● 「あー! ちっくしょー! 確かに商品落とした俺も悪いけどさ、あんなに怒ることないじゃん!」 一人の男がぶつくさ文句を言いながら、暗くなった公園の中を歩いていた。 男はフリーターで今日はバイト先で失敗してしまった。しかも店長の虫の居所が悪かったらしく、ネチネチと三時間も怒られ続けてしまった。 それはもう、ネズミをいたぶる猫のごとく。 よって普段ならまだ明るいうちに帰れるというのに、今日はこんな時間に帰るハメになってしまったということだ。 「娘さんが反抗期になったからって、なんで俺に八つ当たりするかなー、……ん?」 ぶちぶちと文句を言い続ける男は目の前の茂みを凝視した。 茂みの下の方から茶色い猫が顔を見せていた。 「にゃーん」 猫は男の顔を見ると愛らしい声で鳴き、すたすたと近づいてきた。そしてなんと、頭を足へとこすりつけてきたのだ。 「なんだお前、人懐っこいなぁ。悪いけど餌なんて持ってないんだからな」 男がしゃがみこんで撫でようとしても逃げる気配はない。 それどころか。 「みー」 「なおーん」 「うにゃー」 茂みの奥から次々と猫達が現れた。サビ猫に黒猫、縞模様に真っ白毛玉。様々な模様の猫達が現れて、男の前でゴロゴロ喉を鳴らしたり、お腹を見せて転がったりしはじめた。 「もしかしてお前ら、俺をなぐさめてくれるのか……?」 「にあーん」 そうだと言わんばかりに複数の猫達が同時に鳴いた。 男は感動の涙に半泣きになりながらも、猫達を思う存分もふりはじめた。 あー、もふもふもふもふ幸せだなぁ~。 幸せすぎてなんだかとっても眠くなってきちゃったぞぅ……。 ――その後、ひどく衰弱した男が公園の敷地内で発見され、病院へと運ばれた。 ● 「猫のアザ―バイドよ。しかも三十匹。見た目は完全に普通の猫よ」 もちろん身体能力は段違いに違うけど、と真白イヴ(nBNE000001)は付け加えた。 ある大きな公園でフリーターの男が猫の群れに襲われた。 いや、襲われたと言ってもいいのだろうか。 何しろ彼にとっては猫と遊んでいるうちにひどく疲れて眠くなっただけなのだから。 「彼らの食料は他の生物のエネルギーよ。主に人間のね。じゃれつく猫と遊んでいると、気付かないうちに生命力を奪われてしまうの。一般人だと三日は起き上がれないくらい。今のところ死人は出ていないけど、放置すれば確実に誰か死ぬことになるわ」 確かに体力のない子供や老人が餌食になれば最悪のことも考えられる。しかも出没するのは公園だ。それはフォーチュナでなくとも予想できる未来だろう。 「D・ホールも公園内にあるんだけど、出現ポイントとはかなり離れているの。ろくな回復手段も準備しないで、一匹ずつ運んでいくなんてことしてたらあっという間に体力を奪われてしまうわ」 猫嫌いのリベリスタに任せてしまった方がいいんじゃないのか、と誰かが言った。 愛らしい外見に騙されることなく、ただ冷酷に任務を遂行できるリベリスタを集めてしまえばD・ホールまで運ぶなんて手間も省け、余計な被害を出すこともないのではないか、と。 「倒してしまうのはありよ。見た目と違って凶悪な性質だもの。でもね、猫嫌いだから大丈夫なんてことは思わないで。じゃれつきへの抵抗は好き嫌い関係ないの。たとえ動物嫌いのアレルギー持ちでも、技に捕らわれれば抱っこしたくてたまらなくなるわ」 なんておそろしい技なんだろう。 下手をすれば普段はクールを気取ってるリベリスタも猫にめろめろになっている姿を晒す危険性があるということじゃないか。 実はアレルギー持ちのリベリスタが鼻水と涙ででろでろになった顔を見せてしまうということじゃないか。 「……一応言っておくけど、拾って飼いたいなんて言わないでね。元の世界に返すか、倒すかしてちょうだいね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:桐刻 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月19日(金)22:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 日付も変わってしまった真夜中の公園。いつもならば虫が外灯にぶつかる音ばかりが聞こえ、誰の気配も感じられないのだが。 