したアニキ共々正座させられ、一生懸命ご飯を作ってくれる店員さんのありがたさや、本当のロマンのあり方。時にはげんこつを交えながら延々と説教され続ける三人組だったとさ。 ●そして最後に 「――それじゃあ、じいさん」 老人と積極的に会話をしていた翔太、さりあを先頭にリベリスタ達がその別れに立ち会う。 「師匠……」 もちろん、もう二度と食い逃げなどしないと誓った三人組も後ろの方で見守っている。 (こんな物までもらって、すまんのぅ……) 「あはは、気にしないでいいよ。この世界じゃそれほど珍しい物でもないしね」 その手に持った袋に視線をやりながら、老人がぺこりとお辞儀をする。 (そこのわっぱ達に習ったこの世界の挨拶じゃ。せめて最後くらいは、の) 「師匠……!」 その言葉に感極まったか、アニキが駆け寄り老人に抱きつく。 「すみません……結局最後まで、師匠の技を覚えられませんでした」 (よい、よい。仕方なかろうて) 「これを、最後に。あの喫茶の飲み物……冷めてもおいしいはずなんで味わってください」 (色々と世話をかけたのぅ……) そして別れは、呆気ないものだった。 アニキから離れた老人が、それじゃあのと言い残し―― 気が付いた時には、そこに小さな小さなディメンションホールだけが残されていた。 「おじいちゃん、元気でいてにゃ……ばいばいにゃっ」 さりあの声は、老人に届いただろうか。 「これで終わり、かな」 最後に悠里がディメンションホールを壊し、ミッション終了。 「で、お主らはこれからどうするんじゃ?」 残った問題は、この三人組の処遇。虎吾郎が視線を向ければ、アニキが肩を竦めて苦笑する。 「組織に組するってのがちょいとな。あと師匠の技を盗めなかったのは俺らの力量不足。しばらくは色んな場所を回って経験を積むさ」 親指で目尻を擦り、じゃあな、と子分を引き連れて去っていくアニキ。 「どうにもまた流れに流されて悪さでもしでかしそうだが……ま、そうなったらまた嫌というほど殴って辞めさせるかね」 「それで今度は問答無用でアーク行きにゃっ!」 「いいな、それ。じいさんがまた来たら会わせてやることもできるだろうし……次はそれでいくか」 そしてリベリスタ達も帰路に着く。 老人が残したほろ苦い思い出を、せめて自分達だけは忘れぬように大切にしまいながら――。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|