●慈悲は無く 最初は訳が分からず……しばらくしてから、視界に映る物が何か理解できた。 ひしゃげて半壊した状態で横倒しになったバスだ。 慌てて動こうとしたものの、頭はぼうっとして身体もうまく動かせなかった。 かなり血を失ったからだろうと考えた。 顔や頭に、べったりと血が付いていたからである。 「み、みんな、大丈夫!?」 言ってから、大丈夫な訳がないと思った。 バスが形を留めていない程の衝撃があったのだ。 自分だけが生き残ってしまったのでは? そんな絶望的な気持ちを抱いた時…… 「うぅ……」 傍らでうめくような声が聞こえた。 もどかしさを感じながら身体を動かしそちらを向くと、一人の生徒が倒れている。 顔は青白く、腕や足があらぬ方向を向いていた。 それでも…… 「だ、大丈夫? ……あ、あら?」 顔も性格も覚えている。 それなのに名前が出てこない……頭が、働かない…… 「……せんせい?」 「……あ、ええ。そうよ? 大丈夫、動かなくてよいからね? 痛い?」 「……よくわからない……動こうとすると」 「だいじょうぶ、じっとしてて良いからね? すぐに救急車とかが来てくれるからね?」 動こうとする生徒を慌てて止めて、短く息を吐いた。 安堵したのと同時に、他からも生徒たちの声が聞こえ始める。 奇跡だと思った。 運転手の人は亡くなっていたけど、生徒たちは全員……酷い怪我をしている者もいるけれど、生きている。 何か所も骨折したり、酷い怪我をして血をずいぶんと無くしたりした子もいるようだけれど……今のところは、全員意識があるのだ。 「とにかく皆、じっとしているのよ? すぐに救助の人たちが駆けつけて来てくれるわ」 彼女はそう言ってハンカチで頭を押さえた。 ずいぶんと酷い怪我のように思ったものの、血はそれほど激しく出ていない。 (これなら、救助の人達さえ来てくれれば……) 息苦しさのようなものを感じて、彼女は唇を動かした。 息は、出ていなかった。 ●許容も無く 「……生存者は一人もいません。生きているように見えるのは……E・アンデッドとなった為です」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)の顔色は、白を通り越して青みを帯びているようにも見えた。 目の周りだけ赤みはあるが、瞳に滲むものは見当たらない。 もっとも、口調の方は不安定だった。 小学生を乗せたバスが崖下へと転落し、運転手を含む全員が死亡。 そして運転手以外の乗員全員が、E・アンデッドとして覚醒する。 「児童23名と担任1名の、計24名です」 エリューションとなった以上、放置は許されない。 「……皆さんには、すべてのE・アンデッドの撃破をお願いします」 フォーチュナの少女は説明した。 事故現場は山の中を走る2車線の道路で、周囲には人家はもちろん田畑も存在しない。 事故の時間帯は夕刻で雨が降っており、しばらく車も通らないようで、警察や救助隊などが気付いて動く時間も遅れるようだ。 「事故現場は崖下になります。バスは斜面を転がって半壊した状態で横倒しになっており、生徒たちは担任に従って、バスの近くでじっと救助を待っている……という状況です」 それが生きていて、だったら……どれだけ良かっただろう? 「最初は記憶や知性などで生前と大きくは変わらない様子ですが……徐々に、エリューションとしての本能に侵されてゆきます」 救助隊などが来るころには、人間らしさは殆んど失われてしまっているだろう。 時を掛ける訳には、いかない。 「フェーズは担任だった方が2、生徒たちは全て1となります」 エリューションとなった事で、人間を越えた身体能力を発揮し、耐久力も極めて高いものとなっている。 特殊な能力などは無いが、殴りつけ、締め上げてくるだけでもリベリスタを傷付けられるくらいの力があるようだ。 そして、人間としての外見が損傷しているのも構わず動くようになっていく。 「もちろん、個々の能力でいえば皆さんには大きく劣ります。