● ぱしゃぱしゃと水たまりを踏み、少女が楽しげに走り回っている。 黄色いレインコートを纏った小さな少女は三つの目で周囲をきょろきょろと見回して居る。 お家に帰る事も忘れて、楽しそうに走り回る彼女の速度は早い。 尋常でない速度で掛けて行く彼女を捕まえようと手を伸ばすと簡単にすり抜けていく。 楽しそうにきゃっきゃと笑う少女は一度とすん、と転んだ後に再度走り始めた。 ● 窓硝子を叩き続ける雨音が引っ切り無しに響いている。連日続く雨は最近の乾いた雨季の印象をブチ壊す勢いである。 「至急、鬼ごっこしてくれる人!」 突拍子もない事を言いだす『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) の一言にリベリスタがぽかんと彼を見つめる事しかできない。 「あー、ええと、こんな雨の中で申し訳ないんだけど、鬼ごっこ手伝ってくんないかな、って事なんだけど」 外出たくない気持ちは十分に判ると困った様に笑う蒐の制服も水気を含んでいる。上着などはもう脱ぎ捨ててあるし、何よりも明るい色のパーカーが何処か暗い色をしている。 「別に雨の中で遊びたいって訳じゃなくて、色々理由がありまして。 一人のアザーバイドが居るんだよ。年の頃は10歳位。小さな女の子。えーと、幼女。 黄色いレインコートを来て走り回ってるんだけど、至急送還して欲しい。帰る穴は見つけてるから」 其処にブチ込めばソレで仕事は終わりだと蒐は続けた。 単純に彼が鬼ごっこをしたいだけなのかと疑る視線に少年は慌てた様に違う違うと手をじたじた。 「幼女をですね、捕まえてお家に返すんですー! 別にそれだけだしっ、あ、遊びたい訳じゃない、ぞ! ……ちょっとだけ、遊びたいけど、いや、それは置いておいてだな」 唇を尖らした蒐に「話の続き」と急かす声が掛かる。慌て、咳払いを一つした蒐が資料を手にした。 「紫陽花が咲いてる公園で走り回ってるその子を捕まえてお家に返すだけ、簡単だぞ。 あ、時間あれば紫陽花見たりその子と遊んでも良いと思うんだ。 あんまり危険性はないぞ。彼女は水滴を弾くバリアみたいなのが使えるんだ。例えるなら、ほら、えーと、魔力障壁みたいな感じ。かっきーんって展開する。それだけだ」 「……あ、ああ、うん」 『不思議な表現』をする蒐に大体は理解できたとリベリスタも頷いた。 「というわけで、さっさとお家に返してやろうぜ! 雨だから楽しんでるだけだけど、ぶっちゃけ迷子だから!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月29日(土)23:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 天気予報は雨。昼過ぎだと言うのに太陽が顔も出さない憂鬱な気候の中で赤い傘を手に恍惚とした表情を浮かべた『残念な』山田・珍粘(BNE002078)の大きな緑色の瞳がきらきらと輝いた。普段から纏うドレスが泥に汚れぬ様に気をつけながら、憂鬱な午後を吹き飛ばさんとするのはそのロケーションからであろうか。 「鬼ごっこ……つまりは、狩りですね!」 何ともまあ『外見に似合わぬ』台詞を発した山田――否、那由多・エカテリーナの様子にレインコートを着用し、マイナスイオンを発していた『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が小さく笑いながら公園の中を見回した。 「異世界からの迷子さん、か。子供ならではっつーか、バイタリティあるなぁ……」 迷子になった子供としては異例の事態だ。お家に帰りたいと泣いているパターンが多いだけに、こうして『雨が楽しくて鬼ごっこ』というのはどうもピンとこない。 「さて、何処にいるんだろうか?」 「えーと、確か世恋の話しではあっち……」 思い出す様に紫陽花が咲く広場を指差した『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) に雫柄の愛らしいレインコートにリボンをかけたショート丈のレインブーツと甘いレースの雨傘というバッチリの『雨の日』モードで固めてきた『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)が頷いて、ぱしゃぱしゃとぬかるむ道を走っていく。 