●目覚めの声 「ではアドラー伍長。宜しく頼むよ。この『Donnergott作戦』は、まさに『雷神』の名に相応しい、広域での作戦になる。その為の、第一歩なのだ」 薄暗い駐車場で、フリードリヒがエルフリーデの肩をぽんと叩く。 そこには、いわゆる中継車と思しき車両が一台停まっていた。 「なぁに。と言っても、重要ではあるが大して難しい任務ではない。この車両で街を往くだけで良いのだ。 私としては、有能な副官が離れているという状況の方に不安を覚えるね」 「了解しました。軍曹殿も、どうかお気をつけください」 「大丈夫だ。君の方こそ、気をつけたまえ。 護衛はつけるが、万一妨害にあった時は適宜対応するように。車両に固執する必要はない」 顔には、いつもの余裕の笑み。だが眼差しには、一抹の不安が見えた。それは副官が戦場を離れ、手薄になる事への不安か。はたまた、何か別のものだろうか。 「お心遣いありがとうございます、軍曹殿。では、いってまいります」 ビッと敬礼をし、くるりと背を向けるエルフリーデ。 氷のように張り付いた表情。しかし、その口元は何かに喜ぶかのように、僅かに綻んでいた。 ●雷神の系譜 「アンタたち! 大変よ、すぐに市街地へ向かって頂戴!」 ブリーフィングルームに飛び込みざま、『艶やかに乱れ咲く野薔薇』ローゼス・丸山(nBNE000266)が声を荒げて言う。 「市街地に孤児院があるんだけど、その脇にある公園に親衛隊が出たわ!」 親衛隊。耳にするのも苦々しい、昨今世を騒がせている集団だ。 「今度は、どんな事態を?」 リベリスタが、重い口調でローゼスに問いただす。 「奴等、電波中継車型アーティファクトなんてモンを引っ張り出して、街をドライブしまくってたの! 分析の結果、その電波の影響で一般人が操られて、場合によっちゃノーフェイス化しちゃったりもするらしいわ! ほんっと陰険でイヤらしい手口よね、こんなの絶対許せないわッ!!」 クネクネと憤るローゼス。だがその怒りは尤もだ。許してはおけない。一同の顔も、怒りと緊張で引き締まる。 「電波自体は、アタシ達革醒者には影響はないわ。 電波が何処から飛んできてるかは調査中だけど、とにかく今は、この電波中継車をブッ壊して! 孤児院の横でも、奴等ったら下品な電波垂れ流してるの! せめて僅かでも、被害を少なくしてあげて」 孤児院の横。となると、被害に遭うのは……。 「小さな子供が、操られるというのか……」 「……敢えて言わせて貰うわ。 電波によって操られてしまった一般人は、今のアタシ達じゃどうすることもできないわよ。 いいわね? ……くれぐれも、無駄な情けはかけないことね」 そういうローゼスの顔も、珍しく曇っていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:恵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月22日(月)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●蠢く夜 小さな街燈が、公園内を無機質な光で照らす。草木も眠るこの時間だが、人が誰もないかと言えば、そうではない。 きっちりした軍服を纏っている男女と、さらにそれを囲むように、様々な格好をした老若男女。まるで寝ているところを飛び起きたかのように、パジャマ姿のままの者も居る。全てが異質と違和感に満ちていた。 「確保しました傀儡とバウアーは、手筈通りそちらに向かうよう指示しました。以後の対応を宜しくお願いします」 『了解しました、エルフリーデ伍長』 その中の一人、まだ若い黒髪の女性が通信機でやりとりをしている。それ自体、こんな公園には不釣合いで、ありえない光景と言えよう。ふと、エルフリーデが何かに気付いたように一言付け加える。 「……また、敵戦力との交戦が予想されます。以上で、定時連絡を終わりとします」 『お気をつけて。ご武運を』 ノイズだけを残し、通信機は沈黙する。同時に、エルフリーデが公園の出入り口を睨んだ。 「……ご機嫌よう。つい先日もお会いしたわね。