● 「あら、かわいいわね。これ……ダルマ? 変わってるね」 店番を任されているらしき白狐のお面かぶった少年に声をかける。が、返事がない。少年は非毛氈(ひもうせん)を敷いた床几台の端にちよこんと腰かけて、足をぶらぶらさせている。耳が聞こえないわけではないようだ。その証拠に白狐のお面はちゃんとこちらに向けらた。 (目のところに穴が開いてないけど、ちゃんと見えているのかしら?) 見えている、見えていない。どちらにせよ少年は薄気味が悪かった。 頭の上で新緑の葉が揺れた。葉が落とすまだらな影も一緒になって白狐のお面の上で揺れる。 ぞわり、と肌が粟立った。 急に心細くなってあたりを見渡す。 明るい日差しの下には人の往来があった。クラクションが鳴らされる音。女子高生らしき集団からあがる笑い声。見えたのは平和そのものの風景であり、なにひとつ不気味なものはない。 顔を戻すと白狐のお面と目が合った。目がないのに目が合ったとはおかしな話だが、確かに少年の視線とぶつかったのだ。 あはは、と乾いた笑いが口をついて出た。 バツの悪さを隠すように、台の上から黄色い帽子をかぶり虫かごを斜めにかけた男の子のダルマを手に取った。 目の高さまで手を上げてしげしげと見つめる。 男の子のダルマの右側には、とてもよく出来た虫取り網のミニチュアがつけられていた。日に焼けた肌色に太い眉をきりりと上げたその顔は、いかにも腕白坊主といった感じだ。 よくできている、と感心する。 男の子のダルマをそっと台の上に戻した。 台には他にも様々なデザインのダルマが並べられていた。 ネクタイをだらしなく緩めたバーコード頭のサラリーマン風ダルマには、体の横にいかにもそれっぽい黒の薄い鞄がつけてある。 大きな目を派手なまつげで縁取ったギャル風ダルマは、体の前にアイスが3つ乗ったコーンがつけられていた。 頭の上にスズメを乗せたパンダのダルマもあった。頭には黒い耳がとりつけられているが、くるりとまわして後ろを確認すると尻尾は体に描かれていた。 体の前にカラフルな紙切れが貼りつけられているところを見ると、動物のパンダではなく宣伝のチラシを配る着ぐるみなのかもるしれない。 「これ、おいくら?」 1点1点が手作り、小道具の細部にまでこだわった作品だ。きっと高いだろう。 白狐のお面かぶった少年は首を横に振った。 売り物ではないのだろうか? 勝手に売ってはいけない、と言いつけられているのかもしれない。 「お土産にひとつ、ううん、ふたつ買って帰りたいんだけどな……」 紫陽花と傘を体の横につけた、カップルらしき一組のダルマを指差した。微笑みあう幼顔がとても可愛らしい。それに季節感もある。買って帰ったら玄関の飾りをこれと入れ替えよう。 「ねえ、これを作った人はどこにいったの?」 ――ボクだよ。 「……う、うそぉ」 思わずか細い声が出た。ざっと腕に粟が立った。 「子供が作れるようなもんじゃないでしょ、これ? ほら、これなんて……ギターケース? もの凄く本物っぽいわよ。革だし、かすれたステッカーなんて張って……」 白狐のお面かぶった少年はいきなり台から降り立つと、くるりとこちらに背を向けた。 ――作り方、教えてあげる。 ダルマさんがこーろんだ! 少年が振り向いた瞬間、世界がぐんぐんと大きくなっていった。 ● 京都市内で人々が白狐のお面かぶった少年にダルマにされる、という事件が発生。急遽、アーク本部に体の空いているリベリスタたちが呼び集められた。 肩紐を動かし、どや顔ウサギのポシェットの位置を直してから『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は静かに切り出した。 「よく聞いてね。人々をダルマにしている少年はふつうの人間。アーティファクトのお面に操られているだけなの。少年がかぶる白狐のお面を割ればダルマにされた人々が元の姿に戻るのだけど……ダメージが入りすぎると少年も死んでしまうわ。