● じめじめとした湿気に覆われ、有り余る水気で足元の少しぐずついた草原。その奥には大きな川が流れていた。雪が終わり、春を越えた後の湧き水は豊富な養分を含んでおり、それが流れてくるこの川は魚がよく集まると有名で、釣り人などが多く集まる隠れスポットとなっている。 今日も今日とて、釣竿を肩に下げた様々な年代の者たちが集まっている。家族連れなどは揃って楽しそうに笑みを浮かべている。 都会暮らしの子供などもご満悦な顔をして、その一帯は愉快な雰囲気に包まれていた。 いつもならば。 「うへへぇ……なんっ、何でぇ……」 今日、その場に集まった者たちは、まず、笑顔が不自然だった。苦の一つもない、満面の笑みなのには違いないが、その顔面には全く引き締まりがなく、口の端からはだらしなく涎を垂らしている。その場にいる者、大人も子供も揃って、そんな快楽に狂ったような面を恥じらう様子もなく晒し合っている。 「なん、で、俺こんな、に楽しいんだぁぁ?」 そのうちの一人の男が、圧倒的な快楽に呑まれながらも次第に濃くなるこの霧を不思議に思って、ふと指先をこすり合わせてみる。 すると、指の上に浮き出た白い粉。これは霧ではなく、限りなくそれに近い極小の、何かの粉であったことが伺えたが、それ以上の事を考えている余裕が、快楽に蝕まれ続ける男にはなかった。 ……のそり。ぬちゃり。粘ついた液が糸を引くような音が背後から聞こえる。男は振り返ることなどしない。理由のない謎の快楽でそれどころではない。 そして、巨大な影が男を覆う。影の正体は、その全身に苔の生えそろった巨大なナメクジ、そしてそれの背に生える、ナメクジとほぼ同じ全長をした、毒々しい白の斑点が目立つ真っ赤なキノコ。 巨大なナメクジの伸びた目が、にょきにょきと男を品定めする。 その限界まで研磨されたようなヤスリ状の歯は、その巨大な体躯と相まって、もはや柔い若葉などをかじっているだけでは満足できなくなっていた。 「とある湿地の奥にE・ビースト発見、対処を要請いたします」 事件を予知した天原和泉がブリーフィングルームで声を張る。集められたリべリスタ一同は神妙な面持ちでその言葉を聞いた。 「ターゲットはフェーズ2の、ナメクジが原型となったE・ビーストが三体。全長二メートルほどの体格の個体が一体、付随するようにそれより一回り体格の控えめな個体が二体現れます」 それらが湿地の端から緩慢に移動してきて、湿地にやってきている一般人たちを襲うのだと和泉は言う。 「ターゲットの特徴として、幻覚を用いて人間の捕食を行う点があげられます。背中に背負うキノコから催眠作用のある胞子を散布し、それで獲物に幻覚を見せている模様です」 現場にはすでにE・ビーストの胞子が散布されている。しかし風にさらされてか、リべリスタが到着する頃合いにはその濃度は低くなっており、身体的に一般人より優れたリべリスタが現場に蔓延する胞子を吸い込んだところでなんらその行動に影響はなく、視界が遮られるほどでもないが、すでに一般人は全て胞子の虜となっており、E・ビーストの姿を見ても、慌てることもなければ逃げ出すこともしない。 「今回の目的は、湿地にて幻覚に見舞われた一般人数名の救助、そしてその場にいるE・ビーストの討伐になります。作戦についての具体案はお任せしますが、どうか被害者が一人でも少なく済むよう、よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:toyota | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月22日(月)22:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 現場はあらかじめ予見されていた通りに濃厚な霧が立ちこめており、近辺には数人の一般人が散り散りになって立ち呆けて、揃って無気力な笑みを浮かべていた。