● 頭が痛い、頭が痛い、頭が痛い。 少し前から頭痛が治まらない。 なんでかって。 どうみても自分の頭に突き刺さっている、通常より長い釘っぽい物のせいというのは解っている。 だけど、これ、抜けないんだ。 抜こうとすると、頭が強烈に痛くなるんだ。 死んだりはしてないから別に大丈夫なんだけど。 俺はこれと共存を強いられている訳だ。 頭が痛い。 そして最近、やっと頭痛が緩和する方法が解ったんだ。 頭が痛い。 それをするのは最初は躊躇ったさ。 頭が痛い。 だから自殺とかも考えたけど。 死ぬか生きるかって言ったら、やっぱり生きたい訳で。 病弱な妹が心配だから、生きなくちゃで。 生きていく以上、この頭痛はどうにかしたいっていう思いが強かった訳で。 頭が痛い。 頭が、痛い。 頭が、痛い、から、俺は、俺は、俺は―――――!!!! 「あー今日も血が美味い」 やっと頭が痛くなくなった。 ――最初に食事を行った対象が、自身の妹だとは彼は知らない。 解らない。 知る事もできない。 だってもう、人を見れば肉が歩いているようにしか見えないから。 もはや彼に人を判別する事はできないのだ。 思考を食人鬼へと変えた、何食わぬ顔の釘は今日も高らかに、栄光の日差しを受ける―― ● 「皆さんこんにちは、今日も依頼をお願いします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は頭を下げた。 「相手はノーフェイス、エリューションゴーレム。場合によってはアンデットが相手になります」 映し出されたのは、真昼の公園が血で染まっていく模様。エリューションは比較的夜に活性化するものだが、この鬼は昼でも活動する。元、人であった名残とでも言うのだろうか。 「目標は敵の全滅と、できる限り一般人への被害を抑える事です」 今から行けば、公園には敵が訪れる前には着く事ができるのだ。だが、悲劇の時間までそう長く時間がある訳でも無い。 「釘は寄生型のエリューションで、ノーフェイスに寄生して力を与えるだけの事をします。そして、このノーフェイス。人を食す事で自身の頭痛を止めようとしている訳ですが……食べた対象をエリューション化させる能力があるようで。勿論、皆さんE能力者には無駄ですが」 対策をしないと敵が増える、という事だろう。 「敵が増えるだけなら相応に倒せばいいのですが、その増えたアンデットは火で燃やさないと死なない特殊能力着きで生まれてくるので、気を付けてください。神秘的攻撃でも、人工的な火でも大丈夫です」 そういえば、と。杏理は複雑な顔で言う。 「ノーフェイスの妹さん。もう、アンデット化してました。そちらはもう、別のリベリスタ達が燃やした所です。 ……以上の事を踏まえ、事に当たってください。それでは、よろしくお願いします」 再び杏理は、頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月17日(水)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●どうにもこうにも 苦しくて、苦しくて、おかしくなっちまう。 いつもと変わらない景色が続いていた。公園の中で子供は走り回り、親たちは世間話を。そして何食わぬ顔で通り過ぎていく学生とかとか……。 空の一番高い所では太陽が煌々と輝き、暑すぎる日光を降らせている。三影 久(BNE004524)は日光に舌打ちで反撃しながらも、立ち喋りをしている親達へと近づいた。不器用にも「あの……」と似合わない発言をしながらも、親達は久を見て「どうしたんですか?」と、話を聞いてくれる態勢になってくれていた。 「……何か通り魔が出た、とか向こうの警察が言ってい……ましたよ。最近物騒だ……ですし、公園から離れた方が良いかもしれねぇ……ですね」 久の言葉に親達は顔を見合わせた。それは大変だ、こんな所でこんな事をしていられない。すぐに子供を回収して、おそらく彼女たちは家に帰るのだろう。 同じように『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)も一般人へ、ぽっと出の理由を言いながらも公園からの退去を促していた。