「もふもふにゃんこ出ておいで~」 四条・理央(BNE000319)はベンチの下に頭を突っ込みながら猫を探していた。うつ伏せに近い姿勢なので手と足が土で汚れているが、まったく気にしてはいないようだ。 今夜の公園はいつもより少し騒がしいようだ。 「にゃー」 ぴょこん、と茶色い猫が理央の正面に姿を見せた。 「にゃんこみーつけたっ」 ずぼーっと勢いつけて理央はベンチの更に奥へと頭を突っ込んだ。 「みぃー」 「にゃうー」 話に聞いていたとおり、複数の猫達がベンチの下や茂みの奥からわさわさと姿を見せ、寝転んだままの理央の背中に乗り遊び始めた。 「ゲートの位置、チェックしてきましたよー。……って、あー! もうもふもふしてるんですかー! ずるいーっ!」 猫に埋もれつつある理央の姿を見て、『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)は指差して叫んだ。 「まぁまぁ。これからいっぱいもふもふすることになるんだから、ね」 同じくD・ホールの位置を確認して戻ってきた『薄明』東雲 未明(BNE000340)は京子を優しくなだめた。しかしその視線は足元の猫へと奪われがちだ。 「こっちにも猫がいたわよ。……うっ」 黒猫を抱きながら駆け寄る『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)の足元が不意に止まった。その周りにはやはり九匹の猫達が集まっている。 「どうしたんだ、大丈夫か?」 不自然な勢いでその場に膝をつく糾華に、『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)は声をかけた。 「も……」 「も?」 「もっ、もふもふ~~っ!」 糾華は腕の黒猫に頬ずりをしながら叫んだ。いつもの厭世的な態度はいったいどこに行ってしまったというのだろうか。すっかり猫にメロメロになっている。 「にゃんこにゃんこにゃんこ~えへへ~」 糾華の様子もおかしいが、理央もベンチに頭を突っ込んだきり出てこない。その背中では猫があくびをしていた。 「しっかりしろ、目を覚ますんだ!」 「理央ちゃん、そんなところに引きこもらないでーっ!」 セッツァーは急いで糾華から黒猫を引き剥がし、『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)も理央の背中を引っ張ることで猫から引き剥がした。 「大丈夫かい? ひどいようなら回復するけど」 猫から引き離されたばかりの二人に『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は声をかけた。 「え? う、うん、ボクは大丈夫さ! えへへへ……」 「わ、私も平気よ。べ、別に仕事を忘れたわけじゃないのよ、本当よ?」 正気には戻っているようだが、二人の言動はやや怪しい。体力を奪われたせいか息も少しだけ荒い。 「話には聞いてましたけど、見た目以上に、いいえ、見た目どおり手ごわい猫達みたいですね……」 猫をもふっただけだというのにぐったりとしている二人を見て、京子はツバを飲み込んだ。 「でもでも、だからってこのままじゃいけないよ! ちゃんとD・ホールまで連れて行って元の世界に返してあげないと! それがお互いのためだよ!」 ルナは軽くガッツポーズをして仕事への気合を見せた。 「なんだ、もう集まっていたのか」 暗闇の中から突然声をかけられた。外灯が照らし出す場所へ、『癒し系ナイトクリーク』アーサー・レオンハート(BNE004077)は姿を見せた。その足元には十匹の猫がまとわりつき、ごろごろと喉を鳴らしていた。半裸の巨漢ともふもふの猫達。かなりミスマッチな組み合わせだ。 「アーサーは大丈夫だったの?」 未明の問いかけにアーサーは小さく笑った。質問をはぐらかされ、未明は軽く肩をすくめた。 「蹴りや爪もなかなか侮れない威力のようだ。俺は回復に専念しよう」 「そうだね、俺も運搬は皆に任せるよ。ダメージのことは気にしないで思う存分もふっておいで」 遥紀はアーサーの言葉に賛同した。その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。しかし背後に回された手の中では、猫のために持ってきた人形が綿がはみ出そうなくらいに強く握り締められていた……。 ● 「よろしくお願いするよ、お嬢さん」 セッツァーは自分とチームを組む未明に微笑みかけた。 「ええ、よろしく。ホールの位置は確認しておいたわ」 「まずはワタシが引き受けよう。レディに傷を負わせるわけにはいかないからね」 セッツァーは猫を丁寧に抱き上げた。 「にゃー?」 抱き上げられた猫はセッツァーをつぶらな瞳で見上げた。気付けば足元にいる猫達も同じようにセッツァーを見上げている。 その仕草はセッツァーの胸をトクンと鳴らした。そう、それはまるで初恋を思い起こさせるような……。 「く……この……かわいい猫達ばかりだなぁ、ははははは。さぁてどの子から可愛がってあげようか? おっと、サビ猫君、君からかい?」 セッツァーはD・ホールへと向かい始めた足を止め、サビ猫の喉を指でくすぐった。ゴロゴロと鳴らされる喉にセッツァーは顔をでれでれとゆるませた。 「しっかりして! まだ出発したばかりよ!」 夢の世界に逝きかけていたセッツァーから未明は猫を取り上げた。セッツァーは自分が我を失ってしまったことに気付き、珍しく動揺した顔を見せた。 「……すまない、ワタシとしたことが。いくら猫が愛らしいとは言え、我を忘れてしまうとは……」 焦るセッツァーの姿を見て、未明は小さくくすりと笑った。 「動画に残しておいた方がよかったかしら?」 「……さすがに勘弁してほしい」 「ふふ、もちろん冗談よ。さぁ、交代しながら頑張って進みましょう。……大丈夫よ、怖くない怖くない」 未明は腕の中の猫にも頭を撫でながら声をかけた。 二人は公園内にあるD・ホールへと移動し始めた。 「みゃーおぅ」 猫は未明の腕の中で独特の鳴き声をあげた。 「あらあらお腹すいたの?」 猫を飼っている未明はその鳴き声が何を表しているのかすぐに理解した。足元の猫達もすりすりと頭をこすりつけてくる。 「抵抗なんてしないわ。お腹すいたままになんてしておけないもの」 未明は自分から猫の頭を撫でた。猫じゃらしを使って猫と遊んでいると、確かに不自然なくらいに疲労がたまっていく。 「……うん、まだ大丈夫。早く行きましょう」 猫達に体力という餌を与え、時には爪によるひっかきや蹴りに襲われながらも未明とセッツァーはD・ホールを目指した。 基本的に回復はアーサーと遥紀に任せることになっている。 だが。 ● ――あるチームがすでに堕ちかけていた。 「いつもは触りたくても逃げられるのに今回はこんなにもふれちゃうなんて~っ! 貴方ってばどうしてこんなにつやつやもふもふしてるの? うふっ」 糾華は猫を抱きしめてすりすりもふもふ頬ずりしまくっていた。仕事などという単語は今の糾華の脳内には存在しない。 「だっ、だめだよ糾華ちゃん、しっかりして!」 ルナは慌てて糾華から猫を引き剥がした。猫は食事を中断されて不機嫌になったらしい。腕の中の猫も含め、十匹の猫達がルナへ爪をむき出しにして襲いかかった。 「みにゃーっ!」 バリバリバリバリッ! 「きゃーっ!? もふもふだけどすごく痛いーっ!」 ルナは襲いかかる猫達の山に埋もれてしまった。 「……私はいったい何を……っ!? いけない!」 我に返った糾華は慌ててルナを猫山から引きずり出した。すっかりボロボロになってしまったルナの顔や腕には縦横の深い傷が走っていた。かなり痛々しい。 しかし、不意に癒しの息吹がルナに触れ、傷跡はすぅっと薄くなった。 「大丈夫かい? あまり無理をしちゃいけないよ」 少し離れた場所から遥紀が声をかけた。 「うん、ありがとう! もう大丈夫だよ!」 やや泣きかけていたルナは立ち上がった。そして猫達と向き直った。猫達は黙ってじぃっとルナや糾華を見つめていた。警戒しているようにも見える。 「ほらほら貴方達。遊んであげるからそんな顔しないで。猫じゃらしがいいかしら? それともこちらのリボン? 紐付きボールもあるのよ」 様々な猫用の玩具を見せながら、糾華は優しく猫達に話しかけた。 「そうだよー。私達は猫さん達をいじめに来たわけじゃないんだよー。おいでおいでー。こっちに面白い物があるよーっ!」 少しだけ前進した場所からルナは猫じゃらしをブンブンと振り、猫達に呼びかけた。 「みみっ」 猫達は少しずつ警戒の色を解き、好奇心に尻尾をふりふりと動かし始めた。右に左に動く十本の猫の尻尾。ゆらりゆらり。 「~~~~っ!!」 