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闇夜に揺れる毒の波

●魔デジ
「間もなくアナログ放送は終了し、地上波デジタル放送への完全移行が行われます」
 居間のテレビを点けると、そんなテロップが目に飛び込んできた。以前は隅っこの方で小さくやっていたはずのそれも、今では画面の何割かを占める勢いだ。
「ご自宅のテレビ、アンテナはデジタル放送に対応していますか?」
 うんざりしながらニュースの方へと意識を絞る。鬱陶しい事この上ないが、意識にフィルタをかければこれでも何とかなるものだ。
「わからない事があれば、お近くの電気店か、下記電話番号にお問い合わせください。さもないと死にます」
 うん?
 視界に入れないようにしてはいても、人の意識は『異常』に敏感に反応する。生じた違和感の正体を探るべく、私は絞ったピントを少し緩めて周りを見回す。
 違和感の正体は、すぐに見つかった。
「さもないと死にます」
 黒枠をゆっくりと流れていくテロップに、その場に居てはおかしい言葉が紛れ込んでいる。
「死にます。殺されます。刺殺されます」
 紛れこんだ『異常』は後へと続き、テロップをその奇異な色で染め上げていく。突然のそれに脳がついていかず、私はただそれを呆然と眺めている。
 気が付けば、ニュースを映し出していたスペースには別のものが……テロップを補足するように、人が、自分が殺される様が映し出されていた。
「絞殺されます。毒殺されます。轢殺されます。撲殺されます。焼殺されます」
 私が絞殺され、毒殺され、轢殺され、撲殺され、焼殺されていく。
 堪えきれずに目を背けたそこには、庖丁を手にした妻が立っていた。

『刺殺されます』
 そのフレーズが脳裏を過ぎる。そうならないために私は手近にあった花瓶を手にし、彼女に向かって振り下ろした。

●有害電波
「――これらの原因は、アーティファクトにあるようです」
 近い未来、とある住宅街で起きる事件。そのいくつか取り上げ、天原和泉(nBNE000024)は事の元凶をそう断定した。
 革醒し、アーティファクトと化したのは家屋の外に取り付けられた一つのアンテナだった。受信機能しかなかったそれは、力の目覚めを境に奇妙な電波を飛ばし始めたようだ。
 電波自体には全く害は無い。だがそれを別のアンテナが受信し、テレビ等で映像化する事で周りの生物の精神に悪影響を及ぼすという。
「『精神汚染番組』を垂れ流していると、そう考えていただいて結構です」
 そんなものが住宅街の真ん中にあったらどうなるか。今は深夜のため被害は少ないだろうが、夜が明けて人々が活動を始めれば事件は飛躍的に大きく、多くなるだろう。しかもその電波強度は、時間毎に増していくのだ。
「放置できないのは自明です。速やかにこれを処理してください」
 どこか緊張した面持ちで、彼女はリベリスタ達にそう告げた。

 だが同時に、今回の依頼には少々問題がある。『万華鏡』から得られた情報は不確かで、住宅街のどのアンテナがアーティファクト化しているのかは全く分かっていないのだ。
「そこで、皆さんにはこちらを使っていただきます」
 差し出されたのは、人数分の携帯電話だった。機種も色もバラバラな辺り、緊急に集めたものである事が窺える。
「これらは別段特殊なものではありません。ただこれらには全てワンセグの受信機能が備わっています」
 後は、言わずもがなだろう。
「問題のアンテナに近いほど画像は鮮明に、精神汚染は重度になっていくでしょう。さらに付近には鳥型のエリューションも見られます。厳しい任務になると思いますが――」
 貴方達だけが頼りだと、彼女はそう締めくくった。

●付随資料
・現場
 平屋の一軒家から三階建て程度の集合住宅まで、各種入り乱れる住宅街です。道幅は狭く、建造物が密集しています。到着時間は深夜ですので人通りはありません。
 騒ぎすぎたり、処理に時間がかかったりすると住人が起きだします。

