●温泉の珍客 「きゃああああああ――」 天然風呂の温泉に突然若い綺麗な女性の悲鳴が起きた。みんな慌ててタオルだけをすばやくまとって一目散に逃げる。中にはタオルももたず走り出す、宴会中のオジサンの姿もあった。 現れたのは巨大な動物――カピバラだった。牛ほどもある大きなカピバラの親子たちがバシャンバシャンと温泉に入ってくる。 続いて出てきたのはナマケモノだった。通常よりも2倍も大きいナマケモノはこれまた親子連れで次々に温泉へとダイブ。人間が残して行った湯船に浮かぶ皿を手に取った。 そこには豪華な料理が並んでいた。鯛の塩焼きにチラシ寿司、さらには天ぷらやウナギのかば焼きも有る。お茶にカルピスに日本酒と様々なアイテムが揃っている。 客はどこかの一流企業の社員旅行だったのだろう。 こうなるとやることは人間も動物も一緒だった。 うぐうううううう―― お腹の虫を鳴らしたナマケモノが温泉に浸かりながら次々に料理を口に運ぶ。白いハチマキを頭に巻く奴もあれば、人間のマネをしてドジョウすくいの演芸をする奴も。 カピバラは仰向けになって湯船に浮かんでいた。しまりのない表情でなにをするでもなくただひたすら親子そろって腹を見せて浮かんでいる。時折お腹が空くとナマケモノの残した料理を横から救い取って食べている。 いたって平和な世の中だった。 こうして今日も何事もなく一日が過ぎて行く―― ●ナマケモノはどっち? 「ダメダメ、平和に過ぎちゃ困るわ。現れたのはアザーバイドのカピバラとナマケモノたちよ。近くにD・ホールもあるから合わせてなんとかしてきてちょうだい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、緩みきったブリーフィングルームの雰囲気を一掃するように強い口調で言った。途中から食事と温泉と温泉ギャルのほうに思考が流れていたリベリスタたちが急いで表情を作る。だが、やはりどこかニヤケが止まらない。ある一人が、危険性はないんだから、取りあえずD・ホールに送り返せばいんじゃない、と余裕でイヴに質問した。 「ええ、彼らに攻撃の意思は全くないわ。だけど、動く気配も全くないの。名前の通り彼らは非常にナマケモノ。自分の意思では絶対にそこを動こうとしない。リベリスタでも一匹三人がかりが必要。それが十匹もいるの。近くの川縁にあるD・ホールに彼らを生きて返そうとすればそれなりに手間が掛る」 なんてめんどくさい奴らなんだ。さすがカピバラにナマケモノ。パラレルワールドからやってきた別のアザーバイドとはいっても、こちらの世界とその生態はほぼ同じらしい。あるリベリスタはそれを聞いて嘆いた。 「めんどくさかったら倒せばいいんじゃない? そのあたりは任せるわ。でも、アザーバイドだからそのまま放っておくと危険。まだそばの温泉には、異変に気が付いていない若い女子大生の女の子たちもいるから、彼女達に危害が及ばないように注意してね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月29日(土)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●それぞれの思惑 山奥にある天然温泉は豊かな自然に囲まれている。忙しい都会の喧騒とは違ってゆっくりとした時間が流れていた。美味しい空気を吸うと一気に疲れが取れた気分になる。 すでに温泉には珍客が先に来ていた。ナマケモノとカピバラの親子は湯船につかりながらひたすら怠惰な時を過ごす。見ているだけで欠伸が出そうな光景だ。 「カピバラってただでさえ大人はデカいのに、アザーバイドなせいで余計に迫力有り余ることになってるのな……うう、でも癒し系な顔は変わらないッ!」 『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は思わず呟いた。シャツの裾を結んで下は短パンという動きやすい服装だ。準備はすでに万端である。 