● ザッザザザッザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザざざざざざざざざざ。 「ってな感じで作戦の方は続行中だ。合理的でヤらしくて恰好良いだろう?」 「使い棄てても此方に痛みがない武装は確かに便利だわ。……で、今回は何をするの?」 「何って? ああ、ドライブさ。車は好きかい?」 「無目的に彷徨うのは嫌いよ。――あくまで『無目的に』だけど」 「おいおい、俺が大事な『ダチ』に意味もねえこと頼むかよ」 「あら、ありがとう。その辺は信頼してるわ。私は戦力として必要?」 「そうだなあ。お前さんには『さっき言った所』に向かって貰いたい。信頼してるからこそ、さ。任せても?」 「Ja.この間の損失の補填と再編成に手間取ったせいで例の公園には向かえなかったから、働くとするわ」 「期待してるぜ、ベンヤミン。いつもありがとさん。……でさあ、アルトマイヤー少尉見なかった?」 「……いつも思うのだけれど、専用の通信回線でも常時持っておけば?」 ザッザザザッザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザざざざざざざざざざ。 「……で、ベンヤミン曹長は?」 「お留守番。ってのは冗談だがね、『コレ』絡みでブレーメ曹長から回ってきた別の確認があるらしい」 経緯を聞き終わり、首を傾げた兵士に向けてエーミールは笑った。 大き目のワンボックスカー。細々とした機材は乗っているものの、それに注意を払う者は皆無だ。 乗っているのが明らかにアジア系から離れた顔立ちの人間である、という点だけは気を引いたかも知れないけれど、そもそも、『注意を向けられる』状態の者が少なかったとも言えよう。 「……おい? どうしたんだよ」 「誰かちょっと救急車――」 「何、熱中症?」 「う、あ……」 「ああ……」 信号待ちの交差点。小さいとは言え、昼のアーケードはそれなりに賑わい……だが、唐突に異常を訴える人々が現れた事でざわめきが広がって行く。 信号が青になる。ワンボックスカーは動かない。後ろで響くクラクション。一回、二回、三回。 早く発信しろ、というそのサインが止まったのを確認して、エーミールは手を前に向けた。 ゆっくりと、ワンボックスカーが発進していく。だが、急かしていた後ろの車は動かない。 一台後ろが、悠々と追い越して後に続いた。 「まずはこの辺を何周か、だな。曹長に土産を持って帰れると良いんだが」 「この調子だとすぐだと思いますよ」 焦点の定まらない人々に呼びかける声が、少しだけ遠くなった。 取り付けられたスピーカーから、微かなノイズが流れ続けている。 ザッザザザッザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザざざざざざざざざざ。 ● 「はい、急ぎです。皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンが手早く説明させて頂きますね、一言で言えば『親衛隊』です」 今、アークに置いてはたった一つの集団を指し示す単語を口にして、『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は肩を竦めた。 「彼らはとある繁華街のアーケード付近をドライブ予定です。公園襲撃前に数件、親衛隊がノーフェイスや一般人を操っている事例がありましたがそれに関連しています。……どうやら連中が使っていたのは電波ですね」 映し出されるワンボックスカー。 「この車が電波中継車となって、付近にその電波を増幅して流している様子です。これを壊さない事には連中の『手駒』と『被害者』を延々と増やす事になってしまう」 神秘の産物。革醒者には影響はないが、耐性のない一般人の精神は掻き乱され書き換えられ自己を破壊し傀儡と化す。 勿論、戦況を簡単に覆せる程の強力な兵士とはならない。 あくまでも使い捨てであり、アークの戦力ゲージをミリ単位で減らすような地味な積み重ねだ。 「皆さんに行って貰いたいのは中継車の破壊と、既に革醒してしまったノーフェイスの討伐となります。