・アーティファクト『魚の骨』
 名前はこんなですが、設置場所が屋外のアンテナであるという事以外、形状も何も分かっていません。範囲内にある受信状態のテレビに精神汚染番組を表示させる電波を出しています。精神汚染の影響は行動不能、奇行、自傷、仲間への攻撃等の形で現れます。
 強度はそこそこですが、破壊自体は容易でしょう。
 アンテナに止まった鳥が、到着時点で3羽ほどエリューション化しています。体当たりくらいしかしてこない弱いタイプですが、時間毎に数が増える恐れがあります。

 電波は時間毎に強くなっています。範囲も影響も徐々に広がっていく事でしょう。なお通常の電磁波とは違う部分も目立ちます。普通の電磁波対策が効くかどうかは疑ってかかった方が良いでしょう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ハニィ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月18日(月)21:57
 別にカウントダウンを頼んだ覚えも無いんですけどね。……ええと、あと何日でしたっけ?

 そんなわけで皆さんも受信体勢を整えてからご参加ください。ただし受信すれば混乱は避けられません。状態異常への対処法をよくよく考えてみてください。
 個人的に『我が身を犠牲に』、とかそういう精神は嫌いじゃないですが。ええ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
四鏡 ケイ(BNE000068)
クロスイージス
深町・由利子(BNE000103)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
プロアデプト
雪白 万葉(BNE000195)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
ナイトクリーク
クリス・ハーシェル(BNE001882)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
デュランダル
★MVP
神守 零六(BNE002500)

●毒色電波配信中
 夜更けの住宅街というのは、得てして不気味なくらいに静かなものだ。そこは人々の住処であり帰る場所であるが故に、『寝静まる』という事態の影響が大きく表出するのだろう。声や音とは無縁となった深夜の路地を、切れ掛かった街灯がちかちかと頼りなげに照らしていた。
 夜が明けるまで続くと思われたその明滅の下に、ある時二つの人影が現れる。街灯を通り過ぎ、ふらふらと歩いていくのは『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)だ。手元の携帯電話に視線を落とし、しきりにそれを操作している。
「電柱にぶつかってしまいますよ?」
 目の前のそれに気付いた様子の無い由利子を、雪白 万葉(BNE000195)が呼び止める。
「! ……危なかったわ、ありがとう」
 明るい液晶を注視していた由利子には暗がりのそれを判別し切れなかったのだろう。捜索はまだ始まったばかりだが、『目が慣れる』という事の無いこの作業は少々面倒だ。
 だが今回の騒動ではこの携帯電話が鍵を握っている。人の精神を侵す電波の発信源。それを突き止めるためには受信、受像機能を持つこれを手放すわけにはいかないのだ。
「ところで、先程から何の操作を?」
「ご、ごめんなさい。何かゲームが始まっちゃって」
 彼女の手元の画面には、プリインストールでもされていたのか、パズルゲームのアプリが表示されている。
 そうか、その辺りもフォローしないと駄目か。万葉は口頭で操作説明をするため、頭を回転させ始めた。

 事態の解決にあたり、リベリスタ達は二人ずつ、四方向へと散っていた。捜索を行うなら手分けした方が良いという現実的な判断だ。
「レイチェルちゃん、よろしくね。鳥の爪もくちばしも近寄せないんだからね」
「うん、頼りにしてるね」
 万葉達とは別の方角では、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)の声に応え、『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が携帯電話のワンセグ機能を起動した。チャンネルを切り替えつつ、砂嵐から深夜番組まで映像をチェックしていく。深夜番組のどこか能天気な音声と、砂嵐のホワイトノイズが順に漏れ聞こえるが、今のところ異常は無い。
「それにしても迷惑なエリューションだよね。電波に乗せて殺意を運ぶなんて手が込みすぎ」
 発生源は遠そうだと聞き、少し離れていた凪沙が言う。勿論、性質が悪いという点ではレイチェルも同じ感想だ。
「そうだね。この時間だってテレビ見てる人はいるだろうし、一刻も早く探し出して壊さなきゃ!」
 凪沙に頷いて返し、少女二人は移動を開始した。
 レイチェルの手元の砂嵐がそれにつられるように揺れる。入れ乱れる白と黒が、一瞬だけ文字を形作ったように見えた。

