●怒れる大地 天を突くようなビルや塔。地面にはアスファルトが敷かれ、その上を走る鉄の箱。緑を消して、灰色を増やす。綺麗で澄んだ空気は昔の話し。今や、廃気ガスによる大気汚染で空はどんよりくすんで見える。 すっかり見なれた、現代の風景。利便性と引き換えに失った、豊かな自然。文明の発展において無縁ではいられないその問題。元より狭い国だ。自然が失われていくのも早かった。 問題だ、問題だ……と、言われながらも今だに大した解決策もなく。 工事だけが進む。緑ばかりが減っていく。緑地化、だなんて極僅か。都会では、まるで思い出したように作られた自然公園にこぞって人が集まり、癒しを求める。 そんなこの国の光景を、涙を流し見つめる人影が1つ。白い衣に、月桂樹の王冠を被った美しい女性だ。片手に持った松明には、青い炎が灯っている。 彼女の背後には、川が流れている。川の傍に開いているのはDホールだ。彼女の名は(マルザンナ)。異世界から来た、アザ―バイドと呼ばれる存在である。 彼女の見つめる数百メートル先には、ビルが立ち並んでいる。はらはらと涙を流し、マルザンナはそっと松明を持ち上げた。青い炎が勢いを増す。 それと、同時……。 彼女の周囲、半径20メートル内の植物が、急速に成長を始めたではないか。 「待っていてね……。すぐに、助けてあげるから」 震える声でそう言って、彼女はゆっくりと進行を始める。 マルザンナに従うように、彼女の背後で多くの植物がざわめいた。 ●緑の妖精、マルザンナ 「アザ―バイド(マルザンナ)。彼女の能力は、大地の祝福。つまりは、植物を成長させ操ったり、大地や太陽からエネルギーを吸収し、自身を回復させる。そういう能力」 モニターに映る地図。手前から順に大きく分けて、川、農地、街の3つのエリアが存在している。現在マルザンナが居るのは川の部分。少し進むと農地が存在している。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はモニターを操作し、農地を映す。 「今は使われていない農地だけど、その分土や植物、雑草などマルザンナの能力を最大限発揮できる環境が揃っている。農地のすぐ先は街。街に攻め込まれ、人的被害が出てしまうと任務は失敗」 安全を重視するなら、川か農地でマルザンナを迎えうつことになるだろう。 「マルザンナのライフは高く、HPやEPを回復させる手段を持っている。反面、彼女自身の活動可能時間は短く、2~3時間が限界。その間持ちこたえれば、マルザンナはDホールへ撤退することになる」 恐らく、マルザンナにとってこの世界はあまり過ごしやすい環境ではないのだろう。2~3時間。それを過ぎれば活動ができなくなるようだ。 「自然が蔑ろにされているこの世界に怒っている。自然を取り戻す事。それがマルザンナの目的。だけど、それを許すわけにはいかないから、追い返してきて欲しい」 異世界から来た彼女に、この世界で好き勝手させるわけにはいかない。 「マルザンナの攻撃手段は大きく分けて2つ。土の巨人を召喚するスキルと、植物を操るスキル。特に後者は範囲が広いため、注意が必要になると思う」 マルザンナとの戦闘は、恐らく防衛線となるだろう。極端な話だが、街へ攻め込ませないことだけに注意すればいいのだ。 「街の手前で迎えうつのであれば、マルザンナの能力は十全に活かしきることはできないはず。代わりに、街へ攻め込まれる確率は上がる。一方で、農地で迎えうつのならマルザンナに有利な状況での戦闘になる。代わりに、街まではそれなりに距離がある」 川まで押し返すことができれば、Dホールも近く、送還は容易だ。 もっとも、マルザンナが自発的に後退することはないだろうが……。 「倒しきることは難しいと思う。不可能ではないけど……。長期戦の用意をすることをオススメするわ」 Dホールも破壊して来てね。 と、そう言ってイヴは、仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月06日(土)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●大地震撼 地面が揺れる。土を割り、アスファルトを砕き、地面から伸びるのは無数の植物だった。植物に混じって、土で出来た巨人も姿を現す。 