●壊れた世界 何時ものおはよう。 変わらないまた明日。 思い出すメロディは色褪せず、僕の中。 瞳開けば、静かな世界。 窓の向こうは新しい朝。 だけど、僕は昨日の夜にいるんだ。 今から零れ落ちた大切なもの。 もう叶わない、届かない。 知ってるよ、それでも僕は謳う。 君を愛してる。 今もずっと、君の隣。 紺色の空は滲んでいた。 ●引き金 分厚い金属の扉が暴れる。 その奥に生き物はいない筈、それは彼が良く知っていた。 「どうして……?」 返事とドアが乱暴に破られ、真っ白な冷気のカーテンからゆらりと影が揺れる。 そこにいたのは動かなくなった筈の大切な人。 「陽菜?」 返事は無い、俯いた彼女の素足がコンクリートに降り立つ。 椅子から立ち上がる彼を見上げる少女。 その瞳に光は無く、無表情の顔が彼を見つめる。 「お前は……」 少女の手には一緒にしまっていたクローバーを模したハルバード。 冷え切った切っ先の輝きは、彼女そのものを示す様に鈍く輝く。 「巧さん、いますか?」 そこへ現れたのは陽菜と呼ばれた少女とよく似た娘。 言葉は無い、まるで定められた作業をするロボットの如く、陽菜は彼女へ刃を振り下ろした。 ●カーテンの向こう その日、『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)に何時もの元気は無かった。 泣きじゃくるわけでもなく、落ち込むわけでもない。ただ、静かなだけ。 可愛らしく飾られた少女の異様な光景に、傍らにいる彼女の兄、『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)へリベリスタ達の視線が自然と向かう。 「その、少し今回の話の内容が重い所為……というところか」 たどたどしい説明、ノエルは自分からスケッチブックを開くと彼らへと向けた。 青白い人影が一つ、生気のある色合いの人影が二つ。 そのうちの一つへ青白い影が銀色の何かを差し向けた絵、稚拙な絵柄ながらおかしいというのは見て取れるだろう。 「ヒナちゃんとツクヨちゃんは双子さんなの。でもね、ヒナちゃんはおきないの、おきちゃいけないの。なのにおきちゃった」 ポツポツと呟くノエルは顔を上げる。 「何でおきたの? って、きいても返事がないの。でもね、ヒナちゃんはツラいものがほしいってお願いするの。ノエルはダメっていったよ? でも、ほしいを繰り返すの、ずっとずっと……」 何時もはころころと表情が変わる少女の顔は凍りついたまま、紳護は声を掛けようとするも、そんな間も与えず独白が続く。 「そしたらね? ちょうどツクヨちゃんがくるの。タクミくんを心配してくるの、でもヒナちゃんはヨウナちゃんを壊したいって繰り返して、ダメって言っても……言っても……っ」 言葉にすると人は自分に起きたことを整理できる。 堰を切った様にノエルのまんまるの瞳から雫がボロボロとこぼれた。 「あれはヒナちゃんじゃないの。ヒナちゃんと似た悪いひとだったの、でも二人は……わからないかもって、二人とも、ヒナちゃんの事、キライになっちゃうのかな……?」 握っていたスケッチブックが地面に広がる。 ノエルは紳護の足元に抱きつくと、嗚咽を上げ始めた。 「宮ヶ瀬 巧と片桐 月夜、この二人の救助をお願いしたい。敵はエリューション・アンデッド、フェイズは2だ。その姿は去年無くなったリベリスタ、片桐 陽菜の体を借りている」 何故一年前の死者が唐突に襲い掛かるのか? ノエルが予知の中で陽菜と錯覚したのだから、彼女の姿は綺麗に残っている筈。 勘違いするほどの敵、その理由は彼の異常な行動にあった。 「巧は無くなった陽菜の遺体をこっそりと火葬場から回収し、地下室にある冷凍庫にしまったんだ。彼女を失うことを恐れて……といったところか」 つまりそれが動き出してしまうのだ。絵にあった銀色の棒は、彼女が生前愛用していたハルバードらしい。 可愛らしい戦装束に愛らしい武器、それすらも全て閉じ込めていたのだ。 「エリューションとなれば誰彼かまわず襲い掛かる化け物となる。