 万葉は由利子に画面を見ないまま操作説明を行い、凪沙は映像受信時にレイチェルから少し距離を取った。それは受像したものを万が一にも直視しないようにという彼等なりの警戒だ。精神攻撃に耐性のある由利子とレイチェル、彼女等が居る以上わざわざ見えている罠に飛び込む必要など無いのだ。
 が。
「本当にやるのか、零六?」
 彼の所持品および武器になりそうなものを受け取りつつ、『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)は真剣な表情でそう尋ねる。それに対し、丸腰になった『人間魚雷』神守 零六(BNE2500)は当然のように頷いた。
「考えてみろよ、クリスちゃん」
 結界、幻視、一般人に対するやれる限りのケアを加えて彼は続ける。
「精神力を試されるなんて、おあつらえ向きの試練じゃねぇか?」
 そう、そんな理由で。精神攻撃への耐性を持たないままに、彼はその身を晒そうとしていた。
「だが保証はないんだろう?」
 その問いにさえ不敵な笑みで返し、零六はワンセグ機能をつけ、真正面から直視する。表示されているのはくだらない深夜番組だが、画像の端々が乱れ、そこあから赤黒い不吉な何かが手を伸ばしてきている。
「大丈夫さ、俺は主人公だからな。実際こうして見えてはいるが――」
 精神が侵され、画像と共に認識が乱れる。自覚できるはずの無いその感覚を、彼は気合だけでねじ伏せていく。屈しないというその意思は、やがて彼の中で勝利を収めた。
「――この通りだ」
 そうして勝ち誇る零六に応え、満足気な笑みを浮かべたクリスが彼に向かって親指を立てて見せた。

 ……ように彼には見えているのだろうか。誰も居ない場所に向かって親指を立てている零六の後ろで、クリスの髪が呆れるように揺れた。

●もう一つの方法
 別の場所で動いている皆の報告を受け、『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)は考える。
 こうして四手に分かれてみたのは良いが、『劇的』と言える程の成果は出そうにない。件の電波による映像の鮮明さは、離れたグループ間で比較する事が難しい。何しろ個人の主観を口で説明しようというのだ。『ぼんやりとだがたまに見える』、『時々だがちらっと映る』これらの差を正しく伝える事など不可能に近い。
 しかし、そんな中で分かりやすい基準が一つあった。
「――という事で、零六には幻覚が見えているようだ」
 クリス、零六組の所で起きている事象。『幻覚が見える程度の電波強度』というそれに、同じ基準で観測したもう一点が加わればどうだろう。
「……やりませんよ」
 彼女の言わんとする事を先読みし、『蒼鱗小龍』四鏡 ケイ(BNE000068)が釘を刺す。
「み、見るなと言われると余計見たくならぬかぇ?」
 そう、ここで例えば幻覚から奇行に至るほどの電波強度を観測できれば調査は一気に進むのだ。そしてそうなれば奇行の末に何となく気になるケイの性別を確認しても責められはしないだろう。
「……」
 が、そんな瑠琵のヨコシマな何かを感じ取ったのか、ケイの態度は頑なだった。
「ケチじゃのぅ……」
 口を尖らせる瑠琵は置いておき、ケイは耳を澄ませる。携帯電話を見ないでどう探すのか、その答えがこれだ。
「向こうです……」
 アークからの情報ではアンテナに止まる事で接触してしまい、エリューション化してしまった鳥も居るという。道中のアンテナを虱潰しに観察しつつも、ケイと瑠琵はそれを追うという方針で動いていた。
「本当に合っておるのかぇ?」
「多分……羽音が大きいですし、鳴き声がぐぇーって……」
「ぐ、ぐぇー?」
 いまいち信憑性が薄いのだが、暗さで上手く先を見通せないケイに代わり、瑠琵が大きな影を発見する。
「ほう」
「見えました?」
 街中に居るにしてはやけに大きく、頭部からは目玉の付いた触手が幾本も生えている。熱を感知する事で見えたそれは、一目でエリューションと分かる姿をしていた。そして、何よりも。
「というか、来ておるのぅ」
 こちらの発見と同時にエリューション側もこちらを捉えていたようだ。全長2m程になろうかという翼を広げ、こちらに急降下してきている。
 素早く展開された瑠琵の守護結界がそれを受け止め、勢いを殺す。そして、羽音を聞いて戦闘体制に入っていたケイのブラックジャックがカウンター気味に頭部を捉える。地面に叩き落されたエリューションは、しかし僅かの後に立ち上がり、二人のリベリスタに反撃を開始した。