土の巨人を従え、植物を氾濫させながら、白い衣の女性が歩く。向かう先はビルの立ち並ぶ都心部だった。彼女は(マルザンナ)。異世界から来た、大地の精霊である。 「植物の為に……よ」 月桂樹で出来た冠。長い髪は、蔦で出来ているようだ。 「コンクリートに、鉄の籠……。どうして自然を破壊するのかしら」 悲しそうにそう呟いて、マルザンナは視線をチラと道路へ向けた。 そこにあるのは1台の車。タイヤを高速で回転させながら、マルザンナ目がけ突っ込んでくる。 マルザンナが手を伸ばす。同時に、地面から蔦が伸び、土の巨人が彼女を庇うように立ちはだかる。 それでも構わず、車はまっすぐ土の巨人に突っ込んだ。 ●怒れる女神 轟音。地面が揺れる。飛び散るガラスと、空転する前輪。土の巨人に受け止められた4WDから、1人の大男が転がり落ちてきた。 「なるほど、人間は自然に対し贖罪が必要なのかもしれねぇな」 片腕が車と巨人の間に挟まっているのか、男は顔を、苦悶に歪める。『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)の口から、葉巻タバコが地面に落ちた。 「大地の精といえば、自然の化身と言えましょうが、人もまた自然の一部……。お引き取り願いましょう、言葉が駄目なら力尽くでも」 停車した車から『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が飛び出した。剣を構え、マルザンナへと向きあう。 説得の為にアラストールが口を開いた、その瞬間。 マルザンナの周囲で、植物が蠢いた。一斉に射出された種が、マシンガンのようにアラストールの身体を穿つ。どうやら相手に対話の意思は無いようだ。 「大地の妖精ともなれば、私たちの世界は如何に植物を大切にしない文明だと思うでしょうね」 マルザンナの攻撃から身を隠しつつ『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が溜め息を零す。できれば穏便に元の世界へ帰って貰いたかったのだが、どうやらそうも言ってられないようだ。 こちらを無視して、マルザンナは街を目指す。十数メートル先は、廃棄された農地である。 「今回は防衛線ですね。皆さん、一丸となって頑張りましょう!」 素早く戦場に視線を走らせる『混沌を愛する戦場の支配者』波多野 のぞみ(BNE003834)。素早く仲間に、戦闘の指揮を下す。 「彼女の怒りはよく解ります……けれど、大地の精よ。それ以上はいけません」 空へ向け、弓を引くのは『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)だ。放たれた魔力の矢が、空中に魔方陣を描く。降り注ぐ無数の火炎弾が、マルザンナの使役する植物を焼き消した。 「………」 農地に1歩足を踏み入れた所で、マルザンナがピタリと足を止めた。意味が分からない、とでも言いたげな瞳でリベリスタ達の方を振り向く。 「さてっと、防衛線で長丁場、ってーと慣れた話ではあるな」 火炎弾に紛れ、一気にマルザンナとの距離を詰める『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)。小銃を抱え、粉塵舞い散る河原を駆け抜ける。 剛の接近に気付いたマルザンナが植物を繰って、彼の足を止めようとする。蠢く無数の蔦が、剛の進路を阻む。 「有難迷惑、傍迷惑。馬鹿ですか? 馬鹿ですね。慈悲深く脳味噌の養分を大地に分け与えたんですか?」 傍らに置いて重火器に手を置き『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)は、自身の傍に影人を召喚。小馬鹿にしたようなうすら笑いでそう呟いた。 「見つけました。話に聞いていた特徴の美人。好みのタイプです」 鳥型の式神を放つ『変態紳士-紳士=』廿楽 恭弥(BNE004565)。地面に手を置くマルザンナの姿を、彼の式神が捉えた。 式神の得た敵の位置を、素早くのぞみが仲間へ伝える。 仲間達が一斉に動きだした、その時だ。 土の巨人が3体、マルザンナの周囲に姿を現した。 「戦場を制するのは速度です、敵よりも速く動ければ色々事前対処可能になりますからね」 そう呟いたのはのぞみである。