ここら辺は物騒なのだ、良くないものが出てしまうのだ。そう、良くないものが。 「だから、お家に帰りましょうね」 にっこり笑ったリコル。それを聞きとめた公園に根付くカップルはそそくさに消えていった。 それでいくらかの一般人は、帰ろうと動作していたのだが、敵は一般人が完全に消えるまでは待ってくれないようだ。 「来たか……」 「そのようですね」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の瞳は見通せぬ先を視る瞳だ。その隣の恋人、『フリアエ』二階堂 櫻子(BNE000438)はすぐに仲間たちへ連絡をした。 ――敵が来た、と。 櫻霞の瞳の先、公園に入ったばかりの、とある男の腕の肌がぶつんと切れ、手は肥大化し、爪は長く黒く伸びていく。脳天に釘を刺した生物――それは紛れもなくノーフェイス――皐月だ。それを見てしまった一般人は途端に叫びだす――。 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は顔をあげた。遠くで見知らぬ女の叫び声が聞こえるのだ。それはおそらくノーフェイスに喰われてしまった女の絶叫だろう。一人救えず、だがまだ救う数は多く。走り出した九十九の前方――。 「アハ」 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が既に肉斬リ骨断チを振り上げ、皐月へ攻撃を仕掛けていた。ぺちゃぺちゃぐちゅぐちゅ、血を啜る音が行方の耳にはよく聞こえる。それは意思を持って食っているのか、それとも仕方なくなのか、問うた所で行きつく先は破滅の二文字。 刹那、皐月は咆哮した。それを真正面から受けた行方の肌がビリビリ振動する。 「悪趣味デスネ」 本当に。近くで足が震えて動けなくなった子供を横目に、行方は得物を振り落した。 追撃、『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が陣を描いて火を放つ。行方のすぐ目の前が炎によって見えなくなるのだ。吸血されし、哀れな一般人が死体として目覚める前に。そんな悲劇を生まないために、生まれる前に火葬の葬送。 しかしだ、炎は真っ二つに割られ、そこから皐月が這い上がって来たのだ。目があった『臓物喰い』グレイス・グリーン(BNE004535)は右手を振って、皮肉をひとつ。 「ようMr.ノーフェイス。随分と上機嫌じゃないか、ええ?」 ゆらり、軸を持たない皐月の瞳が揺れた。 「あー餌がいっぱい」 瞬時、何をしたか、何をどう食ったか、皐月の目の前に居た行方、グレイスの肩が綺麗の削がれて消えていた。 ●痛くて居たくて 避難はしていたとしても、皐月の咆哮によって動けない一般人は複数人居た。 その中でも特に皐月の近い範囲に居た人間は、精気を吸われて皆駄目になっていく。つまり、アンデットは増えるのだ。そんな光景を見ても櫻霞は揺るがない。哀れむという感情を何処かへ忘れてしまった彼には、目の前の敵は処理するだけ、という景色が見えているのだろう。 「さて、火葬の時間だ」 炎の弾丸は、赤い弾幕となって敵へと降り注ぐ。そこに容赦は一切無く。 「存在意義や存在理由はどうであれ……危害を加えるモノは大嫌いですわ」 寄り添う櫻子は小さく詠唱をした。どうか、この光が勝利へと導く鍵と成らん事を――降り注ぐのは蒼き純たる光。アンデット化した一般人を助ける事は不可能であれ、仲間の傷を癒すには十分な威力を持っている。 そんな二人の横をすれすれで飛んでいくのは魔力の弾丸。いや、シェリーが撃つシルバーバレットは砲弾と言っても過言では無いだろうが。 直線を飛ぶ砲弾は皐月へと。撃った本人は、どう救えば良いのか、破壊か、救済か、その意思が回る回る。 元々この世界は理不尽で成り立っているのだ。その一片が目の前に現れただけの出来事と言ってしまえばそれで終わりだ。しかしだ、もしまだ心だけでも救える方法があるのなら。 シェリー。この小さな大魔道は諦める事を止めない。 「解放してやらねば、彼を全てから」 元気よく鉈を振り回す行方の頭上すれすれを何かが通った。髪の毛が何本かハラリと落ちる中、光の薄い瞳が皐月の異変を捉える。 