●藁人形 所詮は叶わぬものならば、夢など見なければ良いのに。 そうは思えど、繰り返し願うのだから哀しくて仕方がない。 命が無ければ思わなかったのに。命が無ければ知らなかったのにと繰り返し繰り返しこの世に生を受けた事を呪い続けた事がある。 いっそ、自我ないうちにこの世から消えてしまえばどれ程良かったのであろうか。 人になれない事等知っていた。人と違うことだって知っていた。 自分が、また別の夢を見ていることだって、嫌になるほど、解っていた。 「恋をして、人は変わると言うわ。じゃあ、ペトルーシュカは変われないのかしら」 何故、と誰かが聞いた気がした。少女はかくかくとなる関節を動かして、実像の無い霧へと手を伸ばす。 腕を動かすたびにその間から落ちるおがくずに嫌になるほど自分が『人』じゃないと言う事を実感した。 「ペトルーシュカは人じゃないから。ああ、けれど、夢を見て居たいわ。 ねえ、せかいはやさしくないのね? ねえ、ずっとそばにいるなんてできないのね?」 ペトルーシュカ、ペトルーシュカと呼ぶ声に人形は大きな桃色の瞳を細めて小さく笑う。 「ねえ、あの人が欲しいの。あの人が。どうしたら、手に入るかしら?」 それはね、ペトルーシュカ、あの人がペトルーシュカの仲間になってしまえばいいんだよ――? ●『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は恋愛小説を嗜む 「お人形が命を持った。それで、恋をした。……叶わぬならば、いっそ、気付かない方がいいのに、ね?」 手にした恋愛小説を机に置いた世恋はお願いしたい事があると常の通りリベリスタを見回した。 「アザーバイドが人間に恋をしたの。アザーバイドの名前はペトルーシュカ。彼女は藁人形よ。人間に憧れ、人間に恋をしたアザーバイド。 ……彼女、人間がとても大好きだけど、同時にとても大嫌いなのよ。憧れが嫉妬に変わる。判るかしら? それで、人間を殺して自分と同じ人形にしてしまおうとしているわ。そうすれば、好きな人も『同じ』になるし、自分が何かに憎悪する事もないでしょう?」 困ったちゃんなのねと小さく苦笑い。彼女による殺人も数件は起きているらしい。 今回は彼女が『殺す前』を丁度観測できたからと、世恋は告げる。一般人を守る必要はないけれどと言い辛そうに紡ぐ世恋は意を決した様にリベリスタを見回した。 「彼女が殺そうとしていたのは想い人。だから、彼女が想い人に逢いに行くのを止めて欲しい。 会えばきっと彼女は殺してしまうから――だから、彼女の恋を終わらせてほしいの。 彼女は帰り路を失ったアザーバイドよ。元より、討伐しないといけない対象なの。 ……想い人を殺して、ソレが意味を為さない行為だと気付く前に。 私のわがままだけど、まだ、恋心を抱いた『少女』であるままのペトルーシュカを倒してあげて欲しい」 本当は想い人に逢わせてあげたいけれど、と小さく呟いて世恋は苦笑する。 想い人の現住所は判っている。彼が気さくな人物だと言う事も世恋は調べたらしい。 「あ、必要なら……どうぞ、彼女の想い人の住所。使えるものか判らないけど、一応。 取り敢えず、ペトルーシュカと彼女が生み出す霧への対処、どうぞよろしくお願いするわね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月09日(火)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 何処からか不規則なモノの動く音がした。その音を耳にしながら『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)が周辺に広めた強結界。周辺住民への配慮として彼女が行った其れを横目に、都市伝説がアハハと音階の合わぬ笑い声を漏らし続けた。 「恋心。素敵デスヨネ。少女たるものは恋は避けては通れない――謂わば『宿命』のようなものデス」 尤も、と両手の大ぶりな肉切り包丁の切っ先を揺らす。虚ろな蒼をぼんやりと向けた『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)は『通り魔系都市伝説型愛され少女』である以上、持論である宿命の恋心を抱いている筈なのだが―― 「ボクの望む恋は殺し愛。