彼女の指揮と、オフェンサードクトリンによって速度の上がった仲間達が農地を駆ける。 合計4体になったゴーレム達が、一斉に動きだした。振りあげた拳が、のぞみ目がけて叩きつけられた。 地面が揺れる。土煙りの飛び散る中、額から血を流したのぞみが地面を転がる。 「言葉で収まらないなら……致し方ありません」 アラストールと、ソウルが巨人の間を駆け抜ける。それを確認してから、ファウナは再び、空へ向かって矢を放つ。展開する魔方陣。降り注ぐ火炎弾。巨人を襲う。 マルザンナは、自身の周りに樹木の壁を展開し火炎弾を防御。 その隙に、アラストールとソウルはマルザンナの元へと辿り着いた。 「消耗は最低限に抑えたいんだが」 そう呟いて、剛は小銃のトリガーを引いた。瞬間、爆発するような轟音が辺りに響く。放たれる無数の弾丸が、接近してくる巨人を撃ち抜く。ハニーコムガトリング。文字通り、敵を蜂の巣にする弾幕の嵐。 「全く、自然が失われるのは嘆かわしいことです。何よりも、美しい頬に涙を流させてしまった。それが嘆かわしい……」 悲壮に暮れた表情。辛そうな声を絞り出す恭弥。アラストールとソウルの攻撃を受け止めながら、マルザンナは彼に視線を向ける。 「どうですか、私と今晩お食事でも」 そっとマルザンナへ向け、エスコートするように手を伸ばす。マルザンナは顔をしかめる。恭弥の考えが理解できない。そんな顔だ。元よりマルザンナの思考は、人間よりも植物寄り。デートの誘いなど、知らないのだろう。 果たして、返って来たのは容赦のない攻撃だった。 「邪魔しないでね」 荒れ果てた農地には、無数の雑草が蔓延っている。マルザンナの指示で、それらの雑草が急成長を始めた。蔦が、枝が、根が、種が。明確な敵意を持ってのた打ち回る。 「田舎育ちで、草に分け入るとか懐かしいものですね」 諭の軽口。しかし、その手足には無数の枝が突き刺さっていた。流れる血が、地面に染み込む。せっかく召喚した影人も、ほとんどが植物によって消されてしまっている。 重火器の銃口をマルザンナに向け、諭はピタリと動きを止めた。 「いや……。数は力なり。それに賑やかな方がいいでしょう」 重火器を離し、後退。手にした式符から、影人を召喚する。 「後退させて、押し返す!」 アラストールの剣が輝く。降り抜かれたアラストールの剣が、マルザンナの片腕を斬り落とした。地面に落ちた彼女の腕は、まるで流木のように見える。痛みを感じていないのか、マルザンナは無表情。落ちた腕を見て、溜め息を零す。 「そうしてすぐに、自然を壊すのね」 「人もまた自然の一部ですよ」 マルザンナとこの世界の人類は、どうやら相容れない存在らしい。 「どちらか一方が一方を打倒するんじゃ何も変わらねぇ」 植物の壁を突き破り、ソウルは身体ごとマルザンナにぶつかっていく。侵攻しようとするマルザンナを、その場に縫い止め、出来得るのなら押し返す為だ。 ジリジリと押し合うマルザンナとソウル。しかし、それも僅かな時間だけだった。地面から飛び出した蔦が、ソウルの手足を刺し貫く。 マルザンナのパワーに押し負けるソウル。ソウルを縛るべく、蔦が彼の手足に巻き付いていく。 「悪いが俺には、魅了や呪縛なんて効かねぇ。なんせ俺は、頑固おやじだからなァ!」 ソウルが叫ぶ。彼の全身が放電し、その手に集中。雷鳴を轟かせながら、パイルバンカーを振り下ろした。マルザンナの体を貫く鉄杭。彼女の体から、煙が上がる。 「現在の文化的生活を放棄しない限り、マルザンナさんの望むような世界にはならないでしょうね……」 雷に焼かれるマルザンナ。その隙を突いて、麻衣は仲間の回復に回る。燐光が舞って、傷ついた仲間達の体を包み込む。急速に傷が癒えていくその光景を、マルザンナがじっと見つめていた。 「へェ……。回復、出来るのね」 そう呟いたマルザンナ。頭部や、肩、背中などに赤い花が咲いた。身体の色も、緑に染まる。 するとどうだろう。マルザンナの負っていた傷が、巻き戻し再生でもするように癒え始めたではないか。切断されていた腕も、僅かな時間で再生、再構築された。 「時間がかかりそうだわね」 なんて言って。 マルザンナは、にやりと笑うのだった。 マルザンナが現れてから、既に二時間近くが経過しただろうか? 「無理に留まらず後退しましょう。時間切れを狙います」 ソウルと共に後退するアラストール。それを追って、マルザンナが前進する。