●広がる電波通信 「――っつーのがDonnergott作戦だ、恰好良いだろう? ま、俺が考えたんじゃあなくってクリスティナ中尉からの命令なんだけどよ」 「Jawohl,ブレーメ・ゾエ曹長。それで……私はその作戦を遂行すれば宜しいのですね?」 「Ja.話が早くって助かるよ、ゾルタン」 「全力は尽くしましょう。お任せ下さいな」 「Danke.……でさ、アルトマイヤー少尉見なかった?」 「アルトマイヤー・ベーレンドルフ少尉ですか? さぁ……」 「まあいいや。じゃ、そゆ事で頼んだよゾルタン。――Sieg Heil!」 「Sieg Heil!」 ●びびび 「親衛隊が出ましたぞ」 事務椅子をくるんと回し、皆に向いた『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が発したのはそんな言葉だった。 親衛隊。最早、説明は不要であろう。表情を引き締めるリベリスタに、機械男は一つ頷いて。展開されるのは背後モニター。映っていたのは、電波中継車だ。 「簡潔に説明致しましょう。親衛隊が、この電波中継車型アーティファクトによって各地に怪電波を撒き散らしております。 この怪電波というのが非常に厄介な代物でして。皆々様のような革醒者には何の影響も無いのですが……一般人には、大きく作用を及ぼします。 具体的に言えば、洗脳。それに伴う発狂。ノーフェイスへの革醒の危険性。そして彼等は、親衛隊の意のままに動く『道具』と成り果ててしまうのです」 メルクリィが眉根を寄せる。使い捨ての効く簡易な手駒を大量生産すると同時に、敵であるアークへの『嫌がらせ』。実に、実に厭味ったらしく、合理的で、猟犬らしい手口。 「この中継車が『中継』している電波の発生源は目下捜査中でございますぞ。 此度、皆々様に課せられたオーダーはこの中継車の破壊とノーフェイスの殲滅。……このまま、彼等にこの国を好き勝手させる訳にはいきません。応援しとりますぞ、皆々様!」 ●すれ違い(強制)通信 「君達劣等は、どうしようもないクズで生きている価値も無い様な塵芥に過ぎません。ゴミですね。カスですね。なので、うんとうんと喜んで下さい。我ら崇高なるアーリア人に『道具』として使って頂ける栄誉を名誉を栄光を歓喜を感動を感激を一切合財有象無象を猿の様に手を叩いてはしゃぎなさい謳いなさい! い~いですね! はいお返事!」 夜の中で薄笑む軍人の視界一杯に、狂った目をした狂った人間がそれはもうわらわらわらわら大量に。ジーク・ハイルの真似事。掲げた手。黒い群。ノイズ&ノイズ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月22日(月)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●みっどみっどみっどないと 夜はシンと静かな筈だった。けれど、そこには胡乱な呻き声。ゆるゆると速度に乗った奇妙な車。ゆらゆら団地からやってくる狂った人々。或いは、『人だった存在』。 吐き気がすると吐き捨てて、『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)は駆けた。手には武器。顔を顰め。酷い事だ。この間といい今回といい、思考も行動も最悪の連中だ。 「性懲りも無く仕掛けて来たかえ。今回も盛大に邪魔してやるとするかのう!」 怪電波による洗脳か。『トゥモローネバーダイ』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)は溜息を隠そうともしない。 「優等民族とやらが聞いてあきれる……まるでどこかの悪の組織のやり口じゃない」 嗚呼確かに、彼等は悪だ、悪なのだろう。あれを正義だなどと定義してなるものか。許せない。絶対に。『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はゴスロリドレス黒姫のスカートを握り締める。 「楽団が死者を操り人形にしたように、親衛隊も罪の無い人達を自分達の手駒にしようというの? 