恋よりも強い欲求である愛は斬って斬られて刻んで刻まれ。バラバラにされて撒き散らし合う、そんな血に濡れた愛情(モノ)デス。ボクはソレが欲しい」 「エリスは……あまり、恋愛には詳しくない……けれど」 様々な形があるのだと、それでもエリス・トワイニング(BNE002382)は知っていた。頭で揺れるアンテナの様なアホ毛が周囲を探る様にふわりと揺れた。ぼんやりとした青は未だ理解し得ない『恋心』を想い浮かべる様に緩やかに揺れる。 「他者に……強いるようなもの……自己の欲求を……優先するものを……愛と、呼べるのか……」 「どうなんだろうね? 恋心。それは未だに私の……ううん、私達の知らない想いの結晶だから」 異邦人は杖を握りしめ、少し羨ましいと目の前で恋を憂う『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)の背中を見詰めた。黒いゴシックロリィタに包まれた華奢な背中は、自分の世界を守るために其処に立つ意志を感じさせていた。 抱きしめ続けた思いは淡く、常に消えてしまいそうなものだけど何時か望む夢の為に―― 「私は、倒すわ。素敵なお伽噺じゃない。人に恋するアザーバイドに恋に恋するストロードール。 素敵であっても、ボタンの掛け違いは怖いわ。世界のズレ、認識のズレ、常識のズレ、何れにしたってソレが世界を壊すのだから」 真っ直ぐに、路地の向こうから迫りくる気配へと目を向ける。その言葉に何処か不安げに瞳を揺らす異邦人は「それでも」と小さく呟いた。彼女たちは運命に寵愛され、この場に立っている。嗚呼、けれど、運命に愛されないままの『異邦人』はこの世界を壊してしまうのだから。 「かわいそうな、ペトルーシュカ」 ぽそり、と『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)が零した言葉に目を伏せたのは『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)であった。ペトルーシュカ。シエルが耳にした事があるその名前は有名なバレエ音楽のひとつであった。その物語になぞられるかの如き異邦人の行いに、シエルの胸が締め付けられるのも致し方ないだろう。 「今、貴女様の心に在る愛情と憎しみは、正に人のソレではありませんか……。 感情が、藁人形の身に募る、その辛さ。いと激しき想いは苦しゅうございましょうに……」 抱き締めた傷寒論-写本-。指先が、震えたままに常に身につける紫苑乃数珠-祈-へと伸びて行く。シエルさんと小さく声を掛けた『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)の言葉に、自身に憧れたと何時か口にしてくれた少年の言葉を想いだし、緩やかに笑みを浮かべた。 「対象、戦闘範囲内に出現。ターゲット補足。情報通りです」 機械染みた言葉を告げる『中古 20GP(箱・取説無し)』型 ぐるぐ(BNE004592)がコードで象られた洋服の裾を揺らし色違いの瞳で真っ直ぐに見据えた。 「こんばんは、貴女がペトルーシュカ? 残念ながら、此処は行かせないわ」 甘い想いを抱いたまま、鮮やかな赤い瞳を細めた糾華がゆるやかに微笑んだ。 ● 許されない想いに苛まれ、痛いと涙するとしても、ソレを羨ましく思うのがやはり無知である証拠であろうか。暗闇の中で目を凝らすルナが魔力増幅杖 No.57を抱きしめて切なげに空色の瞳を細める。 少しだけ、羨ましい。その想いを抱く事が出来た『彼女』が。 「ねぇ、――恋って、何なのかな?」 羨ましさが心を変えるのか。燃え上がる火炎弾が雨の様に降り注ぐ。少女の想いを映す様に、青く燃えるソレの下、波打つブラウンの髪を揺らすペトルーシュカが嫌々と首を振る。 「こんばんは、ペトルーシュカちゃん。私はルナ。お姉ちゃんが貴女の想いを、止めに来たよ?」 『――ッ!』 同じ『人でない』長耳の少女の言葉にアザーバイドが目を見開く。大きな桃色が見開かれると同時、彼女の目の前で笑った糾華の周囲でふわりと幻想纏・III「夜光蝶」がその燐光を零れさす。