●滅狼 アォンと、夜半の満月に向けて狼が吠えた。 木々茂る山の中腹。日本アルプスとも呼ばれる極東有数の山脈、未だ木々茂る高度にその獣は居た。 ――その姿は既に絶滅したとされるニホンオオカミによく似て、けれどその隆々たる体躯や月光に煌めくエメラルドの体毛はそれが尋常の生き物ではないことを教える。 「そうか、ついにともがらの数も両の爪で足りるほどとなったか……悲しきことだ」 オオカミの横、大樹に背をもたれさせているのは巨躯の女性。身嗜みは現代日本とは思えぬほど粗野。ボロボロに擦れたジャケットと、重厚な装いのブーツがよく目に付く。 傍らに立てかけられたのは鈍く月光を吸い込む石斧。巨大な石から削りだしたと思しきその斧は継ぎ目もなくなめらかに磨き上げられ、横に座る巨躯の女性と比べても遜色のない威容を誇っていた。 「汝は復讐を望むか? 己の血族を滅びに追いやり、そしてのうのうと平野で暮らす者達を憎むか?」 ざり、と爪が大地を削る音と、低い唸り声。そしてそれに続いて闇深い木々の懐から草を踏み開き歩み出るのは八頭の銀狼。 「……仲間を連れて去るのか? それとも戦うのか?」 女性が問う。片手は石斧へと伸び、その巨躯を引き起こすための支えとしていた。 問いかけに逡巡するように八頭の銀狼が顔を見合わせ、ただ翡翠の狼だけが女生と目線を合わせている。うぉん、と末尾の跳ね上がるような吠え声は問いかけなのか。銀狼の声に翠狼は応えず、ただその尾をゆらりと振るのみ。 「――よかろう、ならば手を貸そうではないか」 再度、狼が吠えた。 二度目の咆哮は、九つの音を重ねていた。 ●不屈 任務に向けてかり出されたリベリスタ達に配られたのは、1人の女性に関連したただの身辺調査レポートだった――そこに「判定:フィクサード」との表記さえなければ。 「万華鏡に感あり、フィクサードが動くようです。対処を」 告げるのは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)。片手に持ったクリップボードには、配られたレポートの元本と、今回の依頼について纏めたレジュメが挟まれている。 「彼女は元々自然保護団体に属していた……まぁ、いわば過激派の1人です。名前は嘉島・郁(かしま・いく)。七派には所属しておらず、コードネームなどは特にありません」 ぺらりと和泉が手元のレポートをめくる。合わせてリベリスタがレジュメをめくれば、そこには筋骨逞しい女性の写真。女子プロレスラーといわれても違和感のないその体躯、簡易プロフィールには身長180cmとあった。 「観測によれば彼女は獅子のビーストハーフ、及びデュランダルに分類されます。上級スキルまで使用できるようで、その実力はアークの上位リベリスタに匹敵します。油断無く相対してください」 続けて注意事項に移ります、という言葉と共にブリーフィング用ディスプレイが灯る。 「現在彼女は飛騨山脈、乗鞍岳中腹にて野宿する生活を送っています。その途中、狼のエリューションと出会い、意気投合したようです。今回の任務では件のエリューションも討伐対象となります」 ディスプレイに映るのはエメラルドの毛をたなびかせた狼だ。 「エメラルドの狼を筆頭に9頭。その全てがE・ビーストではなくE・フォースです。どうやらエリューションのほうは、かつて存在していた絶滅動物を元に形成されたようです」 絶滅動物リストを見たことがあるものなら見覚えのある体躯。エリューションが嘗て滅びた者の姿を得て、過激派とはいえ自然保護団体のフィクサードと共にいるのは何の偶然か。皮肉げに唇を歪めるリベリスタもいた。 「一頭ごとの脅威はさほどではありませんが、群れの長であるエメラルドのエリューションの持つ指揮伝達能力はかなりハイレベルです。気をつけて下さい」 レポートを閉じ、和泉がリベリスタたちを見詰める。 「エリューションたちの持ついわゆる『人間』への恨みはかなり強い様子です。