●風の妖精 サラサラと流れる風。耳朶をくすぐる、衣擦れの音。吹きすさぶ風に紛れて、少女が1人跳びまわる。 白い、絹の衣を纏った少女だ。白い髪を風に踊らせ、愉しげに駆ける。無邪気な顔だ。走る、というより、飛ぶと言う方が正しいだろうか? その足は、地面に付いてはいない。 ただ、誰もその事に気付かない。少女の名は(シルキー)。異世界から来た、アザ―バイドという存在だ。街中を駆けるシルキーであるが、人の意識に止まる前にその場を遠く離れている。まさに風だ。残るのは、僅かな絹擦れの音と、涼しい風だけ。 暑い季節には、嬉しい現象だ。 とはいえ、シルキーをこのまま、この世界に放置しておくわけにはいかない。 特に害意のある存在ではないようだが、しかしすぐに元の世界へ帰る気配もない。 彼女からしてみれば、この世界には珍しい物で溢れているのだろう。 車と競走してみたり……。 窓ガラスから、店の中を覗いてみたり。 風見鶏を回転させてみたり。 道行く人を、突風で脅かしてみたり。 悪戯が好きなのか、きゃはは、と愉しげな笑い声を上げるシルキーである。 けれど、その姿は誰の目にも止まらない。 街中を駆け抜けるシルキーは、しかし1人ボッチである。 愉しげに笑い。 そして、少しだけ寂しそうに、道行く人を眺めるのだった。 ●風は誰にも掴めない 「時刻は黄昏時。昼と夜の境。人でない者が紛れこむには、絶好のタイミング」 モニターに映るのは赤く染まった繁華街。吹きぬける一陣の風。一瞬だけ映る、美しい少女。道行く人々は、その少女(シルキー)の存在に気付かない。乱れた髪を、手で押さえる程度。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は映像を止めて、シルキーの姿を拡大。 美しい少女だ。少しだけ寂しそうな笑顔で、空を駆ける。長い白髪と、絹の衣。夕陽に照らされ、赤く染まっている。 「この世界に迷い込み、そして興味を抱いたのだと思う。現在シルキーは、まるで遊ぶように繁華街を駆けまわっている。現在地は分からないから、見つけて、捕まえて欲しい」 それが今回の依頼内容なのだろう。ひどくシンプル。そして、それ故に厄介。風を捉えるなど、今まで 誰もやり遂げたことはないだろう。 「幸い、シルキーは速いだけ。風を操ることも出来るけど、自身が風になるわけではないから、捉えることも可能」 もっとも、逃げるシルキーを捕まえることは容易ではないだろう。 「また、シルキーは【ゲート】という能力を持っている。異空間にある自分の箪笥から、色々な道具を取り出す能力」 この世界で見つけたものも幾らか、既に箪笥へ放り込んでいるようだ。 回収の必要はないが、箪笥から取り出す道具には注意した方がいいだろう。 「何を出してくるから、解らない。武器かもしれないし、食糧や玩具などかもしれない」 どっちにしてもやることは変わらない。 「シルキーを討伐するか、送還するかは皆に任せるけど……。ゲートは破壊して来てね。繁華街のどこかにある筈だから」 まずはシルキーを見つけだし、捕まえることから始めなければならないだろう。 シルキーが飽きて、どこかへ消えて行く前に……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月21日(日)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●黄昏の風 夕暮れ。黄昏時。この時期にしては、日が暮れるのが速かった。 赤い夕陽に照らされて、数メートル先の人物の顔すら判然としない。 そんな中、一陣の風が吹き抜ける。 僅か一瞬。駆け抜けるような強風だった。 その強風の中に、1人の少女の姿を見た者が、果たして何人いただろうか? 「だァれも気付いてくれないのね」 なんて。 白い衣を纏い、風と共に駆ける少女は、誰にともなくそう呟いた。 ●シルキー。風の少女。 微かに漂うアルコールの香り。それから、揚げ物やソースなどの食欲を誘う香りもしている。ここは所謂、飲み屋街だ。