今から急いで出立しても革醒前の阻止は難しい。だが、戦う前にすべき事がある」 ここまでの説明でリベリスタ達は何となく見当は付いていた。 その答えが誰かから聞こえると、紳護は頷き肯定する。 「巧がすんなりと彼女への攻撃を許可するかが分からない。場合によっては君達の敵に回る可能性がある。とりあえず戦える様、巧を遠ざけるか、説得するかする必要はあるな」 そしてもう一人、月夜はどうすればよいか? という質問が生まれる。 「月夜もリベリスタだ、それに彼女は陽菜の死を受け入れている。特に戦闘することに問題は無いが、巧に対する行動には敏感に反応するだろう」 それはただの心配だけなのか? リベリスタの訝しげな視線は紳護に次の問いとして突きつけられる。 「月夜は昔から巧に恋をしていたらしい。だが、陽菜と彼が結ばれたことで身を引いたらしいが……今も残っている。そして自分を心配してくれる彼女に、巧も同じ感情を抱いている。だが、死した恋人を忘れられない彼は心配されながら今に至るというところか」 死体を残して置くほどに巧は過去に縛られ、月夜は解き放つ術が分からなかった。 ただ寄り添うだけで、この一年は満たされていたのだろう。 けれど、世界は二人に答えを求めている。 「3人を助けて……ヒナちゃんも、ツクヨちゃんも、タクミくんも……」 丸い頬に幾つもの悲しみの筋が刻まれた顔。 そんなノエルにリベリスタ達は何を覚えるのだろうか? 胸中はそれぞれ、それでも同じく目標の為に彼らは最善手を探り始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月21日(日)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 対峙 動き出した亡霊。 それを前に呆然とする巧、彼の耳に届くのは愛しき人の妹、月夜。 振り返る彼の背後から影が伸びた、目を見開く月夜に釣られ、振り返った先にはクローバーのハルバードを振りかぶる恋人がいた。 声が出ない。理解できなかった。この異常な光景に立ち竦んだのは月夜も同じ。 「悪いけどアークが介入する。アンデッドは討伐させてもらうぞ」 断りの挨拶と共に巧の前に立ちはだかったのは、『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)である。 更に二人の前を駆け抜け、竜ヶ崎 恋(BNE004466)と『Radical Heart』蘭・羽音(BNE001477)が大鎌と鉄線で陽菜の得物を受け止めた。 「討伐……」 再び殺される。恋人が、あの日と同じく、自分の前で。 蘇る忌まわしき記憶に雄たけびを上げると、巧も銃を抜いた。 「そこをどけぇぇっ!!」 流石に仲間であるリベリスタを撃つのは躊躇ったか、銃身で俊介を薙ぎ払う様に殴りつける。 技でもなんでもない、ただの打撃だ。 「ぐっ……!」 「巧さんっ!?」 月夜が巧へと駆け寄ろうとするが、彼女の防衛に入った『黒渦』サタナチア・ベテルエル(BNE004325)が進路を遮る。 「いくらでもぶん殴ってきてくれていいぜ、それで気が済むなら何度でもな」 額から零れる血をそのままに、俊介は顔を上げた。 「まって! あたしは、アークの蘭羽音。リベリスタとして……彼女は、放ってはおけないの。でも、強引にはしたくない、貴方達の気持ちも、大切だから」 羽音は再び殴りつけようとした巧を言葉で制すと、ハルバードを押しやって距離を保つ。 「だから……あたし達の話、聞いてくれる?それまでは、彼女を傷付けない」 言葉通り、恋も羽音も状態がよろめいた陽菜に対して追撃を放っていない。 それでもすんなりとは納得がいかず、振りかぶった銃をおろす様子はなかった。 「とりあえず言いたいことがあるから聞いて貰いたい。己は好きな相手が死んだ後も執着している事は咎めようとは思っていない。 そんな男を支えるだけに徹しているのも応援したいくらいだ」 トップバッターは恋から。 退けと得物を振り下ろす陽菜へ正面から突っ込み、鎌の柄で刃を受け止める。 