だけどお面は少年の顔に張りついていて取ることは出来ない」 困難が予想される任務内容を告げられて、ブリーフィングルームの中がざわついた。 イヴはテーブルをコツコツと小さな拳で叩くと、リベリスタたちの注意を自分に戻した。 「方法は他にもある。……というより、こっちの方法にしてほしい。下鴨神社の糺の森(ただすのもり)のどこかにD・ホールが開いているわ。その近くに事件の元凶となったアザーバイドがいるはず。白狐のお面はそのアザーバイドがボトムに持ち込んだ物なの。そのアザーバイトなら少年からお面を取ることができる。見つけたら懲らしめてやって」 うまくアザーバイドを懲らしめて少年から面を外させることが出来れば上々だ。 ただ、イヴは万華鏡でD・ホールの位置がどうしても特定できないという。 「アザーバイドは少年にダルマを作らせて、数が集まったら自分の世界に持ち帰るつもりらしいわ。アザーバイドは少年に18個のダルマを作るように命じている。いま12人の人がダルマにされていから、あと6人分だね」 つまり、あと6個ダルマが集まれば……。 あとは少年がアザーバイドのところまでリベリスタたちを導いてくれるはずだ。 「リベリスタに限ってはBS解除でダルマから元の姿に戻れるよ。ただし、元の姿に戻ったときにほかのダルマを踏み潰すと……踏み潰されたダルマは元にもどらない。ダルマを傷つければ元にもどったときに人も怪我をしている。それだけは気をつけて。あ、アザーバイドを送り返したら穴は潰してね。じゃ、いってらっしゃい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月02日(火)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 若葉の影の下に赤い非毛氈を敷いた台座が置かれている。 不思議と人通りの途絶えたその場所で、白狐面をかぶった少年が一風変わったダルマを地面から拾い上げて台座の上に戻した。 台の上に並べられたダルマは12個。万華鏡がイヴに見せた未来視どおりだ。 「ダルマ、か」 遠くから少年の動きを目で追っていた『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が呟いた。 「縁起物の一種と聞いた事はあるが……さてはて。あのダルマは縁起物とは言えんな」 うむ、と頷き返したのは『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)だ。シビリズと同じく、厳しい目で台座と少年を注視している。 「今回はまた趣向の変わった者が相手の様だな。いささか悪趣味であるが」 その横で鴉の翼を懐手にした『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)が、「人間達磨って聞いてグロい方思い浮かべたが、見た目だけなら中々可愛らしいじゃねぇか」と言った。 「本当に手足がもぎ取られないだけ、マシですよ。ええ、マシでおじゃる。マジマジぞよ」 言いながら『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目は両腕をさすった。 周りにいた何人かが有名な都市伝説のダルマ女を思い浮かべて顔をしかめる。 「日本の民芸品を好んでくれるのはうれしいの。でも原材料が人間というのはいただけないの。止めなきゃなの」 普段は丸みを帯びてやわらかい『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)の声がほんの少しだけ尖った。 そう、ついつい見た目のかわいさに騙されそうになるが、ひよりが指摘したように人間がダルマにされて異界へ連れ去られるかもしれない深刻な事件である。手足がもぎ取られなくてもやはり怖い話なのだ。 