● ひとめでいいからお会いしたいと思っていたの。 願い叶ったのか、迷い込んだこの世界は、あなたの戦う世界…… だというのに。 あなたはどこにもいらっしゃらない。 帰り道は見つからない。 身を隠すのもそろそろ限界でしょうか。 ああ、ひとめ、お会いしたいの。 いとしのアークマン様に。 ● 「バグホールから迷いこんできたアザーバイドなんだけど、もう元の世界への道はとじてしまった」 淡々と告げる『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の示す先に映る映像。 それは――なんというか、特撮怪獣的なフォルム。 真っ赤なとさかを挟むネズミの耳、らんらんと光るトカゲの目。 ネコに似た手足と犬のようなしっぽをびっしりと覆うのは、あれは鱗か? 「このアザーバイド、何かを探しているみたいにも見える。 今のところ山奥に隠れているようなんだけど、夜にはお祭りが行われている神社の境内まで姿を表すわ。 お面をしばらくじーっと見た後に、この、アークレッドのお面をひっぺがす。 その後金魚すくいを始める。生魚が好物みたい」 字面だけ見れば、ああなんて牧歌的。 「大きな実害はないけど、アザーバイドはアザーバイド。 崩界を進ませるわけにはいかない。倒してきて。 ――あと、おみやげはわたあめでお願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月18日(月)21:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ドゥフフフフ……!!」 山の奥、こだまするのは高笑い。 「貴様ぁ!素晴らしい鱗であるな。是非とも我が大帝国の捨て駒として利用してやろう。 フハハ遠慮するでない。さあエリザ、このものの足を持て! 担いで我が帝国へ拉致してやるのだ。有り難く思え。ドゥフフ…!」 バッファローのような角を付け、煌びやかなマント、ゴテゴテした鎧に巨大な鉄槌。 ノリノリの『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)――改め、バロックナイツ帝国の大幹部シズカ・サクラコージは、どこからどう見ても(意図通りの)悪役である。 おびえてしっぽをお腹に巻き込んだアザーバイドは、いやぁん、わたしをどうするつもりなの! とか言いたげな、怯えきったうるんだ瞳でシズカ・サクラコージを見つめている、ような気がする。トカゲの表情はよくわからないけど多分きっとそう。 「帝国に連れ帰ったものの運命は……? 知りたいか? ドゥフフ…… それはなあ、人体改造と洗脳を施した上我の忠実な僕として未来永劫働かせてやるのだッ!! そしてこの世界をバロックナイツ帝国の手中におさめるのであるぞ!!」 マントを翻し、高らかにそう宣言するシズカ・サクラコージの背景で、カッ! とかまるで雷でも落ちたようなフラッシュが光ったのは、用意された特殊効果だ。 「きゃー! しずりんカッコイイー! こんなにカッコイイ悪魔、他にいないんだから!」 抜群のスタイルを黒いボディコン衣装(悪魔のとんがり尻尾付き)に包み、『炎獄の魔女』エリザ・レヴィナス(BNE002305)はくねくねと大げさな身振り手振りでしずりん(笑)への賛美を示し、アザーバイドを悪の道に勧誘する。 「この人についてきたらちょー幸せよ! 生魚も食べ放題なんだから!」 「きゃはは! お姉ちゃんも一緒に行こうよ! 悪の王国楽しいよ! アイスもお菓子も食べ放題! 学校も宿題も無いんだよ!」 原色で作られた派手な衣装とそれに合わせたカラフルなウィッグに、銀地に黒のラインが走るヴェネチアンマスクをつけて甘い言葉をかけるのは、『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(BNE001008)。 きゅぅう、と困った声を上げて、アザーバイドはおろおろと周囲を見回す。 この世界はあの方がいらした世界で間違いはないのだろうけれど。 どうしよう、あの方にはお会い出来そうにないのに、悪い方はいらしただなんて。 爬虫類に似た瞳からぽろりと大粒の涙をこぼし、彼女は悲鳴をあげる。 