……洗脳下に置かれた一般人に関しては、殺せとは言いませんが、……皆さんが傷付くようならば、無理に救う必要性はありません」 所詮、使い捨て。親衛隊にとっては死のうが生き延びようが、さして差などない。 むしろ救おうとしてアークが痛むのならば手を叩いて喜ぶ場面だろう。 「元凶となっている電波の発生源は現在捜索中です。まずはこの中継車を破壊し、これ以上の被害を防いで下さい。……どうかお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月22日(月)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 未だ太陽も高い時間、降り注ぐのは陽光に加え神秘のノイズ。 大まかな地理を把握した『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の耳は、そのささやかな音を捉えていた。アーケードに存在する人々の大半は、様子のおかしい者を介抱したり遠巻きに見守ったりしていて、駆けるリベリスタに注意を払う余裕はないようだ。 「あっちの道路の車、何台か動いてないな。音は?」 「ああ。あちらから聞こえる」 隣で問うた『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)に答え、『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)と共にこの場から離れるようにと言葉をかけながら、龍治の意識は小さなノイズに集中している。 人々が多く集まり、業務用にも見える車が存在しても違和感を覚えられない場所。確かにアーケード街は、その条件に適しているだろう。だからと言って、褒めてやる訳ではないが。 「第三次世界大戦ね……私には頭のおかしい愉快犯にしか思えないけど?」 ウーニャが小さく眉を寄せた。それを引き起こすという発想自体が前世紀の遺物にしか思えない。例え今も遠く離れた地球の何処かでは銃弾と命が軽く飛び交っているとしても……世界を巻き込んだ戦争を起こしたいなんて、馬鹿げてる。理解できない。結局それに尽きる。 「何が目的だろうが、どこの勢力もやる事は大して変わらんな」 目の焦点の合わぬままぼんやりと立つ人に一瞥をくれ、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は肩を竦めた。神秘に対し耐性を持たない一般人を洗脳する。無差別に革醒させ戦力として使用する。それは『親衛隊』に限らず、決して目新しい手段ではない。 彼らにとっては、それが有用であるからやるのだろう。リベリスタには行えない、使い捨ての数の暴力。 「世界中でこんなことばっかりやってるなら、呆れたもんだわ」 自分に一切注意を向けなくなった母に泣き喚く子の声を聞いて、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は顔を顰めた。先にこの国に来た歪夜……楽団によって奪われたのも、無力な人々の命だった。やり口は異なれど、一般人の命を歯牙にもかけないという点は何も変わらない。 車だ。北と南に真っ直ぐ伸びるアーケードを、丁度中央で分ける細い道路。 そこから飛び出して来たのは武器を構えた親衛隊。彼らは戦闘のプロである。敵の接近に気付かぬはずがない。 そんな彼らと、前に飛び出して来たノーフェイスの先に目標である中継車を発見し、踏み込んだ『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)はぱちりと雷光を弾けさせた。微細な電気信号が、全身の筋肉の制御を可能にする。速く、より速く。その信念は己のものであれ――この力は仲間と共に歩む為に。 「天風さん、左に行きます」 「はい!」 彼は、この戦場の誰よりも速い。だが、それよりやや遅れた『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の速さもまた並みの革醒者では追いつけなかった。青い風に呼びかけたアルフォンソは、白い手で生み出した無数の閃光弾を投げ付け一斉に破裂させる。 