浮かび上がるルーレット。運命を司る不条理なるルーレットは死神と呼ばれる彼女の運命をBetする。 「さぁ、ゲームをしましょう? 賭けるのは私と貴女の運命。蝶と藁人形の命をかけたチェイスゲーム」 「けど、その答えは決まってるデショウ?」 ケラケラと笑いながら前線へと飛び出す行方が自身の肉体の制限を外す。リミットオフ。限界までの力を放出する様に少女の細腕に似合わぬ肉斬リが零れる蝶の燐光でギラリと妖しい光を零した。 前線に飛び出すリベリスタを狙う様にペトルーシュカが放つ光は彼等の仲間が使用するスターライトシュートと似て非なる能力を有していた。光りの矢をはしばぶれーどで受け流し、何処か切なげに歪められる柘榴の瞳が優しく笑う。 「たとえ、人に為らなくったって変わる事はできるんだよ? ソレがわからない限り、変われないよ。わたしはペトルーシュカを『乙女』にしてあげたい」 何を、と口が動いた様に見える。驚くほどに白い肌の人形の前で怪物とさえも呼ばれる力を有す壱也が戦気を纏い、何者にも阻めぬ勢いを――目の前の人形をこれ以上先に通さないと言う意思をその体全体から吐き出した。 「恋する乙女が強いのは知ってるよ? 気を抜かないでがんばろ」 「苦しく痛い想い(あいじょう)から解き放ってさしあげましょう」 両手を組み合わせ、懐中電灯-星の欠片-が照らす中、常に後衛で回復を行ってきた光介の『師匠』は深化した翼を広げた。地面を蹴り飛びあがり、暗がりで灰色掛かる翼を広げたシエルが魔力の舞う風の渦にペトルーシュカの呼び出す『ひとゆめ』を巻き込んだ。 その背を見詰めながら、リュネットをくい、と指先で上げた光介の矢が藁人形の方へとささる。シエルの云う様に人間の感情とは表裏一体だと、光介も知っていた。 恋慕と嫉妬。愛と憎。愛憎とはよく言った言葉だ。鬩ぎ合うその想いは、何処までも『人らしい』のだから、全く以って困ってしまう感情だ。その想いを心の底から感じる事が出来る藁人形は、なんて『人』なのであろうか。 「きっと人よりも『人らしい』のに……」 唇を噛み締めた。眼鏡の向こう、暗がりを見据える瞳は哀しげに細められる。人らしい彼女の恋を応援したいと光介だって思った。それを許さないのが何か、光介は知っていた。握りしめた掌に力が籠る。 ――世界がその恋を認めないと言うならば。 「せめて、ボクは……貴女の『人らしさ』にだけは、報いたい、です」 その言葉にペトルーシュカの周囲に存在する『ひとゆめ』が前線へと迫りくる。ぼんやりと色違いの瞳で見つめるぐるぐが『恋』と耐えず繰り返した。 恋、鯉、故意、戀、濃い、こい、コイ、koi―― 「私は恋という概念を理解できてません。異界の来訪者である貴女の得たその気持ちを大事にしたい、願わくば実を結ぶ事を望みます。 ですが、私はソレが今回許されず恐らく叶う事も無い事を知って居ます。統計上、結果が不幸だと知って居ます」 淡々と告げ続けるぐるぐの声。何よりも戦闘支援を行う事に特化したプログラムの様な小さなぐるぐは『ひとゆめ』をじ、と見据えて、情報を解析する。 前線で戦う仲間達を支援する様にエリスが施す癒しの力は強力だ。ハイ・グリモアールをなぞる指先は何時か読んだ事のある本を思い出させた。 「好意と……憎悪は……表裏一体。その人に……関心があるがために……容易にどちらにも……」 それでも殺すのは駄目だと知っていた。独り善がりを愛と呼べるのか、エリスはふるふると首を振る。 未だ分からない答えは少女が受信した事の無い『電波』でしかないのだろう。 『何で邪魔するの』 「ここからは行かせられない。あなたは変わろうとしないから、そんなので行ったって――!」 意味が無いんだ、と声を張り上げて壱也が振り下ろすはしばぶれーどが雷撃を纏う。其の侭一歩下がる少女の目の前へと舞い踊る蝶々はペトルーシュカを突き刺し続ける。 「何をしたって此処から先には行かせられないのよ」 壁に沿う様に立つ糾華が全体を見据え、蝶々を舞い散らす。鮮やかに戦場を彩る蝶々の中、フリルとレェスで飾られた可愛らしい少女の洋服が揺れた。頭を飾るヘッドドレスのリボンがゆらりふらりと揺れる。地面を蹴りあげて、骨断チが振り下ろされる。感触は、ただの藁だ。 