「ぴぎりゅー!!」 ――どうか助けて、アークレッド様! ● 「待て!」 制止の声とともに、がさり、と木の枝を揺らす音がして悪の幹部(笑)たちは周囲を見回す。 「ドゥフフフ……何者だ、我らの邪魔をするのは」 シズカ・サクラコージの上げる誰何の声に答えたのは、彼らの頭上の枝から飛び降りた赤い影。 「私はアークレッド。貴様達の好きにはさせない!」 びし! とポーズを決めて名乗りを上げたアークレッド――の、スーツ。着ているのは『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)である。 「あー! レッド! あんたのせいで、しずりんこの間たんこぶできちゃったんだから!」 「え、たんこぶ? あ、ああその通りなのであるぞ!」 女幹部エリザのアドリブに、思わず素が出そうになった静は慌ててドゥフフと取り繕う。 「しずりん、あんなヤツやっつけちゃおうよ! ぎったぎたのめっちゃめちゃよー!」 「うむ、よーし行け、ピエロ怪人!」 素早い動きでレッドを(打ち合わせ通りに)翻弄するピエロ怪人。 「キャハハハ! 俺の速さについてこれるかな?」 「たぁっ!」 「わああああ!? 憶えてろアークレッド! 悪の絶えたことは無いんだよ!」 「我が宿敵アークレッド! 今日こそ日頃の恨みを晴らすべく……」 「とうっ!」 「ギィヤァァァァァ!?」 「し、しずりーーーん! レッド、覚えてなさいよー!」 瞬く間に怪人と幹部を吹き飛ばす、レッド。それを見て、エリザも大急ぎで逃げていく。 「ぴぎょろ……?(アークレッド、様……?)」 「お嬢さん、お怪我はありませんか?」 それはまるで、運命の出逢い。 ● 「ああ、お祭りがあるようですね。行ってみますか?」 山を降りる道中、滑りそうな石の段を降りる彼女(?)に手を貸して、アークレッドが問いかける。 「ぴるるる?(お祭り?)」 首を傾げるアザーバイドに、マスクで表情が見えないのは承知の上で、疾風は微笑みを向ける。 「とても楽しいですよ、きっと」 きっと。せめて、今だけでも。 屋台も人も、まばらながらも確かにあって。 不思議そうな表情(多分)で、彼女はぐるりとあたりを見回す。 屋台の売り子も通りすがる客も、誰一人このふたり連れを不審に思わないのは、アークのスタッフまで動員して小規模でもそれっぽく見せるよう努力した賜である。 魚のつかみ取り屋台では、屋台のお姉ちゃん仕様のエリザがにっこりと笑いかける。 鼻が良いアザーバイドをごまかすために、香水も使っているほどの念の入れよう。 「いらっしゃーい。とれたてピチピチの生魚はいかがかしら?」 目をキラキラ(多分)させてのっしのっしと魚つかみ取りに向かうアザーバイド。 ああほらつかみどりって言ってるじゃないの。 お腹へってるのは分かるけど顔ごと突っ込んでむさぼろうとしちゃいけませんお行儀悪いですよ? 「林檎飴、お一つどうですか?」 そう言って二人に林檎飴を差し出した雪白 万葉(BNE000195)もいつものスーツ姿ではなく、屋台のにーちゃんルック(アーク貸与品)である。 「ぴぎゃ?」 「これはホラ、こうやって食べるんですよ」 食べ方のお手本を見せるアークレッドを、首をかしげて見た後に、恐る恐る見よう見まねで林檎をかじる彼女。夢中で食べきったまま割り箸までがじがじして、味がない、と寂しそうな表情(多分)。 「はい!お姉ちゃん可愛いからサービスだよ!レッドさんもすみに置けないね!」 「もっもんが♪」 そんなしょげかえりも、大きなチョコバナナを渡され、鼻歌を歌う店員――演じているのは『ライアーディーヴァ』襲 ティト(BNE001913)である――にわたあめを渡され。 「お嬢さんにはこのお面をあげよう。アークレッドのだよ、ドゥフフ」 「ぴゅ!? ぴびゅー♪」 まだ悪役笑いが抜けきらない店員にもらったお面を、鱗の生えたネコの手でぎゅうと抱きしめる。 ――ああ、まるで夢のよう。 彼女の表情はトカゲにも似て、人間にはほとんどわからない。 それでも尻尾の揺れかたは犬に似て、ぱたぱたと左右に揺れている。 トサカを揺らし、空を見上げ、ぴぎょおと一声鳴いた後、彼女(?)はアークレッドを見た。 ――その表情は確かに幸福を示していた、と、あとになって疾風は思う。 だがしかし、幸せな時間は、必ずいつか終わりを告げる。 「――離れて!」 アークレッドがアザーバイドの背を押して、突き飛ばす。 その足元の土に、魔力の矢が刺さった。 「レッド、君は一体なんと一緒にいるんだ」 じゃり、と土を踏みしめその場に現れたのは、アークマンの他の4人であった。 ● 「――レッドよ、何をしている。敵に操られているのか?」 アークブラックを演じているのは、『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)である。美散は、その称号はともかくとして本心ではこの害意のないアザーバイドにはやり辛さを感じているのだが――今は非常な現実主義者のマスクを文字通りかぶり、うけた指導のままに冷酷な声を心がけている。 「何故そんなキメラと一緒に? たぶらかされでもしましたか?」 今度はアークグリーンの衣装を身につけた万葉。彼もまた香水を使い別人のふりをしている。 「上は既に動いているお」 その後ろからティト演じるアークピンクと、『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)の演じるアークイエローも姿を見せる。 「……ぴょ?(……いるお?)」 その、元の設定には明らかにない謎の語尾に首を傾げるアザーバイドに、イエローが口上を述べる。 「わたくしの実力、とくと御覧なさい!」 構えた拳に、ぼっ、と音を立てて炎が絡みつく。 「燃え尽き、なさいっ!」 気合たっぷり、派手に殴りかかるイエローの業炎撃がアザーバイドを捉えた。 「ぴぎぉ!」 「そ、そんな……! わたくしの必殺技が効かない!?」 苦痛に声を上げるアザーバイドに、イエローはしかし、衝撃を受けた表情で後ずさる。 ――彩花の、ショーアップ的な演技である。 悲痛な声を上げる彼女をかばうように前に立ち、レッドは叫んだ。 「やめろ! どうしてこんなことを!?」 「私たちの使命を忘れたんですか?」 「キメラの存在は世界には害でしかない、司令は村ごと焼き払う気でいるよん。 それを防ぐ為にあたし達は来た」 やれやれ、と首を振るグリーンと、レッドを諌めるような口調で説明するピンク。 レッドの後ろで、トカゲのような目が大きく見開かれる。 「ぴぎゅ、ご……? ぴぎょう!?(村を焼く……? まさか、わたしのせいで!?)」 「お嬢さん!」 「レッド……何時かは倒さないといけない相手。情が移っても辛いだけですよ?」 顔を覆って苦悩するアザーバイドの肩を抱いて、レッドは声をかける。そこに、ブラックの言葉がダメ押しを演出する。 「ぴぐぉう……!(なんてこと……!)」 「最初から小を見捨てるのと結果的にそうなるとでは意味が違う!」 レッドが声を荒げ、流れるような構えを取る。 他のアークマンたちは、レッドが覚悟を決めたことを悟り各々の武器を握る。 「抗う力さえもない人々を護る為に、この力はあるんだ!」 それは、レッドの――否、疾風の心からの叫び。 ● グリーンと演舞のような組合を見せ、そこに振りかぶられたブラックの鉄槌をレッドが高く飛んで躱す。避けられた勢いで背後の木を抉り倒した鉄槌を、ブラックは再び振り上げて構えて狙いをつける。 その横手からイエローが切り裂くような脚技を放ち何故かむやみに慌てたレッドが飛び込み前転気味に回避してみせ――ブラックこと美散は、そっとイエローこと彩花に耳打ちする。 「お前さん、レッドのことも巻き込む気か?」 「特撮にプロレス的演出はとても重要ですわ。 なにより、中途半端に手を抜いては怪しまれる切っ掛けになりかねませんもの」 「まあ、確かにな――」 美散はそう言い納得した声を出し、ブラックのマスクの裏で口の端を上げると、元より鋭い眼光をさら鋭く光らせる。ピンクの放つマジックアローは、レッドの足元に着弾しているのだが、その魔術としての本来の威力よりはるかに派手な爆発を上げて着弾した。 「静さん、次の発破そっち!」 「よっしゃ任せろ!」 「しずりん、そちらは効果音の配線ですわ」 その正体はこのあたりの努力。裏方、頑張ってます。 「はぁっ、はっ……大丈夫ですか?」 アザーバイドをかばうように立つレッドの、その息は荒い。 