● 社長賞をいただいた。 数年ぶりの社長賞らしい。 通達を受けた瞬間、心の中で小さくガッツポーズをきめた。日曜祭日なく職人さんやお客様のために頑張った甲斐があった、と目を潤ませた。別にそれを狙って仕事をしていたわけじゃないが、決して小さくない会社の山ほどあるプロジェクトの中での受賞は素直にうれしい。 というわけで、金一封の入った封筒を内ポケットに忍ばせて本日は早々の帰宅である。多少緊張しつつ、向かう先は回らない寿司だ。こんな時に誰もいない家にまっすぐ帰ってもつまらない。今日は自分にご馳走してやるぞ。 意気揚々といつもお世話になっている回転寿司の前を通り過ぎ、いかにも高そうな雰囲気の店構えが連なる界隈へ向かった。 「……と、こんなところに店が?」 店と店の間にある狭い路地。ネオンに濡れ光る石畳を行ったかなり先に、藍色の暖簾をかけた店があった。暖簾に“寿し”と白く抜かれた文字が、遠目に小さく見えている。 「へええ。なんだか通っぽいね。高そうだけど……」 大丈夫。今夜は金一封のほかにも財布の中には万札が1枚と小銭、クレジットカードもある。 それに、店に入ったところで予算を伝えればその範囲で握ってくれる、とインターネットに書かれていた。 2万円もあれば充分だろう。たぶん……。 ネクタイを締めなおすと、意を決して石畳の小道へ足を踏み入れた。 ● 「食べたお寿司の代金は……お客さまの“魂”です」 至極真面目な顔で『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がリベリスタに告げる。 和泉は手に持った資料を繰った。 「席に案内する前に仲居が、そのお客さまの寿命と魂の活きのよさをざっと見積もって板前に伝えます。板前は魂の価値分だけ、適当に握って飲ませてくれるというシステムのようですね。行きはよいよい、帰りは……ってやつですか?」 そこまで一気に言い切って、和泉はため息をついた。顔を資料からあげて、ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに厳しい目を向ける。 「店は現実と幻の狭間にあります。特殊な結界の中に作られていて普通は見えていません。しかし、旬の魂を持つお客さんが前を通りがかると結界の一部をといて石畳の小道を見せます。店員は板前を含めて全員がE・フォース。どうやらお客からとった魂を活動エネルギーに変えて生きながらえているようですね」 和泉は静かに資料を閉じると、一転、表情を和らげた。 「出される寿しはすべて本物です。どこから調達してくるのか現時点では分かっていませんが……ネタは一級品ばかり。もちろんお酒も。お勘定まではごく普通の高級寿し店を装っているので、E・フォース退治はお寿司を食べてからでもいいでしょう。モニターに映っていたあのサラリーマンにも気持ちよく食べて帰って貰いたいですしね。では、よろしくお願いいたします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月09日(火)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 街の喧噪とけばけばしいネオンの光り。諸々をすべて飲み込むかのように、ビルとビルの谷間にひっそりと石畳の道が開けていた。それは幻。普通の人には見えない小道である。 その小道の先に客の魂を代価として商う店があった。藍染めの暖簾のすみに白く『寿し』と2文字抜かれているが、屋号はどこにも見当たらない。引き戸のガラスから滲みでる光が、おいでおいでと手招きしているようだ。 「風情があるというかなんというか」 『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)は手のひらを上に向け、人差し指と親指で丸を作って見せた。 「コレのない人お断りな雰囲気がビシバシ伝わってきますね」 「まあ、実際に金がなくて俯いて歩いているやつには用がないのだろう。