糾華は声にならない悲鳴をあげ、足をよろめかせた。慌ててルナは糾華に駆け寄り体を支えた。 「大丈夫? また猫さん達に体力奪われたの?」 「……いいえ、違うわ。今のは猫達の純粋な愛らしさに衝撃を受けたの。ええ、もう大丈夫よ。さっきのようにはならないわ」 「…………」 それってフラグって言うんだよね、という言葉はルナは言わずにおいた。 猫達は糾華へと駆け寄り、糾華は猫を抱きとめ、そしてヒラヒラとした服を着ているというのにそのまま地面に転がった。 「いやぁっ! なんてことなの、もふもふがこっちに向かってくるなんて! あっあっ、そんな私の体によじ登ってくるなんて、もうダメっ、埋もれちゃうっ!!」 「……あー、やっぱりー」 嫌な予感って当たるもんなんだねー、と猫と一緒に砂まみれになりつつある糾華を見てルナは思った。 「待ってて! お姉ちゃんが助けてあげるっ」 ルナはデジャブのようなものを感じながら急いで駆け寄った。 もちろんこれもフラグである。 バリバリバリバリッ! 「きゃーっ!?」 ● 「……思ったより時間がかかることになりそうだな」 アーサーは大天使の吐息を使った直後に呟いた。 結局、糾華とルナの二人は猫に夢中になり動けなくなってしまい、爪や猫キックの猛襲にされるがままになっていた。 アーサーの支援で我に返り、エル・リブートで自ら回復したルナと糾華は、もう何回目かわからない再スタートを行った。 「そうだね。猫を送り届ける前にこっちの体力が尽きる、なんてことにはならないように気をつけないとね」 自分から差し出したせいでかなりの体力を奪われていた未明を聖神の息吹で癒し、遥紀は小さくため息を吐いた。 「ああ、そうだな……」 猫を運ぶ仲間達と適度な距離を取りつつ回復で支援する。支援のしすぎで力尽きることがないように、自らのコンディションにも気を配る必要がある。 「本当に、辛い仕事だよ……」 「まったくだ……」 遥紀とアーサーは難しい顔で少し離れた場所をゆっくりと移動する仲間達を見つめた。 確かに気を使い続ける大変な役回りだ。 しかし二人の意味する辛さは仲間を支えなければいけない重圧から来るものではなかった。 「なんて愛らしいもふもふ達なんだ……くっ、こんなに近くにいるのになぜ触れることができんのだ。これでは生殺しも同然だ……!」 アーサーは拳を強く強く、握り締めた。屈強な体格からは想像しにくいが、実はアーサーはもふもふしたものが大好きだ。 「ああ、本当に勿体無いくらいに素敵なもふもふだよ……」 猫達にまとわりつかれる仲間を見て遥紀も呟いた。 運搬だってとても大変な仕事だということは十分に知っている。しかし猫と直接触れることができる仲間達はどこか楽しそうだ。 「……ね た ま し い」 猫達にじゃれつかれる仲間達をながめ、遥紀はハンカチをぎりりと噛み締めた。 「一匹くらい連れ帰っても平気かな。子供達の情操教育にいいと思わないかい? け、けっして俺がもふもふしたいからではないよ。……ない、よ?」 「……いや、一匹だけ連れては他の猫がかわいそうだ。やはり十匹まとめて飼うしかないのではないだろうか」 「それもそうだ。いや、だけどそれでは残りの二十匹を差別してるみたいじゃないか? やはり三十匹まとめてもふるしか……」 我慢のしすぎで元の世界に帰してほしいという依頼内容や、見た目とは違う凶悪な性質を忘れかけている二人組であった。 ● 「もふもふもふーっ! もうキミを離さない! これお家で飼うーっ!」 茶虎猫の腹に頬ずりしながら京子は叫んだ。さすがに猫は迷惑そうに鳴き、京子の顔をバリバリとひっかいた。他の猫も仲間を解放してもらうために京子へと飛びかかった。 「ああん、こんなにたくさんの猫達に飛びついてもらえるなんて幸せー! お家で飼ってる猫様に背徳感を感じます! ねこねこねこねこ、にゃーにゃー、にゃにゃーにゃーにゃ! にゃーっ!」 しかし深い傷がついているというのにまったく痛がる様子はない。痛覚遮断し、純粋にもふり感だけを楽しんでいるからだ。猫と同化していると言っても過言ではない。 「ニャンコニャンコニャンコニャンコ、もふもふもふふふふふふっ、もふっ」 謎の笑い声をあげながら理央は二匹の猫のお腹を同時に撫で回していた。完全に壊れている。それが猫の力のせいか、元からなのかは判別できないが……。 「……ハッ!?」 唐突に理央は頭を振って立ち上がった。