1人で複数と対峙しても、油断しない限りは大丈夫だと思います」 だが、リベリスタにとってはそうだとしても、一般にとっては充分に危険である事は間違いない。 僅かと言えども、残す訳にはいかないのだ。 「あと、もうひとつ……現場にフィクサードが1人現れます」 少し間をおいてから、マルガレーテは付け加えた。 フィクサードの名前は『言葉遣い』物語・終(ものがたり・おわる) 「見た目は十代の少女という外見です。姿は現しますが、直接皆さんに攻撃を仕掛けたり等の妨害は行っては来ません」 ですが、と……フォーチュナは少し口籠ってから、人によってはそれ以上の妨害かもしれませんと言葉を続けた。 「……彼女は皆さんに質問してきます。『今、みなさんはどんな気持ちなんですか?』って……リーディングを使えるみたいで、思えば口にしなくても、彼女には関係が無いみたいです……」 傷付けようとか、苦しめようとかではなく、純粋に知りたいというは……踏み躙る、という意味では寧ろ最悪かも知れない。 「もちろん皆さんが攻撃すれば反撃してきます。構わないという事でしたら戦って下さって構いません」 本来の任務を考えれば、敵をわざわざ増やすというのは下策といえる。 それでもと考えるならば、選択肢が追加される事になる。 「実際の彼女の戦闘力は分かりません。ただ、彼女は『破界者たちの主』というアーティファクトを所持しています」 所有者の力に応じてエリューションを従える効果があるらしい。 現在の所有者の下ではフェーズ1を数体従えられるという程度らしいが、別の要素が加わる分、本来の戦闘と比べれば難しい事になるのは間違いない。 「最優先は、すべてのE・アンデッドの撃破です」 それ以外のことは全て、皆様で判断して下さって構いません。 「……どうか、お気をつけて……お帰りをお待ちしています……」 ところどころ口籠りながらそう言って、マルガレーテは深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月14日(日)22:57 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●心の世界 ただただ、不幸だったのだ。 「世界はいつも残酷だ」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は呟いた。 分かっていた事だ。 今まで幾度も、思い知らされてきた事だ。 それでも……やるべき事は忘れない。 (これ以上の犠牲を生む前に) 「仮初の命を、終わらせなければいけない」 だから雷音は現場へと急ぐ。 (殺したくなんてないわよ) 『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)は誰にも言えぬ想いを、自身の内へとぶちまけた。 能力で自身の心を偽って、楽しそうに……殺す。 それが、彼女の考えだった。 子供たちに悪いとは思う。 (でも、フィクサードに本心を知られるのは嫌だし) アークに変な人も居る、戦ったら何されるか判らない……と、思わせておきたい。 「ううん、それも嘘かもしれない」 どうしよもない程の自覚はあった。 (結局のところ、私は……自分自身が嫌いだから) あるいは、他人に好かれるのが怖いから…… (嫌われたいだけなのかも) 嫌われるために、エリューション化しているとはいえ子供に恐怖を与える。 最悪の感情が込み上げてくる。 それを抑え込み、滲ませず、彼女も道を急ぐ。 共に急ぐ『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)も、表には何も見せていなかった。 唯、まっすぐに。キリエは進む。 正義の味方になりたかったノーフェイスの少年の命を奪った時に、約束した。 これからは私達が君の代わりに弱い者達を守っていく、と。 