私としては、これが最期になるととても嬉しいんだけど」 チラつく街燈の明かりが、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の姿を照らし出す。闇が降り立った路地から、光の照らす公園へ。 「貴方達が私達に構わなければ、それで終わりでしょう。邪魔をしないで」 「そうもいかねーよ。お前らが随分せわしなく動いてくれるから、こっちも動くしかねーよな」 「やり口がえげつなさ過ぎて逆に笑えてくるぜ、許せねえよ」 同じく『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)、そして『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)も暗がりから姿を現した。続いて、他の面々もまた、公園内へと布陣する。交わる視線、ぶつかる意志。 「貴方達は……先日も邪魔してくれた方たちね。ならば、このエルフリーデ・アドラーが貴方達の排除をもって、最期とさせてもらうわ」 「ふふっ。そんなに強気なのに、年端もいかない子供すらも自らの戦力として利用しようとするとは。『負け犬』だけに必死なのでしょうかね」 くすりと笑い、視線を孤児院へと向ける『非才を知る者』アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)。 『負け犬』。その言葉に反応し、エルフリーデが強く鋭く、アルフォンソを睨む。 「……軍曹殿は負け犬などではない。戦いに敗れはしても、その身を、そのお心を地に落とすことなどないわ」 「ごちゃごちゃ何言ってやがんだ、てめぇら故郷にすら居場所を失くした只の戦争好きが他国で徴兵なんざしてんじゃねぇよ。自国でやりな」 「まったくだ、いい迷惑だぜ」 『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)と『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)。それぞれが得物を構え、軍服の一団を見据える。その眼差しは、強く怒りに満ちていた。エルフリーデも二人の睨みを受け止める。 静かな夜は終わりを告げた。 ●ぶつかる意思 アルフォンソの手から放たれた閃光が、傀儡の壁を通り越しバウアーに炸裂する。圧倒的な光に飲み込まれるバウアー。その動きが緩慢になったことから、効果はあったようだ。その身体に光の残滓が纏わりつき、その肉体を蝕もうと絡む。 対抗すべく、後方に控える軍服の男もまた、アルフォンソへ魔力の奔流を放つ。後方からの射撃。バウアーは巻き込まれていないようだが、最前列に配置された、雷神に呼び起こされた者は別だ。まるでそこには何も存在しないかのように、軍服の男は魔力による砲撃を行った。可愛らしいパジャマを着た、まだ中学生くらいであろう少女を無残に散らし、そのままアルフォンソを捉える。 そんな光景を、しかし毅然と見据え、ミュゼーヌは再び銃を構えた。先に起こった三ツ池公園での戦闘。その時も、操られた無辜の民を撃つ事しかできなかった。そして、それは今も変わりはしないのだ。優しい彼女の心が、悲鳴を上げている。 だがミュゼーヌが動くより僅かに早く、赤毛の傭兵が銃弾を放った。 「わりーな。こっちも躊躇してらんねーんだわ」 実にシビアに状況を把握し、例え一般人といえど微塵も躊躇わない。武器を持っている相手に情けをかければ、殺されるのは自分なのだ。勿論その為に鋭く厳しく対処をしているのだろうが、それは同時に、共に戦う優しい少女の為なのかもしれない。 ブレスの手にした銃が咆哮を上げる。ばたばたと、悲鳴も上げずに倒れ臥す悲しき兵隊。血飛沫が飛び、辺りには錆びた鉄の臭いが充満した。 「気の毒だけど、仕方ねーよな。な、ミュゼーヌ?」 「そうね……この程度で私達が怯むと思ったら……大間違いよ」 目の前に広がる凄惨な光景に、心が軋み、悲しみに飲まれる。しかしそれを知られては、更に傀儡を投入されてしまう恐れがある。心の痛みを押し込めて、ミュゼーヌはブレスと並び言い放つ。 