●殺意の送信
 戦闘に入っていたのはケイ達だけでは無かった。
「深町君、行きますよ?」
 先程から襲ってきているエリューションに懐中電灯の明かりを向け、万葉が由利子に合図を送る。それに合わせて放たれた十字の光と気糸が正確にエリューションを射抜き、とどめを刺した。
「ごめんなさいね」
 もはや動かなくなったそれを確認し、由利子は再度映像を確認する。
 エリューションを撃退した旨を仲間達に伝えた万葉は、一足先に戦闘を終えていた瑠琵達の報告もあわせ、周りを見回すが……
 エリューションの止まっていたアンテナも、どうやらアーティファクトではないようだ。それは瑠琵達の側でも同様。既にエリューション化した鳥が、移動してきていたのだろう。
 だが由利子の手元の映像が以前よりはっきりと異常を見せてきている。元凶であるアンテナが付近にあるという可能性も高い。リベリスタ達は目標の場所をケイや由利子達の間の範囲に絞込み、各班ともにそちらに向かう事にした。
 方針が間違っていないのはレイチェルの手元の端末からも明らかだ。元は砂嵐だった液晶には、いまや殺意を刷り込むような画像が定期的に割り込むようになっている。
「レイチェルちゃん、大丈夫?」
「うん。これくらいでどうにかなったりしないよ」
 精神異常は無効。だがそれでも疲労が出ていたのか、凪沙がレイチェルを気遣う。
 気を取り直して歩みを進めた彼女等二人は、すぐにケイと瑠琵の姿を発見した。
「おぉ、ようやく会えたのぅ」
「よろしく、お願いします……」
 携帯を使わず虱潰しにアンテナを調べていた二人に、レイチェル達が合流した形だ。瑠琵が軽く投げ出す前に合流できた事は幸運と言えるかも知れない。
 お互いの情報を付き合わせ、4人はさらに電波の強い場所へと向かっていく。

 その頃、同じように歩みを進めていたクリスが、悲鳴と何かの割れる音を聞いて足を止める。元より懸念されていた事態。件の映像を見てしまった一般人だろう。クリスは零六に声をかけ、そちらの救助に向かおうとする。
「まさか……クリスちゃん」
 が、帰ってきたのは要領を得ない返事だ。見れば、零六の顔は蒼白であり、その身体は高まる何かに震えていた。手元には、勿論ワンセグ受信中の携帯電話が。
「アンタがこの世界を支配しようとする魔王の手先だったとはな……」
「……おお」
 ついに行くところまで行ったか、という表情でクリスが頷く。先程まで壁と話したり地面に頭を打ち付けたりしていた零六だったが、その精神汚染はついに仲間を敵と認識するまでに至ったらしい。予測されていた事だが、今は少々タイミングが悪い。
「うまくやったつもりだろうがそうはいかねぇ! アークは騙せても、この主人公は騙せないッ! ヒャハハハハッ!」
 身体の各所のブースターを吹かせ、突進する零六。だが前後不覚で足元の定まらない彼にクリスを捉える事などできるはずも無く。
「……どこが『大丈夫』なんだお前」
 一瞬の攻防の後、クリスの足の下には気糸で縛られた零六の姿があった。良く見れば軽く血も出ているようだが、まぁ背に腹は代えられないだろう。
 だが事態はこれで終わりではない。民家から聞こえる一般人の暴れる音は、徐々に激しくなってきている。
「クリスちゃん? どうしたのそれは!?」
 だが救いの手はすぐに訪れた。合流予定だった由利子と万葉が、タイミング良くこちらを発見してくれたようだ。
「問題無い。それより向こうを!」
 問題無いようには見えないのだが。クリスの指した先を透視した万葉はすぐに状況を悟り、由利子と共にそちらに走る。
「失礼しますよ」
 物質透過で屋内へと至り、探り当てたブレーカーを落とす。精神汚染番組を垂れ流していたテレビは止まり、残る住人も万葉に引き入れられた由利子がブレイクフィアーで混乱を抑える。被害は少ない……とは言えないかも知れないが、最小限では済んだだろう。
 そうして見咎められる前に民家を出た二人は、急いでクリスの所へと戻った。
「許せ、零六。これも世界平和のためだ……」
 そこでは縛られたままの零六が、引きずられ、位置を変えながら定期的に携帯の画面を見せられていた。
「あの、クリスさん。そろそろ……」
 その度に魔王の手先と会ったり、魔王と会ったり、時には自分自身が魔王になったりしている零六を気の毒そうに見遣り、治してあげても良いんじゃないかと由利子が問う。
「ああ、でもおかげでようやく絞れた。元凶になってるアンテナは――」