「あの子の願いは、今は私の願いでもある」 だから、キリエは歩みを止めない。 (皮肉でも何でもなく、可哀相とか全然思わねェ) 「育った環境のせいかなァ」 仲間たちを見ながら、コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)は小さく呟いた。 運悪く死んで、運悪くバケモンになって。 「オレたちと戦って、弱かった方が死ぬ」 (全然おかしいコトない、フツーで、当然のコトだろ?) どう生きていったところで、運が悪ければ、弱ければ……死ぬのだ。 (しょうがねェよ。良いも悪いも正解もねェよな) そう思いはするものの、彼は仲間たちの考えを否定しようとは思わなかった。 自分の持てない感情には、そういう考えもあるのかと感心したりもしていたのである。 一方で、キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)の考え方は、表面的には似ている部分もあるかも知れないが、根本的な部分で異なっていた。 「そこまで面倒な依頼ではないですか……」 そう呟きながら彼女は、素直に殺すという案が通って良かったと思っていた。 彼女の思考は、人道が如何という処には向かわない。 単純に、効率的に、時間かけるのが無駄。 そういった方面に向かうのだ。 そもそも、殺すのではない。 (殺す? お仕事なんだから当たり前じゃないですか。というかもう死んでますよね) それなのに何故、わざわざそういった方に思考を向けていくのか? 彼女はそういった方に考えを向けなかった。 自分には意味のない、無駄な事。 そう考えているからである。 完全に、割り切る。 或いは、世界の中に自分の世界を作る。 それが出来れば、人生は随分と変わることだろう。 ……以前が如何なのかは分からない。 だが……今の、『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)には……それは、出来ないものだった。 子供達は、自分は生きていると思っている。 (しかし拙者達が着いたときにはもう……化け物になってるのでござるのな) 「拙者が今、楽にしてあげるでござるよ」 呟いて彼は、速度を上げた。 痛みが、苦しみが……今の自分を救ってくれるのかは分からない。 (おぬし達は拙者が殺した、そう思ってくれて構わないのでござる) それでも自分は、駆け続けるしかないのだ。 「拙者に苦しみなどないでござるよ」 男は自嘲気味に呟いた。 「既にこの手は……罪に塗れてるゆえ」 ●終わりの始まり 子供たちに出来る限り恐怖を与えないようにする。 それがキリエの目標だった。 接触時には仲間と同じ側に立たぬように、互いが一度に子供達の視界に入る事がないように注意する。 事前に話を聞いた限りでは、子供たちは痛みを感じていない可能性があった。 もしそうであるならば……攻撃に気づかせず倒すことができれば、恐怖を感じさせずに済むかもしれない。 難しくはあっても、試してみる価値はある。 キリエはそう考えた。 「助けに来たよ、よく頑張ったね」 仲間の攻撃が目に入らないように、気を引くように。 現場へと到着したキリエは、笑顔で彼ら彼女らへと呼びかける。 「あ、ありがとうございます。かなり酷い怪我の子もいて……」 人間としての理性などが失われつつあるのか、元の性格ではあってもあまりの事態に冷静な判断力を失っているのか。 担任の教師らしき人物がキリエは話しかけてきた。 その動きは……既に人間とは、かけ離れ始めている。 (ボクにできるのは終わらせることだ) 雷音は凄惨な現場に息を飲みながらも、自分に言い聞かせた。 キリエは話をしながらも並列してありとあらゆる状況と可能性を計算し、行動方針を模索する。 使用するのは、全身から伸ばす気の糸だ。 出来る限り多くを射程に入れるように心掛け、無駄な恐怖を与えないように一気に、視界に入り難いように。 キリエは気の糸を周囲に放った。 