「善人を気取る気はないがね――」 その眩い光に目を細めながら、鉅が呼び出すのは赤い月。一般人には当たらぬように、ざっと視線を走らせながら、親衛隊の駒と成り果てた人々へと不吉を告げる。絶対に殺さぬ、とは言うつもりはないが、この場の親衛隊を攻略するのに形振り構わず戦っている、という必死な姿を見せるのは癪だ。 そんな彼らの元に、答えるように降り注ぐ閃光弾。親衛隊のレイザータクトが放ったフラッシュバンの余韻も消えぬ内に、飛来したのは無数の弾丸。アーケードの床を穿ち、数多の穴を開けていく。 自身の手前で弾けた床を見ながら、アンナは両手を上に掲げる。放たれたのは、意志を秘めた聖なる光。命中が幾分か落ちたとして、一般人には避けようのない神秘。それは半径20mを一気に薙いで、焦点の合わぬ人々を、それを支えていた人々の身を打った。 殺さずの光は、けれど命を奪わぬだけで無痛ではない。不幸にも意識までは失えなかった人々の呻き声が場に満ちる。理不尽な暴力に呻く声を聞きながら、アンナはその青い目で望まれぬ異邦人を睨み付けた。 「……よりにもよって、私に普通の人達を撃たせたわね。アンタ達」 戦争、殺戮、命のやり取り。アンナはそんな話聞きたくない。ただでさえ世の中には悲劇が溢れ返っていてアンナの手には負えないのに、この上更に余計な真似を。けれど殺したくないと願う少女の言葉を丸きり気にした風もなく、エーミールは軽い調子で呟いた。 「なるほど。こないだより遠慮がないな」 後ろに控える親衛隊までは、まだ届かぬか。だがそれでも構わない。まずはノーフェイスの処理が最優先。上空に銃口を向けた龍治は、引き金を引く。威嚇射撃などと言うつもりはない。発砲音から間をおかず、降り注ぐのは大軍を一撃で滅した矢の名を冠する炎。アーケードに、火柱が幾つも立った。 「アルフォンソさん、正面から来るのです!」 火柱の一つ――バウアーが仲間の元に駆けてくるのを見留め、『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479) が声をかける。同時に、火柱が爆ぜて無数の欠片となって飛び散った。 アルフォンソは直撃を避けたものの床は抉れ、近くに倒れていた人は体の一部を残すだけになっている。次いで飛来した覇界闘士の虚空が、同様に直線状にいた人を薙いだのを見てシィンはぎゅっと、眉間にしわを寄せた。 バウアーの援護に手を割く気はないのだろう。進み出たクロスイージス二人が放つのは、十字の加護と己を防御に特化させるパーフェクトガード。 距離をつめた木蓮が、最前に立つ亘へと一瞬気遣う目線を向け、けれどすぐに中継車へと視線を戻した。 「よう、俺様は草臥木蓮っていうぜ。今日はその車を壊しに来たんだ」 「ほう?」 「ノイズがすげぇ煩いんだよ。こないだ落としたお前らのヘリも、すげぇ堅くて嫌なヤツだったけどな」 「――なるほどなるほど」 エーミールの青い目が細められ、浮かべたその笑みが嫌な具合に歪む。 「『この車が何なのか』知っている様子だね、お嬢さん」 「!」 それは一つの情報。単に親衛隊の無体を止めに来たのか、元凶を知りそれを破壊しに来たのか。万華鏡で導かれたリベリスタと異なり、彼らはそれを知らない。 直後に飛び出した親衛隊のデュランダルが放つのは、闘気を集中させた暴虐の一撃。直撃を避けた亘は数歩引くのみで済んだが、その狙いが引き離しである事は明らかだ。 だが結局、リベリスタのやる事は変わりない。遠からず相手方にも察される事が少し先になったに過ぎない。 「熱そうですねえ、涼しくしてあげるですよ!」 未だ燃えるバウアーに向け、シィンがフィアキイを放った。きらきらと美しく光る氷精は、舞い踊り氷の風を周囲に吹き荒らす。 「怯懦の閃光、雷神の火よ――紅蓮の月光で燃え上がれ!」 そこに重ねられるのは、ウーニャの月。不吉の月。重ねられた炎と氷に不吉を合わせ――極上の呪いを叩き込んだ。 ほんの十秒で交わされた攻撃は、神秘を知らぬ人々から見れば爆発にも思えたかも知れない。眩い光が何度も弾け、倒れ伏した人々と燃える姿――動ける人々が悲鳴をあげ、一斉に場から離れ始める。それは願った事だ。