その尋常ではない顔つきを目の当たりにして違和感を覚えつつも、リべリスタ達は足元のぐずついた湿地に足を踏み入れる。 「ったく梅雨も明けたばっかだってのに、とんだナメクジが出てきたもんだぜ」 これらがE・ビーストの仕業であることは疑いようがない。自身の身の丈ほどもある戦斧を地面に突き立てて、斜堂・影継(BNE000955) が肩を竦めつつ、だがこれからすぐに訪れるであろう戦闘の気配を肌で感じ、歯を剥いて笑っていた。 「折角の行楽地に遊びに来た人たちが襲われるなんて……、なんとしても助け出さないと」 ふと、影継は首だけで振り向く。影継の影に隠れてしまっていた石動 麻衣(BNE003692)が、目の前に広がる光景を今一度よく確認しようと一歩前に出た。長めの前髪で目が隠れてしまっているので表情はよく読み取れないが、これから救うべき一般人のその様子を憂いて、心配そうにしている様子だった。 「きょだいななめくじ……かんがえるとすこしおぞけがはしりますね」 一般人たちを見渡し、これからやってくるだろうE・ビーストの姿を連想して溜め息交じりのルシュディー サハル アースィム(BNE004550)が、慣れない言葉使いで不快さをあらわにした。周囲を漂う霧……散布された胞子もまた、肌にまとわりつくような感触がして実に気持ちが悪い。 「さ、とっとと片付けて帰りましょ」 ルシュディーをはじめ、一同は各々で差異あれど明らかに不快な様子を見せていたが、そんな一同の耳に冷たい声色が通り抜けた。青島 沙希(BNE004419)が冷静な表情で目を伏せて、軽く手を叩く。 いくら気持ちが悪がっていても仕方がない。沙希の一拍子は、渋々ながら一同が一般人へと歩み寄る合図となった。 「皆さん……まるで悪い夢でも見ているようです……」 最優先は一般人の確保。だがその一般人を前にして、武器でもある扇子で口元を隠しつつも、鈴宮・慧架(BNE000666)が顔をしかめて呟いた。釣りやキャンプでのどかに楽しんでいるならまだしも、大人も子供も一様に呆けた顔をして、だらしなく涎を垂らしている様子などはとても痛ましく、見るに堪えがたい。 「幻覚を見せるキノコを生やしたE・ビーストか、……トリップする、と言うようなのは聞いたことがあるがな」 そして、いくら声をかけようがそこを動こうとしない一般人には、グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)が諦めの薄笑を浮かべていた。いくら言っても分からないなら頬を張ってでも目覚めさせるべきだろうが、そうしたところでここまで憔悴した一般人が我に返ってくれるかは全く疑わしい。 仕方がない。手を引いてでも連れて行くか。嘆息交じりにグレイが手を伸ばした、その時。 「っ!!」 すぐ隣にいた慧架が咄嗟に振り返る。その様子に気付いたグレイも、不機嫌そうに目を細めてゆっくりと振り返った。 粘液が糸を引くような、たまらず肌に鳥肌を覚えるほどの不快な音が聞こえたのだ。 「はっ、来やがったか……」 どうやら、折角捕えたエサたちをむざむざ連れて行かせるつもりはないらしい。小さな山の様な形をした蠢く影が三つ、霧の向こうに垣間見えてきた。 ● 不快な音と三つの影はゆっくり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。天城・櫻霞(BNE000469)が虚ろな笑みを浮かべている一般人の子供を自身の影に庇いつつ、そっと銃を身構えた。 「……こちらまで来る前に、さっさと倒した方がよさそうだ」 「じゃ、一般人を庇いつつ、小型を集中攻撃ってことでいいかなぁ?」 普段通りに明るく笑いつつも、困ったように指先で唇をなぞっているウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)の提案に、櫻霞を含めた一同は迷う間もなく頷いた。 