「どっちにしても悪い事してるのは変わりないんで、キッチリ懲らしめてお帰り頂こう!」 暗くなった雰囲気を吹き飛ばすかのように、『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)が明るい声をだす。 「ああ、この世界に悪影響を齎すと言うのなら、この拳を振るう事に躊躇は無い」 葛葉が胸の前で手のひらに拳を打ちつけた。 「いざ、参ろうか」 葛葉の一言を合図に、ダルマ班のリベリスタたちは少年のもとへ向かった。 ● 「ここにダルマになった自分達が並ぶ……」 非毛氈の前でしゃがみ込んでダルマを眺めていた離宮院 三郎太(BNE003381)は小さく呟いた。 こうして間近で見てみれば、細かな作りにあらためて感心してしまう。ただ人を小さく丸くしただけではなかった。どのダルマも各パーツのデフォルメと取捨選択が優れおり、個性がよく出ていると思う。 (ちょっと可愛いのかもしれない) 赤い一輪車を体の横につけたダルマに手へ伸ばしたところで、『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の声が聞こえてきた。 「これはこれはよくできたダルマ。興味が尽きないものデスガ、一つじっくりボクにも見せて貰えますデス?」 顔を横向けると狐の仮面を頭にのせた行方と目が合った。 行方の虚ろな目に写った自分の顔にぞっとしたものを感じ、三郎太はぶんぶんぶんぶんっと首を振った。いつの間にか魔に魅入ってしまっていたようだ。 (いけない、いけない。これはれっきとした依頼ですから……) 気を引き締めなければ。 三郎太は鼻先へ落ちた眼鏡を指で押しあげた。 行方は正面のダルマの頭を指で押してコロンと転がすと、だるまさんがころんだ、と呟いた。 「伝統的遊びデスガ、古来より童歌や子供の遊びにはどこか恐ろしさがあるものが多数あるのデスヨネ、とおりゃんせとか」 行方はダルマから目をあげた。 「それもある意味都市伝説の一部デスガ、他所からきた存在では台無しデス」 白狐面の少年がかすかに首を横へ傾ける。 ざざざ、と音を立てて葉が流れた。 あと残りの風に赤い染め帯を泳がせて、行方がゆらりと立ち上がった。 「ボトムに巣食う都市伝説は外様のシェアを許さないのデスヨ。アハ」 行方に気圧された形で白狐面の少年が一歩後ろへ下がる。 琥珀はいまにも逃げ出しそうな少年の雰囲気を察すると、行方の肩に手を置いてその頭の上から声をかけた。 「あー、あのさ、これすごいね。みんなとっても生き生きして見えるよ。どれも個性的だけど、モデルがいたのかな?」 少年は無言だ。 目の開いていない白い狐の仮面の奥から、通るはずのない視線をリベリスタたちへ注いでいる。 「俺たちもダルマのモデルやりたいな。もしよかったら――」 ――いいよ。 「マジ? やったね♪」 琥珀は大げさに喜び、横の生佐目とハイタッチを決めた。 ひよりはダルマたちから目を上げると少年に向かって、「かわいく作ってくださいなの」と言った。 白狐面の少年は黙ってうなずくとリベリスタたちに背を向けた。 ――だるまさんがこーろんだ! シビリズと小烏が少し離れた場所から、非毛氈で18個のダルマを包む白狐面の少年を見守っていた。 ● 「おお、どれもよきものばかりでおじゃるな」 よく働いてくれた、と言☆継(とき・つぐ)は蝙蝠扇(かわほり)で喉元を扇ぎながら少年の労をねぎらった。 広げられた非毛氈に並んだダルマたちを見て、おほほほ、と気持ちの悪い笑い声をあげる。 この言☆継、平安貴族のコスプレをしたただのオッサンのように見えるがさにあらず。上位世界から穴を通じてやってきたアザーバイドである。 本来アザーバイトは世界の崩壊を加速させる危険な存在なのだが、意外なことに言☆継はこの世界でフェイトを得ていた。ただ、ここでやっていることがいただけない。