未だ洗脳されていない人々は、これで多くが戦場から離れる事だろう。 だが、アーケードに広がるノイズばかりは、根源を破壊せねば止まらない。アンナが先程転がした人々も、その影響下から逃れられた訳ではなかった。 アンナの顔が、僅かに歪む。 最初に光で撃ち抜いた、人々の中のその一人。倒れた体は、立ち上がる事が叶わない。 だから、親衛隊の盾となる事はなく、その革醒に意味すら持たされず――ノーフェイスとなった彼女はアーケードの地を掻いた。 ああ、また。殺さねばならない相手が、一人増えた。 ● ほんの僅かな、そして濃密な時間。 アンナの神気閃光が再びアーケードに満ち、一度目で範囲外に漏れた人々を薙ぎ払う。 中継車を狙い速攻を仕掛ける亘は、速度を越えた速度――攻撃からの即時飛行でデュランダルのブロックを振り切った。飛来する銃弾も、彼を落とすには至らない。 次に中継車の傍に降り立った亘に、エーミールは苦笑した。 「やれやれ、曹長がいたらお願いしますって任す所なんだがねぇ」 彼らは一度対峙している。亘の速さも、回避力も、エーミールは身を持って知っている。 羽持ちなのにしぶとい。そう言われたのを思い出し、亘も一つ、笑みを返した。 「自分はこの翼があるから立っていられるんです」 「そりゃあ落としたいもんだね」 「どうぞ、やってみてください。ただ、そちらに限って敵を侮る事はないでしょうが――今は前よりもっとしぶといですよ」 後ろで弾けるのは、顔を半分隠したアルフォンソの閃光弾。亘以外の味方も中継車の傍へと辿り着くように、親衛隊も含めた敵の目を眩ませる。 「今の内に!」 多くが逃げたとは言え、何も知らぬ一般人もこの場は多い。神秘の秘匿を考えれば、早急の対処が求められた。故に、倒れる人々に注意は払えど、必要以上の遠慮はできない。 日中だというのに、月がよく見えた。赤い月が、よく上がる。鉅の呼ぶバッドムーンフォークロアが、中継車も捕らえて禍の月光を振り撒いた。 敵の数は減ってはいるが、親衛隊は未だ全て健在。そして亘がその只中へ飛び込んだ。 レイザータクトがそちらへと注意を向けそうなのに気付き、ウーニャは前へと駆け出した。 「ちょっとみんな、グズグズしてる場合じゃないわよ!? 先に行くからね!」 突破を狙う。そう思わせての全力防御。閃光弾は、ウーニャへと飛んできた。眩みかけた目を、アンナの呼んだ息吹が癒していく。 「個人的な信条で殺しはしないけど。……相応のお返しは受け取って貰うからね!」 味方を支えながら、アンナは親衛隊へ向けて呟いた。辺りの惨状。招いたのは彼ら。 龍治の弾丸が、エーミールを貫いた。撃ち込んだその場所から、氷が広がって軍人の動きを阻害する。 「さて、厄介なのが揃っているが、どれから狙ったものかね」 アンナに龍治、鉅に亘――順に視線を巡らせながら呟いたエーミールに、イージスのブレイクイービルが降り注ぎ氷を溶かした。とは言え龍治の銃口は未だ己を向いたまま。回避も難しい弾速と精度であれば、凍らされて癒してのイタチごっことなるのに気付いたのだろう。 「なあ、どう思うね?」 「自分の頭を狙ったらどうだ。楽に死ねるぞ」 「これは困った、自害する暇があればブチ殺せが我等の上官殿達の指針でね」 空々しい問いに龍治が端的に返せば、エーミールは目線を動かし合図する。 それを受け取ったクロスイージスの号令に従うのは、辛うじて残っていたフェーズ1のバウアー。 浴びた血と肉片を払い落としながら、シィンは口を尖らせる。 「酷い事をしてくれるですね。関係ない人を巻き込んで!」 革醒してしまえば、フェイトを得られない彼らの命運は決定したも同然。革醒せずに済んでも、今の所保護された一般人が洗脳から立ち直ったという話は聞いていない。彼らは本来の生を乱されて、未来を閉ざされて使い捨てられる。 「ひとの事を散々劣等だのどうのこうの罵っていても、そんな貴方達の性根こそが腐って劣って醜いものだと証明しているのです」 「戦争なんてね、汚いもんだよお嬢さん。それにアンタが何かは知らないが――劣等が我等に使って貰えるのだから光栄だろう?」 「シィンさんは日本人なのです! 亡霊は墓場にぶち込んであげますよ!」 再び、フィアキィが氷精へとその性質を変貌させる。