● 何処からか聞こえる鳥の囀りが新緑の季節を想わせる。鮮やかな緑さえも隠してしまう闇の中、薄ぼんやりと光る存在がある事を少女は知っていた。 白い鱗が放ち出す光りに少女は見惚れ、口角を上げて厭らしく笑う。 「ねえ、何処からいらっしゃったの? あなただけ? お友達は?」 そう問うた時に紅い舌を出す『ソレ』の頭を撫でて少女――末広アマナは微笑んだ。触れることで自然と『ソレ』の言葉が判る気がしたのだ。 「一つ、二つ。向こうのお山の天辺まで逃げればきっと私はあなたと一緒に居られるわ。 私も一人なの。アマナっていうのよ。初めまして、こんにちは、蛇さん」 息を漏らす様な小さな声であった。 その声を『承諾』と取った少女が差し伸べる手にあるのは目の前の蛇と同じ鱗が覆っている。 蛇の舌が少女の肌を這う。擽ったそうに身を攀じる蛇の体は少女よりか幾ばくは大きく思えた。 ソレもそのはずだろう。少女とて良く良く分かっている。その蛇が異界の存在である事等重々承知の上だった。 蛇の体は重くずっしりとしている。大きな体を引き摺る蛇の頬を撫で、そっと指差したのは遠く、頂きを覗かせる広大な自然を有する山であった。 「……あのお山一つ越えに行きましょうか。 ああ、お腹が空いたのね? それじゃあ、ご飯も幾つか貰っていきましょう?」 何処かから遠く聞える鴉の鳴き声に、夜の訪れを知り、伸びる影を見ながら少女はくすくすと笑い続けた。 ● 「アザーバイドと心を通わせた少女が居るのだけど、共に向かっている神社があるわ。 其処に向かうのと止めて頂きたいの。アザーバイドは勿論、討伐しなくてはいけないわ」 お願いしたい事があるのだけどと周囲を見回しながら『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は本題を端的に告げる。 「アザーバイドの識別名は『代蛇』。少女の名前は末広アマナよ。 アマナは革醒者。蛇の因子を有してるビーストハーフで、フォーチュナね。彼女は未来視の力があると周囲の人間から気味悪がられていたわ。 彼女と蛇はたまたま出会って、意気投合した。どちらかというとひとりぼっちのアマナを蛇が気に入った――唯、ソレだけなんだけれども」 力関係は蛇の方が上だから、と世恋は小さく苦笑を零す。 『代蛇』はアマナを不憫に思い、彼女と共に神社を目指しているそうだ。其処には代蛇と非常に相性のいいアーティファクトが存在しているそうだ。 「アーティファクトについては触らぬ神に崇り無し。今回はアザーバイドの撃破で対応して頂きたいの。 『代蛇』は人を喰らう物の怪の様なものよ。アマナの事は気に入ったので傍に置いているけれど、途中で出逢う人出逢う人食べて行ってしまうでしょうね。毒蛇であるから、一般人が噛みつかれると一瞬で――」 桃色の瞳を伏せて、首を振る。その言葉にリベリスタが彼女を見つめる。 何処か言い辛そうに資料を捲くる世恋は瞬きを繰り返して、お願いするわ、と告げた。 「途中の道で一般人が出くわす可能性もある。出来る限りの被害の軽減をしながら早い討伐をお願いね。 ……逃がしたら良くない事が起こる、そう思うの。だから、どうぞよろしくね?」 小さく頭を下げる世恋にリベリスタが彼女を呼び止め、「アマナは?」と告げる。 「彼女をどうするかは皆に任せるわ。……神秘の力って、時に人を傷つけるのね」 言葉は魔法の様であると世恋は告げる。 その魔法が悪い方向へ転がったのがその少女の『今』なのであろう。 救う事も、見棄てる事も全ては『魔法使い』(にんげん)の手で下せる判断なのだから。 一先ずはアザーバイドを倒してきて、と真っ直ぐにリベリスタを見詰めていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月10日(水)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 伸びる影に暑さを感じながら、虫の鳴き声を聞いていた『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)は地面を蹴りあげる。兵は神速を尊ぶ。何よりも速く攻撃する事が大事だと彼は知っていたのだろう。目前に存在する白い鱗の大蛇。 