「ぴぐ……」 心配そうにレッドを見る、アザーバイドの尻尾はぺたりと垂れている。 「諦めなさい、レッド。今ならまだ、見逃すこともできますわ!」 イエローが警告と共に蹴りを放つ。 ――それは、打ち合わせ通り。 「うあっ!」 その蹴りを受けた振りをしたレッドが派手に倒れる。 レッドを狙ったように見せかけて、完璧な計算の元放たれたグリーンのスタッフ と、ブラックの全力を込めた一撃とが、レッドに駆け寄ったアザーバイドに向けられた。 エリザは思わず、目を閉じる。 「……俺がしてやれる唯一の情けは一撃で屠ってやる事だけだ」 ブラックの声が、わずかに落ちた沈黙の中に妙に響いた。 「お嬢さん……済まなかった、護る事が出来なくて」 息も絶え絶えのアザーバイドを抱き締め、ヘルメットの中で涙を流すレッド。ヘルメットから漏れた涙の雫を、アザーバイドはそっと撫で、硬い鱗が疾風の肌を擦る。 ――ひとめでいいからお会いしたいと思っていたの。 小さな頃、いつの間にか枕元にあった絵本に描かれていたあなた。 まるで夢のよう――そう、多分これは夢。 空気には圧倒的にデグラソザイロが足らなくて、深呼吸すればアカレヌイドヌが胸を刺す。 迷い込んだはいいけれど、帰り道がないこの世界で、わたしは長く生きることなんてできない。 何よりも、わたしの鼻ははっきりと、何役もこなす役者たちの何人かを、嗅ぎ分けていたから。 ――きっと、村を焼くかわたしを殺すかは、本当に二択だったのでしょう。 「ぴるる……ぅ……」 ありがとう、優しい嘘吐きさんたち。 ● 「戦隊モノか……俺もガキの頃はよく見ていたな」 「悪魔のヒーローでアクマ、アークマ、アークマン。わたくしも何度か観た事はあります」 美散の呟きに、彩花が相づちを打つ。 彼らは、アザーバイドが最期まで大事そうに抱えていたアークレッドの仮面を墓標替わりに、簡単な墓を作ってから戻ってきたのだ。 本物の祭りの音が響く。それを聞いて、美散は遠くを見るように目を細めた。 (テレビの中の強くてカッコイイヒーローに憧れたもんだ。だが、実際に力を得て突き付けられたのは現実のみ。迷子一人送り帰せないで正義の味方とは――) 「夢が叶って少しは幸せだったでしょうか……」 二人と共に歩く万葉が、山を見上げるように振り返り、想いを馳せる。 「現実ってのはどうしようもない程、クソッタレだな」 美散はそう言って、どこか皮肉げに笑った。 浴衣に着替えて、玲は気合を入れ直す。 「よっし!食べるぞ!たこ焼きと焼きそばと林檎飴と綿飴とカルメ焼きとかき氷と……」 「あんまり食べ過ぎると、腹壊すぞ?」 玲はそれを笑って諌める静に笑顔を返し、ふとしんみりした顔を浮かべた。 「同じ世界に生まれてたら、一緒に楽しめたのにな……」 静は玲の髪を、慰めるようにくしゃくしゃと掻き回した。 「さて、マニアックな神事って何だ? とても気になるのだぞドゥフフ!」 自分の手を引いて神社に向かう静を見て、心の底から玲は思う。 (同じ世界に、同じ時に生まれて良かった) 屋台を巡りつつ彩花に頼まれた超特大わたあめを、どうしたらべとつかせず、かつフンワリ感を保ちながら持ち帰ることができるか真剣に悩みながら、疾風は小さく呟く。 「これで良かったのかな?」 ぴぎゅ、という声が聞こえたような気がした。 「送り還して上げたかったのは本当ですよ」 疾風は肌を擦った鱗の感触を思い出して、唇をかみしめた。 「そしてレッドが無事に逃がしたやさしいキメラは、山の奥で、楽しく幸せに暮らしましたとさ」 エリザが語る紙芝居に、子供たちは不思議そうな表情を浮かべる。 「そんな話、あったの?」 「ふふ、これはわたくしが作ったお話よ」 「ふーん? まあいいや。おもしろかったよ、おねえちゃん!」 おやつをもらうと、子供たちはわぁわぁと、屋台へ向かって楽しそうに走っていく。 エリザはそれをまぶしそうに見つめた。 「…ハッピーエンドを信じて未来へ進むのは、子供達だけじゃないわ……」 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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