人の命を何だと思ってるの!?」 「なんでこう、迷惑な事しかしないの。一般の人を巻き込むなんて」 許せないよね。唇を薄く噛み締め、『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)。助けなくては。一人でも多く。こんな迷惑千万な蛮行、止めさせねば。 「公園では不覚をとったけれど、今度こそ。負けないよ?」 自分達の敗北=誰かの悲しみ、辛い思い。退く事は出来ぬ。そんな少女を横目に、『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)は凛然と前を向いた。 「最近、皆大変だったみたいだね……でも大丈夫、私が来たからにはもう好き放題なんてさせないよ……!」 一斉に、踏み出した。 そんなリベリスタに音やにおいを察知したか、或いは視界か。兎角、親衛隊も動き出す。車から降りる4つの影。それを認めて、いの一番にグンと速度を上げたのはレイラインだった。その姿が、ブレる。刹那。金色の又尾を引く残像が、うじゃうじゃと寄って集って来るヒトカゲからノーフェイスだけを打ち据える。歌う様な切り裂く音。瞬間の出来事。 「うぐぐ……すまん、退いてくれ!」 初手こそ上手くいったが。しかしである。洗脳された一般人は親衛隊の忠実なコマ。邪魔をする様に壁と成る。行く手を阻む。射線を防ぐ。人海戦術。ノーフェイスを効率的に叩く為には一般人を退けねばなるまい。親衛隊は腐っても軍隊だ。態々ノーフェイス『だけ』を最前線に出す様な愚策は取らず、それよりもっと『便利な』一般人を前へ前へ文字通り『肉の壁』とする、という訳か。 腹立だしい。十二式魔力小銃を構えた『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)は奥歯を噛み締める。 「ふざけんなよ、テロリスト共」 銃口の先には人間。護るべきもの。口惜しい。肉壁の彼方、車を警備するように立った黒衣の兵を睨ね付ける。 「お前らのような非常識野郎に説教垂れても仕方ないかもしれないけどな、ハーグ陸戦条約ってのがあるんだ。ドイツだって批准してるのに、規則すら守らず軍人なんて名乗ってるんじゃないぞ」 その言葉に、親衛隊は厭味ったらしい笑みを浮かべ。鼻で笑った。 「劣等が何かほざいてやがるぞ。ああ、ドイツ語じゃないと分からんなぁ?」 親衛隊にとっては彼らこそが『正義』なのだ。そして劣等こそが『悪』なのだ。分かり合える事など、永遠に無い。最初から言葉でどうにかできるレベルではない。愚痴っていても仕方がない。そうだ。リベリスタに出来る事は、『被害を止める事』。 クソッタレ。心の中で吐き捨てて。引き金を引けば、空を裂く弾丸がノーフェイスに突き刺さる。 「さぁ、覚悟して?」 漆黒の翼を広げ宙に浮かび。ウェスティアはその手に白い黒本を携える。開けば雑多なまでに書き連ねられている多様な魔方陣。少女が高速で呪文を唱え始めれば――それらが一斉に、光を帯びて。 「我が生命よ、葬り送る鎖と成れ……!」 血を代価に現れる巨大な魔法陣。じゃらり、と唸りを上げて放たれる黒鎖の濁流。バウアーを飲み込み縛る脅威の魔曲。 当然ながらバウアーも洗脳一般人を引き連れて反撃に出る。手が、対戦車スコップが。振り上げられる。わらわらと。四方八方。人の海。 バウアーの爪が、アンジェリカの顔を引っ掻いた。一直線の赤い線が少女の白い頬に咲き、そこから真っ赤な色が滴り落ちる。 「っ……」 少女を抑え込む様に伸ばされた一般人の数多の手を革醒者の膂力で振り払い、アンジェリカはLa regina infernale――『地獄の女王』の名を冠する巨大な鎌を天に掲げて。 ごめんなさい。 心の中で一つの謝罪。蝙蝠の羽根を模した刃に彫られた冥界の女王、プロセルビナが赤い輝きを帯びてゆく――込める祈りはノーフェイスの幸福な転生。放つ紅光は滅びを謳う不吉の月。 満ちる赤。それはバウアーを、そして、中継車を護る様に立ちはだかった一般人をも粉砕して。飛び散る血肉。