「そういや日本の温泉に猿が入ってる画像見た時は絶対コラージュだと思ったもんだが、それ以上の光景がここに繰り広げられているな……」 『アルケニート』ネイル・E・E・テトラツィーニ(BNE004191)も呆れたように口を挟む。自分も同じ怠け者であることはすっかり忘れていた。 「さぁて、初仕事はぐうたらさん達にお帰りいただくこと。頑張りましょう」 今回が初仕事の、型 ぐるぐ(BNE004592)は意気込んでいた。あの手この手でなんとかして帰って貰わねばならない。 「カピバラとか、テレビでは良く見かけるが……実際に見る機会なんて早々ないし、温泉と一緒に楽しむんだぜ! あの最近有名な『ぱかぁ』ってなく動物の事だよな?」 スクール水着に身を纏った聖星・水姫(BNE004579)が得意げに話す。だが、最後の台詞は何かを勘違いしていた。あえてそこは誰も突っ込まない。 「あの……ちょっと皆いいんですか?」 『アカイエカ』鰻川 萵苣(BNE004539)が困惑気味に問いかける。先ほどから一抹の不安がどうしても頭から離れない。 「大丈夫です。いざとなれば私が対応しますから心配ありません! ヘンタイが現れれば真っ先にこの私が倒してみせます。皆さんは安心してご寛ぎください」 『変態紳士-紳士=』廿楽 恭弥(BNE004565)が胸を張って答える。それを聞いた誰もがお前のことだよ! と心の中で激しく突っ込んだ。そんなことも知らずに恭弥だけは辺りをキョロキョロして周囲の警戒をする。 「いざという時のために、水着を装備して、温泉に。たとえ覗きが現れたとて、機動的に行動することが可能ッ! お縄を頂戴させて差し上げることができるわけです。まぁ、杞憂に終わることが望ましいのですが――」 『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)は目の覚めるようなブルーの水着を装着していた。きわどいラインに女性陣も視線が釘付けになる。 「最近は全然ビーストハーフの子を懐柔……じゃないわ……動物を愛玩してなかったっけ。今回のお使いはストレス発散のチャンスを兼ねているようだから思いっきり楽しませてもらうわ」 『アスタービーストテイマー』杜若・瑠桐恵(BNE004127)は怪しい目つきでニヤリとほほ笑んだ。すでに空中で手が何かをもふもふさせている。 「では、私はまた後程。皆さんは是非ご寛ぎください。彼らを運ぶ段階になったらアクセス・ファンタズムでお呼びください」 恭弥はそれだけの台詞を残して潔くその場から去って行った。彼が完全に消え去るまで女性陣は目を皿のようにして凝視し続けた。 だが、最後まで恭弥は神士の態度をひとつも崩さなかった。あまりの普通の態度に他のリベリスタ達も拍子抜けしてしまう。警戒し過ぎたのかもしれない。 「まあ、それじゃ皆でさっそく温泉を楽しむことにしましょうか」 生佐目の呼びかけで恭弥を除く女性陣が温泉に入る準備をさっそく始めた。 ●もふもふどこまでも 「俺様の専門はモルだが、こいつも可愛っ……。う、浮気じゃないぞ! これはお仕事だからな! モルへのラブは変わらないさ、だが今はこいつをもふもふせざるをえないうおおおぉぉ……!!」 バッザーン! と木蓮はいきなり温泉に突っ込んだ。雄叫びをあげながらカピバラの身体を掴んで激しくもふもふさせる。つぶらな口と鼻をつんつんと突いた。 あまりに激しい木蓮のスキンシップにカピバラもだんだんむずかゆくなっていた。いくら怠惰とはいえ生理現象には勝てない。先ほどから鼻をひくひくとさせている。その瞬間、大きなくしゃみを木蓮にむかってした。 「きゃああ!! 服が、服がベトベトだ!!」 木蓮は身体中をカピバラの鼻水まみれにしてしまった。仕方がないのでその場ですぐに服を着替える。そうしてカピバラと一緒に温泉につかることにした。 「ゆっくり、する……ゆ、っく、り……ごぼごぼ……」 生佐目はカピバラにしがみついたまま半ば沈みかけていた。こうして抱きついていると日ごろの疲れが癒されるようだった。とくに最近は仕事を精力的にこなしていたからだろうか気が休まる時がなかったように思った。 