仕事帰りのサラリーマンや、遊ぶのに忙しい大学生達の憩いの場である。 そんな中を進む男が2人。朝倉 貴志(BNE002656)と、『変態紳士-紳士=』廿楽 恭弥(BNE004565)である。 仲間と連絡を取りつつ、この街を駆けまわっているらしいアザ―バイド(シルキー)を捜索しているのだ。 「シルキーさんが通過したなら何らかの風の影響が起こりそうなものですが……」 周囲に注意深く視線を這わせる貴志。シルキーを見つける為とは言え、傍から見れば怪しい男に見えなくもない。通りかかる一般人の視線が痛い。 「好奇心旺盛な少女というのは見ていて飽きませんよね。可憐な姫が退屈というのなら、解消するのが紳士の務めです」 まだ見ぬシルキーを想い、頬を緩める恭弥。 そんな2人の背後を、一陣の風が吹き抜けていった。 所変わってこちらは裏通り。高いビルに囲まれた狭い通路だ。バーやクラブなど、夜間営業の店が多いのが特徴である。通りに屯している連中も、少々柄の悪い者が多い。 すでに酒が入っているのか、赤ら顔で仲間と笑い合っている者もいる。 そんな中を、にこやかな笑顔で進む奇妙な女性が居た。 「さってとー。平和的かつ疾風怒濤で解決です!」 そう言って拳を突き上げたのは『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939) であった。まるで道化師のような格好をしている。注目の的になっているのだが、本人は気にしていないようだ。 機械の体を幻視で隠しているのだが、どちらにせよ人目を集める外見である。 「元より目で追えないなら捕まえるのは困難だろう。せめて私の目で捉えられることを祈るよ」 サングラスを押し上げ『論理破綻者』カルベロ・ヴィルチェーノ(BNE004057)は溜め息を零す。狭い裏通りだ。遭遇すれば、他の場所よりは捕まえる事も容易いかもしれない。 ただ、問題があるとすれば……。 「おい、お前ら見ない顔だな? どこから来たんだよ?」 酒によった若者が数名、エーデルワイスとカルベロに絡んできたことくらいだろうか。 捜査の時間が削られる。そう思い、カルベロはまた、溜め息を零したのだった。 再び視点は変わる。ここは中央公園。人気もまばらになった夕暮れ。広い公園に吹くのは、心地よい夕方の風だけだ。熱気を含んだ風が吹き抜ける。 シルキーの姿がないのを確認し『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた((BNE004018))はベンチに腰掛けた。 「そろそろですかね」 公園内から人が居なくなったのを見て、あばたはAFから『工事中に付き立ち入り禁止』と書かれた看板を取り出した。 公園の出入り口に、それらを仕掛けて回る。 あばたのイーグルアイで強化された視界には、一羽の鳥が映っていた。 公園の上空を、ぐるぐると飛びまわっている。鳥の正体はレディ ヘル(BNE004562)だ。鳥の姿を幻視で真似て、宙を舞っている。 今のところ、シルキーの発見には至っていないのだろう。レディからあばたへ、何のコンタクトもない。 今一掴みどころのないパートナーを見て、あばたはやれやれと頬を掻いた。 『………』 無言で飛び続けるレディから、僅かに薔薇の香りが散った。 表通りを進むのは『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)と『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)の2人である。肩を並べて歩く2人は、仲の良い友人同士に見えているだろうか。どちらも少々目立つ外見と服装をしているが、似合っていれば何も言われないのが世の常である。 そんな2人が、同時に駆け出した。人混みを掻き分け、間を縫って飛ぶように駆ける。 2人の視線の先には、白い衣の少女の姿があった。今回のターゲットであるシルキーだ。ショーウィンドウの前で、ガラスに映った自分の姿を眺めているのを発見したのだ。 「おや? こっちに来てる?」 