生臭い。鉄の臭い。けれど、アンジェリカはその中で異変を察知したのだ。嗅覚で聴覚で。不味い。目を剥いた。同時に。 「気を付けてオーウェンさん、親衛隊に気付かれてる……!」 それは、そんな声を送った直後だった。 僅かに時を遡る。 事前付与を行えば、その時間だけ洗脳された一般人が増える。けれど作戦をより完璧に進める為だ。 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は地下を物質透過によって進んでいた。その狙いは、奇襲。作戦としては彼は地下から、『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)が上空から、中継車を襲う。 そして、目前、といった時。声。アンジェリカの。気を付けろと。地面からオーウェンが飛び出た瞬間だった。 「Guten Abend!」 同じ様に、影から飛び出したのは――親衛隊、ゾルタン・コロンコ。親衛隊は気付いていた。その中でも『夜戦を得意とする』彼等が、索敵能力を持っていない筈がない。リベリスタの様に、非戦的技能を持っているのだ。 「――!」 ゾルタンが突き出す告死を刻んだナイフがオーウェンの腹部に深く深く突き刺さる。激痛と、暗転と。けれどオーウェンは悲鳴を奥歯の間に噛み殺し、その手に神秘の閃光弾を作り出し。 爆ぜた光。 それは奇襲の合図。 「くそっ……!」 けれど、けれど、嗚呼。正太郎は『そこ』に辿り着けていない。アリステアが翼の加護を行ったのは『事前』ではない、戦闘開始の『一手目』だ。どうしようもない。事前行動が、出来なかった。歯噛みする。 それは致命的な作戦祖語だった。 「それでも……やるしかねぇだろうがッ!」 どんな泥沼道であろうと。それが信じた道ならば。一歩たりとも引くものか。これ以上被害を出してなるものか。ワラワラ、寄って来るバウアーへ怒涛の暴力を叩き込む。獅子奮迅。そんな少年に延ばされる手。攻撃的な手。一般人のものであり、ノーフェイスのものであり。 ただでさえ時間との戦いだった。 フォーチュナの予言通り、時間が増えれば怪電波に洗脳された一般人は増えてゆく。そして『電波』は、強結界では防げないのだ。更にその中から数は少ないとはいえノーフェイスとなってしまう者も現れる。 その中で、時間を代価にしての奇襲の失敗はリベリスタにとって痛打の他に無く。 否応なく、リベリスタ達に突き付けられたのは『苦戦』であった。 じわじわじりじり、バウアーはリベリスタを削ってゆく。 一般人に一切手を加えない――それは優しさ故の代価。確かに一般人の被害は最低限だ。けれど、増えて行く。そして、親衛隊の電波によって脳を支配された彼等にとって、リベリスタは敵で。邪魔をする。直接的被害を出す事など出来ないが、射線を塞いだり中継車を護る肉の壁となったり。 確かにバウアーもその数を減らしていた。だが、僅かずつだが次から次へ。あの中継車がある限り。そしてその中継車の破壊は絶望的に滞っており。 それでも、そうだろうが、やるっきゃないのだ。諦める訳にはいかないのだ。 「趣味の悪い車じゃな……スクラップにしてやるのじゃ!」 レイラインは目標を目の前のバウアーから中継車へと切り替えた。ぐっ、としゃがみ強く地を蹴って。跳んだ。飛んだ。空中武舞。唄う万華鏡。一度目は車を庇う一般人を粉砕し、二度目は露わになった中継車を打ち据えて。 最中にレイラインは見る。完全孤立状態のオーウェンが酷い手傷を負いながらも戦っている姿を。歯噛みする。その目は見えていないのか。既に運命も燃やしているのか。親衛隊達に取り囲まれて。『死んだふり』作戦の発動の暇すら無い程に。 「ねばるなぁ、劣等!」 「諦めが悪いタチでね」 それでもオーウェンは齧り付く。持てる力――筋力知力精神力速力諸々のありとあらゆる全てを用いて。思考を止めれば、諦めれば、全てはそれでゲームオーバー。『奇跡とは、理を極めたその先に作り出される現象である』と信じるが故に。 背中を、腕を、足を、腹を、親衛隊の攻撃が貫く。血液。赤い。血。痛み。クラリと。