すぐ横では瑠桐恵が柚子を片手にカピバラに迫っていた。親子は興味深そうに瑠桐恵の持つ柚子に近づいてくる。とうとうカピバラが餌に食いついたところで、瑠桐恵の食指があやしく動き始めた。まずは脚の付け根から指を這わせていく。 「教師として生徒達と戦ってんのよ。いつも煩くて言うことのきかないガキと違ってなんて素直ないい子のかしら――もっともっと触らせて頂戴」 瑠桐恵はお腹をソワソワして、頭をナデナデして存分にストレスを発散させた。カピバラの方も気持ちよさに目がすでにイき始めている 「フフッ、私の可愛がりテクの前にして平然を保ってられるかしら?」 うりうりと迫る瑠桐恵にカピバラはもう抵抗できなくなっていた。 「うー、ぬくいぬくい。しかしなんだ……予想以上にいいね、温泉。日々の疲れ(主にモニターを眺める疲れ)が流れ出ていくようだよ。明日からも(主にオンラインゲームでの)戦いを頑張れそうな気がしてくるなー」 ネイルが湯船に浸かりながら思わず声をあげた。すぐそばには同じようにくつろいでいる萵苣がいた。彼女はずっと何やらゲームをしているようだった。他の誰ともつるまずに一人で黙々と温泉に浸かりながらプレイしている。 「温泉に来てまでゲームしなくてもいいんじゃね?」 ネイルが気になって萵苣に呼びかけた。 「僕の電子グリモアはお湯に浸かって壊れる程ヤワではありません。温泉に浸かりながらネットで遊ぶ事ができるんです」 萵苣は無愛想に突っぱねる。ちょっと言い方がきつくなってしまったが、仕方がなかった。あまり他人とは上手く喋れない。 「ねえ、ちっちー。私もゲームやるんだよ。よかったら今度一緒にやらない?」 「ちっちー……?」 とつぜん馴れ馴れしくネイルに呼ばれて萵苣は困惑した。初対面でこんな風に親しく声を掛けられたのは初めてだった。でどのように対応すればいいかわからない。 萵苣は一人タブレットで遊んでいようと思っていた。根暗な自分なんてどうせ嫌われる。そう思っていたのにネイルはそんなことは全然気にしていなかった。 ネイルの方は一人ぼっちの萵苣が心配になっていた。自分と年がほとんど変わらないし何より怠惰そうな性格が一緒だった。見た目もどこか似ている。 もしかしたらいい友達になれるかもしれないとネイルは思った。萵苣の方も最初は困惑したがゲームの話で二人は次第に意気投合した。 皆が温泉で寛いでいる頃、恭弥は物陰で亜人少女型式神を作成していた。 「おはよう、私の式神。気分はどうです?」 『おはよう、ますたー。元気だよ!』 「それは良かった。では、早速ですがお願いがあります――」 恭弥は式神に向かって細かく命令を下す。D・ホールの位置の詳細な確認をお願いすることにした。そろそろ自分も行動を開始する時がきたようだ。 「いざ理想郷(ゆーとぴあ)、フフフ、心高鳴りますね。私もカピバラさん達と同族です! その柔肌で抱きしめてモフモフしてください!」 モルのヌイグルミを着た変態紳士は雄叫びをあげて、女性陣の待つ温泉にいきなり突入して行った……。 ●捨て身の一発芸大会 「温泉には余り長くはいっていたくないですね。心配はないとはいえちょっとショートとか怖くて気が休まらないです。やっぱり休むならベッドですよ!」 のぼせそうになったぐるぐが温泉から這い上がった。ちょっと涼みにでかけることにする。その途中で女子大生の群れにばったりと遭遇してしまった。 「きゃあ、なにこれー可愛い!!」 「ねえ、あんた一発芸してよっ!」 すでに酔っぱらっている女子大生軍団には何を言っても通用しない。まるで新しい玩具をみつけたタチの悪いおやじのようだった。ぐるぐはこのままでは帰してもらえないと思った。しかたなく何か一発芸をすることにする。 「ドジョウすくいに紙芝居――いいものが思い浮かばない」 ぐるぐは困った。早くしろと鼻息を荒くする女子大生たちに、どうしようもなくなってしまったぐるぐは咄嗟に脚をガニ股に開いて見せた。 「コマネチ!」 「…………」 「ぐるぐコマネチ!! コマネチコマネチ! ぐるぐコマネチ!!」 女子大生は何も言わずにその場を去って行った……。