「素敵デスネ、恋する存在というものは。強い気持ちは輝くものデス。ああ、その輝きを刻みたい。 そこに在る想いごと、斬って斬って切り刻んでやりまショウ。アハハハハハハ!」 潜る様に、行方が滑り込む。彼女の周囲を舞う蝶々が、都市伝説を更に彩った。蝶々の中、包丁を振り下ろす都市伝説がまだ幼く可愛らしいかんばせには似合わぬ笑みを浮かべて唇を釣り上げる。 「ボクと人形の恋は違う形のようデス。何故って、愛し合っても憎む事なんてボクには全くないのデスカラ」 人の恋心とは様々だと聞いていた。身を以って実感した様な気がして、ルナは炎を振らせながら、ひとゆめを減らしていく。繰り出される攻撃に、前線に立つ糾華の体が壁へと押しやられる。その往く手を防ぐ事が出来ないならば、一発触発、全て蹴散らせばいい。炎の勢いに押されたひとゆめを巻き込む魔力の風が吹き荒れる。 「ペトルーシュカちゃん、私は恋を知らない。それでもね、ペトルーシュカちゃんが遣ろうとしてる事が間違ってる事は、解るから」 だから、と唇をかむ彼女を支援する力があった背後から支援を送るぐるぐが瞬きながら己の中で巡る魔力を確認する。 『――ッ!』 「私はあなたがその夢を抱いたままに眠る事を望みます」 その言葉にペトルーシュカの作り物の桃色の瞳がギッと色違いの瞳へと向けられる。勝ち合う其れに幼いかんばせは変わることなく小さく首を傾げた。前線から放ち続ける光りの矢によって削られる仲間の体力を想い眼鏡をかけた光介が目を細める。 「術式、迷える羊の博愛!」 仲間達を癒し続ける光介の瞳が何時もの優しげな色を湛えない。切なげに細められる瞳が告げるのは自分自身が思い描く『人の形』であったのかもしれない。 生きて、生きて、人らしさを曝け出して。愛しさとその対に在る憎しみを曝け出してほしい。 この身にその憎悪がぶつけられたならば、きっと、生きて恋した事の証左になるから。 ――ボクにできる唯一の手向け。感謝される筈もない、身勝手な解法。 目の前で羽ばたくその背中に目をやって、唇がゆっくりと紡いだ。出来る事を、くれた人が其処に居る。 ● 流れる様に髪が揺れる。幾度となく振り下ろす剣に込められたのは変わりたいという一心だったのかもしれない。変わらないといけない。心の整理が必要で、混乱して、苦しくて、どうしようもなくなった。 ぽっかりと開いた穴を埋めるものは? その答えは? 未だにわからないままだから。 「別に人間じゃなくったって変わる事は出来るじゃん! たとえ見た目は変わんなくても中身って何時でも変われるんだ。 女の子は、変えるより変えてもらうほうが綺麗になれる。中身が変われば見た目だって変わるんだ」 自分が、そうだったように。キラキラ輝いて居た結晶が其処にはあった。一度は足を止めてしまいたかった。 それでも、戦う理由があるから―― 「好きな人の為に自分が変わりたいって思う事で女の子は変わるんだ。そう思える事がもう綺麗でしょ? あなたにはソレがあった? あなたが変わりたいのは自分の為? それとも人の為なの?」 はしばぶれーどが孕む雷撃にペトリューシカがいやいやと首を振る。その痛みを全て跳ね返す攻撃に一歩下がる壱也とペトリューシカの間に滑り込む行方が文字通り狂ったように笑みを浮かべた。 「アハハ! 人でなくても変われるデスヨ。 刻まれてしまえばアナタも彼と同じ残骸。 変わるものは心だけではないのデスカラ。アハ。ほらほら、さあ、刻んであげるデス」 少々力任せの愛を笑いながら伝える行方の体が滑る。癒す様に二重に伝えられるエリスと光介の支えに少女が更に笑みを浮かべた。都市伝説は紅潮する頬を隠さない。都市伝説は高調するテンションを隠さない。 「ボクの愛は少々力任せデスヨ? アハハッ!」 「愛の形など沢山あるのでしょう……もう、あの方にお教えする事は御座いませんね……」 両手を組み合わせ翼を振るわせるシエルの瞳がちらりと光介へと向けられた。癒しの教えを乞うた彼との師弟関係は此処で終わり。何て頼もしい回復陣だろうか。バックアップを行うぐるぐからの供給で耐えず回復を行う光介とエリス。多少と運命を削ったとしても、それでも安心できる此れこそが信頼か。 「ペトルーシュカ様。私も少し前まではただの空っぽでした。