ここのエリューションたちが求めているのは“活きのいい魂”だからな」 生佐目にそう返したのは『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)だ。曲げた肘を腹の前に置き、胸を張って立つ姿が貴公子然としている。 その櫻霞の肘上を恋人である『フリアエ』二階堂 櫻子(BNE000438)が軽く握る。 「でも、櫻霞様。お金があればいい、というものでもなさそうですわ」 櫻子は人が流れる通りへと僅かに首を傾けた。 確かに。リベリスタたちの前をいかにも金持ちといった身なりの男女が通り過ぎていくが、誰一人として石畳の道とその奥にある店の存在に気づいていないようだ。 「さあ、ここは卯月さんとレオンハートさんにお任せして。――と、その前に」 櫻子は櫻霞の肘から手を離した。 「ちょっと殿方は苦手ですが……。頑張ってみます」 ここへ来るまでにリベリスタたちはすでに幻視で本来の姿を隠していた。加えて櫻子はこのタイミングでダブルキャストを発動させる。サラリーマンの接待役をこなすために、甘えたがりで照れ屋の性格を明るくて気さくな性格に替えるためだ。 しばらくして櫻子は不安からぐっと握り締めていた手を開いた。顔を上げると、双子の片割れ『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)に駆け寄った。杏子の腕にするりと自分の腕を滑り込ませて組む。 「杏子、行こっ♪」 「さ、櫻子お姉様?」 杏子は姉に引きずられながら石畳を踏んだ。 その後を櫻霞が苦笑しながらついて行く。 ほのぼのとした雰囲気に『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)の顔もほころんだ。 「ではボクたちも行きましょう」 「お寿司は余り好きじゃないのですよー」 キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)が今更の一言を放った。 「おとーさんばかり刺身を食べるので、お腹いっぱいにならないのです」 光介は顔をこわばらせたが、すぐに立ち直って満面に笑みを浮かべた。 「では、今夜はお腹いっぱいお鮨が食べられますね。あ、でも食べ過ぎると動けなくなってしまいます」 それは困ります、と光介。 「腹八分にして、心残りはお土産に。そうすれば解決、きんばれいパパも大喜びです」 生佐目は真ん中に立ってふたりの肩に腕をまわすと、店に向かって歩き出した。 ● だれが見てもその筋の人っぽい服装をした男2人が、『百合色オートマトン』卯月 水華(BNE004521)と『癒し系ナイトクリーク』アーサー・レオンハート(BNE004077)の姿を目にするなり足を止めて頬を引きつらせた。人の迷惑顧みず、道の真ん中で額を寄せ合う。 この2人こそ水華とアーサーがさっきから待っていた人物、剣林のフィクサード、貫田正嗣と高良義美だ。黒の短髪にサングラスが正嗣、茶髪のチャラ男が義美だろう。人通りの多い繁華街とあってか、ビーストハーフの義美はリベリスタたちと同じく幻視で猫耳を隠していた。 ――と、いきなり2人は水華たちに背を向けて歩き出した。 事前に受けた説明で、正嗣たちが幻の寿司屋へ来たことは分かっている。どうやらリベリスタとの接触を避けて、店に入る別のルートを探すことにしたようだ。 ――任務を優先した? 水華はひとりごちた。 街中で見知らぬ覚醒者と接触して騒ぎになると困る。そう考えたのだろうか。しかし、別ルートから店に入って好き勝手に暴れられては大変だ。 「そこのお兄さん達、私たちと一緒にお寿司を食べに行かない?」 水華はあわてて声をかけた。 「ねえ、正嗣さん、義美さん!」 フィクサードたちが足を止めた。 チャラ男の義美が正嗣の元を離れて、ひとり肩をいからせながらやってくる。 着流しから覗くアーサーの盛り上がった胸筋と太い腕を見てビビった義美は、さりげなく途中で軌道変更し、水華の前に立った。 人差し指で水華の胸の真ん中をとん、と突く。 「おう。この辺りじゃ見かけねぇ顔だがお前たち、なんでオレたちの名前を知ってんだよ? 返答次第じゃ――」 チンピラのテンプレートかお前は。行動と言動にまるで芸がない。 