水たまりを蹴りながら、白いレインコートに黒地にピンクの水玉というこれも可愛らしいレインブ-ツで雨対策は万全の『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)が黄色いレインコートの子供を見つけ「あっ」と声を漏らした。 「ほら、あの子じゃないかなぁ!」 「あ、アイツだ! オラッ、いくぞ!」 何故かかなりの雨量を誇っている六月にも関わらず雨具を断ったコヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)は元気良くアザーバイドと思わしき子供の方へと駆けていく。 「コヨーテさん、風邪っ、風邪ひくぞ!」 「大丈夫! レインコートとか着たコトねェし、カゼなんかひいたことねェもん!」 蒐の声掛け虚しく、ドヤッと効果音までも発してしまいそうな良い笑顔を浮かべるコヨーテ。因みに彼の将来の夢はイヌ。猫っ毛が雨水を含んで段々と重たくなる様子を心配そうに見つめる『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)はばしゃばしゃと泥が跳ねあがるのも気にせずにテンション高く駆けていくコヨーテの後を追いかけた。 「鬼ごっこです。ワクワク! お洋服が汚れちゃったら怒られ……いえ、これも大事なお仕事です!」 ぐ、と拳を固めてやる気を漲らせた『魔砲少年』風音 空太(BNE004574)の隣、何故かコヨーテと同じく雨具をつけていない『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が一つ伸びをする。 「雨そのモノを楽しむってのも悪かねぇだろ。さて、遊んだろうや」 ガキの頃は何だって楽しい。それは火車だって良く分かっている。事実、自分だって楽しかったのだからああやって走り回るアザーバイド『あめんこ』が面白おかしく雨の中、走り回っているのだって仕方ないだろう。 ちら、と火車を見詰める丸い瞳が細められる。黄色のレインコートを纏った幼女は両手をあげてけらけらと笑った。 「っしゃ、捕まえっぞ!」 「ええ! 公園で逃げ惑う少女を追い詰めて捕まえる。何とも燃える状況――詰まる所、ロマンです! さあ、ロマンを追求しましょうね! あ、捕まえたら連れて帰」 「ソレは駄目だよぅっ!」 やる気一杯の那由多(とかいてちんねんちゃんと読む)に慌てる真独楽。残念ですが、お持ち帰りは禁止です! 「……駄目ですか、そうですか……」 今はそのロマンだけ追及しておきましょうね! ● 本気のダッシュを見せる幼女を捕まえるところから始まったこの仕事であるのだが、何処か幼年期に戻ったかのように楽しむリベリスタ達を見詰めながら、『楽しんじゃっても良いのかな』と少し照れを浮かべている雪佳ちゃんは可愛い。 同じ世界の住人同士ですら分かり合えず、想いが交わらない――この手で世界を守るってどうするんだろう。そう悩んだ事もある雪佳であったのだが、突如目の前に黄色の幼女が現れる! 「!」 「……っ!? は、はは、鬼ごっこ、だったな」 雪佳が気持ちを取り戻した所で猛ダッシュを見せる『あめんこ』。大丈夫、残酷でろくでもない世界はほんのちょっぴり優しい顔を見せてくれるから。偶然でも優しい運命が交わって――結果、雪佳くんが童心に戻りました。 「あああ、ずるい! 待って下さい、お嬢さん。一緒に遊びましょう?」 にたりと微笑む那由多。その声に身振り手振りでオーバーリアクションを見せるあめんこはどうやらマイナスイオンを発し異界共感を駆使するエルヴィンに興味がある様である。じりじりと距離を詰め、赤い瞳を見詰めう幼女にエルヴィンはしゃがみ込み優しく笑う。 「こんにちは、あめんこさん。俺達も一緒に遊んでいいかい? 