「ふふ、強いわね、ミュゼーヌ。けれど、まるで泣いているかのような言葉だわ」 ミュゼーヌの心を知ってか知らずか、エルフリーデがくすりと笑う。 その言葉諸共叩き斬るかのように、ぶんと手にした斧を振るうランディ。これ以上の問答は無用だ、と無言で語っているかのようだ。勢いそのままに、バウアーの一団に駆ける。その姿はまさに戦鬼と言っても過言ではあるまい。 烈風の如く唸る大斧の凄まじい勢いは、バウアーの膝を折らせるのに十分な威力を持っていた。が、同時に繰り出される猟犬の、荒れ狂う闘気を帯びた銃剣は鋭く、疾い。さすがのランディも避けることは叶わなかった。銃剣の一撃に、その巨躯が押し返される。 思わず蹈鞴を踏むランディに、バウアーと猟犬が距離を詰めた。相手もまた、その実力は伊達ではないのだ。 その時、彼に耳障りなノイズが届く。どうやらこれこそが件の電波のようだ。 「耳障りだな、うざってぇ……!」 琥珀の表情が消えていく。先日からの猟犬のやり口、それは彼にとって一番気に入らないものだった。 普段は柔和な笑顔を浮かべた彼だが、今は全くの無表情だ。心の奥は静かな、しかし底の見えない闇のような暗い怒りに満ちている。 手には冷たい死神の大鎌を握り、無慈悲な重い刃をバウアー達の首へと落とす。鈍い感触が琥珀の手に伝わるが、さすがに一撃でその首を落とす事には至らない。だが急がねばならない。急がなければ、奴等の操る電波が孤児院に届く前に終わらせねば……! 「また一般人を利用するのかよ。 此れ以上は……特に子供を巻き込む訳にはいかねーぞ、この外道が……!」 どす黒い血飛沫を上げながら、バウアーは意思のない虚ろな足取りで琥珀へハンマーの一撃を見舞う。互いに引くに引けない事情を抱え、戦闘は加速していく。 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)も、琥珀と同じように静かに怒っていた。神父たる彼は、子供が犠牲になるのを見過ごす事などできなかった。 まるで踊るかのよう軽やかに、手にした鋼糸を意のままに操る。吸い込まれるようにバウアーに突き刺さり、再び汚らしい血を撒き散らした。 しかし、バウアーを倒す事が目的ではないのだ。その奥に停められている中継車の破壊こそが、リベリスタの目的だった。 それを援護するため、梶原 セレナ(BNE004215)の想いが皆に届く。感覚が研ぎ澄まされていき、更なる爆発力が生まれる。まさに短期決戦の為に組まれた編成と言えよう。 だがそれは必要不可欠なことだ。長引けば、隣接する孤児院に被害が出てしまう。目覚めてしまった人々は、救えない。これは再三言われている。 「……一般人を洗脳して使うって、それで軍隊を名乗るのですか?」 悲しげに、とても悲しげに、セレナが呟く。その言葉を聞き、目を細めるエルフリーデ。 「貴方のように優しい方が苦しむのなら、それは一つの戦略よ。それに、軍として起用するのではないわ。劣等を道具として扱う事になんの問題があるのかしら?」 その言葉を聞き、エルフリーデを睨みつけるセレナ。悔しそうに唇をかみ締め、怒りに肩を震わせている。 「わかりました。貴方達の計画、なんとしても邪魔させて頂きます……!」 ●稲妻を絶つ 狭い公園でありながら、その区画を目一杯使った戦闘は、苛烈を極めた。設置された小さな遊具を回り込み、ランディが裂帛の気合と共に巨大な気塊を放つ。狙いは、指揮官であるエルフリーデだ。その背後には、中継車両が見える。 「別に避けてもいいぜ、避ければこのダセェ車をぶち壊してやるからよ!」 「……くッ!!」 身を翻し、危ういところで気塊を避けるエルフリーデ。だが、それの意味することは、つまりランディの思惑通りだった。気塊が中継車両に激突し、中継車両の側面に大穴が出来上がる。それは当然、エルフリーデからしてみれば許しがたい蛮行だった。しかし、ランディの放つ気塊をまともに受けたら、自らの身が危ない。苦渋の選択だ。 「許せない……! この罪は、貴方の死を持って償ってもらう……!」 かと言って、中継車両を狙うのはランディだけではない。