精確な狙いを持ったその攻撃は、本来以上の威力で対象たちを終わらせようとする。 もちろんE・アンデッドと化した子供たちは、無論容易には倒れない。 だからこそキリエが気を引く間に、他の者たちも動いていた。 最初に人間性を残してる子供から、殺す。 (そう。倒すではなく殺す、でござる) 虎鐵は淡々と、力を込めた刃を振るった。 人殺しには慣れている。 圧倒的な破壊の力が籠められた彼の斬撃は、リベリスタやフィクサードであっても未熟な者ならば一撃で葬るほどの威力を持っていた。 跡形もなく粉々にするように、男は唯、刃を振るう。 「來來氷雨!」 低く翼を羽ばたかせた雷音はそのまま印を結び、すべてを凍結させる魔の雨を降り注がせた。 「君達はもう楽になっていいんだ。痛いのは終わっていいんだ」 その血と仮初の命を、洗い流すことができたなら。 あるいは、何もかもを凍り付かせる事ができていたら。 自身の心すら凍り付かせる事ができていたら、少女の心は血を流さずに済んだのだろうか? 瞳は何かを滲ませずに済んだのだろうか? 「何故です!? なぜ、こんな事を!?」 隠しきれぬ目の前の光景に、担任の女性は錯乱気味に叫ぶと、虎鐵に駆け寄ろうとした。 その彼女を抑えるように、コヨーテが立ち塞がる。 「何でこんな事が!? 何でっ!!」 「それは貴方がたが、もう人間ではないからですよ」 そう言ったのは、虎鐵ではなかった。 「貴方がたはもう、死んでいるんですよ? ……ああ、リベリスタの皆さんが隠そうとしていたのでしたら、御免なさい」 そう言って子供たちを、エリューションたちを間に挟むような位置に、一人の少女が姿を現す。 「今晩は、リベリスタの皆様方。『言葉遣い』物語・終と申します。御仕事中にお邪魔してすみません。気にせず、お続けになって下さい」 淡々としているようでもあり、何かを望んででもいるようにも響く言葉に微かに眉を動かしながらも、キリエは静かに担任の教諭へと視線を戻した。 「生徒達を励ましてくれて、ありがとうございました」 それは、素直な感謝の言葉だった。 そして、最後に贈る言葉にもなった。 子供たちを庇おうとする以上は、放ってはおけない……虎鐵が斬魔・獅子護兼久を一閃させ、コヨーテは自身の腕に炎の力を纏わせ、叩き付けた。 「ぜ……私た、は……」 ふたりに掴みかかり締め上げようとした彼女は、そのまま動きを止め……崩れ落ちる。 遮るものは、もう何もない。 攻撃を耐え抜くE・アンデッドたちもいたが、そういった者たちもリベリスタの攻撃を幾度も耐え切るほどの力は持ち合わせていなかった。 沙希の振るう直死の大鎌が、かつて人であったものを切断する。 それでも動こうとする体を、オーラによって植え付けられた爆弾が破壊した。 ペルソナを使用した彼女は、ただ人を殺したくて仕方がないという人物を演じていた。 「ま、本当はエリューションなんかより、生きた人間を殺りたいけど、苦しんで死んでくれるなら別にいっか」 弄んで殺してるフリをしつつ、ついうっかり急所狙って一撃で倒してしまう。 そんな態度で、彼女はエリューション達を減らしてゆく。 そこで……本当に弄ぶことまでは出来なかった。 苦しませたくない……でも、それを悟られたくもない。 そんな心の鬩ぎ合いの結果が、今の沙希の行動となって表れている。 キンバレイの方は周囲の魔力を取り込んだのち、味方の負傷を見て回復が不要そうと判断した際は魔力の矢を創り出し攻撃を行っていた。 コヨーテも炎を纏わせた拳と蹴撃によるカマイタチを使い分け、エリューション達を減らしてゆく。 反撃は気にしなかった。 寧ろ自身も傷付いた方が、戦っているという気がするのだ。 その方が良い。そう感じる自分がいた。 「放っといてもイイぜ。ヤだったら、オレが全部殺しといてやるよ!」 手が止まっている者がいるか見回しながら、コヨーテは仲間たちへと声をかける。 「大丈夫でござるか? 雷音」 虎鐵は義娘である少女に問い掛けた。 