神秘界隈の秩序を守るのがリベリスタの仕事であれば、人をダルマにして連れ去るのを黙って見逃すわけにはいかなかった。 言☆継は懐中から白の檀紙に金箔を散らした帖紙(たとう)と筆を取り出した。木陰からシビリズと小烏が攻撃のタイミングを計っているとは露知らず、懐紙を広げて端から順にダルマの評価をし始めた。 最初に評されたのは葛葉だった。 白に青で彩られた胴の裾に1ヶ所、なぜか淡い色の桜があしらわれている。はて、桜の花など手にしていなかったはずだが……。そのほかに銀の小さな輪が胸元に止められている。 「長いまつげに切れ長の目。きりっと若武者風。麗顔(うるわしのかんばせ)であれば、女どもがさぞかし騒ぐであろうの」 これは高く売れる、と顔をほころばせつつ言☆継は懐紙に筆を走らせた。 次は生佐目だ。灰紫の髪に縁取られた顔にはハーフムーンの証がしっかりと表れている。額にアクセサリーの輪と体の横になぜかインスタントカメラの箱が貼り付けられていた。 「桃色の目とは珍しや。しかし顔のこれは……鱗やろか?」 へび女、と言☆継は首を捻った。それともトカゲ? いずれにせよこれはなかなか難しい。 生佐目ダルマを手の平に乗せてとくと眺める。くるりと一回りさせて後ろ姿を確かめると、正面に戻して生佐目ダルマの目をじっと覗き込んだ。 「ふむ。一見楽しげな色の目の奥に影のようなものが揺らいでおる。さびしん坊と麿はみた。この子は人形集めが趣味の朝☆霧どのにもろうてもらおうか。あそこはへびの置物もようさんあるし、寂しい思いはせんですむやろ」 そないしよ、と言☆継は生佐目ダルマを非毛氈の上に降ろした。 シビリズと小烏はイライラとながら、そんなアザーバイトの様子を伺っていた。 「行くか?」と3メートルの高さから小烏。 シビリズは枝の小烏を見上げもせず、「もう少し様子をみよう」と言った。 言☆継はダルマの上に覆いかぶさるようにしてみている。せめて体を起こしてくれなければ、危なくて声もかけられない。近づいたとたん、驚いた言☆継がダルマの上に手をついて潰してしまうかもしれなかった。 「これまた愛らしい。この子もそのとなりの子もええ感じじゃの。となりのスダレハゲとはえらい違いや」 頭に狐面を乗せた行方ダルマの胴は金魚柄の浴衣だ。後ろに金魚の尻尾のような赤い染め帯がつけられている。ハイライトの入っていない蒼い目がいかにもダルマっぽい。 紫の髪に白い小さな花を飾ったひよりダルマは、猫のヌイグルミを体の前から横にかけてつけていた。頬は薄桃色、目は伏せられている。白い胴を段々になった白のレースが縁取っていた。 「金魚ちゃんはギャマンの鉢に入れるか、青と白の小石を敷いた小さなタライに入れて売ろか。陶器で作った小西瓜をタライの中に入れたってもええな」 さらに小物を用意して高値をつける気らしい。 「こっちの眠り子は」 言☆継は4つ先からひよいとタキシードの胴に青の蝶ネクタイをつけた三郎太ダルマを取り上げると、ひよりダルマの横に並べ置いた。 「この眼鏡っ子と一緒にしたらええ感じや。2つあわせて祝言の品に、と勧めるのがええ。この南瓜の……ちょうちんかえ? これがなければ後ろに朝顔の屏風を立ててもええんやけど……まあええわ。飾りはあとで考えよ」 言☆継はパンダダルマや虫とり少年のダルマ、ギャルダルマにOLダルマを見終え、最後に琥珀ダルマを手に取った。 白塗りの眉間に立てしわを刻み、ぐっと麻呂眉を中央に寄せる。 琥珀ダルマは白いストールで胴を覆っていた。そのストールの影からにゅっと大鎌を突き出している。ふっ、と鼻息が聞こえてきそうな微笑の面構えだ。 「むむ。こやつ、篝の家の長男によう似ておじゃる。女遊びが過ぎて誰ぞに恨まれたか、いまは行方知れずやけど……そや、たしか兄思いの妹がおったな。あの子に兄さんや、いうてあげよ」 言☆継は琥珀ダルマを手に乗せたまま立ち上がった。 横にいた少年にリベリスタのダルマだけを別によけ、残りを非毛氈で包むよう命じる。 