逆側面に回りこんだブレスも、手にした愛銃で狙いを定める。 「くそー、美人な副官、上官ゾッコンラブじゃなければ口説いてたのによー」 口元に浮かぶ笑み、余裕の台詞。だが状況はそんな生易しいものではない。彼の周りには親衛隊が取り囲んでいるのだ。余裕は、全くない。 しかし、経験に裏付けられた彼はそれでも取り乱すことなく悠然と構え、そして狙い通りに中継車両を射抜く。さすがは歴戦の傭兵と言ったところか。 「まっ、中継車を単独遊撃に直接狙われて破壊されるなんざ、美人で優秀な軍人がやるヘマではねーだろうけど。なぁ?」 ニヤリと軽口を叩き、燻る銃口を振るい近接戦闘に備える。 単独遊撃による車両の破壊。確かにそれを行われてしまうのは、軍としては失策かもしれない。だがそれが実行できているのは、偏にリベリスタの実力に他ならない。 美しい弓から、光の矢が放たれる。速射で射ち出される矢は、セレナに向かう軍人とバウアーに突き刺さった。さすがに僅かに怯むが、それでも手にした剣と、大型のナイフがセレナに肉薄する。猟犬としての意地があるということか。 「くっ……!」 猟犬の牙たる剣が、セレナの柔肌を掠め、白い肌から真っ赤な飛沫が飛び散った。更に横から、凶刃を手にしたバウアーが彼女に迫る。 しかし、その刃が彼女の身を斬る前に、一つの影が素早く割って入った。美しい銀髪のシルエット。法衣がたなびき、手にした鋼糸が闇を裂く。 「さあ、懺悔の時間だよ。言い残す事はあるかな?」 鋼の糸が、まるで意思を持つ乙女の髪のようにバウアーに絡みつき、死の刻印を刻む。 「あ、ありがとうございます、シュヴァイヤーさん!」 「無事で良かったよ。さぁ、彼らに悔い改めさせてあげよう」 冷ややかな視線を向けるロアン。その眼差しは、鋭く厳しく、実に冷酷に猟犬を見据えていた。 その光景を肩越しに見て、琥珀は眼前の敵へ向き直る。セレナの援護は、ロアンに任せていれば不安はない。それよりも、一刻も早く中継車両へ近づくための路を開かねばなるまい。が、突然目の前のバウアーが固まる。怪訝に思う琥珀だったが、それを見たブレスが鋭い警告を発した。 「離れろ!! そいつは――」 しかし、その言葉が終わるより早く、バウアーの体が急速に熱を持つ。忘れもしない、先日の戦闘の際、至近距離で見た自爆の動作だ。ブレスの脳裏に、当時の痛みが蘇る。 身構え、僅かに身体を後ろへ逸らすが間に合わない。その身を爆散させ、災厄と轟音を撒き散らすバウアー。琥珀と隆明の二人が、爆炎とプロテクターの破片の雨に晒される。 「くそがぁッ!」 「っつぅ!」 激痛が身体を駆け巡るが、それでもなんとか顔を上げる琥珀。その目の前には、散弾銃を手にした異形の兵士が立っていた。その銃口が傷を負った琥珀に向けられ、無骨な鉛弾を放つ。 「ぐ……!」 琥珀の身体が、軽々と宙を舞う。遠のく意識、脱力する四肢。大鎌を握る手が緩み、そのまま取り落としそうになる。 だが、あわやというところで再び強く漆黒の鎌が握り締められた。 「こんなところで負けられないんだよ! 何が戦争だ、ふざけるな! お前らが平穏を荒らすなら、俺がお前らを狩りつくしてやる!」 そのまま空中で身を捻り、鎌の切っ先がバウアーの首元へと突き刺さる。次の瞬間、異形の兵士の魂は狩られ、安寧の眠りが齎された。 倒れ臥すバウアー。そして、中継車両への路が――開けた。 「お見事ですね、琥珀さん。私も失礼させて頂きますよ」 何処までも鋭く、何処までも透明な、純然たる殺意。その視線を車両へ向けるアルフォンソ。無機物である車両がギシリと軋んだのは、気のせいではない。 琥珀が開いた血路を、紅蓮の戦鬼も駆ける。自らがあけた大穴から車両に飛び込み、目にするのは車両の中枢を担う操作卓。 「うざってぇんだよ、止まりやがれッ!」 ランディの大きく力強い拳が操作卓に叩き込まれる。車両の全てを把握し、掌握せんと彼の意識が中継車両を駆け巡った。だが敵も、それを見過ごすような集団ではない。背後から、再び銃剣による鋭い突きが見舞われる。 途切れかけるランディの意識。激痛が身体中を駆け巡り、真っ赤な血が滴る。 ふっと重くなる瞼が、それでも再び力強く開かれた。