フィクサードは彼らと意思疎通し、紆余曲折を経て共に行動しています。リベリスタが姿を現せばほどなく向こう側から襲ってくるはずです。どうか彼ら狼の霊たちが一般人にその牙を剥く前に、対処を」 一礼し、和泉は出撃するリベリスタたちを促した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月05日(金)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Step in to... その熊は鋭い爪先で山の奥を示して『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)の問いに答えた。翡翠の毛皮を持つ狼と石斧の女戦士のテリトリーはもう少し先のようだ。 「少し先に、彼らの縄張りとなっている下生えの多い草地があるそうです。そこなら戦闘も行いやすいかと」 のしのしと去っていく熊に手を振りつつ諭は仲間に告げた。今回の相手が近い状況に『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)はゆるりと、『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は凜と、千里を見通す視線を走らせる。前後左右くまなく走査した二人の視線が、諭の言う草地がすぐ先にあることを確認した。 「ああ、カミサマ、今日も世界はくそったれです」 手早く逆十字を切って先陣を歩むのは『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)だ。深紅の修道服を山風にたなびかせ、絶滅という二文字の重みに今日も彼女は神を呪う。 「その草地はもう相手の戦域だろう? 到着次第、相手の出方を待つ形だな」 ここまでの登山でずり落ちかけのサングラスを押し上げつつ『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が提言する。 「わざわざ此方から探し回って不意の遭遇戦をする必要はない」 肩をすくめるようにして苦笑。初撃で趨勢を決するつもりでいくぞ、と続けて呟けば頷く者も数名。 獣道すらない山肌を膂力でこじ開けて、リベリスタたちは狼の待つ戦域へと踏み込んだ。 ●野生を騙る者、文明を語る者 その草地に辿り着いて、一分と待つ必要すらなかった。 ご機嫌よう、という言葉は二重に響いた。 「お山の大将気取りかしら?」 海依音は肩をすくめて口に出し。 「その狼さん達に用があるの」 山中にて、鋼鉄の脚はよほど気に障るのだろうかと『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は草地で相まみえた狼と女性を眺める。森の中でありながら下生えの多いそこに樹木は疎らで、すでに戦闘の間合いへ入った互いが幾本かの樹木に隠れながらも見えた。 「鋼の匂い……オレの大嫌いな匂いだ」 ザ、と下生えを踏みつける靴の音。嘉島の女性としては低いその声は、距離をあけていてもよく響いた。横に並ぶ狼たちも喉を鳴らし威嚇の吠え声を上げている。 待ち構える数十秒の合間に海依音から翼の加護を受けた皆は地表から僅かに浮いて戦闘態勢を取る。 「質量保存の法則、物質は有限だ。人が増えれば何処かに皺寄せがいく……当然だ。当然だが、残酷だ」 構えた三影 久(BNE004524)は自分に言い聞かせるように唱えた。例えそれが間違っている理想だとしても、まだ殺人者が敵である方が気楽だ。 「……全く、面倒くせぇ。逸れ者と愉快な仲間達、残念だが、お前等の復讐はここで終わる」 集中力を極限まで引き絞る。攻めるべきは一撃目。腰を落として蛇腹剣を構え、久はまっすぐとフィクサードを見る。 「――破壊活動を繰り返して、自然の何を護れると言うのでしょう?」 