「――ぃ、ぃ、ぎ、ぎやああああああああああああああああ!!!!」 「アハ、アハ、何事デス」 叫んだ皐月だが、行方はそのまま容赦無く腹部に刃をのめり込ませて、返り血が顔を染める。ふと、振り返ってみれば。 「くっくっく、私に撃ち抜けと言わんばかりではないですか」 魔力銃を構えた九十九が警官服の下でニヤリと笑っていた。どうやら彼の精密過ぎる射撃が、皐月の脳に突き刺さっている釘を射抜いたのだろう。それのせいか、元々頭に刺さってて痛いのに動かされたらもっと痛いのは当たり前で。頭痛は増す、頭痛は増していく。もっともっともっともっと血を飲まなければ、肉を噛まなければ――!! 血眼に成って、行方の腕を噛んだ皐月。淀んだ瞳と光の薄い瞳がぶつかる。 「痛い痛い頭が痛い。アハハ。だったら割って中身を見てみればいいのデスヨ? 大丈夫、任せるデス。ボクは頭を二つに割るのは得意デスカラ。アハ」 そのまま行方は、噛みついている頭に鉈を落とした。 そして行方だけには見えていた。皐月の後方より、リコルが巨大な鉄扇を仰いでいる所を。 なんたる悲劇、心が痛いと叫んでいる。リコルの胸は張り裂けそうだ、だが、やる事は変わらない。フィクサードの処理、エリューションの処理、ノーフェイスの処理。全て、命令さえ下れば全て熟すのが当たり前で。 ただ……少しでも安らかにと、リコルは願った。 執念の力は皐月の背を大きく傷つけた。同時にリコルの存在を察知した皐月はそのままリコルの腹部へと噛みついて肉を剥ぎ取り、精液を啜る。 入れ替わりの様にしてやってきた久の剣が、再び釘へと命中すれば皐月がまた叫び声を上げた。 「気に食わねぇ……人の意思を、何だと思ってやがる……」 久の口から零れた遺憾は、全くその通りであって。一人の男の人生と、男の妹の人生を狂わせた歯車は、今こそ目の前に。 釘の破壊によって、それが皐月にとって良かれな事か、悪い事かはまだ久の頭では判断はできない。だからこそか、彼の手は釘を穿つ事を止めなかった。その先にある、皐月が正気を取り戻すという希望を信じて。 「ちっ、キミはどうにも食べ方が下品だな……大体、内臓喰わないとか有り得ないだろう!」 突然行なわれたグレイスの的外れな抗議に、流石に皐月も目をしばたたかせる。皐月が思わず耳を傾けた事に気を良くしたのか、グレイスの講釈は勢いを増した。 曰く、内臓は人体の中でも栄養に満ちた部位であると。無論味に関しては好みがあろうが、例えば肝臓は栄養素の貯蔵庫でありスタミナ増強や美肌効果、或いは貧血等の対策にも摂取を薦めたいと。 そして更には堪能や胃袋、そして腸などの効能にも話が及び……、けれど皐月もその辺で飽きたのだろう。 「じゃあお前食ってみるわ」 がぶり。腹に走った灼熱感。それがグレイスの覚えている最後の記憶。 強靭な顎から大量の血を滴らせ、皐月は笑った。もっと、もっと、血が、肉が欲しいのだと。まだ頭の頭痛は治らない。むしろ九十九と久の重なる攻撃によって、頭痛は重みを増しているのだ。 既に狂っていたが、気が狂いそうだ。既に終わっていたが、死にそうだ。 血で染まった両腕で、リベリスタの腹を裂き、顎で身体を噛み千切り、精気を吸い上げ、男は生へと縋り付いた。 嗚呼、醜くも。元はと言えば、これも生きたいと願う男の舞なのであった。 ●破滅の先 皐月が動くごとに、周囲には血が飛び散り、肉塊が散乱した。未だ消えぬ炎が、人体を燃やした時の耐え難い臭いを発生させ、もはや一種の地獄絵図は出来上がっていたのだろう。 構わず、リコルは鉄扇を舞わせ続けた。己の役目は討伐する事。 鉄扇が折れ、腕の肉が削がれて骨が露出しようとも、リコルの強靭な意思は貫く。 その負傷を支えていたのは櫻子だ。一番は櫻霞の無事と安全を護る事だが、間接的に仲間への回復が行き渡っている。回復手がチームの要である事の見本のように。 「痛みを癒し、その枷を外しましょう……」 この悪夢を終わらせるために。 櫻子の奇跡を受けて、櫻霞は得物を構えた。恋人を背に隠しながら、そしてその手に力を込めて。 「まずは貴様から破壊させてもらうとしよう」 狙うのは、釘。その脳天に突き刺さった異物。 行った射撃はいつも以上に精密に特化していた。