水華は義美の指を掴み取ると、ぐいっと腕ごと捻り降ろした。その勢いで腕を背にまわしつける。 「なにしやがる。離せ!」 頭の後ろをかきながら歩いてくる正嗣に向けて、水華は義美を突き放した。 ぱしっ、と茶色い頭を張り倒す小気味よい音がほろ酔い気分の街に響く。 「すまねぇな、姉さん。今のはこいつが悪い。で、なんとなく察しはついているが、あんたたちは……」 水華とアーサーは順に名乗りをあげた。 やっぱり、と肩を落とす正嗣にE・フォースの討伐に来たと告げて共闘を持ちかけた。 「お代は割り勘……って事でどうかしらね?」 「いや、やつらがうちの加盟店から盗んだ酒やらなんやらでチャラどころか釣りがでる。奢ってやるよ」 アーサーが得心顔でうなずいた。 「成る程な。どこから鮨ネタを仕入れているのか不思議だったがそういうことか」 「ネタはうちじゃないぜ。三尋木んところだ。市場で競り落としたばかりの高級魚がちょくちょく盗まれるって噂を耳にしたことがある」 義美がおずおずと会話に割り込んできた。 「あのぅ……て、ことは兄貴? 盗っ人たちをやる前にオレも鮨が食える?」 「まあ、いいだろう。でも酒は飲むなよ」 ● 「おとーさんとおかーさんは後からお友だちと一緒に来ます」 店を入ったところで仲居に見咎められたキンバレイはとっさに機転を利かせてそう言った。 一緒にいた光介は歳の離れた兄といえばそう見えなくもないが、生佐目は肉親というにはキンバレイと余りに似ていない。 キンバレイは仲居がそれ以上何かを言い出す前にさっと店内を進むと、すでに櫻子と盛り上がっていたサラリーマンの横ひとつ椅子をあけて座った。 光介と生佐目は、杏子と櫻霞のいる座敷へ向かった。 (こんなにも風情ある店構えなのですから) 光介は座敷からさっと店内と外の様子を料理人の目ならぬ千里眼で観察した。魚や酢の匂いが全くしない。かなり気を使っているようだ。店の外もこれといって変わった仕掛けは施されていなかった。 視線を一巡させて、カウンターの向うでネタを切る大将で目を止めた。 (実力、見せていただきましょう) 仲居が前菜の品を運んできた。無駄のない動作でテーブルの上に旬菜の小鉢と冷茶碗蒸しを並べていく。 「まあ、きれい」 ガラスの小鉢に入った冷茶碗蒸しを見て、杏子がはしゃいだ声をあげた。 蒸された卵液のうえに三つ葉が敷かれ、栗とウニの岩の周りにカニとエビの身をほぐしたもので作った尾長の金魚を遊ばせている。ゼリー状のだし汁が透明な水をあらわしていた。季節にあわせたお洒落な一品だ。 客の目を楽しませる細工もなかなかのものだが、味も負けず劣らずよかった。 余韻の途切れぬうちに続けて鮨が運ばれてきた。 「まず旬の一貫、鱸をお召し上がりください」 鱸は鯛に負けず劣らず上品な味わいの白身魚だが、身に少し癖がある。好んで握る職人は少ない。 光介はまず目でネタの切りつけを確かめると、指で鮨をつまんで口に運んだ。シャリの固さと温度、ネタの新鮮さと下ごしらえの技を舌と歯で探る。 「おいしい! 品のあるお味なのです」 「うむ、美味い」と櫻霞。 杏子と生佐目もにっこり微笑む。 カウンター席からも賞賛の声が上がった。 もう一貫、白身の真鯛が出されたところでキンバレイが首を捻った。 「なんでお刺身が米に乗って出てくるんですか? 裸の女の人の上に刺身をのっけて食べるのが寿司だっておとーさん言ってました!」 サラリーマンが盛大にビールを噴出した。倒したグラスからビールが流れ出てカウンターを濡らす。 咳き込むサラリーマンを櫻子が優しく介抱し、濡れたワイシャツやズボンをおしぼりで拭いてやる。サラリーマンの前に置かれていたネタ箱が奥に下げられて、若い板前がと仲居がカウンターをてきぱきと清めた。 そこへ水華たちがフィクサードたちをつれて入ってきた。 「あ、おとーさん!」、とキンバレイがアーサーに手を振る。 サラリーマンとE・フォースたちが一斉にアーサーへ非難の眼差しを向けた。 「なっ?」 店に入るなりいきなり冷たい目線の集中攻撃を受けてアーサーは戸惑った。 わけが分からず、助けを求めて座敷の仲間へ顔を向ける。 返ってきたのは引きつった笑い顔だった。 