2人の接近に気付き、シルキーが首を傾げた。瞬間、2人が一般的な人間とは違うことを察したのか、警戒に顔を強張らせる。 「こんばんは。迷子の妖精さん。ちょっとおしゃべりしようよ」 スカートを摘まんで、淑女の挨拶をしてみせる灯璃。シルキーの表情から警戒の色が薄れた。少なくとも、突然攻撃してくるような物騒な存在ではないと判断したのだろう。 「しるきーちゃん、あーそーぼ」 そういってにこやかに笑いかけるひより。 和やかな空気が満ちた。道行く人達も、少女達の邂逅に薄く頬笑みを浮かべている。 次の瞬間。 「じゃぁ、おにごっこね?」 シルキーの姿が消えた。突如巻き起こる突風。否、竜巻だったろうか。間を抜けられた、と灯璃とひよりが気付いた時にはもう遅い。振り返るとそこには、白い衣を翻し、街中を飛び去っていくシルキーの姿があった。恐らく、常人であればその姿を捉えることはできていないだろう。 つー、と灯璃の頬や首筋から血が流れた。シルキーの移動と共に発生した真空の刃に切り裂かれたのか。 「右も左も判らないような場所に迷い込んでも、珍しいものがあるとテンション上がっちゃうよね。帰りたい気持ちより好奇心が勝るって言うのかな」 苦笑いを浮かべる灯璃。シルキーの速度を間の辺りにして、僅かに頬が引きつっている。 「わぁい、おいかけっこなの」 そういって走りだしたひよりを見て、灯璃は小さく溜め息を零した。 シルキーが向かったのは飲屋街であった。行き先を予想した灯璃たちから連絡を受け、貴志と恭弥は警戒を一層強くする。 シルキーの遊びは始まってしまった。話し合いでの解決は、既に不可能だろう。捕まえて、送り返す。少々荒っぽい方法になるかもしれないが、仕方ない。 「来ました!」 そう叫んだのは貴志だった。一足飛びに階段を駆け上がり、宙へ飛んだ。間を駆け抜けるシルキーを捉えるべく、腕を広げる。 「あれ? さっきの娘たちのお友達?」 空気を蹴って、飛び上がるシルキー。上方向へ向けて弾丸のように飛んだ。巻き起こる突風と、真空の刃が貴志の腕を切り裂いた。 「退屈しているなら、私達がそのお相手をしますよ?」 そう告げる貴志。にこりと笑って、シルキーは答える。 「それじゃあ、遊んで貰おうかしら」 まるで空中に道があるかのようだった。自由自在。縦横無尽に、風を撒き散らして走るシルキー。発生したのは竜巻の道だ。弾かれ、地面に倒れる貴志。シルキーからしてみれば遊んでいるだけなのだろうが、流石は自然を操る妖精と言ったところか、思いの外ダメージが大きいようだ。 逃げようとするシルキーの眼前に、恭弥が回り込んだ。シルキーの腕を掴み、そっと優しく頬笑みかける。 「こんばんは、風のお嬢さん。急がなくても大丈夫ですよ。この世界の楽しい物は逃げませんから」 「いいえ、そんな事はないのよ。油断すると、欲しい物も楽しいことも、すぐに手からすり抜けて行くの」 突風。恭弥の帽子が風に飛ばされる。思わず目をつぶった一瞬の間に、恭弥の視界は反転していた。目の前に見えるのは、地面である。シルキーの風に飛ばされて、恭弥の体は宙を舞ったのだ。 「ほらね?」 そう言って笑うシルキー。いつの間にか、シルキーの片腕は、空中に出現した箪笥の中に突っ込まれていた。中から引っ張り出したのは、カラーボールだ。コンビニなどが、強盗対策に置いているアレである。 地面に倒れた恭弥の上から、無数のボールが降り注ぐ。ボールは破裂し、鮮やかな蛍光色の液体をばら撒いた。カラフルにペイントされた恭弥を見て、シルキーは笑う。 「分けてあげる。そのボール、面白いのよ」 嬉しそうな笑い声をあげ、シルキーはどこか、遠くへと飛んで行ってしまったのだった。 酒臭い男達が、山と積まれていた。カルベロとエーデルワイスは、絡んできた男達を気絶させ、路地裏へと放り込んだ。 そんな2人の背後を突風が駆け抜ける。振り返った2人が見たのは、好奇心に目を輝かせたシルキーだった。 「すごい。強いのね。これ喧嘩? 喧嘩っていうのよね?」 箪笥から取り出したのは、一冊の雑誌だった。芸能情報から眉唾なゴシップまで扱う、週刊誌だ。