「さて、『忍務』を果たしに行くで御座る」 「あの傍に居るのが末広アマナか。一人ぼっちか。――大変結構。さて、小さな友情を壊しに行きますかね」 『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)が広めた結界。怒りを灯すが如き灼熱の瞳が見据えたのは蛇に寄り添う様に立っていた小さな少女であった。蛇の舌が伸ばされる。末広アマナへと被さる繭を見詰めながら、踏み込んだ『哀憐』六鳥・ゆき(BNE004056)が何処かぼんやりとした黒い瞳を向けて小さく首を傾げる。牛の耳が揺れ、腿に巻き付けた尻尾がてしん、と足を叩く。 「まあ……なんてお可哀想。曲がりなりにもひとの身でありながら、ひとをご飯と称されるのね」 一言、囁く様に発した彼女は前線へと繰り出した。癒し手として常に戦場に立つゆきが前に立ったのも代蛇の呼び出す子蛇が周辺を蠢いているからだ。 「OK、マイヒーロー! 目的の為に、凄い事しましょ!」 後衛で光り輝くハニワマロを天に晒す様に突き出した『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)が笑みを浮かべて仲間達へと施したのは小さな翼の加護だ。戦う翼の加護により浮かび上がる事が叶った『水牛ダンス』柊暮・日響(BNE003235)は鮮やかな金色の瞳で前線に飛び出した師匠と仲間達を見詰め、背後で秘術を整えんとする四条・理央(BNE000319)の護衛についた。 「なるほど、種族に関係なく仲間意識のある蛇さんなんですね……それとも『気に入った』というだけで対等ではないんでしょか?」 蛇の因子を有す少女の事を見詰める日響には何処にも不安等は感じられなかった。彼女の言葉を例えるならば牛の因子を宿す日響にとってゆきは同族という意識が生まれる対象であると言っている様なものだ。代蛇が『末広アマナ』へと同族意識を抱いたとするならば――それ以上に強い蛇を彼女は知っていた。 「うちはこの蛇さんよりもっと強い蛇を知っとります。なぁに、どう強いかは今に解りますよ!」 「まあ、負けるわけにもいかんからな」 超直観を使用し戦場を見据える『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)が三鈷の霊刀を握りしめ、後衛の多い戦場で庇い手として立ちはだかる。だが、前線での『ブロック』が足りて居なかった戦場ではゆきが前線に居る以上冥真もその苦難に晒される事になるのだが。 「――革醒者の一番の敵は社会ってか? そう思うと、こんな状況、痛くも痒くもねぇな」 顔に浮かぶのは何処か余裕めいた嘲笑であった。青年は毒を吐く。言葉という毒の弾丸を吐き、それで誰かを救う薬を煎じているのだ。前線に立った幸成、ランディ、ゆき、そして冥真。 彼等を見詰めつつ、宙に浮かびあがっていた『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)が長いスカートの裾を揺らし、新緑を想わす翠の髪を靡かせた。未だ知らぬ事ばかりが多いファウナにとって、リベリスタの言葉は実に興味深い。 「力を得たから――排斥されたですか」 魔弓がキリ、と小さく音を立てる。異なる物を厭い排除しようとする流れ等、正に己の居た『あの世界』と同じではないか――! 「……何処の世界も同じこと。まして、この世界の今の在り様では――本当に、ままならないものですね」 己と同じ異形の者を見据える瞳は何処までも冷静な色を灯して居た。周辺に存在する魔的要素を取り込みながら、異邦人は唇を緩やかに釣り上げる。 「――此処までです、異界の者」 ● 全力で近寄ったリベリスタ達へと代蛇が大きな口を開けて、牙を見せる。毒を孕むソレがランディの腕に突き刺さるが、効かんとばかりにその腕に力を込めて、一歩踏み込んだ。 「毒蛇が……! ンなんじゃ効かねェぜ!」 グレイヴディガー・ツヴァイを握りしめる手に力が籠る。ランディにとって、己の背後に蛇を進ませない事が何よりも大切なことであった。ちらり、と後ろを見やれば眼鏡の奥で青い瞳を細め、『魔女』から齎された秘術を使う理央の姿がある。様々な術を身に付けた理央の中で戦う意味が鬩ぎ合う。ファウナと同じく、戦う者としての勇気をその身に宿す理央がジャベリンを握りしめた。 