追いかけっこなら得意なんだよ」 一生懸命に楽しむ事が大好きな幼女がこくこくと頷いた。仲間を見回せばやる気を漲らせる那由多とあめんこを見下ろす火車の姿。 意志の疎通はできていても、遊ぶって何をするんだろうと小首を傾げる幼女の前ににぃと笑った火車は両手をあげる。 「ガオー、赤鬼だぞー!」 内心なんじゃこりゃと想いつつも火車の声にきゃあと声をあげて笑いながら走り出すあめんこ。晴れに比べて少ない雨を精一杯楽しむ。全力で始まった鬼ごっこに慌てて空太が地面を蹴った。 「全力全開、当たって砕けろー!」 「砕けないで!? ってああああ!」 全力で追いかけ、全力で逃げる。ソレこそが鬼ごっこの醍醐味だと張り切る空太がべしゃりと転ぶ。慌てて近寄る蒐の目の前でむくりと起きあがった少年は泥まみれになっても楽しいと微笑み、逃げ惑うあめんこを追いかけた。 「! そっちにいきました!」 「オッケー! 遊びだろーと相手がガキだろーと容赦はしねェ! 絶対ェ負けねェからな!」 構えるコヨーテをすり抜けてあめんこがきゃっきゃと笑う。瞬間飛び付いた彼の体が泥の中にダイブ! 驚き近寄る真独楽が大丈夫かと手を伸ばすがコヨーテの反応はない。 「え、えっと、だ、だいじょ――「わぁっ!!」 ぴゃあ、とびくりと肩を揺らす真独楽に驚いたかとドヤ顔のコヨーテ。これには見詰めていたあめんこが自分も自分もと両手を振りまわす。泥だらけでも雨の中なら汚れたって気にならない。 赤鬼さん――火車が捕まえようと追いかけ続けるが説明通りすばしっこいアザーバイドに遊びでも真面目にやると彼が一歩踏み込んだ。 突然の縮地法! そして近寄った火車の腕の中に見事に確保されるあめんこが楽しげに笑い続ける。 「よーしよしよし! んじゃ次オメェ……えーと名前は」 其処まで紡いだ時、傘をさし、ぱしゃぱしゃと掛けてくる淑子があめんこの丸い瞳を覗きこみ優しく微笑んだ。 「ねえ、あなたにお名前をプレゼントしたいのだけれど……ご迷惑ではないかしら?」 「! なま、え!」 楽しげに両手をばたばたと振り回す『あめんこ』に淑子は考えてきたのよと目線を合わし微笑む。身振り手振りで彼女が名前を望んでいる事に気付き安心したように淑子はゆっくりとそうね、とメモ帳を取り出す。 「雨の音で……『あまね』さん、なんてどうかしら?」 「じゃあ、あだ名はれいんでどう? 雨音ちゃんって可愛いよ!」 きらきらと輝く瞳で頷くあめんこ――雨音に真独楽がさっそくと言った風に渾名をつける。嬉しそうに頷く雨音が立ちあがり遊ぼうよと真独楽の手を引っ張った。 「じゃあ次は雨音が鬼か? 他の事すっか?」 「はーい! まこ、自己紹介後の鬼ごっこフルコースを希望するよ!」 ぴょんと跳ねる様に告げる真独楽に自己紹介と羽をぱたぱたと揺らす空太。何故か凄まじく良い笑顔を浮かべた珍n……那由多が「可愛い子」と微笑んでいた。 ● 「よし、初めまして。俺はエルヴィン。……エル、でいいよ、よろしくな? 雨音」 「える!」 覚えたと言わんばかりのドヤ顔幼女の頭をわしわしと撫でれば少女は走り出したいと言わんばかりにうずうずと体を揺らす。命名者である淑子が「あまねさん」と優しく呼べば幼女ははい、と手をあげた。 「私は浅雛……いいえ、淑子。淑子というのよ? 幾らでも走り回りましょうね?」 雪佳には負ける気はないとライバル心を燃やす淑子の想いを知ってか知らぬか彼女を目標とする雪佳が戸惑った様に「雪佳だ」と小さく告げる。 「しょーこ!……ゆ、ゆき!」 どうやら短い方が呼び易いのか、お前がゆきだ!と言わんばかりの勢いでびしりと指差される雪佳が頬を掻く。 其々の自己紹介に「くーた、こよーて、える、しょーこ、ゆき、あかね、なゆ、まこ」と指差した後火車を見詰め「あかおに」と呼んだ。どうやらその呼び名が気に入ったらしい。 「雨音、良い名前がついて良かったよ。最初は如何呼ぶかは伝説……じゃないそれぞれで良いと思ったけどさ」 「伝説……! なんかすごそうでイイなぁ……」 「伝説か……そりゃすげぇな」 面白おかしく告げる真独楽と火車の声に慌ててそれぞれ!