「これら6つは特別な気がするえ。そやから漆の箱に入れてもって帰ります」 チャンス到来。 3メートルの高さから滑空した小烏が、白狐面の少年の手から赤い包みを奪い取った。 「ひぇぇ! カ、カラス天狗が現れたでごじゃる!」 小烏は驚く言☆継たちから離れた場所に降り立つと、そっと包みを木の根元に下ろした。結び目を解いて非毛氈をひろげ、人の姿に戻ったときに互いがぶつからないよう、間をたっぷり空けてダルマを並べた。 「達磨なぞ集めて何とする、玩具集めなら他所でやっとくれ」 小烏は金属鏡を体の前に構えて後ろを振りかえった。 鏡面の曇りが払われ、光が満ちる。 「わ、わわっ!?」 たちまちのうちにダルマ化が解けてリベリスタたちは元の姿に戻った。 言☆継の手から飛び出した琥珀は地面に着地すると、白狐面の少年をすばやくその腕の中に抱きしめた。 「な、なな何が起こったでおじゃるか!?」 「この世界で、何時までも勝手が出来ると思うなかれ」 シビリズはダルマ化を警戒してやや離れたところから光に変えた神の声を仲間に向けて放った。 小烏は空へ舞い上がって全体を見下ろすと、ひよりにもっと下がるよう指示を出した。言☆継を重心に据え、自分とシビリズ、ひよりの3人で癒し手の三角形作る。 「さて、お遊びは此処までだ。──自由には責任が伴う、それすらも知らん馬鹿ではあるまい?」 「なんやて? お前たちはいっ――」 最後まで言わさず、葛葉は言☆継の麻呂顔に拳を叩き込んだ。とたん、白い顔が凍りつく。 3歩よろめいてかちこちになった言☆継のまわりで、ぱたぱたと黒い板が立ち上がった。 あっという間に出来上がった黒い箱の中で言☆継が、「ぎゃああ、何をするでおじゃるか!」と叫ぶ。 黒箱を解きながら、生佐目はきょろきょろと辺りを見渡した。 「どうした、生佐目?」 よろよろと黒箱から出てきた言☆継を用心深く目で追いながら、シビリズは生佐目に問いかけた。 「もうそろそろ群馬から届いてもよさそうなのですが」 「群馬から……届く? 何が」 「弁当が」 へっ、とリベリスタたちは首を傾げた。 「すきあり、でごじゃる!」 言☆継は両手の間に鞠に似た光の玉を作り出すと、それを足元にとした。 「そーれ」 正面にいた三郎太に向けて光の球を蹴る。 「わわわっ、ボクですかボクを狙いますか!?」 麻呂眉は恥ずかしい。なるのはいやです、と言いながら三郎太はそつなく鞠を蹴り返した。 鞠は行方に向かって飛んでいった。 シビリズの技により蹴り返しが可能であるにもかかわらず、行方は葛葉の後ろにさっと隠れた。 「ああいう眉は義桜さんに似合うデスシ。多分」といいつつ葛葉を前にぐっと押し出す。 「おい!」 葛葉はやや慌てながらも鞠を蹴った。それを生佐目が受けて空の小烏へ蹴りだす。 小烏は同じく空を飛んでいたひよりに鞠を蹴り渡した。 「きゃー、なの!」 ひよりは蹴った。蹴ったというよりも足に当たった、というのが正解か。 ぽてり、と鞠が落ちる先には琥珀と白狐面の少年がいた。 「あ、こら。じっとしててくれよ」 落ちてきた鞠を蹴り返そうと琥珀が身構えたとたん、地面に押さえつけていた少年が激しく暴れだした。気糸をまとわせたまま、琥珀の手から逃れて走り出す。そんなに巻き添えは嫌だったのだろうか。 逃げた少年をシビリズが追った。 琥珀は少年に気を取られているうちに蹴り返しが出来なくなった。頭に鞠が当たったかと思うと、全身がキラキラ光る白い粉に包まれた。 「琥珀!」と一斉に声が飛ぶ。 粉の煙幕が晴れた。 もともと白い琥珀の顔がさらに不自然な白さになっていた。本来の位置より少し高いところに、丸い眉がちょんと乗っている。口はへの字に曲がっていた。 麻呂化した琥珀を見て葛葉が、ぷっと噴出した。 「なんだ、琥珀。あんなことを言っていたが……俺よりも麻呂眉が似合っているではないか」 「はい、琥珀たん。こっち向いて、チーズ!」 生佐目が持っていたインスタントカメラで麻呂琥珀を激写する。 