暴力団同士の抗争について特集が組まれていたようである。 探していたターゲットの出現に、一瞬ポカンとしていた2人だが、すぐに行動を開始した。 「さてと、そこいく彼女……。とりあえず一緒に暇をつぶさないかい?」 手にしてコンビニ袋から、アイスクリームを取り出しシルキーに渡すエーデルワイス。シルキーは、それを受け取ると蓋を開けてクリームを舐めた。 目を輝かせ、シルキーは笑う。 「おいしい♪」 それはよかった、とエーデルワイスも微笑んだ。掴みはこれでバッチリだ。次は、彼女をいかにして公園へ誘導するか、である。 正直、追いかけて追いつける気はしない。 かといって、素直に付いてくる相手ではないことは、仲間達からの報告で知っている。 「そこをまっすぐ……。そのまま大通りを抜けてみるといい」 サングラスを押し上げて、カルベロは言う。彼の千里眼には、公園へ向かう仲間達の姿が映っていた。シルキーの姿も、一度補足すれば見失う気はしない。 「公園に辿り着ける。案内してもいい。それとも、私の話はシルキーには退屈か?」 「あら? お兄さん、わたしの名前を知っているの? さては貴方も、さっきの娘たちの仲間ね?」 灯璃とひよりのことだろうか。無言で肯定し、シルキーの反応を窺う2人。 「うーん。分かった、行ってみるよ」 そう呟いて、シルキーは姿を消した。予備動作なしの高速移動。吹き荒れる暴風に煽られ、エーデルワイスがバランスを崩す。 「それじゃ思いっきり暇つぶしでーす!! まぁ、私は買ったものを食べるだけだけどね☆」 公園で待機するあばたとレディに連絡し、エーデルワイスとカルベロは、裏通りから移動を始めた。 「若者の相手は若者に任せればいいからな。少し寂しくはあるがね」 カルベロは、小さく笑って歩き出す。 シルキーの相手は、他の仲間に任せていれば安心だろう。 空中を駆けるシルキーの視界に、奇妙なモノが映り込んだ。翼を羽ばたかせ宙を舞う、仮面の女性だ。シルキーの接近に気付き、レディは高度を下げた。 『風か……。戯れるのもたまにはいい』 シルキーの脳裏に声が響く。レディのハイテレパスだろう。急降下や急旋回など、空中を自在に飛びまわるシルキーを、レディもまた曲芸飛行で追いかけていた。 楽しげに飛びまわるシルキーとレディ。街中を駆けまわっても、ほとんどの者はシルキーの存在に気付かなかった。しかし、今は違う。レディたちリベリスタは、彼女の存在に気付いてくれている。 だからだろう。 少し、調子に乗り過ぎてしまったのだ。 「ひゃっふー♪」 突風を纏って駆け抜けるシルキー。風圧に煽られ、レディの体が大きく揺れる。 『!?』 仮面の奥の瞳が、動揺に揺れる。ベクトルがずらされた、と気付いた時には遅い。空中では僅かなベクトルの変化が命取りになるのだ。レディは真っすぐ、地面に落下していく。 「走っても……すぐには追いつけません」 落ちて来るレディの真下へ、あばたが駆けこむ。芝生の上を滑り、レディの体を受け止めようとしているのだ。 ここに来てようやく、シルキーも気付いた。自分が少し本気を出して走るだけで、他者にとっては十分命を脅かす脅威になるのだと。 しまった、という想いが胸中を駆け巡る。しかし、今は後悔している場合ではないのだ。 なんとかレディを助けようと、シルキーは自分の箪笥へ手を伸ばした。 ここで2度目の不運が訪れる。 シルキーは慌てていたのだ。箪笥の中から取り出そうとしたのは、こちらに来てから見つけたロープであった。 しかし、実際に取り出した……否、取りこぼし、ばら撒いてしまったのは、数本の鉄骨であったのだ。 「しまった!?」 『……!!』 脳裏に響くレディの意思は、驚愕であっただろうか。 鉄骨はまっすぐ、レディに向かって降り注ぐ。 「装備を……。間に合いませんか」 AFから装備を呼び出そうとしたあばただが、間に合わない。展開する気糸も、鉄骨を支えるには至らないだろう。 レディの体が、地面に落ちる。 ●夕陽の中で 「安心してください!」 落下する寸前、レディの体を受け止めた者が居た。公園に駆けこんできた恭弥である。