「こっちです。アーサーおとーさんはここ、水華おかーさんはこっちに座ってください。わたしが真ん中です」 「え、夫婦だったの? しかも子づれ!?」 義美が水華とアーサーを交互に指差しながらいう。 「違うわよ。でも、なんかそういう設定になっているみたいね」 水華は義美の指をぐいっと折り曲げると、アーサーとともにキンバレイに指定された席についた。 「とりあえず、日本酒と…… 鮭を中心に白身魚でお願いするわね?」 落ち着かない雰囲気の中で、あとから店に入った4人は出された前菜2品をさっさと食べた。 鱸、鯛とテンポよく平らげて、みなと同時に鯵塩〆を頂く。 水華にはリクエストの鮭が出された。鮭のこってりとした脂をきりりと冷えた辛口の日本酒で流して一息つく。 サラリーマンは体を後ろへ大きく倒すと、アーサーのごつい背の向うで鮪赤身ヅケを食べる水華の横顔を盗み見た。 先ほどのキンバレイの発言が頭の中に蘇る。 (……この奥さんの上に小肌なんか乗っけて) サラリーマンの前の塗り板に車海老が置かれた。 (おっぱいに、え、海老なんかも乗っけたりして!) 女体盛りの水華に襲い掛かるアーサーを勝手に想像して、サラリーマンは鼻血を出した。 「きゃ、大丈夫!?」 櫻子はおしぼりを差し出した。同時に座敷の櫻霞たちへ視線を投げる。 「そこの人はちょっと座敷で休んだほうがいいな」 恋人の意図を察した櫻霞はさっと立ち上がると、生佐目と一緒にサラリーマンを引き取りに向かった。 生佐目は水華を手招きした。 「そろそろ場所を変わっておきましょう。水華さんは櫻子さんとこの方を連れてお座敷へ。あ、キンバレイちゃんも一緒にご移動願います」 「さー、くー、ら」 櫻霞もまた櫻子を傍に呼び寄せた。 「後はもう光介に任せて、座敷で大好きな鮨を楽しむといい」 ちょっぴりやきもちを焼いた風の櫻霞に、櫻子は嬉しさを隠そうともせずこくりとうなずいた。 サラリーマンはアーサーのがっしりとした肩や背中を、花道をあるく力士にファンがするように酔った勢いでぺちぺちと叩いた。 ぜひとも○○○なご利益をこの方から授かりたい。これで独り暮らしを卒業するぞ。毎晩、嫁と女体盛りするぞ! キンバレイはニヤつくサラリーマンの腕を取ると、むにゅと胸に押しつけた。 「あっちでゆっくりしましょう?」 再び鼻血。 意識を天国へ飛ばし、頭から後ろへ倒れるサラリーマンを光介と杏子が抱きとめた。 ● 櫻霞はサラリーマンが座っていた席につくと、憮然とした表情のアーサーに酌をした。 生佐目は水華が据わっていたところへ腰を下ろすなりフィクサードたちへ顔を向けた。 「ん? どこかで見た、かもしれませんが、まぁ、それはそれで。よしなに……って、飲まないんですか?」 「ちょっと、な。……と、あんた、もしかしてあのふざけたホモガキんときの?」 正嗣の横で義美が腹に腕をまわした。生きたまま上下まっぷたつにされた夜を思い出したようだ。 「あ、やっぱり。そっちの方はちゃんと体が繋がっているみたいですね。よかった。あの刀はアークが厳重に保管していますのでご安心ください」 「おう。邪魔になったらいつでも剣林が引き取ってやるぜ」 話している間に中トロ、大トロが続いて出された。全員無言で海の恵みと職人の技を堪能する。 煮蛤、赤貝、雲丹にイクラと続いたところで生佐目は仲居を呼び寄せて持ち帰りの折りを所望した。もちろん、最終的にはお土産の代金も踏み倒すつもりだ。出されたものがどれも絶品だったのでちょっと気が引ける。 生佐目が楽しみにしていた穴子が出てきた。少々苦しいが好物は別腹、と後に出された玉子も平らげた。 「さぁ、お寿司も沢山食べましたし……腹ごなしの運動と参りましょうか」 食べた寿司はどこへ消えたのやら。スリムなお腹を手でさすりながら杏子が立ち上がった。 カウンターの向うで笑顔の板前が刃渡りの長い包丁を立てて構える。こぽこぽと泡を吹かせる湯飲みを盆に載せて、仲居がリベリスタたちの元にやってきた。 「お勘定は――」 「踏み倒させてもらうぞ」 櫻霞はAFから大型銃を2丁呼び出して構えた。立て続けに引き金を引き絞って、まずは仲居を蜂の巣にする。 