周りを確認すると、わずかではあるが他のチームに遅れはじめている。 「だ、ダメだっ、このままじゃ置いていかれちゃうよ! 京子君、目を覚まして!」 呼びかけと共に使われる理央のブレイクイービル。すっかり傷だらけになってしまった顔で京子は慌てて周りをきょろきょろと見渡した。 「わわわわっ!? いつの間にこんなことに!? 理央さん、もう大丈夫なんですか?」 「うん、もう大丈夫さ! ボクはしょうきにもどったよ!」 「……どうしてですかね、その言い方だとなぜか安心できません……」 次の瞬間には再び猫達に洗脳されてしまいそうな言い方だ。 京子は式神を呼び出した。移動を再開する前に回復する必要があるからだ。 「回復してる間だけでも猫さんのこと、お願いしますよ」 式神は京子の命令に黙って従い、猫の一匹を静かに抱き上げた。 「ふーっ!」 猫はジタバタと暴れた。式神の腕の中はとても気に食わないようだ。そして放たれる猫ぱんち。猫キック。呼び出したばかりの式神はバラバラに引き裂かれてしまった。本当に理央が京子の傷を癒すまでの間しか持つことができなかった。 「か、回復してもらったのになぜか痛みを感じます……」 猫の強さを客観的に見てしまい、京子は傷が癒えたばかりの顔を押さえた。 ● 「やっとついたわね……。さすがに疲れたわ」 一番早くD・ホールのある場所までたどりついたのは未明とセッツァーのチームだった。とは言っても、極端に離れないように移動してきたのだから他のチームも猫を引き連れてすぐに到着した。 「ふーん、なかなかきれいな場所ね」 周囲を見渡しながら糾華は呟いた。 そこには池が広がっていた。昼間ならボートを漕いで楽しむ人間もいるだろう。しかし今は月だけが水面にゆらゆらと浮かぶばかりだ。 「うん、誰もいないようだねっ! 結界も張ってるから心配しないで最後までもふることができるよ!」 ルナは暗視で公園内をしっかりと確認したうえで仲間達に笑顔で告げた。 「今まで本当にありがとう。助かったわ。だから遠慮しなくていいのよ。……ほら、いってらっしゃい」 未明は自分が連れてきた猫達を数匹抱きかかえ、アーサーへにっこり差し出した。アーサーは戸惑いながらも猫達を抱きとめた。 「そ、そうだよっ、今まで我慢して回復してくれたんだもんね、今度はボクが我慢する方だよね。……はいっ!」 理央も猫を両手で抱き、遥紀へと差し出した。本当はいつまでもいつまでももふり続けたい! ……が、さすがに自重した。理央は心の中で血の涙を流した。 「みう?」 遥紀へと渡された三毛猫は遥紀を見上げて小さく鳴いた。遥紀は草の上に腰を下ろし、猫を膝の上へと乗せた。 「ああ、やはりすごくもふもふだ。可愛いな、お前達。お腹とか、くるくる撫で回しても構わないんだろう?」 遥紀が優しく話しかけると、三毛猫は自分からころりとあお向けになり真っ白い腹を見せてくれた。一部の猫は遥紀の膝に前足を乗せ、うらやましそうに鳴き、他の猫達は草の上でごろごろと転がった。 「他の九頭まで……ははは、もう大丈夫みんなのこと愛してるからな!」 遥紀は十匹まとめてもぎゅうっと抱きしめた。 「みぃーうっ」 アーサーの巨漢へとよじ登りながら猫は可愛く鳴いた。新種のキャットタワーだと思っているのかもしれない。頭の上までよじ登った灰色猫が満足そうに「みゃーん」と鳴いていた。 「ははは、俺の体が気に入ったか? 思う存分遊ぶがいい」 密かにマスターファイヴを使うことでアーサーの触感は強化された。おかげで十匹の猫達がぴったりと直に密着する感触を存分に楽しむことができた。 「お姉ちゃんが二人共倒れてしまわない様に面倒を見てあげる!」 猫をもふれば体力を奪われる。回復で支えてくれた二人のためにルナはがんばることを宣言した。 「良い笑顔だな、みな」 セッツァーは最後とばかりに猫とじゃれつく仲間達を見て笑みを浮かべた。そしてゆっくりと渋い声で歌い始めた。 穏やかな歌が澄んだ池の近くで仲間達を包んでいく。 暗い空はゆっくりと白みはじめ、猫達との別れが近づいてきていることをリベリスタ達に教えてくれた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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