応じるように構えた狼と女に『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)がぽつりと問いかけた。片手には魔弓。集中力を切らさぬよう矢を番え、疑念を込めた目線でフィクサードを貫く。 「オレが壊しているのは文明だ。押し込められた自然を解放するための戦いとしてな」 石斧が風を切る。振りかぶられたそれが、リベリスタたちを切っ先で指して止まる。 ――からからと笑い声が響いた。 「自然を解放する? ペットを引き連れて狼をイヌに品種改良。文明化の第一歩を歩みながらそんな事言って、脳味噌お花畑ですか? 花真っ盛りですね」 「……ぁぁ?」 「勝手に壊して滅ぼさせればいいんですよ、文明なんて。そこで終わるならそれまで、地球がその程度で終わる訳無いでしょう?」 諭がくつくつと笑っている。これは失礼、としばしの笑いの後、居住まいを正すが、嘉島の導火線に火を付けるには十分だったようだ。 「……もっと街中まで出てからかと思っていたが、貴様らを狼煙代わりにしてやろう!」 狼と共に嘉島が地を蹴った。 ●牙と斧 「復讐の狼煙だ、存分に噛み砕いてやれ……そこの鋼の脚からな!」 嘉島の言葉を受けて狼たちが一斉にミュゼーヌへ飛びかかるべく大地を蹴る。 「何を大事にするかなんざ人それぞれだし動物愛護もまぁご立派な事だと思うが……エリューションに自然も動物もないだろ?」 狼の動きに先んじた鉅の指先が嘉島を指し、目に見えぬ念が精神力を奪い、その体躯から快復力をも奪い取るが、嘉島はその一撃に動じた様子もなく狼を嗾ける。 一撃、二撃と襲い来る爪牙の群れを紙一重で躱すミュゼーヌ。海依音や真名が狼を引き留めるため身を前へ出すが、それでも食い止めきれない半数の狼がミュゼーヌへと襲いかかる。 躱しきれぬ三、四撃目がそれぞれミュゼーヌの左右の脚へと食らいついた。鋼鉄の装甲を容易く貫く牙は明らかに自然の獣が持つものではない。噛み付かれながらも前へと出る意志は崩さず、その目は嘉島を見る。 「貴女は、狂犬病に罹った犬を可愛そうだからと逃がすの? 放置すればもっと多くの動物たちが悲惨な末路を辿るのに」 「それはごく自然な形の淘汰だ。淘汰を歪め、死ぬべきものを見送れず、生かすべきものの見極めすら出来ない文明の観点でよくものを言う!」 「だとしても、貴女がしようとしてるのはそれと同じ。その子達を逃せば更に多くの動植物が不治の病に冒され、病巣は次第に広がる。ヒトだけじゃない、機械文明だけじゃない、この地球そのものが拒絶される死の世界が、貴女の望む世界なの?」 中折リボルバーに弾丸を装填、流れる動作で弾倉を撃ち尽くす連射が狼と嘉島へと飛ぶ。 「不治の病? 病巣? 地球そのものの拒絶? 生まれ育った星を滅ぼそうとする文明を誅さずして、その死の世界が来る前の滅びは避けられんさ!」 烈風。銃声に応じて横薙ぎに振るわれた石斧が、嘉島へ駆けた弾丸を叩き落とす。狼たちを捉えた弾丸はその毛皮を赤く染めるが、唯一、嘉島のさらに後ろに立つ翡翠の狼のみが俊敏な跳躍でその弾丸を回避せしめた。 傷を負った仲間を見回し、めまぐるしい戦闘の中でも優雅に翠の狼が高らかに吠え声を上げる。リベリスタには長く続く雄叫びにしか聞こえぬそれが、傷を負った狼を奮起させる。 『去れ、文明の申し子、鋼鉄の脚を得た者、我が同胞に加わりし石斧の勇者と同じ異能を持つ者よ。我らは我らが滅ぼされた過去を、その重みを、それを知らぬ者に教え込まねばならぬ』 唯一諭だけが吠え声の意図を介し、同時通訳に近い早業で仲間へと伝えた。 「狼は弱いから滅びたし、負けたから滅びるの、嘗てと同じ末路を辿りなさいな」 吠え声に応じるようにして動いたのは真名。後衛へと届かせぬよう、身を以て引き受けた狼の一頭に掌を叩き込みながら、視線は翠狼と嘉島へと。 