故国を日本と定めた異界の少女は、最大限の力を持ってフィアキィのダンスを援護した。 「気をつけろよ、亘!」 氷の張る上から、木蓮の銃弾が鋭く刺さる。射手でありながら前に出る彼女は自爆に巻き込まれ、自らのとも他人のとも分からない血に塗れていたが、レンズに飛び散ったそれを拭い確実に中継車に当てていく。 本来ならば、ここで無用な争いをする必要は親衛隊の側にはなかった。 即時撤退に移っても問題はないのだが、それを難しくしているのはアルフォンソの閃光弾や龍治の氷の弾丸、遠方からも彼らを捕らえ得る存在である。 リベリスタの狙いは中継車。そして親衛隊が守りたいのも中継車。 逃亡に移っても追撃が来る危険性を考えると、ある程度は減らしておきたい。その微妙な配分が、親衛隊の、エーミールの足を止めた。 だが、その迷いが、躊躇のないリベリスタよりも判断を鈍らせる。 エーミールの言う『厄介なの』の一人である亘のAuraが、美しい飛沫を散らしながら中継車の横っ腹に穴を開けた。庇いに入ったはずのバウアーは――先程から続く鉅やウーニャの攻撃により、既に沈んでいる。 涼やかな顔のアルフォンソから放たれる、冷徹な殺意。秘めた魔力は視線のままの鋭さで、中継車を貫いた。 「いい所でね、邪魔をするな」 妨害に移ろうとしたレイザータクトに向けて、鉅の気糸が放たれる。縛り上げたそれを振り解くより速く、輝いたのは閃光。好機と見たアンナが踏み込んで放った、神聖なる裁きの光。 光は衝撃となって中継車を打ち、その大きな車体を横に倒す。 目を細めて攻撃に移ろうとしたエーミールに飛んだのは、道化のカード。 「いい腕ね、軍人さん。こんなポーカーは如何?」 悪戯っぽく笑ったウーニャが、魔力のカードを手に囁いた。切り札はメインの敵に。集中を挟んで投げたカードは、違わずエーミールに刺さる。 続く龍治の銃弾に、エーミールは再び苦笑いを浮かべた。 「参ったな。やっぱり上の方々程に上手くは行かん」 クロスイージスの癒しの光。身に注いだ不利益は剥がれても、彼らの守るべき中継車はもう使い物にならない。となれば、後の行動は早かった。 中継車ではなく後ろに控えていた一台の車が、ほぼノーマークであったデュランダルの手によって発進する。 倒れたクロスイージスを抱えた覇界闘士が、大きな傷を負ったレイザータクトが車に乗り込んだ。 リベリスタの追撃を牽制するようにWeissdornを構えながら、エーミールが手を振る。 「道具を増やしに来て我々が減っては割に合わん。ほらほら急げ、ベンヤミン曹長にご報告しないといかんのだからな」 追おうとする仲間を、アルフォンソが手で留める。 これ以上の戦闘は、周囲に混乱を広げるだけだ。目的は果たしたのであれば、深追いはしない方がいい。 様子に気付き笑ったエーミールの腕をクロスイージスが掴み、後部ドアを開いた車に引き込んだ。 「全く、叱られてしまうな」 そんなぼやきと共に、車が遠ざかる。 残ったのは、倒れた人々と、壊れた中継車。 ノイズは既に止み、何の影響も受けずに済んだ人々は気絶し、或いは半覚醒の状態で倒れている。 が――アンナの神気閃光は、あくまで不殺。戦闘の最中に革醒し、攻撃にも巻き込まれず、自爆命令からも漏れた『幸運な』バウアーは、未だに地面に倒れていた。 既に動けない、動く事は叶わない。地面を掻いて唸るだけの存在。 それでも彼らは、生きる事を許されない。 これを予想して、わざと残していったのか。いや、違うだろう。そこまでの余裕はなかったに違いない。これは嫌がらせですらない。本当に、彼らはこの国の人々などどうでもいいのだ。 近寄って、構えた。抵抗すら叶わない彼らも全て殺さねばならない。 焦点の合わぬ瞳に意思はない。意志は見えない。 そこに秘めていたはずの思い出や夢も、全部全部乱され壊され喪った。 赤が散る。 犠牲は、最小限で済んだはずなのに――亡霊が招いた陽光の下の光景は、目を覆いたくなる程に凄惨だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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