ぐるぐは女子大生がいなくなってから気がついた。自分はいったいなにをやっているのだろうか。 初登場がコマネチ。これからどうして行けばいいかわからない。これから先の将来のことを考えて大きく不安になった。 「これから行う全ての行為は、円滑な依頼の達成の為に必要な事なんだぜ?」 ろりろりのせくしーなスクール水着を纏った水姫は心を決めた。ナマケモノに近づいて行って顔を見る。そのおかしな表情を見ているとだんだん愉快な気持ちがふつふつとわき上がってきた。身体全体が愉快な衝動に駆りたてられる。 「でたな! 変態神士!! 折角だから、とっておきの水芸を披露してやるぜ? とくとご覧!」 水姫は、とつぜん温泉から立ち上がった。両脚を広げて堂々と仁王立ちになって構えた。その瞬間、旧スクの開いた小さな穴から、いきなり放水を食らわせる。 「ああああああ!! なんだこれは!? 生あたくてきもちいいいいっ!!」 変態紳士は水姫の生温かい放水を顔面にぶっ掛けられて喜びに悶え苦しんだ。口を大きくひろげて「もっと、もっと飲ませてくれっ!!」と懇願する。あまりの変態ぶりに業を煮やした生佐目は後ろから変態紳士をタックルした。 「ぐはあああっ!」 いきなり攻撃を食らった変態紳士は泡を噴いて倒れる。だが、変態紳士は湯船に溺れかけながらもタダでは転ばない。 「今度は私のカルピスを飲んでいただきたい!!」 神士はモルぐるみを脱ぎ捨てると、今度は生佐目の真正面に立ちはだかった。手を腰に当てて水姫がやっていたように前に突き出す。 「何だか楽しくなってきましたし一発芸でも。街多米さん、私のカピバラで癒してさしあげ――」 最後まで言い終わらないうちに神士は絶叫していた。生佐目の右ストレートが神士の股間にクリーンヒットしていた。 「ひゃっははっははサイコー」 木蓮だけがいつまでも馬鹿笑いして拍手を送っていた。 ●意外な大仕事 「ほらほら、お前らも湯冷めするのはイヤだろ?」 ひとしきり楽しんだ木蓮は強制的にカピバラ達を温泉から立たせた。 すっかりはっちゃけたリベリスタ一行は、そろそろカピバラとナマケモノ達をD・ホールに帰すことにした。三人一組になってまったく動こうとしないアザーバイド達を懸命になって運ぶことにする。 「……あれ? これもしかして意外と大仕事になるんじゃね? 疲れるのやだー! 私は頭脳労働派なんだ!」 ネイルが不満をぶつけた。すっかり仲良くなった萵苣も不満の声を上げる。 「大丈夫ですか? 疲れてませんか? ギブアップするならノックバックアプリの入ってる僕の武器で物理でふっ飛ばしてもいいんですよ? でも頑張りますよね? あとちょっとですよ?」 変態紳士が遺した式神の誘導でD・ホールに容易に辿り着くことができた。 さいわいカピバラの方は瑠桐恵の餌付けによってすんなりと動かせることに成功した。やはり好物には勝てなかったらしい。 ナマケモノも瑠桐恵がアバガドを道筋に捲いたことでスムーズに移動させることができた。そうはいってもやはり力技が必要だったことには代わりない。 「んも~、あれだけ可愛がったんだから満足しなさいよねぇ」 瑠桐恵が最後の一匹をホールにぶち込みながら言った。カピバラとナマケモノたちは何も不満を言わずに全て向こう側に送り返される。みんなでそれからブレイクゲートをしてようやく長かった任務が完了した。 「またいつでもきてくださいね。ばいばーい」 ぐるぐが元気よく最後まで手を振っていた。 「ふー……最近仕事をしてて重たい気持ちになることが多かったから、随分癒された気がするぜ……帰ったらまた頑張ろう」 木蓮が決意した。 「あっ、この変態たちを送るの忘れていた……」 生佐目が恭弥と水姫を見てしまったと思った。どうせならこの二人もD・ホールにぶち込んでしまえばよかったと本気で後悔したのは言うまでもない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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