それでも。踏み止まって。視えぬ目で睨ね付ける。血だらけになりながら。血溜まりを作りながら。 そんな彼を、大切な仲間を、黙って見ている事など、レイラインには出来なかった。 「右斜め前……三歩じゃ!」 跳躍で戻る最中の大声。反応したオーウェンが同時に掌を突き出し、鋭い気糸を周囲に放った。直撃こそしなかったが、それはゾルタンの蟀谷を浅く裂いて。同時にレナーテの放つ聖神の息吹が彼を包み、その目に光を取り戻させる。 不敵に、笑った。 「……さて。どの様なトリックが見たいかね?」 窮地にあると言うのにそれを全く思わせぬ振る舞いはいっそ不気味なほどで。その外套の悉くを、白い肌を、赤く赤く染めた男は炸裂脚甲「LaplaseRage」を吹かし、親衛隊へ中継車へ攻撃を繰り出す。何度でも。その意識が途絶えるまで。 「あんたら軍人なら尚更普通の人巻き込んでんじゃないわよ!」 癒しの呪文を何度も唱えつ、レナーテは声を張り上げる。直後に延ばされる一般人の手。石杖で振り払い、戦場に吹かせる聖なる息吹。1秒でも早く。少しでも早く、戦いを終わらせなければ。それこそが、『最善』であると――一人でも多く救えると、思っているが故に。 赤い光が交差する。 それはアンジェリカのものであり、ゾルタンのものであり。 「うぅ……!」 視界を奪われ、アンジェリカは顔を顰める。真っ暗だ。音とにおいが、周りに蠢く発狂人間達の存在を伝えているが。 『右から攻撃が来るぞ、飛び下がれ!』 刹那、脳に響いた声。それに従い飛び下がる。それは正太郎のテレパスだった。そのほぼ直後に飛びゆく弾丸がノーフェイスを貫き、牽制する。 「援護は任せろ、往け!」 バウアーの攻撃に酷く攻撃され、血だらけの剛は声を張り上げる。運命を散らし、銃声と共に。 アンジェリカはしっかと頷いた。 「ボクが傷ついたって構わない。これ以上誰かを操らせない、誰かを傷つけさせない! お前達の思い通りになんて、決してさせない!」 破壊する。何があっても。前に出る。行く手を阻む一般人を押し退け、立ち塞がるバウアーに月光を放ち。 中継車は少しずつ、少しずつ傷付いていた。庇う一般人は悉く薙ぎ払われ、その間隙にレイラインのソードエアリアルが。アンジェリカのバッドムーンフォークロアが。ウェスティアの葬操曲・黒が。剛のハニーコムガトリングが。また庇いに一般人が出ようとも、それを吹き飛ばして。 少しずつ。少しずつ。 流石に親衛隊も狙いが中継車であると理解したか。親衛隊からの集中攻撃に遂に倒れたオーウェンにトドメを刺す事は諦め、彼等は車に乗り込んだ――親衛隊の目的は『リベリスタを倒す事』ではない。あくまでも、手駒を増やす事。リベリスタは中継車破壊を最も望み、親衛隊は中継車を破壊されない事を第一としている。 「! 逃がすかえ!!」 飛び出すレイライン。だが、車を護る様に立つのはバウアー。邪魔だ、薙ぎ払う一撃。ゴキン、と歌聖万華鏡がバウアーの首を砕く。 「止まれ……!」 剛も有りっ丈の弾丸を十二式魔力小銃より撃ち放つ。空を裂き、それは中継車の窓に罅を入れ、サイドミラーを砕き、車体に凹みを作り。だが、まだ、止まらない。 「……何処にいるの?」 最中。暗い視界で、ウェスティアは問うた。詠唱の傍ら、魔道書から光を溢れさせ。 「大体の場所で良い! 教えて!」 『11時の方向!』 同時に正太郎のテレパス。理解した。刹那。ウェスティアが掌を突き出して――現れるのは巨大な魔法陣。 「喰らえぇええええっ!」 閃光。 次いで轟いたのは雷鳴。 それは光りの嵐とも形容すべき光景だった。暴竜の如き凄まじい雷霆が、手当たり次第を飲み尽くす。 視力を失い精度こそ非常に落ちているとはいえ、一般人が躱す事など出来ず。焼き尽くし、灰すら残さず。 硝煙、肉の焼ける臭い。 けれど――その彼方で、酷くボロボロになりながらも中継車は速度を上げていた。 「!!」 手を伸ばす。けれど。駄目だ。もう。追い付けない。中継車を護ったり射線を塞いできた一般人の存在が無ければ、また結果は違ってきたのかもしれない。非情を選んだリベリスタ達が一般人を薙ぎ払っていれば、もしかしたら。