「あ・と・は、やつらをこっちまで来させなきゃいいわけだな?」 好戦的に笑って屈伸をしつつ、影継がこちらに迫ってくる影を遠い目で見据える。三つの影は近づき、やがて、霧越しにでもその姿が視認できるようになった。 「ま、別にあのノロマ達を待ってる意味ないでしょ。とっととこっちから行きましょ」 「お、それもそうか」 髪にまとわりついた湿気を手ではらって言う沙希に、影継ははっとした様子で頷いた。沙希はすでに、さっさと終わらせたいと言わんばかりに武器である大鎌を構えている。 「ここは気持ちが悪い。早く帰りたいのよね」 足元の水気をたっぷり含んだ地面を睨み、苦い口ぶりで言い捨てて沙希は駆けだした。一括りにされた髪が宙を躍り、大鎌の刃が鈍く光る。 颯爽と霧をすり抜け、沙希はいよいよそれの目の前にまで迫った。予見にあった前情報の通り、自身の身の丈ほどもあるキノコを背負った、巨大なナメクジのE・ビースト。 苔だらけのその体表や、それを覆う粘液に怖気を覚えつつも、沙希はいざ目の当たりにした大きな個体の両脇にいる、それより一回り小さな個体を狙って大鎌を構える。 メルティーキス。これほどグロテスクな外観をした敵に遠慮など覚える筈もなく、沙希は思い切りよく大鎌を振りかぶる。刃の先は小型のE・ビーストの内一体の背に突き刺さった。その傷跡は染み入るように広がり、やがて死の刻印となって対象に刻み込まれる。 牽制には十分に熾烈な初撃だった。突然の攻撃に怯んだのか、攻撃を受けた小型の個体をはじめ、E・ビースト達は突如向けられた敵意を前に、揃って悶えるように蠢いていた。 「さぁ、こっちからも行くよっ!」 怯んだE・ビーストの様子を見逃す筈もなく、反撃を避けるためにウェスティアはやや離れた位置から、幾多の呪文が秘められた本を開く。 すればウェスティアの周囲に魔方陣が展開され、開かれたページが白と黒の光を帯びる。シルバーバレット。標準を正確に設定された魔力の弾丸が、直線を描いて、猛毒の印にもがき苦しんでいた小型のE・ビーストを撃ち抜いた。 「さて、厄介な攻撃が来る前に……」 E・ビースト達との距離を測りつつ、慧架が両手に扇子を開く。武器を身構えて反撃に備えながら、息を静かに吸って足に気を集中。すれば水気の多い湿地に足をすくわれることなく、迅速な駆動や回避が可能になった。 いよいよその頭角を現してきたE・ビーストを睨みつけ、慧架は呟いた。 「私たちは、誰も犠牲者を出すつもりもありませんので、お覚悟を」 ● 「テメェら如きが人様を餌にしようなんざ、五十六億年早ぇぜ無脊椎動物!」 全身から戦気を放ち、影継が勢い激しく突進する。一直線に突き走ってE・ビーストまで到達するや、振りかぶった斧に全身のエネルギーを凝縮し、猛毒を含め一同から連撃を受けていた小型のE・ビーストへと振り下ろす。 その一撃が止めとなった。E・ビーストは弱々しくのけ反った後、震えるようにその体を引き伸ばし、間もなくして動かなくなった。 「やっと一匹……まぁこの調子なら、一般人は大丈夫そうね」 影継の攻撃で動かなくなった個体を見つめ、一歩後退しつつ大鎌を下ろした沙希が、次に一般人へと視線を移そうとする。 「……っ!」 しかしその直後、巨体がのたうつ音がして、沙希はすぐにまた振り返った。大型のE・ビーストが触角のような目をくねらせ、背に生えたキノコを小刻みに震わせている。 その瞬間、来た当初とは比べ物にならない程の濃厚な霧……胞子が、リべリスタ達を覆うように浴びせ掛けられた。 「……不快ね、胞子とか粘着液とか」 咄嗟に口を押えたものの、指の隙間を通り抜けてまで侵入してきた粉末が喉に張り付くような感覚に、沙希は手をはたつかせつつ顔をしかめる。胞子は沙希と影継、櫻霞へ散布されたようだった。 「おっと、わたしがカイフクしますね」 「お、サンキュ! まぁ、そんな胞子なんざ俺にとっちゃ気色悪い程度のもんだけどな!」 