「孤独に齎される一つの暖かさ、ソレがどれだけ大事かってボクは知っている。 生まれた絆を引き裂くのは好きじゃないけど、結果が見えてる以上は、ね。彼女は先の事は『視』えてるんだろうかな?」 その言葉に、ランディが「さあな」と言葉少なに返す。フォーチュナとしてその身に未来視を宿したと忌み嫌われた少女が『この先』が見えているのか。不確定な未来を壊してほしいと彼等を送りだしたフォーチュナは願った。もしも『不確定な未来』ではなく、壊れる未来が見えて居るならば。 「――どっちにしても、同じかな」 子蛇が繰り出す霧が気色の悪い色を浮かべて後衛を狙い飛び出した。仕掛け暗器が受け止めて、身体を反転させる。理央を守る事を目的とした日響は師匠の手前、此処で負ける訳にはいかないのだ。 「お師匠さま、一気に行きましょ!」 「うむ、ただ成すのみ。ソレこそが一人前の忍びで御座る」 ランディと共に前線に立っていた幸成の凶鳥が全身から放つ気糸で絞め上げる。蛇の体を幾重にも絞め上げて、標本の様に縫い止めんとするソレにぎ、と繭の中のアマナが幸成を睨みつけた。 「邪魔しないで! 私と、蛇さんの邪魔をしないで!」 「貴殿にとって邪魔であれど拙者にとっては大事な忍務。止める訳には往かぬのでな!」 蛇が舌を出し威嚇する様子にも怯まぬリベリスタの『蛇』の動きを、背後から支援する様に弓を引くファウナが火焔の雨を降らし続ける。その雨が全てを巻き込み、ゆきの目の前に存在した子蛇の体を弾き飛ばせる。 「ヒーローの邪魔はさせないんだから! ヘーベルはマイヒーローを支えるのが仕事だよ!」 ハニワマロが光り輝き巻き込む様に気糸が伸びあがる。蛇が鳴き声を上げ、露わにする毒の牙を攻性防禦機構「和樂三連」で受け止めて冥真が小さく笑う。彼を苛むものは何もない。へ、と小さく笑みを浮かべてその拳を其の侭、子蛇の頭へとぶつける。裸の拳が蛇の鱗に食い込んで怯む所へ、指を組みあわせていたゆきがハイ・グリモアールの頁を捲った。 「あら、殴るだなんて、お可哀想。お可愛らしい……。 アマナさん、ひとをご飯と称されると言う事は自分がひととは違うものだと思い込んでしまっていらっしゃるのね」 囁く声に、びくりと少女の体が揺れた。前線で戦う幸成の顔に浮かぶ鱗、ゆきの体にある牛の特徴、日響の牛の角と尾、体内が機械と化している冥真、長耳の種であるファウナ。その誰もがアマナにとって『人ではない』種である筈なのに。 「……変わらないものだって、幾らでも御座いますわ」 囁く様に、静かに告げるゆきが仲間達へと回復を促した。前線で戦うランディへ向けて送られる天使の吐息。本業と言わんばかりの彼女の癒しを受けて、更に力を込めて斧を振るった。弾きだす様に勢いよく切り裂く疾風居合いによって蛇の体が仰け反った。生み出される子蛇にヘーベルが背後から気糸で牽制し続ける。 秘術を下に、懸命に仲間達が稼ぐ時間を感じ、目を伏せた理央が大きな青い瞳を開き、ゆっくりと笑う。 「もう逃がしやしないよ?」 魔術の知識が生み出した魔女の秘術。ソレがこの目の前に居るアザーバイドに適応されるかを理央は想定して居ない。人と異なる『ナンデモセイブツ』は時にその秘術の檻を諸共しない時があるのだ。 「……大丈夫そうだね?」 「OK、マイヒーロー。助け出しに行こうよ!」 ヘーベルの声に頷いた幸成は死の爆弾を蛇へと埋め付け一歩下がる。白い鱗の蛇が舌を露わにする威嚇に同種である事を想いだし、切れ長の紺がゆっくりと細められた。 「蛇という属性は同じくすれど、自分にとって異形の者であり、運命を得ぬお主は討伐すべき存在、ただ其れだけに御座れば……赦せとは言わぬで御座るよ」 鱗を吹き飛ばす幸成の攻撃に蛇が怒る様に白い靄を生み出した。ホワイトアウトと名付けられた攻撃が後方で支援を行うヘーベルやファウナを目掛けて繰り出される。 その靄を掻い潜り、前線に飛び出した日響が仕掛け暗器で中に少女が入った毒繭へと気糸を放つ。締めつけるソレが少女の体を傷つけぬ様にと丁寧な作業を見せる日響の金の瞳と少女の黒い瞳が克ち合った。 「大丈夫、うちがアマナちゃんを助けますから。痛い思いはさせたくないんで、其処で待ってて下さい」 「助けなんて――!」 