もう何度繰り返した事か。押し返し、押し返され。農地も半ばまで侵攻を許してしまった。 撤退ついでに、アラストールの剣が土の巨人の足を切る。 バランスを崩した巨人の頭部を、ソウルの鉄杭が撃ち砕く。 「ジリジリと吹っ飛ばして、お帰り願いたいもんだが」 やれやれと頭を掻くソウル。血と泥で汚れた顔には、疲れの色が浮いていた。 「撤退すべき状況なら撤退してください」 後退するアラストールとソウルを回復させる麻衣。両陣営とも、回復手段を持っているので中々戦況は変化しない。強いて言うなら、攻めるよりも守る方が難しい、というようにただ攻めながら侵攻すればいいマルザンナより、リベリスタ達の方が戦いにくそうではある。 「潤った大地が、私に力を与えてくれるわ」 地面から養分を吸収するマルザンナ。 ファウナの放った火炎弾と、諭の砲撃がマルザンナを襲う。土煙が巻きあがる。防御の為に展開した植物を、諭の砲撃が撃ち砕いた。 「この世は弱肉強食、植物の中ですら喰らいあう。脳味噌お花畑は、自分の頭の中だけ見てればいいんですよ」 「それ以上はお止めください。干渉は、その在り様を不当に歪め、その世界を破壊しようとする行いです」 火炎弾に吹き飛ばされ、マルザンナが後退。少しだが、マルザンナを押し返すことに成功した。再侵攻を防ぐべく、治療を終えた仲間達が前へ飛び出す。 「ちっ……」 地面から立ち上がる土の巨人。そのうち2体が、アラストールとソウルを抑える。その隙に、太陽光を吸収。体力を回復させるマルザンナ。 ブロックを抜けた巨人が1体。後衛へと斬り込んできた。 土の巨人を補助するように、種の弾丸が吹き荒れる。急成長した植物が暴れまわり、リベリスタ達の動きを阻害し、毒や魅了のバッドステータスを与えていく。 「戦場を支配し、戦場を支え、戦場を制するのはレイザータクトのこの私よ。私の実力、見せてあげるわ!」 戦況を見極め、仲間へ指示を出すのぞみ。消耗したEPを回復させることも忘れない。インスタントチャージ。長期戦に備えたサポートは万全だ。 暴れまわる土の巨人を、恭弥の放った闇が飲み込んだ。 「徐々に退いて体勢を立て直すことを提案します」 農地では、土の巨人の出現数も多いようだ。マルザンナ自身の攻撃範囲も広いため、一斉攻撃を受けると、裁ききれない。 「気持ちはわかるけどそれも私達、この世界の住人の役目よ。悪いけど帰還してもらうわ」 のぞみの指揮。地面に膝をついて、剛が銃を構えた。集中を挟み、精度を上げる。軽く指先でトリガーを引くだけ。射出された弾丸は、まっすぐマルザンナの胸を撃ち抜く。 地面に倒れるマルザンナ。 「根本的に立ち位置が違いすぎる。まず平行線だろうなぁ」 マルザンナか、人類か。どちらかが生き方を変えない限り、共存はできそうにない。事実、地面に倒れたマルザンナは、すぐに起き上がってくる。 「必要なのは対話と共存さ」 「可能なら説得したい所ですが」 土の巨人を討伐し、ソウルとアラストールがマルザンナへと切り掛かっていった。 ●緑の女王 地面から伸びる無数の蔦。杭と剣とを受け止める。その隙に、マルザンナが前進。ソウルとアラストールの間を駆け抜け、農地を進む。 マルザンナが地面に手を触れると、土の巨人が生まれる。大きく拳を振りあげて、それを地面に叩きつける巨人。それだけで、地面が揺れた。 バランスを崩すリベリスタ達。巨人のうち1体が、別の1体を持ち上げ投げ飛ばす。弾丸のような巨人の突進。それを受け、恭弥の体が宙に浮いた。 「う……っぐ」 恭弥が呻く。重力に引かれ、落下する恭弥の体。彼を助けるため、麻衣やのぞみが駆け寄ってくるが、恭弥はそれを手で制した。 口の端から血を流し、それでも彼は笑って見せる。 その直後だ。 地面から突き出した無数の蔦が、彼の体を貫いたのは。 「距離は開けずぎず、近すぎず……の予定でしたが」 「誰1人として倒れさせはしませんよ」 地面に倒れ、動けないでいる恭弥。助けに向かう麻衣とのぞみ。麻衣の放った燐光が、仲間達の傷を癒す。倒れ、地面に血だまりを作る恭弥へ駆け寄る麻衣。そんな2人を庇うように、鞭を振り回し、のぞみが飛び出した。 マルザンナの蔦を打ち払い、そのまま攻撃へ打って出る。 麻衣と恭弥を攻撃すべく、土の巨人が立ち上がった。最初に恭弥を吹き飛ばした1体だ。 「そんなっ」 恭弥は戦闘不能。