だが、もう、その一般人が増える事は無い。さっきまであんなにいた一般人も、先のウェスティアの魔術で大多数が焼き払われて。 戦場に残ったのは少数の一般人と、10体弱ほどのバウアー達。 「……っ」 アリステアは歯噛みした。血の味を覚える程に。悔しかった。どうしようもない程に。 そして。まだ、仕事は残っている。やるべき事が。焦点の定まらぬ目で、バウアー達がリベリスタを見詰めている。 そうだ。悲しいも泣きたいも辛いも、全部全部後で良い。今は。今は。だから。故に。 「わたしは……何度でも祈るよ」 アリステアは祈りを捧げるように両手を組んで。ふわり――いつだって彼女を動かすものは、『尽きることのないただ一つの想い』だ。『皆で一緒に帰る』為。戦う事は怖いけれど。そうせねばならぬのであれば、厭うものか。前を向け。歌い続けろ。祈り続けろ。護り続けろ。癒し続けろ。それが自分の役目だから。 事実、作戦が失敗したと言うのにリベリスタ達の被害が極僅かであったのは偏にアリステアとレナーテのお陰であった。高い防衛能力を誇るアリステアは倒れる事なく詠唱を響かせ続け、レナーテは二回行動によって脅威的なまでの治癒防衛を展開している。 守りたいと思ったものを守るだけ。レナーテはバウアーが振り下ろした対戦車スコップを魔法杖碧で受け止める。拮抗。ぎりぎり。奥歯を噛み締め。されど、詠唱。零の距離で構築した魔法陣。 「……退いて。邪魔」 静かな言葉の刹那、撃ち放たれる魔法の矢。眼前からのヘッドショット。ぐら、とバウアーの力が抜けた瞬間に蹴り飛ばす。飛び下がる。睨ね付ける。 親衛隊の指示が無くなったバウアーはただ目の前のリベリスタを攻撃する存在と成り果てていた。ならば、一般人も――そう思い、正太郎は肩を弾ませながら周囲を見渡した。 「避難してくれ! ここは危険だ!」 少年は何処までも優しかった。何処までも正義を信じていた。故に、一般人が危険に晒される事なんて嫌だった。 でも――現実は、どこまでも、少年には厳しくて。 「……」 言葉に形容し難い呻き声を漏らす彼等が、理性を取り戻す事は無い。ゆらりゆらり、胡乱な足取りで。不気味な眼差しで。 血が滲む程、少年は拳を握り締める。悔しかった。悔しくて悔しくて、堪らなかった。その背後から、ゆらり。バウアーが腕を振り上げて―― 「……あぁあああああ!!」 振り返ると同時に正太郎が繰り出す右ストレート。真っ直ぐ言ってブッ飛ばす。無頼の拳をバウアーの――元はただの人間だった者の顔面に。 「あと少しだ……最後まできっちり片付けるぞ」 剛はフーッと呼吸を整え、銃を向ける。引き金を引く。降り注ぐ弾丸の雨。皮肉にも、射線を塞ぐ一般人がほとんど姿を消した今、凄まじく威力を発揮する。バウアー達を襲撃する。 戦場を駆ける弾丸。戦場を駆ける猫。文字通り『弾丸の様な速度』で、レイラインはバウアーに肉薄する。 「もう……眠るのじゃ」 許せと幾ら言おうとも、どうしようもないのだろう。そんな事はもう、分かっている。だから。今は。戦おう。戦う他に無い。ひゅ、と歌聖万華鏡が空を撫でれば、躍る残像が血の花を咲かせる。百花繚乱。返り血が、猫の横顔に紅を差した。艶やかに。何処か、物悲しげに。彼岸花と同じ色。 残り僅かのバウアー。それに、ウェスティアは掌を向けて。魔法陣を構築して。その血を代価に。生み出した黒い鎖はその名前通り、敵を『葬』り『黒』くする。 黒。次いで、戦場を塗りつぶしたのは、紅。 輝く冥府の女王。死と再生の象徴。刈り取った魂の幸福な転生を願って。 「――、」 アンジェリカは放った光と同じ色の目で、戦場を見渡した。 もう、そこにノーフェイスは居ない。天を仰ぐ。目を閉じて。武器を持った手をだらんと下ろして。歌い奏でるは鎮魂歌。消えた命の、その為に。 今はただ――そうする事しか、出来なかった。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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