悲痛なる少女の叫び声に前線で庇い役から離れ癒しを送っていた冥真が子蛇の攻撃を受け流しながら声を荒げる。毒舌家でありながら、その咽喉から飛び出す声は彼そのものの優しさであろう。 「認めてくれた蛇が楽しいか? 認めてくれなかった世界が疎ましいか? 世界ってのは大体不寛容なんだ。 それは俺にだって気持ちは判る。此処に居るヤツら全員、その世界の厳しさを知って居るんだ、解るか?」 ファウナが『世界が優しくない』と感じると同じく冥真もその不寛容さを身を持って感じてきたのだ。どう足掻いたって世界は変わらない。ゆきが変わらないものがあるといったその一つに彼等の愛すべき『世界』が含まれてしまうのだろう。 「しかしな、お嬢ちゃん。世界ってのはやっぱり不条理だし残酷だからその蛇は殺すしかないんだ。 ソレが世界だ。その蛇に味方する事が君の居場所を狭めるだけなんだ。何処にもいけないまま罪を被るだけだ」 その言葉に少女が目を見開き首を振る。繭を攻撃する手がじん、と痺れても日響は止まらなかった。全力で踏ん張り続けたランディを癒す仲間達の中で、彼が繰り出す衝撃が繭に罅を入れさせた。 「回復されんなら出来ねぇ様にやってみな!」 外傷による死が無くともその中に居る事で死を感じとってしまう事は嫌でも知っていた。何よりもその死が一番の不幸であるとも知っていた。 「日響! いくで御座るよ!」 「はい、お師匠さま。あと少し!」 血の花を咲かせ切り刻むその動きは正しく忍のソレであろう。子蛇が薙ぎ倒される。ぴくり、と動く蛇をし止める様に空から火炎瓶が降り注いだ。 ● アマナを救いだすまでは代蛇への攻撃を出来うる限り少なくする――それは回復を行わせない為の、アマナの無事の為の一種の手立てであった。罅が入る繭を見詰め、遠距離攻撃を行う事が得意な代蛇の白き靄が回復手であった冥真やヘーベルを目掛けて広まり続ける。 「俺は君にとっての出来の悪い運命を此処で殺す、見えてるだろ? 君には未来が! でも君の視た未来だけが真実じゃないって俺達が証明してやる!」 目隠しをされている様ではないか。視る力が全てを失ったなら、その喪失を否定する。何時だってそうしてきたのがリベリスタなのだから。未来が後ろ暗いものであったならば、足を止めてしまうではないか! 進む事しかない。未来に、世界に抗う人の姿をその目に焼き付けて、悲しみさえも覆せる底力を感じとればいい。満足できない世界なんて少女に必要ないと知っていた。幸福に貪欲じゃない世界なんて。 「クソったれ――!」 傷ついた体が、持たぬ事を直感で理解した冥真は己を癒しながらも蛇をブロックし、アマナが救いだされる事を待っていた。割れる繭から少女がふらつく足取りで飛び出す。その体を抱きしめた日響がぎっ、と代蛇を睨みつける。 「触れさせはしません……! 流れ弾一つ当てやしません。掠り傷も付けやしません!」 浅黒い少女の肩が揺れる。疲れと痛みが未だ忍びとしては半人前である日響の運命も削れてしまっていたのだ。 庇い手としてもよく頑張った彼女が少女の手をひき、後方へと戻るのをファウナが支援を送る。流れる髪が揺れ、得た翼が小さく風に揺れる。 「子蛇等に邪魔をさせませんよ。……ままならぬ世界であれど足掻く事が私達の仕事です」 連れていたフィアキィが氷精となり、子蛇の動きを阻害する。夏風に髪を揺らすファウナに薄らと浮かんだ汗は夏の暑さによるものか、疲れによるものであるか。何れにせよ、後衛の回復手が多い戦場では長期戦に持ち込む他なかったのであろう。 「マイヒーロー! 大丈夫? 今、ヘーベルが支援するから!」 手を伸ばし、魔女帽を揺らしたヘーベルが仲間達へと回復を施した。次に行われる『元気注入』は仲間達が攻撃する手立てを確りと確立させる。舞台や登場人物によって物の在り方は大きく変わる。ヘーベルは其れを知っていた。何時だって戦う『ヒーロー』の背中を見詰めてきたのだから。 「おいでよ、ヒーロー。物語を変えよう? ヘーベル達とこの世界で生きて行こう。一緒に。 アマナに死んでほしくなかったの。捩じれたアマナの事はきっと代蛇が呑み込んでくれたから……だから!」 手を差し伸べる。走り、後方へと避難する背中を見詰めて、これ以上は好きにさせないとヘーベルは回復を行いながら、蛇の数を減らし続けた。何時だって、自分はヒーローの役に立つのだから。 