「長い目で見れば自然とやらの前に、星の表面でひしめき合うニンゲンも塵芥のように滅びるのでしょうけどね」 言葉と共に、もう一撃が引き受けたもう一頭の狼へと抉り込まれる。一瞬のうちに二撃。ゆるやかな、けれども巧緻な打撃が狼へと染みこむ。 「どうせ私とあの子が居なくなったとの事よ。でも、私の大事なあの子がいる間は、危害の芽は全部死ねば良い」 無関心と言うのが最も正確な真名の目線。ゆらりと、幽鬼のような姿勢から放たれた嘉島の立つ位置まで狼を叩き返すかのような痛烈打が、陣形を崩した。 「貴女はどうやら神秘世界の事を余り知らないご様子ですね。ご自身が選ばれた存在である、と思ってました?」 弓に矢を番え、僅かに首を傾げて問う紫月。石斧を肩に構え直した嘉島は不敵な笑みで答える。 「無論。思想だけで世は変えられず、思想なき力は世を乱す。ならば、思想と力、その双方を手にしたオレはオレの力で世を変えるっ!」 「……ならば、既に覚悟は出来ていますね? 表には表の、裏には裏の法というものがあります――力を揮うための自由には責任を。それから逃げることは出来ません」 獄炎を体現したかのような矢が放たれ、狼たちと嘉島を焼き払うべくその炎舌を伸ばした。 「嘉島・郁様。貴女はこの世界を、自然を守りたいのですか?」 「それもまた無論。だがそれは目標であって手段ではない。この星が長らえるために文明を崩す、それが手段!」 続くファウナへの問いにも明確な返答。問いと同時に放たれた爆炎を石斧で振り払い嘉島はニィ、と笑った。 「問答は終いか!? ならこちらからも征くぞ!」 ズン、と重い一歩が踏み込まれ、一瞬と言うべき刹那で嘉島はミュゼーヌの懐へと潜り込む。 「その脚が、目障りなんだよぉ!」 石斧ごと体躯が膨大な熱量を帯びたオーラを纏う。石斧が薙ぎ払われたとミュゼーヌが認識したとき、その身には既に多重の打撃が叩き込まれていた。 一瞬で重傷と呼べるだけの傷を与えられ、膝を折りそうになりながらもミュゼーヌは崩れない。己の身体を奮起させ立ち上がり、間合いを正すべく軽いバックステップとともに、リボルバーへと新たな弾丸を収める。 「大言壮語は結構ですけど」 逆十字と神言詠唱。海依音の放った浄化の炎が、真名に弾き飛ばされていた狼を燃やし尽くす。 「覚えてますか? 貴方もニンゲンなんですよ。同じ、世界を蝕む、ニンゲンです」 灰に帰った狼に再度逆十字を切る。仲間を灼かれた怒りか、狼たちの敵意が海依音へと集中した。 「赤禰君、伝えてください」 はいはい、と諭は式を打つ用意をしながら答える。放たれた式符が周囲を冷気に包み、敵を討つ氷雨を呼び起こした。 「善きにしろ悪きにしろ自然淘汰は生存競争の結果です。可哀想などと嘯く真似はいたしません。淘汰されたくなければ―― 勝ちなさい。 抗いなさい。 足掻きなさい。 誇り高くありなさい。 ――ワタシたちもそれに応えます、と」 言葉の前半は嘉島へ向けて、そして残る後半は狼へ向けて。毅然たる姿勢で紅の修道女は告げる。 「お前達は絶滅したんだ……休め」 『滅ぼした者の末裔が、よく言う!』 蛇腹剣が振り抜かれ、その一節一節が必中の集中力と共に狼を薙ぎ払う。一度滅びた者を再度滅ぼすための剣が振るわれる。やりにくいことこの上ないが、久は剣を振るう手を止めない。それが、いまここでやるべき事だから。 ●滅亡者と生存者 多少数が減っても、狼たちは執拗だった。 全体を巻きこむミュゼーヌや久の攻撃と、弱った個体を着実に仕留めていく真名や鉅の一撃一撃。 海依音は足りぬ攻撃を補うよう、全体攻撃と単体を仕留める一撃をスイッチ。紫月とファウナは追いつかぬ手数に対して戦線を維持するための回復に周り、諭は攻撃の手数をひとつでも増やすべく式神を喚ぶ。 それでもなお、半数の狼は傷を得てなお動きを止めず、翡翠の狼に至っては未だ確たる手傷を負わせられずにいる。快復力を奪われた嘉島はそれなりに体力を削られているようだが、戦いの意志は未だ折れていない。 