と告げるエルヴィンに楽しそうに雨音がきゃっきゃと笑う。 幼女が走り出したいと同時に、うずうずとしていたコヨーテが鬼ごっこ再開だと声を張り上げると同時、始めたのはケイドロだ。 真独楽が発案したのはいろ鬼、かげ鬼、手つなぎ鬼、ケイドロ――様々な鬼ごっこであった。。走る事が大好きというならば、様々な鬼ごっこにチャレンジするのもまた一興だ。ちなみに、ケイドロの呼び方は地方で違うそうだ。説明を身振り手振り交えてアカネと共に行った真独楽のお陰でルールは徹底されている。 「さて、わざと負けてあげる位のお姉さんぶりで……って思ったけど、れいん超早いんだった!」 まこも負けてらんないぞ、と走り出す真独楽を追いかける様に赤鬼さんが本気のダッシュを見せる。身長にして190程度のお兄さんががおーと言いながら走ってくる状況は途轍もないカオスな状況であった。 火車がマジメなダッシュを見せると同じく、真剣な顔をして雨音を追いかけるコヨーテ。 「淑子、先に雨音を捕まえた方が勝ちだ……実力では未だに及ばんが、君に追い縋って見せる!」 「ええ、絶対に負けないわ。さあ、勝負よ?」 目標である淑子に負けるわけにはいかないと決意を固めた雪佳にくすりと微笑む淑子。何処かに合わぬ闘志を両者共に燃やし合う二人は同時に地面を蹴り対象となる黄色いレインコートの幼女の元へと走っていく。 捕まえるたびに抱き締めてぎゅっと抱きしめてそして絶対に離さないと何だかとてもラブソングの様な状況を作り上げる那由多を見詰めて蒐が笑う。 ほどほどの危機感を演出して、那由多がワザとらしく「逃がしませんよ、すばしっこいなー!」と告げる。 ど、どこか、マジっぽく見えますね、流石珍n……那由多さん! 雨の中濡れるのも厭わず走り続ける空太の服も泥塗れ。けれどお仕事なら仕方ない、とまてまてと地面を蹴って雨音を追いかけ続ける。 全力の鬼ごっこはやはりあかおにさんがお気に入りとなった雨音が「つかれた」とアピールする事で終了してしまった。 「雨音、見て御覧。カエルやカタツムリだ。怖く、ないか?」 「かえ、う。かたつむ、り!」 カエルと上手く言えないのか凄い凄いと跳ね上がる幼女に雪佳はへらりと笑う。 その後ろ、恐る恐るカエルを見詰める真独楽が蒐の後ろに隠れて立っていた。ぴょいんぴょいんと跳ねるカエルを見詰めながら蒐がすごいなと頬をぷくぷくと触る。 「ひー、泥だらけだ。次なにする?」 「そうですね、おやつ食べてから紫陽花を見たりしませんか? それから、エルヴィンさん案の傘!」 屋根のある休憩所を発見したと手を振った雪佳の元へと近寄って、彼等がのんびりと腰掛ける。 用意された真独楽のお茶とココア、淑子のミルク味のミニ蒸しパンにアプリコットティ。甘い物が食べれないというコヨーテが用意していたブラックペッパー(挽く前の粒のまま)に蒐が少しばかり体を逸らす。 「え、えーと」 「オレ、おやつと言えばコレでさ。マジすっげェうめぇから! 食ってみ? 蒐もホラホラー!」 「いや、こまっ、こまる!」 慌てる蒐をみて笑い合うリベリスタにむ、と唇を尖らす高校生男子。エルヴィンが手渡した、タオルで全員がその身なりを整えた時、エルヴィンが提案したのはビニール傘に絵を描いてオリジナルの傘を作るものだった。 エル凄い凄いとはしゃぐ声を聞きながら、其々が思い思いに描く。那由多が勧めた紫陽花干渉も相まって、雨音の傘には不格好な紫陽花が描かれていた。 「お上手ですよ? お花はお好きですか?」 「すき」 「そうですか、私はあまり愛でる事はないんですが、はしゃぐ雨音さんがとても可愛いです」 いっその事なゆなゆと呼んでもらってれいんと呼んでみようかななんて考えながら、おはなおはなと両手を振りまわす黄色いレインコートの幼女に那由多は優しく微笑んだ。 ハッと、休憩所の屋根を見詰めていた空太が思い出したように振り返る。随分と落ち着き始めた雨ではあるが屋根からは雫がぽたぽたと滴り落ちていた。 「屋根からザーッと落ちてくる雨を傘で受け止めるとか、楽しいですよね!」 「じゃあ、このお絵描きした傘で受け止めてみようぜ? 