運命を代償に立ちあがる事が叶わなかった少女が膝をつくと同時、前線で回復を施して居た冥真も同じく膝をつく。灼ける様な痛みに身を焦がし、戦闘狂がにぃと笑う。 「待たせたな。お前の相手はこの俺だぜ」 斧が風を纏い其の侭、牙を零す蛇の口へと手を突っ込んだ。逃がしはしないと放つ全力の一撃は破壊力に満ちた巨大なエネルギーと化す。怪物の名を冠したランディの唇がつり上がる。周辺支援を行う理央が結末を変えるんだ、とジャベリンを握りしめた。 「ボクは皆を信じた。だからこそ今の未来がある。ボク達が幸せな未来を末広さんにあげるんだ!」 「うむ。ソレこそが拙者達の任務で御座るからな」 黒い装束に赤い血が飛び散った。其れさえも厭わず『同族』の痛み苦しむ顔を見詰め、己の忍務を再確認した様に幸成がその場で立ち続ける。 彼の弟子である日響がその身を以ってアマナを庇っている。ふらつく彼女を支援するゆきと理央によって、日響は何とかその場に立っている事が叶ったのだ。 「……うち、アマナちゃんのお友達になりたいなぁと思うんです。世界には優しい出来事も沢山あるんやって教えたいんです。 蛇さん、アマナちゃんにはまだ幸せになれる道が残っとるんです! 忌み嫌われた力でも、人の役に立てる道があるって教えたげたいんです! せやから、これはうちの我儘です……!」 お願い、お願いと乞う様な声を出し、日響が震えながらアマナを守ろうと両手を広げる。 ――アマナちゃんを連れていかんとってください! その言葉に瞬いて、世界の不条理を嘆く様に氷精を飛ばしたファウナは緩やかに翠の目を細めてアマナを見やった。己の姿を見て、彼女は何と思うだろう。 「他の『革醒者』に会うのは……初めてですか?」 「革醒、者?」 頷くファウナにとって、アマナの世界は未だ狭い物なのだと認識出来た。自分たちとの邂逅がどんな影響を齎すか、ソレはきっと、此れからの彼女の未来でしかないのだろうが。 「一人ぼっち、そうか? どのツラ下げて言ってんだって話だがお前はこの蛇と友達になったんじゃないのか!」 「友達だよ、わたしと蛇さんは!」 なら、とランディの斧が蛇を受け止める。牙が喰いこみそうになる其れを力付くで止め、アマナと名前を呼んだ。 「お前が一歩踏み出した結果、その蛇と友達になれたんだろうが。別に俺達の街に来いなんていわねー。 だが、今日の小さな勇気を忘れなければ一人ぼっちにはならねぇよ。未来は視るだけじゃない、自分で創れ!」 その言葉に、少女が大きく目を見開いた。舌が縺れて、言葉にならない。視ることしかできなかった唯の人であったのに。往く当てなく、ただ、一人ぼっちだと人と違うと知って居たのに。 真っ直ぐ、ただ代蛇を葬る為の気糸が蛇に纏わりついた。蛇が口を開き牙を曝け出す。 「アマナ殿、己を忌み嫌う人も、己の力もお嫌いで御座るか? だがその貴殿の力を……貴殿を必要とする人も場も、確かに存在して御座るよ。自分ではあの蛇の様にはなれぬで御座ろうが……共に参ろう、アマナ殿」 何処へ小さく泣き崩れた少女の肩に触れたゆきが息を吐く。 「……ねえ、アークで、ひととして生きてみるつもりはお在りかしら。ひとの一員である事を受け入れられるなら、喜んで迎えましょう。それとも、蛇さんの糧として最期を迎える、お可哀想な貴女のままの方が、お幸せかしら?」 代蛇の瞳が少女へと向けられる。瀕死の蛇へと手を伸ばそうとするアマナが小さく首を振った。見えていた未来は何時だって不確かで、けれど、嫌われる事を知っていたから。 「私はご本人の意思を尊重致したく思ってますわ。人生における正解等、自分の中にしか御座いませんもの」 ――たとえそれが他者にとって間違いであっても。 牛の少女の腕に縋る様にアマナはしがみ付き代蛇を見守っている。ああ、そうだ、後でこの蛇の墓をつくってやろう。彼女が一歩を踏み出す勇気の源になった蛇なのだから。ぼんやりとランディはそう思う。だが、力を緩めぬまま一心に斧を振り下ろした。 最後、その横面を吹き飛ばすエネルギー弾が蛇が小さく鳴いた声さえも潰していった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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