人形で御座いました」 姉になりたい。姉のフリの出来る人形になりたかった。その傲慢な思いが己の過去と重なって見えたのだ。指先が捲る頁が、力を与える気がして、北極紫微大帝乃護符を握る指に力を込める。 「苦しゅうございましょう……? もう、終わりに致しましょう」 その言葉に攻撃の手を強めるリベリスタ。ひとゆめを蹴散らす様に、蝶々を回せる糾華の唇に緩く浮かんだ笑みは恋心を想い浮かべたからであろうか。 「ねえ、ペトルーシュカ。私は貴女の恋を否定しない……けれど、貴女の憎悪を私は否定するわ」 自分の恋心が『人と違う』と糾華は知っていた。人とは少し違った同性同士で革醒者同士。理由をつけて曲げてしまって諦めてしまう様な思い出も大切に抱きしめて居たいと、その淡い想いを抱いて思う。 「私の想いは私の物よ。だから、誰にもあげない」 「皆、今……!」 回復だけは欠かさない、その想いを真っ直ぐに向ける。或る意味回復に恋を抱く様なエリスの想いに頷いたぐるぐが「支援です」と彼女の『自信の源』を手渡した。巡る魔力が生み出す癒しに光介の支援も相まって、前線で体勢を崩した壱也が立て直す。 『ペトルーシュカは』 「前に進まなくちゃいけないんだ! 私と一緒に変わろう? あなたは誰の為に変わりたい? 何を伝えたい?」 『あのひとと一緒に居たいだけだった!』 叫ぶように声を絞り出す人形に、壱也が優しく笑みを漏らす。伝えてあげる事しかできないんだ、と囁く壱也に対して、背後からぐるぐが色違いの瞳をじ、と向ける。 「ターゲット補足。対象のHP残量が規定値に達しました」 「アハハハハ! さあ、沢山の切り刻んで刻んで刻んであげまショウ! ボクの愛は痛いデスヨ?」 ぐるぐの気糸と共に踏み込んだ行方の渾身の一撃がペトルーシュカの体を壁へと押し付ける。 恋心なんて行方は抱いて居なかった。『殺し合い』はしていても恋はまだまだだと自覚している。なんたって『子供デスカラ』。その一言で片づけた行方は切り刻むだけだ。遠慮なく叩きつけて叩き潰して、全てを終わらせる。 振り下ろされる骨断チにペトルーシュカの腕が飛ぶ。其れに合わせる様に繰り出された火焔は周囲に存在するひとゆめを炎の中に取り込んだ。 ルナが切なげに青い瞳を細めて優しく笑う。自分が知らない思いだから、知っている人形が羨ましくて。 「ねぇ、ペトルーシュカちゃん。貴女の想いを、私に教えて?」 恋心は、形にして、届けたいから。彼女の言葉で、真っ直ぐに届かなくたって、それでも―― 「彼女が恋する少女のまま眠らせて、そう仰っていたのです。貴女の亡骸がもしも害がないならば、一寸したものを作っても良いですか?」 恋心と共に届けたいと祈る様にシエルが指を組みあわせる。魔力の波の中、ぐるぐがこくんと頷いた。魔力の無い只の『人形』になるならば、その欠片を彼へと渡したい。少女人形が首に付けていたネックレスが千切れる。ボトムで何処かから拾ったであろうネックレスがころん、とぐるぐの足元へと転がった。 「あなたの欲しかったものをボクは持っています。ボクが貴女に見せてあげます」 優しくシエルに向けて微笑んだ笑みを見て、ペトルーシュカが叫び声を上げる。それがほしい。欲しかった、それが一番欲しかったのに、何故―― 「ボクを怨んで下さい。ボクに憎悪を刻みつけて下さい。この世界に貴女が生きて、恋した証を下さい。 その激情だけは決して嘘にはならないから」 叫び、その身を前進させようとするペトルーシュカの足が縺れる。全員の一撃が一心にペトルーシュカの体へと集められる。輝く光りに瞬いた藁人形が最後に見たのは輝く雷撃と、己に伸ばされる白い腕。 「――ねえ、人を好きになってくれてありがとう。あなたはちゃんと恋する乙女だったよ」 想い出話を一つしよう。 一通の郵便が届けられたと言う。名も知らぬ人から加工された小さな石のネックレス。 名の知らぬ人から唐突に来たラブレターに青年は何も言わずに大事そうに抱えて、其の侭、部屋へと帰って行ったそうだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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