吐き出した弾丸は吸い込まれるようにして皐月の釘を射抜いた。その瞬間に櫻霞の耳にこびりつくのは、断末魔だ。 続いた、九十九と、久の射撃。 「ほほう、皆様の射撃も素晴らしいですな。さてさて、二度と人を誑かせないように粉々にしてくれます」 九十九が構えた魔力銃。放つ弾丸は元凶を穿つ。九十九にとって、皐月の動きはもはや目が慣れてしまって、捉える事は朝飯前か。 射撃の弾丸に混じって、行方は得物を振り落す。何度も何度も何度も落とした得物。もはや血の色によって、武器の色が完全に解らなくなっている状態だ。 「殺意は他者に植え付けられるものではないデス。自ら抱くものなのデスヨ」 こてん、と斜めにした顔。笑うようにして裂ける口。徹底的に、それこそ完膚無きまでに肉をそぎ落とし、骨を断ち切るのは彼女の役目だろう。 行方に続くシェリーが術式を組み上げていく。例え、例え、例え、何も救えなくても、破壊という文字が解放に繋がるのなら。願う彼女は皐月へ直接、文字を叩き込むのだ。 『思い出せおぬしが愛した妹の事を。全て終わったのだ。おぬしが守るべき者はもういない。安からに眠れ』 シェリーが再び砲弾を放とうとした――その時であった。術と途中で止め、シェリーはその目を凝らす。 この戦闘に、とある区切りが存在した。 パァンッ 弾けたのは、皐月の脳に刺さっていた釘だ。 九十九と久、そして櫻霞に執拗に狙われた釘の方が、皐月より先に粉砕したのだ。というのも、皐月には回復手段はあれど、釘に回復手段が無い事が一番の原因だろう。 「う、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 皐月の叫び声が大地を揺らしていた。その断末魔が、終わる頃。頭を抑えた皐月が、地面に力無く崩れたのであった。 「皐月……か?」 シェリーが最初に声をかけた。その声が聞こえているのだろう、皐月は穴の空いた脳天のせいで流れる血を拭いながら、顔を上げたのだ。 「よう……随分と寝惚けてたようだな。お目覚めか?」 「目、覚め……? なんの、事、だ」 成程、今の状況を覚えていない、知らないのだろう。何か声をかけようと、櫻子の口が開いたり閉じたりしていた。だが、もはや何かを言ったとて、手遅れな話。櫻子はそっと、櫻霞の背中に手を置いた。 優しくする事だけが救いでは無い。それは久が一番よく解っていた。だからこそ、皐月に現実をあげるのだ。 「お前の今見えている物こそが現実だ」 皐月は、ゆっくりと周囲を見回した。 血。 炎。 肉。 死。 此処にはあらゆるものが揃っていた。 「え、え、えっ?」 まだ状況は読み込めないのだろう。つまりだ、直接言うとすれば……。久は大きくため息をついてから言った。 「……お前は、人を殺めたんだ。詫びたり言い訳したりする対象は俺達じゃねぇ」 全てを悟った時は、もはや遅く。 「う」 この現状を作ったのは己で。 「うわ」 よくよく思い出してみれば、妹の最期の光景を見ていたのも己で。 「うわあああああああああああああああ!!!!」 皐月は頭を抱えて絶叫した。ビリビリと、音波が肌を撫でていく。絶望と悲しみを糧に、皐月はフェーズの進行を―― 「――もう苦しまれる必要は無いのです。今、妹君の待つ場所にお連れします。どうか安らかに……」 「眠らせて差し上げましょうか」 リコルと九十九は得物を構えた。それにつられて、他のリベリスタも攻撃に出る。 久の剣は皐月の絶叫する喉を断った。もはや叫ぶ必要は無いのだ。この事件、誰が悪いなどと、そういうものは無いのだから。 あの世、というものがあるのかはまだ解らない。もし、あるのなら。 「……向こうで仲良くな」 さようなら、妹思いのニンゲン。 静かにはなったものの、血臭は取れる事を知らず。真っ赤に染まったその現場。倒れた皐月を見ながら、櫻子は呟く。 「……長居は無用、ですね……戻りましょう」 何故だろうか、まだ真昼だというのに。 其処は夜の様に落ち着いていて、冬の様に冷たかった――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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