仲間に濃厚な色の胞子が降りかかったのを目の当たりに、距離をとって前線の戦局を見守っていたルシュディーはすかさず手をかざした。 ルシュディーが集中すれば、その掌から柔らかな光が放たれる。その光はなだれ込むように影継を覆い、胞子を吸い込んだ余韻の不快感さえもその体から取り除いた。 「ぐ……こんな不気味な怪物、いつまでも相手にしていられないな」 浴びせられた胞子に呼吸が滞る中、、モノクル越しにもう一匹残っている小型E・ビーストを睨みつけ、櫻霞は握った銃の銃口を突きつけた。照準を合わせ、引き金を引く。正確無比な射撃による弾丸は、小型E・ビーストの触角の間にある眉間へと直線を描いて撃ち込まれた。 「このままナメクジになぶられる趣味はねェんだ、とっとと終わらせる」 ルシュディーの治療により二人が回復したのを見届けた後、櫻霞の射撃を受けた小型E・ビーストへと、グレイが手を構えた。 シュヴァルツ・リヒト。グレイの手から放たれた漆黒の光の塊は、ほとばしる炎の如く小型E・ビーストを狙い打った。 燃え盛るような光に覆われていた小型E・ビーストだったが、ふと、苦しみを紛らわすようにその全身を震わせてきた。身体を少し持ち上げ、口部分を膨らませている。 反撃の気配に一同が緊張したその直後、その口から半透明の液体が吐き散らかされた。 「きゃっ!」 液を被り、生理的に受け付けない感触に麻衣が悲鳴を上げる。粘着液は麻衣、櫻霞 、慧架、ルシュディーに命中し、全身にまとわりついた粘着液はその動きを緩慢に封じ込める。 「あぁ、気持ち悪い……」 小さく呟きつつ、麻衣は回復のために携えていた本を開く。ページをなぞれば麻衣の周囲に柔らかな光が満ち、それらはやがて光の奔流となって、同じく後衛に励んでいたルシュディーを癒した。 「まいさんありがとうございます、でも、やっぱりキモチワルイですね」 「本当です……全く、許せません!」 咄嗟に扇子で捌いたものの、飛びかかってきた粘着液の飛沫に顔をしかめた慧架は、不快さを口にしながらも反撃のために扇子を構える。流れるような駆動で扇子を振り上げ、そして勢いよく下ろす。間合いを乗り越え、繰り出された慧架の一撃は小型E・ビーストを背中から押し潰すように打ち下ろされ、その体を激しくのけ反らせた。 ● 重なったダメージで動きをより一層鈍らせている小型E・ビーストだったが、さらなる反撃を許す前に、その背後に沙希が立った。 「これで、とどめよ」 見下すような瞳を向けて、沙希は握った大鎌を振り下ろした。鎌の刃は背負ったキノコを裂いてその背に突き立てられ、刻印が浮かび上がる。刻印から染み出る毒をあおるまでもなく、その一撃で小型E・ビーストはぐったりと動かなくなった。 「これで後一匹……私、一般人を保護してくるね。あの大きいの抑えるのはよろしく!」 「おうっ、任せとけ!」 残すところ敵はあと一匹、そろそろ一般人を安全な場所に逃がす好機だと踏み、ウェスティアは駆け出し、影継が戦斧を掲げて力強く答えた。 「さっさと滅びな雌雄同体! 斜堂流、スラッグバスター!!」 高らかと技名を吠えた影継は、持ち上げた戦斧を手繰って、残された大型のE・ビーストへと肉薄した。全身の気を込めた渾身の力で戦斧を叩きつけるよう振り下ろす。刃はE・ビーストの眉間を割り、背のキノコを中央から真っ二つに裂いた。 「ナメクジ風情が、弱ったのならそこに留まっているか死んでいろ」 影継から大きな一撃を食らって、尚も緩慢な駆動をやめないE・ビーストを尻目に、グレイが背後にいる一般人と、その一般人を退避させに行ったウェスティアを庇うよう立ちはだかった。手をかざし、放たれた漆黒の光がE・ビーストにまとわりつき、蝕むようにその全身を黒で染め上げる。 「こう……きもちわるいのも、そろそろがまんのげんかいですね」 一同の繰り出す連撃の隙を縫って、自身の体にまとわりついた粘液を疎ましそうに見つめていたルシュディーが両の手を重ねる。