その中で、ミュゼーヌがステップと共に戦況を動かした。 「この世界を愛する貴方の気持ちはよく分かる」 鋼のステップは高らかに。木々を足場に踏まれたステップから繰り出されるのは、大胆不敵に相応しい黑金の蹴撃。石斧で受け止めた嘉島の体が、山肌にズシリと押し込められる。 「けど、やり方を見直しなさい。貴方にその意志があるなら猶予を上げる」 続けざまにミュゼーヌを援護するように狼を薙ぎ払う矢と炎の雨が、狼たちと嘉島を分断した。 「猶予などいらぬっ! すでにオレは手段も目標も定めたのだからなっ!」 受け止めた石斧がそのまま薙ぎ払いの反撃となる。ミュゼーヌをリベリスタ側へ押し戻すような石斧の振り払い。辛うじて直撃を避けたものの、弾き飛ばされた先でミュゼーヌは倒れた。狼と嘉島の連撃は、既に彼女から立ち上がるだけの余裕を奪っていたのだ。 「言っておくが……!」 倒れた仲間を目の端で捉えながら久が剣を振るう。 「高度に発達した文明は環境を再生させる。環境を破壊するのは発展途上の科学だ。駄々をこね、癇癪を起こし、物を壊してゴミを生むだけならガキでも出来る……良く考えて行動しろ」 纏わり付くような蛇腹剣の軌跡が嘉島を切り刻む。 「貴様のようなガキが言う台詞かぁ!」 ゴゥ、と風すら感じさせる気魄が纏わり付く蛇腹剣を弾き飛ばす。が、リベリスタの打撃を喰らい嘉島もまたその力を失っている。 アォン、と翡狼が吠えた。 『――また我らを滅ぼすか、ヒトよ』 「貴方方はフェイト無きエリューション。世界を壊す因子を放置することは出来ません」 分断された陣形を機会に、ファウナの放つ絶対零度領域が狼たちを纏めて凍てつかせた。問いに答える言葉は冷気と共に届けられる。 『故ある滅びか――ならば、せめて我らの絶望だけでも、貴様らに知って貰おう! ――退け、同胞に加わりし女。此度の滅びの所以を知れるのならばそれもまた重畳。ここから先は我らの、我らだけのものだ』 「お前らを置いていけってか!? 冗談はよせ!」 『黙って行け、小娘。貴様に教えた我らが絶望を糧にせよ。願わくば貴様の言う世界を見てみたかったがこの相手にそれは出来ぬ相談らしい。ならばせめて我らに礎となる誉れを寄越せと言っているのだ!』 高らかな遠吠え。傷ついていた狼たちの傷が見る間に癒えていく。リベリスタたちの魂すら揺すぶろうかという誇り高い遠吠えが、嘉島の奪われていた快復力をも再起させる。 「……ちっ! 知ってたよ、お前は頑固だってさぁ!」 石斧を背中に背負い、嘉島がバックステップで森の中へと身を翻す。 「捨て台詞は嫌いなんだがね――覚えてやがれ!」 「半端な臆病者がよく吼えますね……とはいえ、残る狼の方々はそうでもないようですが」 諭が式符を弄びながら狼を眺める。あの嘉島というフィクサードに挑発はよく効いたが、どうやらこの翡翠の狼たちは既に決死のようだ。煽ってどうこうなる相手では、ない。 『あの小娘を臆病者呼ばわりは止めて貰おうか。あやつは我らが悲願の為生きていて貰わねばならぬ。そして貴様らの本命はあやつではなく我らであろう? さぁ来い異能の者ども。我らに二度目の滅亡を教えてくれ……!』 誇り高い狼たちが吼える。苦々しいはずの殲滅戦はいつの間にか誇りある死闘へと姿を変え、二度目の滅亡を避けるべく足掻き抗い誇り高く戦った狼たちに、リベリスタは全力で報いた。 『貴様らの繁栄の影で我らの如く、世界の片隅に追いやられ、滅びていった者が居ることを決して忘れるな……! 其れを忘れたとき、我らは再び貴様らに牙を剥くぞ?』 咆哮は残響の彼方に。絶望と共に蘇った狼たちは、滅びの理由を得て再び永久の眠りへと就いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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