折角だから使ってみるってのもいいだろ?」 な、と差し出された傘を手に空太と雨音が楽しげに雨の中に繰り出した。落ちる雫が傘に響かせる震動は火車も幼い頃は楽しかった遊びだとからからと笑った。 真独楽と雨音を誘い肩車しようかと云えば、真独楽は折角だから雨音をもっと高くしてあげてよと『お姉さん』らしく勧めた。 きゃっきゃと火車の肩の上ではしゃぐ幼女を見詰めながら、疲れたなあと肩をすくめる空太は普段と変わりない気がすると異界の住民を見詰める。 「雨の日なんかは結構憂鬱なイメージあっけどよ 遊んでりゃ別にそんな事ぁーねぇよな」 「そうですね、なんか、とっても楽しかったです」 公園で初めて出逢った名前も知らぬ子と一緒に遊んで、遊び疲れる。 それって、なんて、自然なことなのだろうか。 ● 泥だらけになっても楽しく遊んでいた彼等にとって時間とは直ぐに過ぎ去ってしまう宝物だ。 時計の針が4を指す時に時間を確認して雪佳は雨音の手を繋ぐ。帰らないとといけない事を悟り、何処か不機嫌そうな幼女が頬を膨らますその仕草に、雪佳は困った様に笑った。 「さ、良い子はお家に帰る時間だ。今度は迷わず遊びにおいで。俺達はいつでも待ってるから」 「! ゆき!」 こくんと頷く幼女を見詰め、持って帰りたい一心で会った那由多はがくりと項垂れる。 「……ああああ、帰っちゃうんですね……帰っちゃうんですね……」 えぐえぐと涙を浮かべる美少女(ちんねん)。 大きな瞳を向けた識別名『あめんこ』は首を傾げて、手をぎゅと握った。誰よりもショックが強そうな彼女はそっとその手を包み込み、大きな緑の瞳に真摯な色を灯して幼女を見詰め―― 「私の名前は、那由多です。なゆなゆです。どうぞ、どうぞ覚えて下さいね」 ちんねn……。 「那由多です!」 小さく笑いあって、帰りの時間が近付く事に気づき、寂しげな雨音の頭をエルヴィンは優しく撫でる。 「よし、その傘はプレゼントだよ。またな、雨音。今度は迷子じゃなくて、ちゃんと遊びにこいよ?」 「!」 「けっこー楽しかったぜ! オレとしちゃまだまだ暴れたんねェとこだけど、今日はこん位で許してやっか……」 首を傾げる雨音にコヨーテが何処かドヤ顔の似合うポージング。彼にはドヤ顔が似合う気がしてならない――そう、そんな気がして、ならない。 「オマエが大人になって、もっと色んな技覚えて、もっと強くなったら……そォだな、そん時は!楽しくブン殴り合ったりしよーぜッ!」 な、と笑うコヨーテに幼女は「おとな」とキリッとした表情で返す。 しかし、雨音が、識別名『あめんこ』が戦闘民族の様に戦を望むコヨーテと対等な戦いが出来るのかはまた別の話しである。 「れいん、またね? れいんのお家はどんな世界なんだろなあ。今度はおしえてね?」 こくこくと頷く雨音は「まこ!」と名を呼んで楽しげに笑う。その様子に寂しげな雪佳は「さよなら」と言いかけた時に、またなと紡ぎ直す。 「それじゃ、また一緒に遊ぼうね。僕達はずっと友達だよ」 またね、とひらひらと手を振る空太に小さく頷いて、寂しくねェしと何処か残念そうなコヨーテの背をぽんと叩き雪佳は雨音に手を振った。 帰っていく背中を見詰め、名残惜しそうに「またな」と告げるエルヴィンに何処か震える手でゲートに触れる淑子が目を伏せる。 ――ぱきん。 小さく音をさせ、崩れていくゲートを見ていて、首を傾げて淑子は寂しげに笑う。 「わたしのお友達は、いつも決まってもとの世界へ帰ってしまうから……また、会えるかしら」 「きっとまた逢えるよ!」 ね、と笑う真独楽にそうねとと頷いて。 気付いた時にまた楽しそうに幼女は雨の日にでも現れるのではないだろうか。きっと『あめんこ』という名前から、雨の日が好きな子なのだろうから―― 「ま、こういう仕事も悪かぁねぇなぁ」 うんと伸びをした火車が顔をあげれば、気付けば雨は上がっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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