その掌から放たれた眩い光は一同全員に覆いかぶさるよう降り注いで、かと思えば、ルシュディーや麻衣、慧架の動きを封じていた粘液がその粘度を失い、それらは手で払えば容易く地に流れて行った。 「ありがとうルシュディーさん、これでまともに動けそうです」 やっとの思いで粘液から解放され、自由な駆動を取り戻した麻衣は礼を述べて、E・ビーストを遠目に見据えつつ本を構える。 治療目的に使っていたページを開き直し、前方に魔方陣を展開。治療の時とは違う、より鮮烈な光が矢の形を成して魔方陣から発射される。光の矢は直線を描き、ほとばしる光粒を纏ってE・ビーストに突き刺さった。 光の矢を食らってのけ反ったE・ビーストは、更なる反撃の兆しを見せてきた。体を震わせ、背に担いだ真っ二つになったキノコを突き出すように身構えている。 「まだやる気なの? そろそろ諦めてほしいんだけど」 ここにきて、むざむざ反撃を許してやる道理はない。背後から沙希が淡白に吐き捨てて、その反撃を刈り取るべく大鎌を振るった。沙希の斬撃は度重なる一同の連撃でぼろぼろになっていたキノコを背からもろともに引き千切り、代わりに沙希のオーラで構成された爆弾を植え付けられた。 ここにきて悲鳴のような呻きを上げたE・ビーストに何を思うでもなく、無表情を貫いたまま沙希はその場から飛びのいた。そして爆弾が作動。黒い爆炎がE・ビーストの背で炸裂し、その衝撃はE・ビーストの愚鈍な体をも大きく跳ねさせた。 「先程はよくもやってくれましたね、これでもう終わりにしましょう」 粘液による妨害は解けたものの、その滴が飛び散ってしまった和服の袖を睨み、慧架が少し頬をむくらせて言い放った。 扇子を閉じ、縦に線を描くように振り下ろす。風を切る音が後からついてきて、それが届いたころには、鉄槌のごとき一撃が間合いを超えて、瀕死のE・ビーストへと届けられた。 叩きつぶすような衝撃を背に受けて、口から血の混じった粘液を吐き出した後、合えなくE・ビーストは動かなくなった。 「……ったく、しくじった……」 「櫻霞さん、大丈夫?」 戦闘終了後、戦闘の余韻でふらつく櫻霞に、一般人の避難に勤しんでいたウェスティアが肩を貸した。その隣には力なく横たわった一般人が七人全員揃っている。E・ビーストが息絶えた影響か、一般人は意識を失い、終始浮かべていた不自然な笑みも穏やかに収まっていた。 「よかった……、目立った怪我もしていないし、精神もだいぶ落ち着いているみたい……。でも、櫻霞ちゃんは一度アークの病院施設で本格的な検査を受けたほうがいいかも、E・ビーストの胞子を吸ったことで体のどこかに影響が出ているかもしれまないし……」 「あぁ、そうする……」 一般人の身体や心音に際立った異変は見つからない。麻衣はあてていた聴診器をおろし、一般人が全員無事であった安堵からほっと息を吐きつつも、櫻霞の不調に嫌な予感を覚えて渋面を浮かべていた。 「一般人への救援は後から来るみたい、私たちは先に帰りましょ」 「そうですね。レジャー地と聞いて浮かれていたのですが……こうなれば早く着替えたいですねぇ」 E・ビースト討伐成功についてアークへの報告を終え、沙希が腰に手を当てて言う。慧架は多少の無念さを飲み込み、早くこの服をクリーニングに持っていきたい一心で、和服に飛びついた染みを見つめながら答えた。 「さ、帰ろうぜ。櫻霞も早く診てもらった方がいいだろ、ここジメジメして気持ちわりぃし」 元凶であったE・ビーストが消えて、一帯を覆っていた霧は落ち着いたものの、戦闘後の火照った体に蒸し返すようなこの湿気はこたえる。影継が心配げに呟くのに頷いて、一同は帰路についた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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