両腕を上げて顔を隠す琥珀の前に、ピースサインをする言☆継が割り込んだ。 ――パシャリ 「わっ。よけいなモノが写ってしまったでおじゃるよ」と生佐目。 「余計なものとはなんどすえ! 失礼な! お前たち、ちと血の気が多すぎるでおじゃる。麿の舞いを見て気を静めるがよかろう」 言☆継が懐より扇子を取り出してぱっと広げた。 同じく小烏も懐に手を差し入れると、符を取り出して鳥に変化させた。 「郷に入らば郷に従え、勝手をする馬鹿者にはバチを当てるぞ」 式神を飛ばして言☆継が手にした扇子を叩き落す。 「残念ながら貴方の舞いを見ている時間はありません!ので!」 三郎太は素早く言☆継に近接すると、アザーバイドの行動を封じるかのように急所を外して連続攻撃をきめた。 続いて行方がやはり手加減しながら闘気を乗せた突きを言☆継の腹に打ち込む。 「……つっ!?」 離れた場所でシビリズが短く悲鳴をあげた。捕まえられた少年が狐火を呼び出して 至近距離からシビリズにぶつけたのだ。 「ジークベルトさん、いま助けるの!」 ひよりが飛んでいってシビリズの傷を癒す。 「みんなまとめてダルマにするでごじゃるよ!」 言☆継が自由になった少年に命令した。 小烏が背を返した少年の真後ろに降り立つ。 ――だるまさんがこーろんだ!! 小烏は身を挺して少年の視界を遮った。たちまちダルマ化する。 手を伸ばして小烏ダルマを拾おうとした少年を後ろからシビリズが抱きあげ、「すまない」とちいさく呟いて気絶させた。 その間にひよりが素早く小烏のダルマ化を解く。 言☆継が逃走を図った。 D・ホールへ逃げ込む直前、麻呂眉の琥珀が立ちふさがった。 琥珀はすっと腕を上げ、「異世界でダルマコレクターやってんじゃねーよ」と麻呂眉の間をデコピンできつく突いた。 言☆継は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。 ● 「ねえねえ、どうして18体なの?」 額のこぶに手をあてて癒してやりながら、ひよりは言☆継に尋ねた。 「麿のダルマを欲しがるお客さんが、いま18人いるでおじゃるよ」 ふうん、といってひよりは額から手を離した。 ダルマ、好きなのと問うと言☆継はにっこりと笑った。 「だからといってな、異世界にまで来て人をダルマにするんじゃねえ」、とデコピンをうつ仕草で威嚇する琥珀。 麻呂眉が解けても怒りはなかなか解けないようだ。 「そもそも人をダルマにしてはいけません!」 「ああ、三郎太の言うとおりだ。次はないと思え」 シビリズが閉じた双鉄扇の先を、胡坐の上に白狐面を乗せて項垂れる言☆継へ突きつける。 元の姿に戻った人たちは、ダルマ弁当を持ってきたアーク職員に引き渡していた。神秘秘匿のために職員から記憶操作を受けた後で解放されるはずだ。 「ダルマのかわりのお人形さんをお渡ししてあげたいけど……」 「もう時間がありません。このダルマ弁当をお土産にD・ホールの向こうへとっとと帰れ、でごじゃるぞよ」 生佐目は立ち上がった言☆継にダルマの駅弁を押し付けた。赤のやつに白のやつ、猫耳のダルマ弁当の三種類である。もちろん中身は入ったままだ。 「ああ、あの時のは……これのことだったデスカ」とため息交じりに行方。 「ありがとう。うれしいでごじゃるよ。また来る――」 「もう来るな!!」と小烏 名残を惜しむ言☆継を無理やり穴へ押し込むと、リベリスタたちは一斉にブレイクゲートを放ってD・ホールを破壊した。 「人騒がせな相手だった。……全く、世界が違うというだけで価値観も全然違うのだから嫌になるな」 茜に染まる京の空を見上げながら珍しく葛葉が愚痴をこぼした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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