麻衣は戦闘には向いていない。 「可愛いお嬢さんならともかく、こんなのと組んず解れずする体力はないですしね」 巨人の背後に現れた諭。影人を数体、従えている。わらわらと蠢き、影人は巨人に纏わり付いた。 動きの止まった巨人の正面に、剛が駆けこむ。銃を構え、狙いを巨人の眉間に定める。至近距離から撃ち出された弾丸が、巨人の頭部を打ち砕いた。 「こっちはこっちで生きていかなきゃならんし、そのためには環境の破壊もある程度はやむなしなんだ。悪いな」 そう呟いて、剛はそっと銃を降ろした。 「其方の世界でならばともあれ、此方の世界で主張を通すのは侵略でしかありません」 鮮烈に輝くアラストールの剣。大上段から振り下ろされたその剣が、巨人の首を切り飛ばした。土くれと化して崩れ落ちる巨人の体。長い髪を風に踊らせ、アラストールは大きく息を吐く。 直後、辺りに轟音が響く。音の正体は、巨人の拳とソウルの杭が衝突した音だ。ギギ、とソウルの体から軋むような音が零れる。 「この世界のことは、この世界の人間と自然で解決していくべきさ……」 ソウルが叫ぶ。叩き上げるように振りあげた杭が、巨人の腕を弾き飛ばす。放電する杭。周囲に電気を撒き散らすその杭が、巨人の胸を貫いた。 崩れ落ちる巨人を見つめ、ソウルはやれやれと溜め息を零す。 「戦場を維持するのに、補給は重要ですものね」 大地や太陽から力を分けてもらうマルザンナ。いくら攻撃を加えても、回復されては意味がない。のぞみにできることは、タクティクスアイで強化した能力でもって、マルザンナの攻撃を裁くことだけ。少なくとも、侵攻を許す事だけはしたくない。 だが……。 「鬱陶しい」 吹き荒れる突風。否、高速で振り回される蔦や枝、種や葉っぱの嵐であった。のぞみの体をズタズタに切り裂く。飛び散る鮮血。のぞみの手から、鞭が落ちた。 「この世界には、この世界が選ぶ在り様があります。『今は』そういう流れである、という事」 降り注ぐ火炎弾。ファウナの攻撃だ。植物を焼き尽くし、マルザンナの動きを縫い止める。緑の髪が風に舞い、強い意思を持った眼でマルザンナを捉える。 土煙りの舞い散る中を、マルザンナ目がけ駆け抜ける影が1つ。 「邪魔を、しないでと言っているじゃないの……」 マルザンナの周りで、植物が蠢く。 蔦や枝が、彼女を覆う、その直前……。 「貴方には実感が湧かないかもしれませんが、この世界の植物の成長は非常に遅い。貴方の力は歓迎される存在となり得るのです」 白い一閃。振り回されたそれは、布だった。体中を血に濡らし、恭弥はマルザンナに肉薄する。環境破壊を繰り返し、その反面、緑地化運動にも取り組むこの世界の人間。後者にとってなら、マルザンナの能力は大歓迎だ。 場所が悪かった。それだけの事。都心部に現れてしまった故に、マルザンナは怒りに身を任せることとなったのだろう。 布が、マルザンナの胴を捉えた。衝撃が走る。 マルザンナの体が、大きく後ろへ弾き飛ばされた。布に付与されたノックバックの効果によるものだ。 地面に倒れたマルザンナだが、すぐに立ち上がる。 けれど……。 「……げほっ」 咳を1つ。マルザンナの口から血が垂れる。 彼女にとって、大気汚染の進んだこの世界の空気は、毒になり得るのであろう。マルザンナは、忌々しそうにリベリスタ達を見て、くるりと踵を返す。 「撤退するわ……。邪魔したことは、忘れないから」 そう呟いて、マルザンナはDホールへと歩を進める。それを見送りながら、恭弥は言う。 「また会えることを願っております」 果たして、それは本心なのか。次に会った時、どちらかが無事に帰還できる保証はないのだ。既に先ほど、恭弥はマルザンナに戦闘不能にされている。 だが、しかし。 それでも恭弥は、笑顔で彼女を見送るのだった……。 「マルザンナさん、また来るつもりでしょうか?」 Dホールを見降ろして、麻衣がそう呟いた。困ったような顔で、マルザンナの事を思い出す。 最初に会ったその時から、帰っていく瞬間まで、マルザンナは怒っていたように思う。 次に来ることがあれば、恐らく……。 激闘必至、と言ったところだろうか。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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