たとえ目の前にいる少女を救えなくとも、それでも自分は手を差し伸べたい。 今は笑ってくれないその少女に。 「……大丈夫、なのだ」 そう返事をした時だった。 雷音が自分の思考を、心を覗かれるような気配を味わったのは。 ●自分の世界 (あたしが殺したいから殺すの、別にいいでしょ?) この仕事、やめられないわ。 沙希は終というフィクサードの問い掛けに、心の中でそう答えを返した。 口に出さなくても、考えれば通じるのなら、それで済ませたい。 「本当は嫌なのではないのですか?」 (そう思わせとかなきゃ、アークから追い出されるもの。馬鹿なこと聞かないでよ) 「アークはそこまで潔癖では無いでしょう? ほら、彼女なんかは素直ですし」 そう言って終は、言葉を交わしたキンバレイと話を続けていく。 「お仕事する理由? おとーさんのガチャ代捻出のためですよ? 子供? どーでもいいです。事故原因知りませんけど私の責任じゃありませんから」 少女は素直にそう答えた。 ガチャは、おとーさんが喜んでくれるので大事。 「そうですね。おとーさんさえ喜んでくれれば他の事はどうでも良いですよ?」 世界なんてどーでもいい。ただ崩界されるとおとーさんがガチャ引けなくなりそうなので、それは困る。 おとーさんの生活に影響が及ばない範囲であれば、例えば数億人の命はおとーさんのガチャより価値がない。 ぶっちゃけおとーさんさえ幸せなら、他の事はどーでも良い。 「おとーさんへの愛を思いっきり叫んじゃうのですよー!」 「ほら、これだけ素直に仰ってます。アークと利害が一致している、という感じでしょうか?」 どこか感心した様子で言うと、終は沙希に問い掛けた。 「貴女だって本当に好きだったとしても、我慢をする自制心は持っているのでしょう? 好き勝手すれば処罰などもあるかも知れませんが……抑えてる分、口で発散した方が宜しいのではないでしょうか? それとも……追い出されなくても、そういう目を向けられるだけで嫌なのですか?」 言ってから少女は、余りしつこいのも失礼ですかと口にした。 「……まあ、人目など気にしないというのは才能だとも思いますけどね。其方のお嬢さんのように出来たら楽なのかなとは思います。其方の小父様も近しくはあっても、そこまでは思い切れないようですし」 「拙者には雷音がいればいいのでござる」 少女の言葉に、虎鐵はそれだけ答えた。 それだけ在れば良い、そんな世界さえ今は壊れようとしている。 (だから拙者は決めたのでござる) 強くあろうと。 たとえ血反吐を吐こうが、咎を背負う道を、ひたすら突き進む。 家族を守る為ならば、自分が穢れる事など厭わない。どれだけ穢れようと構わない。 「つらくはありませんか?」 「辛いとは思った事ないでござる。拙者の生き方は正常ではないでござるゆえな」 「そう言い聞かせているだけではないですか?」 「……自分の過去に後悔がない訳ではないのでござる」 それでも……もう遅いのだ。 時は二度と、戻らない。だから。 「……ひたすら前に進むしかないのでござる」 虎鐵は口にした。 彼女に言っているのか、自分に言い聞かせているのかは……判らなかった。 ●世界の行き先 「今の気持ちかァ……オレは別に。フツーのコトしてるだけだし」 そう言ってから、僅かに間をあけて。 「……あ。でも、いっこだけ」 コヨーテはそう、口にした。 「全然楽しくねェな、コレ。オレだけが強くて、弱い相手を、ただずーッと一方的に殺すだけって」 ケンカしたり、強い敵に全力で向かっていくのと、全然違う。 (ドキドキもしねェし、つまんねぇ) 「やっぱ、自分もぶち殺されるかもしれねェって思いながらじゃねえと、つまんねェもんなんだな、戦いってさ」 「なるほど……貴方は戦うという事そのものを大切に考えてらっしゃるのですね?」 そう言われても、コヨーテにはピンとは来なかった。 あくまで自分の感覚を何となく言葉にしただけなのだ。 戦いながら、向けられた言葉を頭の中で噛み砕いてみようとする。 