 情報を絞り込みつつ、レイチェル達もまた同じ場所までたどり着いていた。もはや砂嵐を完全に駆逐した精神汚染番組、そしてケイの耳と瑠琵の目。それらに導かれ、最後に猛威を振るったのは他でもない。
 それは凪沙の『勘』だった。
「この辺にアンテナがあるんだ? う~んとね……この辺だったら……」

 奇しくも、タイミングはほぼ同時。
「――あれだ」
「なんかあれっぽいよ」
 二方向から指差されたのは、平屋の屋根に据え付けられた『魚の骨』だった。
 そして奇妙な鳴き声を上げ、アンテナに止まっていた三羽のエリューションが飛び立つ。

●魔デジ終了のお知らせ
 軽いステップで凪沙が屋根の上へと登るのと同時に、瑠琵の呼んだ氷の雨がアンテナ付近に降り注ぐ。普通の鳥なら撃墜されて然るべき攻撃だが、エリューションと化した鳥達は羽を打つそれに耐えてみせた。
 とは言え、当然の如く高度は落ちる。そこに宙を舞った凪沙の踵落としが命中した。
 屋根に叩きつけられる一羽、そして残りの二羽も標的を定め、エリューションは一斉に凪沙に襲い掛かった。

「あ、気が付きました?」
 一方その反対側では、由利子のブレイクフィアーによって零六が幻覚の中からようやく帰還していた。
「はっ、魔王は!? 俺の倒すべき魔王の手先は何処だ!?」
「あちらですよ零六君」
「行ってこい」
 万葉が電灯で照らす先のエリューションを確認し、隣からクリスが預かっていた得物を差し出す。ついでの天使の息は激励か、それとも侘びのつもりも混ざっているのか。
「よっしゃああぁぁ行くぜぇぇぇぇッ!!」
 まだ混乱から脱しきれてない気配もするが……ともかく、脅威の寝起きを見せ付けながら、零六は屋根の上の戦場へと飛び込んでいった。

「あ゛」
 レイチェルの天使の息の援護を受けつつ、襲い掛かる三羽を捌いていた凪沙が突如バランスを崩す。足場にしていた屋根の瓦を踏み割ったのだと気付いた時にはもう遅く、鳥達は目の前まで迫っていた。
 だが辿りついたもう一斑が戦闘に参加したのは、丁度この時。
「ヒャッハァ! 切り裂け、デスペラード!!」
 突進する零六を先頭に、由利子と万葉の遠距離攻撃がエリューションを退ける。そして、開いた射線を射抜く二つの視線。
「行きます……」
「これで終いじゃ」
 ケイの放ったカードと瑠琵の式符から生じたカラスが舞い、事態の元凶であるアーティファクトを撃ち抜く。
 攻撃を受けたアンテナはあっけなく、本当にあっけなく根元からへし折れ、その機能を停止した。

 残ったエリューションを打ち倒し、リベリスタ達は再度住宅街を見下ろす。
「深夜の通り雨と鴉の悪戯なら珍しくも無いじゃろう」
 瑠琵の言うように、今回は証拠隠滅等に労力を裂く必要は特に無いだろう。
 周りは静かなもので、電波にやられた被害者もこれ以上はいないようだ。こうして脅威は取り除かれ、街はいつもとほとんど変わらぬ朝を迎えるだろう。
「うちもテレビ買い換えないとねぇ……」
 そして、由利子の事件に関係あるんだか無いんだかわからないような呟きを最後に、夜は明けた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 もう一度言おう。わざわざ見えている罠に飛び込む必要などないのだ(MVP)