「だがなっ……死んだ相手への想いで今生きている大事な相手を犠牲にするのか? 死んだやつへの一番の手向けは幸せになることだと、己は思う!」 言葉と共に体当たりするように体を押し当て、全身の力で攻撃を振り払う。 傷つけてはいけない、例えこうして体力をすり減らしてもだ。 「それにな、死んだやつが無理やり動かされているのに助けてやらないのか?」 無理矢理、そのフレーズに巧の表情が変わった。 「エリューションになってるんだよ、陽菜さんは」 『白銀の凶愛』御厨・忌避(BNE003590)が言葉をつなげ、理解を促す。 それならば恋人であって恋人でない、でも姿は恋人なのだ。 苦虫を噛み潰したような顔で銃を下ろすも、それ一つで納得いく筈もなかった。 「己はお前達が今何を考えているかなんて分からない、でも一つだけ断言できる。自分が死んでも想ってくれている恋人を殺したい女なんていないんだよ……っ」 再び襲い掛かる陽菜を今度は羽音が鉄扇を交差させ、立ち塞がる。 「なあ、自分達の手で送ってやってくれよ。己たちも手伝うからさ」 顔を傾け視線を送る恋、その心は二人に伝わった事だろう。 昔と今の清算が始まった。 ● 答えは何処に? 「宮ヶ瀬さんが陽菜さんのためにしてあげられる事って、こんな事なんですか?」 中衛に陣取る『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)が巧に問いかける。 愛する人への手向け、その答えを求める彼女の瞳は憂いを秘めていた。 「今の陽菜さんを、もっとちゃんと見てあげてください……辛くないですか?」 薙ぎ払われ、地面を転がされようとも立ち上がる前衛の女性達は行かせまいと陽菜へと取り付く。 無表情で冷え切った瞳は何も映さず刃を振るい、二人は切り裂かれ、叩き付けられる 傷つく体を『甘くて苦い毒林檎』エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)と『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)の歌声とバイオリンが癒した。 連鎖する様に福音が鳴り響き、不屈の心と体を結び付けていく。 「あのね、聞いて。今の彼女は、不完全な器……いずれは腐り堕ちてしまう。愛する人がどんどん醜くなっていく姿を……貴方は見届けられる?」 スピカの問いが巧の心に被さった氷を砕き、奥深く突き刺さった。 今も愛する人は冷気に包まれ、整然と変わらぬ愛くるしさがある。なのに、瞳が開かれてからは眠っていた表情は崩され、凍てついた顔のまま破壊を手にしていた。 振り返った先にいるスピカの顔も、佐里の時と同じく悲しげなものだ。 「好きな人を思うのは大切なことですし、いいことでしょう。ですが、いつまでも過去にとらわれるのは彼女も望んでいないのではないかしら? の貴方は時間を止めている屍と一緒よ」 エレーナが言葉の追い討ちをかける。 最後の一言は特にキツイものだ、しかし長い偽りを見つめ、目を逸らしていた彼にはそれぐらいの強さは必要だったのかもしれない。 そんな言葉を向けても、エレーナは突き放す様な冷たい視線は向けていない。 気づいて欲しかったのだ、その我侭が愛する人を二重に辛い目にあわせる事に。 「わたしだったらこう思うわ。果てるその時まで、好きな人の前では綺麗でいたいって。その身も、一緒に過ごした思い出も」 思い出と現実は交わる事ができない。 強引に結びつける巧へ、スピカは決別を求めるが巧みは黙ったままだ。 「それに……月夜さんの気持ちにも気がついてあげたらどうかしら?」 「それは……」 分かっている。エレーナの問いに巧は最後の一言を飲み込み、口を閉ざす。 この最悪な結果となった現実を見ても、彼に突き刺さった呪いは抜けてくれない。 「きゃぁっ!?」 壁となっていた羽音が悲鳴と共に後衛の傍まで吹き飛ばされ、スチールラックに激突する。 けたたましい音と共に棚の中身が地面に転げ落ち、彼女を埋め尽くす。 「私が行きます!」 佐里が前に飛び出すと閃赤敷設刻印を構え、追撃を受け止める。 