大量の弾を食らってすっ飛ぶ寸前に仲居はリベリスタたちに向けて熱湯を放った。 アーサーと正嗣が盾となって味方をかばう。ふたりは火傷を負ったまま、奥から出てきた残りの仲居を取り押さえにかかった。 カウンターを突き抜けて2人の板前が同時の襲いかかってきた。 生佐目は漆黒の霧を発生させると、板前のひとりを黒い箱の中に閉じ込めた。身動きを止めた敵を暗黒のオーラで打ち抜く。 「さぁ、愛らしく踊ってくださいませね?」 杏子が魔力杖を振るう。 魔方陣の効果で魔力の高まった葬操曲・黒が、カウンター奥で控えていた大将を巻きこんで板前の片割れを撃った。 かなりのダメージを受けつつも魂欲しさに包丁を振りかざし、前へ前へと進む板前。 「……あらあら、それをさせるわけには行きませんわ」 杏子はその姿に物悲しさを感じつつも気糸を飛ばしてがんじがらめにした。 義美が隙をついてカウンターを乗り越え大将に迫る。が、技を仕掛ける前に毒の効いた握りをまともに食らって倒れてしまった。 「お代は、魂の代わりに鉛玉で良いわよね」 水華は気絶たサラリーマンをかばいつつ、義美を切りつけている大将に弾を浴びせた。その猛攻に店の壁が吹き飛ぶ。 「術式、迷える羊の博愛!」 光介が傷ついた仲間を癒す。 癒し足りない者にはキンバレイが追加で神聖の息吹を当てていく。 「回復はお任せてください!」 「では、お言葉に甘えて……」 光介はキンバレイに微笑みを返すと、杏子が抑えている板前に向けてマジックアローを放った。 櫻霞はアーサーたちの頭の上を越えて飛んできた火串を寸でのところでかわした。 体勢を崩しながらも厨房へ引っ込んだ板前を撃つ。 弾幕が途切れたとたん、奥からまた火串が飛んできた。同時に瀕死の大将が最後の足掻きとばかりに長包丁を振るう。 「ざけんな、コソ泥が!」 仲居を倒した正嗣が身を起こしざまに大将へ向けてオーララッシュを放つ。 「櫻霞様、お助けいたします!」 櫻子は戦闘が始まると同時に辺りを漂う力を体内に取り込んでいた。集めた力を矢に込めると、櫻霞を狙う板前へ向けて放った。 ぎゃっ、と悲鳴をあげて、E・フォースの体が四散する。 櫻霞は最後に残った大将に銃を突きつけた。 「これで終いだ、悪く思うな」 ● E・フォースたちの全滅とともに、寿司屋とそこへ続く石畳の道はこの世界から消えた。 建物の谷間の向うに別のビルの壁が見えている。 サラリーマンを無事に帰した後、光介はそのビルの壁に向かって手を合わせた。 (色んな意味で、魂の料理でしたね……。お寿司の味、ちゃんと覚えておきますから) 「昔、ここには本当に寿司屋があったそうだ。営業中に放火されて店は焼け落ち、大将含めて何人か死んでいる。あのE・フォースたちはそいつらの無念が作ったものだったんだろう」 頭を上げた光介の後ろから、正嗣が疲れの滲んだ声で事件の背景を説明した。 ションボリした櫻子が櫻霞の袖を掴む。 「はぅ、櫻霞様……お家に帰りたいですぅ」 「そうしょげるな、次は二人でゆっくりな」 櫻霞はそっと櫻子を抱き寄せると労い兼慰めの言葉を掛けた。 「おー、熱いあつい。じゃ、オレたちはもう行くぜ」 「手間を掛けた、一時休戦感謝する」と櫻霞。 「今度出会う時も、敵として出会わない事を期待してるわね?」 水華は歩き去るふたりの背に声をかけた。 「さあ、な。フィクサードとリベリスタで毎回お友だちごっこもねーだろう?」 フィーサードたちは去った。 「結局回らないお寿司ってなんだったんでしょうか?」 キンバレイがぼやく。 生佐目はそんなキンバレイに寿司折りを差し出した。 「はい。これをきんばれいパパに食べさせてあげなさい。そして今度、娘をシャリ代わりに使ったら……」 「俺がぶっ飛ばす!」 「……とアーサーさんが言っていました、と伝えるように」 今すぐハルゼー家へ走って行ってパパを殴り倒しそうな勢いのアーサーを、杏子が苦笑しつつどうどうと諌めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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