琥珀の言った通りだ。こんなところで倒れてなるものか。 「ちっと待ってろよ、このポンコツをブッ壊したら、次はてめぇの相手をしてやるからよ……!」 「そうね、すぐに終わるわ」 戦場に不釣合いな程、凛とした声が響く。その手に携えるは輪胴のマスケットライフル。その瞳が見据えるは雷神の眷属。 そして、その美しく冷たい銃口が火を噴く。 がぎり、と耳障りな音を立て、車両の屋根に取り付けられていたアンテナが、無残に砕け散った。こうすれば、電波の受信も拡散もできないはずだ。 「……やってくれたわね!」 エルフリーデの美しい顔が、憤怒に満ちる。 ●そして、静寂 彼らとて、相当疲弊しているはずだ。確かにこちらもかなりつらいが、引き際を誤るつもりはない。相手の指揮官はどうなのだろう? 「……アドラー伍長、でしたか。貴方に『アドラー』――『鷲』の名前は、少々勿体無いかもしれませんねぇ。 鷲の目を持つ指揮官が引き際を見誤るとは、愚の骨頂ですよ、ふふふ」 アルフォンソの言葉に、これまで以上に殺意に満ちた視線が彼に刺さる。 「軍曹殿から頂戴した名を侮辱するか……!」 笑みを浮かべたまま、視線を受け流すアルフォンソ。その視線に割ってはいるように、ミュゼーヌがエルフリーデと対峙する。彼女も猟犬のやり口には許しがたいものがあった。ここで決着をつけられるならば、望むところだ。 「貴女の相手は私よ。さぁ、射手同士一緒に踊りましょう……貴女の死の舞踏を!」 「面白いわね。この軍服が伊達でないことを見せてあげるわ」 手にした得物は、お互いに銃だ。にもかかわらず、その立ち位置はナイフでも届きそうな距離になっている。しかし、お互いがその距離を望んでいたかのように、二人の女性が軽やかに舞う。 エルフリーデの騎兵銃が唸り、ミュゼーヌの四肢を狙い撃つ。いくらライフルよりは短い騎兵銃とはいえ、あまりに素早い取り回しは、さすがの一言だろう。連射による反動さえ、まるで計算し尽くされたステップのようだ。 同時にミュゼーヌもまた、己の持てる最高の技を――円舞曲を踊る。 彼女の胸にあり、美しい蒼を湛えた永久炉。その輝きがミュゼーヌと共に踊り、螺旋を描く。その輝きは、さながら舞踏会の為の美しいドレスのように、優美で魅力的だ。 輝きの流れは、そのまま彼女の持つ美しくも冷たい銃へと流れる。まるで散らされる花への手向けのような、優しい口付け。銃口がぴたりと向けられ、そして――極限に研ぎ澄まされた弾丸が放たれる。 弾丸は、ミュゼーヌの真っ直ぐで真摯な想いを表すように鋭く、輝きを帯び、跳んだ。 一瞬の間をおき、飛び散る真紅。 「あぁぁッ!!」 「く……ッ!」 悲鳴を上げ、吹き飛ぶエルフリーデ。無理もないだろう。至近距離で、限界まで高められた弾丸を続けざまに受けたのだ。しかしミュゼーヌも、エルフリーデの放った弾丸を受け、その場に膝をつく。 「三条寺さん!」 すぐさまセレナが、傷を癒すべく清らかな声を響かせた。エルフリーデにも、軍服の男が駆け寄る。 「伍長、ここはもう……」 「くっ……。判っている、撤退準備を! ……ミュゼーヌ、この借りは必ず返させてもらうわ……!」 指揮官からの指示を受けた猟犬の動きは、実に素早いものだった。だがリベリスタ達も、それを追う余力は残されてはいない。 先ほどまでの凄絶な戦闘が嘘のように、公園は静まり返っている。 隣接する孤児院からは、恐らく戦闘の音に驚き、恐れた子供達の泣き声と、それを宥める教員の声が夜風に乗って聞こえてきた。 それは、つまり。 「……子供達は無事なようだね」 「ええ。本当に……本当に良かった」 ホッと胸を撫で下ろす一同。ロアンとセレナが、嬉しそうに、傷だらけの顔に笑顔を浮かべる。 犠牲は多く、救えなかった生命も数え切れない。しかし、僅かであろうと、確かに彼らの戦いで戦禍を免れた存在も居るのだ。 それが、今は素直に嬉しかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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