いくら直撃を免れてもダメージは響く、体の軋みを耳に感じつつも前へと押し込んで壁の再形成に入った。 「ねぇ、巧。陽菜のことが本当に好きなら、忘れなくていいよ?」 切り傷だらけの羽音が瓦礫の中から立ち上がる。 俊介の視線に羽音は大丈夫と笑みで答えると巧へ言葉を続けた。 「でも、陽菜への気持ちを……そのまま、月夜に向けてはいないかな? だから、罪悪感を感じてるんじゃないのかなって」 双子の姉妹、面影を思い出すのは間違いないだろう。 否定することのない巧を見やり、俊介が真相へと踏み込む。 「なあ、陽菜ってなんで死んだんだ?」 彼らに提供された情報の中に死因の詳細がなかった、核心に触れるともいえよう問いに巧はうつむく。 「……俺を庇って」 「巧さんの所為じゃないですっ。私が、私が……」 この奇妙に絡まった関係の糸は容易には解けなさそうだ。 ● 贖罪 時は少し遡る。 「私はサタナチア・ベテルエルというの。あなたが片桐月夜ね?」 巧への説得が始まる最中、サタナチアは月夜へ問いかけていた。 頷く彼女へサタナチアは言葉を続ける。 「月夜、あなたが今の巧と陽菜……アンデッドに対して、一体どう感じているのか訊ねたいの」 「私は……巧さんの気持ちに整理がついてくれれば……いいなって。でも、陽菜ちゃんがこうなるなんて……」 暴れまわる陽菜から瞳を背け、俯く月夜。 やはり、この状況が良いとはいえず、けれど巧の決心がつかぬ今、彼女も答えを出せずにいるのだろう。 それを悟るサタナチアは戸惑いを浮かべながらも、思いの丈を綴る。 「あなたは巧のことが好きなのよね?」 直球な問いかけに月夜のほほが見る見るうちに赤く染まる。 分かりやすい反応に、サタナチアも思わずクスッと笑ってしまう。 「けれど陽菜のことも大好きだったと思うの。その陽菜がこんなことになって、あなたは一体どうしたいと考えてる……?」 フュリエたるサタナチアには恋の感情はまだ良く分からない。 しかし、それが喜びと悲しみの両面を持ったものであることだけは理解できた。 興味という理由で問いかける言葉ではあるが、他者へ答えるというのは自身の整理をすることでもあろう。 「月夜さん。貴方も宮ヶ瀬さんにかけたい言葉、あるんじゃないですか? 宮ヶ瀬さんの為に出来ることって、そばで支えることだけじゃないはずです」 微かに震える月夜へ、前衛に飛び出した佐里が背中を押す。 何ができるだろう? 今、目の前で姉の暴挙を押さえ込む彼女達の様に強い意志が生まれない。 「陽菜さんは、私達を退けてこの場からいなくなったら、人を手にかけるでしょう。そんな事はさせたくないですよね?」 答えを返す暇も与えぬ攻撃の嵐、吹き飛ばされた羽音を見やり、すぐさま佐里は前線へ飛び出していく。 整理を遮るつっかえ、それは二人の中に残った罪悪感。 「助けたいです……陽菜ちゃんも、巧さんも。でも、私じゃ駄目なんです。そんな資格、ないですから」 サタナチアは少しだけこの絡まった恋物語の糸口が見えた気がした。 月夜の気持ちは自分達と同じく、陽菜の皮をかぶったアンデッドを倒し、今度こそ眠らせたい。巧も悲しみの呪縛から説きたいことも同じだ。 それなのに何故長い月日が経っても行動しなかったのか? 「何が――」 サタナチアの問いを遮るように巧の告白が届き、そして月夜が叫んだ。 「私が……逃げ損ねたからいけないんですっ。そうじゃなかったら巧さんは私を助けに来るなんて事もなかった! 巧さんを危険に引き込む事も……陽菜ちゃんが、私と巧さんを庇う事も……っ」 月夜は叫びと共に膝から崩れ落ちる。 それが全ての理由、二人を庇って戦いの最中に陽菜は散った。 互いに互いを理由に前に進めずにいる。 「陽菜はお前等の幸せを一番に思うんじゃねーかな」 感情の濁流に呑まれる二人へ、俊介が静かに答える。 無邪気に笑う彼にして珍しく、表情も声も落ち着いていた。 「お前等の事を嫉妬で妬む女だったのか? そんなことで逆恨みする女だったのか? な、陽菜ってどんな子だったか思い出せよ」 二人の脳裏に過ぎるのは同じものだろう。