レディを受け止め、そのまま2人で地面を転がる。 だがしかし、鉄骨の範囲外へ出るには間に合わない。 「遊びには付き合いますが、時間無制限とはいきませんよ!」 飛びこんできた2つ目の影。放電と共に拳を振るうのは、貴志である。落ちて来る鉄骨を殴り飛ばし、レディと恭弥を庇う。 しかし、先ほどのシルキーとのやり取りで受けたダメージが残っているのか、その動作は決してなめらかとは言い難い。 「う、っぐァ!!」 残り2本、という所で、貴志の手が止まった。鉄骨の1つは貴志の肩を直撃。更にその上から、もう1本の鉄骨が降って来た。 鉄骨に押しつぶされ、貴志は地面に倒れ込んだ。意識を失うその寸前、貴志はシルキーへ笑って見せた。 戦闘不能。暫く目を覚ましはしないだろう。代わりに、前へ出たのはあばただ。 「立場上、ずっとここにいていいとは言えませんが。お帰り頂くまでの間、出来得る限り歓待させていただくつもりでおります」 そう告げるあばた。その後ろから、エーデルワイスとカルベロがやってくる。あばたに手を貸し、意識不明の貴志を鉄骨の下から引っ張り出している。 「せっかくだから、此処で一緒に遊ばない?」 背後からの声。振り返るとそこには、自前の翼で空を飛ぶ灯璃とひよりの姿があった。 大きく頷くシルキー。おにごっこも、終わりが近い。 自由自在に空を駆ける。長い髪が舞い踊る。全身に包む風が気持ち良かった。風を引き連れ走るのは、格別な気分だった。 この世界へ来たのだって、楽しそうだったからだ。好奇心に負け、遊び過ぎたのかもしれない、と思う。 その結果、人を傷つけていたのだと、初めて知った。 それでも彼らは、彼女達はシルキーの遊びに付き合ってくれる。 「これはなんて、幸せなことかしら」 そう呟いて、シルキーは飛んだ。 エーデルワイスとカルベロが、貴志を鉄骨の下から引きづり出した。その隣では、あばたと恭弥が空を飛ぶ少女達を見守っている。 最後の仕上げは、灯璃とひよりに任されたのだ。 「えへへ、わたしも元は妖精なの」 柔らかい頬笑みと共に、ひよりはそう告げた。それが本当かどうかは分からないが、普通の人間ではないことは確かだろう。 自前の翼で急降下。シルキーに迫る。小さな手が、まっすぐシルキーへ伸ばされた。咄嗟にそれを回避するシルキーの正面に、灯璃が回り込む。 「帰り道を見失って不安なの? 大丈夫、近くにあるから心配いらないよ」 手を広げた灯璃を回避し、上空へ飛び上がるシルキー。それを追って、ひよりと灯璃も宙を舞う。吹き荒れる風と、風を縫い飛びまわる2人。 誰も居ない公園で、彼女達の追走劇は数分間ほど続いた。 勝負をしかけたのは、灯璃だった。最高速で飛び上がり、シルキーを追い越した。急停止して、風の道を作り直すシルキー。 「寂しくなったら灯璃たちを思い出してね」 そう告げた灯璃の目には、シルキーの背後に迫ったひよりの姿が映っていた。 「えへ、つーかまーえた♪」 ふわりと、白い羽が飛び散った。シルキーの髪に引っかかって、小さく揺れている。 シルキーの腕を握って、にこやかに笑うひより。 自分が捕まったのだと分かると、シルキーもまた、微笑んだ。 『風のお守りだ。コレクションに加えるといい』 シルキーが元の世界へ帰る直前、レディは彼女に何かを手渡した。 それはスターサファイアのアミュレットだった。驚いたような顔をした後、シルキーは嬉しそうに笑う。 思えば、笑顔の絶えない少女であった。けれど、すぐにその眼に涙が溜まる。 せっかく仲良くなれたのに、もう帰らなければならない。そのことが寂しいのだろう。 しかし……。 「皆、ありがとうね。それじゃあ、わたしは帰ります。ばいばい♪」 泣き出す直前、シルキーはDホールを潜っていった。 最後まで笑顔で。きっと今頃、元の世界で泣いているだろう。 風を操る妖精は、こうして元の世界へと帰っていったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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