その空いた間に、キリエは問い掛けた。 「貴女は何を知りたいの? アークと同時に来れたって事は、バックに組織があるんでしょう?」 「とんでもない、私はそんな立派な存在でありません。唯の風来ですよ? 信じて頂けるかは分かりませんが」 その言葉に関しては、キリエは否定も肯定もしなかった。 確実な情報がない以上、断定は危険である。 だからキリエは、ただ自分の考えだけを口にした。 「崩界イコール世界の終わりではないと私は考えている」 きっと崩界しても、覚醒者は生きていける。 でも、多くの一般人は違う。 「貴女が憂慮しているのなら、貴女がしようとしている事で、最後に本当に自分が後悔しないか考えてみて」 「……貴方はそうお考えですか」 少し考えるような仕草をして、終は言った。 「私は崩界イコール世界の終わりだと考えております。もちろん、実際が如何なのかは分かりませんが。とにかくそう考えておりますので、一緒に滅びてゆくのも良いのかなと。サボり魔とかカッコ付けとか言われるかもしれませんが、構いません。弱って滅びてゆく世界にご一緒にしようかと思うのですよ」 「ボクは……世界が優しくなればいいと思っている」 雷音がそう言ったのは、少女が肩を竦めるように口にした直後だった。 悲劇の後始末はソレができるものの責務だ。 「割り切れない、悲しい、ボクは弱い人間だ」 いつも、心が折れそうになる。 それでも……諦め切れないのは、強さか? 弱さか? 「この世界が優しい世界になること。ボクの望みはそれだけだ」 (そのために自分が傷つくことなんて大したことじゃない) けれどいつもそばにいる彼は、そんなボクをいつも心配してくれているのだろう。 それが嬉しくて、悲しい。 「……言いたい事はありますが、それは次の機会に致しましょう」 話が終わりに近づくのとリベリスタたちの任務が終わりに近づくのは、結果としてほぼ同じだった。 「……なァ お前は、強ェの?」 全てのE・アンデッドを倒し終えたコヨーテは、視線をフィクサードの方へと向ける。 一瞬だけ明確に、彼は表情を変え闘志を燃え上がらせた。 そう、一瞬だけ。 「なァんてな。今日はイイや!」 それらは次の瞬間には消え失せていた。 つまらない戦いで、テンションも下がっている。 「だからさッ! 本気でヤんのは、次にしようぜ?」 「そんなに強くはないのですが、分かりました」 終はそう言って、一礼した。 「では、機会がドアをノックしたら……その時は宜しくお願い致します」 ●人の、生きる処 死後の世界なんて私は信じていない。 「だから目の前の心を、少しでもマシに終わらせるだけ」 キリエは呟いた。 崖の下では虫たちの鳴き声が響き、周囲には日常が取り戻されている。 雷音はそこに佇んでいた。 死を割り切ることなど、できない。 けれど死は、絶対だ。 自分の目前で、幾つもの命が消えた。 (三高平の母も、お姉ちゃんも、ボクを護って死んだ) 友達もその命を賭してリベリスタとして死んだ。 戻ってきてほしい、でもそれは敵わない。 望むことも許されない。 「それが『死』なんだ」 失われれば、終わりなのに。 (その死を冒涜する世界は、どうしてこんなに優しくないのだろう) 「帰ってきて欲しいと望むことは罪なのでしょうか」 返らないメールを、少女は父に送る。 「今夜は呑もうかしらね、潰れるまで」 自分はきっと溺れたいのだ。 過去でも現実でもない、何かに。 沙希はふと、そんな事を考えた。 知られるのは怖く、分かってもらえないのは辛い。 なら…… そこで如何しよもない気持ちがこみ上げてきて。 彼女は……ほんのちょっと、少しだけ。 誰にも気付かれないように、そっと泣いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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