太陽の様に明るく暖かな微笑を浮かべる人、どんな時もその心に温もりをくれた人。 二人の顔に確かな決意が見えた。 「夢から覚める時間だぜ」 悪夢を終わりにすべく、リベリスタ達の反撃が始まる。 ●未来へ 攻撃の許可が下りれば、作戦は次の段階へ。 佐里の赤い軌跡が無数に襲い掛かる、既に行動のパターンを解析しきった彼女からすれば、何処が守りづらい場所かも良く分かっていた。 腕や脇腹など、攻撃は首から下に集中する。 佐里に続き、恋が鎌を素早く振りぬき真空を刃に変えれば腹部へ直撃させた。 しかしアンデッドの反撃も激しい、一薙ぎすれば前衛の体力を大きくそぎ落とし、二振りすれば同時に二人を吹き飛ばしてしまう。 「しまったっ」 「ぐぅっ!?」 距離を詰められぬ様にと再び羽音が前に立ち、壁となる。 援護と俊介の全身から放たれた眩い光が、邪を払うべくアンデッドを照りつける。 中に宿る悪意だけを焼いたのか、目立った外傷はないが苦しむ様は効力の裏づけだ。 回復に専念していたスピカとエレーナも、吹き飛ばされた二人の様子から危険なではない事を察すると攻撃に加わる。 (「まずは終わりの物語をお届けしましょう」) スピカは破壊の調べを四つ重ねに奏で、異なる光がカルテットの具現となって放たれ。 (「わた子の受け売りではありませんがバットエンドは嫌いなので……行きましょうか」) 更にエレーナのライフルから誘導弾の如く、魔力の塊が吐き出され、交じり合う。 しかし狙うのはなるべく顔を避けていた。 戦う前に全員が決めていた事である、例え倒すにしても、綺麗なまま眠らせようと。 サタナチアも大型のクロスボウで狙いを定め、連続射撃を叩き込むが、間接等を撃ち抜くだけに留める。 敵の接近戦を警戒しながらの遠距離攻撃が、先ほどまでの猛攻を一気に抑えていった。 (「今ですっ」) 動きが弱ったところを見計らい、スピカが接近し、ヴァイオリンに調べに乗せてオーラの糸を無数に放つ。 それはアンデッドの体を縛りつけ、一時的ながら動きを封じこめる。 「……ねぇ。まだ、陽菜の事を愛していると言うのなら、不完全な器に閉じ込められた彼女の魂を解き放ってあげて」 巧へと振り返り、最後の時を告げる。 「月夜もよ。これまでと同じ様に、彼を支えてあげて」 月夜にも未来を見る様に願う。 「これまで、大切に紡いできた物語だから、どうか二人の手で……この物語に幕を下ろして」 過去との決着を求めるスピカは、最後を二人に託し前を譲る。 「最後は貴方次第、自分で鎖を断ち切るか、辛いなら私たちが変わりに……でも覚えておいて、彼女が貴方に何を望んでいたのかを……何を託したかったのかを」 「分かってる、思い出した。陽菜がどんな女だったかも、最後に言い掛けた言葉も」 二人を心配し、エレーナが言葉をかけるも、要らぬ心配だった様だ。 二人は前に踏み出す。 「またな、陽菜」 「陽菜ちゃん、おやすみなさい……」 弾丸と刃の交差、崩れる陽菜の瞳は静かに閉ざされていった。 スピカの鎮魂歌の中、サタナチアが陽菜の遺体を綺麗に整えていく。 当の二人は決別したとは言えど、溢れる悲しみを抑えきれるはずもなく泣き続けていた。 「これは、貴方達が持ってて」 羽音が差し出したのは陽菜が握っていたクローバーのハルバード。 ぐしゃぐしゃになった顔で二人は彼女を見上げる。 「さよならはしたけど、陽菜のことを忘れないで欲しいの。貴方達を結びつけたのは、陽菜だから……」 巧はぐしぐしと袖で顔を拭うと、しっかりと差し出された形見を握り締めた。 「前衛に転職しないとな」 強がりな言葉に羽音と月夜が微笑む、残された彼はもう歩き出せると確信して。 (「……あなたの眠りが穏やかでありますよう」) サタナチアは心の中、冥福を祈る。 安らかな眠りにつく陽菜の最後に見せた表情は、夕日の如く明るい笑顔であった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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